31: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/21(火) 03:40:45.96 ID:s1dlCIt80
最悪の光景が目の前に広がっていた。
私の操る機体、パープル2の前に庇うようにしている真紅の機体。
私を守って損傷して動かなくなった機体。
そしてその先には追撃を加えんとする敵の機体。

――ああ、と思った。
私は、これに見覚えがある。

「僕は大丈夫だから、ケイは撤退して!」

真紅の機体に乗る彼の声がした。
何一つ大丈夫ではない状態で、震えそうになっているのを必死に抑えているような声だ。
隠そうとしても、異常聴覚を持つ私には分かる。

「何言ってるの! もう動けないじゃない!!」

「いいから! ヒーローは必ず生きて帰るんだ!」

そうだ、そんなことを言っていた。
ヒーロー、だなんて。
今じゃ笑えないけれど。

関連作品
【マジェプリ】もしもイズルが一週間いなかったら

001

32: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/21(火) 03:41:17.47 ID:s1dlCIt80
『パープル2! 帰還しなさい!』

教官の声がする。諦めろ、と命令する声が。
でも、私は引き下がらない。

「でもイズルが…ッ!!」

確か、必死になって、何か奇跡のような策はないかと考えていた。
もちろん、ないのは分かっていた。
まぁ、実際は先輩たちが来てくれるんだけれど。

そう、そのはず、なのに。

「大丈夫、僕は……」

現実は、非情なモノだ。

彼の言葉が全て出てくる前に、それを奪い去るような轟音が私の耳を貫く。
そしてその音に顔をしかめている間に、目の前にあった機体が消えていた。

「イズ、ル…?」

名前を、呼んだ。
彼の名を、呼んだ。なのに、何も返ってこない。
何、も。

私の脳が冷静に状況を判断する。
私の心が必死にそれを否定する。
二つの拮抗した思い。そして私はどちらにも耐えられず――

「いやああああああああっ!!」

33: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/21(火) 03:42:27.29 ID:s1dlCIt80






「いやああああああああっ!!」

身を振り上げて、私は叫んだ。
けたたましく響くそれが自分のモノだと気付いたのは、乱れた呼吸が回復してからだった。
身体が震えている。耳鳴りがひどい。耳栓のせいで自分の叫びが余計に強調されてしまった。
私は慌てたように立ち上がって、備え付けの机まで向かっていく。
椅子に座ると、自動で明かりが点いて私の顔を照らす。
人工的な光を浴びて、ようやく落ち着いてきた。

――何て、最悪な夢だろう。

私は電気スタンドの光の先、自分がさっきまで身を預けていたベッドに目をやる。
もう一度そこに倒れる気は起きなかった。
また、あれを見てしまいそうで。

眠らないでどうしようか、と私は少し悩んだ。
まだ起床時間までかなりの猶予がある。
このまま部屋で茫然と過ごすのはごめんだ。
ならば、外へ出るしかない。
あっさりと方針を定めると私は与えられた部屋から逃げ出した。

34: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/21(火) 03:43:18.89 ID:s1dlCIt80
「……」

どこに行こうか迷った結果、私は休憩用のテラスに来ていた。
というより、さまよい歩いていた結果辿り着いたといったところだけど。
私はガラスの窓まで、倒れこむぐらいに近寄る。
いつも、こういう場所で私は地球を眺めている。
美しく光るあの青い球体を眺めるのは好きだ。

聴覚の鋭さのせいか、私は心地いい音というモノよりも視覚に訴える美しいモノの方がまだ楽しめた。
世界には、音が溢れすぎている。
だから、雑音はいらない。何も、いらない。
そう、ついこの間まで考えていた。

今は、違うけれど。
今は、アサギがいて、スルガがいて、タマキがいて。
そして――彼がいる。

「――ケイ?」

声がした。
聞き慣れていて、それでいて、雑音ではないとはっきり認識できる。
私は振り返る。
やはり、彼がいた。

「――イズル」

私が呼ぶと、彼が笑って答える。
その笑顔に、一瞬思い出したくないことが浮かんだけれど、すぐに消した。

35: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/21(火) 03:44:30.80 ID:s1dlCIt80
「何してるのさこんな時間に?」

不思議そうな顔をしながら、彼が近付いてくる。
そういうそちらは、と聞こうとして、止めた。
その手にスケッチブックを抱えているのに気付いて、すぐに何をしているか分かったからだ。

「ちょっと散歩よ」

眠れなくてね、と付け加えてから、私はガラスを離れて近くのベンチに座る。
ここからでも地球は鑑賞できる。

「そっか、僕は…」

「またマンガ?」

「あれ、何で分かったの?」

キツネに頬をつままれたような顔で、彼はキョトンとしていた。
見れば分かるのに、と言おうとしたけれど、面倒になる。

「ねぇ、座らない?」

空いてる隣を示して、私は何気なくまた球体観察に興じる。
どうせ彼は座るだろう、と何となく確信していた。

「うん」

素直な声色が耳に届いたときには、彼はあっさりと私の隣に腰掛けていた。
彼の気配が一気に間近になる。

36: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/21(火) 03:45:23.33 ID:s1dlCIt80
「よくも飽きないものね、それ」

チラリと横目で彼を見る。
彼は相変わらずあの微妙なマンガを描いていた。

「ケイこそ、いつもいつも外を見てるじゃないか」

それだけ返すと、彼は何事もなかったようにまた紙に向かう。
たいした集中力だ。

しばらく、お互い黙って時を過ごしていた。
彼がペンを走らせる音だけが静かに響く。
シュッ、シュッ、シュッ、シュッ……。
少し、心地よく聞こえる気がした。

そうして過ごしてどれだけ経ったか分からない。
ただ、長い長い時間の末。

「ようし」

心地いい音も、止むときが来る。
彼のマンガの完成と共に。

「できたの?」

「うん」

私の質問に彼は実に満足げに笑う。
その笑顔に、やっぱり胸が少し痛んだ。
あれは夢なのに。どうしても、思い出してしまう。

37: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/21(火) 03:46:31.43 ID:s1dlCIt80
「ケイ? どうかした?」

彼が私を見ながら心配そうに尋ねる。
私は今どんな顔をしていたんだろう。

いや、それはいいか。それより。
私は彼の顔に視線を滑らせた。
彼は戸惑ったような目で私を見返す。

この際だ。前から言いたかったことを言おう。
あんな夢を見たのは、きっとこれのせいだ。
だから、言おう。あの夢を終わらせるために。

「私を、庇ったとき」

「…? うん」

「あの時のお礼、まだ言ってない」

それだけ言ってから、私は若干言葉を溜めた。
少し、緊張した。誰かにこうして感謝を伝えるのは初めてだったから。

「……あり、がとう」

彼は、それを聞いても何も言わない。
ただ、私のことを見つめていた。
でも、それも短い時間。
彼は、また笑った。

「どういたしまして」

慣れたような調子で、スラスラと言った。
ヒーローならこう返すのは当然というような感じがした。
それがいつも通りの彼を表すようで、少し安心した。
ヒーロー、か。

38: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/21(火) 03:47:18.24 ID:s1dlCIt80
「そろそろ僕は部屋に戻るけど、ケイはどうする?」

自分の荷物を片付けると、彼は立ち上がった。
辺りに設置されている時計を確認すれば、起床時間がすぐそこまで来ていることに気付いた。

「そうね、私も戻るわ」

そろそろ人が出てくる時間だし、一度部屋に戻って、後は静かに過ごしたかった。
そういうわけで私も立ち上がる。

「じゃあまた後でね」

「ええ」

短く別れを告げて、私と彼はそれぞれ反対に歩き出す。
五歩くらい進んだ辺りで、私はそっと振り向いた。
彼は迷いなく、振り返らずに歩いていた。

その歩みが羨ましい。
私を救ってくれたあの勇気を生んだ心が。

まぁ、その勇気は彼だからこそなのかもしれないけれど。
もし、そうだとするなら。

「頑張ってね、ヒーロー」

ただ彼を支える存在として、その光を見ていたい。
私はまた歩き出した。もう、あの夢を見ないことを祈って。

------------------------------

60: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/23(木) 03:52:16.35 ID:XQmZjC2L0
人生には多くの試練がある。
生まれ、這うことから歩くことを覚え、言葉を話す。
そこには一定の苦労や痛みがあるものだ。
しかし、言いたい。
こんなにも辛い試練があるものか、と。

「…しっかし、大変だなぁ」

私の部屋、その備え付けの円形のテーブル。
そこでの私の席の前、スルガが同情するように呟くのが聞こえる。
そう思うなら代わって欲しい、と思う。
まぁ不可能だけれど。

「だからってどうしようもないだろ」

スルガの隣、アサギが私に諦めろと暗に告げる。
正論だから、反論もできない。

「ケイが悪いよー」

私の右隣の女の子、タマキの言葉に内心で若干ムッとする。
それもその通りだけれど、普段からだらしない彼女に言われると少しイヤだ。

「ええと、ケイ。そういうことだし」

そして、私の左隣。
イズルもまた、諦めろと暗に告げる。

61: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/23(木) 03:53:24.02 ID:XQmZjC2L0
ふぅ、と心の中で踏ん切りの付かないため息を漏らす。
それから、私はテーブルの上に置かれた一枚の紙切れを憎たらしそうに見つめる。
それには、シンプルにこう書いてある。

――クギミヤ・ケイ。この者は虫歯治療のため、本日医療棟に来ること。
脱走は許しません。医療班一同。

つまるところ、だ。
私は今、この年にもなって虫歯にかかってしまっているわけだ。

原因は思い浮かぶ。
毎日毎日、懲りずに甘いものばかり食べていたせいだろう。作っては食べていたせいだろう。
イズルたちも言っていた。
あれだけの甘いものでは仕方ない、と。

仕方ない、とは思う。
思うのだが。
問題は治療にあった。

虫歯の治療はドリルを用いて削るというものだ。
現代でも昔でもそういうところに変化はない。
進歩すればいいのに、と思う。

そう、ドリル。それが私をひどく悩ませる。
私は聴覚が異常なまでに鋭い。
ドリルの稼働音は普通の人には何てことはないだろう。
だけど私は違う。私の耳は、必要以上に音を拾う。

これまでも、虫歯の治療では遠慮なく叫び声を上げていた。
口の中でもドリルの振動が響いてきて、頭がどうにかなってしまいそうだった。
それを思うと、身震いが起きてしまいそうになる。

62: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/23(木) 03:54:27.02 ID:XQmZjC2L0
「……どうすればいいのかしらね」

ため息混じりに呟く。
もうどうにもならないことを知っているのに。

それでも、仲間たちは真剣に考えてくれる。
そういう人たちだと、知っている。

「…耳栓とかダメなのか?」

まず最初にスルガが立案する。
もっともそうな意見だと思う。が、私はすぐに首を横に振った。

「どうしても響くのよ」

そう、もう耳栓は試していた。
だけど、耳栓をしていようといまいと、私の耳は確実にあの暴力的な回転音を聞き取ってしまう。

63: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/23(木) 03:54:56.60 ID:XQmZjC2L0
「なら必死に耐えるしかないだろうな」

冷たいけれど真っ当な意見をアサギが言う。
結局のところそれしかないのか。
分かってはいたけれど、やはりはっきりと言われるときついものがある。

「とりあえずー、そばについてるよー」

相変わらずのゆったりした口調でタマキが励ましてくれるように言う。
それは……素直にうれしい。
彼らがそばにいるということだけでも、少しは心が楽になる。…気がする。

「じゃあ、そろそろ行こうよ」

まとめるようにイズルが皆を促す。
…がんばろう。どうにか。

64: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/23(木) 03:56:00.86 ID:XQmZjC2L0





「お、逃げずに来たわね」

私だけで来なかったことについては何も言わず、医療班の人が感心したかのように出迎える。
…一応、私はもう十六なのに。

「じゃ、早速始めよっか」

あっさりと状況は進む。
私が心構えをしっかりと整える前に、もう準備ができていた。

私はガラスの窓があるちょっとした小部屋に通される。
さすがに皆はここまでだ。後は窓から私を見るだけだ。

私は部屋をぐるりと見回す。
もちろん、そこにはあの忌まわしい機械と寝台がある。

ふぅ、とまたため息を吐いた。ナーバスな気持ちは抑えきれない。
諦めた私は寝台に身を預ける。もう、この動作も慣れたものだった。

そうして瞳を閉じかけたその時――

『あ、あの』

ガラスの外から、イズルの声がした。
瞳を開いた先には、イズルたちが医療班の人に向かって何事かを言っていた。
それは、何かを頼むような態度だった。

65: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/23(木) 03:57:53.12 ID:XQmZjC2L0
数秒して、治療を担当する先生が部屋に入ってくる。
この人に会うのももう何度目だろう。
先生はいつも通りの人を安心させる笑顔でいた。
そして、いつも通り私を苦痛に導く。
当たり前のようなことだ。私は早く終わることを祈るしかない。
だけど、今回は違った。

「君、良い仲間を持ったね」

……?
いつもと違う言葉に、一瞬何を言っているのか分からなかった。
でも、それも一瞬。すぐに理由が分かった。

先生に続き、見慣れた顔が部屋に入ってくる。
アサギ、スルガ、タマキ、イズル。
私の、大切な仲間たち。

66: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/23(木) 03:59:57.36 ID:XQmZjC2L0
「邪魔をしない限りは近くにいて良いって」

状況の読めない私にイズルがそう説明してくれた。
そうか、私のそばにいてくれる、か。
こうやって私のことを、皆が近くで見守ってくれる。
…私は。……私は今、嬉しい?

「がんばれよ、ケイ」

「とっとと直してまたあのザンネンスイーツを作れよなー」

「がんばるのらー」

「ケイなら大丈夫。僕は信じてるから」

皆が笑っている。私を励ますように。
私もまた、笑った。いつの間にか、自然と不安はなくなっていた。
……うん、大丈夫。
私は。私は今。

「――ありがとう、皆」

とても、うれしい。

------------------------------

73: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/25(土) 02:55:43.11 ID:s+eUFruSO
――気まずい。

ヒタチ・イズルとアサギ・トシカズはそんなことを思いながら目の前の料理を口に運んでいた。
あまりの気まずさに味も分からない二人は、普段は来るなと願う訓練の時間を渇望する。

原因はただ一つ。
というか一人。

「……どうしたの? せわしないわね」

昼食を共にしている上官の存在。





どうすればいいんだろう、とイズルは必死に現在の状況のまずさを打開する策を練っていた。
そういう仕事は彼を知らず知らずに想うある少女の得意分野だが、彼女はいない。
状況を共にするアサギもそういうタイプじゃない。

74: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/25(土) 02:57:21.59 ID:s+eUFruSO
「い、いえ。早く訓練に戻りたいな、と」

目を泳がせながら、アサギがかろうじて言葉を返す。
その声ははっきり言って上擦っていたが、よくやった、とイズルは言いたくなった。
それほどに現状は切迫している。

そもそも何故二人はこのようにリンに目を合わせることもできないのか。
それは単純な話で、先輩であるチームドーベルマンのリーダーから貸された、いわゆる『いけないビデオ』のせいであった。

仲間の一人、ケイにひっぱたかれた後も二人はそれを最後まで見たわけだが、その途中に問題はあった。
アサギがとんでもないことに気付いてしまったのだ。

ビデオに出ていた『エッチなおねえさん』がリンにそっくり、ということに。

75: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/25(土) 02:58:45.24 ID:s+eUFruSO
その結果、二人は最後までそのビデオを見たものの、言い様のない罪悪感に苛まれてしまった。
それで、今日までなるべくリンを避けておくようにしていた二人だったわけだが。

「……どうかした?」

「「……い、いえッ! 何でも!」」

偶然にも、昼食で出くわしてしまった。
もちろん、相席にしよう、などという誘いを上官からされては断りようもなく。
こうして、地獄のランチタイムが始まっている。

76: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/25(土) 02:59:35.87 ID:s+eUFruSO
チラリ、とイズルはアサギの様子を窺う。
彼もこちらを横目で見ていたらしく、目が合う。
その困ったような目を見て、自分も同じような目をしているのだろうか、と思った。

(……何とかしろリーダー)

(……どうにもなりそうにない)

視線のみで二人は会話する。
団結する力が足りない、と普段からリンに言われているチームラビッツだが、案外結束は固まり始めているものである。
きっかけを知ればリンはあのムチをピシャリと鳴らすだろうが。

そっとイズルはリンを盗み見る。
さっきアサギの言葉に『……そう』とだけ返して以来、彼女はただ静かに食事をしていた。
できればこのまま時に過ぎてほしい、と願う。

――無論、そんなことはないが。

77: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/25(土) 03:05:01.66 ID:s+eUFruSO
「……ヒタチ君、アサギ君」

長い沈黙を破るように、リンの澄んだ声が場に流れる。
イズルとアサギは同時に体を震わせると、ぎこちない動作で顔を上げた。
その先には真剣そのものといった表情のリンがこちらをじっと見ていた。

「……な、何でしょう?」

若干震えた声を、イズルはようやく絞り出すように発する。
まさか、ビデオのことがケイから伝わったか、いや、まさか。
そんな風に慌てた思考に溺れかけたイズルは、予想外の言葉を聞いた。

「……私のことを、嫌ってるかしら」

78: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/25(土) 03:08:46.13 ID:s+eUFruSO
その言葉の意味を理解するのに数秒時間を要した。
それから、慌ててすぐに口を開いた。

「そんなことありません!」

「そうですよ、どうして俺たちが!」

イズルの声にアサギも合わせる。
どちらも本心からの言葉だった。
が、リンはそれを聞いても表情を変えることなく告げた。

「……では、何故私を避けているの?」

う、と二人は口をつぐむ。
それを話すにはかなりの勇気が必要となる。
答えられないまま、イズルとアサギは行動停止する。

79: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/25(土) 03:11:31.31 ID:s+eUFruSO
「……あのね」

そんな二人の様子を肯定と捉えたのか、リンはため息混じりに呟く。
それは、何かを諦めたようなある種の割りきりの決意を伝えるようだった。

「私を憎く思うのは仕方ないわ。若く、未来も過去もない君たちをこうして戦場へ送っているもの」

本当に寂しそうに、彼女は続ける。
寂しそうでいて、自らの行為を恥じるような声色だった。

そこでやっとイズルとアサギは気付いた。
自分たちのせいでリンは勘違いをしている。
勝手に誕生させられた自分たちを過酷な戦場へとリンたち大人が送っていることを恨めしく思っている、と。

そんな、そんなことは――っ!

80: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/25(土) 03:13:20.61 ID:s+eUFruSO
「それは違いますっ!」

ようやく声を出せたイズルは、勢い余って立ち上がった。
それなりに人も減りつつあったとはいえ、それなりにまだ人がいる食堂中の視線が集まった。
集中力が突出しているだけあって、イズルはそんなことには一切気付いていないが。

「教官はこれまで厳しかったかもしれないけど、その、僕たちその訓練のおかげで生きていられてるんです」

一気にまくし立てるようにイズルは思ったままのことを告げる。
自分が何を言っているかも理解するのが追いつかないほどの速さだった。

81: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/25(土) 03:14:52.33 ID:s+eUFruSO
「だから教官を恨むだなんて……むしろ、逆です」

理解が追いつくのと喋りが止まるのが同時に起こり、一つの間が生まれる。
そして、その瞬間的な余韻の末、イズルは最後に告げる。





「――教官がいてくれて、僕たち幸せですから!」





自然と、自分のできる最高の笑顔をリンに向けていた。
最初、イズルの勢いに圧倒されていたアサギも同じようにしていた。
自身はまだ気付いていないが、イズルには人を引き込む力があるらしい。

82: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/25(土) 03:16:47.85 ID:s+eUFruSO
そして――

「…………っ!」

リンは口元を押さえながら、俯き加減に立ち上がった。
何かを抑えるように彼女はかがんだまま、急ぐように食器のトレイを持って戻る。

イズルたちが呼び止める間もなく、リンは食堂から去った。
後には、再び喧騒の戻った食堂にぽつんと立つイズルと座るアサギだけがいた。

83: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/25(土) 03:18:24.62 ID:s+eUFruSO
「……座れよ」

思い出したようにアサギが言う。
その言葉でイズルは自分が何をしていたかを客観的に理解して、周りを見ながら席に着く。

「……教官、どうしたんだろ?」

「……さあ」

ゆっくりと食事を再開しながら、イズルは疑問の声を上げる。
さっきのリンの態度は怒っているわけではない、とは思うが、何だかいつもと違っていた。
まるで、そう、照れ隠しのような――照れ隠し?

「……後で教官にもう一回謝っとくか」

はっ、とアサギの声に思考を止めると、イズルはそちらを見る。
適当な言い訳も付けてな、とアサギは加えて言った。
とりあえず頷き返して、イズルは目の前の食器に意識を改める。
一秒前に考えていたことは、もう忘れていた。

84: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/25(土) 03:19:45.23 ID:s+eUFruSO





「……何、してんのかしらね、私」

食堂から離れた一画。
そこでリンは壁に背を預けて一息吐いた。
彼女の目尻には明らかな濡れた跡が残っている。

『――教官がいてくれて、僕たち幸せですから!』

イズルの言葉が自然に頭の中で何度も反射するように流れる。
それに、イズルとアサギの心からのモノであろう笑顔も。

(……幸せ、か)

最初、この仕事に着いた時、彼女はこれからのことを考えて憂鬱になっていた。
未来のない子供を戦場に遣らなくてはならない自らの役割に対してあまりいい気分ではなかった。

実際、何度か夢にも見ていた。
まだ誰も送り出していないのに、誰かに恨み言を吐かれ続ける。
何度も何度も、繰り返し心臓を刺される。

85: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/25(土) 03:21:12.16 ID:s+eUFruSO
この前も、そうだった。
あの日、レッド5を見捨てかけた日。
その時は夢の中でイズルに責められ続けて、うなされてろくに寝れもしなかった。

それも当然のこと、と割りきっていた。
その上で、自分はやらなくてはならない。
彼らと向き合い、鍛え、少しでも彼らの生存確率を増やすために。

憎まれる存在であれ。そう決めていた。
決めていた、はずだった。

「…………ッ!」

一度抑えた熱いモノが込み上げてしまう。
ダメだ、いけない。
自分は抑えていなくては――



「うっ……っ!」



ああ、なのに。
ぽろぽろと、リンはいくつもの雫を瞳からこぼす。
この感情を、思いを、抑えることなどできなかった。
嬉しくて嬉しくて、たまらなかった。
救われたような、気がしてしまった。

ただの自己満足。それを理解していても、リンはその気持ちを消すことはできない。
――何故なら、彼女は人間だから。一体の機械などではなく、一人の人間。

だからこそ、彼女はふさわしい。
厳しく子供たちを見守り、導く存在として。

------------------------------

90: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/26(日) 18:59:01.87 ID:cUmqdaKSO
クギミヤ・ケイがその日遅くまで起きていたのは『偶然』としか言えなかった。
仲間の一人であるイリエ・タマキの甘えのために、彼女が寝付けるまで付き添っていたのだ。
そのまま共に寝るという選択肢もあったが、部屋のベッドはそれぞれに支給されたものであって、二人用ではない。
なので、二人で寝るのは窮屈すぎるし、ケイがそのまま自分の部屋に帰るのは当然であった。

そこまではよかった。
その後が問題だった。

ケイは気まぐれで寝る前に散歩をすることにした。
それもまだよかった。散歩するコースを決めるまでは。

91: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/26(日) 19:01:19.81 ID:cUmqdaKSO
『偶然』ケイが選んだのは、指令室を通って展望デッキへと向かうルートだった。
彼女がそこを選んだのは、美しい地球を眺める、というだけの目的のためだ。
しかし、その目的は果たせなかった。美しいモノは、傷付いた心では味わえないのだから。

道を決めて、最低限の照明が点いた通路を歩き始めて数分。
スムーズに歩みを進めていたケイだったが、彼女は指令室で立ち止まった。
理由は単純で、暗い通路に、微かな明かりがその部屋のドアの隙間から漏れていたからだった。

誰かが起きているらしい。それも二人。
何故分かるかと言えば、ケイの鋭敏な耳が二人の人間の話し声を捉えていたのだ。
どちらが誰なのかもよく知っていた。

(……教官、と整備長?)

聞き慣れたそれらの音に惹かれるようにケイは近付く。
さながら誘蛾灯に群がる蛾のようだ、なんて思っていた。
人の話を何とはなしに興味本意で聴いてみようというのだから、あまり良いイメージではない。

そしてドアの近くで、ケイは話の中身を知った途端、二つ思い出した。
――悪い子供には罰が下る、ということを。
そして、知るべきではないことを知ることの恐ろしさを。

92: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/26(日) 19:04:40.33 ID:cUmqdaKSO
「……ねぇ、どう思う?」

「ジュリアシステム? 私は……どうにもならないことだと思う」

「パイロットを生き残らせるために本能を刺激して、感情をひどく揺さぶる――愛情、激情」

「増幅が過ぎて、本人の心の動きの制御が利かなくなることも……あるんでしょう?」

「……可能性、だけどね」
「もしそれがあの子たちに起きてるなら」

「……確かに、偽りの感情に目覚めちゃうかもしれない、かもね」

「……自分たちのやっていることが嫌になる瞬間、ね」

「……リンリン――」

94: 再開 ◆jZl6E5/9IU 2013/05/26(日) 19:31:53.44 ID:cUmqdaKSO
ガタッ、と。
整備長が何事かを続けて言おうとする前に、動揺にケイが震えを起こしてドアに音を与えてしまった。

「誰!?」

驚愕し慌てるような声を耳にしている時には、もうケイは走り出していた。
特に何も考えず、ひたすら、逃げるように――いや、実際逃げた。
恐ろしい。恐ろしくて信じられない。だから、逃げた。どこへ逃げればいいかも分からないまま。





「……ハァッ、ハァッ、ハ、あ…………!!」

荒い息を整えながら、ケイは周りを見渡す。
幸い、こんな夜中に出歩く人間はいないらしい。
目的地の展望デッキには誰もいなかった。
教官たちも、追い付いてこなかったようだ。
そのことを確認してから、やっとケイは安心――

――偽りの感情に目覚めちゃう、かもね。

「……っ、う」

また動悸が激しくなる。
心の底から溢れ出る苦しみに、ケイは必死にうっすらとした胸の辺りを押さえ込む。

95: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/26(日) 19:33:21.00 ID:cUmqdaKSO
――心の底から?
その心が本物かも分からないのに?
ふと沸き上がってきた疑念に、手が、足が、体が震え出す。
まるで、どうやって立つのかを知らない生まれたての小鹿のようだ。

我ながら良い例えだ、と自嘲気味に笑いながら、ケイは動揺に震える体とは裏腹に冷静な思考でいた。
私も、そうだ。本当に私は『私』なのか、分からない。生まれたてだ。
以前からずっと持っていた不安が、ここにきて押さえを失い始める。

純粋に怖い。怖くて仕方ない。
自分の心が本物ではないかもしれないなんて。
自分の感情が――想いが、分身の生んだ偽物なのかもしれないなんて。

やはり震えは止まらない。
助けて、と叫びを上げられるなら上げてしまいたい。
だが、誰に? この何も無い自分が誰に助けを求めればいい?

