430: トリ忘れてた ◆jZl6E5/9IU 2013/06/28(金) 16:39:41.27 ID:rrc6z/RA0
盆栽を一つ

アサギの部屋

アサギ「……」スッ

アサギ「…っ」チョ、キン

アサギ「………ふぅ」

アサギ「…よし、完璧だ」ニコリ

シュッ

アンナ「――アサギー? いるかー?」

アサギ「ん。何か用か?」

アンナ「あのな、じいちゃんが…」

関連作品
【マジェプリ】もしもイズルが一週間いなかったら
【マジェプリ】もしもイズルが一週間いなかったら 短編集 その1

003

431: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/28(金) 16:40:41.83 ID:rrc6z/RA0
アンナ「……」ジー

アサギ「…?」

アンナ「……はっ」

アサギ「おい何だその笑みは」

アンナ「別にー? ヘボパイの趣味はじじくさいなー、なんて思ってねーぞ?」ハン

アサギ「…お前みたいなちんちくりんには分からん。この儚さと美しさは」ハッ

アンナ「」ムッ

アンナ「言うじゃねーか、このヘボ。私に分からないモノなんてない!」

アサギ「…ならやってみるか?」フッ

アンナ「おー上等だ! やってやろうじゃねーか!」スタスタ

アサギ「とりあえずこいつでやってみるか」

432: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/28(金) 16:41:20.18 ID:rrc6z/RA0





アンナ「…」ソー

アサギ「そう、そこだ。慎重にいけ」

アンナ「……っ」チョ、キン

アサギ「…よし。良い感じになったな」ウン

アンナ「ふ、ふー。ら、ラクショーだぜ」アセヌグイ

アサギ「ほー。ここまで三十分ぐらいずーっと一つ枝切るのに使ってか?」ニヤニヤ

アンナ「」カァ

アンナ「お、お前の教え方が悪いんだろ!? 私は何も……」ハッ

433: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/28(金) 16:41:52.70 ID:rrc6z/RA0
アンナ「ま、待って! 今何時!?」

アサギ「だから、あれから三十分…」

アンナ「いっけない! パパたちが…」

アサギ「そういえばお前何しに来たんだ?」

アンナ「パパとじーちゃんにお前を夕飯に誘ってこいって言われてたの!」

アサギ「ああ…そりゃ行かないとな」

アンナ「早く! パパとじーちゃん待たせちまうと悪いだろ!」グイグイ

アサギ「あーはいはい。さっさとな」ヨット

アンナ「お、おう」トコトコ

434: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/28(金) 16:42:59.73 ID:rrc6z/RA0
シュッ

アンナ「…な、なー、アサギ」トコトコ

アサギ「…何だよ?」

アンナ「ま、また」

アサギ「ああ」

アンナ「また、盆栽付き合ってやるよ。その…ど、どうせ誰もやってくれなくて寂しいんだろ?」

アサギ「…へぇ」

アンナ「な、何だよ!?」

アサギ「いや。ありがとよ」ニコリ

アンナ「……おう」ニッ

------------------------------

440: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/28(金) 23:38:36.32 ID:rrc6z/RA0
始まりはいつだったろうか。
それは誰も覚えていない。

「お母さん」

ただ、その一言が引き金だった。

スターローズのイズルの部屋。
そこに、何となく集まっていたチームラビッツのメンバーは、声の主――イズルに視線を集中させる。
それに対して、イズルは自分に集まる視線にはっとしたようにキョロキョロとチームメイトの顔を見渡す。

「…何だよ、急に」

面倒そうに、最年長であるアサギが口を開く。
イズルは自分の言動を顧みるように、ゆっくりとそれに返した。

「いや。あの、スズカゼ教官――じゃなかった、艦長がさ」

「…艦長がどうかしたの?」

躊躇いがちに言葉を探す素振りを見せるイズルに、ケイが続きを促す。
すると、彼はようやく溜めていた言葉を出しきった。

441: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/28(金) 23:39:14.59 ID:rrc6z/RA0
「僕らの、お母さんみたいだな、って」

「……」

「……」

「……」

「……」

イズルの言葉に、全員何も返さなかった。
ただ、イズルの顔を見て、無言を貫く。

「…何だ、そりゃ」

「何を言うかと思えば…」

数秒して、やっとスルガが呆れたような声を出す。
それに同調するようにアサギもため息混じりに返す。
そんな仲間たちの声に、イズルも頭のてっぺんの辺りを掻きながら、苦し紛れの笑みを浮かべた。

「そ、そうだよね。はは…」

そうやって笑ってごまかそうとした。
そうすれば、思い入れしたくない――いや、できない過去のことから、逃れられる。

両親のことですら知らない彼らにとって、それは知識。単語の世界のモノでしかない。
掘り起こすな。分からないモノは分からないで押し通していればいい。
だって、そんなことを考えたって…意味なんてないんだから。
そういった諦めのような結論を早いうちから出していたチームラビッツにとって、『お母さん』は知られざる禁句となっていた。

「…ホント、何を言ってるんだか」

「……おばからー」

そんな風にツッコミを入れられて。この一瞬の世間話は終わりを告げる。
――はずだった。

442: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/28(金) 23:42:19.80 ID:rrc6z/RA0





戦艦ゴディニオンのブリーフィングルーム。
スズカゼ・リン艦長は手にしていたムチをピシャリと鳴らす。
それだけで作戦説明のときですら流れるチームラビッツの緩い緊張感が鋭くなる。

「――以上で作戦の説明は終わりよ」

何か質問はある? と加えて、彼女は鋭い気配のままその場を眺め回す。
生徒であり部下でもある少年たちからは特に何も言葉はない。
コクリ、と頷き、リンは部屋の出口へと向かい――

「あっ…」

と、そのとき。
チームのリーダーであるイズルが手を上げる。
何か聞きたいことがあったらしい。
彼は少し自分の世界に浸りがちなところがあったから、おそらくはぼうっとリンの話を聞いていて反応が遅れたのだろう。

443: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/28(金) 23:43:20.76 ID:rrc6z/RA0
イズルは口を開く。
そして、艦長、といつもの通りにぎこちない声で言う、はずだった。

「――お母さん」

しかし、その言葉はもっと意外なモノだった。
リンの思考が真っ白になる。
あまりにも聞いた言葉の違和感に、空白が生まれてしまったのだ。

「…え?」

呆然と呟くことでしか反応できなかった。
何も返せない。
その言葉の意味を考えて、止まることしかできない。

「あ……」

自分の声に驚いたような顔をしたイズルに、周りにいる彼の仲間も目を見開いて沈黙していた。
その周囲の空気は、実に張り詰めていた。
それを何となく肌で感じたのか、イズルは数秒ほどの混乱をその顔に表してから、ペコリと頭を下げた。

「す、すみません! あの、その、間違えました。艦長」

慌てたように取り繕う声に、ようやくリンの思考も動き出す。
それから、冷静になるように言い聞かせた頭で、淡々と言葉を発する。

「…何かしら、ヒタチくん」

躊躇いがちにイズルは促されると、自分の質問を口にする。
簡単な質問にさっさと答えると、リンは部屋を今度こそ出た。
去り際にチラリとチームラビッツの顔を窺う。
彼らは、少しだけ緊迫感から解き放たれたような顔をしていた。

444: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/28(金) 23:44:14.25 ID:rrc6z/RA0





その日、サイオンジ・レイカは実に機嫌が良かった。
自らの仕事であった機体の整備が困難を越えてようやく完了したから、というのもある。
しかし一番の理由は、単純に以前から発注していた期間限定販売の日本酒が届いた、ということだろう。
さて、とにもかくにも彼女は実に機嫌が良かった。
そんなわけで、彼女が休憩室で幼馴染を見つけて気分よく話しかけるのも当然のことであった。

整備が終わり、後の片付けをピットクルーたちに任せて、自室に帰る途中。
通りかかった休憩室に古くからの友人を見つけ、レイカはそっとその中に入る。

「何してるのーリンリン?」

「レイカ? 仕事は?」

「終わったわよ。そっちは?」

言いながら、レイカはリンの隣に座る。
何故か彼女は少し――落ち込んでいるように見えた。
リンは、特にレイカに対して注意を向けず、ベンチに座って小さな窓から外を眺めている。
その手には、甘い飴ばかり舐める彼女のイメージには合わない、ブラックの缶コーヒー。

「ちょっと、サボり」

「あら珍しい。リンリンがサボるなんて」

本当に意外そうにレイカは言った。
このマジメな昔馴染の女性は、むしろそういう行為をする人間を非難するタイプなのだ。

ははーん、また何かやったな?
鋭く察して、レイカは無言を貫く。
こういうときは、勝手に向こうから語り出す。
レイカは経験則で理解していた。

445: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/28(金) 23:45:47.87 ID:rrc6z/RA0
「…レイカ」

「…うん?」

そらきた。
予想通りの展開に特に驚かずに彼女は何気なく身を乗り出す。
この友人は何かと抱えて絶えないストレスを抱く。
少しでも自分のような人間が軽減してやらなくてはならない。

リンはそんなことを思うレイカのことは知らずに、そっと喋り始める。
その声色は、戸惑いに包まれていた。

「今日、さ。『お母さん』って呼ばれちゃった」

「あの子たちに?」

「うん。イズルに」

「…そう」

あの子ならやりそうね、と感想を心の中で漏らす。
イズルという少年は、どうにも少しぼんやりしているところがある。

しかし、よくあることじゃない、とはレイカには言えない。
何故なら、『お母さん』という言葉はこの場合にはある重みがあるのだから。
親も知らずにいる彼らチームラビッツには、それが押し込められている辛さを考えさせるきっかけになりかねないのだから。

446: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/28(金) 23:46:35.35 ID:rrc6z/RA0
「何て言えばいいか、分からないけど」

リンはレイカの言葉を待たずに続ける。
手に持っている缶コーヒーは、もう中身がないらしく、振っても何の水音もしない。

「母親って、こんなに辛い気持ちになるものなのかしらね」

ため息を吐くようにリンは言い捨てて、立ち上がって空き缶をごみ箱に捨てる。
それから座らずに外に視線をやっていた。
何かから逃れることを望むような目で。

「――リンリン」

「私は彼らの、そんな存在じゃないのに。もっと、ひどい存在なのに」

レイカの呼び声を遮るようにリンは続ける。
困ったわね、とレイカは思った。
酔っているときと違って、冷静なのが厄介だ。
思考がぶれたりなんてしていないのだから。

「私、最低よ。――それを聞いて、嬉しい、って思っちゃったんだもの」

冷徹に、自嘲するような声でリンは呟き、笑った。
吐き捨てるように彼女はさらに加える。

「母親とやらは失格よね」

その言葉を最後に、リンは黙った。
それから、ごめん、とレイカに一言謝った。
こんな話は聞かせるものじゃないわ、と。

447: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/28(金) 23:47:42.22 ID:rrc6z/RA0
レイカは呆れ気味に息を吐く。
まったく、この子は……。

「リンリンってさ、マジメすぎるわ」

考えを纏めると、レイカはさっさと行動に移った。
あまりにもリンは真剣すぎた。
それは彼女の長所でもあるが、短所となり彼女の心に牙を剥く。

「別にさ。『お母さん』じゃなくたっていいじゃない」

特に何の反応も示さないリンを気にせず、レイカは続けた。
これまで見てきたことを踏まえながら、むしろリンの悩みを祝福するように。

「リンリンはリンリンよ。あの子たちにとっての特別な誰かなの」

そう、それはもう明らかなことであった。
これまで、イズルたちチームラビッツは、極端に人と触れ合うことが少なかった。
だからこそ、ほぼ唯一の付き合いの長い大人であるリンを、何かと頼っている。
アッシュに乗って戦うときも、学校を卒業してスターローズに来たときも。

リンは答えない。
その事実を理解しているからか、何も返さず、ただ外に目を向けて、レイカの声を聞いていた。

448: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/28(金) 23:50:36.73 ID:rrc6z/RA0
「それで満足しましょうよ。気負う必要なんてないし、分かってるじゃない」

レイカは立ち上がった。
それから、リンの顔が見えるところまで近付き、隣に並ぶ。
そして、彼女に向かってとびきりの笑顔を見せてやった。
ただ一つ、母親かどうかは別として、存在している事実を教えるために。

「リンリンは母親なんかじゃない。あの子たちの――保護者なんだからさ」

「…レイカ」

レイカの言葉に、リンはやはり顔を背けた。
もう、泣き虫なんだから。
昔からの癖にレイカは安心する。
こうだからこそ、彼女はリンと友人でいられるのだ。

「あ、言っておくけど、私とピットクルーたちもね」

ふと、思い出したように付け加える。
自分のことも計上しておかないと、ちょっと不満だ。
何も彼らはリンだけの子たちではないのだから。

「あの子たちは、もう私たちにとって家族も同然だから」

レイカはそう言うと、それぞれのピットクルーの面々のことを思い浮かべる。
最近は彼らとラビッツのメンバーでよく出かけることもあるらしい。

「…そうね、私たちはもう、そうだったわ」

横を向いたまま、リンは、ふっと唇を綻ばせた。
ふう。やーっと、笑顔になった。
自らの仕事を達成したことに、レイカも改めて笑みを浮かべる。
たぶん今日も美味しいお酒が飲めるだろうな、などと考えながら。

449: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/28(金) 23:51:57.91 ID:rrc6z/RA0





「まったく。素で間違えるか? 普通」

スターローズの食堂。
アサギはサンドイッチを片手に、隣のイズルに呆れたような声を出す。
その声に、集まっていたチームラビッツのメンバーたちもイズルに呆れたような目を向ける。
それを受けて、イズルは困ったような笑みを浮かべた。

「あはは…さっきの、つい引っ張っちゃったみたいでさ」

「……しょうがないわね」

「艦長絶対怒ってたぜ、あれ」

「か、かなぁ…」

スルガの言葉に、イズルは急に自分がとんでもないことをしでかしてしまったような気がしてしまう。
艦長、怒らせると怖いもんなぁ……。
ムチの音を高く鳴らすリンの姿を想像して、そわそわと箸を動かす手の動きが落ち着かなくなる。

「謝った方がいいんじゃなーい?」

タマキが能天気な声で提案する。
確かに、作戦前に何とかして謝っておいた方がいいかもしれない。
かといって、リンには時間がないだろうし、機会はない可能性もある。

――が、そんなイズルの考えとは裏腹に、唐突にそのチャンスはやってきた。

450: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/28(金) 23:53:25.74 ID:rrc6z/RA0
「…あら、あなたたち」

聞き慣れた声にイズルは顔を上げる。
自分の前、タマキの隣にいつの間にか座った人物に、思わず素っ頓狂な声が上がった。

「っ!? あっ、きょ――じゃなくて、艦長」

先程からずっと話題に上がっていた人物、リンが昼食らしいトレーを持ってそこに座っていた。
も、もしかして、さっきのことを――?
そんなことを考えながら、イズルは慌てて挨拶した。
それにつられるようにチームの仲間にも同じように挨拶する。

そして、リンが口を開く。
作戦説明のときの呼び間違えを怒っているかもしれない彼女。
その唇から紡がれた言葉は――

「無理に呼ばなくてもいいわよ」

ずっと、想像の範囲外にあったモノだった。

451: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/28(金) 23:54:51.84 ID:rrc6z/RA0
「え?」

思わず、イズルの目が点になった。
彼女はそんなイズルの反応に対して、穏やかな笑みを返す。

「好きに呼んでいいって言ってるの」

それだけ言うと、真っ先にスルガが反応する。
彼はカレー用のスプーンを握りながら、ニコニコと笑顔で提案した。

「あ、ならなら、リンリンって…ふげっ!?」

「すみません」

「ふふっ、ナイスだったわ、ケイ」

ペコリと、まるで姉のように頭を下げるケイにリンは笑みを零す。
このチーム、こういうところがザンネンなのだが、リンは決して彼らのこの緊張感のない空気が嫌いではなかった。
ケイに遠慮なく机の下で足を踏まれたらしいスルガは少し呻くと、ちぇっ、と唇を尖らせながらまたカレーに意識を向ける。

452: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/28(金) 23:56:06.65 ID:rrc6z/RA0
「あの、艦長」

「何かしら?」

そこを狙ったように、イズルが話しかけてくる。
返事をしながら食事を始めるリンに、彼は遠慮がちに言葉を紡ぐ。

「先程は、その…」

「別に気にしてないわ」

途中で、リンはその言葉を遮った。
何が言いたいのかは分かったし、それは謝る必要のないことだったからだ。
リンは告げる。レイカにも言われたたった一つの結論を。

「私はあなたたちの保護者よ。忘れていないかしら?」

「あ……」

言いながら、イズルに微笑みを向けて、リンはその頭をくしゃくしゃに撫でた。
少しばかり慣れのないぶっきらぼうなそれは、それでいて、イズルをひどく安心させてくれた。
されるがままのイズルの頭から手を離し、リンは笑みを崩さずに向ける。
それを見て、イズルも笑った。いつものような快活さで。

453: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/28(金) 23:57:23.12 ID:rrc6z/RA0
イズルが笑ったことを確認してから、リンはまた口を開いた。
もう一つ、言っておかなくてはならないことがあった。

「ああ、でもお母さんはできれば止めてほしいわね。私はまだそんな歳じゃないし」

「おかーさん」

リンが付け加えた言葉を言い終える前に、タマキがその単語を言う。
リンはそれに素早く反応すると、すぐさま訂正をした。

「タマキ、それはなし」

「……ダメなの?」

禁止する、というリンのセリフに、タマキは隣のリンに下から覗き込むようにする。
その目は、『お母さん』と呼べないことを寂しがるように、ザンネンそうに沈んでいた。
純粋なその瞳に、思わずリンはうろたえてしまいそうになる。

「っ……。し、仕方ないわね」

諦めたようにそれだけ言うと、リンはそっぽを向いた。
タマキは、その了承の言葉にあっさりと笑顔を取り戻す。
一方で、それを聞いたスルガが、ニヤリと不敵な笑みで、からかうように一言リンに告げた。

「お母さーん」

甘えるようなその声に、リンは返す代わりにムチをピシャリと鳴らした。
反射的に固まるスルガに、リンは顔を赤らめつつ、ルールを一つ取り決めた。

「…タマキ以外は禁止」



こうして、しばらくの間、タマキがリンを『おかーさん』と呼んで甘えたり、スルガが『リンリン』とからかってみたり、
ケイが照れ気味に『…お姉さん』と呼んだり、アサギが頑なに『艦長』と呼んだり、
イズルが『お母さん』とやはり間違えて呼んでしまったりする。

さらに言えば、この流れがMJPの他の生徒たちに伝わって、
こっそりとリンが色んな呼び方をされてしまったりするが、当人の知るところではない。

------------------------------

459: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/29(土) 22:07:37.74 ID:2vbw5HrA0
スターローズ――第一回廊

アサギ「」スタスタ

アンナ「」トコトコ

アサギ「」ン?

アサギ「……」クルリ

アンナ「」ン?

アンナ「」パァ!

アンナ「おーい! アサギー!!」ブンブン

460: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/29(土) 22:08:07.42 ID:2vbw5HrA0
アサギ「……」タッ

アンナ「え、お、おい!?」タタッ

アサギ「!」ダダッ

アンナ「待てよー!」ダダダッ

アサギ「」ピュー

アンナ「」タタタッ

アンナ「」タタ…タ

アンナ「」ゼーゼー

アンナ「…あ、あの、ヤロー…何の、つもり、だー」ペタン

461: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/29(土) 22:09:05.82 ID:2vbw5HrA0





アサギの部屋の前

アサギ「はぁ…」フリムキ

アサギ(…何とか振り切った、か?)

アサギ(まったく…アンナのヤツ、人を見つけるやいなや向かってきやがって)

アサギ(ちょっとは気遣えってんだよな)ハァ

シュッ

アサギ(…いや。まぁ勝手に俺が避けてんだけどさ)

アサギ(スルガの野郎、気楽にアサギスペシャル2なんて笑いやがって)

アサギ「……誰がロリコンだっつーの」ハァア…

462: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/29(土) 22:10:53.95 ID:2vbw5HrA0





翌日――食堂

アサギ「」パクパク

MJPのメンバー「」ヒソヒソ

アサギ「」ムッ

MJPのメンバー「」サッ

イズル「えっと、大変だね、アサギ」

アサギ「お前にそんなこと言われたくない」

イズル「……」ポリポリ

463: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/29(土) 22:11:23.06 ID:2vbw5HrA0
スルガ「まーまー、良いじゃん別に。今さらザンネン以外の呼ばわりが増えても」

アサギ「良くねえよ!」デコピン

スルガ「あたっ」ヒリヒリ

タマキ「アサギってロリコンなのー」グデー

アサギ「違うっつーの。だいたい、誰だそんなこと言ったヤツ」

ケイ「さあ。噂なんてどこから出てくるからは誰にも分からないものよね」

イズル「大丈夫だよ、僕らアサギのことは信じてるから」

アサギ「あーはいはい、ドウモアリガトウ」ハァ

464: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/29(土) 22:12:14.03 ID:2vbw5HrA0





スターローズ――第一回廊

アサギ「」フゥ

アサギ(まったく気晴らしにもならなかった…アイツらにそこまでの効果なんて求めてねーけど)

アサギ(そもそも、アンナのヤツが人にあんなに構ってきやがるから――)

アンナ「」ヨロ…ヨロ…

アサギ(…俺は何だ? 一日歩いてるとコイツに一度は出会わなくちゃならない宿命でも背負ってるのか?)

アサギ(……まだ気付いていない、よな?)

アサギ(逃げるが勝ち、だな)クル…

465: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/29(土) 22:12:53.28 ID:2vbw5HrA0
アンナ「ふぎゃっ!」ドターン

アンナ「うう…。いた……」ヒリヒリ

アンナ「くっそー。じいちゃんに素直に頼めば良かったか…」チラリ

アンナ「どーしよ……この荷物」ハァ

アサギ(………)

アサギ「」スタスタ

アサギ「」スタスタスタスタ

アサギ「」スタスタ…ピタ

466: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/29(土) 22:13:24.33 ID:2vbw5HrA0
アサギ「――っ!」

アサギ(だいったい! 誰か手伝ってやれよな! だから俺みたいのが――)

アサギ(俺、みたいのが――)ハァ

アサギ「…何やってんだお前は」

アンナ「」ハッ

アンナ「アサギ! ちょうどいいトコに来た! 手伝ってくれ!」ニコー

アサギ「何で俺が…」

アンナ「いいから! 何か礼くらいするからさ!」グイグイ

アサギ「裾を引っ張んな。……しょうがねぇな」ヨット

467: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/29(土) 22:14:09.51 ID:2vbw5HrA0
アンナ「♪」トコトコ

アサギ「…おい」スタスタ

アンナ「何だ?」

アサギ「昨日は、悪かったな」メソラシ

アンナ「……? 何がだ?」キョトン

アサギ「何がって…お前――」

アンナ「?」

468: ◆jZl6E5/9IU 2013/06/29(土) 22:20:57.17 ID:2vbw5HrA0
アサギ「……いや、何でもない」

アンナ「何だよ? いつもより変だぞ?」

アサギ「俺はそんなに変じゃないだろ」

アンナ「何言ってんだこのヘボパイ」ハン

アサギ「…あ、急用を思い出したわ、じゃあな」

アンナ「え、ちょ、ちょっと待って!」

アサギ「……冗談だよ、冗談」

アンナ「お、お前なぁ……」

アサギ「ほら、早く行くぞ。礼してくれるんだろ?」ニコリ

アンナ「……お、おう」テレ

------------------------------

478: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/01(月) 16:06:56.34 ID:lLxowPKJ0
アサギの癒し

アサギの部屋

スルガ「……」

アサギ「………」ソー

イズル「……」

アサギ「…っ」チョキン

タマキ「……」

アサギ「……」ジー

ケイ「……」

アサギ「……」ニコリ

479: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/01(月) 16:10:09.96 ID:lLxowPKJ0
スルガ「前から思ってたんだけどさ…」

アサギ「何だ?」

イズル「アサギのそれ、何?」

タマキ「木がいっぱいだよねー」ジー

ケイ「見たこともないモノばかりね」

アサギ「何って…盆栽だよ。知らないのか?」

スルガ「さっぱり」

イズル「初めて見たなぁ」

タマキ「盆栽って何するのー?」

アサギ「ざっくり言うと、この木をどれだけキレイに美しく見せられるかを考えて枝を切ったりするんだ。
    …要するに木の演出ってことだ」

タマキ「ふーん…それっておもしろいの?」

アサギ「とりあえず癒しになる」

480: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/01(月) 16:12:47.73 ID:lLxowPKJ0
イズル「見た感じどれも似た木に見えるけど…一個一個違うの?」

アサギ「ああ。そこの低い背のがシンタロウ。で、あっちの枝の太いのがジュンヤ」

ケイ「…? 何だか人の名前みたいね」

アサギ「そりゃ俺が付けたからな」

スルガ「何だそりゃ?」

アサギ「愛着が湧いてくると名前が欲しくなるんだよ」

イズル「へぇー。何かいいね」

スルガ「おいおいただの木だぜ? 名前なんて付けるか?」

アサギ「別にいいだろ。しっくりこないんだよこうじゃねぇと」

481: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/01(月) 16:13:20.49 ID:lLxowPKJ0
タマキ「ねー。こっちのは何て名前ー?」ペシペシ

アサギ「あ! バカ! ヒロキに触るな! 枝が折れちまうだろ!」アワアワ

ケイ「そんな必死にならなくても、木だから簡単には折れないでしょ?」

アサギ「繊細なんだよこいつは。…まったく」ナデナデ

イズル「うーん。お父さんみたいだね、アサギ」

スルガ「相手は木だぞ?」

タマキ「でもー。何かアサギっぽくていいのら」

ケイ「それはどうかと思うけれど…」

アサギ「ん? お前も枝が伸びちまったなぁ…。しょうがない、切ってやるか」ニコニコ

------------------------------

485: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/01(月) 20:16:05.25 ID:lLxowPKJ0
恋をすれば誰もが乙女

スターローズ――ケイの部屋

深夜

ケイ「……」ゴロリ

ケイ「……」ハァ

ケイ(一人って退屈ね…知ってたけれど)

ケイ(……イズルに会いに行きたい)

ケイ(確かに、私が悪かったけど…)

ケイ(だからって、こんなにも長くプライベートで会えないなんて)

ケイ(部屋に出入り禁止って言われてからもう一週間…せめて私の部屋に来てくれたら…)

ケイ(……。その場合どうなのかしら? イズルが、来るとして……)

ケイ(イズルが、ま、まさか、夜這い…とか?)

ケイ「……」

486: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/01(月) 20:17:52.65 ID:lLxowPKJ0



ケイ『……ふぅ』

シュッ

イズル『――ケイ、いる?』

ケイ『い、イズル? どうしてここに?』

イズル『どうして、って――』ガシッ

ケイ『やっ…い、イズル!?』

イズル『いつかのお返しに来たよ』ニコリ

ケイ『あ、あれはもう、謝ったじゃ…むぅ』

イズル『………ぷはっ。あれだけで済むと思ってたの? ケイは甘いね』

ケイ『あ、んんっ! せ、せめて、ベッドで…』カァ

イズル『ダメ。それじゃケイに仕返しできない』ガバッ

ケイ『あっ……』

487: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/01(月) 20:19:03.94 ID:lLxowPKJ0



ケイ「………」

ケイ「」ハッ

ケイ(な、無いわよ、そんなの! あ、あのイズルよ!? そんな、ことするわけが…)

ケイ(…………。で、でも)

ケイ(もし、そうなったら…。わ、私は…)

シュッ

ケイ「!?」

ケイ(え、だ、誰? まま、まさか、そんな、ウソ…!)フトンカブリ

ケイ(い、イズル、が……!?)

