583: ◆IWJezsAOw6 2013/08/12(月) 13:36:59.30 ID:lqFxGtDE0
桐乃「あー、楽しかったぁ」

京介「なんだ? 珍しく素直じゃねえか」

桐乃「珍しくは余計だっつうの」

桐乃は背伸びをし、俺の頭を叩く。

それは本当に軽い叩き方で、なんだかそれが可愛らしく、俺はついついにやけてしまう。

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007

584: ◆IWJezsAOw6 2013/08/12(月) 13:37:30.95 ID:lqFxGtDE0
桐乃「なに幸せそうな顔してんの? もしかしてホントにマゾ?」

京介「ちげーよ! アホかっ!」

桐乃「ふうん? ま、どっちでもいいケドね~」

桐乃「それより早くかえろ。 ご飯の準備しないといけないし」

桐乃は言いながら、俺の少し前を歩く。

桐乃「でも、もーちょっと遊んでても良いのに。 あいつら「今日はこれで終わり」とか言い始めちゃってさぁ」

585: ◆IWJezsAOw6 2013/08/12(月) 13:37:58.34 ID:lqFxGtDE0
そんな文句を言う妹に、俺は後ろから声を掛けた。

京介「なあ、桐乃」

桐乃「なに? どしたの?」

京介「……今からちょっと遊び行かないか? 折角のクリスマスだしよ」

それが今日、俺が考えていた桐乃へのプレゼントだった。

586: ◆IWJezsAOw6 2013/08/12(月) 13:38:31.88 ID:lqFxGtDE0
桐乃「……そう考えてたなら最初から言えばいいのに」

京介「それじゃお前へのサプライズにならねーじゃん。 驚いたろ?」

桐乃「ふん……まあね」

京介「へへ。 嬉しそうで何よりだ」

俺がついさっき遊びに誘ったとき、桐乃はすぐに頷き、今はこうして二人で電車に揺られている。

587: ◆IWJezsAOw6 2013/08/12(月) 13:38:59.01 ID:lqFxGtDE0
桐乃「それで、どこ行くつもりなの?」

京介「言ったらつまらないだろ。 多分、桐乃は喜ぶと思うけどな」

桐乃「なら良いケド」

言いながらふいっと顔をそらす桐乃。 それを見て、俺は自然と笑っていた。

電車の外から見る限り、既に外は真っ暗。 時刻は19時になりそうなところ。

……これなら丁度良いだろう。

588: ◆IWJezsAOw6 2013/08/12(月) 13:39:38.37 ID:lqFxGtDE0
桐乃「ここって……」

京介「俺たちにとっちゃ、思い出の場所かもな」

来た場所はスカイツリー。 前に来たのは……もう、二年前のことになるのか。

桐乃「京介があたしを泣かした場所じゃん? ひひ」

そういう言い方は止めて貰えないでしょうか。 桐乃さん。

京介「悪かったな……」

589: ◆IWJezsAOw6 2013/08/12(月) 13:40:05.90 ID:lqFxGtDE0
桐乃「良いよ。 もう」

桐乃は言うと、スカイツリーを見上げる。 その横顔は笑顔でいっぱいになっていて……俺にはもう、身に突き刺さる寒さなんて物は全く気になくなっていた。

桐乃「ほら、なにぼーっとしてんの。 行くんでしょ? 上」

京介「おう。 今日はゆっくり見ようぜ。 前回は途中でお前逃げちゃったしな?」

さっきの仕返しとばかりに言う俺。 桐乃はそれに唇を尖らせながら返す。

桐乃「チッ……そーゆう乙女心を傷付けることを言わない方がいーよ。 あたしじゃなかったら今のでもう今日は終わってるから。 サイアクその場で別れることになるからね?」