「……ず、る」

舌までまともに動かない状態で、ケイの頭は必死にその名を呼んでいた。
自分の心の拠り所になりつつある、大切な彼の名前を。切実な気持ちを込めて。

「――イズル……っ!」

名を呼ぶ自分の声か、その名前自体か。
或いはその両方に鼓舞されたように、ケイの足は動く。
行き先は、決まっていた。

96: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/26(日) 19:35:35.85 ID:cUmqdaKSO





その日、ヒタチ・イズルは相変わらずマンガを描くことに熱を上げていた。
誰に何と言われようと、彼にとってそれは呼吸と等しく大事なものだった。
ヘタでもいい、ザンネンでもいい。
彼にはそんなことなど関係ない。それが、彼の持ち前の長所、前向きなところだ。

「……よし」

ペンを置き、イズルは座ったままで伸びをした。
日付は変わりかけているが、今日の日課の分がようやく書き終わった。
夕食の後、ずっとペンを握っていたから、かれこれ四時間はマンガを描いていたことになる。
机の上の原稿を確かめる。……間違いなく、一ページも欠くことない完全なマンガが出来上がっていた。

さて、とイズルは立ち上がった。
もう夜更けになる。さっさと寝なくては、明日の訓練に支障が出るだろう。
またアサギ辺りにどやされるのはゴメンだった。
そういうわけでイズルは早々に眠る準備を始めようとする。

97: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/26(日) 19:36:21.27 ID:cUmqdaKSO
しかし――

「……はい?」

イズルの行動の出鼻はあっさりと挫かれた。
不意に響いた、部屋の外からするノック音によって。
誰だろう、と訝しげにしつつ、イズルは返事をした。
それを肯定と受け取ったらしい誰かがドアを開く。その先には、

「……ケイ?」

チームメイトの女の子が一人立っていた。
イズルは夜更けの突然の来客を不思議がる。
こんな時間にケイのようなマジメなタイプが起きているのが珍しいと思ったのだ。
いつもはタマキのような起きたがりをなだめて、率先して寝かせるというのに。

98: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/26(日) 19:42:27.09 ID:cUmqdaKSO
おかしな点はまだあった。
これは何よりもおかしかった。
彼女の身体はガクガクと不自然に震え、また、その瞳から大粒の涙をこぼしていた。

「……い、ずる」

力の抜けたような発音でイズルを呼ぶと、彼女はふらふらとした足取りで近寄ってきた。
まるで、そう、ケイの身体から魂でも抜けて、彼女が人形にでもなってしまったかのような印象を受けた。
それを見て、イズルはようやくただ事ではない雰囲気を感じ取る。

「だ、大丈夫!? どうしたの!」

ケイが近くに来るよりも早く、イズルは彼女に駆け寄った。
そうしてイズルがケイの目前に迫ると、彼女はそのまま安堵したようにほぼ崩れる形でイズルの方に倒れ込む。
そうなると、自然と彼はケイを抱き止めるしかなかった。
ケイは特にそのことに何も言わない。
それどころか、いつもはイズルよりも高い位置にある顔を彼の胸板に押し付けてきた。
長く下ろした髪からする女の子特有のくすぐるような甘い香りと普段と違う様子のケイに、一瞬イズルは戸惑いを覚える。

99: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/26(日) 19:45:27.08 ID:cUmqdaKSO
「……あなたは本物、よね?」

「……」

訳の分からない質問にイズルは困惑しながらも、とにかくケイを備え付けのテーブルまで連れていき、イスに座らせる。
どうも様子がおかしい。とにかく、まずはケイを落ち着かせるべきだろう、という考えからの行動だ。

されるがままにケイが座るのを確認してから、イズルはテーブルを離れ、紅茶を淹れる。
湯を沸かす間に、彼は一度ケイの隣に座った。話を聞いてみる必要があるだろう。

「……何か、あったの?」
「……」

ケイは答えなかった。
そもそも、イズルの声を聞いているかも怪しかった。
茫然と、ただ自分の目の前にあるテーブルを見ているだけのようだ。

困ったな、とイズルは思った。
彼女の瞳から涙はもう流れていないが、相変わらずカタカタとその身体は震えているし、何かただならぬ雰囲気を感じる。

100: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/26(日) 19:48:34.02 ID:cUmqdaKSO
(……医療班の人を呼んだ方が良いかな?)

少し悩んでから、今考えられる最善の選択肢を取ることにした。
このまま放ってはおけないし、かといって自分にどうにかできそうにもない。
そう決めると、イズルはすぐさま行動に移す。

「ケイ、ほら」

放り捨てるようにされた手を取り、自分のベッドにイズルはケイを寝させる。
座らせたままでは良くなさそうだ、と彼は考えたのだ。
さっきと同じで、ケイの身体は簡単にベッドに沈んだ。
その無気力な様子に不安を感じ、イズルは少し急いで部屋を出ることにした。
そのままベッドに背を向けて走りだす。

が、

「……イズル」

自分を呼び止める落ち着いた声に、イズルの足が止まる。
今度は何だろう、と振り返ってみると、ケイがすぐ目の前に立っていた。

思わずイズルは一歩後ろに下がってしまった。
あまりにもケイがイズルの近くにいたためだ。
それから、ケイの様子の新たな変化に気付く。
彼女の身体の震えは不思議なくらいあっさりと治まっていた。
そして。
冷たく、しかしどこか熱に浮いたような潤んだ目でこちらを見つめていた。
その目に、イズルは何か悪寒を感じ取る。

101: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/26(日) 19:51:51.67 ID:cUmqdaKSO
「……ど、どうしたの?」

「……」

緊張に喉を鳴らしながら、イズルはどうにか声を出す。
それに対してケイは答えない。
ただ、一歩前に進み、またイズルとの距離を詰める。
逃げ出せ、と脳の奥底から命令が聞こえる。
必死になって、イズルに現在の状況にそれとなく存在する危機感を伝えている。
しかし、彼の身体はケイの目に射抜かれたように動かない。

「……イズル」

様子とは裏腹に、落ち着いた優しげな声色でケイがまた名前を呼ぶ。
それだけなのに、ビクリ、とイズルは肩を震わせてしまう。心が、何かを恐れている。

しかし、もう警告をいくら出しても遅かった。

「……ケ」

もう一度彼女の名前を呼ぶ前に。
首に手を回され、音を出そうとしたイズルの唇が塞がれる。
――他ならぬケイの唇によって。

102: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/26(日) 19:53:45.74 ID:cUmqdaKSO
「……っ!?」

突然のことにイズルは目を見開く。
今自分が何をされているのか、理解に数秒の間を奪われる。
それだけあれば、ケイがさらなる行動をするのは簡単なことだった。

イズルが慌ててケイの身体を離すより早く、ケイは手をイズルの腰に回して身体を引き寄せる。
そのまま唇を離さずに、彼女は舌でイズルの唇を撫でた。

「……っ! ……!?」

ぞくり、と背筋が震え。
口を開けてしまった。
その隙を逃さず、ケイは舌を介してイズルの中へと侵入する。

「ん、ちゅ……」

「ふ、ん、ぅ……」

無理矢理に舌と舌を絡め、唾液を交換させられる。
ぬるりとした感覚を舌に受け、身体の底からゾクゾクとした。
遅れて抵抗しようとしていたイズルの身体からだんだんと力が抜けていく。

気持ち、良い……。
頭の中身がぬるく暖まっていく。
ふわふわとした浮遊感が心地良い。
気付けば、イズルも手をケイの腰に回し、身体を預けていた。

103: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/26(日) 19:56:20.86 ID:cUmqdaKSO
「……っ、はぁ……はぁ……」

「……ん、ふぅ……」

二人は一度息を吸うために唇を離した。
抱き合ったままの二人には、お互いの呼吸音しか聞こえない。
密着しているので、ケイの心臓が興奮して跳ねているのがイズルには分かる。たぶん、自分もそうだ。

「ケ、イ。どうして……ん」

荒い呼吸とぼんやりした意識のまま、イズルはケイの顔を仰ぎ見る。
そうして質問をしようとした彼を、ケイはまた黙らせた。
もはや抵抗の一つもできないイズルは、されるがままに蹂躙される。

また力が抜けていくイズルの身体を、ケイは引き寄せる。
唇を離すと、今度は軽く押されてしまう。

体勢を整えることもできずに、必然的にイズルはベッドに倒れ込んだ。
その上にケイはのしかかり、イズルの身体を押さえつけた。
男と女では力が違うが、ケイはイズルより背があるので、押さえつけるのは容易だった。

明るく照らす天井の照明を後ろに見つめながら、イズルはケイの顔を茫然と眺める。
逆光でその表情は窺えず、そうしているうちに、また唇を塞がれてしまった。

104: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/26(日) 19:57:42.58 ID:cUmqdaKSO





何故、こうしているのだろう。
何故、私は――

どこを歩いているかも分からないうちに、ケイはイズルの部屋に着いた。
そして中に入って、自分では気付かぬうちにただならない雰囲気でいたらしく、イスに座らされた。
涙は出なくなったものの、未だ身体は震えているせいか、イズルは真剣にケイを心配してくれた。
……もっとも、その心配するような声の内容は分かっていないが。

……イズル、と心の中で呟く。
いつぞやの休暇とその後の戦い以来、ケイは彼に惹かれ始めていた。
その実直さ、仲間を大切に思う心に。
どんどんどんどん、のめり込むように。転がり落ちるように。
最初は冷めた態度で聞いていた『ヒーロー』という言葉も、いつの間にか自分で真剣に言ってしまうようになった。

105: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/26(日) 20:00:11.49 ID:cUmqdaKSO
――それも、本物?
ふと、疑念がまた沸く。
この、心が温かくなる気持ちも、偽物?
機械が生き残りたい本能を刺激するために作ったモノ?

……イヤ、だ。そんなの認めない。認めない。認めない! 認めたくない!
よろめきながらも、ケイは立ち上がった。
いつベッドに寝かされたのかも分かっていなかったが、そんなことはどうでもいい。

イズル、イズル……。
彼女の心の中には、彼しかいない。
冷静に考える力は、狂った方向にしか向かっていない。

機械の作った気持ちじゃない。
私は――私は、イズルが好きだ。
彼が欲しい。彼に欲されたい。自分の居場所にしたい。彼の居場所にされたい。

もう、何でもいい。

ケイの身体から震えが消える。
急に、ピットクルーの人たちの言葉を思い出した。

「今時、消極的じゃダメよお嬢」

部屋を去ろうとするイズルの背中を見つめる。
彼を手に入れる、そのためには。
手段はもう選ばない、と決めた。

今、一人の少女は。狂ってしまったまま、愛情を暴走させる。
それが彼女の意思か機械の作った意思か。誰にも分からない。きっと、彼女にも。

131: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/30(木) 02:45:08.36 ID:+qj89IRH0
ケイは組み敷いたイズルの顔を見据えながら、軽くキスをした。
一度ではなく、触れるだけのさっきの濃厚なモノとは違う簡素なそれを何度も繰り返す。
最後にはまた舌と舌を絡め合う。
貪るように、互いの存在を味わうように。
こういった行為は未経験のはずなのに、二人はたどたどしさをあまり見せずに快楽を与え合う。

「…イズル」

インターバルに息を吸いながら、ケイはその名を呼ぶ。
その存在を確かめるように、その細い身体を抱きながら。

「……ケ、イ」

ケイの下、目を動揺に揺らすイズルが呻くように呟く。
何かを言おうとして必死に唇を動かせようとする彼の言葉を、ケイは黙らせようとはしない。
呼吸を整えて、彼は一言告げる。

「ダメ、だよ。こんなこと」

「――――」

その言葉に、ケイは反応しない。
イズルの言葉の意味を理解しているはずなのに、心がそれを嫌がっているような感覚がする。

――ダメ? 私じゃ、ダメ?
私に魅力がないから? 私をチームメイトとしてしか見れないから?
イヤ、そんなのイヤだ。

132: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/30(木) 02:47:14.78 ID:+qj89IRH0
「イズル」

ケイの返事がないのを不安そうに窺っていたイズルが反応を見せる。
彼女が何を言うのか、戦々恐々とした様子だった。

「私、ね。イズルが好きよ」

ケイはただ真っ直ぐに想いを伝えた。
遠回しに言うことなんてない。
これが本能の作ったモノだとしても。

「僕だって、好きだよ」

後ろの照明が眩しいのか、目を細めつつ、イズルは言う。

――違う。ケイは心の中でもどかしいように否定する。
イズルのそれは、チームラビッツの――皆の中の一人として、だろう。
ヒーローという自分の中の『設定』の話だろう。
イズルの本心というものではない。

「なら、いいじゃない」

分かった上で、ケイは笑顔を向けた。
言ったところで彼はそんなことはないと言うだけだ。
だから、もう無視する。

133: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/30(木) 02:49:42.82 ID:+qj89IRH0
「ケイ……っ!」

イズルをまたケイは黙らせた。
深く、濃く、長く。自分の存在をイズルに味あわせる。

ピットクルーの女性陣から無理に貸された女の子向けの雑誌か何かの知識を思い出す。
まさか、こんなことを本当に実践するとはケイはまったく思っていなかった。

イズルと両の手のひらを重ねさせる。
ケイよりも大きめな彼のそれに包まれて、ケイは何だか安堵の気持ちを抱く。

「ん…は、ぁ」

「う、ん……!」

インターバル。
潜るように深いキスに息継ぎを挿む。
ほぼ力の抜けきったイズルの身体は、ベッドにだらしなく投げ出されるようになっていた。

ケイはそれを確認してから、自分の服に手を掛ける。
慣れた動作で、若干の躊躇いを見せながらも、上から下まで全て脱ぎ去った。
下着を関係なく、彼女は生まれたままの恰好を初めて異性に披露する。

134: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/30(木) 02:50:40.72 ID:+qj89IRH0
「あ……」

荒い呼吸を治めるのに集中していたイズルの視線がケイに、正確にはその均整の取れた肢体に奪われているのがすぐにケイは分かった。
控えめながらそこにある乳房。桜色に若々しさを感じる乳頭。締まったヒップライン。薄い茂みに覆われた、ピンクの淫口。

イズルが息を呑んで、圧倒されているかのようにまんべんなく、ケイの身体を視姦している。
そう思うだけで、ケイの身体の奥底から熱が湧いてきそうになる。

「…ど、う? 私、魅力ないのかしら」

ケイは悪戯っぽい笑みを浮かべてイズルに尋ねた。
本人は分からないが、彼女の顔は羞恥に紅潮している。
イズルも気が動転して一切気が付いていないが。

「あ、う…そ、その……」

顔を赤くして、イズルは首を横に曲げる。
見ないようにしている、と自分に言い聞かせたいのか、とケイはすぐに理解した。
何故なら、イズルは顔を逸らしているが、目でしっかりとケイの美しい肢体を眺めているからだ。

それに――

クスリ、とケイは微笑する。
イズルの顔から目線を離して、あることに気付いた。
イズルの腰より下、股間の辺りが妙に盛り上がっていることに。

どういうことかなど、言われるまでもなく、分かってしまう。
そして、ケイはやはりこの少年が可愛らしくて、愛おしくなる。

135: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/30(木) 02:51:48.55 ID:+qj89IRH0
「――ねぇ、イズル」

自分でも驚くくらい、優しい声色でケイは呼びかけた。
妖艶な雰囲気を纏い、まるで悪女のように笑ってイズルの股間に手を伸ばす。

「あっ! 待っ……」

もちろん彼の制止など聞かない。
ケイは盛り立ったそこに触れる。

「――ん!」

ピクン、とイズルの身体がおもしろいくらいに跳ね上がった。
ああ、可愛いな。
ケイは込み上げる喜びに身を任せつつ、意地悪に問いかける。

「これ、何かしら?」

「あ、う……」

困ったような表情を見せるイズルに、ケイの加虐心がそそられる。
好きな子ほどイジメたいだなんて、まるで小学生みたいだと思う。
……まぁ、小学生の記憶なんて無いけれど。

136: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/30(木) 02:53:33.18 ID:+qj89IRH0
「イズルのも、見せて?」

イズルの顔を覗き込む。
彼は何も答えない。おそらく、言われたことの意味がまだ理解できていないのだろう。
ケイにはそんなこと関係ないが。

ケイは遠慮なく、イズルのズボンのベルトに手を伸ばす。
その時点でようやくイズルが動き出した。

「だ、ダメだってば!」

慌てたようにケイの手を掴むイズルに、彼女は慌てずにイズルを無力化する。

「ん、む……っ」

イズルの口内を再び犯す。
いい加減彼も抵抗しようとしてきたが、行動が遅い。
さすがに分散されて進撃されれば集中力も意味をなさない。

「あっ……」

カチャカチャという音が不思議な緊張をもたらす。
遅れながらに、ズボンが下ろされる。
ついでに下着も脱がせた。

137: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/30(木) 02:56:23.12 ID:+qj89IRH0
そして――

「これが…」

とうとう露見したイズルの男根に、ケイは感嘆の息を漏らす。
見たことなどなかったが、それは予想以上に大きく、よっぽどグロテスクで、目が離せなかった。
肉棒という俗称に相応しく肉肉しいし、少しばかりキツイ匂いを漂わせている。
ケイには、赤黒く筋張った怒張と目の前の少年のイメージがまったく重ならなかった。

「み、見ないでよ」

組み敷かれた下で、イズルは耳まで赤く染めて目を逸らした。
見るな、と言われたら余計見ていたくなる。
そもそも、イズルはケイの肢体を散々眺めたのだ。
自分がされたって文句は言えないだろう。

ケイはそっと肉棒に顔を近付ける。
匂いがさらに強烈になっていく。
キツくはあるが、嫌いになるわけではない。
ただ、あまりの強さに頭がクラクラしそうになる。

何がこの匂いの原因かはすぐに分かった。
肉棒の先端から、半透明のぬるりとした液体が染み出るように出ている。
イズルのそれは、その液体によって照明を受けてわずかに光っていた。

138: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/30(木) 02:57:01.47 ID:+qj89IRH0
「ふふ、これは何かしら」

ゆっくりと、緊張に震えそうになりながらも、ケイは右の人差し指で肉棒の先端を突く。
意外にも粘性を伴っていた液体は、指に驚くくらい吸い付くように絡みついた。
その時、指に反応してか、肉棒がビクリと生き物のように震え、直後イズルの身体も同様に反応する。

「あうっ!」

普段聞かないような声を高く上げたイズルに、にちゃにちゃとわざと音を立てながら指を示す。
彼はそれを見つめながら、戸惑いの感情を露わにしている。

「私で…興奮してくれたんだ」

素直な喜びに唇が歪む。
嬉しい。周りの女性たちに比べて魅力のないこんな自分に、彼は性的な興奮を覚えてくれたのだ。

「ケイ…」

イズルが名を呼ぶ。
その声色から、彼が相変わらず自分を止めようとしているのが分かって、ケイはすぐに行動を開始する。
もう、そんなことを言わせないために。

139: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/30(木) 02:57:35.10 ID:+qj89IRH0
「あ、む」

「――あっ!? ふ、んん!」

ケイのしたことは単純。
イズルの肉棒に再び顔を接近させた彼女は、一瞬の躊躇いの後、思い切ってそれを銜え込んだ。
いわゆる、フェラチオというわけだ。

(う……)

初めての行為に、ケイは不快感を覚える。
大きな肉棒はケイの口いっぱいに圧迫感を与えた。
すぐに苦しいと感じた。
舌に溢れてきた先走りの汁が触れる。それは苦くてしかたなかった。
また、怒張の持つ熱に口の中が火傷でもしてしまうかと錯覚してしまいそうになる。

それでも、ケイは咳き込んだり、口を離してしまわなかった。
イズルの顔が快楽に歪むのが見えたからだ。
彼を喜ばせたい。自分に夢中にさせたい。
そんな欲望が、ケイに行動を続けさせた。

「ん、ちゅう……ッ」

「う、あ、ああっ」

雑誌で仕入れた知識を総動員して、イズルに快感を与える。
舌を必死に肉棒に絡め、唾液を付け、上下に顔を動かす。
それらのぎこちない動作の一つ一つが、経験のない少年には焦らすようで、さらに熱を生み出す。

イズルの悶える声とケイの奉仕の音だけが、明るい部屋に響く。
その淫らな行為の熱に、ケイの秘所はいつの間にか温かな分泌液で濡らされてきていた。

140: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/30(木) 02:58:28.09 ID:+qj89IRH0
「――ふ、ん。む、ぅ」

「あ、はぁ…っ、け、ケイ、もう、僕は…ッ」

イズルの声に若干の焦りのようなものが混じる。
それに呼応するかのように、怒張がケイの口内で跳ね始める。

あぁ、とケイは思った。
限界が近いのだろう。イズルはもう、射精するのだ。

そう認識して、ケイはさらに動きを早める。
もっとイズルに気持ち良くなってほしい。
ただ、その一心で。懸命に奉仕し続けた。

そして、その時は来た。

141: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/30(木) 02:59:17.74 ID:+qj89IRH0
「あ、ああぁぁぁああっ、ケイ、ケイっ!」

――――びゅ、びゅるるるっ! びゅうううっ!!

イズルの狂ったような叫びと同時、肉棒が一際大きく跳ねて。
豪快な水音を立てて、イズルの精を放った。

「んんっ! う、く、んん………っ」

どくどくと口内に射出されるそれに驚き、目を見開きながらも、ケイはそれを飲む。
初めてのスペルマは熱い。それに――

「う、けほっ、けほっ……うっ」

途中でその苦さに耐えきれなくなり、ケイは口をやっと肉棒から離す。
まだ精液は勢いを失わずに出てくる。
それらは粘っこくケイの顔や髪に張り付くように飛着していく。

142: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/30(木) 02:59:46.83 ID:+qj89IRH0
「…ケイ! ご、ごめん! ぼ、僕は…っ!!」

全て出し切って、イズルは我に返ったように顔を青ざめさせながら謝る。
それから、慌ててベッドの近くにあるティッシュ箱に手を伸ばし、数枚のティッシュを取った。
しかし、ケイはそれを受け取らない。
何故なら。

「……ん、うん」

こくん、とケイが喉を鳴らした。
その行動に、イズルは一瞬ケイが何をしているのか分からなかった。
が、すぐに理解した。
ケイが口を開いて、中身を示したことで。

「の、飲んだの!?」

そう、ケイは口内に出されたイズルの精を全て飲み切ったのだ。
苦く熱いそれを。イズルへの想いだけで。

143: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/30(木) 03:01:05.82 ID:+qj89IRH0
「ごち、そうさま」

ニコリ、とケイはイズルに微笑みかけた。
顔が精液にまみれて汚されてしまったのに、彼女は本当に嬉しそうに笑っていた。

「ごめん、ごめん……っ」

それに対してイズルはひたすらに謝りながら、ケイの顔や髪を拭く。
汚された美しいそれらが少しはマシになるのに、数分は要した。

「…ん。ありがとう」

完全に綺麗に精液を拭き取ってもらったケイは礼を言う。
しかし、イズルはまったく浮かない顔でそれを聞いていた。

144: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/30(木) 03:02:16.98 ID:+qj89IRH0
「どう、して…?」

「え?」

震えた声で、イズルが疑問の言葉を呟く。
何の疑問か分からず、ケイはそれについて聞こうとした。
その前に、イズルは告げた。

「どうしてこんなことをしたの…?」

理解できない、と言いたげな声色だった。
少し前まで、皆で和気あいあいと話していたはずなのに。
急すぎるケイの行動に、不安を抱くような声で彼は言った。

ケイは答える。ただ単純な気持ちで。

「好きだから」

「え…?」

「イズル、あなたが好きよ。――愛してる」

ケイの言葉に、イズルは瞳を揺らす。
それがまごうことなき『告白』であることは、いくら彼がマンガバカでも分かることだった。

145: ◆jZl6E5/9IU 2013/05/30(木) 03:03:17.87 ID:+qj89IRH0
「そんな――」

「私は、本気よ」

イズルが何かを言うより早く、ケイはもう一度真剣に告げた。
イズルは、何も言えなくなった。
彼には、どうすればいいか分からない、といったような困惑した目でケイを見つめることしかできない。

そうしている間に、ケイは先手を打つ。

「――ねぇ、イズル」

彼女は余裕のある笑みで、彼の名を呼ぶ。
誘うように、魅惑的に。
彼女は求める。まだ、これでは物足りない。

「今度は私も、気持ち良くして?」

火照った身体に身を任せて、ケイは自らの秘所の入口をそっと指で開く。
先走りと似たような半透明の液体が照明を受けて、そこを強調するように光らせる。
もう、この想いは止まらない。欲望は、止まらない。

156: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/07(金) 21:58:16.99 ID:FnVTaFrK0
どうしてこうなったんだろう。
イズルはぼんやりとした気持ちのまま、ただ視線を投げ出すように前に向けていた。
目の前には、淫らな姿をこちらに披露する『仲間』であるはずの少女がいる。

彼女の想いなんて、イズルは少しも知らなかった。
自分のことなど、単に頼りないリーダーだとでも思っていると、そう勝手に考えていた。

どうすればいいのだろう。
イズルの脳内では、理解するのを止めた部分と必死になって現状への行動方針を打ち出そうとしている部分とがせめぎあっていた。

こんなとき、ヒーローなら。
ヒーロー、なら――

……そこでイズルの思考は真っ白になった。
彼が記憶のない自らの基盤としているヒーローは、こんな場面になど出会わない。
それも当然である。
彼の読んでいたヒーローマンガは所詮は子供向けのモノ。
英雄色を好む、というような言葉の出るタイプのヒーローをイズルは知らない。

だから、彼は。

「……んっ、はぁ……っ!」

「――む、う……っ!?」

ただされるがまま、ケイに奉仕するしかなかった。

157: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/07(金) 21:59:25.57 ID:FnVTaFrK0
「いず、るぅ……」

イズルの顔に向けてケイの腰が沈む。
強烈な香りが――そう、雌のフェロモンを目一杯染み込ませたような甘い香りがイズルの鼻腔をくすぐる。
イズルの鼻の辺りに触れたそこは、ケイの秘所だ。

若々しいピンクに染まったそこは、生物的に艶めかしく蠢いていて、少し怖い。
それでいて、その香りは蠱惑的で。
甘ったるく感じるケイの声を聞きながら、イズルは花の香りに誘われる蝶のように、舌を秘唇に伸ばしていた。
舌はすんなりとその中に入り、何だか分からないヒダ状の部分に触れる。
そのまま粘液のような半透明の液体を味わいながら、イズルは無我夢中で舌を動かした。

「――あ、んんっ! はぁ……あうっ! イズル! イズルぅっ!」

拙いながら愛撫を必死にした効果か、ケイは快楽に我を失ったようにイズルを呼び、身をよじらせた。
その叫びに呼応するようにどんどん分泌液が溢れて、イズルの口内に流れ込む。

――甘い。

コクリ、とそれを少しだけ味わう。
甘いお菓子が大好きな彼女の性格を表すような液体は想像よりも抵抗なく飲めた。

158: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/07(金) 22:00:31.37 ID:FnVTaFrK0
――もっと。

イズルはどうにか顔面上のケイを退かせようと動こうとする。
これがイケないことだ、と分かっている。
だからイズルは――

「ん、ちゅう……んくっ……!」

「あ、いず、ふ、あぁぁ……っ!」

イズルは授乳されている赤ん坊のように、ケイの愛液をさらに飲み込み、吸い込む。
――甘い。もっと、もっと………

――僕は、何を考えてるんだ?