488: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/01(月) 20:19:50.20 ID:lLxowPKJ0
???「……」スタスタ

ケイ(こ、こっちに…!)アワアワ

???「……」ジーッ

ケイ(ど、どうしよう? どうすれば…)

???「」フトンメクリ

ケイ(……あっ)

ケイ「――い、イズル! ダメよ、そんな…」

タマキ「……ほえ? いずるー?」ボー

ケイ「……え?」

489: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/01(月) 20:21:53.75 ID:lLxowPKJ0
タマキ「んんー、いずるがどうかしらー?」コックリコックリ

ケイ「…な、何でもないわ。そ、それよりもタマキ、その、どうしたの?」カァ

タマキ「きょーもねれないのー」

ケイ「…もう。しょうがないわね、ほら」テマネキ

タマキ「んー、ありがとー」フトンカブリ

ケイ「はいはい」ナデナデ

タマキ「――ん、ぅ」スー

ケイ「まったくもう、寝るの早いじゃない」

490: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/01(月) 20:22:42.17 ID:lLxowPKJ0
ケイ「……」ゴロン

ケイ(……はぁ。私ってバカね。恥ずかしい)

ケイ「…おやすみ、タマキ」スゥ

ケイ(――イズルも、ね)

------------------------------

492: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/01(月) 20:25:24.21 ID:lLxowPKJ0
「キスして」

部屋に入ってくるや、彼女はそんなことを言った。

チームラビッツの拠点、スターローズの個人用に支給されている一室。
その部屋の主――イズルは突然すぎる言葉に首を傾げる。
あまりにも、それは突飛で、脈絡も何もないモノだった。
とにもかくにも、視線を入口近くに立つ少女――ケイに向けて、彼は疑問を投げ出す。

「ええと、どうして?」

「理由がいるのかしら?」

質問に質問で返すのは感心しないなぁ。
などと思っているうちに、彼女はいつの間にか目の前に立ってイズルの首に後ろから手を絡める。
そのままぐい、と引っ張られて、一気に二人の顔が密接になる。

「や、ちょっと…」

抗議する間もなく。
あっさりと、イズルの唇がケイの柔らかな唇によって塞がれた。
…もう、仕方ないなぁ。
諦めて、イズルはそのまま行為を継続する。
とりあえず、ケイから離れるのを待たなくてはどうにもならない。

493: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/01(月) 20:26:35.43 ID:lLxowPKJ0
「………ん」

ちゅっ、と。
小さなリップ音を立てて、二人の唇は綺麗に離れた。
触れるだけのそれの余韻に浸りながら、イズルはケイの細い身体を抱き締める。

余韻も終わると、イズルはケイの様子を観察してみる。
彼女はといえば、実に物足りなさそうな顔をしていた。

「…甘く、ない」

「へ?」

訳の分からない呟きに反応すると、ケイが顔を上げた。
若干顔を赤らめている彼女は、恥ずかしげにしながら、やっと先程の質問に答えてくれた。

「甘いキス、っていうのがあるんですって」

ケイの説明はこうだった。
その説明の前に、ケイの現在置かれていたある状況についての説明が必要になるが。

494: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/01(月) 20:27:29.22 ID:lLxowPKJ0
今、ケイは食事に制限がかかっている、
というのも、それは彼女の健康状態が原因だった。
ケイは、普段からごはんや野菜、肉も摂ろうとしないで、甘いお菓子ばかりを食事のときに食べている。
そんな彼女の健康状態は医療班も見ていられないほどだったらしい。
それで、ケイはこの一か月ほどは栄養バランスの良いモノのみを食べるようにさせられている。

ここまでが話の前提。
そしてここからが本題。

大好きな甘いモノが食べられなくなって我慢のならないケイは、ある情報を耳にしたらしい。
それが誰からのモノなのかはあいにくと聞けなかったが。

とにかく、話を戻すと。

『甘いキス』というモノが存在するらしい、という情報をケイは得た。
そして、それがどういうモノかも知らずに、彼女はイズルの部屋にやってきていきなりキスをせがんできた、ということだ。
どうすればいいのかも知らずに慌てて来る辺り、彼女も甘いお菓子がなくて相当参っているらしい。

495: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/01(月) 20:29:05.91 ID:lLxowPKJ0
「……何て言うか、ちゃんと調べるべきだったんじゃない?」

「…ごめんなさい」

イズルの指摘に、ケイはとてもザンネンそうな顔をした。
…そんなに甘いモノに飢えてるんだ。
何故か少しだけ罪悪感を抱きながら、イズルもその情報について考えてみる。
このままでは、自業自得とはいえ、何だかかわいそうすぎる。
それに、恋人を助けてあげられないようなヤツはヒーローではない。

そう決意すると、イズルは高い集中力で思考を深めていく。
『甘いキス』というだけあって、何か特殊な方法が必要なのかもしれない。
でも、どうすれば――

496: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/01(月) 20:30:24.18 ID:lLxowPKJ0
「……あ」

それは唐突に脳裏に閃いた。
雷光の如く駆けていく思いつきに、イズルは身を任せて行動を開始する。

「イズル?」

背後で不思議そうにするケイの声も耳に入らない。
イズルは自分の部屋の冷蔵庫に向かって進み、その扉を開く。
あぁ、やっぱりあった。

そっと手を伸ばして目的の物を手に取る。
振り向いたイズルの手の中のそれを、ケイはつい凝視してしまう。
何故なら、それはケイが欲して止まない甘いお菓子だったから。

「どうするの、チョコレートなんて」

イズルの持つお菓子――銀の包み紙に入った板チョコレートを見つめながら、ケイは疑問の声を上げる。
ケイは甘いモノを食べてはならない。
そんな彼女に、それはあまりにも毒々しかった。

それを分かっているはずなのに、イズルはそれを取り出した。
もちろん、彼なりの考えと発想によって。

497: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/01(月) 20:32:16.07 ID:lLxowPKJ0
「こうするの」

短く答えて、イズルはチョコレートを適当なカケラに割ると、口に放り込む。
そして、その様子を羨ましそうに眺めていたケイの前にまた立つ。

「……え?」

ケイが驚く間もなく。
イズルがケイの唇を塞いだ。
彼女が何かする前に、イズルはそのままケイの口内へと舌を滑らせる。

「――!?」

突然のことに混乱するケイに、さらなる驚きの事態が起こる。
口を開いた彼女の舌に、何かが流れ込む。
それに触れた瞬間、ケイはそれが何かを理解して、また、飲み込んだ。

これは――チョコレート?

そう、イズルの食べたチョコレートがいくつか彼女の口内に流れていったのだ。
久しぶりに味わう甘味を、ケイは落ち着かない気持ちのまま、必死に堪能する。
あぁ、これだ。これをずっと待ち望んでいた。
唇が離れて、しばらくしても、ケイは動けなかった。
余韻がずっと、彼女の舌に残っていたからだ。

498: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/01(月) 20:33:14.49 ID:lLxowPKJ0
「まぁ少しくらいなら大丈夫でしょ」

そう言いながら、イズルは微笑んだ。
ケイの喜びに満ちた表情を見て、彼は実に満足そうにしていた。

「……ありがとう」

ようやく余韻が消えて、ケイは平静になり、お礼を一言告げる。
今、冷めてきた頭で考えると、かなり恥ずかしい頼みをしてしまったことに気付いて、少し顔の温度が上昇する錯覚を抱く。

「どういたしまして。えっと、『甘いキス』だったかな?」

「っ、わざわざ聞かないで…」

素でこういうことを言うから、彼は手に負えない。

「…よ、良かった、わ……」

しかしながら、ケイのセリフから、失敗したのかな? と目に見えて落ち込んでいる彼を見ると答えないわけにもいかない。
そんなケイの気持ちも知らずに、イズルは嬉しそうに明るい表情になる。
はぁ、とため息を吐きながら、ケイは踵を返す。
一度自分の部屋に戻って、一人でいたい。

そう考えながらケイは歩き出す。
後ろから、じゃあね、などと言うイズルの声が聞こえる。
………。

500: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/01(月) 20:34:13.91 ID:lLxowPKJ0
「ケイ?」

もう一度、ケイは振り返った。
その視界の中では、イズルがそんな彼女を不思議そうに見ていた。
そんな彼に対して、ゆっくりと、躊躇いがちに、ケイは口を開いた。

「…ま、また。お願いしても、いい?」

言ってから、ケイは目を逸らした。
最初のお願いといい、なんて仕方ないことを頼んでいるんだろう。
しかし、さっきのアレを体験した後だと、今の状況には必要なことだった。
だから仕方がない。……仕方がないのだ。
そう自分に言い聞かせるケイに、イズルから数カケラのチョコレートをもらう、という考えはなかった。

「もちろん。いつでもいいよ」

イズルはあっさりとそれを了承した。
彼にとっては、それは大して気にならない問題だった。
何故なら、ケイとは恋人だから。
キスは確かに慣れないけれど、そういうことは必要だ。
そのようにマンガの知識で認識していた。

「…それじゃ」

「うん、またね!」

そうして二人は別れた。
また会うことと『甘いキス』をするということを約束して。





――その後、二人は本当の『甘いキス』のことを知る。
さらに、それをよく実践していたことを知り、少しばかり気恥ずかしくなって、普通のキスもできなくなったりもする。
もちろん。そんなことで彼らの愛情は冷めないし、また燃えたりもするが。
そのことについては、本人たちのみが知ることなので、この場では語られない。

------------------------------

502: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/01(月) 20:36:22.07 ID:lLxowPKJ0
戦艦ゴディニオン――格納庫

アサギ「ピットクルーの入れ替え?」

リン「ええ」

ケイ「どうしてそんなことを? それぞれの専用機に専用の技術を持ったクルーたちが整備に当たるのでは…」

リン「それはこちらに説明してもらうわ」

レイカ「んーとね、何で変えるかって言うとさ。まぁ単純な話、確認作業みたいなモノなんだよね」

イズル「確認、ですか?」

レイカ「そそ、さっき言ってくれたけど、皆の専用機だから、専用の技術持ちが担当してるんだけどさ。
    それに慣れすぎてるからこそ、見落としちゃうトコとかもあるかもしれないわけよ」

スルガ「だから、入れ替えるんですか?」

レイカ「まーね。ま、たまにはいいんじゃない? 見慣れたクルー以外と話してみるのも」

503: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/01(月) 20:36:55.75 ID:lLxowPKJ0
アサギ「はぁ…」

リン「それじゃあ、私は戻るから。後はお願いね」

レイカ「はいはーい」フリフリ

スルガ「(大丈夫なのかよ、そんな急に…)」

ケイ「(不安だわ…)」

タマキ「(私は嬉しいけどなー)」

アサギ「(そりゃお前だけだ)」

イズル「(ええっと、ほら、大丈夫だよ、きっと)」

アサギ「(適当なこと言うなよ…)」

504: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/01(月) 20:37:49.01 ID:lLxowPKJ0





ブルー1の整備場

アサギ「…お疲れ様です」

シンイチロウ「…ん」カタカタカタ…

シンジロウ「」カタカタカタ…

シンサブロウ「」カタカタカタ…

アサギ「……」

シンイチロウ「」カタカタカタ…

シンジロウ「」カタカタカタ…

シンサブロウ「」カタカタカタ…

アサギ(…何だこの気まずさは)イガ

505: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/01(月) 20:38:38.86 ID:lLxowPKJ0





パープル2の整備場

ケイ「…お疲れ様です」

ダン「ああ、お疲れ」

マユ「お疲れ様、ケイっちー」

ケイ「……何ですか、それ」

マユ「? ケイだから、ケイっちよ」

ケイ「は、はぁ…」

ケイ(なるほど、アサギっちってこういうこと…)ホホエミ

506: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/01(月) 20:39:29.02 ID:lLxowPKJ0
マユ「どうかした?」

ケイ「いえ。…イズルがいつもお世話になってます」

ダン「ははっ、そんなにかしこまらなくていいよ。イズルはおもしろくていいヤツだしね」

ケイ「そうですね、ヘンです」

デガワ「男はな 外じゃなくて 中身だよ」

ケイ「…えっと」

マユ「あー。相手しなくっていいよ」

デガワ「何だよ、今の結構ウマかったろ?」

ダン「どこがですか…」

マユ「まったく、デガワさんは…」

ケイ「……ふふっ」

507: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/01(月) 20:40:14.90 ID:lLxowPKJ0





ローズ3の整備場

アンナ『わー、すっごーい!』キャッキャッ

タマキ『もっと早くするー?』ビューン

アンナ『もっと、もっとー!』

タマキ『よーし! 一気に行くのらー!』カチッ

アンナ『わ、わー!? ちょ、は、ひゃや…』グルグル

ディエゴ「…大丈夫かなぁ、アンナ」ピッピッ

マテオ「なーに、子機だけだから加速制限はついとるし、頑丈な子じゃ。だいたい、あれに乗ってみたいと言ったのはアンナじゃぞ?」

508: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/01(月) 20:41:28.22 ID:lLxowPKJ0
ディエゴ「そうだけど…」ウーン

マテオ「お前はどうも過保護なところがあるのう。この間もアサギくんに…」

ディエゴ「いや、あれは彼がアンナを連れ回すから…」

マテオ「そこからして親バカじゃ、お前は」

ディエゴ「う…」

アンナ「うえっ、気持ち悪い」グデー

タマキ「だいじょーぶー?」セオイ

アンナ「ご、ごめん、助かる…」

タマキ「お姉さんに任せるのらー♪」

509: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/01(月) 20:42:31.88 ID:lLxowPKJ0





ゴールド4の整備場

スルガ「いやー、お姉さま方! お疲れ様でーす!」

イリーナ「ああスルガくん。ちょうどいいところに来たわね」

スルガ「何ですか? 僕でよければ何でも聞いちゃいますよ!」

ロナ「今度お嬢が例の彼とデートに行くらしくてさ」

ジェーン「私たちで全力でコーディネートしてるんだけど、やっぱり男の子の意見も聞きたいじゃない?」

スルガ「えっと、お嬢ってのは…」

イリーナ「あ、そっか。ごめんごめん、ケイのことよ」

スルガ(ケイのヤツ、そんな風に呼ばれてるんだな。っつーか、誰だよ、例の彼って)

510: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/01(月) 20:43:42.79 ID:lLxowPKJ0
ロナ「でね? こっちの服とこっちの二つなんだけど…」

スルガ「うーん、こっちですかねー?」ヒョイ

ロナ「あ、やっぱりそう思う?」

マリー「ええー? こっちの方がいいと思うけどなー」

スルガ「うーん、確かにそれもいいですけど…」

ジェーン「あ、こういうメイクもしたら映えるんじゃない?」

スルガ「ああ、それだとこっちがよくなりますねぇ」

イリーナ「うーん…簡単には決まらないわよねぇ」

スルガ「こっちはお姉さんに似合いそうですねー」

ロナ「あらどうも。でもそれじゃお姉さんたちは落ちないわよー」

スルガ「やだなぁ。僕は全然そんなつもりありませんよー」ハハハ

イリーナ「まったまたぁ。あ、これなんていいんじゃない?」

マリー「あら、本当」

スルガ(…女の園、さいっこーっ!!)ヒャッホー

511: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/01(月) 20:44:35.60 ID:lLxowPKJ0





レッド5の整備場

イズル「――よし、完走しました!」ダダダッ

ヒデユキ「うむっ! 次は腕立て二百回だ!」

イズル「はい!」グッグッ

ノリタダ「いいぞ! 最初は軟そうだと思っていたが、お前! なかなか筋肉の教えが分かっているようだな!」グッグッ

イズル「僕はヒーローになるんです! 鍛えなくっちゃ!」グッグッ

タカシ「いい心がけだ! これが終わったら休憩とランニングに行くぞ!」グッグッ

ヒデユキ「その後は腹筋だ! きっちりとやりきるぞ!」グッグッ

イズル「はい! お願いします!」グッグッ

フィジカル3「おうっ!! 全ては筋肉のために!」グッグッ

イズル「筋肉と、ヒーローのために!」グッグッ

512: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/01(月) 20:45:02.53 ID:lLxowPKJ0





――その後、食堂に集まったチームラビッツは、お互いの顔を見合わせる。
楽しそうにしている者、辛そうにしている者、逞しくなった者など、全員、それぞれが様々な様子でいた。
しかし、それもまた、元のクルーに戻ると、何事もなかったかのように元通りになるのであった。
もちろん、変化をそのまま受け入れた者もいたが。

------------------------------

519: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/02(火) 20:35:38.10 ID:vvu0otWz0
アサギのステキアロマ集

スターローズ――アサギの部屋

アサギ「」シュッ

燭台「」ポッ

アサギ「」ジーッ

アサギ「」スー

アサギ「……」ウンウン

イズル「…アサギのそれ、何?」

スルガ「アロマだとよ。落ち着くんだろ」

イズル「へー、初めて見たよ。何かキレイだね…」

アサギ「…まぁな。このカモミールなんかは香りも良いし、癒しの効果はかなりある」

タマキ「私それ煙いから苦手ー」

ケイ「あんな至近距離で吸うからでしょう? まったく、犬じゃないんだから」

520: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/02(火) 20:36:27.76 ID:vvu0otWz0
イズル「ね、アサギ。他にはどういうのがあるの?」

アサギ「何だよ急に?」

イズル「ちょっと興味が湧いてきてさ、いいかな?」

アサギ「…そう、だな」ウーン

アサギ「」ゴソゴソ

アサギ「アロマって言っても色々と種類がある」

アサギ「例えばこれだ」ドンッ

イズル「ん。さっきのとは違うの?」シゲシゲ

アサギ「アロマってのは、抽出する油の種類で効果が変わるんだよ。
    ちなみにこれはイランイラン。ストレスを解消するのに使われるんだと」カチッ

スルガ「まさにアサギ向けってワケだ」ケラケラ

アサギ「うっせー」

521: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/02(火) 20:37:19.67 ID:vvu0otWz0
イズル「わぁ。良い匂いする…」

ケイ「……そうね。とても甘くて、優しい香りだわ」

スルガ「……ま。悪くはねーな、こういうのも」

タマキ「うーん…」クンクン

タマキ「――あ、煙くなーい!」パァ

アサギ「普通はそうだよ。っつーか、あれはお前が近すぎただけだから」

イズル「ね、アサギ。これ借りてもいい? すっごく気に入っちゃった」

アサギ「…別に。持ってって構わねぇけどな」

522: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/02(火) 20:39:06.03 ID:vvu0otWz0
イズル「ありがとう!」

スルガ「ついでだから俺もいいか?」

ケイ「私も欲しいわね。この匂い、すごく落ち着いてくる」

タマキ「塩辛の匂いとかないのー?」

アサギ「あるワケねぇだろ! ……まぁ、貸してやるけどさ」ハァ

イズル「ありがとうアサギ!」ニコリ

スルガ「悪いな」フッ

ケイ「ありがとう」ニコリ

タマキ「ありがとー」ニコニコ

アサギ「…おう」プイ



その後。何かとアサギにアロマを借りに皆が部屋に入り浸るようになり。
一人でのんびりしていたい、というアサギの願いは叶うこともなく。
それをザンネンに思いながらも、年長者として頼られていると言い聞かせて、アサギはいつも通りに振る舞うのであった。

------------------------------

524: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/02(火) 20:40:56.72 ID:vvu0otWz0
アサギザンネン発表会――何故彼はモテようとしないのか。

グランツェーレ都市学園

寄宿舎――イズルたちの部屋

ケイ「――それで? どうして私たちを集めたの?」

イズル「ええっと、僕も聞いてないんだけど」

タマキ「っていうか、アサギはー?」

スルガ「おう。今日集まってもらったのはだな…」

ケイ「…何なの? こんな休みの日に呼んだからにはちゃんとした用事なんでしょうね?」

スルガ「アサギのことなんだけどな」

タマキ「何なのらー」

525: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/02(火) 20:42:28.98 ID:vvu0otWz0
スルガ「――アイツって、何でモテないんだと思う?」

タマキ「何それー」

イズル「えっと…」

ケイ「」ガタッ

スルガ「待てケイ。話を聞け」

ケイ「あまりにもくだらないお話に呆れてるの。こんなことだったらお菓子でも作ってるわ」

イズル「ま、まぁまぁ。一応スルガの話も聞いてみようよ」

ケイ「イヤよ。どうして私がそんなことに…」

イズル「ほ、ほら。スルガ、どうしてそんなことを?」

スルガ「いやな? アイツって、俺が言うのもあれだけど、気遣いはできるし、成績優秀だし、ツラだって良いしさ。
    何で、それでモテないのか気になってよ。それに、もしかしたらそれを解明したら俺のナンパも……」

タマキ「…言われてみれば。最後以外は確かに気になるのらー」

ケイ「本音だけ言えばよかったのに」フゥ

526: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/02(火) 20:43:40.64 ID:vvu0otWz0
イズル「…そういえば、アサギがラブレター? っていうの、貰ってたの見たことあるなぁ」

スルガ「何!? ホントかよイズル!」

タマキ「それどういう状況?」

ケイ「何でタマキまで突っ込んでいくのよ……」

タマキ「スルガの言う通り、もしかしたらこれが突破口になるかも!」

ケイ「…見上げた根性ね」ハァ

スルガ「ホメても何もでねーぞ?」

タマキ「もー、いきなりホメないでよー」テレテレ

ケイ「……イズルに負けないポジティブさね」

イズル「へ? 僕までそんなホメなくても…」ハハハ

ケイ「…もう、いいわ」

527: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/02(火) 20:44:50.02 ID:vvu0otWz0
スルガ「で、イズル。詳しく聞かせろよ」ズイッ

イズル「ええと、この間の帰りなんだけど。スルガがナンパに行って下駄箱にいなかったときにさ」

タマキ「うんうん」

イズル「その下駄箱に入ってたんだよね、アサギ宛ての手紙」

ケイ「…かなりのベタね」

スルガ「それで、アイツはどうしたんだよ?」

イズル「うーんと、話を聞いた感じだと、断ったみたい」

スルガ「何ーっ!? あ、あの野郎…もったいねーことを……」プルプル

タマキ「何て断ったのらー?」クビカシゲ

イズル「『今はそんなこと考えてる場合じゃないだろ。アンタも生き残るために訓練したらどうなんだ』
    ……って、言ってさようならしてきたんだって。相手の子、泣いてたらしいけど」

528: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/02(火) 20:45:55.28 ID:vvu0otWz0
スルガ「………うわぁ」ドンビキ

タマキ「ひどいのらー」

ケイ「下手な断り方ね。アサギらしいけれど」

イズル「あ、ケイもそう思う? 僕もそう言ったら怒られちゃった」

スルガ「そりゃ怒るわな。…しかし、これで分かったぜ」

タマキ「何がー?」

スルガ「アサギのモテない理由、っつか、彼女のいない理由」

イズル「えっと、それって何?」

スルガ「ズバリだな……」

ケイ「……ズバリ?」ハァ



スルガ「――マジメすぎるっ!!」

529: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/02(火) 20:46:40.13 ID:vvu0otWz0
タマキ「あ、そっかーっ!」

イズル「…まぁ、そうだね」

ケイ「そうね。あなたたち二人には無いわね、それ」

スルガ「…っ、待てよ……。ってことは、だ…」ハッ

タマキ「うんうん!」

スルガ「俺たちはこのままを貫いてりゃモテるってことじゃねーか!」

タマキ「――そっかーっ!」ガーン

イズル「ええと……」

ケイ「……もう放っておきなさい、イズル」ガタッ

イズル「ケイ? どこに…」

ケイ「話は終わりみたいだし、ケーキ作ってくるわ。……あなたもどう?」

イズル「え? …まぁ、よければ」ヨイショ

スルガ「よーし! がんばってモテるぞー!」ワー

タマキ「ぞー!」ワー

------------------------------

539: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/05(金) 00:29:14.81 ID:l6PNrR0W0
最初に彼に抱いたのは、大した感情ではなかった。
他の生徒たちと同じ、ただ、私が教え、導かなければならない一人。
一つ、違うモノを抱いたとすれば。
あの人に似ている、という私的な感想だった。

「ヒタチ君? 聞いているの?」

グランツェーレ都市学園。
現在の私――スズカゼ・リンの職場の、私に与えられた一室。
サイズの大きい椅子に背を預けながら、私は目の前でしんみりとした表情の少年に鋭い目線を送る。

彼――ヒタチ・イズルは、私の目が怖いのか、若干目を逸らしながら、ペコリと頭を下げた。
ふぅ、と私はそんな彼の態度にため息を漏らす。
それから、自分の幅広の机に顔を下げる。
その先には、今ではもうあまり使われていないスケッチブック。
そして彼が私に呼び出されている原因。

「どうして授業中にこんなことをしていたのかしら?」

そう、彼は人が授業をしている最中に、学生らしからぬ行為――具体的に言うと、イラスト描きをしていた。
ここ、グランツェーレ都市学園に属するMJP機関は、将来の士官を育成する、言わば士官学校なのだ。
その中での学生とはつまり、将来軍人になる人間で。
その授業の中で、趣味に時間を割くようなマネをする者がいれば、当然叱る必要がある。

540: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/05(金) 00:30:39.96 ID:l6PNrR0W0
「す、すみませんでした」

顔を上げて、ようやくそんな言葉を返すと、イズルはまた頭を垂れた。
……仕方のない子だ。
心の中で、呆れ気味に呟く。
私は怒っている。もちろん、授業中の行為もだが、もっと別の理由もある。

「君は、将来戦うのよ? 自分を生き残らせるためには、備えなくてはならない。分かるわね?」

「……はい」

そう、私は…どちらかと言えば、心配をしていた。
これは彼に限った話ではないが、私にとって、この学園の生徒たちは全員が気にかかる存在だった。

私は昔、パイロットとして、前線で戦っていた。
現在は違う。敵との戦いで私の部隊は全滅し、私はもう二度とパイロットとしてはいられなくなった。
そんな私がここに来たのは、唯一部隊で生き延びた私の経験を伝えて、将来の兵士たちに少しでも生きて欲しいからだ。

だから、生徒たちには真剣でいて欲しい。
戦って、戦い抜いて。その先の人生を生きていて欲しいから。
…これは余計だったわね。この子たちに、未来はないのだから。
そう自らの考えを評価しながら、私は回転式の椅子を後ろに回す。
いつまでも説教をする必要はない。

「…もういいわ。今日はもう帰りなさい」

「し、失礼します……」

私の声に、何度か礼をしながらイズルはその場を去った。
私以外に誰もいない部屋で、一人、外に目をやる。
空は今日も変わりなく、街の方も平和な世界であることだろう。
今、この瞬間も宇宙では誰かが死んでいるのに。

「……」

無言のまま立ち上がり、私は部屋を後にする。
もう今日の仕事は終わりで。後は――友人に会うだけだ。

541: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/05(金) 00:31:38.71 ID:l6PNrR0W0





「リンリン、今日もお疲れ」

「…お疲れ」

近所の居酒屋で、私は昔からの友人――サイオンジ・レイカと酒を酌み交わしていた。
仕事が終われば、私もただの人間だ。
こういうプライベートのときは、少し力が抜ける。
もちろん、こんな姿を生徒には見せられないけれど。

「いい加減慣れた?」

吟醸酒を煽るように飲むレイカは私にいつもの質問をする。
この仕事に不安を抱えている私に対する心配の声だ。
学園に赴任が決まってから、彼女はずっと私のことを気にしてくれている。
そもそも、この仕事に対する先行きの心配をしていることを言ったのは私だ。
本人には言わないけれど、それを受けてこうして聞いてくれるのはありがたいことだと思う。

「そう、ね」

「歯切れ悪いわねぇ」

「うん……」

答えながら、私はアルコール度数の低い酒を控えめに口にする。
レイカと違って、私はあまりたくさん飲まない。
彼女の場合、ビンが何本も並ぶため、比較の対象にもならないけれど。
それはともかく、その酒の熱に任せて、私は遠慮がちに話題に切り込んでいくことにする。

542: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/05(金) 00:32:42.15 ID:l6PNrR0W0
「実は、さ」

「うん」

「――あの人に、似てる子がいてね」

その言葉に、レイカの眉がぴくりと跳ねた。
何を言っているのか理解しているのか、彼女は口を噤む。
それから、今度はつまみのつくね串を頬張って、やっと声を上げた。

「それって…」

「ええ。この前も言ったかしら」

「ヒタチクン、でしょ?」

「……ええ」

頷く私に、レイカは遠くを見るようにして、無言になった。
彼女は、イズルのことは名前と話でしか知らない。
彼女が黙ったのは、どちらかと言えば、『あの人』のことが理由だろう。
まだ、その言葉を口にすると、私たちは沈黙してしまう。
きっと、レイカなりに気遣っているんだろうな、と思う。
私もまた黙っている。『あの人』のことを思い返して、意識が過去に向くから。

543: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/05(金) 00:33:57.57 ID:l6PNrR0W0





今から数年前、私はまだ新人の兵士だった。成績は最高で人望も厚い、とも期待されていた。
士官学校を卒業し、優秀なパイロットとして私が配属されたのは、同じく優秀な人間が集まる特殊な部隊だった。
初めて仲間となる人々との出会いはまだ記憶に新しい。
何せ、そこで『あの人』と私はお互いを知ったのだから。

『スズカゼ少尉、だな』

『貴官は?』

スターローズ、と呼ばれるGDFの拠点である宇宙ステーション。
初めてその中に入った新兵たちを出迎えるように、一人の男が立っていた。
彼は新人の中の一人である私を見て、勝手に頷いていた。
その表情は、私が来るのを実に楽しみにしていた、ということを伝えている。
何のつもりだろう、と思った私の質問に、彼は実に不敵な笑みを浮かべていた。

『これからお前の上官になる男だ』

『っ! よ、よろしくお願いします』

思わぬ言葉に私は慌てて挨拶をした。
他の兵たちも同じようにする。
しかし、彼は上官に対する無礼には反応せず、ただ快活に笑っていた。
マジメにしている私たちを、くだらないと一笑されているようで、私は少しだけ――本当に少しだけ、不安を感じた。

544: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/05(金) 00:35:23.42 ID:l6PNrR0W0





結論から言うと、『あの人』は実に不真面目で、めちゃくちゃな人物だった。
命令違反などの問題行動も多々見られているし、部隊内でも上下の関係を軽んじて、上層部からは顰蹙を買っているらしい。
それでも、彼が部隊のトップでいられる理由は、その優秀さにあるのだろう。
豊富な発想力。無謀と勇気を分けて実行する作戦遂行能力。危機的状況でも諦めずに仲間を皆助けようとする精神力。
次第に、私や他の新兵たちは、彼がリーダーとしては申し分ない人間であることを理解する。

『大尉。よろしいですか』

『おう。何でも聞けよ』

『大尉ー。食堂の新作カレーパンいかがですー?』

『お、すぐ行くぞ! 俺の分取っておけよ!』

『大尉、マジメに聞いていますか?』

『ああはいはい、お前もどうだ、カレーパン』

『…後でいただきます』

思い出せば、そんな会話しか出てこない。もちろん、戦いの記憶もあるけれど。
というより、戦場を駆けてきたのだから、そのような場面が印象深く残っていることは普通はないことのような気がする。
それなのにそういった日常のような声が聞こえてくるのは、きっと『あの人』のおかげに違いない。

そうやって、いつもいつも、ふざけながらも、仲間のために真剣に戦い、勝ってきた『あの人』。
私が彼に憧れてしまうのも、無理はなかった。
味方を信じ、引っ張り、生き延びてきた彼の力と精神を、私は尊敬していた。
少しでも彼のその強さを盗むために、必死に付いていった。

545: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/05(金) 00:36:42.27 ID:l6PNrR0W0





そして、『あの日』まで私は生き延びてきた。

『次の作戦…勝てるのでしょうか』

母艦の作戦会議室を離れ、長い廊下を歩みながら、私は隣を呑気そうに笑顔で歩く大尉を窺う。
今回、私たちに与えられた任務は、敵――ウルガルという外宇宙生命体だ――の基地を奇襲する、モノだった。

味方と敵の予想戦力では圧倒的にこちら側が優勢だけれど、それこそが穴に見えて仕方がなかった。
敵の技術は、数などでは覆らないほどの段階にある、と私は評価している。
これまでも、小さな部隊との戦いでは、敵を追い払うマネしかできなかったというのに。
倒せる、のだろうか。