590: ◆IWJezsAOw6 2013/08/12(月) 13:40:37.51 ID:lqFxGtDE0
京介「かもな」

俺の言葉に、桐乃は少し不満そうな顔をする。

だから俺は、こう付け足した。

京介「で、お前はどうなんだ?」

桐乃「……ばーか」

はは、返事としては充分だな。

591: ◆IWJezsAOw6 2013/08/12(月) 13:41:03.46 ID:lqFxGtDE0
京介「俺はお前が居れば良いよ。 桐乃は?」

桐乃「……ふん」

桐乃は俺の手をしっかり掴むと、展望台へと向かって歩き始めた。

ったく、つくづく会話が成立しねー奴だぜ。 でもまあ、俺には何を言いたいのか大体想像が付くけどな。

592: ◆IWJezsAOw6 2013/08/12(月) 13:41:31.90 ID:lqFxGtDE0
京介「なんか、懐かしいなぁ」

桐乃「そんな時間経ってなくなーい? おじさん臭いこと言わないでよ」

展望台から夜景を眺めながら、俺と桐乃は話す。

京介「へいへい。 で、どう? 感想は」

桐乃「……ぶっちゃけて言っていいの?」

京介「そりゃな。 お前の気持ちが知りたいし」

593: ◆IWJezsAOw6 2013/08/12(月) 13:41:57.21 ID:lqFxGtDE0
桐乃「あっそ。 じゃあ正直にゆーケドぉ」

桐乃「なんてゆうか、二回目になると感動薄いかも」

……大分正直に言ったな、こいつ。 まあ俺も感じていたことではあるが。

京介「そうか」

桐乃「……もしかして予想してた? あたしがこう反応するって」

京介「そこまで分かれば苦労しねえよ」

595: ◆IWJezsAOw6 2013/08/12(月) 13:42:50.19 ID:lqFxGtDE0
桐乃「でも、あんまりショックじゃないんだね。 そんな風な顔してるケド」

そうだな。 それは桐乃の言うとおりだ。 俺はそう言われて、あまり残念だとか、悲しいだとか、そういう気分にはならなかったから。

京介「まあ、もしかしたらって言うか、俺もそう思ってたしなぁ」

桐乃「やっぱり? ひひ。 やっぱ兄妹似てるのかな?」

京介「少なくとも、俺は似てるとは思わないけど……」

桐乃「それはあたしも思ってるっつーの。 てゆうか、そもそもあたしと兄妹ってだけで、あんた超幸運だからね? 感謝してよ」

596: ◆IWJezsAOw6 2013/08/12(月) 13:43:30.63 ID:lqFxGtDE0
感謝要素が随分と沢山あるんだな。 愉快な奴だぜ。

京介「ありがたき幸せです。 桐乃様」

桐乃「……京介、やっぱりマゾでしょ?」

京介「いや……もうそれでもいい気がしてきた」

こういうことを言わせておいてこの台詞だからな。 桐乃には毎日驚かされっぱなしだ。 はは。

それと正しく言うと、お前がサドなだけであって、俺は断じて違うのだが。

まあ、それを言ったら怒りそうなのでやめておこう。

桐乃「じゃ、そろそろいこ。 これで終わりじゃないっしょ?」

京介「当たり前だろ。 じゃあ、ほら」

俺は言うと、桐乃に手を差し出す。

桐乃はしっかりとそれを掴み、俺の隣に並ぶ。

桐乃「で、次はどこいくの?」

597: ◆IWJezsAOw6 2013/08/12(月) 13:44:37.81 ID:lqFxGtDE0
京介「んー。 秘密」

桐乃「植物園とか行ったらマジ怒るから」

京介「……さすがの俺でも、あれは無いと思ってるからな」

桐乃「へえ。 成長したんだ。 偉い偉い」

京介「……どーも」

今居る場所は展望台。

次に行く場所に掛かる時間といえば……そうだな。 徒歩3分ってところだろう。

598: ◆IWJezsAOw6 2013/08/12(月) 13:45:05.37 ID:lqFxGtDE0
桐乃「ちょ、どこ行くの? エレベーターあっちなんですケドぉ」