自分の行動に、イズルは困惑する。
止めなくてはならないのに。
これは、イケないことなのに。
なのに…なのに。

イズルの行動は止まらない。
もっとこの液体を飲みたい。ケイを…気持ち良くしてあげたい。

――違う!
僕はこんなこと、望んでなんか――ッ!

イズルの行動は止まらない。
ケイにさらに快感を与えるために。
ビデオなどの知識を総動員して、舌を動かして小さな豆のような部分を転がし、吸い込む。

159: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/07(金) 22:01:09.40 ID:FnVTaFrK0
「あ、んんっ! は、ぁああ……」

ケイの身体が跳ねるように動く。
その動きに連動してか、彼女の秘唇から溢れんばかりに、決壊したダムのように、甘い分泌液がイズルの口内に流れ込む。
そのあまりの量に、イズルは舐めるのを止めて、一気に愛液を吸い込んだ。

「―――あっ! ん、くぅん! ………はうっ!」

一瞬、大きくケイの身体が揺れる。
それから、また液体が大量に溢れ出たと思ったら、糸が切れたように彼女はイズルの右隣に倒れ込んだ。

彼女の秘所が口元からようやく離れて、息をまともに吸えるようになったイズルは水を得た魚のように空気を吸う。
だんだんと落ち着きを取り戻してきてから、イズルは視線を右に移す。
その先にいるひどく荒い呼吸をするケイを見て、イズルはやっと何が起きたのか気付いた。

「……い、イった、の?」

おそるおそる尋ねた途端、無言のケイが握り拳を胸板に当てた。
勢いのなかったそれは、ぽすん、とそのままベッドのマットに落ちた。
顔を赤くし、いつものキツい目をして睨もうとしているらしいが、弱弱しく瞳を揺らしているケイに、イズルは目を奪われる。
その姿は、普段の毒舌家で、そっけなくて、落ち着いている彼女の雰囲気と違って――

何だか、ドキドキした。

160: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/07(金) 22:03:03.59 ID:FnVTaFrK0
「……ねぇ」

はっ、とケイの呼び掛ける声にイズルの集中力が戻る。
が、それを認識する前に、ケイに押し倒された。

「準備、いいみたいね」

「………っ!!」

微笑みながら、ケイが上からイズルを見下ろしている。
あぁ、やっぱりこのケイは何か違うな、といやに冷静な気持ちでイズルは自分の置かれた状況を認識していた。
そして、まさにイズルの目の前で、その行為は実行されようとしていた。

反応する間もなく、ケイの魅惑的かつ官能的な姿にすっかり元気を取り戻していたイズルの肉棒が彼女の手に包まれる。
無論、その時も快感の電流が身体を小さく流れていた。
それから、彼女はイズルを自らの秘所に導くようにあてがう。

「……ん」

そうして、彼女はゆっくりと、牛歩のようにゆっくりと、イズルを自らの体内で包もうとする。
そう、だ。
そう、このままいけば、イズルとケイは――

「――だ、ダメだ!」

挿入される直前、ようやくここでイズルは取り戻した集中力でケイの拘束から逃れた。
隙のできた彼女の身体を押し退け、無理矢理離れた。
自分が何をされたか少しの間分からなかったらしく、ケイは呆気に取られたような顔を見せる。

161: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/07(金) 22:03:55.73 ID:FnVTaFrK0
「…ごめん、なさい」

しばらく放心していたかと思うと、ケイは俯きがちに謝罪の声を発する。
その声色は、さっきとは違った。いつもの、冷静な彼女の雰囲気を纏っていた。
そして、イズルの行動の意味を理解したかのような口調で、彼女は続けた。

「……軽蔑、したわよね? こんな、無理矢理に関係を迫った淫乱女なんか」

自嘲気味の言葉だった。深く、今更になって後悔するような。
何故こんなことをしてしまったのか、そう自分に問い掛けるような言葉だった。

「ケイ」

なるべく優しい声で、イズルは彼女の名を呼んだ。
今の彼女は、先程とは違い、怖くない。いつもの調子で話をできそうな気がした。
その声にケイは答えなかったが、イズルは続けた。

「あのさ。ケイは、こんなことしちゃダメだと思う」

「そうでしょうね」

イズルに軽蔑された、と解釈したケイは笑う。
我ながら本当に最低だった、と彼に嫌われたことを悲しむような顔でもあった。

しかし、イズルは首を振る。
縦ではなく、横に。

「そういうのじゃ、ないよ」

162: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/07(金) 22:04:44.81 ID:FnVTaFrK0
え? とケイが顔を上げる。
イズルは、微笑んでケイを見つめていた。
彼は落ち着いて彼女を見つめて、一言告げた。



「――だって、ケイ、泣いてるじゃないか」



その言葉に心奪われた、という表現が適切だろうか。
数秒間、ケイは完全に動きを止めていた。
イズルは、何を言っているんだろう?
私は、泣いてなど――

「……あ」

ゆっくりと、ケイの暗い紫色の瞳の辺りに、イズルの右人差し指が伸ばされる。
ビクリとケイが反応する前に、彼はケイの両目尻を拭って、示した。
その指先には、透明に、照明を反射して輝く液体があった。

163: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/07(金) 22:05:22.27 ID:FnVTaFrK0
「ケイだって、その、経験するの、ホントは怖かったんだよね?」

じっと指から視線を離さないケイを見据えながら、イズルは話しかける。
諭すような口調で、彼は一字一句丁寧に伝える。
彼なりの言葉で、『ヒーロー』という概念を超えた言葉で。

「だから、ダメだよ、ケイ」

「………あ、あ」

ケイは、ただ、うろたえたように単語にもならない音を出して。
イズルは、迷わず、すらすらと出てくるセリフを素直に言った。

「ケイにとって、大事なことなら、それは大切にしなくちゃ、ダメなんだ」

彼は、いつも通りの太陽のような明るい笑顔を見せた。
少しでも、ケイが『いつも通り』になるように、願いを込めて。

「う、ああ…」

ケイの身体が、また、イズルの部屋に来た時のように震え出す。
何か、押し留めていたモノが、内側で暴れているような、そんな印象をイズルは抱いた。
決壊寸前のダムは、いつまでもその状態を保つわけではない。

だから、

「――――うああああああああんっ!!」

突然の叫びが、部屋中に響いて。
ケイがイズルの胸に顔を埋めた。服の胸元が、さっきの愛液とはまた違う、別の液体に濡らされる。
それはまるで、癇癪を起こした子供のように不安定で。
イズルには、何だかその仕草が可愛らしく思えた。

164: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/07(金) 22:07:04.77 ID:FnVTaFrK0





「…落ち着いた?」

「……」

数分後。
すっかり泣き止んだケイを抱き止めているイズルの心配する声に、ケイは小さく頷いて返した。

それから、彼女はそっと、名残惜しげにイズルの胸元から顔を離す。
ケイの両目は、真っ赤に充血していて、揺れていた。

「……」

「…え、っと」

急に、全裸の女の子とかなりの近距離でベッドに座っているという状況が気恥ずかしくなってきて、イズルは言葉に詰まる。
とりあえず、全裸の女の子、というところからどうにかしよう。
そう決めると、イズルは上着を脱いで、ケイに被せた。
彼女は特に何の反応も見せず、それをされるがままに頭に載せる。

「…あった、かい」

両袖を通さずに持って、彼女は自分を抱き締めるような恰好で内側に引き寄せた。
それから、静かに服に残っているイズルの香りを深呼吸するように吸い込んだ。

165: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/07(金) 22:07:46.81 ID:FnVTaFrK0
「あの、ケイ。ケイはホントに、僕を……?」

ようやく頭が冷えてきてから、ケイは聞こえたイズルの声に、目を細める。

「……女の子の方から何度も言わせる気かしら?」

「え、あ、その…」

非難めいた視線に、イズルは慌てふためいたように言葉を考え始めた。
そんな彼の様子に、ケイは愛しい気持ちで、クスリと笑った。

「冗談よ。……でも、この気持ちは、『本気』だから」

真剣な表情で、後半の部分は告げた。
それを聞いて、イズルも気を引き締めるような顔をした。

「イズルは――どう、なの?」

「分から、ない」

確かめるケイの質問に、イズルは迷ったような声を出した。
心の底から、本当にそうなんだと伝わってくる様子だった。

「ケイのこと、大切な『仲間』だって思ってた。その、『愛してる』のかは……僕には、分からないんだ」

「…そう」

分かっていたことだから、ケイはそれ以上何も言わなかった。
イズルは優しい。さっきのことで、ケイを拒否したりしないし、彼女のことを真剣に考えた上で答えてくれた。
だから、それでいい。無理に結論を聞きたくなんて、なかった。

166: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/07(金) 22:08:19.49 ID:FnVTaFrK0
「――ケイ」

「…何?」

今度はイズルから呼び掛けられた。
何だろう、と思いながら、ケイは続きを促す。
彼は伺いを立てるように言った。

「僕に、時間をくれないかな? ケイのこと、僕なりに答えを出すのに」

ケイの瞳が揺れた。
そうだった。イズルは――イズルは優しいんだ。
こうやって、ケイの気持ちをむげにしないぐらい、優しいんだ。
ケイは、震える声でそれに応える。

「……答え、絶対に出してくれるの?」

「うん」

「絶対? 何が起きても? 必ず?」

「絶対。何が起きたって、必ず」

彼は、はっきりと、ケイに告げた。
彼は本当に素直で、お人好しで。
本当に、愛しい。

「…なら、お願いね」

「うん!」

ケイの言葉に、イズルは笑ってみせた。
その吸い込まれるような真っ直ぐな瞳に、ケイも自然と笑みを浮かべていた。

167: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/07(金) 22:09:11.86 ID:FnVTaFrK0
「…っと、そろそろ寝ないと、明日も大変なんだから」

数秒ほど見つめ合ってから、イズルは思い出したように声を上げた。
確かにその通りだ、とケイはベッドのデジタル時計に目をやる。
表示では、時刻はすでに深夜の二時に差し掛かっていた。

もう、帰らないとならない。
思い立ったケイは自分の衣服を拾おうとして――

「…ねぇ」

「うん?」

ふと、あることをケイは思いつき、躊躇いながらも、イズルに声を掛けた。
とっくに裸を見せたり、思い切りなことをしたのだ。
躊躇することなどない。
自分に言い聞かせながら、緊張に心臓を高鳴らせながら、ただ一つ、提案した。

「今夜は――今夜は、一緒に寝てくれない、かな?」

何を今更緊張しているんだろう、とまるで恋する少女のように振る舞うのが馬鹿らしくて、自分を心の中で笑う。
だいたい、あんなことの後で、彼が了承するはず――

「ケイがいいなら、いいよ」

あっさりと、イズルは頷いてみせた。
ケイが不安な状態のままなのだろう、と彼なりに察しての行動だった。
そんなことは知らずに、また、心臓が大きく跳ねた。

168: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/07(金) 22:10:34.82 ID:FnVTaFrK0
「じゃ、じゃあ……」

動揺や緊張を悟られないように、落ち着けと内心何度も繰り返しながら、
照明を消して先に寝転がっているイズルの隣にケイは慎重な動作で寝た。
さすがにお互いに正面を向いて寝るのは何だか恥ずかしく、二人は背中合わせに横になる。

…………。
数分が経過した。ケイは未だに眠れない。
何だか、ドキドキとして、イズルが振り向いた先にいると考えるだけで頭が冴えてしまいそうになる。
彼はもう眠ったのだろうか。好きだ、と伝えた女の子が背中を隔てて一緒に寝ているというのに。
考え始めると、なおさら寝付けなくなる。

「…イズルは、暖かいわ」

沈黙に耐えられず、ケイは小さく呟いた。
少しでも、眠りやすくなるように、自分を安心させたかったのだ。
だから、彼女はそれに答える声なんて想定していなかった。

「ケイも、だよ」

反応を起こす、その前に。
ケイの身体が、後ろから抱き締められた。
誰か、なんて言うまでもない。
彼の両腕が、優しく彼女を包み込んだ。
驚きと喜びに、ケイは目を見開き、頬を朱に染める。

「……うん」

彼の両腕を抱き締めて、ケイは瞳を閉じた。
彼の体温を感じながら、彼女はゆっくりと、ゆっくりと、まどろみの中へと落ちていった。



――この想いが、例え機械が作り上げるようにしたモノだとしても。
――私は、この気持ちを受け入れる。ずっと、ずっと。

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179: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/11(火) 03:14:02.34 ID:fuiY7LCl0
こまったおねえさん

戦艦ゴディニオン内部

リン「まったく…どうして私が室内調査なんて……」

レイカ「しょうがないんじゃなーい? リンリンが一応観察役なんだからさ」ケラケラ

リン「関係ない人はいいわね、気楽なこと言って」

レイカ「ふふ、じゃね、リンリン」

ツカツカツカツカ……

リン「」フー

リン「まずは、女子からかしらね」

180: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/11(火) 03:15:05.77 ID:fuiY7LCl0





リン「まったく…」

リン(ケイやアサギはよしとして、スルガやタマキは後で厳重注意でもしておこうかしら)

リン(特にタマキ。部屋の清潔度に気を配るように言っておかなければ…)ソウジキカタテ

リン(…さ、次でおしまいね)

イズルの部屋前

リン(といっても、問題ないでしょうけれど)

シュッ

リン(相変わらずマンガと描く道具しかないわね)

リン(これなら特に注意が必要ってことも……ん?)

181: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/11(火) 03:15:57.28 ID:fuiY7LCl0
リン「」ツカツカ

リン(これは、映像記録のためのディスク?)

リン(デッキと大型テレビも……)チラ

リン(……珍しいわね。何を見ていたのかしら)カチャ

リン「……」ウィィィン……

パッ!

アンッアアッソコゥッンン! ゲヘヘイイノカァ? パンッパンッ! グチョグチョ

リン「」

リン「」バッ カチッ

リン「い、今のは…」ソー

パッ!

アンッイイッソコウッ! ウッイイゾッイクッ! アァァンッ!

リン「」

リン「」

182: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/11(火) 03:16:43.96 ID:fuiY7LCl0
リン「……っ!?」カァッ

リン「」カチッ

アン…ブツンッ!

リン(…落ち着きなさい、私)

リン(年頃の子供にはあること、よ。ええ、そう)

リン(単純に、人畜無害そうなあの子がこんな内容のモノを見てるのに驚いているだけ)

リン「」フー

183: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/11(火) 03:17:32.82 ID:fuiY7LCl0
リン(というか…)

アンッアアアンッ!

リン(さっきの人、何か私に…)

リン「」ハッ

リン(何をバカなこと考えてるの私は)ブンブンブンブン

リン(じょ、冗談じゃないわ。生徒に、そんな……)





イズル『教官…僕、ずっと前から』ジリジリ

リン『ちょ、ちょっと、冗談は止しなさい』アトズサリ

イズル『僕、真剣です……っ!』ガバッ

リン『ま、待って! あ、そんな……』






リン「…」

リン「っ!」カァッ

リン「」ポカポカポカポカ

リン(…み、見なかったことにしましょう)

リン(そうすれば、全て解決するんだから)

リン「」ハァ

リン「…今度、レイカと飲みに行こう」

その後、しばらくの間イズルと目を合わせずらくなったり、その影響でチームラビッツとも上手く接することができなくなったり、
そのことについてレイカに酒の席で泣きながらいろいろとぶちまけるリンであったが、それは別の話。

------------------------------

191: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/13(木) 02:57:56.66 ID:g9xRyr/B0
アサギ・トシカズは実に気分が悪かった。
いつも通り、なんて言いたくもないが、胃はキリキリと彼の心を痛める。
そんな不調の理由は単純。
相変わらず彼はザンネンイケメンであったということ。
ただ、それだけだった。

「ヘボパイ、か」

大きな戦いをこなし、インターバルのような休憩期間。
アサギは自室で窓に寄り掛かって宇宙を眺めていた。
未だ帰還の完了しない味方の戦艦を目にしながら口にした言葉が、重く、のしかかるような錯覚を覚える。
そう、それはまるで古代の奴隷に付けられていた枷のような――想像するだけで、また胃が痛む。

「アサギ、どうかした?」

「また胃かー?」

「別に。何でもない」

心配そうな仲間の声に、アサギはあくまで平静を装う。
ここはアサギの自室であるはずなのに、いつの間にか仲間たちの溜まり場のようになっていた。
…まぁ、結局何を言ってもこの仲間たちはここに集まってしまうからどうにもならない。

それよりも、とアサギは憂鬱な気分のまま、後ろでくつろぐ仲間に表情が窺えないように窓に向いたままでいる。
チームの中でのリーダーがイズルだとしても、年長者は自分だ。
年長者がどうあるべきか、という考えをアサギは記憶のない自分の心の柱にしている。
だから必要以上に彼は気負い、こうして実力を出せずにいる。

そして――彼の悩みの種は彼自身以外のところにもあった。

192: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/13(木) 02:59:36.03 ID:g9xRyr/B0
「イズル、ちょっといい?」

「え? あぁ、どうかした、ケイ?」

後ろでドアが開く音、呼び掛ける声、それに部屋から遠ざかっていく足音が二つ、最後にドアが閉まる音がした。
振り返らなくても、何があったかはすぐに分かる。
またか、ともアサギは思った。
それは、チームの中ではもはや見慣れた光景だった。

「…なーんか、怪しいよな、あの二人」

三人だけになった部屋で、ぽつりとスルガの声が響く。
何だかんだ言って、スルガは結構チームを観察して、分析している。
内心、その言葉に頷いていまうくらいには。

ケイも分かりやすいもんだ。
このところはほぼ毎日ああやって、イズルと二人きりであの悪趣味な甘いものを食べるのに誘っているのだから。
まぁ、あの鈍感ヒーローは気付いちゃいないだろうけれど。

そして、そういう仲間内のことを思うと、また胃が痛むから止めておく。
こういうチーム内の関係で、年長らしく、なんて悩むところがアサギにさらなる重荷を加えるのだが、それを放棄できない。
それが、アサギという男だった。
不器用、というどこかの彼のそっくりさんも抱えているマイナス面であり、ある意味プラス面なのだ。

193: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/13(木) 03:00:43.87 ID:g9xRyr/B0
「えー? ケイがイズルとなんてないと思うけどー」

「いや、あれで結構息ぴったりなトコあんじゃん」

そんなアサギの内心の葛藤なんていざ知らず。
お子様、というか似た者同士コンビが何やら盛り上がり始めている。
お前らはいいよな、何も気負わなくて。こっちはいちいち胃が痛むぐらい悩んでるぜ。

「――アサギはどう思うよ?」

当然の流れのように、スルガが話を振る。
いや、当たり前といえばそうだけど。
アサギはとりあえず何とか平気そうな表情に建て直すと振り向いた。

「…別に。どうでもいいだろ」

「んだよ、つまんねー反応」

いつもの受け答えにスルガもいつもの反応を見せつつ、床に寝転がった。
おそらく、彼からすればこれも一時の話題に過ぎないのだろう。
チラリ、とアサギは壁掛け時計を見る。
もう、お子様は寝る時間だ。

194: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/13(木) 03:01:29.45 ID:g9xRyr/B0
「悪かったなつまらなくて。ほら、寝るなら部屋で寝ろよ」

慣れた調子で話を切り上げて、帰るように促す。
アサギとしても休みたかった。
ここ最近は気の休まる時間がないように感じる。

「へいへい」

気のない返事をしながらも、スルガはゆったりとした動作で立ち上がると部屋を出て行こうとする。

「おい待て。タマキも連れてけよ」

言いながら、アサギは自分のベッドを顎で指す。
そこにはついさっきまで起きてスルガに受け答えしていたはずの少女が見事に眠っていた。
何でこんな早く寝れるんだこいつは。っていうか俺の寝床取るな。
不満を抱きながらも、アサギは呆れた気分でため息を吐いた。

「俺筋力ねーから。じゃな」

「おい!」

と、ここまでがいつもの流れ。
面倒がるスルガがいそいそと退散して、アサギがそれを呼び止める。
それで、結局はアサギがタマキを背負って運ぶ。
完璧なまでに一部の狂いもない流れだ。
あまりにも隙がないせいか、落胆の息も出ない。

195: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/13(木) 03:02:14.98 ID:g9xRyr/B0
「…タマキ、運ぶぞ」

一応声を掛けてから、ぐっすりと眠りに落ちる眠り姫をアサギはおぶる。
これが眠り姫ってのはないな。むしろ王子かも。
年頃の女の子らしさの欠片もない寝相でいびきをかく少女を簡単に背に載せ、アサギは部屋を出る。
チーム全員の部屋自体はかなり近いので、目的の場所にはすぐに着いた。

「よっ、と……」

すっかり寝入ったタマキを、どうにかベッドに寝かせる。
彼女の部屋は、いつぞやスルガの言ったように、ひどくモノが散乱としている。
正直、モノが足の踏み場代わりになるような部屋はもはや物置だと思う。

……明日にでも掃除させよう。もちろん、監視して。
元からの性格のせいか、アサギは散らかった部屋なんて、見るだけでもイヤだった。
そういうところから来るストレスでまた胃がひどくなるだろう。
さっそく出来た新しい明日の予定に、アサギは疲れを感じた。

196: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/13(木) 03:03:18.63 ID:g9xRyr/B0
「あ、アサギ」

タマキの部屋を出たところで、ばったりとイズルに出くわした。
彼の周りからはこれでもかというほどに甘いクリームの香りがする。
疲れたところに胃を刺激する匂いは止めろ、と言わなかったのは、それ以上にげんなりとしていたからだろう。

「…お前、よくあんな食い物に付き合えるな」

「うーん。ケイのお菓子美味しいよ? ちょっと甘いけど」

「ちょっとじゃねーよ。かなりだ」

適当に言い合いながらお互いの部屋へと歩く。
といっても、すぐに到着するが。

「じゃあな。とっとと寝ろよ」

言い慣れた別れ文句を告げて、アサギは自室のドアを開ける。
さっさと寝て、また明日に備えなくてはならない。
こうしていつもの日々は終わりを告げる。

「――アサギ」

そのはずだったが、今日は違った。
部屋に入ろうとしてイズルに呼び止められた。

197: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/13(木) 03:04:10.96 ID:g9xRyr/B0
「…何だよ?」

また何か突拍子もないこと言うのか。まったく、ヒーローとかいうのは結構なもんだな。
そんな風にちょっぴり毒舌めいたことを心の中で呟く。

「ありがとう、アサギ」

――は?