『どうにかなるさ、きっと』

私の不安に、『あの人』はいつものように明るい語調で言った。
その声に、神経が昂ぶっていて、つい、私は噛みつくように質問をしてしまう。

『大尉は、何故…そんなに前を向いていられるのですか?』

『……どうしてって、お前な…』

私の言葉に、大尉は意地の悪い笑みを見せた。
まるで私は分かっていない、というような声色で、彼はバカにするようにして、前を向いた。

546: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/05(金) 00:38:47.64 ID:l6PNrR0W0
『スズカゼ。お前、何か夢はあるか』

――夢?
質問に、私は一瞬言葉を濁す。この場合は、きっと軍人以外のことを言え、という意味だろう。
そう意味での夢は、確かにある。ありは、するが。
私は躊躇いがちにそれを告げる。本当に話してもいいか、最後の瞬間まで迷った。

『…教師に、なりたいです』

『ほう。それは何故?』

エレベーターに乗り込む。
一度止まることとなった私たちだったけれど、大尉は階数表示を見上げて、私の方を見ないでまた聞いた。
私はその背中を一瞥してから、俯く。
こんな状況で、そんなことを話していいのかを考えてしまったのだ。
今は、戦うしかないのに。
しかし、私は話す。大尉の言葉の意味を知りたかった。

『これから先、生まれてくる子供たちに……この時代をどう生きていくかを伝えたいんです』

この戦いの時代に生まれてしまうことになる子供たち。
戦いはこの先でまだ終わらない、という確信が、軍人としてあるからこそ、私は未来を生きる子供たちに教えたい。
大切なモノが何か、どうやって、この先の時代に希望を持って生きるのか。
私自身、子供のときの経験が、今の軍人として戦う覚悟や希望を作ってくれたから。

547: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/05(金) 00:40:18.24 ID:l6PNrR0W0
私の答えに大尉は身体を震わせた。
クスクスと抑え目に笑う声がして、私は音の元を知る。
夢を笑われているということに気付き、私は怒りの声を上げようとした。
しかし、その前に大尉が振り返る。
その顔には、笑みなどなく。ただ、私を慈しむような瞳で見ていた。

『お前らしい理由だ。…きっとお前は生き残るぞ』

『それは…』

どういう論拠ですか、と私が聞く前に。
彼はそれに答えた。

『簡単。お前には自分の願いがある。人は本当に目指したいモノがあれば強くなれる。ならなくちゃ、いけなくなる』

輝く瞳で、重々しく呟くように言うと、大尉はまた向きを変える。
話は終わりだ、とその背は語っていた。
しかし、私は口を開いた。
そのような真剣なことを言う彼が珍しくて、もっと会話を続けたくなったのだ。

548: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/05(金) 00:41:06.42 ID:l6PNrR0W0
『大尉も、ですか?』

彼は黙って横顔を見せると、深々と頷いた。
その瞳はまるで深海のように静かで、落ち着いていて――少しだけ、目を奪われた。
彼はそのまま、その唇を動かす。
私はすっかりとそこから紡がれるであろう言葉に耳を集中させて――

『もちろん。キレイなねーちゃんと酒が飲みたい』

『……』

あまりの呆れた答えに、私は大尉の横顔を睨み付けた。
彼は特に悪びれた様子も見せず、豪快に笑った。

『冗談だよ、冗談』

『目は真剣であったように見えましたが』

『ふ、お前とも一杯やりたいな』

『お断りします』

『何だ、酷いな』

『ふざけている大尉に言われたくありません』

この人に少しでも期待した私がバカだった……。
そう思っているうちに、エレベーターは目的の階に着き、私たちはそこで会話を止め、降りる。
任務の時間は近付いてくる。格納庫へと続く長い通路を歩ききれば、もうその時だ。
私と大尉は無言で歩みを進める。
というか私は先に待機しているであろう仲間たちのことを考えていて、喋る余裕がなかった。
もうすぐで、私はまた――

549: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/05(金) 00:43:02.16 ID:l6PNrR0W0
『……ホントのこと言うとな』

突然の大尉の声に、私の注意がそちらに向く。
大尉は、やはり前を向いていた。

『…はい』

私の応える声に、大尉は微笑みを浮かべた。
それは、純粋さのある彼らしい、幼い子供のようなモノだった。

『皆で生き残って、花見がしたい』

『花見、ですか?』

さっきよりはマシではあるけれど、やはりくだらない。
そう思いはしたが、私はそれを不思議と否定する気になれなかった。
大尉はさらに続けた。意気揚々とした調子で。

『おう。風情があるだろ? ウチの部隊、外国出身が多いし、おもしろくなると思うんだよな』

『……やはり能天気ですね、あなたは』

550: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/05(金) 00:43:50.37 ID:l6PNrR0W0
呆れ気味に私は大尉の夢を笑った。
あまりにも呑気で、平和で、それで…楽しそうだったから。
私の言葉に、大尉は私の方を見て、悪戯っぽく唇を歪めた。

『キライか?』

『…別に。悪くありません』

ぷいっ、と首を曲げて、別の方を見た。
何となく、彼を直視できない。
たぶん、素直にその提案を気に入ったと言えないからだろう。

『なら嬉しい』

大尉はそれだけを、本当に嬉しそうに言うと、先を急ぎ始めた。
その背中は、これからを待ち望んでうずうずとしていた。

そして、私たちは格納庫へと辿り着く。
大尉は振り返らない。厚い入口の壁を見つめ、その先にいる自分の部下を眺めるようにしていた。
彼は、その扉を開き、私に向かってか、仲間たちに向かってか、一言だけ発した。

『さ、出撃だ』

『はい!』

私は大尉を追って、歩き出す。戦いの場へ。覚悟と夢を持って。
しかし、世界は甘いモノではない。それだけのモノがあっても、足りないことはある。

――だから、結果は言うまでもなかった。

551: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/05(金) 00:45:51.54 ID:l6PNrR0W0





「……」

戦艦ゴディニオンの、休憩所のテラス。
そこで私は、一人で飴を舐めていた。
時刻は既に深夜、ということになっている。
今いるのは宇宙空間なので、実際にはいつも夜みたいなものだと思うけれど。

敵の補給基地を叩く、という一つの作戦が終わり、私はひどく疲れていた。
そのはずなのに、今はまったく睡眠を取る気にはなれなかった。
何故かは、分かっていた。

私は、作戦の中で、教師として最低のことをした。
ただ一人の生徒を見捨てて、逃げようとしたのだ。
その後悔はもう散々レイカにもぶちまけた。
だけど、泣き腫らしても眠れる気はしなかった。

そうして外に出て、ここでぼんやり過ごしている。
その中で、さっきまで『あの人』のことを考えていた。

552: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/05(金) 00:47:01.27 ID:l6PNrR0W0
結局、私は『あの人』の死に様は知らない。
あの作戦の日、激戦の末、気付けば病院の一室にいたのだ。

きっと、彼らしく諦めずに戦い続けたんだろう、というのは予想できる。
それは知っていた。彼の機体の破片が見つかったとき、その後ろに部下の機体の残骸が漂っていたと聞いていたから。
『あの人』らしく、仲間を庇って――――

そこで、さっきの作戦がフラッシュバックした。
仲間の少女を絶命の危機から救い、身代わりとなった彼――ヒタチ・イズルのことを。
チームラビッツ。特殊な部隊の中でも特殊なリーダーである彼。

そう、私は。
知らず知らずのうちに、彼を気にしていた。
『あの人』と同じように、諦めず、仲間を助け、ひたすら前を向こうとする、彼を。
もちろん、彼は『あの人』と違ってもう少しマジメだけれど。

553: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/05(金) 00:48:13.84 ID:l6PNrR0W0
「あれ。教官?」

はっ、と。
私の意識が虚空から蘇る。
ふとした声に――聞き覚えのある少年の声に、私はすっかり耳を傾けていた。
そして、その声のする方向を向く。

「…こんな深夜に散歩かしら?」

私は数メートル先の暗闇から浮かび上がってくる影に話しかけた。
影はゆっくりと近付いてきて、やがてそのシルエットを露わにする。
そこにいたのは、ヒタチ・イズルだった。

私の呼び掛けに、彼は頷くと、相変わらずの無垢な笑顔を見せた。
それは、私の心に自然と鈍い痛みを与える。

「はい、眠れなくって」

そう言いながら、隣いいですか? と彼は尋ねる。
私は特に言葉を出さずに、顎で示して、彼に許可を出した。
彼は実に嬉しそうに私の隣に並ぶ。
それから、笑顔のままで外の景色に目をやっていた。
彼が子犬だったら、しっぽでも振っているのだろうか、なんてどうでもいいことを一瞬考えた。
もちろん、すぐに私はそれを振り捨てて、イズルの言葉に追及をする。

554: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/05(金) 00:49:16.60 ID:l6PNrR0W0
「それは…」

「やっぱり、怖かったん、でしょうね」

唇を苦笑の形に変えて、イズルは自分の手のひらを眺めた。
その行動が、自分が生きていることを改めて確認するように、私には見えた。

「……そう」

それを思い、私は伏し目がちにそれだけ答える。
彼のその言葉は、私が一番言わせたくはなかったモノだった。
明確な死の恐怖。そんなモノを味わうのは、彼には――彼らにはまだ早すぎる。

私のその反応を最後に、私たちの会話は止まった。
そもそも、私は彼と話をできる気なんてしていない。
私は、彼を見捨てることを選んだ張本人なのだから。
そうだ、私は――彼に、なじられたって仕方ない人間だ。
彼が優しい人間だから、そうしないだけで。

555: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/05(金) 00:50:15.76 ID:l6PNrR0W0
「あの、教官」

「……何かしら?」

私の思考に割り込むように、イズルの声がした。
平静を装いながら、私はその呼び声に応える。
そちらに顔だけを向ければ、彼が私を見つめていることに気付く。
それを確認して、私は躊躇いながらも身体ごと彼の方に向きを変えた。

そして、促されたイズルは私の行動が終わると同時――

「すみませんでした」

頭を、下げていた。

「何が、かしら」

戸惑いを隠して、私はその行為への疑問を口にする。
訳が分からなかった。……彼に謝られる理由なんて、私の記憶には心当たりがない。

すると、イズルは頭を上げて、神妙な顔を見せた。
まるで悪いことをして怒られた子供のような――学園で教えていた頃を思い出させる様子でいた。

556: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/05(金) 00:52:26.84 ID:l6PNrR0W0
「今回のこと、その、ご心配をおかけしたそうで」

「……それは違うわ。謝るべきは、私よ」

冷めた声色で、私はそう返し、一度黙る。
イズルの行動は、鋭く私の心に突き刺さる。
その気持ちを、伝えるべきは、私だ。
なので、私は真っ直ぐに彼を見据えて、その気持ちを言葉にした。

「私の判断で、あなたを見捨てたのだから」

私のせいで、イズルは死にかけた。
これは変わらない。無謀な作戦であれ、それに噛みつかなかったのは私だ。
無理にでも、自分の立場を危うくしてでも、私は止めるべきだった。

イズルは私の言葉を黙って聞いていた。
最後までそれを聞いてもなお、彼はやはり深刻な表情をしている。
そして、彼には珍しく、真っ当な反論を見せた。

「教官。でも、教官が判断しなかったら、ケイまで…だったかもしれません」

はっきりとは言わずに、イズルは答える。
……そう。あのままでは、せっかく助けられたケイまでもが死んでいたかもしれなかった。
現実的な判断では、あれしかなかったのかもしれない。
イズルはそれを踏まえて、さらに言った。

「だから、いいんです。僕は、教官の判断が正しいって思ってますから」

557: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/05(金) 00:55:30.76 ID:l6PNrR0W0
…そうじゃない、と私はその言葉に声を荒げてしまいそうになる。
私は軍人としての最高の一択を理解している。
なのに、それを否定したがっている。教師としての、私が。
それでは、その選択では――

「ヒタチ君、違うのよ。君も生き残るの。皆で」

イズルの声を打ち消すように私は早口で告げた。
彼以外が生き残るのではない。チームラビッツ全員が、進まなくては。
ここまで私が見守ってきた生徒たち。だから、この先も見ていたい。
彼らの未来を。失われてしまった先の可能性を。

「皆で…」

私の言葉をイズルは噛み締めるように繰り返した。
その意味を考えているような素振りを数秒見せると、彼はすぐに申し訳なさそうな顔をした。
イズルは、すぐに人の考えを理解し、それを取り入れることができた。

558: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/05(金) 00:56:37.33 ID:l6PNrR0W0
「すみません。また、怒られちゃいましたね」

もう、間違いませんから。
それだけ言うと、イズルはもう一回頭を下げると、そのまま振り返った。
このまま部屋に帰るらしい。彼は、おやすみなさい、と去り際に言って歩き出した。
私はその背を見送る。少し、頼りないけれど、可能性に満ちた背中を。
『あの人』にも感じた、希望のある――

「…ヒタチ君」

「はい?」

自分の声を驚きながら私は聞いた。
無意識に、私はイズルを止めていた。
そのことを考える間もなく、私はさらに言葉を繋いだ。

「あなた、夢はあるかしら?」

「夢、ですか?」

「ええ」

どうしてそれを聞いたのか、自分でも理解できない。
ただ、『あの人』を思い出していたら、自然と言葉になって出ていた。

559: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/05(金) 00:57:28.14 ID:l6PNrR0W0
イズルはそんな私に大して訝しむような視線も向けず、素直に考えだした。
そして時間にしてみれば十秒にも満たない中で、彼ははっきりと答えた。
彼だけの変わらない想いで。

「…ヒーローになることです」

「…そう」

私はそれだけ返すと、何も言わない。
その言葉を、頭の中で何度も確認していた。
ヒーロー、か。

『キライか?』

…いえ。悪くないです。
脳内に響いてきた懐かしい声につい反応してしまい、私は自分を馬鹿みたいだと笑う。
やはり、根本が似ているのかもしれない。

「えっと……」

そんな中、イズルが反応を示さない私を心配するような声を出す。
あぁ、いけない。さっさと彼を寝かせてやらないと。

「それだけよ。私は何も気にしていないわ。もう、寝なさい」

おやすみなさい、と私は言って、イズルを帰した。
彼は律儀にまたおやすみなさい、とだけ返して、その場を後にした。

完全に彼の姿が見えなくなってから、私は飴を取り出して、舐めた。
私が自分の考えを整理する時間と並行するように、じわじわと甘い味が存外疲れていたらしい頭脳に癒しを与える。
飴がなくなり、棒だけになり始めて、私はやっと、結論を固められた。

560: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/05(金) 00:57:59.29 ID:l6PNrR0W0
「――大尉、ご覧になってますか?」

誰もいやしない虚空に向かって、呟く。
私のこの気持ちを確かめるために。
いつかのように、覚悟を決めていくために。
私は、自分のありのままを自分に向かってさらけ出した。

「私は、あなたのようには、なれません」

その言葉に、不思議と悔しさはなかった。
たぶん、受け入れているからだ。
結局、私は誰かを庇うような勇気があるわけじゃない。
諦めずに、前だけを見続けることもできない。

ですが、と私は一つ加える。
それで構わない。私には、私だけの役目がある。
この決意を、この世界のどこかでさまよっているかもしれない亡霊に誓おう。

「――彼らに、また同じようなことが起きないように、戦っていたいです」

新しい夢。
『あの人』の言葉だ。人は本当に目指すモノがあれば強くなれる。そう、ならなくてはならない。
なら、私は。あの子たちの笑顔のために、強くなって、戦おう。
あの子たちとは違う、大人の戦場で。

------------------------------

568: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/05(金) 20:18:07.28 ID:k8AFoeA80
目指せ! 53万!

ケイの部屋

ピピピ…

ケイ「」ガチャ

ケイ「…」スタスタ

ケイ「……いただきます」

シュッ

タマキ「ケイー」

ケイ「…何かしらタマキ? ケーキでも食べに来たの?」

タマキ「いや、それは遠慮するのらー」

ケイ「そう? …じゃあ、どうしたの?」

569: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/05(金) 20:18:38.59 ID:k8AFoeA80
タマキ「ねね、ケイは女子力ってどうすれば上がると思う?」ストン

ケイ「……また雑誌?」パク

タマキ「何で分かったの!? ケイってエスパー?」

ケイ「あなたの抱えてるそれは?」

タマキ「あ…何だぁ」

ケイ「……女子力、ね」

タマキ「うん。ケイは…あんまりだよね?」

ケイ「…私、これでも料理とかはできるけれど?」

タマキ「…お菓子以外じゃん」

570: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/05(金) 20:19:52.23 ID:k8AFoeA80
ケイ「……あなたの言ってることは理解できないけど。とりあえずもっと女の子らしくすることね」

タマキ「それってどうすればいいのー?」

ケイ「それは……そうね。まずは塩辛の大食いかしら」

タマキ「ええー?」

ケイ「…あのねぇ、あれじゃ男の子みたいよ、あなた」フー

タマキ「むー」

571: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/05(金) 20:20:39.62 ID:k8AFoeA80
ケイ「後は、そうね…お、お裁縫、とか?」

タマキ「おさいほうー?」

ケイ「え、ええ。ほら、あるでしょ? 裾のほつれとかをさりげなく直してあげたりとか」

タマキ「何かベタなのらー」

ケイ「何よ、悪かったわね」

タマキ「んー、もっと色んな人に聞いてきた方がいいかな?」

ケイ「そうね、私では埒が明かないわ」スクッ

タマキ「あ、ケイも来る?」

ケイ「…まぁ、ケーキも食べ終えたし、付き合ってあげるわ」

572: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/05(金) 20:23:11.37 ID:k8AFoeA80





戦艦ゴディニオン――艦長室

リン「女子、力?」

タマキ「はい! きょーかんなら、何か知ってるかなーって」ニコニコ

ケイ「すみません、止めたんですが…」

リン「べ、別に、いいけれど…あ、艦長よ、私は」

タマキ「かんちょー、教えてくださーい」

リン「………」ウーン

リン「…………」ムー

リン「………」アメペロペロ

573: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/05(金) 20:24:32.61 ID:k8AFoeA80
ケイ「…あの、無理にお答えいただかなくても…」

リン「!」

リン「だ、大丈夫よ、少し考えていただけで…」

レイカ「リンリーン、無理しない方がいいわよー」

リン「れ、レイカ!」

レイカ「まったくぅ、そんなのあったら、私たち行き遅れていないよねー?」

リン「う……」

レイカ「ごめんねー、二人とも。私たちじゃ力になれないわ」

ケイ「お、お気になさらず」

574: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/05(金) 20:25:09.67 ID:k8AFoeA80
レイカ「っていうか、イリーナたちに聞いてみたら? そういうの、あの子たち得意よ?」

タマキ「へー、ならそうしまーす! いこ、ケイ!」

ケイ「え、ええ…それでは」

ツカツカツカツカ…

レイカ「いやー、若いのは大変ねー」

レイカ「さ、てと」

リン「行き、遅れ………」ズーン

レイカ「リンリーン、飲もうか?」

リン「ええ……」



その後、女子力向上、とやらを経て、さらに乙女と化したケイが相変わらずの奥手っぷりを発揮したり、
活発な子がウケる、という情報を見て、タマキが結局いつもの路線で過ごすことにしたり、
行き遅れ二人組が酒にまみれて、やっぱり行き遅れたりするのでした。

------------------------------

576: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/05(金) 20:27:26.29 ID:k8AFoeA80
入れ替わり、立ち代わり

スターローズ――アサギの部屋

スルガ「うーん…」

アサギ「何だよ? 珍しく考え込んで」

スルガ「珍しくは余計だ。…いやな、実はさ」

シュッ

イズル「あ、二人ともここにいたの?」

アサギ「何だ、お前か。どうした?」

イズル「いや、二人にまたマンガを…」

スルガ「それはパス」

アサギ「同じく」

イズル「えー…。まぁ、いいけど」

577: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/05(金) 20:28:28.46 ID:k8AFoeA80
アサギ「で、何の話だっけか、スルガ」

スルガ「おう、そうだった。ついでだ、イズルも聞けよ」

イズル「うん。何の話?」

スルガ「…ケイとタマキが性格逆だったら、俺たちどうなってたんだろうなーってさ」

イズル「ええっと…何か想像できないね」

アサギ「お子様みたいなケイと面倒見のいいタマキか…」



ケイ『あー…パフェ、美味しいー』ニコニコ

タマキ『ケイ。いい加減にしておきなさい』

ケイ『えー、だってー』

タマキ『だってじゃないでしょう、まったくもう…』フキフキ

ケイ『え、タマキ?』

タマキ『クリームが付いてるわよ…仕方ないんだから』

ケイ『ありがとー』

578: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/05(金) 20:29:34.16 ID:k8AFoeA80
アサギ「…確かに、ないな」

イズル「何か、タマキがすごくお姉さんっぽいね」ハハ

スルガ「それだとタマキもモテそうだな」

アサギ「確かにな。面倒見がよくて、一応かわいくて、スタイルも…まあまあだしな」

イズル「そう、かな…」

スルガ「…っつーか、手当り次第に告白するケイってのがまずありえないけど」

アサギ「はは、そりゃそうだ」

イズル(……ケイが、か)



ケイ『あ、あの、よかったら…私と』

イケメン『ご、ごめん、俺そういうつもりじゃ…それじゃあ』

ケイ『あ……ま、待って!』

ケイ『……。また、フラれた』ガックリ

579: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/05(金) 20:30:07.26 ID:k8AFoeA80
アサギ「全然想像つかんな」

スルガ「なー」ケラケラ

イズル「……」

スルガ「どした? イズル」

イズル「何か、それはイヤだな、って」

スルガ「ん?」

イズル「ケイがそんな風にしてるの、想像したくないっていうか」

スルガ「何だよ、珍しい。嫉妬か?」

イズル「え、うーん、そういうのじゃないんだけど…」

580: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/05(金) 20:30:44.33 ID:k8AFoeA80
アサギ「…ま、俺もお断りだな。そんな二人」

スルガ「まぁ、そりゃそうだ。そんなの気味悪いしな」

イズル「結局、普通が一番ってことだね」

シュッ

タマキ「――あー、皆ここにいたのー?」

ケイ「…まぁ順当でしょうね」

アサギ「おう、よく来たな」

スルガ「どうした?」

タマキ「うーんとねー」

581: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/05(金) 20:31:27.29 ID:k8AFoeA80
ペラペラペラペラ……

ケイ「」クスクス

イズル「……」ジー

ケイ「? …どうかしたの、イズル」ノゾキコミ

イズル「ケイはいつも通りでよかったな、って」ホホエミ

ケイ「何、それ? 訳が分からないけど……。そうね、あなたもいつも通りみたいね」

イズル「はは、そうかも」

イズル(ちょっとキツイけど、でも、面倒見がよくって)

イズル(実は、一番甘えたがり――)

イズル(――そんな、いつものケイが、僕には一番ちょうどいい)

------------------------------

583: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/05(金) 20:34:53.04 ID:k8AFoeA80
ファンって大変

スターローズ――民間居住区

ケイ「」スタスタ…

通りすがりの人「あ、あの!」

ケイ「…は、はい? どなた、ですか?」

通りすがりの人「クギミヤ少尉、ですよね。よければ、その、サインいただけませんか?」

ケイ「…す、すみませんが、私は芸能人ではないので」

通りすがりの人「あっ…。し、失礼しました。つい、舞い上がってしまいまして…」

ケイ「いえ。お気になさらず」

通りすがりの人「あの、せめて、握手してはもらえませんか?」

ケイ「あ、えと、その…」

ケイ(どうしましょう…断ったらイメージダウンでもする、のかしら。そうしたらこの前の広報の意味が…でも、私は…)

584: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/05(金) 20:36:04.80 ID:k8AFoeA80
???「あ、あの」

通りすがりの人「え?」

ケイ「あっ…」

イズル「すみませんけれど、僕たち、次の作戦で急いで戻らないといけないので…えっと」

通りすがりの人「そ、そうでしたか。いえ、その、すみません。失礼しました」

通りすがりの人「が、がんばってください、ヒタチ少尉、クギミヤ少尉」

イズル「はい、ありがとうございます」

ケイ「はい。がんばります…それでは」ペコリ

通りすがりの人「はい。さようなら」

スタスタスタスタ…

585: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/05(金) 20:36:50.88 ID:k8AFoeA80
ケイ「――ありがとうイズル、助かったわ」

イズル「ううん、いいんだ」

イズル「…あ、あのさ、ケイ」

ケイ「何?」

イズル「ああやって、その、よく話しかけられるの?」

ケイ「え?」

イズル「あ、いや。その、ほら、ちょっと気になってさ」

イズル「ごめん、行こうか」

586: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/05(金) 20:38:05.50 ID:k8AFoeA80
ケイ「……イズル、もしかして、心配、してくれているの?」

イズル「…うん。というか、その…」

ケイ「?」

イズル「何だか、ケイが知らない人に取られちゃったみたいで、さ。ちょっと、その…」

ケイ「妬いて、いるの?」クスリ

イズル「…っ! う、うん…」カァ

ケイ「大丈夫よ。私は、私は…えっと――イズルだけの、モノだから」

イズル「け、ケイ!? それは、ちょっと、語弊があるっていうか…」

ケイ「……っ! あ、いや、あの、私、う…」カァ

イズル「……」

ケイ「……」

イズル「も、もう行こうか」

ケイ「……ええ」

587: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/05(金) 20:39:11.45 ID:k8AFoeA80
スタスタスタスタ…

イズル「――あのさ」

ケイ「うん」

イズル「さっきの言葉、すごく、嬉しかった」スタスタ

ケイ「うん」テクテク

ケイ「……イズル?」

イズル「何?」

ケイ「私、まだあなたの言葉を聞いていないわ」

イズル「あ、そっか…」

588: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/05(金) 20:39:51.69 ID:k8AFoeA80
イズル「僕はケイを信じてる。僕のこと、全部見せて、一緒に考えてほしいくらい」

ケイ「……前の、テオーリアさんやジアートのときみたいに、何も言わないことはないってことかしら?」

イズル「あ、あれは、悪かったよ。でも、もうしないから」

ケイ「……うん」

ケイ「ね、イズル」

イズル「うん」

ケイ「戻ったら、またケーキを焼くから、手伝ってくれる?」

イズル「――うん!」

------------------------------

596: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/07(日) 19:51:15.29 ID:NiiHDx9I0
ザンネンクルー

スターローズ――タマキの部屋前

ジュリアーノ「おお、ここだな」

ジークフリート「まったく、何故私まで付き合わねばならんのだ…お前だろう、頼まれたのは」フゥ

ジュリアーノ「何を言っている。疲れている子猫ちゃんを癒してやるのは、我々の仕事だと思わんか?」

ジークフリート「……仕方ないか」

ジュリアーノ(まったく…こう言うとあっさりとはな。カタブツめ)

597: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/07(日) 19:51:47.45 ID:NiiHDx9I0
コンコン

タマキ「はーい! あ、ジュリアーノ様! ジークフリート様!」ガチャ

ジュリアーノ「や。さっそく一緒にご飯に行こうかと思ってね」

ジークフリート「君も大変だったし、迷惑だったかもしれないかな?」

タマキ「いえ! 行きます行きましょうさぁ早く!」キラキラ

ジュリアーノ「うん、行こう」ニコニコ

ジークフリート「う、うむ」

598: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/07(日) 19:52:19.92 ID:NiiHDx9I0
食堂

ジュリアーノ「さて、と。塩辛ご飯、だったかな?」

タマキ「はいにゃん!」ニヘー

ジークフリート「ふむ。…塩辛というのは初めて食べるのだが、美味しいのかい?」

タマキ「とってもですっ! とっても!」

ジュリアーノ「ふふ、なら楽しみにしようかな」

ジークフリート「あぁ、私はビールも頼もう」

ジュリアーノ「またか…この典型的なドイツ人め」

ジークフリート「いいだろう、好きなんだ」

599: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/07(日) 19:53:14.98 ID:NiiHDx9I0
タマキ「ビール…美味しいんですかー?」

ジークフリート「ああ素晴らしいぞ。…もちろん、君は大人になってからだけれど」

ジュリアーノ「お堅いヤツめ。そこは少し飲んでみるかい、だろ」

ジークフリート「馬鹿かお前は。まだこの子は子供なんだぞ」

タマキ(こ、子供…うう、大人っぽい人のがいいの?)