京介「良いから良いから。 付いて来いって」

桐乃「もう飽きたってのー」

文句をぶつぶつと言う桐乃を連れ、俺はある場所へと向かう。

……恐らく、桐乃が望んでいることだとは思うのだけど。

俺が向かったのは、展望台にあるレストランだ。

599: ◆IWJezsAOw6 2013/08/12(月) 13:45:31.52 ID:lqFxGtDE0
予約をしていたのもあり、すんなりと席まで案内される。 夜景が見渡せる席。 晴れのおかげもあり、クリスマスのおかげもあり、普段よりは輝いている町の景色が見渡せる。

桐乃はこのレストランに入ってからはずっと無言で、それが少しだけ怖く、俺はこうして桐乃と対面して座るまでこいつの表情を見ていなかった。

桐乃の正面に座って、こいつの顔を見て、俺はようやく口を開く。

京介「……泣くほど嬉しかったか? へへ」

桐乃「……だからずるいんだって。 先に言ってよ、ほんとにさ」

目に涙をいっぱい溜め、震えた声で桐乃は言った。

600: ◆IWJezsAOw6 2013/08/12(月) 13:45:59.25 ID:lqFxGtDE0
京介「最初に言ったろ。 サプライズなんだから言ったら意味ねーって。 で、桐乃はこういうの好きかなって思ったんだけど、どうだ?」

桐乃「……ウソみたいだけど、ホントなんだよね」

桐乃「折角だし、正直にゆうケド」

桐乃「ひひ……死ぬほど嬉しい」

桐乃は俺に笑顔を向けて、そう言う。

601: ◆IWJezsAOw6 2013/08/12(月) 13:46:25.44 ID:lqFxGtDE0
そんな顔を見るだけで、俺はこう思わされる。

やっぱり、俺はこいつが好きなんだなって。 妹としても、恋愛対象としても、好きなんだなって。

京介「そうか。 はは、そりゃ良かったぜ」

桐乃「なんか……泣いちゃってごめんね」

京介「良いよ、別に。 その涙はなんか、俺にとっても嬉しいし」

602: ◆IWJezsAOw6 2013/08/12(月) 13:46:51.33 ID:lqFxGtDE0
桐乃「そか……あはは。 なら良かった」

それからは二人で話しながら、夜景を見ながらの食事。 クリスマス当日となると予約を取るのもかなり大変で、四苦八苦した末に結局、俺は沙織の手を借りたんだけどな。

沙織は何も事情は聞かずに二つ返事で承諾してくれて、この場所を確保してくれた。 その代わりと言っちゃあれだが色々手伝わされたが。

……主に、バイトとかコスプレとか。 桐乃には内緒にしてあることだ、これも。

だけど多分、いつかは笑い話として話すのかもしれない。 それがいつかは、分からないけど。

これだけ苦労したのも、何だか桐乃の笑顔を見ただけでやった甲斐があったってもんだぜ。 こいつは心底幸せそうに笑っていて、俺もまた、幸せだ。

603: ◆IWJezsAOw6 2013/08/12(月) 13:47:23.51 ID:lqFxGtDE0
桐乃「ところでさ、京介」

京介「ん? どした?」

桐乃「……こう、驚かされっぱなしってのも負けたカンジでヤなんだよね」

京介「……勝ち負けじゃねえぞ?」

桐乃「あたしの気持ちの問題だって。 だから」

桐乃「いつか必ず、仕返しするから覚えといてね」

604: ◆IWJezsAOw6 2013/08/12(月) 13:47:57.70 ID:lqFxGtDE0
京介「……ほーう。 言っとくが、俺はそうそうのことじゃ驚かないぞ? お前に毎日驚かされてるし」

桐乃「ひひ。 あたしを誰だと思ってんの? 今日のこと、何倍にもして返してあげるから」

京介「おう。 楽しみにしとくぜ」

結局、この何年も後に俺は生きてきた中で、多分一番驚いたし感動したし泣いたことを桐乃にされる訳なのだが。

そう考えると、桐乃の中ではあの日のことはもう、この時既に頭の中では決まっていたのかもしれない。

605: ◆IWJezsAOw6 2013/08/12(月) 13:48:32.83 ID:lqFxGtDE0
京介「よし。 じゃ、街の中回ろうぜ。 見たい物とかあるか?」