「アサギのおかげで――何て言うかな、皆も安心していられるっていうかさ。とにかく、ありがとう」

「…おう」

無邪気な笑顔でイズルはそんなことを言うと、あっさりと引っ込んでいった。
誰もいない廊下に、アサギだけが突っ立っている。

安心? 皆が? 俺の――おかげで?
その言葉の意味を、アサギはじっと考えた。
考えて、考えて、考えた。

「……ふん」

それから突然、アサギは誰に向かってというわけでもなく鼻で笑うと、自分も部屋に入った。
今度こそ無人になる廊下に、チームの殿を飾るようにアサギの帰る音が響く。

アサギ・トシカズはやっぱり気分が悪かった。
胃は痛いし、チームのことを考えると重荷を感じる。
ただし、彼はそれに文句は言わない。

何故なら――――

当然だろ。俺は、俺は――最年長だからな。

------------------------------

204: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/13(木) 16:21:30.83 ID:nP2pPPMy0
人の一生は自らの行動で決まる、という一節が『知識』にあった。
自己啓発系の一節に過ぎないそれは、彼らにとっては苦笑いの対象以上にはなり得ない。

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

グランツェーレ都市学園。
MJP――Military Junior Pre-academy――そう呼ばれているとある軍事機関の養成学校である。
その学校施設の、昼時で賑やかな食堂の一角。
そこに、彼らはいた。

チームラビッツ。
MJPの訓練兵の一員である五人の少年少女の班である。
特異なMJPの中でも、さらに特殊な班である彼らはおよそ一般的ではない付加価値を備えている。
といっても、それはマイナスの面でしか今は語れないが。

各々は圧倒的に一つの分野では計り知れない能力を持つ。
が、彼らにはチームとしての行動に必要不可欠なモノが足りていない。
――結束力。仲間を思い、共に行動する力が欠如している。

205: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/13(木) 16:22:59.00 ID:nP2pPPMy0
そんな彼らの様子はそれぞれでまったく別々だった。

一人は、イカの塩辛と白飯の大盛りを活発そうにかっ食らいながら、周りを見回して。

一人は、チームの人間に目を移さず、ただ食堂でキビキビと働く女性を見つめ。

一人は、黙々と甘いお菓子をまるで昼食のように食べて。

一人は、無関心そうに――それでいて若干の気まずさを抱えながら、年頃の少年らしくない軽食を取り。

一人は、そんな四人を気に掛けた様子で何度か目を移しながら食事をしていた。

「…あ、あの」

いつまでもお互いに会話のない少年たちの中、彼は遠慮がちに声を出す。
自然とメンバーの視線が彼――イズルに向けられる。
不思議そうに、訝しむように。

「…何だよ」

黙している女子メンバーを余所に、年長であるアサギが一応の返しをする。
それに対して、イズルは。

「……あ、えと…………ごめん、何でもない」

何かを言おうと数回口を動かそうとするが、結局モゴモゴと彼が口にしたのは、謝罪の言葉だった。
そんな彼に、メンバーは何も言わない。
ただ、またそれぞれの行動に戻っただけだ。

206: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/13(木) 16:24:12.15 ID:nP2pPPMy0
どうすればいいのだろう。
イズルはここ数日、迷っていた。
このチームの仲は最悪と言っても良い状況にあった。
演習は上手くいかず、かといって、お互いに声を掛け合うこともできずにいる。

イズルはただ一人、この現状に悩んでいた。
彼としては、折角チームになったのだから、彼らと仲良くしたい。
しかし、チームのメンバーはまだお互いの距離を掴み切れていない。

当然と言えば当然のことだった。
何せ、彼らは自分がどういう人間だったかも知らないのだから。

MJP――この軍事機関に入隊する際、新兵たちはエピソード記憶を――思い出を消去されている。
理由としては、おそらくは過去のしがらみにこだわり戦場から脱する、ということを避けるためなのだろう。
それは、遠慮なく彼らを戸惑いの世界に引きずり込む。

そうして、元からの性質なのか、警戒心の強いメンバーとは話せず、かといって比較的薄いメンバーはアクが強すぎるために結局話せず。
こうして、最悪の演習結果と仲で今を迎えている。

何かないかなぁ。せめて、話をするきっかけが――
そう、イズルが考えているうちに。

「…行くぞ」

はっ、と気付かない間に、昼の休憩が終わっていた。
イズル以外の皆は早々に立ち上がると、教室に向かっていった。
あぁ、困ったな。まだ何も思い付いていないのに。
いそいそとイズルも立ち上がり、彼らを追いかける。

そして――転機は訪れた。

207: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/13(木) 16:25:49.33 ID:nP2pPPMy0





「…う」

頬の痛みに、イズルは呻き声を上げる。
膨らんだほっぺからヒリヒリとした痛みが襲ってくる。

「……これで、大丈夫」

薬品やら何やらを薬箱に仕舞いながら、ケイが短く言う。
彼女の手当ては少しぶっきらぼうだったけれど、確かに効果はあった。

「ありがとう」

とりあえずイズルはなるべく笑顔を作って礼を言う。
無論、頬は痛いけれど、しんみりした顔で礼を言うのは何だか効果がなかったようで悪い。
ケイはただコクリと頷いて、箱を元の場所に戻しに行った。

授業中であるはずの時間に、チームラビッツの面々は保健室に集まっていた。
イズル以外のメンバーは、どこか重苦しそうな顔をして何をするでもなく、そこに立っている。

昼休みの後の授業は、講評会のようなモノだった。
各チームの訓練成績を見て、お互いに良い部分と改善点を指摘し合う、という趣旨の授業だった。
が、そこで教官である女性に最悪な点を指摘され、メンバーの中ではアクが強いスルガが不謹慎なことを言って、事態は傾いた。

その言葉に、メンバーの中ではかなり真面目なアサギが、最近の訓練の成果も相まってか、つい激情に駆られ、スルガの胸倉を掴んだ。
そして、いくつかの言葉の応酬の後、感情に身を任せたアサギは迷いがちにその拳を振り上げ。
イズルが咄嗟に前に出て、スルガを庇って殴られた。
その治療のために、皆で授業を抜け、こうして保健室にいるのだ。

208: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/13(木) 16:26:43.31 ID:nP2pPPMy0
「……悪い」

立ち上がったイズルに、アサギは近付くと俯きがちに謝罪の言葉を口にする。
彼はチームでの最年長のメンバーだ。故に、チームメイトを殴った、という事実を彼は大きく悔やんでいた。
ついでに言うと、訓練の悪い成果も、自らの責任だと感じてしまいがちなところがある。

「…俺も、悪かったな」

アサギに続くようにスルガも同様に声を上げる。
いつもは女性を口説くのに軽い気分でいる彼も、さすがにこの時は違っていた。

「良いんだ、その、皆イライラしてただろうし」

ようやく話しやすくなったかな。…ちょっと痛いけど。
そう考えながら、イズルは続けて、ずっと言いたかったことを口にする。

「あのさ、皆、もっと話さない?」

「……」

「……」

「……」

「……」

誰もその提案には答えない。
イズルの言うことの必要性は理解してはいるが、実際に対応はできない、という風な表情で彼を見ていた。
イズルは構わず続ける。とにかく、自分の考えを皆に伝えなくてはならない。
自らの行動で一生が決まるなら。
きっと、チームのこれからは全員の行動で決まるはずだ。

209: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/13(木) 16:28:15.50 ID:nP2pPPMy0
「僕たち、確かに記憶がなくて不安だけど」

だけどさ、とイズルは前置きをする。

「何もないなら、皆で作ろうよ。何もないけど、ううん、だからこそ、僕たちは何でも作れるんだ」

「――兵士になるしかないのに?」

冷めた声で、ケイが聞こえるように呟く。
その一言は、ひどく正論で、残酷に皆を落とす。
しかし、イズルは――

「そうかもしれない。でも、作る」

「……え?」

その先の回答なんて予測していなかっただろうケイは、目を丸くした。
イズルはニコリと明るい笑顔でチームを見渡す。

「作るんだ、僕たち」

「だから兵士になるしか――」

「ないなら作る! なくても作り出す!」

心の底から、イズルははっきりとそう言ってみせた。
そんな可能性がないとしても、用意されていなくても。
自分で作ればいい。自分の道を、勝手に。
彼のポジティブな思考回路はすでにそうやって結論付けていた。

210: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/13(木) 16:29:24.33 ID:nP2pPPMy0
チームメイトたちは、静まり返っていた。
それぞれ、イズルの言葉を噛み砕いて、取り込もうとしているように見えた。
そして、数秒ほど経って。

「うーんと、よく分かんないけどー、さんせー!」

特にイズルの言葉を理解はしていないだろうが、タマキが両手を挙げて笑った。
彼女も、内心、チームの仲を気にしていたのかもしれない。

「……ったく、訳分かんねーな、お前」

呆れたように、スルガが言った。
その顔には、笑みがあった。
あまりにもくだらない、とでも言うように、ニヤリと、不敵な笑顔を浮かべていた。

「…そうね、ヘンよ、あなた」

ケイが――警戒心が強く、ろくに話さないケイが、初めて人に同調した。
それに、あろうことか、ふ、とうっすらと笑ってくれた。

「…まぁ、話をしよう、ってのには同意する」

まだ戸惑いを隠せない様子で、アサギはイズルに頷く。
彼は笑ってはいなかったけれど、それでも、初めて少しだけ柔らかな表情を見せた。

「うん! がんばろう、皆!」

イズルは笑う。
まだ、結局は何一つ達成してはいないというのに。満足そうに笑った。
ようやくスタートが切れたような気がして、嬉しかった。

211: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/13(木) 16:30:13.52 ID:nP2pPPMy0





――これが、始まり。

タマキ。
スルガ。
ケイ。
アサギ。
イズル。

この五人の、『タスケアイ』の、スタート地点。

------------------------------

220: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/15(土) 00:09:11.35 ID:wDzyT2360
スターローズ内部――格納庫

リン「それじゃ、今日はもう解散していいから」

ツカツカツカ…

アサギ「はい、お疲れ様でした!」

スルガ「ふぃー、終わったァ」

イズル「今日はもう寝たいね」

アサギ「まったくだ」イガー

スルガ「早く胃薬の摂取しねーとな」ケラケラ

アサギ「ふん。この苦しみの分からないヤツはいいよな」

タマキ「」ウツラウツラ

ケイ「…大丈夫、タマキ?」

タマキ「んにゅうー」コクリコクリ

スルガ「こりゃダメだ」

アサギ「やっぱり子供だな」フー

221: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/15(土) 00:10:11.06 ID:wDzyT2360
タマキ「……んー、いずるーおんぶー」ノリカカリ

イズル「えー…もう、しょうがないなぁ」

スルガ「すっかりタマキの面倒見る係だな」

アサギ「まったくだ。もうお前がコイツに付き合ってやったらどうだ」

スルガ「気の合う者同士でな」ハハハ

タマキ「んー…それもいい……」ギュー

イズル「あ、動きにくいからそんなくっつかないでよ」フラ

ケイ「…そうよ、タマキ。それじゃイズルが大変じゃない」

タマキ「やだー、いずるだからいいのらー♪」ギュ

イズル「わ、だから止めてってば」

ケイ「」ムッ

ケイ「…そうみたいね」プイッ

スタスタスタスタ…

スルガ「ありゃりゃ」

アサギ「…ご立腹だな」フー

イズル「へ? 何が?」

スルガ・アサギ(ホント大したリーダーだな…)

タマキ「……んぅ。おとーさん……」スゥ

222: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/15(土) 00:11:52.38 ID:wDzyT2360





ケイの自室

ケイ「…」カチャカチャ

ケイ(つい作り始めちゃったけど…この量はさすがに多かったかしら)カチャカチャ

ケイ(…それもこれもイズルが…悪いんだから)パラパラ

ケイ(あんな、タマキとばっかり…)バタン…ピッ

ケイ(私は…『特別』じゃないの?)スワリ

ケイ「…イズルの、バカ」

イズル「――えっと、僕ってそんなおバカかな?」

ケイ「そうでしょ。いつもいつもタマキとばっかり仲良くして…」

ケイ「私が、恋人だっていうのに。最近は全然二人でいられないし」

イズル「ご、ゴメン。そんな風に考えてたんだ」トナリニスワリ

ケイ「そうよ。少しは反省――」

ケイ「」チラ

イズル「ん? どうかした?」

223: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/15(土) 00:12:35.00 ID:wDzyT2360
ケイ「」

ケイ「」ガタッ

イズル「」ビクッ

ケイ「な、何でイズルがいるの!?」

イズル「何でって…僕ノックしたけど」

ケイ「き、聞こえなかったわよ!」

イズル「あ、そっか。じゃあゴメン」

ケイ「気を付けてよ…そ、そうじゃなくて!」

イズル「えっと、タマキを送ってさ。ちょうど時間あったし、会いたいなぁって」

イズル「ほら、さっきケイの言った通り、全然最近は話してなかったし」ニコリ

224: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/15(土) 00:13:21.25 ID:wDzyT2360
ケイ「…っ」カァ

イズル「ケイ?」

ケイ「あなたって人は…」フー

イズル「…もしかして、また呆れられちゃった?」

ケイ「そうね。まったく、呆れるわ」

イズル「な、何かゴメン」

ケイ「…そう、思うなら」

イズル「うん」

ケイ「こ、今度。二人でどこか行きたい」

イズル「うん、行こう。デート」ニコリ

ケイ「……ええ。で、でーと、よ」メソラシ

イズル「うん!」

ケイ「……ケーキ」

イズル「?」

ケイ「また、たくさん作っちゃったから…食べる?」ホホエミ

イズル「――うん!」

------------------------------

227: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/16(日) 07:26:54.08 ID:iyF509dp0
「ふぅ……」

スターローズの自室の中で、イズルは一つため息を吐いた。
相変わらずマンガを描いてる彼なのだが、その手は一切進まず、ただペンが空を切っている。
いつもの精神安定剤もまともに取れないのには、理由があった。
それは、別に戦地でへこむような敗北をしたからとか、そういった兵士らしいモノではなく、どちらかと言えば若者らしい悩みだ。

つい二日前、ケイに聞かされた告白の返事に、彼は未だ答えを出せずにいた。

時間を掛けても構わない、とは彼女に言われたけれど、やはり早い方が良いに違いない。
そうイズルは考えていたが、困ったことに結論は出ない。

自分はケイをどう思っているのか。
大切な『仲間』。別にプライベートでも、嫌いなんかじゃない。
じゃあ――愛情は?

ここで、思考はすっと止まってしまう。
どうしても、はっきりとしない。
そもそも、イズルには愛情がどういうモノかも理解できていないかもしれない。
彼には――というか、その仲間もだが――まともに人生経験が足りていない。
だからこそ、彼は悩む。

228: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/16(日) 07:27:48.92 ID:iyF509dp0
どうすればいいんだろう。
イズルは椅子に背を投げ出すように預けて、天井を仰いだ。
こういう時は――

「――おい、イズル」

「……あ、アサギ」

そこへ、状況を変えるわけではないが、ありがたい変化が現れた。
彼――アサギは、椅子にだらしなく身を傾けたまま、首だけ動かして声の方に向いたイズルに呆れた顔を見せた。

「もう夕食だろ? お前が皆を誘ったってのに」

あ、とイズルの表情がしまった、と歪む。
今日は、チームの親睦を深めよう、という名目でメンバー全員と食事をする約束をしていたのだ。

「ごめんごめん、すぐに行くから」

マンガを描く道具を仕舞い込んで立ち上がる。
何はともあれ、少しは気分が変わるかもしれない。
――その食事会にケイも来ることを忘れて。

229: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/16(日) 07:30:20.98 ID:iyF509dp0





「…おー、遅かったな」

それなりに人が入り浸っている食堂の隅のテーブル席。
そこに現れたイズルに向かって、スルガがカレーを食べながら言う。

「ええと、ごめん。他の皆は?」

四人分のスペースが空いたテーブルに座り、イズルは周りを見る。
まだ女性陣はこの場にいなかった。
あ、そっか。ケイも来るんだ。
そこに至ってようやくイズルは失念していたことを思い出し――

「おまたせー」

「…早かったわね」

そのタイミングで、彼女がタマキとやってきた。
イズルの視線が声のする方に向かう。
その先でケイとタマキがいつものように一緒にいた。

230: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/16(日) 07:31:45.43 ID:iyF509dp0
「俺たちも来たばっかだけどな」

「俺はおねーさん口説きに先に来たんでね」

「なんだー」

「…そう」

それぞれ適当なことを言いながら、皆が席に着いた。
それから、ほぼ同じ瞬間にイズルに目を集中させる。

「……へ? 何?」

どうしたの? と不思議そうに首を傾げるイズルに、皆は一斉に呆れたような顔をした。

「いやお前が呼んだんだろ?」

「何か言うんじゃねえのかよ」

「挨拶とかー」

三人に言われるのを流れるままに聞き、納得して。
その流れで来る次の言葉に、少し――ほんの少し、困る。

「…そうよ」

「……あ、えと、う、うん」

………? と周りの視線が不思議そうにイズルとケイに刺さる。
それを無視して、イズルはようやく食事会を始めた。

231: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/16(日) 07:32:35.59 ID:iyF509dp0





結論から言うと、食事会はあっさりと進行した。
スルガやタマキがよく喋り、アサギやケイがそれに辛辣にツッコミ、時にイズルが空気を読まない発言をして、皆にため息を吐かれて。
『いつも』のような楽しい時間が、流れていった。
ケイとは、あまり話ができなかったけれど。

「…じゃあ、タマキを連れていくから」

「んー…」

「あぁ、じゃな」

「また明日な」

「じゃ、じゃあね」

宴も進み、夜も深くなり。
疲れて小さな子供みたいにだらしなく身を預けるタマキを支えながら、ケイは帰って行った。
彼女たちがいなくなって、イズルたちも解散する雰囲気になっていく。

232: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/16(日) 07:33:13.30 ID:iyF509dp0
「…ほら、俺たちも戻るぞ」

「おう」

短く会話を済ませ、アサギとスルガも席を立つ。
イズルも促されるように立ち上がる。
そうだな。そろそろ部屋に――

そこで、イズルはまたケイのことを考えて、動きを止めた。
結局、彼女のことは何も考えられなかった。
何一つ。ただ、少し気分を逃避に向けただけだ。
そして、このまま帰っても。一人じゃ、何も出せない。

どうしようか。僕だけじゃ…。
そこまで思ってから、イズルは何かに導かれるように帰ろうとしている二人の仲間の背を見る。
それから、去りゆく彼らにイズルは躊躇いがちに――

「ま、待って!」

「…あん?」

「何だ?」

呼び止める声に、二人は訝しげに振り返った。
声を出してから、イズルは自分の行動に疑問を抱いた。
何故二人を止めたんだろう。二人に相談したって――相談?
そうか、とイズルは気付く。
一人でダメなら、三人だ。

233: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/16(日) 07:34:08.03 ID:iyF509dp0






「――それで、何なんだ?」

イズルの自室。
そこの床で、男性陣は円卓のように腰を下ろして、座談会を始めていた。
イズルの「相談が、あるんだ」という言葉に仕方なく、といった感じで付き合ってきてくれた二人に、イズルは神妙に口を開く。

「実は、さ――ケイに、その……こ、告白、されたんだ…」

「……は?」

「な、何ィ!?」

イズルのびっくりな『告白』にアサギは目を細め、スルガは逆に目を大きくする。
えーと、と困ったような表情を見せるイズルに、二人はしばし呆然とした。
といっても、その硬直もすぐに解けたが。

「…ま、そうなるとは思ってたけどな」

「あの、ケイがなぁ」

そんな風に反応を見せると、二人はあっさりとそれを受け入れたように、頷いた。
あ、あれ? 皆そんな驚いてない…の?
本人から伝えられた時はかなり驚かされて、言葉も出なかったイズルはそこに戸惑う。

彼は知る由もないが、チームラビッツのメンバーは結構仲間内のことに敏感だったりする。
タマキでも、何となく直観的に理解している。
イズルの場合は…彼の集中力が他のことに向きすぎているせい、といったところかもしれない。

234: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/16(日) 07:36:06.75 ID:iyF509dp0
「…で、何を相談したいんだ?」

戸惑っているうちに、アサギがすっかり調子を戻して話を進める。
そうだった。相談…しよう。
すぐに思考を戻し、イズルはまた、口を開く。

「その、返事に困ってるんだ」

「あん?」

怪訝そうにイズルを窺うスルガに、イズルは続ける。

「僕も、確かにケイは好きだけど…これがそういう意味での好きなのか、分からなくて」

「……まぁ、お前はそういうヤツだもんな」

納得のいった顔で、スルガは頷くと、視線を遠くにやるように外の宇宙へ向ける。
彼からすれば、そんな相談は門外漢だった。
何せ、そういうことを考える経験はないのだから。

「…お前は、どうしたい?」

沈黙していたアサギが質問する。
真剣な調子の言葉に、イズルは一瞬黙してから、返した。

「僕は、はっきりしたい。ケイが、その、そういう意味で好きなのか、どうか」

さらにイズルは続ける。自分の今を整理するように。

「……ときどき、ケイにドキドキすることもあるんだ。でも、だからってそうなのか、分からなくて」

それは、記憶のない彼だからこその迷いだった。
人生における一般的な経験の足りない、彼の。

235: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/16(日) 07:36:52.46 ID:iyF509dp0
「…俺たちも、恋だの好きだのって言われたってなぁ」

スルガが小さな声で呟く。
そうだ。彼らもまた、同じだった。
スルガだって、ナンパの先にあるモノを知らない。
彼が上手くやっているところなんて、見たこともなかったのだから。

「…イズル」

長い沈黙の末、アサギが胃を撫でながら顔を上げる。
彼は、至って真剣な顔でいた。
イズルの悩みも、気持ちも理解した上で、彼は告げた。

「それはお前の気持ちだから、悪いが、最後はお前が決めることだ」

それは、人によっては投げやりな少し冷たい言葉に聞こえたかもしれない。
もちろん、イズルは、アサギがそんな冷たい人間ではないことは知っている。
事実、ただな、とアサギは付け加えるように言った。

「俺は、どっちに転んでもお前とケイの味方だ」

「アサギ……」

常にチームのことに気を配り、年長者たる振る舞いでいようとする。
それが、アサギ。
チームラビッツの中で、頼れる兄貴分だ。

アサギはそれだけ言うと、スルガを促し、共に部屋を出て行った。
ありがとう、とその背にイズルは礼を告げた。
何も決まらなかったけれど、それでも、相談して良かったと思えた。
そうしてまた一人になった彼は、そのまま脱力したように床に寝転がった。

「……」

僕は。僕は――

236: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/16(日) 07:37:59.54 ID:iyF509dp0





夜は更けていく。気付かないうちに日付が変わっていた。
壁の時計を見てそれを知ったイズルは立ち上がり、外に出た。
部屋にいても、考えはまとまらない。外にでも出よう、と結論を出した。
近くの休憩所のバルコニーへ来てみれば、真上で星が輝いている。

あの時も星がキレイだったなぁ。
ふと、イズルはケイとバカンスの時にケーキを一緒に食べたことを思い出した。
ケイに先行きのことを相談されて。自分なりの答えを返して。
そういえば、あの絵、ボロクソに言われたっけ。結構自信あったのに。

その時のことの一つ一つが、何だか遠い昔のような感覚がして、おかしくなる。
…あの時は、まだ気楽だったのに。
今では、すっかり困っている。

ケイ。
彼女の名前が頭の中を、何度も何度も通り過ぎては消える。
知らない人。知らない人からチームメイト。そしてそこから――どこに行くのか。

最初は、ただイズルの空気を読まない言動に呆れ。
ヒーローだなんて、年甲斐もなく子供みたいなことを言うイズルに冷たい目をしていた。
イズルはそれを気にしてなんていなかったけれど。

そして、あのバカンスと奇襲作戦から。
だんだんとお互いに和やかな雰囲気で接して。
それで、あのケレス大戦の時には、一緒にヒーローになってくれると言ってくれた。

あれ、嬉しかったなぁ。やっとヒーローの仲間が出来たんだ、って。
気にしない、と思っていたけれど、やっぱり分かってくれる誰かが欲しかったのかもしれない。

237: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/16(日) 07:39:46.07 ID:iyF509dp0
イズルは俯く。
自分の気持ちは、結局どちらへ向いているんだろう。
愛情? 友情?
どちらが正しいんだろう?

つい二日前のことを思い返す。
出来れば忘れてしまいたい、最低の自分がいた日のこと。
流れに身を任せかけて、もう少しで取り返しのつかない結果になっていたあの行為。
ケイがどうしてあんな行動をしたのか、結局聞けていない。
というより、あの日の翌日に、言い辛いなら、と無理に聞かなかったのだが。

今、必要なのは、明確な返事。
待ってくれるとは言ったけど、それは永遠ではない。

二日前は、どうだった?
あの行為の最中、自分は何を思っていた?

無理矢理にキスされて、組み伏せられて、愛撫されて、本能的に流れに身を任せて愛撫仕返して。
嫌がってた、のかな。でも、僕はいつの間にか合わせてた。それどころか、自分から…してた。
イズルは思考を深める。自分の気持ちを知るべくして。最初から知っていたことを、改めて認識するために。

そうだ、それで――ケイが、可愛いと思ってしまった。
快感で乱れた姿を見せた時も。行為を止めて、泣いていた時も。からかうように笑っていた時も。
一緒に寝ようと、緊張した顔で提案してきた時も。

238: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/16(日) 07:44:02.84 ID:iyF509dp0
いつもいつも、冷静で、毒舌で、でも、優しくて。
皆のこと、お母さんみたいに――お母さんは知らないけれど――面倒を見ようとしてる彼女の、隠そうとしてた弱さを知って。
それで――ヒーローは、こういう人を守るんだって思って。

いや、そうじゃないや。イズルは、一つ気付いた。
自分の気持ちで、守りたい、ってあの時思ったんだ。
だから、寝るときに抱き締めた。不安にさせたくなくって、抱き締めたんだ。

自分の両手を、イズルは見た。
あの日の自分のした行動の理由が、今更になって分かった気がした。
ずっと、それも不思議に思っていた。
一緒に寝るだけで良かったのに、進んでケイをその手で包んだことを。

必要なんて、なかったはずなのに。
それを、それでもその行動を選んだのは――

「……僕は」

イズルは視線を手から離し、顔を上げた。
天蓋の先では、太陽と月が二つの方向に見えていた。
いつの間にか、夜明けが来ていた。
空気がしんみりしたモノからすっきりと爽やかなモノになったような錯覚を抱いて、何となく深呼吸した。

吸い込んだ息を吐くのと同時、イズルはその想いを口にする。
やっと問題が解けた、という実感を持って。
答えは、もう知っていたんだ。
ただ、気付かなかっただけで。

「…僕は、ケイが『好き』になっていたんだ」

朝日が、差し込む。
気持ちが暖かくなる光を受けながら、イズルは歩き出した。

この結論を早く伝えなくてはならない、という焦燥感に駆り出されていた。
持前の集中力も相まって、彼は立ち止まりはしない。
こんな、まだ人々は眠っているであろう早朝にいきなり返事をしに行くのは迷惑かもしれない。
そんな考えが消えるくらい、気がはやっていた。

239: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/16(日) 07:44:53.78 ID:iyF509dp0





ケイの部屋には、すぐに着いた。
全速力でやってきたせいか、息はすでに上がっていた。
一度呼吸を整えてから、イズルは身を正して、緊張した面持ちでノックを一度した。

「――はい?」

幸運なことに、ケイは起きていた。
少しばかり低血圧なためか、彼女の声には僅かに張りがなかった。

「…ケイ、良いかな?」

「……」

ノックの主がイズルだと分かった瞬間、ドアの向こうで、ケイが一瞬戸惑ったのが分かった。
それから、彼女の返事がないまま、ドアが開いた。
入っていい、ということらしい。
イズルは遠慮がちに一歩踏み出す。

相変わらずお菓子作りの道具が置かれている部屋に、ケイはいた。
ベッドのそばに立っている彼女は、強張った笑顔でイズルを出迎えてくれた。

240: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/16(日) 07:45:55.98 ID:iyF509dp0
「…おはよう、イズル」

「うん、おはよう」

伝統的な朝の挨拶をしてから、イズルはケイに改めて向き合う。
彼女の笑みは、緊張しているのか引きつっていた。
あまりイズルも人のことを言えないくらい笑顔が作れていないが。

「その、返事……しに来たんだ」

前置きを伝え、イズルは笑顔を頑張って維持する。
ケイはもう笑う余裕が失せてしまったらしく、緊張した面持ちで真剣な眼差しをイズルに向けていた。

その様子を見て、イズルは話す準備が出来たと確信して――始めた。

「色々、考えてたんだ。ケイと初めて会ってからのこと、これまでのこと。それから――おとといのこと」

ポツリ、ポツリと言葉を紡ぐ。
出来た結論をどう伝えるか、大事に考えながら。

「僕さ。ケイは『仲間』だから、大切にしたいんだ、好きなんだって、ずっと思ってた」

その言葉に、ケイの表情は変化しない。
彼女は、それをずっと理解していた。
そのことが分かって、イズルは特に止めず、続ける。

241: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/16(日) 07:47:11.32 ID:iyF509dp0
「でも、それは違った。ケイは――ケイは言ってたよね? 自分の先が不安だって」