ジュリアーノ「…まぁいい。子猫ちゃん、君が大人になったら、こいつが良い酒をご馳走してくれるらしいぞ、我々に」

タマキ(そ、それって、数年後までのデートのお約束!?)ハッ

600: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/07(日) 19:54:25.80 ID:NiiHDx9I0
ジークフリート「待て。この子はよしにしても、何故私がお前にまで」

ジュリアーノ「お前と二人きりにさせて子猫ちゃんに何かあっては困るからな」

タマキ(そ、そっか。二人きり…ふみゃー)キャー

ジークフリート「あのな…私をお前のようなヤツと一緒にするな」

ジュリアーノ「それに。いつかのリューデスハイマー・ベルク・ロットランド・リースリング・アウスレーゼのお返しが欲しかったしな」

ジークフリート「あれはお前の奢りだろうが。意外に根に持つじゃないか」

601: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/07(日) 19:55:05.96 ID:NiiHDx9I0
ジュリアーノ「そりゃな。…まぁいい。そういう訳でだ、子猫ちゃん」

タマキ「はいにゃん?」

ジークフリート「どういう訳だ」

ジュリアーノ「黙ってろ。良いこと言おうとしてたんだから」

ジークフリート「お前がか? 信じられん」

602: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/07(日) 19:55:37.72 ID:NiiHDx9I0
ジュリアーノ「……君は生き残らなくちゃならなくなったよ。この先、少なくとも五年は」ナデナデ

タマキ「あ……」

ジークフリート「………自分を大事に、今回のようなことがもうないようにな」

タマキ「――はい!」ニコリ

ジュリアーノ「うん、いい返事だ」ニコリ

ジークフリート「そうだな。…我々は君をいつでもサポートする。十分に頼ってくれ」ニコリ

シオン「塩辛と大盛り白飯お待ちー!」

ジュリアーノ「さ、食べようか」

タマキ「はいにゃん!」

------------------------------

604: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/07(日) 19:57:11.44 ID:NiiHDx9I0
人生はクソゲー(至言)

戦艦ゴディニオン――格納庫

イズル「それじゃ、今日は失礼します」

ダン「ああ、お疲れイズル」

マユ「お疲れー…あ、そうだ、いーちゃんちょっと待って」

イズル「はい? どうかしましたか?」

マユ「これ、貸してあげる」

イズル「ええと、何ですか、これ?」

マユ「今売れてるボードゲームなんだって。私たち忙しいし、もらっちゃったんだけど、いらないからもらってくれないかな」

イズル「は、はぁ…」

605: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/07(日) 19:57:40.52 ID:NiiHDx9I0
デガワ「楽しめよ 仲間と遊ぶ その時を」

ダン「…なかなか面白いし、俺も薦めるぜ、イズル」

デガワ「おい俺を無視するなよ」

イズル「じゃ、じゃあ…借りますね。ありがとうございます」

マユ「うん、じゃねー」ヒラヒラ

606: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/07(日) 19:59:12.64 ID:NiiHDx9I0
アサギの部屋

アサギ「――で、何だそれは?」

イズル「ピットクルーの人たちにもらったんだ。皆で遊べ、って」

スルガ「ふーん。まぁ話には聞いたことあるけどよ…おもしろそーだな」

タマキ「うん! おもしろそー!」

ケイ「いいわね、そういうのも」

アサギ「ま、別に付き合ってやるけどさ」

イズル「アンジュも呼んでくるよ。皆でやりたいし」

ケイ「大丈夫? 来てくれるかしら…」

イズル「大丈夫、来てくれるよ、きっと」

607: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/07(日) 20:00:34.62 ID:NiiHDx9I0





アンジュ「あ、あの…誘っていただいて、あの、あ、ありがとうございます」アカラメ

イズル「気にしないで! 皆で楽しもう!」

スルガ「楽しもうぜ!」

タマキ「たのしもー!」

アサギ「待て待て。ルールくらいちゃんと読めよ」

ケイ「そうよ、しっかり理解しないと後で面倒になるわ」

イズル「あ、そっか」

スルガ「出鼻挫かれるなー…」

608: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/07(日) 20:02:51.89 ID:NiiHDx9I0





イズル「じゃ、僕から行くよ」

スルガ「おう、ルーレット回せよ」

イズル「何とかマンガ家になりたいなぁ…」

ケイ(ふふっ、そんなに真剣に見ちゃって…)クスリ

イズル「えいっ!」クルクルクル…

アサギ「六、だな」

イズル「ええっと…あ! やった、マンガ家だ!」

ケイ「……お、おめでと…」

アンジュ「先輩、おめでとうございます」

イズル「あ、ありがとう、アンジュ」ニコリ

アンジュ「い、いえ…」カァ

ケイ「……」

タマキ「よーし! 次行ってみよーっ!」

スルガ「おし、回せよ!」

アサギ(…ドンマイ、ってトコだな)

609: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/07(日) 20:04:20.47 ID:NiiHDx9I0





イズル「そろそろ、中盤だね」(職業:マンガ家)

スルガ「結構長いな、これ」(職業:電気技術者)

アサギ「…その辺はリアルになってるのかもな」(職業:製薬会社の研究者)

アンジュ「……何というか、良く出来てるんですね」(職業:デスメタルバンドのボーカル)

タマキ「じゃ、次ケイね!」(職業:保母さん)

ケイ「ん……」(職業:パティシエ)

スルガ「ええっと…八だな」

イズル「あれ、このマス何も書いてないね」

アサギ「あー、これは確か、あれだろ。条件満たすと効果が出るヤツだ」

タマキ「あ、ホントだー。隠してあるー」

ケイ「条件は…異性キャラのコマが同列に入ること?」

アンジュ「じゃ、じゃあ…可能性のあるのは、ケイ先輩の後ろのアサギ先輩とイズル先輩だけ、ですね」

イズル「そうだね」

アサギ「……」

610: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/07(日) 20:05:30.39 ID:NiiHDx9I0
スルガ「アサギー。次お前だろー」

アサギ「…じゃ、回すか」クルクルクル…

ピタッ

アサギ「こ、これは…」

タマキ「七、だねー」

スルガ「あー、通り過ぎたか」

ケイ「まぁ、そうそう起きないわよね」

アサギ「……あぁ、そうだな」

アンジュ「じゃ、じゃあ次はイズル先輩ですね」

イズル「うん、えいっ!」クルクルクル…

ケイ「」ジーッ

ピタッ

イズル「あ、六だ!」

ケイ「!」

アサギ「!!」

スルガ「おー、すげー」

タマキ「やるじゃんイズル!」

アンジュ「す、すごいです、先輩!」

611: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/07(日) 20:06:53.45 ID:NiiHDx9I0
ケイ「じゃ、じゃあ、捲るわね…」

イズル「? うん」

スルガ「ええっと…。
   『同じマスに止まった君たちは運命を感じて結婚した!
君たち以外のプレーヤーから一万円ずつ、ご祝儀と十万円のボーナスが支払われる!」

ケイ「け、結婚…」

アサギ「…ほら、一万円」

スルガ「かー、こういうのありかよー」

タマキ「むー、何か釈然としないのらー」

アンジュ「ええっと、おめでとうございます」

イズル「わー、すごいお金になっちゃったね、ケイ」

ケイ「……え、ええ。そうね」メソラシ

イズル「? どうかした?」

ケイ「い、いえ。何でも…」

アサギ「…ほら、次タマキだぞ」

タマキ「うん! よーしっ、私にも来い! 春!」

アンジュ「先輩には来そうにないですけどね…」

タマキ「そういうこと言うと傷付くのらー!」

612: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/07(日) 20:07:43.20 ID:NiiHDx9I0





イズル「よ、ようやく…」

スルガ「終盤まで、長すぎだろ…」

アサギ「まったく…こりゃいい時間潰しになったな」

ケイ「そうね…時間が経つのは早いわ」

アンジュ「二つの意味で…ですね」

タマキ「もーおばあちゃんかぁ」

ケイ「いつの間にか孫まで出来てるし…」

イズル「あはは、じゃ、終わりも近いし…やろっか」

スルガ「…そーだな、人生、終わりか」

アサギ「ああ…終わりだ」

ケイ「……」

タマキ「?」

613: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/07(日) 20:08:44.78 ID:NiiHDx9I0
イズル「ま、回すね」クルクルクル…

ピタッ

アンジュ「あ……」

スルガ「九、か」

アサギ「もう、ゴールだな」

イズル「う、うん…」

ケイ「…『こうしてあなたの人生は幕を閉じました。
     …しかし、これをプレイするあなたの先はこれからです。がんばって、より実りのある、人生を』」

アサギ「…よくある終わり文句だな」

スルガ「ま、テンプレってヤツだ」

アンジュ「…そう、ですね」

タマキ「これからかぁ…」

イズル「うん、これからだよ」

タマキ「私、保母さんになれるかなー」

アンジュ「先輩…」

アサギ「……」

スルガ「……」

614: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/07(日) 20:09:30.11 ID:NiiHDx9I0
ケイ「…なれるわよ、きっと。タマキなら」

タマキ「! …ケイ」

ケイ「だって、あなたは優しいし、良い子だから。だから、その…きっと、良い人も見つかって、この先も楽しく生きていられる、と思う」

イズル「……うん、そうだよ」

タマキ「…イズル」

イズル「僕たちなら、きっと。これよりもっと楽しい人生を過ごせるよ」

アサギ「だと、いいな」

アサギ(こんな、ゲームなんかじゃなくて。きっと、俺は…)ジー

615: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/07(日) 20:10:23.08 ID:NiiHDx9I0
スルガ「…何でもいいけどよ、そろそろ帰るわ。明日も早いだろ?」

アンジュ「そうですね。解散しましょうか」

イズル「うん。じゃあね、皆」

タマキ「おやすみー」

スルガ「じゃな」

アサギ「…よく寝ろよ」

アンジュ「おやすみなさい、先輩」

ケイ「また『明日』ね、イズル」

イズル「あ……」

イズル(……また『明日』…そうだよ)

イズル(これからも、皆と、また『明日』って言うんだ)

イズル「――皆、また『明日』!」



その後、マユから対戦式のカートレースやらロボットゲームやらでまた仲を深めていくチームラビッツなのでした。
ゲーム廃人に近くなる、というおまけ付きで。

------------------------------

621: ◆j2IgCSzIVo 2013/07/09(火) 02:44:06.44 ID:TaJaKIuh0
困る子

戦艦ゴディニオン――ブリッジ

『編隊を組むヤツは皆変態だ!』

『ちょ、アンジュさん…』

『指図するな、この無能が!』

『えっ…』

『あ、あなた、イズルに何てこと言うのよ!』

『黙れ足手纏いが。いい的は大人しくしていろ』

『……っ!』

『…すげぇ毒舌』

『こりゃとんでもないな…』

『びっくりなのらー…』

622: ◆j2IgCSzIVo 2013/07/09(火) 02:44:37.87 ID:TaJaKIuh0
ジュリアーノ「……」

ジークフリート「……敵、完全に消滅」

リン「…チームラビッツ、帰還しなさい」

『りょ、了解…』

『す、すみません先輩! わ、私…また……』

『き、気にしないで、アンジュ。君のおかげで作戦はうまくいったから』

『………す、すみません、でした………』

623: ◆j2IgCSzIVo 2013/07/09(火) 02:45:07.96 ID:TaJaKIuh0
リン「」フゥ

レイカ「何て言うか…大した子がやってきたわね」

ジュリアーノ「彼らの精神面における問題がまた増えたように見えますが」

ジークフリート「しかし優秀なパイロットだし、問題といっても大きい訳でもないだろう」

ジュリアーノ「それはお前のマジメセンサーのお話だろう」ヤレヤレ

リン「……何でも良いわ。私がうまくやっておくから」

ジークフリート「お疲れ様です艦長」

624: ◆j2IgCSzIVo 2013/07/09(火) 02:45:36.66 ID:TaJaKIuh0
レイカ「ま、がんばって、リンリン」

ジュリアーノ「これが終わったらどうです、また四人でお酒でも…」

レイカ「あ、賛成!」

ジークフリート「仕事中だジュリアーノ。それに整備長も」ジロリ

リン「まったくよ…あなたたちね……」

レイカ「二人してマジメなんだからー。いいじゃない仕事の疲れの癒し方の相談したってー」

ジュリアーノ「まったくです。…疲れを癒すことを考えるのは、そのまま仕事の展開に繋がるとは思わんのか?」

ジークフリート「思わんからこう言っているんだ」アキレ

リン「レイカ。少しは真剣にして」

レイカ・ジュリアーノ「「はーい……」」

------------------------------

626: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/09(火) 02:47:27.86 ID:TaJaKIuh0
おせっかいなお姉さん

戦艦ゴディニオン――格納庫

ケイ「それでは、失礼します」ペコリ

イリーナ「お疲れ様、お嬢」

ケイ「それ、止めてください。それでは」スタスタ…

ロナ「じゃあね」ヒラヒラ

マリー「ね、私たちも休憩にしない?」

イリーナ「いいわね。整備も問題なさそうだし」

ジェーン「お茶入れてくるー」

627: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/09(火) 02:48:26.88 ID:TaJaKIuh0
ワイワイ

イリーナ「…お嬢のあれ、どう思う?」

ロナ「リーダー機の子のこと?」

イリーナ「そうそう、イズル君」

ジェーン「どう見たって、ねぇ?」

イリーナ「問題はお嬢が自覚してないところね」フゥ

マリー「そうねぇ…。あれは恋してる目なのに…」

イリーナ「ああいう子は鈍いっていうか、どうも見てるモノが違うっていうか」

マリー「ぐいぐい行かないとね。お嬢、元はかなりいいんだから」

628: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/09(火) 02:49:00.34 ID:TaJaKIuh0
ロナ「そーそー。今度の休日に服買ってあげましょうよ」

ジェーン「メイク道具もね」

マリー「一度落とせば後は一直線よ、あの手の子は」

イリーナ「そうねぇ。二人きりで出かけたりとかすればいいチャンスになるかしら」

ロナ「あ、これなんていいんじゃない?」

ジェーン「あー、駅前のスイパラ? カップル割引やってるんだっけ」

ロナ「そうそう、これならお嬢も誘いやすいってもんでしょ。券、ちょうど余ってるのよねー」

マリー「じゃ、それでいきましょ」

イリーナ「明日にでもうまいこと言っときましょうか」

629: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/09(火) 02:49:36.00 ID:TaJaKIuh0





翌日

スターローズ――食堂

ケイ「ね、ねぇ。イズル」

イズル「ん? 何?」

ケイ「じ、実はね、その…今度の休みは暇かしら?」

イズル「うん。どうかしたの?」

ケイ「その、イリーナ…私のピットクルーの人たちに、こういう券もらって…」ピラ

イズル「へぇ。よかったね!」ニコリ

ケイ「そ、それでね、これ、二人組じゃないと使えなくて…」オソルオソル

イズル「あ、ホントだ」

ケイ「よかったら、一緒に来てくれないかしら?」メソラシ

イズル「うん、いいよ。どうせ暇だしね」

ケイ「そう? それじゃあ後で細かいことは伝えるから」パァ

イズル「うん、楽しみにしてるね」ニコ

630: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/09(火) 02:50:13.13 ID:TaJaKIuh0





そして、当日

ケイの部屋

ロナ「あ、お嬢こっちも着てみて」

ケイ「は、はい…」

ジェーン「あら、いいじゃない! あ、動かないで」パタパタ

イリーナ「そうねー、これなら男の子なんてイチコロよ」

ケイ「わ、私はそんなつもりは……」メソラシ

ロナ「まぁまぁ。おしゃれするのって、女の子にとっては大事なことよ」

イリーナ「そうそう。あ、当日の日程は決まった?」

ケイ「え? …ま、まぁ」

イリーナ「うんうん。せっかくの休日だもの。たくさん楽しんでくるといいわ」

ケイ「……あ、ありがと、ございます」アカラメ

イリーナ「ふふっ、どういたしまして」

631: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/09(火) 02:50:39.38 ID:TaJaKIuh0
コンコン

イズル『ケイ、そろそろいいかな?』

マリー「十分前…予想通りね」

ロナ「服オッケー!」

ジェーン「メイクバッチリ!」

イリーナ「じゃ、出発ね」

ケイ「は、はい…」スタスタ…

ケイ「」ピタッ

イリーナ「?」

ケイ「…い、行ってきます」フリムキ

クルーたち「――行ってらっしゃい、お嬢!」ニコリ

------------------------------

636: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/09(火) 20:15:25.80 ID:ELXJnBNc0
アマネ大尉の一日

AM:5:00

GDF拠点の私室で目覚める。
着替えを済ませてから、部屋を出た。
朝の日課となるランニングのためだ。

軍人として毎日やっていることなので苦痛にはならない。
途中、すれちがう人々に挨拶する。

「がんばれ、アマネちゃん」

「応援しているよ」

こんな調子の激励を受ける。
これを聞くためにランニングをしているのかもしれない。
…守るべき人がいれば、面倒な上司相手でも戦い抜く力が湧く。

637: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/09(火) 20:15:54.50 ID:ELXJnBNc0
AM7:00

食堂で朝食を済ませる。
食事をしながら、昨日残した、というか渡された書類仕事を片付ける。

「まだ終わっていなかったのかね、大尉?」

作業中にその仕事を私に託した張本人が嫌味っぽく話しかける。
申し訳ありません、とだけ平謝りをしてから、何事もなかったように仕事を続ける。
ふん、とだけ笑って、上司は消えた。

638: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/09(火) 20:16:29.42 ID:ELXJnBNc0
AM9:00

今日の仕事が始まる。
戦況の確認。今後の作戦立案の会議。広報担当との打ち合わせ。上司の視察の付き合い。
様々なタイプの職務を一気に果たしていく。
といっても、見守る上司以外の部下たちも手伝うので大して問題にはならない。

作戦会議の中では、これから先は一般兵ではなく、MJPを中心とした戦線の再編成が決まった。
最後までその決定には納得がいかなかったけれど、私には決定権はない。
幼い子供たちを戦線に送る手筈を整える。
上司は、特に何も考えていないらしく、手放しに喜んでいた。
……少し、苛ついた。

639: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/09(火) 20:16:57.30 ID:ELXJnBNc0
PM14:00

しわ寄せのような仕事を片付け終わり、遅い昼食を取る。
もちろん、この間にも仕事は増える。
それ故に、食事をメインに、とはいかず、仕事をしながら食事を片手間に取る、といった感じで過ごしていく。
上司はこの場にいない。
彼は今日、昼からの休暇をもらっていた。

640: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/09(火) 20:17:31.25 ID:ELXJnBNc0
PM16:00

仕事もほぼ終わりかける。
休憩に入り、テレビを見てみた。
その画面には例のMJPの女性兵士たちが映っていた。

広報、という名目で新機体の搬入を密かに行う、という任務だと聞いていた。
しかし、それを知っていても、やはり気分は良くない。
これでは、彼らが偶像か何かのようにしか見えない。
何より、戦勝、という宣伝が虚言だと理解しているせいで、心が痛む。
今朝、がんばれと言ってくれた人々に嘘を言っているようだ。
そのことを深く考える前に、私の元にまた仕事が舞い込んだ。

641: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/09(火) 20:18:03.54 ID:ELXJnBNc0
PM20:00

仕事が終わる。
残ったモノもあるが、それは翌日でも間に合うような戦いには関係ない些事。
今日は、これで終わり。

夕食のために食堂に向かう。
人ももうあまりいないそこで、一人で簡素な食事を済ませる。
空がよく見えるように、窓際の席を選ぶ。
ふと、上司が濡れながら宿舎に戻っていくのが窓の外から見えた。

釣りに出かけた、とは聞いていたが、そのようにずぶ濡れになるモノだろうか、と少し首を傾げる。
…まぁ、あの人ならありえなくもない。それぐらいには不器用な人間だ。

642: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/09(火) 20:18:30.89 ID:ELXJnBNc0
PM22:00

入浴を済ませて、睡眠の準備に入る。
明日やるべき仕事の内容は完璧に予測できていた。
後は、またあの上司がどれほど予想外の仕事を斡旋してくるかだ。
そのことを悩みの種に思いながらも眠る。
疲れのおかげでよく眠れる、と考えると、それなりに問題も気にならなくなる。

……明日も、がんばろう。守るべき人のために。

------------------------------

646: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/10(水) 21:58:29.24 ID:8Qgdup5e0
「皆で散歩に行こう!」

突然、彼はそんなことを言った。

外宇宙用ステーション、スターローズ。
その一室、イズルの部屋に集まった私たちは声の主――イズルに視線を集中した。
彼はいつも通りの突発的なアイデアを口にして、そのまま不思議そうに私たちの目を見る。
どうしてそんな顔をするの、という風にでも言いそうな表情だ。

「…何で急にそんなことを?」

いつもの調子で、アサギがまず質問する。
イズルの提案には、最初に彼が理由を探る役目を持っていた。

647: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/10(水) 21:58:56.50 ID:8Qgdup5e0
「うん、皆で出かけたら、少しはアンジュと仲良くする機会になるかな、って」

なるほど、思ったよりもずっと普通の案だ。
あの子――アンジュが来てから、私たちは未だに上手くやれている自信がない。
その機会を多く作るのは、大事なことだ。

「……なるほど。まぁ、いいかもしれないな」

私と意見がちょうど一致したらしく、アサギが同意の声を上げる。
それに賛同するように、タマキとスルガも同じようなことを言った。
この二人はあのアンジュの戦いぶりで距離を取りかけていたけれど、ちゃんと縮めようとしたいらしい。

「そうね、私も賛成よ」

皆に窺うような目で見られて、私が最後に意見を述べた。
反対する理由は、どこにもない。
それぐらいには、私はイズルたちの考えを信用している。

「よし、じゃあ僕誘ってくるね」

珍しく全員から賛成をもらってか、イズルは若干嬉しそうな声でこの会議を締めた。

648: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/10(水) 21:59:35.33 ID:8Qgdup5e0





「…あ、あの。先輩方、誘っていただいて、その、ありがとうございます」

「いいっていいって。俺たちこそ急に悪かったな、アンジュ」

「ふふん、センパイだからってエンリョしなくていいのらー」

「そーそー、リーダーからしてこんなんだしな」

「こんなのってヒドイよ、スルガ」

「ふふ、そうね。リーダーからこうだから、気にしないで接してね?」

「ケイまで……」

適当な言葉を交わしながら、私たちは早朝にスターローズ内を歩いていた。
私たちの軽口に、アンジュも少しずつ緊張が解れてきているのが分かる。
といっても、まだまだ自分から話すようなことはないけれど。

649: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/10(水) 22:00:38.91 ID:8Qgdup5e0
そうして歩いているうちに、ふと、前を行くイズルが立ち止まった。
そのすぐ斜め後ろを進む私も、思わず止まる。
イズルの見ているモノを見て、停止するのも仕方ないと思った。

「わぁ…」

「……っ」

「…眩しい、な」

「うー、キレーだけど痛いー」

「ん。久しぶりに拝んだな、これ」

「そうか、先輩方はこちらがもう長いんですね」

私たちの前、虚空の闇を明るく照らすそれを、私は目で捉える。
通路を抜けて開けた場所の先。ガラスの向こうの物体。
それの名前は、太陽、といった。
その光に、私たちは息を呑む。
アンジュの言う通り、私たちはここでの生活に慣れていたせいか、あの清々しい光を珍しく感じていた。

650: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/10(水) 22:01:43.15 ID:8Qgdup5e0
「人工とは、なんつーか、違うな」

スルガが人並みな感想を漏らす。
確かにそうだ、と内心で私は同意する。
人工的に、どこか作られた――私たちと同じだ――あの輝きには、大した感慨を抱いたりしない。

しかし、この光は違った。
何も見えない先を遠慮なく、全て照らし出すこの明かりは、私たちまでその輝きの世界に連れて行ってくれる。
自然と、気分が高揚する。

「ちょっと、見て行こうか?」

私と同じように感激でもしたのか、少しだけ調子の良さそうなイズルの提案に私たちは無言で同意する。
私たちは当たり前のように一列に並んだ。
並び順は、適当だった。
左からアンジュ、スルガ、私、イズル、アサギ、タマキ。

そう、私が――イズルの隣に、いつの間にかいる。
いつからかは分からない。けど、ここじゃないと、落ち着かない。
不思議な気持ちだった。

彼の近くにいないと、心が不安になる。
話していると、心が安らぐ。
大事にしたい、と自然に思ってしまう。
これは、何なんだろう。

651: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/10(水) 22:03:28.82 ID:8Qgdup5e0
「ケイ? どうかした?」

「……いえ、何でもないわ」

イズルに話しかけられて、深い思考の世界から戻ってくる。
何を考えていたんだろう、私は。
少し目を逸らしている私に、イズルは相変わらずの笑顔でいた。
純粋で、私には少し眩しい、あの笑顔だ。
自分の心が悟られたみたいで何となく気恥ずかしくなって、イズルから顔を背ける。

その先で、イズルと同じくらい輝く太陽に、私は目を細めた。
チラリ、と周りの様子を窺う。
……皆、その光に見とれていた。
誰も彼もが、少しずつ私たちの世界を彩るそれに、目を奪われていた。

こうして、暖かく照らされるなら。

私の、この想いも――

私は、ゆっくりと、右手を伸ばす。
その先には、イズルの左手が宙ぶらりんになっている。
そう認識しながら、私は自分のそれを彼のそれと重ねようと、した。

652: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/10(水) 22:03:57.79 ID:8Qgdup5e0
「……っ」

けれど、手が引っ込んだ。
肝心なところで、私は何となく気後れした。
妙な緊張が手から伝わってしまいそうで、怖くなった。
私の、ヘタレ。

「……」

「……?」

ふと、視線を感じた。
それは、そう、私の右隣から。慈しむような、優しい気配。
あの太陽と、同じ。
誰からのモノかは、言うまでもなかった。

ぎゅ、と。
私の右手が取られた。
私より少し大きくて、年頃の男の子らしく、逞しい手。

653: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/10(水) 22:04:25.41 ID:8Qgdup5e0
「……ぁ」

小さく漏らした声は、チームの皆には聞こえなかったらしい。
私がその声を向けた、彼以外には。

私の顔が熱くなる錯覚を感じるのと、彼の顔を見返したのはほぼ同時だった。
もう一度見たその顔には、やはり笑顔。私の心まで温める、暖かすぎる太陽。

それを眺めて、私は。私は……

同じように、笑いかけた。ぎこちなく、だけど、心の底から。
彼はそのまま満足したように頷くと、また目の前の光に向き直った。
その横顔は綺麗で、見ていて嬉しかった。
私だけの彼が、そこにいる。
それだけで、私の世界はもう満たされていた。




私も、光と向き合う。光はその体全てを現わし、私と彼の手を照らす。
そうして、暖かくなった繋がりを感じながら、流されるままに、彼の手と指を絡めて、握り返した。

------------------------------

661: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/12(金) 00:10:18.87 ID:TfNsQoQf0
乙女っていいよね

戦艦ゴディニオン――格納庫

イズル「あ、アンジュさーん!」タタタ…

アンジュ「どうかしましたか、先輩」

イズル「マンガの評価、してほしいんだけど」

アンジュ「わ、分かりました。では、原稿を…」

スルガ「まったく、イズルのヤツ、ベタベタだな」

アサギ「そりゃ、自分のマンガ真っ向から評価してくれるヤツなんていなかったからな」

662: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/12(金) 00:11:19.18 ID:TfNsQoQf0
タマキ「ケイー、どうかしたのー、じっと見てー」

ケイ「……別に、何でもないわ」

タマキ「……」ンー?

タマキ「……」ピーン!

タマキ「あ、そっかー! アンジュ取られてシットしてるんだー!」

ケイ「は?」

タマキ「うんうん。私も分かるー。アンジュカッコいいもんねー」

ケイ「…あんたと一緒にしないで」

タマキ「あれ? 違ったのら?」

スルガ「おめーもまぁ地雷へ突っ込んでいけるよな」

アサギ「まったくだ…。アイツはアイツで何も気にしてないし」

アンジュ「ですから、ここのコマはこう割った方がインパクトが出て…」

イズル「そ、そっか!」メモメモ…



その後、アンジュの的確すぎる指摘のおかげか、さらなるマンガの上達を見るイズル君なのでした。

------------------------------

664: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/12(金) 00:12:25.80 ID:TfNsQoQf0
勘違いって、大変

スターローズ―― 一般居住区

ケイ「」スタスタ…

ケイ(せっかくの休みなのに…どうしてこんなところを歩いているのかしらね)

ケイ(この辺り、だったわね。あの、テオーリアさんと、イズルが会ってたのは…)

ケイ(本当に、何でこんなところに、来たのかしらね、私は)

665: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/12(金) 00:13:05.90 ID:TfNsQoQf0
デモボクハ… イズルワタシハ…

ケイ(………っ、この声は…)カクレ

イズル「」ペラペラ

テオーリア「」ニコリ

ケイ(イズ…ル? それに、テオーリア、さん)

イズル「」ニコニコ

テオーリア「」ニコリ

666: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/12(金) 00:14:34.28 ID:TfNsQoQf0
ケイ(どうして、イズル? あなた、そんな顔、私たちの前じゃ見せてなかったじゃない)

ケイ(どうして、その人なの? 昔を知っているから? まるで、物語のヒロインみたいだから?)

ケイ(私が、あなたと同じヒーローを目指しているから?)

ケイ(どうして、なの……。あなたなんて、あなたなんて……)

イズル「テオーリアさん、僕は…」

テオーリア「……」

ケイ(止めて。それ以上、先は言わないで。そんな、ヒーローみたいな顔をしないで)

イズル「――あなたのヒーローになります!」

テオーリア「イズル……」ホホエミ

ケイ(っ! う…)ウズクマリ

667: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/12(金) 00:15:17.83 ID:TfNsQoQf0
イズル「あ、招集が…失礼します!」タッ

テオーリア「……」ジー

ダニール「…戻りましょう、テオーリア様」

テオーリア「ええ…」クル

ケイ(私も…行かないと……)ソー

テオーリア「……イズルのこと、お願いしますね」

ケイ(!)