桐乃「うん。 折角だし服とかアクセ見たいかな。 京介は?」

京介「俺は特に無いかな。 ていうかさ、桐乃」

京介「行きたいところ察しろって前に言ってたじゃんか? 今日は良いのかよ?」

桐乃「あー、今日は良いよ。 ずっと行きたかったところ、もう連れて行ってもらえたしね。 ひひ」

京介「へへ、そうか」

感動して泣いてくれるなんて、これほど嬉しいこともねえさ。 大好きな奴がそうしてくれたのなら、俺はもうそれだけで充分だしよ。

606: ◆IWJezsAOw6 2013/08/12(月) 13:49:02.41 ID:lqFxGtDE0
展望台で夜景を見終わった後、京介はあたしの手を引き、フロアの中をどんどんと進む。 夜景を一緒に見れるのはそりゃあ嬉しいケド……。

でも、それだけだとあれじゃん? あたし的には京介と一緒ならどこでも良いかなってのはある。 間違いなく、気持ち的にはね。

だけど、折角のクリスマスなんだし、もっと色々見て回りたいってのもあるよね。 限定アクセとか、あるし……。

そんなことを思いながら、京介に手を引かれる。

……ほんともう、ゴーインなんだから。

607: ◆IWJezsAOw6 2013/08/12(月) 13:49:36.94 ID:lqFxGtDE0
それにしても、一体、どこに行くつもりなのだろうか?

疑問に思いながらも、あたしは京介に向けて不満をたらたらとぶつけていた。

あたしの言葉に京介は笑って返すだけで、なんかバカにされてるみたいでムカつく。

そう思っているのに気付いているのか、いないのか。 京介はあたしの手をしっかりと握りながら、歩き続ける。

やがて、目的地と思われる場所に着いた。

608: ◆IWJezsAOw6 2013/08/12(月) 13:50:17.75 ID:lqFxGtDE0
そこにあったのはレストランで、京介が店員と話しているのを聞く限り、予約をしていたのだろう。

あたしはそれに驚いて、本当に全く予想していなかった事態に、息を飲んだ。 何かを言おうとした気はするんだけど、何も言えなかった。

仕事関係とかで話はたまにあるから知ってる。 この場所が予約するだけでも難しいっていうのも。

それに今日ってクリスマスだよ? それを考えると、京介はどれ程の根回しをしていたのだろう。

多分……誰かに、協力はしてもらったと思う。 でも、それでもあたしにとっては。

609: ◆IWJezsAOw6 2013/08/12(月) 13:50:43.49 ID:lqFxGtDE0
それだけで胸がいっぱいで、気付けば席に座っていて。

目の前に居る京介は、あたしに向けてこう言った。

「……泣くほど嬉しかったか? へへ」

……そっか。 あたし泣いちゃってるのか。

だから、いつもはっきりと見える京介の顔がぼやけて見えてしまうのだろう。

610: ◆IWJezsAOw6 2013/08/12(月) 13:51:17.42 ID:lqFxGtDE0
そりゃ、泣いちゃうって。

大好きな人があたしの為にしてくれて、大好きな人と一緒に夜景を見ながら食事して。

その大好きな人は、あたしを見てくれている。 外側だけじゃなくて、内側も。

それがすごく、本当にすごく……嬉しかった。

なんだろ。 こんな気分になったのは、いつ振りだろう。

611: ◆IWJezsAOw6 2013/08/12(月) 13:51:43.45 ID:lqFxGtDE0
……もしかしたら、京介がお父さんとお母さんの前で、あたしを好きだと言ってくれた時以来かもしれない。

あーもう! なんでこいつは時々こんな気持ちにさせるワケ!? ずるくない!?