あれが始まりだったんだよ、とイズルは告げた。

「ケイって、皆を不安にさせないように怖いとか絶対に言おうとしないし、自分の不安を誰かに相談したりしないじゃない?」

イズルは続ける。大丈夫だ、今のところすらすらとちゃんと言えてる。

「あの時、僕嬉しかったんだ。ケイが相談してくれて」

「――それは、ヒーローだから?」

ケイが聞いた。
低血圧のせいか、少しだけ頼りない声で。
対して、イズルは首を横に振って答える。

「最初はそう思ってた。でも違う。おとといのことで、やっと気付いたんだ」

イズルは告げる。自分の中で、一番に大切なことを、言葉に変えて、想いに変えて。
ただ、真っ直ぐな心で、伝えた。

「ケイのこと、守りたいんだ。ヒーローだからとかじゃなくて、僕が僕として――ヒタチ・イズルとして、守りたい、って思ったんだ」

「……」

ケイは下を向いていた。
何も言わず、ただ俯いて、その言葉を聞いていた。

242: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/16(日) 07:47:56.30 ID:iyF509dp0
「…ケイ?」

いつまでたっても何も返さないケイに、イズルはそっと近付く。
後はこの想いに対する彼女の声を聞かせてもらいたかった。

そして、もう一歩でケイの前に立つ、というところで。
彼女の声がした。

「……本当に、良いの? 私みたいな、女なんかで」

その声は、震えていた。
実感の湧かない答えに戸惑うような調子だった。
イズルは一歩進んで、ケイの目の前に立つ。
彼は自分の両手をまじまじと見つめた。

そして――

「あ……」

ケイの肩に手を置き、引き寄せ、その背に手を回し、抱き締めた。
突然の人と触れる感触に、ケイは棒立ちのまま、驚きに目を見開く。

「なんか、じゃないよ。ケイは」

イズルは彼女の頭に右手を載せる。
男の大きく少し武骨なそれは、優しくケイの頭を撫でた。

「僕の、一番大切な人なんだ」

身体を離して、イズルは心からの笑顔をケイに見せた。
眩しく、太陽のように暖かく、心を落ち着かせる笑みだった。

「――イズル…っ」

ケイが慌てたようにイズルの胸板に顔を埋めた。
一瞬窺えたその目に、大きな雫が光っていたような気がしたけれど、イズルは何も言わない。
ただ、手の中の彼女の感触をしっかりと確かめて、大事そうに掴んだ。

243: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/16(日) 07:48:40.94 ID:iyF509dp0





「……もう、いいわ」

数分もすると、もういつもの冷静な表情の彼女がいた。
名残惜しい気持ちを抱きながらも、イズルはケイを離した。

「……」

「……」

奇妙な時間が流れる。
イズルとケイはそれぞれ相手の目を見つめてた。
何もしないで、飽きもせずに瞳を覗いていた。
もちろん、そんな時間もすぐになくなるが。

「……とりあえず、食堂行こっか」

お互いに何か言うこともなく、イズルが思いついたように言う。
時計を見ればもう結構な時間だ。積もる話はたくさんあるけど、今は自分の仕事をしなくてはならない。
そろそろ仲間たちも起きて、向かっているだろう。
納得したようにケイはコクリと頷くと、先にドアへと向かう。

――あ、そうだ。
その後ろ姿を眺めながら、イズルは一つ思い出した。

244: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/16(日) 07:49:34.67 ID:iyF509dp0
「ね、ケイ」

「…何?」

イズルの声に、ゆっくりとケイは振り向いた。
彼女は不思議そうな顔でイズルを見つめる。
うん、と頷いてから、彼はさも当然のようにこう言った。

「手、繋ごうよ」

「……え?」

「だって、その、恋人になったんだよね、僕たち」

マンガの資料で読んだ小説、という実は結構偏ってる知識からイズルはその言葉を出した。
恋人同士なら手を繋いで移動する。一緒に、歩く。
そういうものだと、イズルは素直に受け入れてしまっていた。

「……で、でも、そんな、急に…う」

さすがにいきなりそれは恥ずかしい、という気がしてケイは断ろうとした。
が、それを察して寂しそうにするイズルの純真無垢な眼差しに、あっさりと根負けしてしまう。

245: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/16(日) 07:50:00.76 ID:iyF509dp0
「はい」

ニコリと無邪気に笑って、イズルは左手を差し出した。

「…ん」

そっと、それをケイが慎重に握った。

イズルはじっと、自分の左手とその先の右手を見た。
ただ一つ、二人を繋ぐ、手と手の橋。

「よーし、行こう!」

「ちょ、ちょっと、イズル! やっぱりこれは…っ」

快活な少年の声と、恥ずかしげな少女の声が艦内に響く。
彼らの道の先にあるものは、希望かもしれないし、絶望かもしれない。
しかし、きっと大丈夫だろう。お互い、一人ではないのだから。



ザンネン二人。だけど二人で一人。未来への道は遠くても、いつか必ず辿り着く。

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251: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/18(火) 03:11:47.05 ID:A+xB5LVX0
――アタル、とどこかで俺の名前を呼ぶ誰かの声がした。
慈しむようで、聞くと心が安らぐようなそれに、俺は自然と頬を緩ませていた。
……感覚がした。

それから、背中に回される二つの手の感触。
俺はそれに応えるように手のひらに力を込めて、抱き締める相手を捉えた。

顔を上げる。視線の先には、はっきりしない、輪郭のぼやけた誰かの顔。
もっと。もっと、名前を呼んでくれ。
俺の名前を――



ピピピ――!

けたたましい電子音に、俺は覚醒した。
開けた視界の先の天井を呆然と確認してから、起き上がって周りを見渡す。
誰もいない。俺の名前を優しく呼んでくれた誰かも。

……ああ。そういうことね。
俺は妙に納得して、少し沈んだ気持ちで、ため息を吐いた。
分かってるよ、また――夢なんだろ?
慣れた気分で俺は無言のままベッドから立ち上がった。

もうこの夢にも飽きてきた。
どうして俺だけ、こんなにも現実味があるモノを見るんだろう。
いや、それも分かってるけど。
俺の異常な記憶力は、記憶を消されても、なおアレだけ覚えていたらしい。

なまえをよんで、おとうさん、おかあさん。
……なーんて、な。

自分の考えを笑いながら、俺は着替えに移る。
今日は仕事なし、気楽にぶらぶらするのも良いかもな。
そんなことを思いながら、俺はまず食堂に向かう。
これももう慣習化してんなぁ。

252: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/18(火) 03:12:37.64 ID:A+xB5LVX0
「おう、起きたか」

食堂にはまだアサギしかいなかった。
珍しいなと思いつつ、俺は席に着く。
タマキはともかく、イズルやケイがまだいないなんて、ちょっといつもと違った。

「イズルとかはまだなのか?」

「……とっくに皆起きてどっか行っちまったよ」

何だ、俺が一番遅いだけか。やれやれ、今日は調子わりーや。

「今日はねぼすけさん?」

と、俺が来るところを狙ったように、あの人の声がした。
いつものように、俺は心からの笑みでそれに答える。

「おはようございますお姉さん! 毎朝お姉さんに起こしてもらったら僕も早起きに――ぶっ!」

言い切る前にトレーでポカリと殴られるのもいつも通りだ。
食堂のお姉さん――ナトリ・シオンとかいう名前だ――はステキな笑顔を俺に向ける。
この笑顔があれば、俺のちょっと沈んだ気持ちも元通りだ。
割と真剣に。

253: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/18(火) 03:13:14.18 ID:A+xB5LVX0
「ほら、今日もカレーでしょ?」

そう言うと、お姉さんはいつもの俺専用の特製カレーをテーブルに置いてくれた。
毎食カレーは飽きるだろ、というヤツはいるが、これも武器と同じで俺のアイデンティティってモンだ。

「さっすがお姉さん! 俺の好みもバッチリ! やっぱり二人は狙撃手と観測手のように密接に――」

「はいはい、食べ終わったらトレーはそこによろしくね」

あっさりといなされて、俺は仕方なく引き下がる。
なあに、まだ話す機会はいくらでもあるってもんだ。

「ったく、お前も諦めの悪いな」

「うっせー、まだいくらでもチャンスがあんだよ」

「よく言うよ」

適当に会話しながら、俺はカレーに集中する。
…うん、今日も美味い。

254: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/18(火) 03:13:52.71 ID:A+xB5LVX0
「さて、と」

どうするか。今日は何もなくて暇だし。
とりあえず、きっちりとカレーを食べきって食堂を後にした。
アサギの話によれば、イズルとケイはどっかに出かけて、タマキはオペレーターの一人と出かけたらしい。
んでもって、アサギはアサギで自分のピットクルーの連中と出かけるらしい。

……どいつもこいつも、出かけてばっかだ。
この流れにつられて、特に目的もなく外に出るのも良い。中で適当にゴロゴロするのも悪くない。
どうしたもんか、と俺は悩む。
そうしていると――

「お。スルガ君」

聞き慣れた声に、俺は速攻で振り向く。
あ、やっぱり。チャンスはいくらでもあんじゃねえか!

「お姉さん! もしかして非番ですか!? でしたらぜひとも僕と一緒に――」

「んー? いいよ?」

「……へ?」

「いや、だからさ、出かけるんでしょ?」

お得意のミリタリートークも出せないまま言葉を遮られたと思ったら、お姉さんに誘いをオーケーされた。
訳の分からない状況だ、と思った。

……これ、まだ夢とかじゃねーよな?
私服姿のお姉さんは、ニコリと笑った。
あ、やっぱこの人良い。何がどうとかじゃなくて、良い。
ついでにこの笑顔は夢の世界のモノじゃない、と確信した。

………いいいいいやっ、ほおおおおおおっ!!
内心叫びながら、俺は久しぶりに脳天気に喜んだ。
こんなに美味い話があるわけもないことに気付かずに。

255: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/18(火) 03:14:35.61 ID:A+xB5LVX0
「えーっと、あと確かこれが足りなくてー」

「お、おねえ、さん?」

「んー?」

「ま、まだ…運ぶんですか」

「そりゃーねー」

お姉さんの言葉に、俺はガクリと膝を着きそうになる。
そんな俺の背中には、大量の食料品の数々がある。
どれもこれも、およそ一般的ではない香辛料とか食材だとかフルーツだ。

普通に注文でもすりゃ良いのに…。
愚痴りたくなって、止めた。
事情は聞かされているし、これが無いといつものカレーが食えない。

256: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/18(火) 03:15:13.39 ID:A+xB5LVX0
お姉さんの話はシンプルにすると、こうだった。
食堂の食材が不足している。
…これだけ聞くと、さっきの俺の言葉通りだ。
が、その単純な話に問題が発生した。

何でも、食堂にある食材には二種類の区分けがあるらしい。
普通のメニューに載っている料理に使う普通の食材。
こっちはスターローズの艦内で栽培やら養殖やらされているので確保は簡単。
問題は、特殊な料理――俺の特製カレー、ケイのパフェなんかは分かりやすい例だ――にあった。

こういう特殊な料理については街の業者に頼んで運搬してもらっているらしい。
ただ、今日は業者が他の供給先に運搬をどうしても優先しなくてはならないらしく、食材が来ない。
そこで、シオンさんが車を出して業者に出向いて食材を回収することになった、という訳だ。

で、偶然にもお姉さんに出会った暇な俺がついでに食材を車に詰める手伝いをしている。
……まあ、分かってたよ。俺が美味しい目に会えるわけねーよな。
………ちっきしょう。

257: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/18(火) 03:16:37.48 ID:A+xB5LVX0
「はい、これで全部ね」

「…だー」

間の抜けた声を上げながら、俺は地面にへたり込む。
体中に汗が噴き出して、とんでもなく気持ち悪い。
…イズルじゃねーけど、トレーニングでもしたみてーだ。

「お疲れ、はい」

「ど、どうも…」

笑顔でお姉さんが自販機から買ってきたドリンクを手渡してくれる。
……ふー、少し生き返った。

「ホントにゴメンね、大変だったでしょ?」

「お姉さんも、汗すごいじゃないですか」

言いながら、同じくドリンクを飲むお姉さんの様子をチラリと窺う。
俺と一緒に食材を運んだお姉さんも、かなりの脱水を起こしているように見えた。
女の人なんだから無理しなきゃ良いのに。

「まま、これぐらいどうってことないわよ」

「すげー…」

元気そうにガッツポーズしてみせるお姉さんに、俺はただ感嘆の声を送る。
俺の周りにはトンデモ体力の持ち主が多いな。

「じゃ、戻ろっか。このお礼もするわよ?」

ウィンクしながら、お姉さんが先に車の中に入る。
そ、それって――!?
目を丸くしてから、俺はちょっと慌ててそれに続いた。

258: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/18(火) 03:17:28.50 ID:A+xB5LVX0
「はい、特別サービス」

「うっひょーっ!」

戻ったころにはすっかり昼を過ぎていた。
スターローズの食堂はランチタイムを過ぎてガランとしている。

そこで、俺はお姉さんの特製カレーを食べていた。
特製って言っても、今回のは今朝よりもっと美味い。
色々とお姉さんが新しく試した結果の集大成らしい。
ああ、これを俺のために――なんて、ちょっと感動する。

「美味しい?」

「ええすっごく!」

俺の前の席に座ってニコリと笑うお姉さんに満面の笑みを返す。
周りにはまだ誰もいない。
こ、これは…二人っきりってヤツか?

259: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/18(火) 03:18:39.16 ID:A+xB5LVX0
「やー、良かった。頑張った甲斐があるってもんよ」

それだけ言うと、お姉さんは俺の顔をじっと見つめた。
え、何? 何だこれは? 急にチャンスなのか? 俺のモテキなのか?
…というのは冗談だけど。

「あの、どうかしました?」

つい、お喋りな調子が外れる。
それぐらい、今の状況は不思議だった。

「…元気、出てきたみたいね」

「え?」

意外な言葉に、俺は馬鹿みたいな顔をする。
いやさ、とお姉さんは照れ臭そうに笑っていた。

「朝からちょっと元気なさそうだったでしょ? …ま、その様子だと私の勘違いだったかな」

じゃね、とお姉さんはそれだけ言うと厨房に引っ込んでいった。
俺はその背中を呆然と見送ることしかできなかった。

「…元気、かぁ」

すげえ観察力、と素直に出てきたのはそんな言葉だった。
俺、結構分かりやすいのかね。
ふぅ、と本日二度目のため息を吐いた。

260: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/18(火) 03:19:47.93 ID:A+xB5LVX0
――アタル、とどこかで俺の名前を呼ぶ誰かの声がした。
またかよ。今日で二度目だぜ?
それなのに、俺はやっぱりそれを心地良く聞いていた。
抱き締められる。優しく頭を撫でられた。
…そこまでは、これまでと同じだった。

誰かに、俺は手を引かれる。
抱き締めて、撫でて、俺を呼んでくれた誰かとは違う。
冷たい、事務的な様子だった。

さっきの優しい誰かが、俺の名前を呼んだ。
振り返れば、その人は――泣いている、ように感じた。





「……っ」

俺はふと目覚めた。
いつの間にか、居眠りしていたらしい。
周りには、誰もいない。

何だよ、あれ。
はぁ、とまた飽きるくらいにため息を吐く。
まったく、いい加減にしてほしいぜ。

しかも――何だこれ?
俺は頬の辺りに濡れた感触を得て、手で拭う。
涙、だった。
……泣いてた、のか? 俺。

261: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/18(火) 03:20:49.26 ID:A+xB5LVX0
「スルガ君? 起きた?」

突然の声に、俺は慌てて顔をきっちりと拭う。
それと同時に厨房からお姉さんが現れた。
セリフからして、結構長い時間寝てたのか?

「すみません、どーも眠くて」

「大丈夫? もう休んだ方がいいんじゃない?」

お姉さんの本気で心配する声に、俺は無言で立ち上がると、ペコリと一礼して食堂を出た。
……もう、今日は冗談言う元気もねーや。

そうして、俺は一日を過ごした。
あの夢のことも、何もかも分からねーけど。
ただ、いつかあの誰かのことを知りたい、と思う。
俺のことでまだ泣いてたら、気分悪いし。
その日まで、俺はあの夢を見る。
この考えを、いつまでも忘れないために。

――アタル、とどこかで誰かが俺の名前を呼んだ、気がした。

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267: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/19(水) 00:34:42.23 ID:dy8Zz4IX0
たまきにっき

×月○日

きょーは珍しく早起きした。
と思ったらイズルがランニングに誘いに来た。
早起きするんじゃなかった。

キツイランニングもダニール様のことを考えてたらどうにか乗り切れた。
こうなったら塩辛と白飯を大盛りで食べるのら。

「タマキ、たまにはバランスを考えて食べなさいよ」

食堂でたっぷりと白飯をかっくらう私にケイがジトリとした視線を送る。
ケイに言われると何か納得がいかない。
パフェばっかり食べてるくせにー。

「ケイも人のこと言えないと思うけど…」

イズルが私の代弁をしてくれた。
ついでだから、そうなのらーっ! って一緒になって主張する。

「う……」

何も言い返せなくなってケイが黙る。
ふふん、と私は誇らしげに胸を張った。
当てつけ? ってケイに聞かれたけど…どういうことだろ?

268: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/19(水) 00:35:10.48 ID:dy8Zz4IX0
きょーはひばん。
特に誰かと一緒に過ごすことなく、私は外に出た。
何て言うか、久しぶりに一人でいたかった。
こーいう気分の時は、散歩が一番。

「おや、子猫ちゃんじゃないか」

じ、ジュリアーノ様っ!
思わぬ出会いに私は目を輝かせた。
し、私服のジュリアーノ様もステキ…!

「お出かけかい? 気を付けてね」

は、はい! あの、よろしければジュリアーノ様も…!

「うーん、キミみたいなかわい子ちゃんに誘われて申し訳ないけど、今日は先約が入っててね」

せ、先約!?
う、ううう……。ザンネンなのらー。

「じゃ、気を付けて」

それだけ言うと、ジュリアーノ様はいなくなった。
……散歩、いこー。

269: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/19(水) 00:35:41.47 ID:dy8Zz4IX0
きょーは風が気持ち良い。
さっきのガッカリした気持ちもすっかり元通りになる。
…はぁ、彼氏が欲しいのらー。

何でこんなに彼氏を欲しがってるのか、自分でも分かんない。
でも、誰かが欲しい。
私と一緒にいてくれるナイト様が欲しい。
誰かに…守ってほしい。

……きゅーにマジメなこと考えちゃった。
…やめよ、私っぽくないしー。

いつの間にか街全体を見渡せる小さな丘に来てた。
これが、今の私の世界。
あぁ、誰か王子様にこんなトコから連れ出してほしいのらー。

何となく、養成所時代に読んだ絵本を思い出す。
ああいうお姫様が羨ましい。
何も引き換えにしないで、王子様との未来が約束されてるんだもん。

あーあ。ダニール様、ジークフリート様、ジュリアーノ様。
誰か、私をここから連れ出してほしいのらー。

270: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/19(水) 00:36:16.21 ID:dy8Zz4IX0
夕方。
皆で集まってごはんにする。
やっぱりきょーも白飯と塩辛。

「…まったく、お前も飽きねーな」

スルガにバカにされた。
スルガだってカレーばっかじゃん。

「お前、カレーの飽きない魅力を知らねーな?」

だったらスルガも塩辛の魅力を知らないのらーっ!

「…はいはい、もういいから止めとけよ」

アサギに言われて、すごすごと引き下がった。
こんな議論、しても無駄だって気付いた。

「…えっと、魅力って大事だよね」

イズルがまた場違いなことを言った。
ホント、イズルって訳分かんない。

271: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/19(水) 00:36:56.21 ID:dy8Zz4IX0
もう寝る時間になった。
きょーはいいことなかったなー。

「ほら、おとなしく寝なさいよ」

ケイに布団を被せられる。
私を寝かせるのがケイの役目みたいにいつの間にかなってた。
子供扱いもいいトコで、ちょっとムカつく。

完全に寝る態勢になった私を確認して、ケイは出て行こうとしてた。
あ、そうだ。忘れてた。

…ケイー。

「はいはい、何?」

ポンポンってしてー。

「また? まったく、ホントに子供ね、あなた」

いいからー。

「……」

ケイはちょっぴり面倒そうにしてた。
だけど、私のベッドの狭いトコに入って、ちゃんと私のお腹の辺りに手を伸ばして、軽く叩いてくれた。

そー。それでいい……。
ケイの優しい手の感触を感じて、だんだんと落ち着いて眠れるようになっていく。
……あったかい。

「――おやすみ、タマキ」

小さな声で、ケイが囁いた。
それを聞きながら、私はぐんぐん意識を手放していく。

………んう、おやすみ、おかーさん……。

------------------------------

274: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/19(水) 01:39:35.09 ID:dy8Zz4IX0
こまったおねえさん パート2

イズル『教官…教官だって、ホントは期待してたんじゃないですか?』

リン『な、何をバカなこと…っ』

イズル『じゃあ、これは何ですか?』ニチャ

リン『あんっ! あ、う……うう………』カァ

イズル『やっぱり……』

リン『ち、違うの…こ、こんなの、私は』

イズル『ウソなんて吐かないでくださいよ…きょう・かん?』ヒソ

リン『!?』ゾクッ

イズル『ホント、リンリンってエッチなんだね…』ヒソ

リン『そ、その呼び方はや、止めなさ…』ゾクゾクッ

イズル『そうやって嫌がるフリは止めようよ…リンリン』

リン『あ、うう…』

イズル『ほら、どうしてほしいのか、言ってみてよ。………リンリン?』ヒソ

リン『ひっ! あぁっ、ダメ、ダメなのぉ! ヒタチ、君っ!』

275: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/19(水) 01:40:15.09 ID:dy8Zz4IX0





リン「――だ、だめええっ!!」ガバッ

リン「」ハァハァ

リン「」ハッ

リン「……」カァ

リン「」ポカポカポカポカ

リン(な、何て、夢を……)

リン「……最低ね、私」

リン(この数日あの子とろくに目を合わせられないし)

リン(その影響でラビッツのメンバー全体と上手く話せないし)

リン「何やってるのかしらね…私」

276: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/19(水) 01:40:44.38 ID:dy8Zz4IX0
戦艦ゴディニオン 会議室

リン「――以上で、作戦の説明を終わる。何か質問はあるかしら?」

チームラビッツ「」タガイヲチラミ

チームラビッツ「」ブンブン

リン「…そう。それじゃあ、作戦開始時間まで各自自由行動にしてよし」

リン「――解散」

スタスタスタスタ…

イズル「……やっぱり、教官、いつもと違うね」

スルガ「だなぁ。何かあんのかね」

アサギ「単にお疲れなんじゃないか? …主に俺たちのことで」

ケイ「そういうこと言わないでよ…」

タマキ「んー。よく分かんないのらー」

スルガ「そりゃお前じゃ分かんねーだろうよ」ケラケラ

タマキ「むっ! スルガにバカにされたーっ!」

ケイ「二人ともいい加減にしなさいよ」

イズル「えっと、とりあえずここ出ようか」

アサギ「だな。…教官のことは、食堂ででも話してようぜ」

277: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/19(水) 01:42:16.62 ID:dy8Zz4IX0





格納庫

レイカ「各自、機体の整備は完了したー?」

ピットクルーたち「はい、大方完了しています」

レイカ「オッケー。…じゃ、私たちも一度休憩ね」

ピットクルーたち「はい! お疲れ様です!」

レイカ「」フリフリ

レイカ(さて、と。適当に休もっかなー?)