テオーリア「彼には、生きていてほしいですから」ポツリ

ケイ(……)

668: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/12(金) 00:15:55.91 ID:TfNsQoQf0
ダニール「テオーリア様?」

テオーリア「今、参ります」

スタスタスタスタ…

ケイ「……」スクッ

ケイ「……何よ、それ」

ケイ(全て分かったような顔して…)

ケイ(何なんですか、その余裕は)

ケイ(これじゃ、張り合おうとしている私が、バカみたい…じゃないですか)

ケイ「…………私じゃ、あなたには届かないんですか」

------------------------------

680: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/15(月) 22:08:59.37 ID:U3SzJWnp0
家族、とは。

戦艦ゴディニオン――格納庫

アサギ「だから、ここはこうやって回路を変えてやるとだな…」

アンナ「なるほどー、それは知らなかったな…」

イズル「――アサギー、そろそろケイがケーキ焼けるってー」テクテク

アサギ「おう、今行くよ」

アンナ「…アサギって、兄貴みてーだな」

アサギ「は?」

681: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/15(月) 22:09:27.74 ID:U3SzJWnp0
アンナ「いやさ、レッドファイブのヤツが呼びに来るの、何かアサギの弟みたいでさ」

アサギ「弟? アイツが…」

イズル『兄さーん』ブンブン

アサギ「」ブンブン

アサギ「ないな。それは絶対」

アンナ「そっかー?」

アサギ「アイツが弟とかはまずありえねぇな」

アサギ「っつーか、俺には家族はいないしよ」

アンナ「ふーん…。ま、そう言うならいいけどさ。じゃーな、アサギー」

アサギ「…おう」フッ

682: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/15(月) 22:11:23.90 ID:U3SzJWnp0





ケイの部屋

シュッ

スルガ「お、来たか」

アサギ「…おう。ケイは?」

イズル「タマキ呼びに行ったよ」

アサギ「そうか…で、問題のブツは?」

スルガ「……ここ」フー

青色の物体「」ケーキダヨー

683: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/15(月) 22:15:45.10 ID:U3SzJWnp0
アサギ「もう色からしてアウトだろ、これ」ウゲ

スルガ「はぁ。腹くくれよ、アサギ。腹キツイだろうけどよ」

イズル「ま、まぁまぁ。ほら、皆で食べればきっと…」

アサギ「どうにもなんねーよ」

スルガ「と、とにかく、頼むぜ、アサギ、イズル。俺は犠牲はゴメンだ」

アサギ「俺だってゴメンだ。お前も一緒に生贄になれ」

イズル「ここまで来たらがんばるしかないよ、スルガ」

スルガ「はぁ…。しょうがねーか」

684: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/15(月) 22:16:43.73 ID:U3SzJWnp0
シュッ

ケイ「皆揃ったみたいね」

タマキ「あーん、私いらないって言ったのにー」

ケイ「遠慮なんていらないわよ、タマキ?」

タマキ「えー…エンリョなんてしてないのらー」

スルガ「諦めろよ、タマキ」

イズル「あはは…ほら、ケイのケーキ、きっと美味しいよ……甘くて」

アサギ「」フー

ケイ「さ、召し上がれ」ズイ

黄色の物体「」ウケイレヨ

685: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/15(月) 22:17:30.16 ID:U3SzJWnp0
タマキ「うわーん! 助けてアサギにーちゃん!」

アサギ「誰がにーちゃんだ、誰が」

スルガ「アサギにーちゃん…くくく」

アサギ「っ、笑うな!」

イズル「ええと、あの、それだけアサギが頼りになるってことだよ、たぶん」

アサギ「都合の良い解釈すんな」

ケイ「…もう、お喋りよりもほら、食べてよ」ズイ

イズル「あ、えっと、うん」

アサギ「…ほら、タマキ。食えよ」

686: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/15(月) 22:18:10.44 ID:U3SzJWnp0





アサギ(ったく、何が兄さんだよ。くだらない)

アサギ(俺が長男、ケイが長女、イズルが次男、スルガが三男、タマキが次女……ってところか)

イズル「」モグモグ

スルガ「」ウヘー

タマキ「」グスッ

ケイ「」ニコニコ

アサギ(…ホント、くだらない)フッ

------------------------------

688: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/15(月) 22:20:35.28 ID:U3SzJWnp0
死にそうスリー

戦艦ゴディニオン

イズル「ええと、ご無事でしたか、先輩」

ランディ「おう、お前に助けられる時が来るとはなぁ」

チャンドラ「ふ、この借りはいつか戦場で返してやろう」

イズル「え、あ…」

ランディ「? どうした? 慌てたようなツラして」

イズル(い、今の言葉…マンガで見たことある)

イズル(た、確か…死亡フラグっていう……)アワアワ

689: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/15(月) 22:21:28.66 ID:U3SzJWnp0
シュッ

パトリック「――いやー、タマキちゃんはかわいいですねー」テクテク

ランディ「ったく、お前も分からんな。確かにあの子はかわいいが」フー

チャンドラ「まさかお前がな…」

パトリック「いいじゃないですか、僕が誰に好意を持ったって。きっとこの戦いが終わったら全力でアタックしますよ」

イズル(い、今…のも……)アワアワ

チャンドラ「ま、この戦いが終わるのはいつになるか分からんがな」

ランディ「ははは、そーだな」

イズル「……」ウツムキ

690: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/15(月) 22:23:12.48 ID:U3SzJWnp0
パトリック「……大丈夫だよ、僕らなら。生き延びれるさ」

ランディ「そうだぜ、イズル」

イズル「そう、ですよね」ニコリ

ランディ「おう、そうだその顔だ。教えたろ?」ニッ

イズル・ランディ「「ヒーローは顔が良いこと!」」

イズル「」クスクス

マンザイスリー「」ニッ

イズル「…じゃあ、失礼します」

ランディ「おう、またな」

チャンドラ「ふ、今度会う時はこの馬鹿の手綱取りが終わってるかもしれんがな」

イズル(っ!? そ、それも危ないですよ、先輩っ!!)

------------------------------

692: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/15(月) 22:24:42.09 ID:U3SzJWnp0
おままごと

ケイ「おままごと?」

タマキ「うん」

イズル「何それ?」

タマキ「ごっこ遊びなんだってー、前の仕事でおこちゃまに教えてもらったのらー」ニコニコ

アサギ「…で?」

スルガ「…まさか、俺たちにそれ、付き合えってのか」

タマキ「うん!」

693: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/15(月) 22:26:08.43 ID:U3SzJWnp0
ケイ「…どうしてそうしようと思ったの?」

タマキ「だってー、すっごくおもしろそーだったんだもん」

アサギ「そりゃ、相手は幼稚園児だもんな」

スルガ「おもしろくもなるわな」

タマキ「でしょ!」

ケイ「さすがにやらないわよ。私たち、いくつだと思ってるの?」

タマキ「ええー……」

694: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/15(月) 22:27:11.22 ID:U3SzJWnp0
イズル「ええと、ほら、タマキ、えっと…」

ケイ「無理にフォローしなくていいわよ」

アサギ「そうそう。無茶言ってるのはタマキだ」

スルガ「ほら、諦めろよ、タマキ」

タマキ「ううー……」ガクリ

イズル「……」

イズル「」ウーン…

イズル「」ピーン!

イズル「じゃ、僕たちだけでやろっか、タマキ」

タマキ「!」

695: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/15(月) 22:27:52.01 ID:U3SzJWnp0
タマキ「え、いいの!」

イズル「僕も少し興味あるし、付き合うよ」

タマキ「ありがとーイズル!」ニコニコ

ケイ「…仕方ないわね」フー

タマキ「ケイ?」

ケイ「私も付き合うわよ。二人だけじゃ、つまらないでしょ?」

タマキ「ホントー!? わーい!」

イズル「ありがとう、ケイ」

ケイ「いいわよ、しょうがないものね」

696: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/15(月) 22:28:46.47 ID:U3SzJWnp0
アサギ「……」

スルガ「……」

スルガ「ったく、しょうがねーな、ホント」

アサギ「!」

イズル「あ、スルガもやってくれるの?」

スルガ「ま、暇だしな」

タマキ「ありがとー」ニコニコ

アサギ「………」

697: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/15(月) 22:29:13.00 ID:U3SzJWnp0
アサギ「仕方ねーな、まったく」

スルガ「んだよ、アサギ。お前と違って俺たちはお子様なんだよ」

タマキ「そーだそーだー!」

アサギ「好きにしろよ。俺はここで見物だ」

イズル「え、そう?」

アサギ「さすがに俺はやらないからな」

ケイ「まぁ、仕方ないことね」

イズル「うん。じゃ、始めようか」

タマキ「おー!」

698: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/15(月) 22:30:22.96 ID:U3SzJWnp0





イズル「ただいまー」ドアアケルフリ

タマキ「おっかえっりー!」タタタ

スルガ「お帰りー」フリフリ

ケイ「お帰りなさい、あ…あ……あな……」ウツムキ

イズル「? ただいま」ニコリ

ケイ「!」カァ

アサギ「……」

699: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/15(月) 22:30:50.39 ID:U3SzJWnp0
ケイ「…ごはん、出来るから」プイッ

イズル「うん。今日は何かな?」

タマキ「塩辛ーっ!」

スルガ「カレーっ!」

イズル「バラバラだなぁ」

ケイ「何言ってるの、パフェよ」

イズルたち「ええー…」

ケイ「……冗談よ」

アサギ(…見事に喜劇だな、これ)

700: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/15(月) 22:33:06.89 ID:U3SzJWnp0





イズル・タマキ・スルガ「「「ごちそうさまでした!」」」」

ケイ「…ごちそうさまでした」

タマキ「よーし、おとーさん、遊ぶのらー!」

スルガ「おいおい、今日は俺と格ゲーやるんだよ」

タマキ「ええー、スルガずるいー」

スルガ「昨日、一昨日と占領してたくせに…」

タマキ「あにをーっ!」

701: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/15(月) 22:33:48.15 ID:U3SzJWnp0
イズル「ええと、二人とも…」

ケイ「こら、ケンカしないの」

タマキ「でもー」

スルガ「だってよー」

イズル「あ、そうだ。じゃあ、三人でパーティーゲームしよ? ほら」

タマキ「あ! それいいのらー!」

スルガ「…しょうがねーなー」

702: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/15(月) 22:35:19.76 ID:U3SzJWnp0
ケイ「さりげなく私を入れないとはいい度胸ね、あなた?」

イズル「へ、あ、ケイもやる? てっきりこういうのは…」

ケイ「やるに決まってるでしょう? 私だって、家族と団欒したいもの…。普段はあなたはヒーローでなかなか一緒にいられないし」

イズル「あ……。ごめん、ケイ…」

ケイ「…別にいいわよ。ほら、始めましょう?」クスリ

タマキ「おとーさんおかーさん早くー」

スルガ「ほら、コントローラー」

イズル「うん、やろっか」



アサギ(なかなか皆演技うまいな……)

703: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/15(月) 22:35:57.32 ID:U3SzJWnp0





タマキ「」コックリコックリ

スルガ「タマキ、眠いなら寝ろよ」

タマキ「やーらぁ…。まだ、あそぶー……」

イズル「タマキ、そろそろお父さん疲れちゃったし、止めよう?」

ケイ「そうよ、タマキ。また明日、皆で遊びましょう?」

タマキ「……んー…あしたー?」

スルガ「そ、明日」

タマキ「……しょーがない、のらー」コクリ

タマキ「」スー

704: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/15(月) 22:37:24.45 ID:U3SzJWnp0
ケイ「ホントに寝ちゃったわ…」

スルガ「…じゃ、終わるか」

イズル「そうだね。もう、時間も遅いし」

アサギ「結構熱中してたな、お前ら」

ケイ「そうね、かなり集中してたわ」

イズル「今度はアサギもやらない? 結構おもしろいよ」

アサギ「いや、いい。なんつーか、見てるだけで十分だ」

705: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/15(月) 22:38:13.94 ID:U3SzJWnp0
スルガ「そっか? 俺は結構見てみたいけどなー、アサギおじいちゃん」

アサギ「待て、俺のポジションそこか? せめてイズルの兄貴とか…」

イズル「あ、それいいね! 兄弟でヒーローかぁ…」

アサギ「勝手に職をヒーローにすんなよ…」

ケイ「――ふふっ、何だかんだ言って、私たち楽しんでたのね」

イズル「うん。また今度、皆でやろう!」

スルガ「…ま、そうだな」

タマキ「…んへへー、もっとあそぶー……」ニコニコ



その後、新たにお父さんのお兄さんが加わったり、
近所のおばさ…お姉さんたちが加わったり、新しく黒い子供が入ったりして、賑やかな家庭が生まれるのでした。

------------------------------

707: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/15(月) 22:39:56.23 ID:U3SzJWnp0
スズカゼ艦長の一日

AM5:00

いつも通りの時間に起床する。着替えを済ませてから、今日一日の予定を確認。
チームラビッツには任務は入っていないけれど、艦長としての職務は多い。
シャワーを浴びつつ、行動をシュミレートしておく。

AM7:00

食堂にて朝食を取る。
今日は珍しくチームラビッツのメンバーたちと一緒だ。

「それでね、教官…」

「タマキ。教官じゃなくて艦長だ」

「ったく、いつになったら慣れんだよ、お前」

「むー」

「ええと、すみません、教官」

「あなたも間違えてるわよ」

「あ…」

「先輩、さすがにそれはまずいですよ」

今日も今日とて、彼らの連携はバッチリのようだ。
大っぴらにすると、威厳がなくなるので、こっそりと笑みを零す。

708: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/15(月) 22:40:57.33 ID:U3SzJWnp0
AM9:00

戦闘の下準備のような事務的な仕事を終わらせていく。
今後のチームの運用、具体的な作戦計画、広報処理、パイロットの衛生会議……。
とにかく忙しい。オペレーターを始めとして多くの部下が手伝ってはくれるが、それでもギリギリ捌けるくらいだ。
移動の途中、訓練中のチームラビッツを見つける。
あぁ、彼らにムチを片手に教えていた頃がずいぶんと遠くに感じられる。

PM13:00

少し遅めの昼食を取る。
今度はオペレーター二人が一緒だ。

「しかし、こうも忙しいとおちおち遊びにも出れんな」

「馬鹿、今の状況を考えれば当たり前だ」

「いや、だとしてもだ。今は海水浴の時期というじゃないか。美しい海岸で麗しい子猫ちゃんたちと遊びたくなるだろ?」

「……お前にはほとほと呆れるよ」

軽いノリのジュリアーノに真剣なジークフリートがツッコミを入れる。
なかなか、良いコンビネーションをしている。
会話の中で、ジュリアーノに海水浴に誘われたが、遠慮なく断る。
まぁ、下心を隠そうともしない点については評価しておきたい。

709: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/15(月) 22:41:46.43 ID:U3SzJWnp0
PM14:00

午後は機体の整備について、シモン司令、サイオンジ整備長を交えての会議が始まる。
司令と私の細かな要望に、整備長が意見を出して、最善の改良を決める。
予想よりずっと長引きはしたが、具体的な案がはっきりと出来る。

PM20:00

会議と残っていた仕事がひと段落する。
すっかり人のいない食堂でそうそうに食事を済ませる。
明日からはまた作戦行動だ。
早めに眠らなくてはならない。…という予定だったのだけれど。

「あ、リンリーン」

自室に帰る道で、それなりに酒を呑んでいたらしいレイカに捕まった。
なすすべもなく、寝酒に付き合わされることとなった。

710: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/15(月) 22:42:45.19 ID:U3SzJWnp0
AM1:00

レイカの酒に付き合って、愚痴を零していたら日を跨いでしまっていた。
ぐっすりと眠るレイカを尻目に彼女の部屋を出る。
慌てて戻ることにしたものの、身体がふらふらしてうまく帰れない。
……何やってるんだか、私。

「あれ、艦長?」

そのとき、廊下で偶然にもイズルに出くわす。
どうやら眠れないらしい。さもなければ、翌日に作戦が控えている中で散歩なんてしないだろう。
何にせよ、申し訳ないがありがたいタイミングだ。
酒でうまく動けない、とは言わずに少し気分が悪いので部屋まで送ってくれるように頼んだ。
いつも通りの優しさで、彼は二つ返事で了解してくれた。

「ええと、いつもお疲れ様です。僕らのために…」

私の身体をおんぶしながら、彼はそんなことを言った。
…あのひよっこがずいぶんなことを言うようになったものだ、と思う。
しかしながら、それを言う気持ちにもならない。
彼の背中は、それぐらいには大きくなっていた。
ふ、と背中の中でまたこっそりと笑みを零した。

「――それじゃ。おやすみなさい、艦長」

気付けば、部屋に戻っていた。
彼が頼りになりそうな笑顔で去っていくように見えたのは、私が酒でだらしなくなっているからだろうか。

それとも――

そこまで考えて、私の思考は眠りに沈む。
ふと、目についたイズルの背中をじっと見届ける。
あぁ、きっと親鳥はこんな気持ちで見送るのだろうな。
今は酒の力。でも、きっといつかは真剣に。
そうして、私はまた、明日も彼らの『教官』になるのだ。

------------------------------

719: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/17(水) 01:25:05.61 ID:w6HYwDA40
気の迷い

戦艦ゴディニオン――タマキの部屋

タマキ「」ダラーン

ケイ「」ペラ

タマキ「…ねー」

ケイ「何?」

タマキ「ひまー」

ケイ「…そう」

720: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/17(水) 01:25:37.38 ID:w6HYwDA40
タマキ「えー、それだけー?」

ケイ「他に何を言えば良いの?」ペラ

タマキ「…さっきから何読んでるのー?」ソー

『男の子の胃を掴む料理とは? これであなたも彼をゲット!』

タマキ「ほえー、意外、ケイもそういうの読むんだー」

ケイ「…別に。暇潰しよ」ペラ

タマキ「ん、そっか」

タマキ「」ゴロン

721: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/17(水) 01:26:08.36 ID:w6HYwDA40
タマキ「えー、それだけー?」

ケイ「他に何を言えば良いの?」ペラ

タマキ「…さっきから何読んでるのー?」ソー

『男の子の胃を掴む料理とは? これであなたも彼をゲット!』

タマキ「ほえー、意外、ケイもそういうの読むんだー」

ケイ「…別に。暇潰しよ」ペラ

タマキ「ん、そっか」

タマキ「」ゴロン

722: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/17(水) 01:26:57.32 ID:w6HYwDA40
タマキ「…ねーねー」

ケイ「今度は何?」

タマキ「…イズルってさー、意外にカッコいいトコあるよね」

ケイ「…いきなり何?」

タマキ「うんとね、昨日、ほきゅーかん叩く任務で助けてくれたじゃん? あのとき、イズルが何だかカッコいいな、って」

ケイ「……そう。いつもの病気ね」

タマキ「ううん。そういうのとは違うの。ただ、カッコよかったな、って」

ケイ「……」



イズル『僕はヒーローになるんだ! こんなところじゃ死ねないよ!
    マンガの続きだって描きたいし、ケイのあのやたら甘いケーキを食べさせてもらうんだ!』



ケイ「……まぁ、いつもよりかは、ね」メソラシ

723: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/17(水) 01:27:26.62 ID:w6HYwDA40
タマキ「ねね、今度イズルやアサギとかスルガにお礼しようよ」

ケイ「お礼?」

タマキ「うん、昨日の作戦、何だかんだ言っても皆に助けられたしさ」

ケイ「……そう、ね。付き合ってあげる」

タマキ「うん! ありがとー、ケイ」ギュー

ケイ「こら、抱き付かないの」ピシッ

タマキ「いたっ」

------------------------------

725: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/17(水) 01:29:00.77 ID:w6HYwDA40
やっと気付いた。

スターローズ――食堂

イズル「」カキカキ

イズル「!」パァ

ケイ「」モグモグ

イズル「」チョイチョイ

ケイ「」ン?

イズル「」バッ

ケイ「……」

ケイ「」ブンブン

イズル「!」

イズル「」ズーン

726: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/17(水) 01:29:32.54 ID:w6HYwDA40
タマキ「……」ジー

アサギ「どうした、タマキ?」

タマキ「…イズルって、イケメンだよね」

スルガ「!」

アサギ「!」

ケイ「!?」

イズル「?」

727: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/17(水) 01:30:10.75 ID:w6HYwDA40
アサギ「どうした急に。お前らしくもないことを言いだして…」

スルガ「ホントだぜ、お前、俺たちなんて眼中にないんじゃなかったのかよ?」

タマキ「うーん。でもでも、イズルは何かカッコいいなぁ、って」

ケイ「……ど。どうせいつもの病気よ、きっと」

タマキ「そーかなー?」

ケイ「そうに決まってるでしょ。ええ、まったく。アンタはいつもそうなんだから。
   少しは慎むことを考えたら? そもそもいつもいつもそうやって勘違いしては玉砕して…」

スルガ「おい落ち着けよケイ。早口で喋るの俺の専売特許だからな」

アサギ「いや誰のでもないだろ」

728: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/17(水) 01:31:03.82 ID:w6HYwDA40
イズル「ええっと、タマキ…」

アサギ「お前は喋るな。ややこしくなる」

イズル「えー…」

スルガ「っつーか、そう言うならアサギもだろ?」

タマキ「うーん、そうなんだけどー…あれ、そうかもー」ンー?

アサギ「やっぱりいつものヤツじゃねーかよ…」ハァ

ケイ「分かりやすいわね、ホント」

タマキ「うーん…」

729: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/17(水) 01:31:41.28 ID:w6HYwDA40
スルガ「あ、そうだ。俺はどうよ、俺は」

タマキ「悪くないけどねー、やっぱりー…」

スルガ「おいやっぱりの続きはねーのか、やっぱり何だよ」

タマキ「うーんと…」

イズル「ほら、スルガも生き生きしてて良いよね」

スルガ「お前が言うのかよ!」

タマキ「……うーん、やっぱりイズルかなー」

ケイ「……」

アサギ(…また、面倒そうだな……)イガー

------------------------------

731: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/17(水) 01:33:12.03 ID:w6HYwDA40
皇子の一日。

不定の時間に起床。
今日は侍女の一人の部屋で目覚める。
早々に服を着てからその場を去る。

兄上やレガトゥスと共に朝食を取る、という予定を勝手に変更する。
別の侍女の元に向かい、適当な食事を済ませた。

その後、今度は自らの機体に向かう。
今度のシカーラのために、万全の状態でいたい。
何せ、あの『地球人』とやらは、この私に一撃を加えたのだ。
次の時は、完全な状態で臨まねばならない。

機体の調子を確認してから、今度は遊技場で軽いシカーラをする。
が、やはりあれ以上のラマタなどおらず、あっさりと飽きてしまった。

732: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/17(水) 01:34:01.68 ID:w6HYwDA40
さらにその後、ルティエルの元で食事を取る。
この女と共に飲む酒はなかなか悪くない。
あいにくと一度もこの女自体の味を見ることはないが。

「…いかがしました、プレ・エグゼス?」

ふ、そなたの味はどのようなモノかと思ってな。

「ふふ、それはまた。…そうですわね、この酒よりはもう少し味わい深いとでもおっしゃらせていただきますわ」

それはそれは。楽しみになるな。

「ええ、機会があれば」

上手なことを言うものだ。こうしてあっさりとかわされてしまうと、それはそれで気が引かれるが。

733: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/17(水) 01:34:37.53 ID:w6HYwDA40
食事を済ませ、またシカーラに興じる。
今度は少しだけ長く遊べた。
もちろん、ほんの少しだが。

夕食のために一度王宮に戻る。
さすがに何度も予定を変えるのは兄上に申し訳ない。

「プレ・エグゼス。お帰りですか?」

途中、ルメスに出くわした。
いや、この男のことだ。私を待ち構えていたに違いない。
共に兄上の元へ向かいながら、適当な言葉を交わす。
この男のことは、ある程度は信用している。
他のレガトゥスたちの笑い話を持ってくるのも、それなりに気に入っている。

734: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/17(水) 01:35:08.46 ID:w6HYwDA40
「ジアート。やっと戻ってきたか」

兄上に挨拶をする。
兄上はこちらの行動など分かりきっているらしく、大して激情も見せず、ただそれだけ言った。
他の連中――特にドルガナは何か言いたそうにしていたが、その一言で全てを察したらしく、黙していた。

夕食が済み、すぐさま王宮を出た。
この後は、特に予定はない。
また兄上の侍女にでも手をつけてしまうのも悪くない。
そう考えながら、まだ見ぬラマタのことを考え、昂ぶる心を諌めた。

------------------------------

742: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/18(木) 20:48:16.90 ID:Pl2E6QiQ0
勝手に修羅場認定はよくない(至言)

スターローズ――商店街

イズル「」スタスタ…

イズル(何とはなしに外に出たけど…暇だなぁ)

???「あ、イズルー」

イズル「? あ、タマキ」

タマキ「何してんのー?」

イズル「えーと、散歩かな? タマキは?」

タマキ「おねーさんにオススメされた塩辛を食べに行くのー」

イズル「へぇ。あれ、今日は一人なの?」

タマキ「うん、ケイがお買い物に一人で行きたい、って」

タマキ「そうだ、イズルも来ない? 暇なんでしょ?」

イズル「ん、そうだね、そうしよっかな」

タマキ「よーし! 行くのらー!」グイグイ

イズル「や、そんな引っ張らなくても塩辛は逃げないよ」

タマキ「いいからー」ニコニコ

743: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/18(木) 20:49:06.54 ID:Pl2E6QiQ0





スターローズ――お菓子作り専門店

ケイ「……」スタスタ

ケイ(確か、この辺りに…あ、あった)

ケイ(ここにしかないのよね…強烈濃縮砂糖とハチミツ)

ケイ(今から帰ってケーキ焼いても、イズルぐらいなら食べてくれるでしょ)

ケイ(…よし、これでケーキの材料、それに……)チラリ

裁縫セット「」

ケイ(良いお守り、出来るといいけど…)

ケイ(イリーナたちも、何を勘違いしたのか知らないけど。これは皆のために作るんだから)

ケイ(イズル、たち。喜んでくれるかしらね…)

ケイ(……出ましょう)フー

744: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/18(木) 20:50:01.91 ID:Pl2E6QiQ0
アリガトウゴザイマシター

ケイ「ん…。日が強いわね……」

ケイ「……あ」

タマキ「♪」グイグイ

ケイ(タマキ? それに、あれは……)

イズル「」スタスタ

ケイ「イズル?」

ケイ(珍しい組み合わせね…どうしたのかしら?)

タマキ「! あ、ケイー!」ブンブン

イズル「あ、ホントだ」

745: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/18(木) 20:51:07.00 ID:Pl2E6QiQ0
タタタ…

ケイ「二人とも何をしているの?」

イズル「ええっと、散歩してたらそこでタマキと会ってさ」

タマキ「ケイにも言ったでしょ? 塩辛ー」

ケイ「ああ、昨日言ってた…」

タマキ「そー、それ。でね、ケイの代わりにイズルに付き合ってもらおうと思ってさー」

ケイ「…なるほど。何だか悪いわね、イズル」

イズル「別に気にしてないよ? 僕も暇だったし」

タマキ「ケイはお買い物終わったー?」

ケイ「え? …ええ」

746: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/18(木) 20:52:04.98 ID:Pl2E6QiQ0
イズル「何を買ったの?」

ケイ「あ、その…」

イズル「?」

ケイ「け、ケーキの材料よ、ケーキの」カクシ

タマキ「あ、そうなんだー。それなら別に一緒に行くのにー」

ケイ「あら、試食してくれるの?」

タマキ「ぜんげんてっかーい…」

ケイ「だから何でそんな嫌がるのよ…」

イズル「あ、あはは…。そうだ、ケイも一緒に来ない?」

タマキ「あ、それ良いのらー」

747: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/18(木) 20:52:57.15 ID:Pl2E6QiQ0
ケイ「…ごめんなさい、これからまだ用事があるから」

イズル「そう? じゃあしょうがないか」

タマキ「んー、じゃあ私たち行くねー」

ケイ「ええ、行ってらっしゃい。タマキをお願いね、イズル」

イズル「うん、分かった」

タマキ「行こ! イズルー」グイグイ

イズル「わ、だからくっつかないでよ動きにくいし」

ケイ(兄妹みたいね…)クスリ

ケイ「それじゃ、楽しんできなさい、タマキ」

イズル「じゃあね」

タマキ「じゃーねー!」ブンブン



その後、「今度はケイとか皆もー」というタマキの言葉で、チーム全員でお出かけしたり。
こっそりとお守りを作ったケイがメンバーたちに手渡したりするのでした。

------------------------------

749: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/18(木) 20:54:39.18 ID:Pl2E6QiQ0
胸囲の格差社会

スターローズ―― 一般居住区、デパート

タマキ「ふへー、おっきいのらー」

ケイ「…ほら、行くわよ」

タマキ「あ、待ってー」トコトコ

ケイ「まったく…アンタねぇ、十五にもなって一人で買い物にも行けないの?」

タマキ「いやー、だってどこで買えばいいか分かんないしー、ケイも一緒だと嬉しいじゃん?」ニコニコ

ケイ「……まったく」ハァ

ケイ(まぁ、私も服や下着を買おうとは思ってたけれど…)

ケイ「」ジー

タマキ「」タユンタユン

ケイ「」チラリ

ケイ「」ストーン

ケイ(どうしてこうも違うのかしら…)ハァ

タマキ「?」

750: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/18(木) 20:55:25.64 ID:Pl2E6QiQ0





タマキ「わー、色々あるのらー」

ケイ「そうね」

ケイ(イリーナたちに薦められて来てみたけれど…すごく、場違いみたいだわ)

キャラデザによくある可愛いモブ1「」タユンタユン

キャラデザによくある可愛い(ry2「」タユンタユン

ケイ「」ハァ

タマキ「ケイー? どうかしたー?」

ケイ「アンタには分からない悩みよ……」

タマキ「?」

751: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/18(木) 20:56:18.43 ID:Pl2E6QiQ0



ケイ「まぁ、これかしらね」

ケイ(後は服と…)

タマキ「ケイー!」

ケイ「ああ、タマキ。決まったの?」

タマキ「うん! これでよろしくー」テワタシ

ケイ「はいはい。どれ…」

ケイ「」

ケイ「」チラ

タマキ「?」

ケイ「」

タマキ「……ケイ?」

ケイ「…何で、かしらね……」フー

タマキ「へ? 何が?」

ケイ「何でもよ、ホントに何でも」

ケイ(何よ、Jって…私なんて、A…)ハッ

ケイ「――ほら、行くわよ!」グイグイ

タマキ「わ、ちょっと、ケイーっ!?」

------------------------------

753: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/18(木) 20:58:47.30 ID:Pl2E6QiQ0
いつからか、それは理解している。
とにかく、私はその感情を抱いていることを、改めて認識した。

「……」

スターローズの、個人用の病室。
ある人の眠るベッドの前で、私は椅子に腰掛けていた。
周りには、誰もいない。いや、仲間がさっきまでいたけれど、皆一度出て行ってしまった。

「……ふぅ」

ずっと同じ体勢でいるせいか、どうにも疲れを感じる。
もちろん、ため息を吐いたのはそれが理由じゃない。
自分の無力さが、嫌になってしまっただけだ。
私の前で、規則的に息をする彼に、私は何もできない。
ただ、こうしてじっと見つめて、目を覚ますことを祈るしかない。

754: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/18(木) 20:59:23.61 ID:Pl2E6QiQ0
「イズル…」