リン「――レイカ」

レイカ「ありゃ、リンリン。どうかした?」

リン「ちょっと、相談があって」

レイカ「どしたの? ずいぶんと深刻そうな顔しちゃって」

リン「そのことは部屋で話すから…」

レイカ「…うん。じゃ、行こうか」

278: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/19(水) 01:43:04.98 ID:dy8Zz4IX0
リンの部屋

リン「それでね、相談っていうのは――」

レイカ「はい待った」

リン「何?」

レイカ「何だかしんみりした話っぽいし…」ゴソゴソ

レイカ「こういうのでテンション上げてこー!」ジャジャーン

リン「…悪いけど、こういうの飲む気分じゃ……」

レイカ「いいからいいから! こういうときだからこそ、こうやってぶちまける道具を使うのよ」トクトク

リン「……分かったわよ」



レイカ「――ええっと? 話を纏めると、イズル君の部屋を探してたらリンリンそっくりのエッチなお姉さんのビデオを見つけちゃった。
    それで、驚いちゃったリンリンはそのままイズル君やチームラビッツの皆と話しづらくなっちゃったと」

リン「」コクリ

リン「…まったく、我ながらダメダメよね。仕事に私情を挟んじゃうなんて。これじゃ、上手く作戦の指揮とかできなくなっちゃいそうで…」グスッ

レイカ「はいはいストップストップ」フキフキ

リン「レイカぁ…私はどうすればいいのぉ?」グスッ

279: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/19(水) 01:44:19.07 ID:dy8Zz4IX0
レイカ「――あのねぇ、リンリン」フー

リン「…うん」

レイカ「いつも通りに接すればいいでしょ?」

リン「…え?」

レイカ「エロビデオが何? そっくりさんだから何?」

レイカ「そんな、あの年の子供によくあることで、
    いちいち対応に困るようになっちゃうような程度なの? あの子たちとあなたが築いてきたモノは?」

リン「あ、え、そ、それは……」

レイカ「あの子は知らないんでしょ? 笑ってやればいいじゃない。
    リンリンがそんなんだから、他の皆が余計話しづらくなるんじゃない?」グビッ

リン「………」

リン(そっ、か。私、バカだ)

リン(勝手に舞い上がって、あの子たちを傷つけたかもしれない…)

リン(……ホント、バカね)

リン「……レイカ」

レイカ「うん?」

リン「…ありがとう。ちょっと、目が覚めた」

レイカ「どーいたしまして」ニコリ

リン「――ちょっと行ってくるわ」ガタリ

レイカ「行ってらっしゃい、リンリン」

リン「それ止めてよ」クスリ

280: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/19(水) 01:45:29.37 ID:dy8Zz4IX0





食堂

イズル「うーん…」

アサギ「結局、訳分からず、か」

スルガ「なー、別にいいんじゃねーか?」

ケイ「…そうね、私もそう思うわ。分からないなら、考えたって無駄だもの」

タマキ「しょうがないのらー?」

イズル「そう、だね。じゃあ――」

リン「…ここ、いいかしら」

チームザンネン「!?」

イズル「え、あ、ど、どうぞ」

アサギ「どうしたんですか。この時間に教官が食堂に来るなんて…」

リン「たまには、あなたたちと話をしようと思ってね」

リン「ほら、最近はちょっと、気まずかったし」

281: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/19(水) 01:46:23.76 ID:dy8Zz4IX0
スルガ「えっ、と……」チラリ

ケイ「…」チラリ

タマキ「?」クビカシゲ

アサギ「…」チラリ

イズル「――そうですね! ぜひご一緒しましょう!」

リン「……ありがとう、ヒタチ君」

アサギ「あ、教官の分取ってきますよ!」

タマキ「一緒に塩辛食べましょきょーかん!」

スルガ「バカ、ここは特製カレーを…」

ケイ「…ここのパフェ、とても美味しいです」

イズル「えっと、すみません。騒がしくて」

リン「ふふっ。良いのよ。その方があなたたちらしいわ」

282: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/19(水) 01:46:59.32 ID:dy8Zz4IX0
イズル「!」

リン「……? どうかした?」

イズル「あ、いえ。教官、笑ってくれたなぁって」

リン「え?」

スルガ「皆で話してたんですよ。教官が最近浮かない感じだって」

リン「……そう」

アサギ「あ、いや、その、僕たち別に、その…」

リン「――心配かけたわね。ありがとう、皆」

ザンネン5「」ポカン

283: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/19(水) 01:47:27.64 ID:dy8Zz4IX0
スルガ「(おい何か教官変だぞ)」

タマキ「(えーそう?)」

アサギ「(どう見たってそうだろ!)」

ケイ「(イズルはどう思う?)」

イズル「(えっと、教官元気になってよかったね!)」

イズルとタマキ以外(ダメだこいつ……)ハァ

リン「…どうかしたの?」

スルガ「い、いえっ、何でも!」

イズル「……じゃ、一緒に食べましょうか」

リン「ええ、よろしくね、皆」ニコリ

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290: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/19(水) 15:40:34.67 ID:Qr4C6Lv40
「えーっ!」

宇宙ステーションスターローズの食堂前で、私の隣でタマキが素っ頓狂な声を上げた。
うなだれた彼女に丸い背中を眺めつつ、私も内心ため息を吐いた。
いつもは開いている食堂の入口のガラス戸は閉まり、真ん中の辺りに一枚の張り紙があった。

『本日、年に一度の食堂の大掃除のため、休ませていただきます。申し訳ございません――従業員一同』

そう、今日は食堂は開いていない。
街へ出るなりして食事を済ませてくれ、ということだ。
仕方ない、と私は思った。
ここでタマキと食事をする約束だったが、街に出るしかないだろう。

「行きましょう、タマキ」

私はそう促すと、さっさと振り向いて歩き出そうとする。
いつまでもここにいたってお腹は空くだけだ。

「えー……」

私の後ろで、タマキがとても不満そうな声を出している。
どうしたんだろう。別に街にも食事のできる店はいくらでもあるはずだけれど。

「どうかしたの?」

私が振り返って聞いてみると、タマキはやはり不服そうな顔で私の顔を見つめていた。
タマキはゆっくりと口を開く。

「…塩辛」

「え?」

「おいしい塩辛、ここにしかないんだもん」

…あぁ、なるほど。
ようやく言いたいことが分かって、私は少し、困った。

291: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/19(水) 15:41:45.93 ID:Qr4C6Lv40
タマキは塩辛が大好きだ。
特にこの食堂の塩辛を食べてからは、ここ以外じゃ食べない、と主張してしまうくらいだ。
ふむ、と私はどうしようか考える。タマキは一度決めると意地になるタイプだ。
とりあえず、一つ提案してみる。

「…たまには違うモノを食べたら?」

「えー、塩辛がいいのらー」

口を丸めて、不満を口に出された。
やっぱり、通じないか。
まぁ、私も甘いもの以外を食べろ、と言われたら同じようにしている。
…いや、別にぶーたれるとかじゃなくて。

さて、どうしようか。
このままでは、ちょっとタマキがかわいそうだ。
今日も塩辛を食べることにわくわくとしていたし。

………。あ。そうだ。
チラリと見た艦内の地図を見て、私は一つ閃いた。

「じゃ、作りましょう」

「へ?」

私の言葉に、タマキは分かりやすい顔をした。
何を言っているんだろう、という疑問の表情だった。
私は改めて言い直した。

「だから、一緒に作りましょう。お昼」

292: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/19(水) 15:42:27.88 ID:Qr4C6Lv40





スターローズの艦内には、様々な部屋がある。
食堂や私たちのための個室もそうだ。
そして、今回用があるのは、簡易キッチンルームだ。
ここは、文字通り食堂ほどの広さではない調理のための部屋だ。
食堂の営業時間外に夜食を食べたい人のために開かれた部屋。
私もよくお菓子を作るのに利用しているので、勝手はよく知っていた。

「さ、始めましょうか」

言いながら、私はエプロンを身に纏う。
タマキにはもう先に私が着せておいた。
もっとも、タマキには全然似合わない恰好だったけれど。

材料は街で買ってきた。
レシピも、食堂のお姉さんを探してきて、教えてもらった。
まぁ、問題ないはずだ。……たぶん。

「しーおっからーしーおっからー♪」

浮かれた調子の歌声を出すタマキに、ちょっとだけ不安を抱くけれど、どうにかなるだろう。
ほぼ作るのは私だし。
私は包丁を握り、タマキには簡単な調理の指示を飛ばす。
そんな風に、束の間のお料理会は進んでいった。

293: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/19(水) 15:43:41.08 ID:Qr4C6Lv40





「やったーっ! 出来たのらー!!」

わーいわーい、と小さな子供みたいにはしゃぐタマキに呆れながら、私はテーブルの上をを見た。
そこには、完成した塩辛と白飯の大盛り、私のお菓子が並んでいる。
二人がかりではあったものの、タマキが料理に不慣れだったために、結構な時間を使ってしまった。
まぁいい。今は食事にして、この空腹をどうにかしたい。

「…さ、食べましょう」

私の声で、タマキは待ってましたと言わんばかりに素早く椅子に座った。
仕方ない子だ、と思うけど、特に何も言わない。
せっかく、自分が作ったということに満足感を得ているようなのだ。
水を差すのは悪い。

そうして、私はタマキとようやくお昼ごはんにする。

「いっただっきまーすっ!!」

「…いただきます」

声と同時にタマキは塩辛の皿を取り、白飯の上に載せて、一気に食べた。
実に美味しそうな動きを見せ、美味しそうに噛んで、タマキは笑顔を見せていた。

――はずだった。

294: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/19(水) 15:44:26.02 ID:Qr4C6Lv40
「……あ、れ?」

「どうかしたの?」

塩辛ごはんを飲みこんだタマキが急に不思議そうな顔をした。
これではない、というような顔だった。

「…ケイ、これって塩辛だよね?」

何を当たり前のことを言うのだろう。
タマキが食べているのは、食堂のお姉さん直伝の塩辛のレシピ通りの塩辛のはずだ。
そう思っていると、タマキはこう付け加えた。

「…何か、甘い」

「……え?」

意外な言葉に、私は目を丸くする。
すると、タマキは私に例の塩辛を一口食べさせてくれた。

…何、これ? まるで砂糖を大量に入れたみたいに――
しつこいくらいに広がる甘い味に、私は困惑して。
数秒してから、気付いた。

295: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/19(水) 15:45:22.33 ID:Qr4C6Lv40
「ケイ!?」

ガタっと椅子を鳴らしながら私は席を立つと、慌ててキッチンに行く。
それから、調味料の入ったケースを見て――

「……っ!」

ガクリ、と膝から崩れた。
しまった、と思った。どうにもならない、とも思った。
私は――私は、塩と間違えて砂糖を使っていた。
いつもの癖だ。甘いお菓子に砂糖を使う習慣が、私にこの失敗をさせてしまったのだ。

「――ケイー?」

呆然と床に座り込む私に、タマキが後ろから声を掛けてくる。
ああ、本当に、何て仕方ない失敗をしたんだろう。
謝らなくては。こんなにも塩辛を食べたがっていたタマキをガッカリさせてしまった。

「ごめんなさいタマキ!」

「え?」

突然の謝罪に驚いた表情をするタマキに、私は説明した。
イカを塩ではなく砂糖に漬けてしまったこと。
それに気付かず、全てのイカを砂糖漬けにしてしまったこと。
全て話して、謝った。とにかく謝った。

「……」

タマキはずっと無言で説明を聞いていた。
怒りもせず、ただじっと私の言葉に耳を傾けていた。

296: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/19(水) 15:46:25.95 ID:Qr4C6Lv40
「…ごめんなさい。私、あなたをガッカリさせてしまったわ」

最後にそう言うと、私は罪悪感から目を逸らした。
まともにタマキの顔が見れそうにない。
それぐらい、申し訳なかった。

「――ケイ」

タマキが、ようやく口を開いた。
私に怒って、言葉をぶつけるのだろうか。
でも、彼女の言葉は予想とまったく違った。

「別にいいのらー」

「……え?」

意外な言葉に、私は何も言えない。
タマキは続けた。

「ケイもがんばって作ってくれたしー、無茶言ったのは私だしー」

それにー、とタマキは付け加える。

「けっこー慣れるとおいしいのら!」

タマキはそう言うと、笑った。
心からの笑顔だった。ように私には見えた。

そうだ。タマキは、こういう子なんだ。
たまに子供っぽくって、でも、素直で優しい。
それが、タマキだ。私の仲間で、友達。

「――ありがとう」

私も笑って返した。
いつの間にか、二人して、何だかおかしくてクスクス笑っていた。

297: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/19(水) 15:48:36.64 ID:Qr4C6Lv40





「こーいうのもたまには悪くないのらー」

甘い『塩辛』を食べながらタマキが言った。

「…今度はちゃんと作るわ」

言いながら、私はお菓子を食べる。
お詫びにいくらか食べてと言ったけれど、タマキは何故か遠慮した。

「そうじゃなくてー」

違う違う、と言うと、タマキは訂正してきた。

「皆で今度ゴハン作るのー」

「え?」

「アサギとスルガとー、あとイズル!」

「……それもいいわね」

なかなか楽しいかもしれない、とタマキの提案に思いを馳せる。
カレーを作って、胃に優しいモノを作って。それから――ウナギの蒲焼き?
クスリ、と内心で小さく笑う。
本当に楽しそうな気がした。

298: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/19(水) 15:49:33.92 ID:Qr4C6Lv40
「あ、あとね、ケイー」

「何?」

そうしていると、タマキがまた話しかけてくる。
タマキはニコリと笑みを浮かべて、こんなことを言った。

「またこの甘いの作って」

「え? でもこれ…」

「何か気に入っちゃったのらー」

おねがーい、と甘え声で頼むと、タマキはまた『塩辛』を口にした。
本当に、美味しそうに。

「――ええ、任せて」

頼まれたなら、そうしよう。
ちょっとだけ、嬉しい気持ちで、私は答えた。
こうやって美味しく食べてくれるなら、それ以上に嬉しいことはないから。

うん! とタマキは嬉しそうな顔をした。
嬉しい、というような表情を私も浮かべた。
ランチタイムは続く。暖かな午後の光の中で。

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305: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/20(木) 21:51:42.55 ID:3ya78aUf0
暴走スイーツ

ケイ「」ジー

チーン!

…ガチャ

ケイ「…うん、出来た」ホホエミ

コンコン

ケイ「はい?」

イズル『ケイ? 来たけど…』

ケイ「ああ。いいわよ、入って」

プシュ

イズル「うわ、何かすごいクラクラする匂いがするね」

ケイ「…ブランデー、使ったから」

イズル「でもいいの? 新しく作ったお菓子、食べて」

ケイ「思ったよりも作りすぎちゃったから…イズルくらいしか食べる人はいないし」

イズル「そっかぁ。じゃ、お言葉に甘えて」

ケイ「ええ、食べて?」

イズル「」パクリ

ケイ「」パクリ

イズル「……うん、甘いね、これ」

ケイ「だから。甘くないケーキはケーキじゃないわ」

イズル「…うーんと、そうなんだけどさ……」

306: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/20(木) 21:52:50.21 ID:3ya78aUf0





イズル「…ねぇ、ケイ?」

ケイ「…どうかした?」

イズル「何か、熱くない? 暖房でも入れてるの?」チラリ

ケイ「そんなこと、ないはずだけれど…」フラリ

イズル「――あ、危ない!」ガシッ

ケイ「あ、きゃっ!?」

ドターン!

イズル「いてて…ケイ、大丈夫?」ヨロ

ケイ「え、ええ…ごめんなさい、助かったわ」

イズル「暖房、別に動いてないね」カクニン

ケイ「…そう? おかしいわね」アカラメ

307: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/20(木) 21:53:23.61 ID:3ya78aUf0
イズル「? ケイ、顔赤いよ、大丈夫なの?」

ケイ「……え? あ…」カガミヲミル

イズル「ちょっと…」ピト

ケイ「あ……」カァ

イズル「熱は、ないね」ウーン

ケイ「じゃあ、何かしら? …まぁ、別に平気だけど」

イズル「ホントに?」

ケイ「ええ。それに…」

イズル「ん?」

ケイ「イズルも同じよ。大丈夫なんじゃない?」テワタシ

イズル「あ、ホントだ」カガミヲミル

ケイ「単に空調設備が故障でもしてるんじゃない?」

イズル「…かなぁ。じゃ、場所変えようか?」

ケイ「そうね、あなたの部屋なら反対のブロックにあるわけだし、大丈夫じゃない?」

イズル「うん、じゃ、ケーキ持っていこう」

308: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/20(木) 21:54:13.80 ID:3ya78aUf0





イズル「ええ、と…。ごちそう、さま?」クラリ

イズル「ケーキ、食べきったのはいいけど…何か、ふらつく、よう、な」

イズル「ケイ、ケイは、大丈夫?」チラリ

ケイ「………」マッカ

イズル「……ケイ!? 顔すごい赤いよ! だ、大丈夫?」カオチカヅケ

ケイ「!」

ケイ「……」ジー

イズル「……ケイ?」

ケイ「――んー」チュウ

イズル「!?」カタマリ

309: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/20(木) 21:58:53.74 ID:3ya78aUf0
ケイ「ん、ぅ」ダキ

イズル「………っ」カァァ

イズル「ぷはっ、け、けけけ、ケ……」アワアワ

ケイ「どーかしらー? いずりゅー」ニコー

イズル「ちょ、ちょっと、何か変だよ、どうかしたじゃなくてさ…」

ケイ「わらしはーいつもどーりー♪」ギュー

イズル「い、いや、どこもいつも通りなんかじゃ…何かタマキみたいっていうか」

ケイ「」ムッ

ケイ「いずる!」

イズル「は、はい!」

ケイ「ぎゅっとして」

イズル「…へ?」

ケイ「いいから!」

イズル「は、はい…」ソー

ケイ「♪」ギュ

310: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/20(木) 21:59:36.76 ID:3ya78aUf0
ケイ「ん、ぅ」ダキ

イズル「………っ」カァァ

イズル「ぷはっ、け、けけけ、ケ……」アワアワ

ケイ「どーかしらー? いずりゅー」ニコー

イズル「ちょ、ちょっと、何か変だよ、どうかしたじゃなくてさ…」

ケイ「わらしはーいつもどーりー♪」ギュー

イズル「い、いや、どこもいつも通りなんかじゃ…何かタマキみたいっていうか」

ケイ「」ムッ

ケイ「いずる!」

イズル「は、はい!」

ケイ「ぎゅっとして」

イズル「…へ?」

ケイ「いいから!」

イズル「は、はい…」ソー

ケイ「♪」ギュ

311: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/20(木) 22:00:45.83 ID:3ya78aUf0
イズル(ど、どうしよう……。な、何とかしないと、まずい、よね?)

イズル「」クラッ

イズル(うぅ…何でか分からないけど、さっきよりふらつく…)

ケイ「」スリスリ

イズル(――っ、あ、ケイ、何か、良い匂いする…それに、柔らかい)ボー

ケイ「いず、るぅ……」ウワメヅカイ

イズル「――! うう…」タジロギ

ケイ「…………えい」トンッ

イズル「あ、わ」ポスン

イズル「う…」マブシイ

ギシッ

ケイ「」ニコリ

イズル「あ……」

ケイ「――いっしょに、ねよ?」

312: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/20(木) 22:01:29.25 ID:3ya78aUf0





ピピピピピ…

ケイ「……ん、うぅ」ムクリ

ケイ「……」キョロキョロ

ケイ「………ここ、どこ?」

ケイ「――っ、頭が、痛い…」チラリ

イズル「…ん」スゥ

ケイ「」

ケイ「」

ケイ「――っ!?」ドターン!

ケイ「な、あ、な……っ!?」

ケイ(ど、どうして私が、い、イズル、と…!?)

ケイ「……っ、うう、頭が…」キーン

ケイ(と、とりあえず……服は…着てる)サワサワ

ケイ(な、何もしてない…わよね?)

313: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/20(木) 22:02:09.71 ID:3ya78aUf0
イズル「……んー?」ゴロン

ケイ「…」カァ

イズル「――あ、ケイ」ムク

ケイ「……い、イズル」

イズル「大丈夫? 昨日は、その…」

ケイ「わ、私に何もしてないでしょうね!?」

イズル「い、いや! 何もしてないよ!」ブンブン

ケイ「…ほ、ホントに……?」

イズル「う、うん……」

ケイ「……」

イズル「……」

314: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/20(木) 22:03:40.67 ID:3ya78aUf0
ケイ「…と、とにかく。私、戻る、から」タッ

イズル「あ、ケイ…」

ケイ「き、昨日のことは!」

ケイ「その、お互い、忘れましょう。いいわね?」

イズル「えっと…」

ケイ「い・い・わ・ね!」

イズル「は、はい!」ビクッ

プシュ

イズル「」ボー

イズル(昨日は…)



イズル『け、ケイ?』

ケイ『んー……』スゥ

イズル『ええっと、困ったなぁ…』ポリポリ

ケイ『』クー

イズル『どかせると、また…面倒そうだし』

ケイ『いず、るぅ…』ギュ

イズル『………仕方ない、よね?』ハァ

イズル『――おやすみ、ケイ』スゥ

ケイ『――♪』



イズル「」フゥ

イズル「……何か、疲れたなぁ」





その後、数日は目を合わせるだけで顔を赤くしたり、仲間内でそれを不思議がられたりした。
ついでに、ブランデーお菓子の作り直しの試食会を開いたりもしたが、それはまた別の話。

------------------------------

322: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/22(土) 03:36:33.67 ID:TWrm+gEo0
スターローズ――軍部の食堂

スルガ「おお、そこのあなた! 何て美しい瞳なんだ!
    さながらシルバーチップの表面のように荒々しいながらも美しいその瞳に僕のハートも射抜かれて――」

ケイ「……またやってる」

イズル「元気だね、スルガ」

アサギ「そういう問題じゃねぇよ」

タマキ「あ、すいません! 塩辛おかわり!」

ケイ「…こういうときはタマキの方がまだマシね」

アサギ「まったくだ」

イズル「あ、お疲れ」

スルガ「おかしい…何でこーも上手くいかねーんだ?」

アサギ「そりゃあの調子じゃな」

スルガ「うっせー、ナンパもしたことねーくせに」

323: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/22(土) 03:37:48.88 ID:TWrm+gEo0
イズル「でもアサギって結構人気あったんじゃなかったっけ?」

アサギ「…別に。関係ないけどな」

スルガ「かーっ、もったいねーヤツ! 今に神から裁きのスティンガーが飛んでくるね」

アサギ「んな物騒な神がいてたまるか。…だいたい、それを言うならお前らもだろ」

イズル「へ? 僕?」

ケイ「…それ、どういうこと?」

アサギ「風の噂で聞いただけさ。イズルもスルガも、結構買われてた、って」

イズル「えーと、それはウソだと思うけど…」

スルガ「そうだそうだ、だったら何で俺に来ないんだよ?」

ケイ「あんな話をしてればそれもそうでしょうね」

スルガ「えー……」

324: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/22(土) 03:38:22.59 ID:TWrm+gEo0
アサギ「ま、だろうな。お前、一度ミリタリーから離れてみればいいんじゃねぇの?」

スルガ「そりゃ困るな。俺のアイデンティティだし」

イズル「カレーもそうじゃないの?」

スルガ「バカ。たった一つだけだとバランス悪いだろ」

タマキ「けっこー考えてたんだねー、スルガ」

スルガ「おめーとは違うんだよ、ノーテンキ」

タマキ「らにーっ!?」ガタッ

ケイ「タマキ、立たない」

アサギ「ま、好きにすりゃいいさ。お前がモテるかどうかなんてどうでもいいし」

スルガ「うーん……」

イズル「スルガはいつも通りでいいと思うけどなぁ…」

325: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/22(土) 03:39:16.49 ID:TWrm+gEo0





スターローズ―― 一般居住区

スルガ「……」

キレイなお姉さまたち「」アッ!アノコッテ…

スルガ(ん? うっひょお! 美人があんなに! へへ、さっそく…)

アサギ『お前、一度ミリタリーから離れてみればいいんじゃねぇの?』

スルガ(……い、いや、ミリタリーは俺の…うーん)

キレイなお姉さまA「ね、キミ! スルガクンでしょ?」

キレイなお姉さまB「テレビで見るよりかわいいね!」

キレイなお姉さまC「もしかして今日は非番? 一緒に美味しいお菓子でも食べない? 地球のヒーロークンのお話たくさん聞いてみたいな」

スルガ「よ、よとこんで!」ウッヒョー

キレイなお姉さまB「あははっ、照れてるの? かーわいいー」

スルガ「え、えへへ…」テレ

326: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/22(土) 03:40:03.83 ID:TWrm+gEo0





その辺のデザートバイキング店

キレイなお姉さまA「スルガクンって彼女いるの?」

スルガ「いえいえ! 全力で募集中です!」

キレイなお姉さまB「あら、なら立候補しちゃおっかな?」

スルガ「えーホントですか? 僕、冗談は苦手ですよー?」

キレイなお姉さまB「やだー、本気よー?」ニコニコ

キレイなお姉さまC「そうよ? この子ったらキミの大ファンなんだから」

スルガ「うわー、嬉しいです!」

キレイなお姉さまB「ふふ、あ、ケーキもう一つどう?」

スルガ「いただきまーす!」

スルガ(……ぐふふ、アサギィ、あの言葉、感謝するぜーっ!)

327: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/22(土) 03:40:37.92 ID:TWrm+gEo0





スルガ「」ペラペラ

キレイなお姉さまたち「」キャッキャッ

スルガ「」ペラペラ

キレイなお姉さまたち「」クスクス

スルガ「」ニコニコ

キレイなお姉さまたち「」ペラペラ

スルガとキレイなお姉さまたち「」アハハ…

スルガ「」ペラ…

キレイなお姉さまたち「」キャッキャッ

スルガ「……」

スルガ(…何か、調子出ねーや)

328: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/22(土) 03:41:12.12 ID:TWrm+gEo0





カァーカァー

キレイなお姉さまたち「じゃーねー、スルガクーン!」

スルガ「はーいっ! お姉さんたちもさよーならー!」ブンブン

タノシカッタネー!キョウハサイコウダヨー…

スルガ「…さ、行くか」

スタスタスタスタ…

スルガ(今日は最高だったなー! あんなにモテたのなんて、人生初、だよな?)

スルガ(………)

スルガ(最高、だったよな?)

スルガ(…あんなにも、キレイなお姉さんたちにちやほやされたし、楽しかった)

スルガ(でも、なのに、何かやっぱり物足りねー)

スルガ(おっかしいなー)ウーン

329: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/22(土) 03:42:21.09 ID:TWrm+gEo0
スルガ「…何でかねぇ?」

???「おらぁ! どうしたしょうねーんっ!」コンッ

スルガ「あたっ、だ、誰だ…」フリムキ

シオン「おっす! どうかしたの、スルガ君?」ニコリ

スルガ「あ、お姉さん! いやあ、今日もお姉さんの笑顔の輝きはかのシーウルフ級潜水艦のように…」

シオン「はいはい、まったく…君はいつも通りってわけね?」アキレ

スルガ「ははっ、お姉さんも休日だったんすか? ご一緒したかったです!」

シオン「あら、食堂の荷物運び手伝ってくれるの?」

スルガ「…やっぱ、遠慮しときます」

シオン「あはは、素直でよろしい。今日もカレー食べにくる?」

スルガ「ええぜひとも! お姉さんのカレーは宇宙一ですから!」

シオン「よく言うわね、じゃ」

スルガ「あとでー!」

タタタ…

スルガ(うーん…)

スルガ(……今のノリの方が、何かしっくるくるなー)

スルガ(でも、これで行くと…やっぱモテねーんだろうなぁ)

スルガ(……うーん?)

330: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/22(土) 03:43:10.57 ID:TWrm+gEo0





スターローズ――軍部の食堂

スルガ「うめーっ! カレー最高!」ガツガツ

イズル「結局、いつも通りにすることにしたの?」

スルガ「おう、やっぱり、こう、しっくりこなくてな」

アサギ「…ま、その方がお前っぽいけどな」

ケイ「そうね。スルガらしいわ」

タマキ「なのらー」

スルガ「ちぇっ、誰か一人くれー、せっかくだから変えないでー、とか言ってくれてもいいのに」

アサギ「そう言われてもな」

イズル「僕ら、いつものスルガの方が好きだよ」

ケイ「…まぁ、まだマシね」

タマキ「かれー食べないスルガなんてスルガじゃないよー」ニコニコ

スルガ「へっ、違いねーや」ニッ

339: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/25(火) 19:10:40.29 ID:zfuZRUKk0
スターローズ――アサギの部屋

イズル「ペコさんの素顔?」

スルガ「そーそー」

アサギ「別にどうでもいいだろ、素顔なんて」

スルガ「でもよー、気にならねーか? 目も見えないんだぜ?」

イズル「確かに気になるね。言われるまで気にしてなかったけど」

シュン

タマキ「おー、皆ここにいたー」ニコニコ

ケイ「何を話していたの?」

スルガ「おう、ペコさんの素顔が気になるって話」

ケイ「ペコさんの?」

イズル「うん。ケイたちは見たことある?」

ケイ「…特にないわね」

タマキ「そーいえばわたしもー」

340: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/25(火) 19:11:18.21 ID:zfuZRUKk0
スルガ「どんな感じなんだろうな?」

ケイ「さぁ。興味が湧かないわね」

イズル「やっぱり、小動物みたいなかわいい目をしてるんじゃない?」

タマキ「あんがいキツメかもー。ケイみたいに」

ケイ「悪かったわね、怖い目で」

イズル「大丈夫だよ、ケイは美人だから」

ケイ「…お世辞を言っても何も出ないわよ」プイッ

イズル「え? お世辞なんかじゃないよ?」

341: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/25(火) 19:11:58.93 ID:zfuZRUKk0
スルガ「はいはい。…ったく、ま、きっと美人なんだろうなーペコさん」ニヘヘ

タマキ「スルガ、まだ口説く気だったの?」

スルガ「もっちろん! 俺はまだチャンスがあるって見てるぜ!」

ケイ「呆れた根性ね…」

イズル「そう? むしろ尊敬するなぁ」

ケイ「意味不明…」フゥ

タマキ「とりあえずイズルはマネしないほーがいいかもー」

イズル「そうかな?」

スルガ「ふん。とにかく、見てみてーなぁ、素顔」

アサギ「……本人に頼めば見せてくれるだろ?」

スルガ「あ、そうか。それもそうだな」

イズル「何か失礼じゃない? いきなり顔を見せてくださいって」

スルガ「なーに、一言断りゃいいんだよ」

アサギ「…まったく」アキレ

スルガ「何だよ、お前もやっぱ興味あんじゃねーか」

アサギ「ちげーよ、そろそろメシだ」

イズル「あ、そうだね、そろそろ行こうか」

ケイ「ペコさんもこの時間なら食堂にいるんじゃない?」

スルガ「おう、じゃあ行くか」

タマキ「ごっはん、ごっはん」ウキウキ

342: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/25(火) 19:12:25.05 ID:zfuZRUKk0
食堂

ペコ「んー? 素顔ですかー?」モグモグ

スルガ「いやー、失礼だとは思ったんですけど。気になっちゃって」モグモグ

アサギ「すいません。このバカにはよく言っておくんで」

イズル「ええっと、あの、イヤでしたら、その」

ペコ「別にいいですよー? はい」カミアゲ

スルガ「……」ジー

アサギ「……」ジー

イズル「……」ジー

ケイ「……」ジー

タマキ「?」モグモグ

ペコ「……? どうかしました?」キラキラ

343: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/25(火) 19:13:40.61 ID:zfuZRUKk0
スルガ(ま、まさか…)

アサギ(予想外だ…)

ケイ(キレイ……)

イズル(わぁ。少女マンガみたいだ……)キラキラ

スルガ「すっごくステキです! ああ、その瞳まさに…うげっ!?」ドスッ

ケイ「どうもすみません」ペコリ

ペコ「気にしてませんよー。…スルガくん、大丈夫ですか?」

スルガ「は、ははっ。だいじょーぶっす」フラリ

イズル「あ、あの。すみません。今度マンガの資料にしたいのでスケッチさせてもらってもいいですか?」

ペコ「いいですよー。あとでイズルくんの部屋ででも描きますー?」

イズル「はい、お願いします!」

ケイ「え…」

アサギ(二人きりか。さすがだな…この天然バカ)フゥ

スルガ(な、い、イズルゥ……)グヌヌ…

タマキ「すいませーん! 塩辛お代わりーっ!」

------------------------------

348: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/25(火) 22:09:40.11 ID:zfuZRUKk0
……困ったなぁ。
それが、今僕が抱いている気持ちだった。

僕の部屋のベッドの上。仰向けに倒れ込む僕は前を見る。
その視線の先には、覆い被さるようにケイが――僕の大事な人がいて、僕を見下ろしている。
あいにく、顔は見れないので、ケイがどんな表情をしてるかは分からない。
というか、それを深く考える前に、ケイに集中力と唇を奪われてしまった。

事の発端は、僕の何気ない言葉にある。

「…わぁ」

ピットクルーのダンさんにいつかの時に言われたマンガを描き上げて、見せに行った帰り。
その途中で艦内の広いロビーみたいな一角のテレビに、MJPの宣伝活動に出ていたケイとタマキが映っていた。
それを見て、僕は感嘆の声を上げていた。

液晶の画面には、色んな職業の恰好をしていたケイとタマキがいた。
ナースさん、消防士さん、署長さん……。
たくさん、夢のありそうな恰好だった。

これも、マンガのネタになるかな………。
そんな風に呑気なことを考えながら、その実、僕はケイに見とれていた。
いつもと違う雰囲気のケイを見ると、ちょっとドキドキとする。
後で、見せてくれるように頼んでみよっかな…。

349: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/25(火) 22:11:03.74 ID:zfuZRUKk0





「……あなた、バカ?」

うん、そう言われると思ってた。
スターローズの食堂前の談話スペース。
皆で食事を済ませてから、僕はケイをそこに誘って、テレビでしてた恰好を見せてくれないかな、と頼んでみた。
当然だとは思ってたけど、それを聞いて、ケイはとてもイヤそうな顔をした。

「えっと、ダメ?」

「う……」

ヒールを履いているためか、僕よりも高い視点にいるケイを見上げる。
ケイはちょっと困ったような顔をしていた。
まぁ、仕方ないや。疲れてるだろうし、無理にしてもらうのは悪いし。
諦めて、僕はとぼとぼと自分の部屋に戻ることにした。
とりあえず、またマンガの続きを――

「ま、待って」

え?
ケイの呼び止める声に、僕は立ち止まって振り返る。
ケイは、何かを覚悟したみたいな顔で僕を見ていた。

「よ、夜」

「うん」

突然の言葉にとりあえず頷く僕に、ケイは躊躇いがちにこう言った。

「あなたの部屋、行くから」

横を向いているケイの言葉の意味を、僕は少しの間考えた。
それから、すぐに気付いた。そ、それって――

「――! 分かった、待ってるね!」

嬉しくって、つい笑ってしまう。
我ながら子供っぽいけど、仕方ない。それくらい嬉しいんだ。

優しい目で僕に微笑むと、ケイは先に行ってしまった。
楽しみだなぁ。そんな風にこの後のことを考えながら、僕は浮足立った気持ちで部屋に向かった。

350: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/25(火) 22:13:14.80 ID:zfuZRUKk0





「…ど、どう?」

そういう訳で、ケイの仮装会が僕の部屋で密かに開催された。
もちろんこの場には誰もいない。僕とケイの、たった二人の世界がここにある。

一つ目の恰好はナースさん。
何で注射器まで持ってるんだろう。ただの宣伝活動なのに、そんなに細かいんだなぁ。
とりあえず僕はさっそく恰好を褒めてみることにした。

「うん。似合ってるよ」

「…っ」

そう言うと、ケイはぷいっとそっぽを向いた。
…もしかして、照れたのかな。ケイって分かりやすいなぁ。そういうところも、かわいい。。
もちろん、そんなことを言ったら機嫌を損ねちゃうのはもう知ってることだから言わないけど。

「えっと、スケッチするからちょっとそのままでね」

「は、早くしてよ」

そんな調子で、色んな恰好のケイを画用紙に残していく。
うーん、ケイはどっちかっていうとスレンダーだから、抑え目な服の方が良いんだろうな。
どこが、とは言わないけど。

351: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/25(火) 22:14:16.70 ID:zfuZRUKk0
そして、最後の服。
婦警さんの恰好で出てきたケイは、さすがに慣れた様子でポーズを取ってくれた。
………。あれ?
ここで僕は初めて、物足りないなぁ、と思った。
実のところ、ケイのあの恰好を見て、ヒーローっぽいからスケッチをしたいと思ったんだけど。
何かが足りないや。もっと、こう…。

「うーん、何かセリフとか言ってくれないかな?」

「……せ、セリフ?」

「うん。具体的なイメージが付かなくて」

思いついた無茶ぶりに、ケイは目を丸くした。
いきなりすぎたかな。でも、何かインパクトが欲しいし…。

僕も必死にセリフを考える。
うーんと。うーんと。
『逮捕しちゃうぞっ!』『正義の元にあなたを倒すッ!』
…ちょっと違うかなぁ。
そのままずっとあれこれ楽しく考えていると、ふと、ケイの声が聞こえた。

352: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/25(火) 22:15:06.60 ID:zfuZRUKk0
「あ、あなたを」

ケイも思いついたんだ。どんなセリフを出してくれるかな?
想像しながら、わくわくした気持ちでケイを見つめる。
一瞬、ケイは迷ったような素振りを見せたけど、意を決したようにポーズまで取ってくれた。

「あなたを、乙女心窃盗容疑で、逮捕しましゅっ!」

「あっ……」

セリフにもだけど、思わず、驚いて声が出た。
ケイ、今、もしかしなくても、噛ん…。

「……今のは、なしにして。お願いだから」

俯きがちにケイが言った。
耳が赤いよ、ケイ。
こういうときは、何か、フォローしないと。

「え、えっと。あ、いや、気にしなくていいよ。その、ありがとう」

「……」

スケッチブックを仕舞う僕の言葉に何も反応しないで、無言でケイは荷物を纏め始めた。
……。言うこと、間違えたかな。
ケイへのフォローを考えつつ、僕は描き上げたイラストをどうマンガに使うかということに思いを馳せていた。

353: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/25(火) 22:16:49.23 ID:zfuZRUKk0
「い、イズル」

「うん?」

と、急に背中からしたケイの声に、僕は後ろを向く。
ケイは婦警さんの恰好のまま、僕を少し上から見ていた。
何か迷ってるような表情のケイは小さな声で遠慮っぽく口を開いた。

「わ、私はあなたの言うこと、聞いてあげたわ」

「うん。ありがとう」

もう一度お礼を言うと、ケイはそうじゃないと言いたそうな目で僕を見つめる。
どうしたの? と僕が尋ねる前に、ケイはさらに続けた。

「か、代わりに…あなたも何かするべきじゃない?」

「あ」

そういえばそうかな。
僕だけ頼むだけ頼んでありがとうで済ませるのは良くない。

「ごめんごめん。そうだね、僕にできることなら何でもするよ」

「……ホントに? 何でも?」

「…? うん。ケイにはだいぶ頼んじゃったし」

そんなに確認することなのかな? …まさかスターローズパフェのスぺシャルサイズとか言わないよね?
うーん、ちょっと軽く了承しちゃったかもなぁ。
こうして僕は反省するけど、次の日にはもっと違う理由で反省することになった。
と、いうのも。

354: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/25(火) 22:18:08.17 ID:zfuZRUKk0
「――なら」

突然、空気が変わった。気がした。
何でだろう、と思ったら理由はあっさり分かった。
ケイがまた怖い目をしていたんだ。
いつの間にか、ジリジリとケイが僕との距離を詰めてきている。

「え、け、ケイ?」

思わず動揺する僕にお構いなしに、ケイはどんどん距離を狭めていく。
もう、僕の目の前にケイはいた。

「取り調べ、させてもらうわよ?」

ニコリ、とケイが笑った。
やっぱり、いつかの、悪くて、怖くて……ええと、エッチな目をしていた。

「わっ、ちょ、ちょっとま…」

気圧される僕を、ケイはとん、と軽く突いて。
僕は情けない声を上げながら、ベッドに倒れ込んだ。

それで――現在の状況になった。

355: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/25(火) 22:19:38.04 ID:zfuZRUKk0
今、僕は見事にケイに主導権を奪われている。
こういうときのケイは積極的で、結構驚く。

「……はぁ」

「ん……」

唇を離して、呼吸を整える。
お互いの顔の距離は、抱き合ってるせいもあって、かなり近い。
部屋が暗いし、ケイの顔は上にあるから影になっててよく見えない。
……ちょっと、ドキドキする。

「…ケイの、エッチ」

僕は反抗的な目で、ジトリとケイの顔を見上げる。
こんな風にしなくたって、僕は……そ、そういうことだって、するのに。
僕の追及するような視線に、ケイはぷいと顔を逸らす。
て、照れるくらいならしなくてもいいのに。

「ち、違うわよ。私はそんな…」

「ウソつき。こんなに…ええと……」

そっと右手をケイの足の付け根まで持っていく。
スカートの中の下着越しに、ネットリとした液体の感触がそこにあった。
これは、あの、つまり。

356: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/25(火) 22:22:24.05 ID:zfuZRUKk0
「……言えないなら言おうとしないで」

顔を真っ赤にしたケイに言われて、僕も顔が熱くなる感覚がした。
う、い、言うんじゃなかったかな…。

「……ごめん」

僕が小声で謝ると、ケイは黙ってしまった。
少しだけ、微妙な空気が僕らの間に流れる。
……ええと、何か言わなきゃ。
そうしていると、ケイに先を越された。

「…別にいいわよ。私が、その、エッチだとして」

ケイは言い辛そうにしてから、開き直るような声で続けた。
自惚れだけど、惚れた弱み、という感じの声だった。

「い、イズルなら、いいから」

「ケイ……」

僕は見えないケイの顔をじっと見つめた。
やっぱりケイがどんな顔をしてるかは分からないけど、たぶん、すごくかわいい顔をしているに違いない。
だって、ケイだから。
僕はケイのそういうところが大好きだった。

357: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/25(火) 22:24:52.96 ID:zfuZRUKk0
「…っ、だ、だいたい、イズルだって」

「! んっ…」

照れをごまかすようにケイが僕のズボンの辺りに手を伸ばす。
いきなり下半身から電流が流れるみたいな感覚がして、僕は小さく呻いた。
とても熱くなっているそこを、ケイのひんやりとした手が包んでいるのが、気持ちいい。

「こ、こんなになってる…」

「あ、いや、その…」

何だか恥ずかしくなって、ケイの目が見れなくなる。
あぁ、ケイもこんな気持ちだったのかな。

「だ、だって。ケイ、だから」

素直に言って、僕も開き直ったような声を返す。
見上げてみるけど、ケイの表情は分からない。
ただ、ちょっと呆れてるような雰囲気をしているらしいのは分かった。

361: 失礼、一つ投稿忘れてた! ◆jZl6E5/9IU 2013/06/25(火) 23:21:36.29 ID:zfuZRUKk0
「…しょうがないわね。私たち」

ザンネンそうにケイは言った。
僕も同じことを思っていた。
僕らは、どうしようもないくらいお互いを想っているんだ、って。

「…うん、しょうがないよ」

僕が言うと、ケイがクスクスと笑みを零し出した。
つい、僕もそれにつられてしまう。
ケイが笑えば、僕も笑う。

そんな小さな笑いが起きて。
少しだけ、和やかな空気が流れて、僕は妙な安心をした。
たぶん、ケイも同じだ。
一緒に同じ気持ちを持ってくれる人がいることに、安心しているんだ。
『僕ら』が生まれたときに、そんな人は誰もいなかったから。

ケイがそっと僕の背中に手を回す。
それに応えるように僕も同じようにした。
ぎゅっと抱き寄せたケイの身体は柔らかい。
ちょっとだけ照れ臭そうに、ケイはこほん、と咳払いをする。

「じゃ、じゃあ。…続き、する?」

「えっと…うん」

あぁ、今日はあんまり眠れないかもなぁ。
こういう日は、二人して元気になっちゃうもんな。
そんなことを呑気に考えながら、僕はゆっくりとケイの身体に手を伸ばす。
もう、止められないや。

------------------------------

370: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/26(水) 16:28:18.46 ID:mbWKrGhX0
「料理?」

ちょっとした休日の、いつも通りのアサギの部屋。
いつもの三人が集まるそこで、開口一番、アサギは訝しげな声を上げた。
そんな彼に、イズルはニコリと無邪気な笑顔でそれに答える。

「うん、ケイたちに誘われたんだ。二人も呼んで、って」

いきなりやってきたイズルの話はこうだった。
この間、ケイとタマキが昼食を作った。
それが思いの外楽しくて、どうせなら皆で昼食を作ってみないか、という話になった。
それで、さっそくイズルがその伝令役になった、というわけだ。

急だな、と思いはしたが、目を輝かせるイズルを見ると、アサギは一応の興味を示してやる方がいいだろうと考えた。
いつぞやのビーチボールの時みたいに落ち込まれても困るのだ。

「何作るんだ?」

「カレーと胃に優しいモノと、ウナギの蒲焼き…だったかな」

「何だその無秩序な並び」

あまりにも繋がりのない料理のリストに、呆れたような顔でアサギはため息を一つ吐いた。
今更なことだが、チームラビッツの好みは、あまりにも滅茶苦茶だ。
ここに塩辛やらやたら甘いケーキやらが加わるのを考えると、少し胃が痛くなる。

「いいと思うんだけどな。皆で料理」

気付かないうちにアサギは難しい顔をしていたらしく、イズルはわずかにザンネンそうな顔をする。
それを見て、アサギは内心でため息を吐いた。
仕方ないヤツだ、とも呟く。

「……後で行く」

「俺も行くぜ、おもしろそうだし」

アサギの言葉に同調するようにスルガも参加の意思を告げる。
それだけで、イズルはあっさりと表情を喜びに輝かせて、頷いた。
単純なヤツだ、とまたアサギは心のうちに呟いた。

371: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/26(水) 16:29:25.65 ID:mbWKrGhX0





「それじゃあ、始めましょうか」

「おーっ!」

「うん!」

「カレー! カレー!」

「……」

スターローズ内の小型キッチンの中で、アサギは初めて来るそこを興味のある視線で見回す。
無理矢理に着せられた淡い青のエプロンの彼は、それから仲間たちに視線を移す。
燃えるような赤色のエプロンのリーダー、大量の砂糖を用意したらしい紫のパティシエ。
子供向けのピンクのエプロンを、着ているというか着られている感じのする塩辛バカ。
黄色のエプロンに身を包む、自前で勝手にスパイスを持ち込んだらしいカレーバカ。

……大丈夫か、これ?
何となく不安を抱きながらも、アサギもさっそく料理に加わることにする。
正直、胃に優しい特製ハーブ粥というのには興味が大きくあった。

372: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/26(水) 16:30:31.60 ID:mbWKrGhX0
「スルガ、そこにルーを入れて」

「おう。…お、カレーの匂いだ!」

「あ、いいね。ケイ、蒲焼きのタレはこれでいいの?」

「…ええ、大丈夫よ。イズル、少し味見してくれる?」

「うん。……ええと、甘いね」

「そう。ならいいわね」

373: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/26(水) 16:31:12.77 ID:mbWKrGhX0
「おーし、俺流のすげーカレーにしてやるぜ」

「おいスルガ、それは入れすぎだ!」

「え? そんなことねーよ、たぶん」

「アサギー、そこのイカ取ってー」

「ん? あぁ、ほら」

「ありがとー」

「…おう。……っ!? スルガ! タバスコなんて入れるな!」

「いやいや、これ絶対美味いって。ほら」

「………。――!? ……ッ!? げ、ほっ!! ごほっ! うえっ…!」

「ありゃ? アサギー?」

「お、おま、えなぁ……っ」

料理会は意外にもゆっくりとは進まなかった。
スルガとタマキが騒がしく場を盛り上げ、イズルとケイとアサギが、それのフォローに回る。
ただそうして過ごしているうちに、料理は完成した。
何も考えられないくらい、皆、いつの間にか楽しんで過ごしていた。

374: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/26(水) 16:35:00.23 ID:mbWKrGhX0





そして。ようやく昼食の時間が来た。
アサギたちはキッチンを出た先の小さな部屋のテーブルに人数分の料理を並べ、席に着く。
五人の前には、せっかくだからそれぞれの料理を皆で食べてみよう、というイズルの提案もあり、小皿で分けたそれぞれの料理がある。

「よーし、食うか!」

「おいスルガ、フライングすんな」

完成した料理たちに、スルガがさっそく食らいつく。
制止する間もなく、彼は自分の特製カレーを味わう。

「うめーっ! 俺って天才!」

自分を褒め称えながら、スルガはスプーンを素早く動かす。
そのあまりにも美味しそうに食べる様子につられるように、残りのメンバーもカレーを一口食べてみる。
そして――

「……!」

「……っ、う……」

「――きゃ、きゃら……!!」

「わぁ、美味しいね!」

一人以外、あまりの辛さに悶絶する。

375: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/26(水) 16:35:32.74 ID:mbWKrGhX0





そして。ようやく昼食の時間が来た。
アサギたちはキッチンを出た先の小さな部屋のテーブルに人数分の料理を並べ、席に着く。
五人の前には、せっかくだからそれぞれの料理を皆で食べてみよう、というイズルの提案もあり、小皿で分けたそれぞれの料理がある。

「よーし、食うか!」

「おいスルガ、フライングすんな」

完成した料理たちに、スルガがさっそく食らいつく。
制止する間もなく、彼は自分の特製カレーを味わう。

「うめーっ! 俺って天才!」

自分を褒め称えながら、スルガはスプーンを素早く動かす。
そのあまりにも美味しそうに食べる様子につられるように、残りのメンバーもカレーを一口食べてみる。
そして――

「……!」

「……っ、う……」

「――きゃ、きゃら……!!」

「わぁ、美味しいね!」

一人以外、あまりの辛さに悶絶する。

376: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/26(水) 16:37:39.71 ID:mbWKrGhX0
「にゃんだ、きょのきゃらさはーっ!」

ヒリヒリと痺れる舌の感覚に震えながら、アサギは怒りの声を上げた。
正直、この辛さには涙が出そうになる。

「えー? イズルは美味そうに食ってるぜ?」

「イズルと同じ基準で考えてんじゃねー!」

頭と胃を抱えながら、アサギは唸り声を上げる。
こいつには二度と料理を作らせないようにしなくてはならない、とも胸に刻む。

「ええと、ほら、アサギ。アサギのお粥美味しいよ?」

「お前にフォローされたくない」

アサギの言葉にイズルはやはりザンネンそうに笑うと、自分の蒲焼きに箸を動かす。
はぁ、とため息を吐きながらも、アサギは自分の粥を口にする。
あぁ、確かに美味いな、と少しだけ感動を覚えてしまいそうになった。
それほどまでにスルガのカレーはマズかった。

377: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/26(水) 16:43:46.11 ID:mbWKrGhX0
「ケイー、塩辛美味しいのらー」

「そう? よかった」

ふと、隣から聞こえたケイとタマキの声に、アサギは自分の分の塩辛に箸を伸ばしてみる。
よく考えてみると、塩辛というのは食べたことがなかった。
どんな味なのかを想像しながら、アサギはそれを噛んでみる。

「…何だ、これ?」

意外すぎる味に、アサギがつい間の抜けた声を出す。
初めて食べる塩辛は、甘かった。

「それねー、ケイの特製なのー」

不思議そうな顔をするアサギに、タマキが自慢げに解説してくる。
いわく、ケイのミスで砂糖漬けになったイカをこの前の料理会で食べたらしく、しかしながらそれを気に入ったタマキは、今回もそれを頼んだ、ということだった。
これ塩辛じゃないだろう、とタマキの話に思ったことをとりあえず心の中でツッコミつつ、アサギはまたそれを食べた。
まぁ、悪い味じゃない、と感想を出す。

378: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/26(水) 16:45:10.19 ID:mbWKrGhX0
「うーん、ケイのケーキはやっぱり甘いね」

「甘くて当然よ。…ウナギ、結構美味しいわ」

相変わらずの甘いケーキを味わうイズルの声がする。
ケイのケーキについては、イズル以外の全員は遠慮した。
何故彼はあんな砂糖の塊についていけるのか、分かることはきっとない。

そんなことを思いながら、ウナギの蒲焼きを次に食べてみる。
ウナギも、なかなかに美味かった。

「……こういうの、悪くねーな」

スルガが小さな声で呟く。
そうだな、お前のあのカレーがなけりゃな、と若干の非難の声を胸のうちに上げる。
皆で集まって、一緒に昼食を作り、食べる。
案外、悪くないものだ。

「また今度やろうか」

「そうね。いいかもしれないわ」

「また塩辛を作るのらー!」

仲間たちの同意の声を聞きながら、アサギはそんな風に思った。
アサギはゆっくりと口を開く。
素直な気持ちを吐き出すことはない。だが、自分の思いはしっかりと伝えるとしよう。

「…まぁ、付き合ってやるよ」

のんびりとした時間が流れ。
胃に優しいランチタイムは、当分はまだ続くことになりそうだ。

------------------------------

383: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/26(水) 23:06:54.68 ID:mbWKrGhX0
腐った方向に目覚めたケイ

スターローズ――アサギの部屋

イズル「アサギー、ちょっといい?」

アサギ「ん? 何だよ?」

イズル・アサギ「」ペラペラ

スルガ「ちょっとは仲良くなったなぁ、アイツら」

ケイ「イズルがリーダーになりたての頃は、ずいぶんだったものね」

タマキ「うんうん。いいことなのらー」

ケイ「」ジーッ

スルガ「? どうかしたかケイ?」

ケイ「」ハッ

ケイ「……別に何でもないわ」プイッ

スルガ・タマキ「?」

イズル・アサギ「」ワイワイ

384: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/26(水) 23:07:36.17 ID:mbWKrGhX0





ケイの部屋

ケイ「……はぁ」

ケイ「何よイズルったら。アサギとばかり。タマキのときに散々言ったのに」

ケイ「これじゃ寂しいでしょ……」

ケイ(……私が、アサギだったらな)



イズル・アサギ『』ペラペラ

イズル『それでね、そのときデガワさんが…』パクリ

アサギ『…おい、イズル』

イズル『ん? どうかした?』キョトン

アサギ『クリーム。付いてる』トントン

イズル『え? どこ?』サワサワ

アサギ『』フゥ

アサギ『ここだ、ここ』スー

アサギ『』パク

イズル『あっ…』

アサギ『どうした?』

イズル『い、いや。…ありがとう』ニコリ

アサギ『…おう』

385: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/26(水) 23:08:02.72 ID:mbWKrGhX0



ケイ「……」

ケイ「」ハッ

ケイ「な、何を想像してるの私は…」

ケイ「ないわよ。今のは。いくら寂しいからって、そんな…」

ケイ「……これで五度目。もう、イヤになるわね」

ケイ「…ちゃんと、イズルに言おう」ハァ


もちろんこの後は普通にイズルに甘えてみたりするケイだけれど、
世間の影のような部分でひっそりと流行している薄っぺらいマンガの存在を知ったり、
自分の想像をさらに上回る人の存在を知ったりして、げんなりしたり目を輝かせたりするのでした。

------------------------------

387: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/26(水) 23:10:27.34 ID:mbWKrGhX0
ナースごっこ

食堂近くの談話スペース

イズル「えっと、どうしたのケイ? 話って」

ケイ「この間のスケッチのことなんだけど…」

イズル「あぁ…え、まだ何かお礼を?」

ケイ「わ、私はたくさん披露したのよ? あれだけで済ませるのはどうかと思わない?」

イズル「…う。そうだけどさ…何をすればいいの?」

ケイ「そ、そうね…」ジーッ

イズル「?」

ケイ「あ、あなたも…」

イズル「僕も?」

ケイ「あなたも、同じ恰好して見せてよ」

イズル「…え?」

イズル「――えー!?」

388: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/26(水) 23:12:20.04 ID:mbWKrGhX0





イズルの部屋

ケイ「イズル、まだなの?」アシヲクミカエ

イズル『も、もう少し――あ、で、出来た…』

イズル「あ、あの。これで、いい?」ガチャ

ケイ「……へぇ。似合うじゃない、婦警さん」ジーッ

イズル「あ、あんまり、見ないでよ…」カァ

ケイ「私のスケッチのお返しなんでしょう? 私がいくら見てもイズルに文句を言う権利はないわ」

イズル「う…そうだけどさ……」

イズル「だいたい、何でこんなのをお礼にしようと思ったのさ」

ケイ「…私ばっかり恥ずかしいことさせられてるからよ」メソラシ

イズル「…そんなにだったの? あれ」

ケイ「ほ、ほら。次の衣装に着替えてよ」

イズル「わ、分かったよ…」イソイソ

389: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/26(水) 23:13:30.53 ID:mbWKrGhX0





イズル『こ、これで最後だよ』

ケイ「ええ。見せて?」

イズル「――は、はい」ガチャ

ケイ「最後にナースだなんて…ずいぶんね?」ジロジロ

イズル「こ、この順番に積んだのはケイでしょ!」

ケイ「…知らないわ」プイッ

イズル「……」ハァ

ケイ(……にしても、何よ、これ)

イズル「」モジモジ

ケイ(私よりもかわいいような……)ムゥ

390: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/26(水) 23:17:33.66 ID:mbWKrGhX0
イズル「あ、あの、ケイ?」オソルオソル

ケイ「………。どうかしたのイズル?」

イズル「いや、これいい加減脱いでもいいよね。僕ももう十分――」

ケイ(……そうだ)ピーン

ケイ「――僕、じゃないでしょ?」スッ

ケイ「今、あなたは女の子なのよ?」サワ

イズル「ひっ――」ピクンッ

ケイ「ふふっ、おかしいわね? これは何かしら? スカートの中に何を隠してるの?」サワサワ

イズル「ちょ、ちょっと、ケイ。止めてよ」テヲツカム

ケイ(もう、そんな顔して……弄りたくなっちゃうでしょ?)