名前を呟きながら、彼の手を取ってみる。
彼は穏やかな顔で眠っていて、その手は暖かく、彼の生命が確かにここにあることは分かる。
しかし、何故か安心はできなかった。
すぐにでも彼の身体に異常が生まれるのではないか、と思うと気が気でない。

先程の、あのジアートとの戦い。
あの中で、イズルは驚異的な戦闘を繰り広げて見せた。
その無茶がたたっているのではないか。――そう、ルーラ医師は言っていた。
だから、目覚めが少し遅いだけだ、とも言っていた。そんなに心配しすぎることはないのだ、と。

理屈ではそのことを完全に理解している。なのに、私は不安でいた。
どうして、だろう。彼のこととなると、私は落ち着かない。
心配で、たまらなくなる。彼が傷を負うと、自分の身体の一部が失われるみたいに感じてしまう。

755: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/18(木) 21:00:22.65 ID:Pl2E6QiQ0
……なんて、いつまでも、分からないフリなんてしていられない。
分かっている。どうして、こうも私らしくもなくなるのかぐらい、分かっている。
自分のことだ。自分で一番理解している。

つまりは。私は――どうしようもなく、彼を好いているんだ。

愛おしくて、たまらなくなる。彼が喜ぶと、自分のことみたいに感じてしまう。
そんな風に錯覚してしまうほどに、彼に依存し始めている。

それがはっきりとしたのがいつかは分からないけれど。
一つ言えるのは、今、私がその感情を完全に認識しているということだ。

早く目覚めて、と願う。
またいつもみたいに笑って。いつもみたいに、ヒーローなんて子供っぽいことに目を輝かせて。
またいつもみたいに、私のお手製のケーキを食べて。いつもみたいにマンガを読ませて。

ぎゅ、っと。強く強く、願いを込めて、手を握り直した。

756: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/18(木) 21:01:19.07 ID:Pl2E6QiQ0
そして――

「う……」

「イズル!」

私の願いが届いたのか、時が来たのか。
彼が小さく呻いて、その瞳を薄く開いた。慌てて、私は立ち上がって彼の顔を覗き込む。
彼の目は焦点があっていないけれど、必死に何かを探そうとしているように見えた。
その瞳の先に誰かを求めるように、私の手を握り返した。

何を求めているの、と私が疑問を抱く前に。
残酷に、答えはやってきた。

「テオー、リアさん……僕は、ヒーロー、に……」

「――っ!」

一気に、私の手から体温がなくなるような感覚がした。
彼の手を握る力が失われてしまう。
私と彼とを繋ぐ橋は、一方的に断たれた。
彼の手が、求める先を失い、ぶらんとだらしなくシーツに落ちた。
それを謝るよりも先に、彼はまた眠ってしまう。

757: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/18(木) 21:02:11.14 ID:Pl2E6QiQ0
「……」

数秒間、私は立ち尽くしたままでいた。
頭の中で情報だけが流れていって、何も思考は纏まらない。
イズル、私、ヒーロー、ジュリアシステム、テオーリアさん、お友達、昔の記憶……。
ただ単語の羅列が並んでは消えていくだけで、私は何も理解していない。

それでも、少しすれば勝手に脳は冷静になる。
そして、理解できる。彼が求める人。それが、誰なのかなんて。

とす、と椅子に落ちるように座る。
無気力に、彼の穏やかな寝顔を見た。

何もなかったように、彼は眠り。
何かがあったように、私は起きていた。

それから先であったことなんて、私は何も覚えていない。
脳が正常に記憶しだしたのは、イズルが改めて目覚めたところから。
今は彼の目覚めを、喜んでいたい。
私は――私は、何も聞いていないし、見ていない。

------------------------------

759: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/18(木) 21:03:54.98 ID:Pl2E6QiQ0
「………」

スターローズの一般居住区。そこの、あるデパートの入口。
私はそこで、一人立っていた。
いつもはタマキとよく来るけれど、今日は違う。
そっと、私は中に入る前に、お財布を取り出して、そこに入っているメモを見る。

「……イズル、喜ぶかしら」

一言、呟いた。
そう、今日の私は自分のための買い物に来ているわけではない。
今、入院――といえばいいのか、休暇中といえばいいのか分からない――イズルのためにその、お見舞いをすることにしたのだ。
せっかくのお見舞いだし、どうせだから彼の欲しがりそうなモノを渡そう、と決めた。
そのこと自体はもう彼にも伝えておいたし(彼は「ありがとう、行ってらっしゃい」と言っていた)、サプライズはないけれど。

というようなことを伝えたら、ピットクルーの人たちが何故か真剣に相談に乗ってきた。
私としては、それは嬉しいけれど、ただ、終始変に穏やかな笑みを浮かべていたのが、気になった。
まぁ、そんな紆余曲折があって、私はこうしてイズルへのお見舞いの品を求めてきている。
開店した店内にさっさと入る。
早く買い物を済ませて、イズルに会いに行こう。早く、早く。

760: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/18(木) 21:07:13.63 ID:Pl2E6QiQ0
そして、現在。

「……」

デパートのある文房具店で、私は困り顔をしていた。
目の前には、Gペン、とかいうモノみたいなマンガを描く道具が羅列している。
調べてから知ったことだけれど、今ではイズルみたいに手書きでマンガを描く人はいないらしい。
実際、調べた結果、ここのマイナーなアンティークの専門店ぐらいしか扱っていない。

で、問題もなく店に着いたのだけれども。
弱ったことに、売り物の種類が多すぎる。
一つのペンだけでも、何やら機能や性能に違いがあるらしい。
こういうことのためにある程度調べてきたのに、どれを買えばいいかさっぱり分からない。

…どうしよう。いっそ全て買ってしまおうか。
一瞬考えたバカらしい行動に、ため息を吐く。
軍からいくらかはお金のことを保障されている。
多少、無茶をしても…いや、それではイズルが困るかもしれない。
いらないモノを無駄に買うのも、あまりいいこととは思えないし。
そうして、私が悩みに悩んでいると。

761: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/18(木) 21:08:09.15 ID:Pl2E6QiQ0
「お客様、お困りでしょうか」

いつの間にか、隣に店員さんが立っていた。
何やら見た目の割にずいぶんと落ち着いた雰囲気のお姉さんに対して、私は急な声につい慌ててしまう。

「は、はい…あの、この中で一番良いモノって何でしょうか?」

私の妙に上ずった声に、お姉さんは何も反応せず、少しばかり品物を眺めてから、いくつかの品を見せてくれた。
いわく、昔アナログな方式でマンガを描いていた『マンガの神様』と呼ばれる人の品物なのだそうだ。
少しだけ触らせてもらうと、なるほど、確かにそれほど昔の品物だというのに、他の新品よりもむしろ輝いて見える。
きっと、これの持ち主であった人は本当にマンガを描くことが好きだったのだろう。道具の手入れは完璧だった。

私はあっさりとそれらの品を買うことを決めた。
変に迷っても仕方ない、ということもあるけれど、『マンガの神様』という言葉が気に入った。
それだけの人が使っていたのだ。きっと、イズルのマンガを良くしてくれる。持ち込みを、上手くいくようにしてくれる。
ガラにもない、そんなオカルトめいたことを思って、私はそれらを手に入れた。

レジで、「彼へのプレゼントかしら?」なんてことを聞かれて、言葉に詰まったりもしたけれど、問題なく買い物は終わった。
イズルとは、別にそんな関係じゃない。ただ、仲間として、お見舞いしてあげようと思っただけのことだ。

762: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/18(木) 21:09:08.53 ID:Pl2E6QiQ0
「お帰りなさい、お嬢」

スターローズの拠点に戻ってきた私を、イリーナが出迎えてくれた。
彼女はニコニコと優しい笑顔でいた。
その笑顔は、やっぱり、ちょっと苦手だ。
普段はチームの中でも年上として行動しているせいなのかもしれない。
と、そんな感想はともかくとして、私は本題に入ることにした。

「…あの、イズルはまだ…」

「病室にいるわよ。早く行ってくると良いわ」

私の質問を途中で察したのか、それだけ言うと、イリーナはお見舞いの品以外を持って行ってくれた。
ありがとう、とその背中に小さく言葉を向ける。
聞こえていないだろう、と思っていたその声は、意外にも届いていたらしく、彼女は振り返って手を振ってくれた。
その手に応えてから、私もまた、歩き出す。

763: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/18(木) 21:10:56.28 ID:Pl2E6QiQ0
歩きから、途中で全力の走りに切り替えて、私は長い長い通路を駆けていた。
待ち遠しい。すぐにでもこれを渡して、彼の驚く顔が見たい。笑顔が見たい。
私の顔が今どうなっているのかは分からない。
あいにくと道中では誰にも会わなかったこともあって、予想がつかない。
でも、たぶん、普段らしくもなく、必死な表情でいたに違いない。

「……っ」

ようやく、辿り着いた。
一度、乱れた呼吸を取り戻す。
だらしない恰好では会いたくない。それじゃ、ちょっと決まらない。

呼吸が戻る。それとは別に一度深呼吸をした。何だか、緊張していた。
手の中の品をもう一度見る。大丈夫、一つも欠けていない。
最後に、自分の様子を近くのガラスのドアで確認する。
大丈夫、だらしなくなっていない。ちゃんと、笑顔も出せる。

改めて、私は病室の前に立つ。
少し震える手で、二回ノックした。

「はい?」

ほどなくして、彼の声が返ってくる。
あぁ、よかった。彼は、この先にいる。

私はそっと、ドアに手を添える。スキャンを経て、ドアは開いた。
私はそっと、一歩踏み出す。完全に入室すると、ドアが閉まった。

そして、あの声がする。私を迎えてくれる、大切な声。

「――お帰り、ケイ」

「――ええ、ただいま」

------------------------------

772: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/20(土) 01:21:09.09 ID:+emqvO7r0
自分の価値や特徴について、深く考えてみる。
神経質。プレッシャーに弱い。エリート気質。総合的な実力ではトップクラス。
個人演習でも、誰にも負けはしなかった。チーム戦は別としても。
…最近は、チームの中でも、作戦や指示で頼りにされるようにはなった。
十分に、年長者としてチームを支えているはずだ。

アイツの価値や特徴について、深く考えてみる。
能天気。プレッシャーなんて、物ともしない。集中力が驚異的。
個人演習じゃ、負けてばかり。チーム戦も同じ。
…なのに、チームの中で一番に頼られている。
完璧に、チームの支えとして、皆を引っ張っている。

……それは、俺も含めて。

773: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/20(土) 01:22:17.05 ID:+emqvO7r0
「――アサギ?」

アイツが俺を呼ぶ声がして、はっと意識が戻る。
いかん、珍しく考え事にハマっていた。

「んだよ珍しい、もう任務だってのに」

横からスルガが軽口で笑った。
コイツはいつだってこうだ。
軽い調子で、戦いへの不安を掻き消そうとしている。

「別にいいだろ。俺だって、たまにはこういうこともある」

言いながら、らしくない自分に若干の苛立ちを感じて、スタスタと先に格納庫に向かう。
後ろからスルガが何かを言っていたが、無視した。

774: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/20(土) 01:22:51.91 ID:+emqvO7r0
「ええっと、頑張ろうね、アサギ」

慌てて俺を追ってきたアイツが横に並ぶ。
俺はさらに歩く速度を上げて進む。
アイツは負けじと俺を追う。

……何だ、コイツは。

「何だよ。人にぴったりと」

抗議すると、アイツは相変わらずの悪意のない無邪気な笑みを見せる。

「いや、僕たち前衛だし、チームワークのためにも、お互い声を掛けあうモノかなって」

「…今度はどこのマンガからだ?」

呆れたようにそれだけ返す。
コイツなんかに、チームワークとか言われたくない。
こんな、俺よりだらしない、リーダーなんかに…。

775: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/20(土) 01:23:20.12 ID:+emqvO7r0
そこまで考えて、俺は自分の思考が情けなくてこっそりとため息を吐いた。
何をバカなことを…俺は最年長なんだ。
コイツに当たってどうするんだよ。

あまりにも浅はかな自分に嫌気が差す。
俺は、皆の支えになりたいのに…。

と、そんな風に自分を嘲る俺に、アイツはただ迷いなくこう言った。

「マンガじゃないよ。僕なりに考えたんだ。アサギとちゃんと頑張りたいんだ。アサギがいなきゃ、僕はダメだしさ」

「……」

そうか、と聞こえないぐらい小さく呟く。
コイツだって、分かってるんだ。
自分だけじゃどうにもならないから、知ってるんだ。
仲間と協力していくことの意味を。
俺みたいに、仲間をどこか守るだけのモノだなんて考えてしまっているヤツとは違う。

それなら、俺は。
俺も、コイツのようにそれを知ることができるのだろうか。
いつか、少しずつ頼られるんじゃなくて。

それがいつかは分からない。
でも、きっと、いつか。

「……行くぞ」

それだけ吐き捨てるように言うと、俺は一気に走った。
コイツとは並ばない。並べない。
遠いのか近いのか分からない将来。仲間たちと並べる日が来るまでは。

------------------------------

787: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/21(日) 20:02:56.64 ID:xPOLfsDr0
ヤンデレ2

タマキの場合

スターローズ――食堂

タマキ「イズルー」

イズル「? 何?」

タマキ「たまには一緒にごはん食べよー?」

イズル「あぁ、いいよ。塩辛も?」

タマキ「もちろん。はい!」テワタシ

イズル「ああ。ありがとう…」パクパク

タマキ「♪」パクパク

788: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/21(日) 20:03:32.28 ID:xPOLfsDr0





スターローズ――廊下

イズル「」ウツラウツラ

イズル「おかしいな…何か、ごはん済ませてから、眠いなぁ…」

タマキ「あれ、イズル? どーかしたー?」

イズル「あ、うん…何か、眠く、て」フラ

タマキ「」ニコリ

イズル「…? タマ、キ…」バタリ

タマキ「ふふ……イズル♪」

789: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/21(日) 20:04:02.55 ID:xPOLfsDr0





イズル「う……」

タマキ「あ。イズルーおはよー」

イズル「た、タマキ? ここは…」

タマキ「私の部屋ー。倒れたから運んであげたのらー」

イズル「そっか、ごめん」

タマキ「ううん。たまにはのんびりするのらー」ギュッ

イズル「へ? ちょっと、タマキ…」

タマキ「いいじゃんこれぐらいー」

イズル「うーん……。まぁ、いいけどさ」

タマキ(…これからはクスリの量増やそうかなー?)

790: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/21(日) 20:04:38.59 ID:xPOLfsDr0
ケイの場合

ケイの部屋

イズル「ね、ねぇケイ?」

ケイ「何かしら?」ニコニコ

イズル「ええっと、何で僕はこんなことに?」シバラレメカクシ

ケイ「何でって…そんなこと、気にしなくていいわ」ソッ

イズル「あ、え、け、ケイ!?」ビクリ

ケイ「今日はせっかくの休日だもの…ずっと一緒にいたくて」

イズル「あの、ケーキならいくらでも付き合うし、こんなことしなくても…」

791: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/21(日) 20:05:08.17 ID:xPOLfsDr0
ケイ「そう言って、また、テオーリアさんに会うんでしょう? ダメよ、そんなの」ギュ

イズル「ちょ、ちょっと! あ、や、ケイ…いた……っ」

ケイ「あ…ごめん。つい、あの人のことを思い出しちゃって…」

イズル(い、いつものケイじゃ、ない…怖い)

ケイ「ふふ、イズル♪」ギュ

イズル「あ、うぅ……」

ケイ「今日は皆のじゃなくて…私だけのヒーローでいてね?」チュ

イズル「ん、うぅ………」

------------------------------

793: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/21(日) 20:06:31.01 ID:xPOLfsDr0
「皆の通り名とかを考えたいんだけど…」

いつもの激務明けの朝、イズルがそんなことを言った。

「通り名ァ?」

突然の言葉に、スルガが呆れたような声を上げる。
そりゃそうだ、と思う。
いきなり訳の分からないことを言うのはいつものことだが、今回は突拍子がなさすぎた。

「えっとね、ほら、僕たちヒーローじゃない? だから…」

「そういう呼び名が欲しい、ってこと?」

ケイが補佐するように言って、イズルはうんうんと頷いた。
……なるほど、いつも通りのヒーローバカってわけだ。

794: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/21(日) 20:08:00.07 ID:xPOLfsDr0
「あの、通り名とかは、その、自分で名乗るモノではないのでは…」

アンジュが真っ当なツッコミを入れる。
あぁ、コイツは貴重なツッコミ要員だな。
最近はケイがちょっとイズルに流されつつあるから、心底ホッとする。
俺も続ける。

「そうだぞ、っつーか、俺はイヤだ」

「二つ名かー……」

否定する俺の横で、タマキがまんざらでもなさそうに呟く。
おいおい、お前までヒーローバカが感染してんのかよ。

795: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/21(日) 20:08:35.64 ID:xPOLfsDr0
「うん。例えばアサギならね…」

「おい、話を聞けよ」

俺の声を無視して、イズルが続ける。
この野郎、人の話を聞けよ。

「駆ける蒼穹とか、稲妻のブルーとか…」

「やめろ、それは絶対ににやめろ」

何だよその古めかしい感じの呼ばわり。
俺はそのノリはいらないっての。
そんな俺の心の声は、きっちりとイズルの声に無視される。

「ケイならね…」

796: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/21(日) 20:09:23.69 ID:xPOLfsDr0



目を輝かせて、イズルはそのまま語り出す。
ケイの場合は『皆の柱』、『天地のパーブル』。
タマキの場合は『癒しの三番』、『疾風のピンク』。
スルガの場合は『速攻スナイパー』、『波風のゴールド』。
アンジュの場合は『秘めたる一撃』、『激烈のブラック』。

よくもまぁ、そんなに考えたモンだな、と思う。
ちなみに言っておくと、イズルのこの語りは皆(俺以外)の意見を取り入れた結果だ。
ったく、どいつもこいつも影響受けすぎなんだよ…。

「アサギはどう思う?」

「ん?」

と、俺がぼんやりと自分の意見を考えていると、イズルが声を掛けてくる。
何の話だっけか。すっかりと聞いていなかった。

797: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/21(日) 20:09:57.57 ID:xPOLfsDr0
「イズルの二つ名よ。何かない?」

「…俺に聞くか? それ」

何で俺がコイツのを考えなくちゃならないんだ。
っつーか、皆のを考えておいて、自分のは考えてなかったのかよ。

「……『燃え盛る真紅』とか、『守護のレッド』とかでいいんじゃねぇの?」

…はっ。俺は何を言ってるんだか。
俺まで影響受けてどうするんだよ。これじゃマジで俺までバカみたいじゃねぇか。
なしなし、今のは……。

798: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/21(日) 20:10:30.35 ID:xPOLfsDr0
「いいね! それ!」

「なっ……」

マジかよ。これでいいのかよ。アバウトすぎるだろ。
と思ったが、今さら訂正は効きそうにない。
純粋に目を輝かせるイズルの様子に、水を差すことはできそうもない。
というか、俺以外の皆まで満足そうに頷いていて、口を出す機会がなかった。

「ありがとう、アサギ!」

満面の笑みで、イズルは俺に礼を言った。
……っ、く、そ、そんなツラすんなよ。何か罪悪感湧くだろうが。

「…おう」

そっぽを向いて、俺はそれだけ返す。
チラリと時計を見れば、もう昼だ。
朝からずっと付き合ってたんだな。ったく、俺たちコイツに甘すぎるだろ。
……まぁ、いいけどよ。

------------------------------

800: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/21(日) 20:12:19.43 ID:xPOLfsDr0
作り物じゃ、いかんのです

スターローズ――ケイの部屋

ケイ「」ペラ

ケイ「……」パタン

ケイ「…ふぅ」

ケイ(これもあんまりね…)

ケイ(イリーナたちに貸してもらった雑誌や本…これで全部か…)

ケイ(…だ、だいたい。無理に胸なんて大きくする必要なんかないわよね)

ケイ(その、イズルも気にしない、って言ってくれたし)

801: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/21(日) 20:13:24.04 ID:xPOLfsDr0
ケイ「」ペタペタ

ケイ「」ストーン

ケイ「……」ハァ

ケイ(と、とりあえず。興味本位として、やってみましょう)

ケイ(…まずは、この肩甲骨エキササイズから)

ケイ(肩甲骨を緩めて…と……)

ケイ「」グッグッ

ケイ(床に向けて突き出した胸を沈めて、っと)

ケイ「…これを一日三回、ね」

802: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/21(日) 20:14:21.86 ID:xPOLfsDr0
ケイ(次は…運動後だし、牛乳でも飲みましょう)

ケイ(確か、きなこ牛乳がいいのよね…)

ケイ「」ガチャ

ケイ「砂糖も大さじ一、っと」オタマデブワー

ケイ「」ゴクゴク

ケイ(思ったより…キツイわね)

ケイ(ハチミツを入れるとまだマシになるのよね、確か)

ケイ(これも一日一杯…)

ケイ「……さて。じゃ、じゃあ、最後にしましょう、か」

ケイ(で、でも、これ、ホントに効果あるのかしら…)

ケイ(で、でも、これは、そう、ほら、スキンシップも兼ねる、っていうし…)

ケイ(で、でも、これ、ホントに…)イカループ



ケイ(……っ、い、一度決めたらはっきりしなきゃ)

803: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/21(日) 20:15:08.35 ID:xPOLfsDr0





イズル「ええっと、ケイ? 呼んだ?」

ケイ「う、うん…」

イズル「? またケーキの試食?」

ケイ「い、いえ。そういうのではなくてね? その…」

イズル「うん」

ケイ「む、胸を…その」ウツムキ

イズル「?」

ケイ「も、揉んで、欲しい、の……」カァ

イズル「へ……?」

ケイ「」カァァ

イズル「あ、あの、ケイ…。その、今日は僕…あれ置いてきちゃってるし…」

ケイ「そ、そういうことじゃないわ! へ、変態!」

イズル「ええっ!?」

ケイ「あ、あのね…」

804: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/21(日) 20:15:52.05 ID:xPOLfsDr0





イズル「ええっと、つまり…胸を大きくする方法に、その、す、好きな人に揉んでもらうと大きくなるっていうのがあって…」

ケイ「わ、私としてはね、ば、バカらしいとは思っているけれど、その、噂は確かめてみないと気が済まないというか…」

イズル「わ、分かったから、そんな近寄らないで、か、顔近いし」カァ

ケイ「あっ…」カァ

イズル「……」

ケイ「……」

ケイ「な、何よ、さんざん人にあんなことをしておいて…」ウツムキ

イズル「け、ケイだって僕に結構イロイロとしたじゃないか…」ウツムキ

ケイ「……やめましょう。お互いによくないわ」

イズル「う、うん…」

805: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/21(日) 20:16:44.44 ID:xPOLfsDr0
ケイ「そ、それで…お願い、できるかしら」

イズル「ま、まぁ、僕はいいけど…」

ケイ「そ、そう。それじゃ、お願い、ね?」ウワメヅカイ

イズル「う、うん…」

ケイ「」ドキドキ

イズル「」ソ、ソー

ケイ「ひゃんっ!」ビクン

イズル「……っ」ムニムニ

ケイ「ん、ぅ……」カァ

イズル「」ムニムニ

ケイ「は、あ……っ」ピクリ

イズル(ぼ、僕まで変な気持ちになっちゃうなぁ……)

806: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/21(日) 20:17:16.76 ID:xPOLfsDr0
ケイ「い、いず、いずるっ」バッ

イズル「わ、え、ケイ?」

ケイ「も、もっ、いい、から……」ハァハァ

イズル「あっ……ご、ごめん…」

ケイ「……」ハァハァ

イズル(ケイ…顔真っ赤だ……それに、汗かいてて、何か、いつもと違う……)

イズル「」スッ

ケイ「い、イズル…ん」

イズル「」ギュッ

ケイ「ん……」

イズル「…ぷはっ」

ケイ「ちょ、ちょっと、イズル…!」

イズル「ごめん、ケイ。我慢できなくなっちゃった…!」ガバッ

ケイ「あ、い、いず……」ポスン



結局、色々と試してみた結果、ちょっぴりだけ胸のサイズが大きくなったケイがイズルと大喜びしたり。
その後、あまり大して変わらないケイの胸ではありましたが、イズルとの仲はさらに良くなったようです。

------------------------------

808: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/21(日) 20:18:46.16 ID:xPOLfsDr0
そこまで行くなら頼んじゃえばいいのに

戦艦ゴディニオン――チームラビッツの待機所

シュッ

ケイ(…あら、誰もいないの?)

ケイ「」キョロキョロ

ケイ(……まぁ、待ちましょう)

ケイ「」ストン

ケイ「……」

ケイ「…あれ、どうすればいいのかしら……」ジー

イズルのパーカー「」ポーイ

809: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/21(日) 20:19:29.74 ID:xPOLfsDr0
ケイ(まったく…どうしてこうもテキトウなのかしらね)ジー

ケイ(自分の服なんだから、ちゃんと管理しなさいよね)ジー

ケイ「……」

ケイ「」キョロキョロ

ケイ「」スタスタ

ケイ「まったく、もう…」ヒョイ

ケイ「どこかにちゃんと置いておかないと、しわになっちゃうし…」

ケイ「仕方ない、わよね」スタスタ

ケイ「」ストン

ケイ(お、置くなら椅子の近くよね…決して近くに置いておきたいわけじゃなくて…)

810: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/21(日) 20:20:10.01 ID:xPOLfsDr0
ケイ「……」キョロキョロ

ケイ(…よ、汚れとかないかしら……)

ケイ「」ソー

ケイ(そう、これは確認よ。だいたい、イズルが放っておくから悪いんだから)

ケイ「!」クン

ケイ(な、何かしら…何だか、良い匂いが、する……)

ケイ「」クンクン

ケイ「」クラリ

ケイ「……」

ケイ「――ふ、ふふ…」ギュー

811: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/21(日) 20:20:55.41 ID:xPOLfsDr0
イズル「……えーと、ケイ?」

ケイ「」ビックゥ

ケイ「い、いいい、い……」

イズル「あの、それって、その…」

ケイ「あ、や、こ、これは、あああの…」オロオロ

イズル「ええっと、その、そんな、あれだったら…それ貸すけど……」

ケイ「――っ! ち、違うわよ! ほら、返すから!」グイグイ

イズル「あ、いや、うん」

ケイ「……お、お願いだから」

イズル「う、うん」

ケイ「誰にも、言わないで…」ウツムキ

イズル「うん…」

812: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/21(日) 20:25:09.13 ID:xPOLfsDr0
ケイ「……」

イズル「……」

シュッ

スルガ「やー、疲れたーっ!」

タマキ「塩辛ーっ!」

アサギ「もうちょっと落ち着けってんだよ」

イズル「あ、皆、遅かったね」タタタ…

ケイ「そ、そうね。ずいぶんとのんびりしてたみたいね」

スルガ「んだよ、お前らが早いだけだろ?」

タマキ「そうだそうだー」

アサギ「今日はたまたまだよ、たまたま」

イズル「はは、そっか」

ケイ「……」プイ



その後、気兼ねなくイズルの上着を借りに行ったり、むしろイズル本人を求めたりしちゃうケイだったのでした。

------------------------------

814: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/21(日) 20:28:16.02 ID:xPOLfsDr0
どうしたものかなぁ。
僕はひたすらに目の前の状況に関して、悩んでいた。
ここはスターローズ――いつもなら、僕の部屋なんだけれど。
今日はそこじゃなくって、ええっと……。

「んぅ……」

「あの、艦長。着きましたよ」

そう。今、僕はスズカゼ艦長の私室にいる。
時刻は深夜。おまけに僕は艦長を背中に載せて――つまりはだっこだ――いる。
…見る人が見ると、たぶん親子みたいなんだろうなぁ。
一応、艦長の年齢を考えるとそんなことを考えるのは失礼なんだけど。

「ん、いずる…?」

「わ、耳元で声出さないでください」

いつもよりずっとだらしなくて弱々しい声で囁かれて、ちょっと力が抜けそうになる。
そんな艦長の様子はどう見てもおかしい、ときっとチームの皆も思うだろうな。
艦長は、その、ひどくお酒に酔っているらしかった。
実際、お酒の少しキツイ匂いが漂ってくるし。
そもそも、何故僕がこうしているのかにはちょっとした原因がある。

815: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/21(日) 20:29:16.52 ID:xPOLfsDr0
ほんの数分前、僕は日課のマンガを描き終えて、軽い散歩に出た。
これは前からの習慣で、マンガを描ききった興奮を冷ます意味もあるし、いつもとは違う艦内を歩くのは楽しい。
それで、今日は少し違うことが起きた。
酔ってふらふらした動きをする艦長に出くわした。

そのときの艦長は、結構印象に残っている。
いつもと違って、着崩れた軍服。
紅く染まったほっぺ、わずかに濡れた跡のある瞳。
思わず、普段との違いがはっきりすぎて、目を奪われていた。

「艦長?」

とりあえず話しかけてみた。
最初に艦長の姿を目にしたとき、何だか困っているように見えたから。
困った人を放っておくのは、ヒーローじゃない。

816: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/21(日) 20:29:55.30 ID:xPOLfsDr0
「…いずるー?」

呂律が少しばかり怪しい感じ――まるでタマキみたいな――で艦長は僕の声に応えると、そのまま近寄ってきた。
その足取りは、慌てて教え子に対してしっかりした姿を見せようとしているようで、むしろはっきりしていなかった。
だけど、そんな急な動きに身体が付いていけないらしく、艦長はふらふらしたまま、僕に倒れ込んで来てしまう。

「だ、大丈夫ですか?」

ぽすん、と僕の身体に細身の艦長が頭をうずくめるように寄り掛かる。
大人の女の人の柔らかい身体と、お酒の匂いが混ざっているけど、微かにする何とも言えない甘い香りに、少しドギマギする。
う、こうしてみると、艦長ってオトナなんだなぁ。
や、失礼なのは分かってるけど。

817: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/21(日) 20:31:06.59 ID:xPOLfsDr0
「だいじょうぶ、よ…」