391: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/26(水) 23:21:00.34 ID:mbWKrGhX0
ケイ「私は質問してるのよ? ちゃんと答えて?」テヲツッコム

イズル「あ、う……っ! ん………」ビクンッ

ケイ「かわいい声上げちゃって…気持ちいい?」ニコリ

イズル「や、け、い……っ」プルプル

ケイ「ほら、イズル…」チュウ

イズル「! む、ぅ…っ」クラリ

ケイ「…ん、はぁ」ギュ

イズル「あ、ん……ふぅ」

ケイ(ふふ。もっと恥ずかしくしてあげましょう。…これぐらい、仕返しにはいいわよね?)

ケイ「…ん。ナースさん、私、お注射が必要みたい」メクリ

イズル「え、あ……っ!」ゴクリ

ケイ「して、くれるわよね?」アカラメ

イズル「――も、もう知らないからっ!」ガバッ

ケイ「ん………♪」ギュー

392: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/26(水) 23:22:30.93 ID:mbWKrGhX0





翌朝

ケイ「え、えっと…」

ケイ「わ、私が悪かったから…」ペコリ

イズル「………」モゾモゾ

ケイ「お願いだから布団から出てきて?」

イズル「知らないよ、ケイなんて」プイッ

ケイ「い、イズル……」

イズル「…僕だって、イヤだったのに」

イズル「ケイにさせたからってガマンしたんだよ?」

イズル「それなのにケイは…あろうことか、その…あ、あんなエッチなことするんだもん」

393: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/26(水) 23:23:56.78 ID:mbWKrGhX0
ケイ「……ご、ごめんなさい」

イズル「当分、ケイは僕の部屋出入り禁止ね」

ケイ「……えっ!?」

イズル「う、有無は、言わせないから」

ケイ「…はい」ショボン

イズル(い、言い過ぎた、かな……)フトンヲチラリ

ケイ(…はぁ。私のバカ。調子に乗りすぎたわね)

ケイ(どうかしてたわ。イズルがあんなにかわいいからって…)フゥ

イズル・ケイ「「はぁ………」」ガックリ

イズル・ケイ「「え?」」

イズル・ケイ「「あ…」」

イズル・ケイ「」カァ

ケイ「じゃ、じゃあ」バタン

イズル「……うん」



その後、コスチュームプレイ、という大人の世界の言葉を知ったイズルがヒーローモノのコスチュームの存在を知って、ケイと一緒に着たり、
さらには、妙な趣味に目覚めて男装や女装を試してみたりするけれど、それは彼らがザンネンである故にザンネンながら語られないお話。

------------------------------

401: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/27(木) 19:46:56.52 ID:5a8CoO3n0
スターローズの、イズルの部屋。
そこに、彼らは集まっていた。

チームラビッツ。
相変わらずのザンネン5、円卓に座っているその五人のうちの三人――ケイ、スルガ、タマキは沈んだ顔でいた。
残りの二人――イズルとアサギは顔を見合わせると、困ったような表情を浮かべて、黙り込む。

「……はぁ」

沈黙を破るスルガの声に、タマキも

「どうすればいいのらー……」

明るい二人にしては珍しく、落ち込んだ雰囲気の声だった。
それに引っ張られるように周りの空気も重くなる。
能天気二人組はその存在だけで光となっていた、ということをイズルは思い知る。

そんなスルガたちの落ち込みの原因は単純。
イズルはそっと視線を円卓の上の三枚の用紙に落とす。
その紙には、こんな文章が載っている。

『クギミヤ・ケイ、スルガ・アタル、イリエ・タマキ。以上の者たちはいずれも
 今季健康診断の結果、異常の兆候あり。今後当面の食事について指定以外のものを摂取することを禁ずる』

402: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/27(木) 19:47:27.78 ID:5a8CoO3n0
つまるところ、だ。
バランスの悪い食事ばかりの三人の健康状態が悪くなるかもしれないから、当分の間は食事制限をする、というわけである。
当然といえば当然のことでもあった。
ケイは甘いお菓子の食べ過ぎによる血糖値の上昇。タマキは塩辛による塩分過多。スルガはカレーの食べ過ぎによる栄養不足。
いい加減にしておかなくてはならないほどのことなのだから、どれほどそのような食生活を続けていたか、察することは容易だろう。

「ええと、ほら。いつもと違う美味しいモノに出会えるかも」

「私からケーキを奪ったら何が残るというの…」

「俺も。カレー取られたら生きてけねーよ」

「私もー。塩辛ぁ……」

イズルの必死のフォローも一切通用しない。
それほどまでに、彼らにとって食事には価値があった。
…食事以外に、今は大した気晴らしがないからだろう。

「諦めろよ、バランス悪いメシ食ってたお前らが悪いんだから」

「つめてーヤツめ」

「冷たくて結構」

適当に言い合いながら、スルガとアサギが立ち上がる。
あ、そうか、とイズルは自分の部屋の時計に目をやる。
もう、食事の時間だった。

403: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/27(木) 19:48:13.26 ID:5a8CoO3n0





「……はぁ」

「うーん…」

「……」

「ええと…」

「……」

微妙な空気の中、昼食の時間は始まる。
ケイたちに出された食事内容はバランス重視の和食だった。
美味しいと思うんだけどな、と一緒になって食べるイズルは感想を心の中で漏らす。
やっぱりケイたちは渋い顔でそれを淡々と食べていた。

「塩辛…」

「まだ言うか」

「だってぇ……」

時折不満そうな声を漏らすタマキに、アサギが呆れ気味に言う。
彼は和食のあっさりとした胃に優しい味が気に入ったらしく、機嫌が少しだけ良さそうだった。
そんなタマキを尻目に、スルガとケイは黙々と自らの口に料理を運ぶ。
どうやら、文句を言うのは諦めたらしい。

404: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/27(木) 19:48:45.13 ID:5a8CoO3n0
「ほら、タマキ。塩辛解禁になったら僕が奢ってあげるからさ」

とりあえず宥めるようなことを言うと、タマキは素早く顔を上げた。
その顔には、喜びの感情が浮かんでいる。

「ホント! 塩辛奢ってくれるの!!」

「え、あぁ…うん」

あまりの勢いに、ついイズルは気圧されてしまう。
しまったかな、とも思った。
軽率に言うと、後で厄介なことになるかもしれない。
実際、厄介になった。

「何だよー、イズル、俺にもカレー奢れよ」

「…私はスターローズパフェのスペシャルサイズよ」

「え、ええー?」

「軽率すぎるんだよ、お前」

アサギの憐れむような声を聞きながら、イズルは頬を掻く。
まぁ、いいか。これで少しは皆が元気になるなら。
そうポジティブに考え直し、イズルは仲間たちに笑顔を向ける。

事実、この提案の効果はあったのか、この食生活に、大した不満は結局起きなかった。
もちろん、食事制限が解禁される後はイズルがそれぞれの食べたいモノに付き合わされて、結構苦労することになったのは言うまでもないが。
そういったところも、彼がリーダーたる所以というヤツだろう。
ザンネン5は、今日も今日とて、ザンネンに毎日を進む。

------------------------------

406: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/27(木) 19:52:14.66 ID:5a8CoO3n0
ある日の地球。日本の東京、宇宙用無重力エレベーター場にて。
二人の少年と少女が太陽の光の下に現れる。

「ん…良い天気だね!」

「……そうね」

快活に笑う少年――イズルの隣で、少女――ケイは眩しそうに手を額の辺りにかざした。
今日の彼らは兵士の服は着ていない。
イズルは、彼の性格に合う明るめの赤と黒の入り混じったシンプルなシャツに簡素なカーキのパンツとスニーカー。
ケイは、モノクロのボーダーシャツに爽やかな青のデニムジャケット、
それに薄い茶のショートパンツと黒のレギンスとブラウンのショートブーツ。
それぞれがそれぞれなりに用意した私服を身に纏って、二人は歩く。

久しぶりの人工ではない暖かい光に、二人は自然と浮いた気持ちへと変わっていく。
それはいいことだ、とイズルは思う。
だって――今日はデート、だから。



話の始まりは、少し前へと遡る。

407: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/27(木) 19:54:03.74 ID:5a8CoO3n0





「デート?」

チームラビッツの拠点、スターローズのケイの部屋。
イズルはケイと一緒にケイのお手製のケーキやクッキーを食べていた。
その席で、イズルはそんな提案をして、ニコリと笑う。

「うん。言ってたでしょ?」

イズルの言葉に、ケイはどういうことかを思い出す。
確かに、少し前にタマキに嫉妬したときにそんな約束をした覚えがあった。

「でもいいの? 明日は…」

「教官――じゃなかった、艦長に頼んだんだ。そしたら、出ていいって」

はい、とイズルはポケットから二枚のチケットを出した。
その一枚を受け取り、ケイはまじまじとそれをよく観察する。
どうやら、日本の有名なテーマパークの入場券らしい。

「話したらくれたんだよ。これ、すごい券なんだって」

そう言いながら、イズルは細かく説明をした。
このチケット一枚で、あらゆる乗り物や食事のサービス、パーク内のホテルまで全て無料で優遇されて利用できるらしい。
イズルたちだからこそ、手配のできた最高級のチケットパスとのことだった。

408: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/27(木) 19:55:35.85 ID:5a8CoO3n0
「……と、泊まり、なの?」

「…あ」

ケイのふとした疑問に、イズルは考えていなかったように驚いた顔をする。
ちゃ、ちゃんと考えておいてよ。
思いながら、ケイは期待しているようなことを示唆したようで、恥ずかしくなって俯く。
イズルもまた、そのことを想像して、少し顔を赤らめて、黙り込む。
それから、おそるおそる口を開いた。

「け、ケイがいいなら…」

「わ、私は…問題ないわ」

「そ、そう…」

「うん…」

お見合いでもしているかのような慣れない空気を出しながら、二人は黙々とケーキに手を伸ばす。
結局、その後は細かい時間を決めて、大した会話もないまま、別れた。

「…デート、か」

ぽすん、とベッドの座り込んで、ピットクルー特製のいずるくん人形を抱き寄せながら、ケイは呟き、思いを馳せる。
荷物と服装は大丈夫。ピットクルーの皆に相談して、一応の準備は完了している。
心構えも大丈夫。散々アドバイスをされたんだ。きっと、上手くいく。
そんな風に初めてのデートに少し緊張した気持ちを抱きながら、彼女は寝転がり、瞳を閉じた。
ドキドキとワクワク、二つの感覚を噛み締めながら、ケイは眠った。

409: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/27(木) 19:57:30.30 ID:5a8CoO3n0
そして、現在に至る。
イズルとケイは、テーマパーク近くの駅に降り立つと、まっすぐに向かう。
気付かないうちに手を繋いでいる二人の姿は、誰にも彼らが兵士だということを認識させないだろう。

「ようし、何から回ろうか?」

チケットを見せてゲートをくぐり、イズルはパーク内の地図を広げる。
世間ではどうやら今日は平日だったらしく、大して人がいるわけでもないようだった。

「イズルは何かあるの?」

無意識に顔を近付けて、ケイは地図を覗き込む。
ケイはこのテーマパークのことは、あまりよく知らなかった。

「うーん。あんまりよく知らないんだ、僕」

ザンネンそうに言うイズルに、なるほど、と納得する。

「無計画ね、あなた」

「あ、あはは。ごめん」

申し訳なさそうにするイズルに、ケイは笑って答える。

「別に責めてないわ。おかげで二人とも想像しながら回れるじゃない」

ケイにしては珍しくポジティブなセリフだった。
これもイズルの影響かもしれない、と思う。
はぁ。惚れた弱みってヤツね。
無邪気に笑う彼を愛おしく想いながら、ケイはまた手を繋ぎ、一緒に歩き出した。

410: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/27(木) 19:58:54.76 ID:5a8CoO3n0





「あー、楽しかったね!」

「そうね。騒がしいのはどうかと思うけど」

パーク最速、という触れ込みのジェットコースターの出入口から元気そうに二人は出る。
普段アッシュに乗って散々強力なGを味わった身としては、これぐらいのものは何てこともない。

「次はケイが選んでよ」

「私が?」

「うん。僕はもう三つ選んだし」

「じゃあ…」

地図とパーク内をぐるりと見渡しながら、ケイは集中して考える。
とりあえず、人がいない乗り物がいい。
二人っきりに積極的になれ、というアドバイスを思い出しながらケイは探す。
そして――

「あれにしましょうか」

「うん、分かった!」

二人はさっそく目標へと歩いた。

411: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/27(木) 20:01:36.07 ID:5a8CoO3n0





乗り込んだのは、遊覧船のようなアトラクションだった。
イルミネーションで明るく演出された暗い建物内の川を、のんびりと小舟で進んでいく。
雰囲気を作るためか、中は想像以上に涼しく、外の暑さから逃れるには最適とも言えた。

「わぁ――」

あちこちに興味津々にイズルは視線を送る。
イルミネーションの中には、小人や人形、人魚など、ファンシーなモノなどが置かれている。
あれもこれもマンガのネタになるかな、と思い巡らしながら、ケイに微笑みかける。
彼女もまた、イズルと同じように辺りを見回していた。

小人を見つけては頬を緩め、美味しそうなお菓子の形の光を食い入るように見つめて。
そんな普段の彼女らしくないことをしてしまうぐらい、不思議で、かわいらしい空間だった。
こういう場所を気に入る辺り、ケイも女の子なんだな。
そんなことをイズルは思う。

412: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/27(木) 20:02:26.06 ID:5a8CoO3n0
「…何?」

と、イズルに向かってケイが取り繕ったように不機嫌そうな声を出す。
イズルの、ニコニコと笑顔で見守るような視線に羞恥を抱いたらしい。

「何でも。ケイがかわいいな、って」

「……っ」

イズルの言葉に、ケイは慌てたようにそっぽを向く。
こういうことを素直に言ってしまえる彼の性格が、ちょっとだけ憎い、と思った。
イズルの顔をチラリと窺う。
彼は大して変化も見せず、また景色に夢中になっていた。

ずるい。ずるすぎる。平然としている彼が羨ましい。
私だって、素直に――

「…あ」

「ん?」

「…あり、がと」

ぶっきらぼうに告げると、ケイはおもむろに手を差し出す。
イズルは、不思議そうにその手とケイの顔を交互に見返して。

「ええと、どういたしまして」

人を安心させるような柔らかな笑みのまま、その手を握りしめた。
もう、船は終着点に辿り着くところだった。

413: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/27(木) 20:05:10.30 ID:5a8CoO3n0





「…じゃ、そろそろごはんにしようか」

建物を出て、少し歩いた先のレストランを見据えて、イズルが提案する。
特にケイからも反対の声はなく、二人は中に入っていく。

やはりあまり人は見受けられなかった。
しかし、それはいいことだった。彼らは一応の有名人だ。
せっかくのデートに変に後ろ指を指されるのも嫌だった。

「何を食べようか?」

メニューに目を通しながら、イズルはケイに尋ねる。
ケイは特に迷う様子も見せず、ただメニューを指で示した。

「ああ、ケーキ?」

昼食にケーキはおかしいだろう、などという一般的な感想は起きない。
見慣れた景色であったし、普通なのだろうとイズルは受け入れてしまっていた。

「……あと」

少し遠慮がちにケイはメニューをめくって、あるページに指を置く。
つられたイズルの視線の先には、あるデザートが一つ。

「ええと、ランド特製スペシャルパフェセット?」

こくり、とケイは頷く。
それは、縦の大きさ十五センチに及ぶ巨大なパフェとケーキとアイスが三つずつ付いてくる、カップル専用のメニューだった。
さすがだなぁ、と感心しながら、イズルはそれも注文しておくことにする。

414: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/27(木) 20:06:05.85 ID:5a8CoO3n0



「うーん、すごい量だね」

昼食を食べ、運ばれてきた食後のデザートのパフェをイズルは見上げる。
こんなに大きいのかぁ。十五センチってすごいんだな。
客観的な気持ちで少し感動する彼に、ケイは無言でスプーンを手渡す。
その目は、ずっとパフェに釘付けになっていた。

「ほら、イズル」

渡されたスプーンを右手で受け取り、それをしげしげと眺めながら、イズルはケイの声に顔を上げる。
その視線の先では、先端のアイスの部分を削り取ってイズルに差し出すケイの姿があった。

「え? ケイ?」

「ん」

何も言わずに、ケイはぐいぐいとスプーンを突き出す。
反射的に、イズルはそれを口の中へと入れる。
銀色に光るそれが引っ込んでから、イズルはそれを味わう。

こ、これって、あーん、ってヤツだよね?
冷えたアイスを食べながら、少し熱い頭で理解をする。
そうしてじっと味わっていると、ケイがこちらをずっと見ていることに気付く。
その目は、ケーキの感想を待っているときの目に似ていた。

415: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/27(木) 20:07:21.49 ID:5a8CoO3n0
「えっと、あ、美味しいよ」

視線に応えるように口を開く。
しかし、彼女はそれに対して、首を横に軽く振った。

「……?」

イズルは首を傾げた。
感想を求めているわけではなかったらしい。
それでは何だろう? とイズルが思う前に、ケイは自分の持っていたスプーンをイズルに示す。

あ、もしかして。
その動きで、イズルは思いついたように自分が渡された同じモノに目をやる。
そ、そういうことだよね?
少し緊張に身を固めながら、イズルは先程ケイがやったようにアイスを掬う。

それから、ゆっくりとケイの口元にそれを持っていく。
すると、ケイも若干ぎこちない動きでスプーンにパクリと食らいついた。
あ、何かかわいい。ネコとかにごはんあげてるみたいで。
そんなことを思いながらも、イズルは手を引いてスプーンを回収する。

「ん…お、美味しいわね」

顔を赤らめながら、ケイはニコリと笑った。
実に満足そうにしていたので、イズルもつい微笑んでしまう。
二人で食べればもっと美味しいんだね、とも付け加えると、彼女は少し恥ずかしげに頷く。
うん、ケイが嬉しいなら、僕も嬉しいな。そう、イズルは思った。



こうして、この後もお互いに恥ずかしがりながらパフェを食べさせ合って、のんびりとしたランチタイムを楽しんだ。

416: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/27(木) 20:08:21.71 ID:5a8CoO3n0
「えっと、あ、美味しいよ」

視線に応えるように口を開く。
しかし、彼女はそれに対して、首を横に軽く振った。

「……?」

イズルは首を傾げた。
感想を求めているわけではなかったらしい。
それでは何だろう? とイズルが思う前に、ケイは自分の持っていたスプーンをイズルに示す。

あ、もしかして。
その動きで、イズルは思いついたように自分が渡された同じモノに目をやる。
そ、そういうことだよね?
少し緊張に身を固めながら、イズルは先程ケイがやったようにアイスを掬う。

それから、ゆっくりとケイの口元にそれを持っていく。
すると、ケイも若干ぎこちない動きでスプーンにパクリと食らいついた。
あ、何かかわいい。ネコとかにごはんあげてるみたいで。
そんなことを思いながらも、イズルは手を引いてスプーンを回収する。

「ん…お、美味しいわね」

顔を赤らめながら、ケイはニコリと笑った。
実に満足そうにしていたので、イズルもつい微笑んでしまう。
二人で食べればもっと美味しいんだね、とも付け加えると、彼女は少し恥ずかしげに頷く。
うん、ケイが嬉しいなら、僕も嬉しいな。そう、イズルは思った。



こうして、この後もお互いに恥ずかしがりながらパフェを食べさせ合って、のんびりとしたランチタイムを楽しんだ。

417: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/27(木) 20:10:02.23 ID:5a8CoO3n0





「――お待たせいたしました、ヒタチ様」

「あ、はい」

そして、時間はあっという間に進み、夜になり。
完全に遊び倒した二人は、パーク内の最高級のホテルの一室に案内してもらっていた。
さすがに最高級の部屋なだけあって、設備も素晴らしい。
ルームサービスだけで一流のレストランを開店できるほどのものだった。

「…ふぅ。疲れたわね」

「うん。楽しかった」

パークで買った仲間たちへのお土産を仕舞うと、イズルは部屋の外のテラスにいるケイの隣に座る。
部屋やテラスの明かりは点けなかった。何となく、人口的すぎる光はこの場には無粋に思えた。
彼女はイズルの言葉に対して、呆れたようにクスリと笑う。

「まだ遊び足りなさそうね」

「え、そうかな?」

「そんな顔してる」

言い合いながら、二人は空を見上げる。
地上三十階なだけあって、ここからは夜空がよく見えた。
いくらでも見てきたはずなのに、二人の視界は、その美しい夜の幕に奪われ続ける。

418: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/27(木) 20:10:58.52 ID:5a8CoO3n0
「――ね、イズル」

「うん」

唐突に沈黙を破るケイの声に、イズルは視線をケイに移す。
彼女は星空を見つめたまま、ポツリと言葉を紡ぐ。

「今日は、ありがとう。楽しかったわ」

ただ、一言。お礼を言うと、彼女はまた黙った。
気恥ずかしそうに、目線をわずかにイズルから離して。
イズルは答えを考える。自分の気持ちを素直にさらけ出せる言葉を。
そして、閃いた答えは単純。

「――うん。ケイもありがとう。ケイがいたから、楽しかった」

その言葉に、ケイは顔をイズルに向けて、無言のままイズルを見つめる。
イズルもまた、自分に焦点の合った薄紫の瞳を吸い込まれるように見る。

419: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/27(木) 20:13:04.33 ID:5a8CoO3n0
ゆっくりと、イズルの顔がケイに近付く。
だんだんと、互いの距離を確かめるように、更新するように。

「あ……」

そうして、息がかかる距離まで二人の顔は近くなった。
そっと、イズルはその両肩に両手を載せる。
ぴくり、とケイのそこが跳ねた。

「……」

イズルは無言のまま、さらに顔を、正確にはその唇を近付ける。
ケイの薄い唇へと。

「……いず、る」

瞳を揺らしながら、ケイはまぶたを閉じる。
それに合わせるようにイズルも、瞳を閉じて。

そして――そして、今。




二人の、影は――――――




420: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/27(木) 20:14:53.81 ID:5a8CoO3n0



――ドーンっ!



「…へ?」

「……?」

突如として夜空に響く音とまぶたの裏に焼き付くような光に、イズルとケイは間の抜けた顔で音源を見る。
そして、言葉を奪われた。
そのあまりの美しさと平和な音に。

「花火だ……」

呆然とイズルは呟く。いつの間にか立ち上がって、できるだけ近寄って華の咲く様を眺めていた。
そうだ。今日はパーク内でパレードがあるんだった。ケイは人込みが嫌いだから事前に止めておいたけれど。
オレンジやグリーン、ブルーに輝く炎の華が、闇の中のイズルとケイに光と音を与えていたのだ。

「キレイね……」

「うん。火薬の音が、こんなにいいって思えるなんて……」

421: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/27(木) 20:16:09.33 ID:5a8CoO3n0
スルガがいたら興奮していただろうな、とふと思った。
きっと、タマキも同じくらいに騒いで。アサギが胃をさすって。
クスリ、と笑みが零れた。
簡単にそんな光景が思い浮かんだ自分がおかしくって、笑ってしまった。

「イズル?」

急に笑ったイズルに不思議そうな顔をしたケイに、彼は身を改める。
それから、どうして笑い出したかを説明した。

「ふふ、なるほどね」

全て説明すると、ケイも同じような反応をした。
きっと彼女も容易に想像ができたに違いない。

「また、ここに来ようよ」

今度は皆でさ、と付け加えて、イズルは明るい空を見上げた。
皆がいれば、もっと楽しいに違いない。
二人っきりのときとはまた別で。

「――そうね。いつか、また来ましょう」

同意するケイの声を耳にしながら、イズルは空の先、宇宙へと目をやる。
そうだ。きっと、またいつか、皆で無事に帰ってくるんだ。
それから、ここだけじゃない、色んなところに遊びに行こう。
内心、イズルは新たな決意をして、大きく頷く。

それから、イズルはふと思い出したようにケイの肩に手を伸ばした。
細いそれを掴んで、イズルは自分の方に彼女を引き寄せる。
ケイは何も言わない。ただ、無言でイズルに身体を預けるようにした。

華が咲く。彼らの多難であろう道を照らすかのように。
この先を、道の続きを示すように。遠い宇宙の先まで、この希望の咲く音が届くように。


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【マジェプリ】もしもイズルが一週間いなかったら
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