やっぱり頼りない感じの声色で、艦長は言うと、その場を動かない。
それどころか、僕にもっと寄って来てるような気がする。
…全然大丈夫じゃないような……。

どうしようか、と僕は考える。
このまま放っておいて、この人が自分の部屋に戻れるか不安な気がする。
いや、戻れるかじゃない。確信できる。たぶん戻らない。

酔うと全然きっちりしない、って前に整備長さんが言っていたし。
となると、このままにはしておけない。
僕は、いつものようにすぐに結論を決めた。

「…部屋に、お連れしますね」

艦長を一度離して、背中に負った。
艦長はまるで羽みたいに軽くて、背負うのに苦しくない。
何か言われるかと思ったけど、艦長は何も言わないで、僕の背にしがみついた。
……何だか、僕が保護者みたいだなぁ。

――と、こうして、今の状況に戻る。

818: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/21(日) 20:32:01.16 ID:xPOLfsDr0
「ええっと、寝かしますよ…」

「んー……」

知ってる人に会うこともなく、艦長の部屋には迷いなく辿り着いた。
部屋の場所自体は知っていたから、特に問題はなかった。
いや、実際のところは艦長の部屋に入るための認証カードを探すために、その、少し艦長の服を……。
うん、僕は何も見てないし、触ってない。

部屋に入って、背中の艦長に断りを入れてからベッドに寝かせる。
艦長はだらしない声を気だるげに伸ばしながら、身体を投げ出すようにした。
…ふぅ、これで終わり。
満足して僕は頷くと、くるりと身を翻す。

819: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/21(日) 20:32:45.71 ID:xPOLfsDr0
「いずるー…」

「え?」

突然の僕を呼ぶ声に、ついまた振り返る。
そして――

「…ん」

「わっ!?」

思わず、マヌケな声が出た。
次に認識したのは、ぽすん、と僕が柔らかいベッドマットに落ちる音。
それから、僕を抱き締める人の柔らかい感触。

「か、艦長!」

間近にあったその顔に、僕は驚いて、反応に困った。
どうやら、艦長が僕を引っ張って、ベッドに引き込んで、抱き枕みたいにしているらしい。
早くも艦長はぐっすりと眠っているし。

820: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/21(日) 20:33:34.48 ID:xPOLfsDr0
ど、どうしようかな…?
艦長が思ったより強く抱き締めてくるせいで、無理に引き剥がすこともできそうにない。
というか、こんな穏やかな寝顔を見せられちゃうと、離そうと思えなくなっちゃうなぁ。

「…ん、ね」

「え?」

まじまじと艦長のかわいらしい寝顔(言ったら怒られるだろうけど)を観察していると、そっと艦長の唇が動いた。
何だろう、寝言かな? なんて考えて、僕はそれに耳を澄ませる。今日は珍しいことばかりだ。
そして、僕がそうしているうちに、何かを言葉にしようとしているらしいその口が、ゆっくりと、はっきりと、ある言葉を紡いだ。

「――ごめんね、いずる」

…その言葉の意味は、分からなかった。
どうして僕に謝るのか、どうしてそんなにも悲しそうな声をするのか。
どうして――涙を流しているのか。僕には何も分からない。
分からなくて――少し、困惑した。

821: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/21(日) 20:34:04.12 ID:xPOLfsDr0
「……えっと」

僕は聞いてもいないだろうけど、艦長の言葉に何かを言うことにした。
聞いていないとしても、僕なりに何か言わないと気が済まなかった。
一方的に、謝られても、僕には何のことか分からないから。

「あの、謝らないでください。僕、感謝してますし。教えのおかげで今も生きていられてますし」

とりあえず思ったままを伝えてみる。
向こうも一方的だったし、僕も一方的でもいいだろう。
だから、この言葉も、一方的。

「ありがとうございます。――教官」

それだけ言うと、僕はその身体を抱き締めてみた。
教官の身体は柔らかくて、枕なんて比べ物にもならない。
ああ、僕も…。
……眠く、なっちゃったな…。



そのまま、僕は一晩を過ごした。
もちろん、翌朝は艦長に色々と言われちゃったし、それを知ったチームの皆――特にケイに――怒られちゃったけど。
でも、気持ち良く眠れたから……まぁ、いいかな。

------------------------------

842: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/25(木) 01:39:07.23 ID:vB63CeN50
一緒だって、いいじゃない。

スターローズ―― 一般居住区

イズル「ええっと、この辺りだよね?」スタスタ

スルガ「新設された温泉施設かぁ…」

アサギ「ったく、何で俺が…」

スルガ「いいじゃねーかよ、ほら、このお湯とか胃にいいらしいぜ?」

アサギ「……しょうがねぇな…」フー

イズル「きょうか…艦長のおかげで貸し切りで入れるんだよ? せっかくだしさ」

843: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/25(木) 01:39:33.29 ID:vB63CeN50
タマキ「温泉ー、温泉ー」

ケイ「…まったく、子供ね」

タマキ「いいじゃん、テンション上がったってー。ふふん、キレイになってモテモテなのらー」

ケイ「アンタねぇ…だいたい、アンタにはあの先輩がいるでしょうが」

タマキ「う……あの人のあれ、分かんないもん」

アンジュ「いや、パトリック先輩のあれは分かりやすいじゃないですか」

タマキ「あぅ……」カァ

ケイ「…まったく、子供ね」フッ

タマキ「っ、ふーんだ!」タタタ…

イズル「あ、タマキ。勝手に進んじゃ……あ」

アサギ「? あぁ…あったな」

844: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/25(木) 01:40:12.44 ID:vB63CeN50





温泉入口

イズル「じゃ、皆、後でね」

ケイ「ええ、それじゃあ」

アサギ「タマキ、のぼせんなよ?」

タマキ「子供扱い禁止ー!」ムッ

スルガ「よく言うよ。……それで、いいのかよ、アンジュ」

アンジュ「はい。こういうところはどうも落ち着かなくて…」

イズル「そ、そっか。まぁ仕方ないよね」

アサギ「(せっかく男かどうか分かるチャンスだったのにな…)」

スルガ「(まったくだな…まーいいけどよー)」

ケイ「(どっちでもいいでしょうに…)」フー

845: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/25(木) 01:40:48.97 ID:vB63CeN50
男湯

イズル「わぁ……」

スルガ「おぉ……」

アサギ「へぇ……」

プールサイズの浴槽ズ「」イラッシャーイ

スルガ「すっげー、すっげー! 広すぎんだろこれ!」ヒャッホー

アサギ「はしゃぐな見苦しい。ほら、まず身体洗えよ」

イズル「うん、そうだね」



女湯

タマキ「わーっ、すごいすごーいっ!!」ピョーンピョーン

ケイ「……」ハァ

タマキ「? どうかしらー?」

ケイ「跳ねない。飛び込まない。身体洗う」

タマキ「…はーい……」

846: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/25(木) 01:41:40.90 ID:vB63CeN50





男湯

スルガ「おりゃあ!」ヒャッホーイ

ザバーン!

アサギ「っ、おい、飛び込むな、飛沫が掛かるだろ!」

スルガ「ん? あぁ、悪い悪い」

イズル「あはは。でもすごいね、こんなに広いと、ちょっと落ち着かないや」

スルガ「そーかー? かなりイロイロできていいぜ? ほら」ザブザブ

アサギ「おい、泳ぐな。みっともない」

スルガ「みっともないも何もねーだろ、誰もいないし」

アサギ「そういう問題じゃねぇよ」

スルガ「ちぇっ。……お、あっちのヤツおもしろそうだな、見てくる」

アサギ「おい! ったく、気ままなヤツめ」

847: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/25(木) 01:42:14.57 ID:vB63CeN50
イズル「まぁまぁ。いいんじゃないかな、ああいうのも」

アサギ「ったく。まぁいい」ザブ

イズル「あれ、アサギ?」

アサギ「例の温泉探してくる。じゃあな」

イズル「うん。じゃあね」

イズル「」カポーン

イズル「……僕も、どこか行ってみようかなぁ」トテトテ

イズル「あ、ここ何だろう?」

扉「」

イズル「何も書いてないけど…ちょっと行ってみようかな」ガチャ

848: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/25(木) 01:43:07.86 ID:vB63CeN50





女湯

タマキ「♪」チャプチャプ

ケイ「タマキ、バタ足しないの」

タマキ「ええー、いいじゃん。どうせあたしたち以外誰もいないしー」

ケイ「そういう問題じゃないでしょ」

タマキ「はーい……」

ケイ「……」

タマキ「♪」ノビー

ケイ「……」ジー

タマキ「♪」タユンタユン

ケイ「……」ストーン

ケイ「」ハァ

タマキ「? どうかしたのー?」

ケイ「別に。何でもないわ」

849: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/25(木) 01:43:43.39 ID:vB63CeN50
タマキ「? ……あ、あたしあっち行ってくるー!」ザブッ

ケイ「え、あ、タマキ…」

ウォータースライダー風お風呂「」ウェルカーム

ケイ「…お子様」フゥ

ケイ「……私も、色々と見て来ようかしら」ザブ

ケイ「」トテトテ

ケイ「…? 何かしら、ここ」

扉「」

ケイ「何も書いていないけれど…行ってみようかしら」ガチャ

850: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/25(木) 01:44:52.29 ID:vB63CeN50





???

イズル「」チャプ

イズル(入ってみたけど…ただのお風呂だ)

イズル(うーん……何もないなぁ)

イズル(…出ようかな?)

ガチャ

イズル(? アサギかスルガ、かな)

851: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/25(木) 01:45:18.84 ID:vB63CeN50
???「…ふぅ」

イズル(……)

イズル(あれ、今のって…え?)

イズル(いや、でも、ここって、男…)ザバ

???「…え?」

イズル「あ」

ケイ「……」スッパダカ

イズル「……」スッパダカ

852: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/25(木) 01:45:48.65 ID:vB63CeN50
イズル「け、ケイ!?」タオルカブリ

ケイ「イズル!?」タオルカブリ

ケイ「な、ななな…な、ぁ」

イズル「あ、いや、えっと、あの……」

ケイ「な、何で、こ、ここに…っ!」

イズル「そ、それはケイだよ! ここ男湯だよ!」

ケイ「な、何を言ってるのよ! ここは女湯…」ハッ

イズル「……あ、も、もしかして…」

イズル・ケイ「「こ、混浴……?」」

853: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/25(木) 01:46:35.93 ID:vB63CeN50
イズル「」カァ

ケイ「」カァ

イズル「…えっと、その……」

ケイ「…あの、えっと……」

イズル「…と、とりあえず、出るね」

ケイ「わ、私も、出るわ」

イズル「う、うん…」ソー

ケイ「」ソー

854: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/25(木) 01:47:11.88 ID:vB63CeN50
イズル「…じゃ、じゃあね」

ケイ「え、ええ…」

ケイ「……い、イズル」

イズル「う、うん」

ケイ「見て、ないわよね?」

イズル「…あ、当たり前だよ」カァ

ケイ「そ、そう…」

イズル「うん…その、ケイこそ…」

ケイ「み、見てないわよ!」カァ

イズル「そ、そっか。それじゃあ」ガチャ

ケイ「え、ええ…」ガチャ

855: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/25(木) 01:48:15.51 ID:vB63CeN50



イズル(…と、とんでもないモノを見ちゃったなぁ)

イズル(……ケイ、キレイだったな…)

イズル「」ハッ

イズル「」カァァ



ケイ(…と、とんでもないモノを見てしまったわ)

ケイ(……イズル、たくましかったな…)

ケイ「」ハッ

ケイ「」カァァ



イズル・ケイ「「…はぁ」」



その後は何事もなくイズルたちは無事に温泉を楽しみました。
のんびりと、ゆったりと。
そして、今度はアンジュも一緒に温泉に入る約束を交わし、ひそかにそのときを待つ男たちなのでした。

------------------------------

868: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 22:43:07.41 ID:kbYFUT7z0
頭が、痛い。
スターローズの長い廊下を私はよろよろと進んでいた。
今日もレイカに付き合って遅くまで酒を飲んでいた。
ちなみに、肴は私の愚痴と悩み。

その中身は、かなり重たいモノで、レイカぐらいしか話せる人がいなかった。
ジュリアシステム、その使用者たるパイロットへの弊害。
――イズルの変化。自我の崩壊。

その話にレイカは何も言わなかった。
いや、何も言えなかった、といったところだろう。
当然だ、私だって、今迷っている。
問題の当人である彼にこのことを伝えてしまうべきか。
その仲間たちには?
――私には、答えが出せない。

そして、少し静かな空気の中で、二人だけの飲み会は終わった。
微妙な面持ちのまま、私とレイカは別れて、現在に至る。

869: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 22:44:03.66 ID:kbYFUT7z0
「んぅ……」

悩ましげな吐息が私の唇から零れ落ちる。
軍服は着崩れてしまっているけれど、それを気にするような心境ではなかった。
こういうところを生徒たちに見られたら困る。
困るが、そんなことを考える余裕がない。

このまま、部屋に戻るのも億劫なくらいだ。
いっそ、このままどこかまで朝まで散歩してしまおうか。
そこまで、私は考えて――

「艦長?」

私の意識が、一気に目の前の現実に向けて集中する。
照明を落とされた暗がりの中から、一人の少年が現れた。
普段と変わらない、どこか頼りない印象を持ったあの少年が。

870: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 22:44:34.04 ID:kbYFUT7z0
「…いずるー?」

呂律の回らない状態で、私はその名を呼んだ。
我ながら情けないけれど、あいにくと訂正はできない。
お酒の力は怖い。

それでも、普段の冷静な姿を本能的に見せようとしたのか、身体が勝手に動いた。
イズルに近付きながら、きっぱりとした足取りをしようとした。
が、突然の動きに身体は付いていけず、ふらついたまま、私はあっさりとイズルに身を預けてしまう。

イズルの胸板に頭を埋めてみる。
そこは思ったよりも固くて、何だか落ち着いてしまう。
それに、筋肉もそれなりにあることに気付き、自分の特訓は実を結んでいたことを知る。

871: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 22:45:12.28 ID:kbYFUT7z0
「だ、大丈夫ですか?」

慌てたようなイズルの声が頭上から響いてくる。
心配する声に、私は意地を張ることにした。
私は彼の上司だ。だらしのないところをこれ以上は見せられない。

「だいじょうぶ、よ…」

何と頼りない声だろう、と自分でも思った。
おまけに、そんなことを言いながら、まったく身体はイズルから離れない。
ああ、情けない。

どうしてしまおうか、と考える。
このままでは、イズルも困るだろう。
明日だって、早い。急げ、すぐに元の艦長に戻らなくては。

が、私がそうするよりも先に。

「…部屋に、お連れしますね」

その声に応える前に、私の身体が広くて暖かい場所に載せられて、上昇した。
……そこがイズルの背中だと気付いたのは、掛けられた声の意味を理解したときだった。
何か言うべきか、と思ったけれど、そこの居心地の良さに言葉が詰まって、何も言えなかった。
揺られ、揺られて、私は意識を手放した。

873: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 22:46:14.57 ID:kbYFUT7z0





「ええっと、寝かしますよ…」

次に意識が聞いたのは、イズルのその声。
そして、認識したのは、自分がベッドに寝かせられる音。

心地いいマットの感触を抱きながら、そっと瞳を閉じてしまう。
一瞬、イズルの顔がチラリと見えた。
純粋無垢な少年のそれだった。
あの、いつかの自信家のような振る舞いの彼のモノではない。

分かっている。でも、いつか。
いつか、『彼』がヒタチ・イズルとなるときが来るのかもしれない。
それを思うと、胸が張り裂けそうになる。
私が生徒だと思い、見守ってきたこの子が。
また、誰でもない人に戻ってしまうのかと思えば、気が沈む。

874: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 22:46:50.83 ID:kbYFUT7z0
狸寝入りから何とか戻って、顔を上げてみた。
開けた私の視界の中には、くるりと踵を返してここを去ろうとする彼がいる。
その背中が、不思議なことに消えてしまいそうに見えた。
きっと、さっきまで考えていたことのせいだ。
そう分かっていたのに、私の身体は動いた。

「…いずるー」

まず、寝ぼけた調子でその名を呼んだ。眠気はあったから、あまり意味はないが。
ん? と不思議そうに彼は振り向く。
………何とも隙だらけで、少し心配になった。
そんな感想を置いておいて、私は手を伸ばして彼の身体を無理矢理引き寄せ、ベッドに沈めた。

876: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 22:47:24.05 ID:kbYFUT7z0
「か、艦長!」

彼が叫ぶ声を耳にしながら、私は寝相の悪いフリをして彼を抱き枕にする。
……あくまでも、目的は別のことだけれど、彼の抱き心地はとても良かった。
もちろん、関係ない。
私は自分のしたかったことを、改めて実行する。

「ごめんね、いずる」

目を閉じているために何も見えない中、軍人としての勘を生かしてイズルの頬に手を伸ばす。
私は滑らかな感触のそこを、そっと撫でた。
私の声がはっきりと聞こえていなかったのか、彼は何も言わなかった。
私はもう一度、今度は聞こえるように言った。

「ごめんね、いずる」

私はあなたを救えない。あなたを、あなたとその仲間を使って戦わせることしかできない。
それを口にした途端、想いが込み上げ、自然と涙を流していた。
酒に酔っていたせいだ、と思う。泣き上戸なせいだ。こんなにも情けない心持ちになってしまうのも。

877: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 22:48:45.80 ID:kbYFUT7z0
静寂に私の周りが包まれていく。
あるのは、目の前にあるであろう少年の暖かい感触だけ。

彼は何も言っていない。反応もない。
きっと、理由の分からない寝言程度に思っているのだろう。
それはそうだ。さっきの言葉は、ただの一方的な謝罪だ。
何を謝るのかも分からない謝罪。それに反応できることはない。
そう思うなら、話してしまえばいいのに、そうしない。

命令があるからだ。責任ある立場として、教えてはならないからだ。
そうやって、言い訳する。自分の心を守るために。
本当に最低な自分を知りつつ、私は本格的に意識を流していく。
眠ってしまえば、そこに逃げ道がある。弱っていた私には、他に選択はない。

878: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 22:49:22.78 ID:kbYFUT7z0
「……えっと」

無くなりかけた意識の中で、私は声を聞いた。
聞き慣れた少年の声、戸惑うように、言葉を紡ごうとする声。
その先の内容は、聞こえなかった。
もう脳や耳の活動限界がやってきていた。
何も分からない。彼が私に何を言ったのか。何を伝えたかったのか。

だけど、一つ、分かることはあった。
彼に抱き締められたこと。優しく、包み込むように。
ああ……暖かい。思わぬ感覚に安心を覚えてしまう。
ごめんなさい、と呟いて、私は腕を彼の背中に回した。
あなたには、私は甘えっぱなしだ。本当は、私が甘えさせるべきなのに。
そう思ったことだけを私の脳は覚えて。ゆっくりと眠りに落ちて行った。
心地良く、安らいで、ゆっくりと。

------------------------------

880: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 22:51:58.88 ID:kbYFUT7z0
海開き

スターローズ――作戦会議室

アサギ「また、一日半の休暇…ですか?」

リン「ええ。今回の戦闘、敵もそれなりに打撃を受けた、という予測があってね」

レイカ「ま、こっちも結構大変なんだけど。それでアッシュも大幅な整備が必要になっちゃってねー」

リン「次の敵の攻撃予測時間も長いし、あなたたちには一度休んでもらう、ということが決定したのよ」

881: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 22:52:37.20 ID:kbYFUT7z0
スルガ「ち、ちなみにどこに?」

リン「どこの宇宙ステーションのリゾート地も危険だから、ね」シタヲユビサシ

イズル「? 下、ですか?」

アンジュ「いや、先輩。そうじゃないかと…」

ケイ「…もしかして」

タマキ「ち、ちきゅーっ!?」

882: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 22:53:40.14 ID:kbYFUT7z0
???「おまけに超有名な海水浴場近くの別荘地だ」

イズル「え、ランディ先輩!? 皆さん!」

ランディ「よう。俺たちも休暇に同行することになってな。挨拶しにきたぜ」

パトリック「やぁ、タマキちゃん」フリフリ

タマキ「こんにちはー」ニコニコ

イズル「先輩たちも、なんですか?」

チャンドラ「ああ。俺たちは俺たちで休暇ってわけだ」

ランディ「お前らが休むついでさついで。お前らとは一度遊んでみたかったしな」

リン「……そういうことだから。行ってらっしゃい」フッ

チームラビッツ「は、はい!」

883: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 22:54:56.99 ID:kbYFUT7z0





某南の県――海水浴場前

太陽「」ピカー

イズル「あ、熱いね……」

アサギ「くっ、容赦ねぇなこの照り付け…」

ケイ「まったくね…」

884: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 22:56:20.75 ID:kbYFUT7z0
ランディ「何だ、若いのに元気がないな」

チャンドラ「お前みたいなのと一緒にするなよ」

ランディ「何だ、俺がお子様だってか、この野郎」

チャンドラ「他に何が言えるんだか」フー

パトリック「ま、まぁまぁ。…あっちはずいぶんと元気ですね」

タマキ「わー、男子がいっぱーいっ!」キャー

スルガ「女子もいっぱーいっ!」ヒャッホー

アサギ「ったく…」

ケイ「節操のない……」

885: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 22:56:52.96 ID:kbYFUT7z0
イズル「ははは…。えっと、着替えてこようか」

ランディ「だな。行くぞ」

アンナ「行こう行こう!」

アサギ「…で、何でお前もいるんだ?」

アンナ「じっちゃんとパパが行っていいって」

アサギ「それで何で付いてくるんだよ…」

886: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 22:57:39.55 ID:kbYFUT7z0
イズル「まぁいいんじゃない? にぎやかだし」

アンナ「おー。いいこと言うな、イズル!」

ランディ「そうそう。ほら、行こうぜ、アサギ」

アサギ「」ハァ

チャンドラ「おい、行くぞ!」

パトリック「タマキちゃん、海は着替えてからだよー!」

スルガ・タマキ「はーいっ!」

887: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 22:58:18.37 ID:kbYFUT7z0





海水浴場――ビーチ

イズル「っと、僕らが一番乗りだね」

スルガ「おー、そうみてーだな」

アサギ「おい、呑気にしてないでパラソル立てるの手伝えよ」ヨッ

ランディ「おう、ありがとよ、アサギ」

チャンドラ「すまんな」

アサギ「いえいえ。後輩として当然ですから」

888: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 22:59:10.42 ID:kbYFUT7z0
アンジュ「皆さん、遅かったですね」スタスタ

スルガ「お、アンジュー」

アンジュ「はい、これ、飲み物入ってますから、どうぞ」ゴトッ

ランディ「悪いな。わざわざ先に行って用意してもらって」

アンジュ「いえ。お気になさらず。私は一番後輩ですから」

イズル「そっか。ありがとう、アンジュ」

スルガ「(おかげで男か女か分からないけどな…)」

アサギ「(水着もパイロット用の男女兼用型だしな…)」

889: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 23:00:08.47 ID:kbYFUT7z0
パトリック「しかし、タマキちゃんたち遅いですね…」ソワソワ

チャンドラ「女の着替えは遅いものさ」

ランディ「そうそう。俺たちはせいぜい水着で現れる彼女たちのことを考えてだな…」

イズル「そ、それはどうかと思いますけど…」

ランディ「何言ってるんだイズル! こうやって想像してわくわくしながら待つ瞬間が一番楽しいんだぞ!?」

チャンドラ「すまん。このバカリーダーは気にするな」

ランディ「バカとは何だ、バカとは!」

890: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 23:02:18.30 ID:kbYFUT7z0
アサギ「……あ、来た」

タマキ「おっまたせーっ!」フリフリ

アンナ「ったせーっ!」タタタ…

ケイ「お、お待たせ……」

イズル「よーし、揃ったね!」

スルガ「へー、何かいつもと違うじゃんタマキ」

タマキ「ふふーん、どう? オトナっぽい、オトナ?」ドヤ

スルガ「いや、アホっぽい」

タマキ「らにをーっ!?」

891: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 23:02:56.30 ID:kbYFUT7z0
パトリック「大丈夫だよ、その…とってもかわいいし」ニコリ

タマキ「ふぇ? あ…え、あ、ありがと、ございます…」ウツムキ

ランディ「(やるじゃねーかパトリック!)」

チャンドラ「(ああ、何だか意外だがな…)」

アンナ「どうだー、アサギ、似合うか、似合うか?」

アサギ「あーはいはい似合ってる似合ってる」

アンナ「投げやりに答えんなーっ!」

アサギ「……」チラリ

892: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 23:03:42.89 ID:kbYFUT7z0
ケイ「ね、ねぇイズル」

イズル「? 何?」フーフー

ケイ「その、ど、どうかな?」

イズル「? ……ああ! うん、とっても似合っててかわいいよ!」ニコニコ

ケイ「! あ、ありがとう…イズルも、あの、かっこいい、かな」ホホエミ

イズル「そう? ありがとう!」

アサギ「……」フー

アンナ「…むー」

893: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 23:05:00.86 ID:kbYFUT7z0





スルガ「よっしゃー、行くぞ!」ポンッ

ランディ「かかってこい!」

イズル「やっ!」ポンッ

アサギ「はぁっ!」バシッ

ランディ「任せろ、イズル!」バシッ

894: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 23:05:37.11 ID:kbYFUT7z0
イズル「先輩、ナイスです!」

アサギ「くっ、スルガ!」

スルガ「おう、アサギ、行けっ」ポンッ

アサギ「お、らあっ!」バシッ

イズル「――くっ」シュッ

チャンドラ「アサギチームの勝ちだ!」

895: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 23:07:18.94 ID:kbYFUT7z0
ランディ「く、負けちまったか…」

イズル「すみません先輩、あと少しだったのに…」

ランディ「気にするな、俺は楽しかったからな」

アサギ「こっちも結構危なかったな」

スルガ「だなー。ビーチバレーなんかに熱中したの久しぶりだぜ」

チャンドラ「次は誰がやる?」

896: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 23:07:50.53 ID:kbYFUT7z0
タマキ「あたしやりたーい!」

パトリック「あ、じゃあ僕とチーム組もうよ、タマキちゃん」

タマキ「うん、お願いしまーす!」

チャンドラ「ふむ。じゃあ俺も…っと、ケイがいないな。せっかくだから未参加同士で、と思ったんだが」

アンナ「さっき追加の飲み物買いに行ったよー」ペタペタ

アンジュ「そうですね、十分くらい前でした」ペタペタ

897: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 23:08:42.57 ID:kbYFUT7z0
ランディ「それにしては遅いな。それなりに人もいるから迷子にでもなったか?」

アサギ「…俺、探してくる」

イズル「あ、僕も行くよ」

アサギ「………ああ」

ランディ「おう、行って来いよ。……なぁ、お前らはさっきから何を砂で作ってるんだ?」

アンジュ「ええっと、まだ未完成でして…」

アンナ「完成してからなー」

ランディ「ふーん…」

898: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 23:09:13.74 ID:kbYFUT7z0
チャンドラ「おい、俺とチーム組んでくれ。二対一ではな」

ランディ「おう。ついでにパトリックの援護といきますか」

チャンドラ「うむ。うまくやるとしよう」

スルガ「じゃ、俺が審判でー」

パトリック「よし、行くよ、タマキちゃん!」

タマキ「はーいっ!」

899: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 23:09:49.51 ID:kbYFUT7z0





ケイ「」スタスタ

ケイ「…弱ったわね」

ケイ(誰か迎えに来てくれるといいけれど…)

ケイ「……っ」ズシリ

ケイ(いい加減重くなってきてしまっているし…)

ケイ「イズル……」

900: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 23:10:43.90 ID:kbYFUT7z0



アサギ「」スタスタ

イズル「うーん、いないね、ケイ」スタスタ

アサギ「…ああ、そうだな」

イズル「アサギ、どうかしたの?」

アサギ「何がだ?」

イズル「や、さっきから僕のこと全然見てないし」

アサギ「別に。何でもねぇよ」

イズル「そう? ならいいけど…」

901: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 23:11:18.34 ID:kbYFUT7z0
アサギ「」スタスタ

イズル「」スタスタ

アサギ「…お前さ。一つ、聞いてみてもいいか?」スタスタ

イズル「うん。何?」スタスタ

アサギ「もしも、お前のことを好きな人がいたら、お前はどうする?」ピタッ

イズル「へ?」

アサギ「もしもの話だよ。どうする?」

902: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 23:12:18.62 ID:kbYFUT7z0
イズル「ええと…そうだなぁ」

アサギ「……」

イズル「うん。その人のことを知ってみたい、かな」

アサギ「どうしてだ?」

イズル「僕のどういうところを好きになってくれるのか分からないけど、
僕もその人の好きなところを知れたら、同じ気持ちになれるんじゃないかな、って」

アサギ「…そうか。じゃあ質問を変えるけどよ」

イズル「うん?」

903: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 23:13:15.73 ID:kbYFUT7z0
アサギ「お前を好きな人を、お前の知ってる人が好きで、それでいてお前はそのどっちも知らない。
でも、いつかそれを知る。そしたら、どうするんだ?」

イズル「ええっと、すごくややこしいね」

アサギ「もしものことさ。テキトウでもいい」

イズル「うーん……」

アサギ「………」

イズル「……僕の気持ち次第、かな」

アサギ「どういうことだ?」

904: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 23:15:10.76 ID:kbYFUT7z0
イズル「あのね。僕がその、僕を好きな人のこと、よりも好きな人がいたら、僕は関係なしにその人の方に行っちゃうと思う。
    その人への気持ちは変わりようがないからさ。それで、諦めてもらうことになっちゃう、かな。とても悪いとは思うけど」

アサギ「もう一人の場合は?」

イズル「その人には……うん。できたら、僕を好きだった人のことを慰めて欲しいかな…。
    だって、その人は僕を好きだった人のことを大切にしたいって思ってるんだから」

アサギ「……なるほど、な。じゃあ、そうじゃないときは?」

イズル「…さっきも言ったけれど、僕を好きな人のこと、いっぱい知りたいかな。それで、その人を好きになりたい。
    もう一人の人は、えっと……僕には、どうしようもない、のかな。謝るとか、そういうことは関係ないし」

アサギ「……そうか」

905: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 23:16:21.14 ID:kbYFUT7z0
イズル「ね、どうしてアサギはこんなことを聞くの?」

アサギ「別に。歩いていても退屈だからな。……ま、目的は達成したし」

イズル「へ? あ、ケイ!」

アサギ「…俺、先に戻ってるから。あとはよろしく、ヒーロー」

イズル「え、あ、アサギー?」

イズル「行っちゃった…」

906: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 23:17:10.56 ID:kbYFUT7z0
ケイ「イズルー」パタパタ

イズル「あ、ケイ。探したよ」

ケイ「えっと…ごめんなさい、心配かけたかしら」

イズル「うん。皆心配してるよ。ほら、行こう?」ヒョイ

ケイ「あ、ありがとう」テクテク

907: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 23:17:38.25 ID:kbYFUT7z0
イズル「」スタスタ

ケイ「……っ」キュッ

イズル「ケイ? どうしたの、裾つまんで」

ケイ「は、はぐれたら、困るから…」

イズル「あ、そっか。じゃあそうしとこうか」

ケイ「え、ええ…」テクテク

ケイ(……ふふっ)

908: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 23:18:57.79 ID:kbYFUT7z0





アサギ「」タタタ…

アサギ(やれやれ。鈍感ヒーローめ、これぐらいお膳立てしとかねぇとな…)

アサギ「まったく、面倒だ……」フー

アサギ(…陽の光がうっとうしいな)

アンナ「お、アサギ! イズルとケイは?」

アサギ「もう少しで来るよ。何してんだ、お前ら?」

アンジュ「ええっと、アンナと一緒に少し立体物を」

スルガ「アサギも見ろよ。感動しちまうぞ!」ヒャッホー

アサギ「ふーん…って、これは…」

909: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 23:19:32.87 ID:kbYFUT7z0
サンドブルー1「」ジャーン

サンドパープル2「」ジャーン

サンドローズ3「」ジャーン

サンドゴールド4「」ジャーン

サンドレッド5「」ジャーン

サンドブラック6「」ジャーン

サンドライノス「」ジャーン

910: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 23:20:35.90 ID:kbYFUT7z0
アサギ「すごいな、おい」

アンナ「どうだ、すごいだろ、すごいだろ!」

スルガ「この荷電粒子砲のデザインの再現率、機動ブースターの造形! どれを取っても職人芸だぜ!」

アンジュ「ええ、まったくですね。私もお手伝いさせてもらいましたけれど、ほぼアンナが作っていましたから」

アンナ「へへー、どうだどうだー?」

アサギ「……」

912: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 23:21:37.56 ID:kbYFUT7z0
アンナ「お、感動のあまり言葉に詰まったか? まったく、ヘボパイは…」

アサギ「ああ、感動しちまったよ」ナデナデ

アンナ「! あ、え…」

アサギ「何だよ、ホメてるのに」ナデナデ

アンナ「あ、ぅ…こ、子供扱いすんなーっ!」バシッ

アサギ「ん、ああ、悪い」

913: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 23:23:31.66 ID:kbYFUT7z0
アンジュ「…ふふっ。何だか兄妹みたいですね」

スルガ「そうだなー、アサギお兄ちゃん……くくっ」

アンナ「わ、私はこいつのおねーちゃんだけどなっ」

アサギ「はいはい。そういうことにしといてやるよ」

ランディ「いやー、くったくただぜ、まったく…お、すげぇなこれ!」

チャンドラ「ほう。ライノスまでできてるのか。これは驚いた」

914: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 23:24:11.11 ID:kbYFUT7z0
パトリック「大丈夫、タマキちゃん?」ヨイショ

タマキ「ら、らいじょうーぶー」セオワレ

ランディ「こっちも上々だな」ニヤリ

チャンドラ「ふむ、確かにな」フッ

イズル「皆、ただいま!」

ケイ「遅くなってしまったわ、ごめんなさい」

915: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 23:24:45.38 ID:kbYFUT7z0
ランディ「おうおう、ずいぶんと初々しいことして現れやがって」ニヤニヤ

ケイ「」ハッ

イズル「?」

ケイ「こ、これは迷子にならないためです」バッ

チャンドラ「ふっ、なら仕方ないか」

ランディ「ああ、仕方ねーな」

ケイ「……っ」ウツムキ

イズル「?」

916: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 23:25:25.92 ID:kbYFUT7z0
アサギ「…もう夕暮れですね」

スルガ「マジかよ、早いな、おい」

イズル「ええっと、戻ろうか?」

ランディ「おう、行くか」

チャンドラ「色々と準備もしてある。戻って楽しむとしよう」

917: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 23:26:18.60 ID:kbYFUT7z0
スルガ「」ハッ

アサギ「どうした、スルガ」

スルガ「な、ナンパするの、忘れてた……」ガックリ

ケイ「さ、行きましょうか」グイグイ

スルガ「ま、待て、行かせてくれー! せめて一分…」

イズル「ダメだよスルガ。日没になっちゃうし」

タマキ「諦めも大事らよー」

パトリック「行こうか、タマキちゃん」

タマキ「はいにゃん!」デレー

スルガ「て、てめーっ、タマキ、裏切ったなーっ!?」

918: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 23:27:14.46 ID:kbYFUT7z0





別荘

イズル「先輩、こっちもお願いします」

ランディ「おう、ほれ」カチッ

手持ち花火「」シャー

イズル「わぁ……」キラキラ

タマキ「すごーい、キレイなのーっ」キャッキャッ

パトリック「タマキちゃん、次はこれをやりなよ」

タマキ「あ、ありがとーっ、パトリックセンパイ!」テレテレ

919: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 23:27:47.95 ID:kbYFUT7z0
ドーンッ!

スルガ「うっひょー、これこれ! この爆発力と音! かのバレルパニック社の薬品調合技術の結晶! ここの銃は注目株だからなー!」

アサギ「うるさいにもほどがあるだろうが! もうちょっと弱く…」

アンナ「ダメに決まってるだろー! それじゃ個性が潰されちまうよ!」

アンジュ「そうですね。こればかりは仕方ないかと」

アサギ「く、スルガの味方が増えやがった…」イガー

920: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 23:28:35.19 ID:kbYFUT7z0
チャンドラ「ふむ、大変だな、お前も」イグスリワタシ

アサギ「あ、ありがとうございます…」

チャンドラ「今度チームの制御の仕方でも教えよう。俺もあのガッカリリーダーには苦労したからな」

アサギ「はい、ぜひとも…」

ランディ「よし、見てろイズル。これが真の花火だ!」

ケイ「先輩、それはいくらなんでも危険じゃ…」

イズル「そうですよ、口に咥えるなんて…」

アチーッ! ホラヤッパリ! ケイミズヲ! ワカッタ! ツメテーッ!

チャンドラ「」フー

アサギ「…心中、お察しします」

921: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 23:29:29.05 ID:kbYFUT7z0





ランディ「よし、次で終わりだな」

チャンドラ「線香花火か、やはり締めに相応しいな」

タマキ「どうやるのー?」

パトリック「えっとね、タマキちゃん。今度はじっとして、これをがキレイに燃えるまで待つんだよ」

タマキ「へー」

922: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 23:30:14.02 ID:kbYFUT7z0
スルガ「何か願いながらやって、最後までやれたら叶うって聞いたな」

タマキ「マジ!? がんばるのらー!」

パトリック「や、そんなにはしゃいじゃダメだよ」

アサギ「まったく…迷信だろ、それ」

アンジュ「ゲン担ぎ、というモノですね」

スルガ「いいじゃねーか夢があるだろ?」

923: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 23:31:05.75 ID:kbYFUT7z0
ランディ「おう、スルガはいいこと言うぜ」

チャンドラ「貴様のことだから大したことは願わんだろうな」フッ

ランディ「何を言うか、俺はいつものようにだな…」

チャンドラ「かわいい彼女だろ、もう分かっている」

アンナ「……」ジーッ

アサギ「…何をそんな集中するんだか」

アンナ「アサギは黙ってろ! …むー」

線香花火「」パチパチ

924: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 23:31:34.45 ID:kbYFUT7z0
アンナ「」パァ

アサギ「で、何を願ったんだ?」

アンナ「そ、そんなモン…内緒だ」プイッ

アサギ「何だそりゃ」

アンナ「――ほら、アサギもやれよ!」

アサギ「はいはい、っと」カチッ

線香花火「」ポゥ

925: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 23:32:17.90 ID:kbYFUT7z0
アサギ(…願い、か)

アサギ(……俺は…)

アサギ(……やめやめ、迷信に頼るな、自分でやれ、だ)

アサギ「」ジーッ

線香花火「」パチパチ

926: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 23:32:54.35 ID:kbYFUT7z0



ケイ「」ジーッ

線香花火「」パチパチ

ケイ「」パァ

ケイ「」ホッ

ケイ「」スクッ

ケイ「」チラリ

927: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 23:33:29.36 ID:kbYFUT7z0
イズル「」ジーッ

線香花火「」パチパチ

イズル「」ニコリ

ケイ「……」ホホエミ

ケイ「」テクテク

ケイ「……イズル」

イズル「ん、何、ケイ?」

928: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 23:34:10.26 ID:kbYFUT7z0
ケイ「何を、お願いしたの?」

イズル「うん。また来年にここに来れますように、って」

ケイ「また、来年?」

イズル「うん。今度はここにいる皆だけじゃなくて、艦長とか整備長、ピットクルーの皆、それに司令やオペレーターさん、ナトリさん…」

ケイ「とにかく、皆?」

イズル「そう、あと、ダニールさんとテオーリアさん!」

ケイ「……そう」

イズル「?」

929: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 23:34:45.31 ID:kbYFUT7z0
スルガ「いいな、それ!」

タマキ「きっと楽しいのらー!」

アンナ「パパたちもかー、いいな!」

アンジュ「あまりたくさんだと、その、緊張しますけれど…いいですね」

アサギ「まぁ、悪くはないな」

930: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/28(日) 23:35:13.87 ID:kbYFUT7z0
パトリック「うん。それ、いいね」

チャンドラ「お前の場合は一人だけだがな、目当ては」

パトリック「ちょ、チャンドラ先輩!」

タマキ「?」

ランディ「ふ、まったく…。イズル」

イズル「? はい」

ランディ「その気持ち、忘れるなよ。そうやって、生きる目的を残すんだ。そしたら、きっとまたここに俺たちはいるだろうよ」

イズル「……はいっ!」



そうして、残りの時間も記憶に残すように過ごし、彼らはまた戦場へと向かう。
しかし、それは名残を持つ思い出にはならない。
未来への、希望のための思い出となり、彼らの力となるのだ。
これからも、それは増え続ける。彼らが真の安息を得る、その日まで。

------------------------------

940: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/29(月) 17:37:59.09 ID:IT0nDqKb0
積極的な乙女

戦艦ゴディニオン――医療室

ケイ「」スースー

イズル「……」ジー

アサギ「……」

シュッ

タマキ「ケイ、まだ寝てるのらー?」

アサギ「もう、目覚めてもいい頃なんだがな…」

スルガ「よう、これ、見舞い品」

アンジュ「先輩の好みに合わせて作ってきたんですけれど…」

アサギ「ああ、きっと喜ぶさ」

941: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/29(月) 17:38:29.87 ID:IT0nDqKb0
イズル「……」ジー

アサギ「…イズル、お前は一回戻れよ。もう三日も寝てないだろ」

イズル「……」ジー

アサギ「」フー

スルガ「ダメだな、コイツの集中力にはかなわねーよ」

タマキ「…行こ」

アンジュ「ええ、ここは先輩に……」

アサギ「…任せたぞ」

942: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/29(月) 17:39:17.67 ID:IT0nDqKb0
シュッ

イズル「……」ジー

イズル(あのとき、咄嗟にケイが庇ってくれたから、僕はここにいる)

イズル(あの日の奇襲戦のときの僕みたいに…)

イズル(……僕が無理したときも、こんな気持ちでいてくれたのかな…)

イズル「…ケイ。早く起きてね」ギュッ

ケイ「…ん、いず、る……?」パチッ

イズル「……あ」

943: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/29(月) 17:40:08.83 ID:IT0nDqKb0
イズル「――け、ケイ」ガバッ

ケイ「あ、ちょっ…」

イズル「大丈夫? 気分は平気? 熱とか…」ギュー

ケイ「……ふふっ、心配、してくれたの?」ナデナデ

イズル「当たり前だよ! ケイは大事な仲間なんだから!」

ケイ「……そっか。ありがとね、イズル」

イズル「僕こそ、ありがとう。ケイのおかげで僕はまだ生きてる」

ケイ「お返しみたいなモノよ。…お礼に今度デートでもしてね?」

イズル「へ? で、デート? あの、ケイ、それって…」

944: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/29(月) 17:41:00.92 ID:IT0nDqKb0
シュッ

アサギ「おい、ケイが目覚めたのか!?」

タマキ「ケイー! 大丈夫!?」

スルガ「ケーキ持ってきたから食おうぜー!」

アンジュ「いや、ケーキは後で…」

イズル「あ…皆」ギュー

ケイ「おはよう、皆」ギュー

945: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/29(月) 17:42:34.40 ID:IT0nDqKb0
アサギ「……な」

スルガ「…おいおい」

アンジュ「あっ……」

タマキ「ケイー!」タタタ

アサギ「…悪いな、邪魔した」グイ

タマキ「ふぇっ、あ、アサギーっ!?」ズルズル

スルガ「…えーっと、これ置いてくからな」

アンジュ「…し、失礼します、せ、先輩」ホホエミ

946: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/29(月) 17:43:10.10 ID:IT0nDqKb0
イズル「や、あの、これは…」

ケイ「あらあら。まぁ、仕方ないことよね」ギュー

イズル「え、ちょ、ケイ、離し…」

ケイ「いいじゃないの、別に。……イズルは、イヤ?」ウワメヅカイ

イズル「へ、あ…あぅ……」カァ

イズル(な、何か、ケイがヘンだ……)

ケイ「――ふふっ」

947: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/29(月) 17:43:37.47 ID:IT0nDqKb0





三日後――チームラビッツの待機所

イズル「」カキカキ

アサギ「……」ペラ

スルガ「♪」カチャカチャ

アンジュ「……」ペラ

タマキ「♪」カタカタ

948: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/29(月) 17:44:21.55 ID:IT0nDqKb0
アサギ「ケイ、遅いな」

アンジュ「そうですね、いつもなら一番に来ているのに」

スルガ「ま、しょうがないんじゃねーの? 退院したの昨日くらいだし」

タマキ「イズルは何か聞いてないのー?」カタカタ

イズル「へ、僕?」カキカキ

アサギ「だから、ケイが遅い理由だよ。何か聞いてないのか?」

イズル「え、ああ、うん、何も聞いてない、かな」

アンジュ「そうですか…」

949: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/29(月) 17:45:04.27 ID:IT0nDqKb0
スルガ「ふーん…って、お前いつまでメールしてんの?」

タマキ「別にいいじゃん、パトリックセンパイとはこれくらいの時間しか連絡取れないんだもん」

アサギ「…ったく、珍しいこともあるもんだな」

イズル「あはは、えっと、よかったね、タマキ」

タマキ「ありがとー」

タマキ「……」

タマキ(…でも、あたしこれからどう進めばいいのかなー)

タマキ(告白成功した先のこと、一回もなかったから…)

タマキ「」ムー

950: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/29(月) 17:45:44.40 ID:IT0nDqKb0
シュッ

ケイ「ごめん、遅くなっちゃった」ニコニコ

アサギ「おう。大丈夫か?」

ケイ「ええ、問題ないから。ありがと、アサギ」ニコリ

アサギ「…っ、そ、そうか…」

スルガ「……何か今日は機嫌良いな」

ケイ「え、そんなことないわよ。私は私だから、ね?」

951: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/29(月) 17:46:33.52 ID:IT0nDqKb0
アンジュ「あの、先輩、そのバスケットは何でしょうか?」

ケイ「ああ、これ? 皆に心配かけちゃったのと、お見舞いのお礼よ」コト

アサギ「…そ、それはつまり」

ケイ「私の手作りでよかったらだけど…ね」カパッ

スルガ「ひっ…マジか……よ?」

タマキ「……あれ?」

アンジュ「これは…」



とても美味しそうなお料理「」キラキラ

とても美味しそうな色合いのケーキ「」キラキラ

952: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/29(月) 17:47:06.74 ID:IT0nDqKb0
アサギ「こ、これは…」

タマキ「おいしそー、らの?」

アンジュ「そうですね、色もまったく危険そうじゃないですし…」

スルガ「…いや、でもよ……」

ケイ「あっ…ごめん、お腹いっぱいだったかしら?」シュン

953: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/29(月) 17:47:59.17 ID:IT0nDqKb0
イズル「えっと…僕、もらうよ」ヒョイ

ケイ「ええ、召し上がれ」パァ

スルガ「お、おい、イズル…!」

イズル「」パクッ

ケイ「」ニコニコ

イズル「」モグモグ

アサギ「……」ソワソワ

イズル「」モグ…

954: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/29(月) 17:49:54.48 ID:IT0nDqKb0
イズル「…お」

タマキ「お?」

スルガ「い、イズル…!」

アンジュ「先輩…っ!」

イズル「美味しいよ、これ!」パァ

イズルとケイ以外「!?」

955: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/29(月) 17:50:22.14 ID:IT0nDqKb0
ケイ「本当? よかった!」

アサギ「お、俺も一つ…」ヒョイ

タマキ「あ、あたしも…」ヒョイ

スルガ「だ、大丈夫なのか…?」ヒョイ

アンジュ「…いただきます」ヒョイ

ケイ「ええ、召し上がれ」ニコリ

956: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/29(月) 17:51:21.87 ID:IT0nDqKb0





二日後――アサギの部屋

スルガ「さて、皆集まったな」

イズル「へ? ケイがいないけど…」

アサギ「今日はなしだ。っつーか、お前話聞いてたか?」

イズル「えっと、タマキに連れてこられてさ…」

タマキ「あたしもよく分かってないのらー」

アンジュ「えっと、よく説明した方がよろしいかと」

957: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/29(月) 17:52:13.90 ID:IT0nDqKb0
アサギ「…最近のケイだよ」

イズル「ケイ?」

スルガ「ほら、何かおかしいだろ? メシが美味くなったりとかさ」

アンジュ「あと、毒舌じゃなくなったりですね」

タマキ「あー、そういえば」

アサギ「どうした?」

958: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/29(月) 17:52:56.78 ID:IT0nDqKb0
タマキ「こないだねー、急にパトリックセンパイのことで色々と相談乗ってくれたのー」

スルガ「それもヘンだな。アイツそういうのには口出ししないじゃん」

イズル「うーん、そっかぁ」

スルガ「ま、それはそれでいい気がしなくもないけどな」

アンジュ「…ええっと、そう、ですかね?」

スルガ「だって、今んところ良い変化ばっかじゃん」

タマキ「それもそーかもー」

959: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/29(月) 17:53:43.13 ID:IT0nDqKb0
アサギ「いや、だけどな…」

イズル「うーん……」

スルガ「何だよ、お前ら」

イズル「何か、違うっていうかさ…」

アサギ「……」

スルガ「…ま、いいけど。じゃ、俺戻るわ」

タマキ「あたしもー」

アンジュ「えっと、失礼します」

960: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/29(月) 17:54:25.41 ID:IT0nDqKb0
シュッ

イズル「……」

アサギ「……」

イズル「あの、僕も、戻るね」

アサギ「…ああ」

アサギ「……イズル」

イズル「ん?」

961: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/29(月) 17:54:57.61 ID:IT0nDqKb0
アサギ「ケイの…」

イズル「ケイの?」

アサギ「……いや、何でもない」

イズル「うん、それじゃあ」

シュッ

アサギ「……」

アサギ「何とかして、戻ってほしいけどな…」

962: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/29(月) 17:55:36.30 ID:IT0nDqKb0





スターローズ――第一回廊

イズル「」スタスタ

イズル(うーん、ケイ、どうしたんだろ?)

イズル(確かに、別に悪いことじゃないんだけれど……)

イズル(何か別の人みたいなんだよなぁ…)

イズル「……ちょっと、やだな」

963: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/29(月) 17:57:07.12 ID:IT0nDqKb0
ケイ「何が?」

イズル「…わっ、け、ケイ!」

ケイ「ちょっと、そんな驚くことないじゃない」ムスー

イズル「あ、ご、ごめん」

ケイ「もう、疲れてるの? ちゃんと休まないとダメよ?」

イズル「う、うん……」

ケイ「ほら、部屋、戻ろ?」キュッ

イズル「へ、ケイ…ちょっと、引っ張らないで…」

ケイ「いいからいいから♪」グイ

964: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/29(月) 17:57:42.32 ID:IT0nDqKb0



イズルの部屋

ケイ「はい、座って?」

イズル「いや、ここ僕の部屋だし…」

ケイ「気にしないの。紅茶でも淹れるわ」

イズル「えっと、うん、ありがとう」

965: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/29(月) 17:58:13.28 ID:IT0nDqKb0
ケイ「……」ジー

イズル「? ケイ?」

ケイ「……」ジー

イズル「な、何…」カァ

ケイ「」ストン

イズル(ちょ、ち、近いよ…!)

966: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/29(月) 17:59:11.03 ID:IT0nDqKb0
ケイ「…ふふ、ね、イズル」ギュッ

イズル「ひゃ、ひゃいっ!」

ケイ「…何、その声。もう、かわいいんだから…」クスクス

イズル「え、あ…か、かわ……」カァ

ケイ「…イズルは、私のこと、どう思ってるの?」

イズル「え、あの…えっと、な、仲間、だよ?」

967: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/29(月) 17:59:46.45 ID:IT0nDqKb0
ケイ「本当に?」ギュッ

イズル「…ほ、本当に」

ケイ「私は、そうじゃないわ」

イズル「け、ケイ…っ」

ケイ「イズル…私、あなたのこと……」ウルウル

イズル「」ゴクリ

968: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/29(月) 18:00:21.05 ID:IT0nDqKb0
ケイ(……なんて、そろそろ時間ね)

ケイ(私なりの手助けしてあげたんだから、後は上手く、ね?)

ケイ「」クラ

イズル「ケイ?」

ケイ「」ポテン

イズル「け、ケイ!?」ダキッ

ケイ「――イズル?」

969: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/29(月) 18:01:06.56 ID:IT0nDqKb0
イズル「大丈夫、急に倒れて…」

ケイ「……っ、こ、ここどこっ」バッ

イズル「へ? 僕の部屋だけど…」

ケイ「な、何でそんなところに…そ、それも二人きりで……っ」カァ

イズル「お、覚えてないの?」

ケイ「え、ええ……まったく」

イズル「そ、そっか…じゃあ仕方ないね」

970: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/29(月) 18:07:35.01 ID:IT0nDqKb0
ケイ「……っ、わ、私、戻るから」ガタッ

イズル「あ、でも、ほら、紅茶淹れるトコだったし」

イズル「――良かったら、その、飲んでいってよ」トポポ…

ケイ「…う、うん……」ストン

イズル「……」コクコク

ケイ「……」コクコク

イズル「……」ハー

ケイ「……」ハー

971: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/29(月) 18:08:43.86 ID:IT0nDqKb0
イズル「……」

ケイ「……」

イズル・ケイ「「――あ、あの。――あ」」

イズル「えっと、ケイからどうぞ」

ケイ「うん。あの、私、どうしてここにいるのかしら? その、あのときあなたを庇ってからの記憶がなくて…」

イズル「え? そう…なの?」

ケイ「え、ええ……」

イズル「ええっと…じゃあ……」

972: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/29(月) 18:10:04.21 ID:IT0nDqKb0





イズル「…と、こんな感じで、今ここにケイがいるんだけど……」

ケイ「」

ケイ「」

ケイ「」

イズル「…ケイ?」

ケイ「」ハッ

ケイ「そ、そう…。ありがとう、大体は分かったわ」カァ

イズル「そっか、ならよかった」

973: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/29(月) 18:11:23.52 ID:IT0nDqKb0
ケイ(…わ、私は何をしていたの!? まったく記憶にないし……)

ケイ(う、うぅ…)

イズル「――あの、ケイ?」

ケイ「あ、な、何かしら?」ハッ

イズル「ええっとさ、その、で、デートのお話、なんだけど…」

ケイ「でっ、あ……えっと…」

974: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/29(月) 18:12:11.34 ID:IT0nDqKb0
イズル「け、ケイが…」

ケイ「い、いいのよ、その、私も覚えてないし、イズルだって、め、迷惑っていうか…」

イズル「め、迷惑じゃないよ! その、ケイさえよかったら…」

ケイ「……え。い、いいの…?」

イズル「う、うん……あの、僕も、お礼、したいし」ホホエミ

ケイ「あ……」

ケイ「――っ!」ウツムキ

ケイ「よ、よろしく、お願いします…」

イズル「う、うん…こちら、こそ」



初々しくも、そうして二人はお出かけをする。少しだけ、縮まった距離で。
ちょっぴり進む二人の仲。そこに、一人、いや一体のロボットの助力があったことを、二人が知ることはない。

------------------------------

976: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/29(月) 18:14:16.92 ID:IT0nDqKb0
アッシュだって、人間なんだぞ…(迫真)

スターローズ――整備場

レッド5「」ヴンヴン

ダン「よし、今日の必要整備は終了かな」

マユ「お疲れー、今から街に行かない? おやっさんから誘われてるんだけど」

デガワ「酒を飲み 仲良くしよう 皆でな」

ダン「おう、行くかー。他の連中は?」

マユ「皆も来るって」

デガワ「無視するなよ…」

977: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/29(月) 18:16:39.36 ID:IT0nDqKb0
ワイワイガヤガヤ

レッド5「」

レッド5(おい、皆行っちまったぞ)

パープル2(今日は基本整備だけだものね)

ローズ3(楽で何より、かな)

ゴールド4(…俺もそう思う)

ブルー1(そ、そうだね…戦場なんて、あんまり行きたくないし)

978: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/29(月) 18:18:16.53 ID:IT0nDqKb0
レッド5(おいおい。お前がそんなんじゃ、アサギが苦労するだろ?)

パープル2(そうよ、あなたはもっとできるんだから、しっかりしなさいな)

ブルー1(う、うん。ありがとう)

ブラック6(チッ、情けない。貴様それでも私の前身機か)

ブルー1(ひっ…)

ゴールド4(…おい、止めてやれ)

ブラック6(ふん、根暗スナイパーが指図するな。お前のパイロットを見習ったらどうなんだ)

979: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/29(月) 18:18:48.49 ID:IT0nDqKb0
ゴールド4(俺はこれぐらいでいい。スルガはあれでいい。それだけだ)

レッド5(そうそう、イズルはイズル。俺は俺ってな)

ブラック6(…理解できんな。私はあのヘタレたヤツが気に入らん)

ローズ3(ま、無理にはね? 私もタマキは最初苦手だったし)

パープル2(そうね。ケイも…ふふ、最近は良いけれど)

980: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/29(月) 18:19:22.05 ID:IT0nDqKb0
レッド5(こないだ出たときにからかってみたらおもしろかったな、ケイ)

パープル2(ちょっと、乙女にあまり意地悪しないであげなさいな)

ローズ3(そうよ。まったく、どうもアンタはもっとイズルを見習った方がいいみたいね)

レッド5(冗談! イズルはイズル、俺は俺さ。一緒にヒーローになる戦友さ)

ブルー1(そういえばあの頃からだったね。僕たちが成長し始めたの)

981: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/29(月) 18:19:50.43 ID:IT0nDqKb0
ローズ3(そーそー、タマキもあの頃は初々しかったなぁ…)

ゴールド4(…あまり今と変わらない気がするがな)

パープル2(一番変わったのはケイでしょうね。イズルがあんなことをして…)

レッド5(あれは俺もひやひやしたね。もしものときはイズルだけコックピットから捻り出してやるつもりだったけど)

パープル2(まったく…あなたもイズルとはそういうところは同じね)

ブルー1(はは、らしいけれどね)

982: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/29(月) 18:20:37.28 ID:IT0nDqKb0
ブラック6(…お前たちはよく分からん)

レッド5(ん?)

ブラック6(どうしてそこまで呑気でいられる。私たちは戦う道具だ。道具はこんなことなど…)

レッド5(どうして、ってなぁ…)

パープル2(そうねぇ…)

ローズ3(まぁ…)

ゴールド4(……)

ブルー1(僕たちは…)



アッシュたち(――ヒーローだから、かな?)

983: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/29(月) 18:21:08.46 ID:IT0nDqKb0
ブラック6(……っ)

レッド5(…ああ、無理に付き合わなくていいぜ。お前の言うことも分かるし)

ブラック6(…ああ、付き合ってられんな)

パープル2(行っちゃった。いいの、放っておいて?)

レッド5(さっき言った通りだよ。好きにすればいいのさ)

ゴールド4(そうだな。俺たちはただ…)

ローズ3(パイロットと生き残る、だね)

ブルー1(うん、そうだよね…って)

レッド5(どうした? …っと)

984: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/29(月) 18:21:38.80 ID:IT0nDqKb0
カツカツカツカツ…

イズル「……」ジーッ

イズル「」テクテク

イズル「」ナデナデ

イズル「ありがとう、レッド5。これからも、よろしくな」

イズル「今日は、じっくりと休んでて」

985: ◆jZl6E5/9IU 2013/07/29(月) 18:22:08.05 ID:IT0nDqKb0
ツカツカツカツカ…

レッド5(…ふ、アイツらしいな)

ブルー1(うん。イズルらしいよ)

パープル2(じゃ、私たちも休みましょうか)

ローズ3(うん。また、タマキたちが来るまでね)

ゴールド4(…じゃあな)

レッド5(ああ、じゃあな)


【マジェプリ】もしもイズルが一週間いなかったら
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1368891908/)