こんなのされたら、マジであたしおかしくなっちゃうっての。

……はぁあああ。 とりあえず今日の分はあたしが計画しているアレで仕返しするとして。

それだけじゃなんか納得行かないよねぇ。

612: ◆IWJezsAOw6 2013/08/12(月) 13:52:28.07 ID:lqFxGtDE0
……よし、よーし! 決めた!

家に帰ったらめちゃくちゃ甘えてやろう。 京介がドン引きするレベルで甘えてやろう。 あたしをこんな気持ちにさせたあいつの所為だから、あたしは悪くない!

ぶっちゃけて言っちゃうと、今すぐこの場で京介の膝の上にでも座ってやりたい気分だケド……さすがに人目があるしね。 残念ながらムリ!

う、うう……あたしを我慢させるなんて良い度胸じゃん。 京介め。 後悔しても知らないから!!

613: ◆IWJezsAOw6 2013/08/12(月) 13:53:47.84 ID:lqFxGtDE0
京介「良かったな、欲しい服とかアクセあって」

桐乃「うんうん。 やっぱこういう日は限定物あるからねぇ」

桐乃の様子からして、かなり満足できる物があったのだろう。 先ほどからずっとにやにやしっぱなしだしな。

今はこうして家に向かって歩いているのだが……なんか距離が近くねえか?

ま、まあ。 まあそうだな、悪い事では無いし、良いけどよ。

614: ◆IWJezsAOw6 2013/08/12(月) 13:55:07.50 ID:lqFxGtDE0
京介「……なんていうか、桐乃はやっぱり桐乃だよな」

桐乃「へ? どしたの、急に」

京介「いや……アキバ行ったときと、今日みたいに服とかアクセとか見てるときも、同じくらい楽しそうだったからさ」

桐乃「そんなの当ったり前でしょ。 両方があたしだもん」

桐乃は数歩先に進んだ後に腕を組み、俺の方を向きながら言う。

615: ◆IWJezsAOw6 2013/08/12(月) 13:55:38.46 ID:lqFxGtDE0
桐乃「でもね、一つ良いこと教えてあげよっか?」

京介「良いこと? なんだ?」

桐乃は組んでいた腕を解き、俺に背中を向け、一歩、二歩、歩く。

そして止まると、桐乃は俺に背中を向けたまま口を開いた。

桐乃「確かにアキバでエロゲー見てる時も、黒いのとか沙織とかと遊んでる時も」

桐乃「渋谷とかで服とかアクセ見てる時も、あやせとか加奈子と遊んでる時も」

桐乃「すっごく楽しいよ。 その二つは同じくらい、楽しい」

桐乃「だけどね、京介。 あたしはあんたと遊んでる時が、一番楽しい」

桐乃「京介が言ってるあたしが楽しそうって奴。 全部同じくらい楽しそうに見える理由、分かったっしょ?」

616: ◆IWJezsAOw6 2013/08/12(月) 13:57:34.32 ID:lqFxGtDE0
最後に振り返り、桐乃は今日一番の笑顔を俺に向ける。

……うおう。 それは反則だぜ、桐乃さん。

京介「……今年ももうすぐ終わりだけどよ」

京介「最後にお前にそう言って貰えて、俺すっげー嬉しいわ。 ありがとよ、桐乃」

桐乃「えへへ。 どーいたしまして。 でもまだ後何日かあるんだから、もっと嬉しいことあるかもじゃん?」

617: ◆IWJezsAOw6 2013/08/12(月) 13:58:29.26 ID:lqFxGtDE0
京介「よっぽどのことじゃなきゃ、今の言葉より嬉しいことなんてねえよ」

京介「……そうだな。 なあ、桐乃」

京介「俺は本当に、お前を好きになれて良かった。 お前に好きになってもらえて良かった。 お前と会えて良かった。 そんで」

京介「お前の兄貴で、良かったよ」

桐乃は少しだけ口を開き、何かを言おうとしたが……それを飲み込む。

代わりといっちゃあれだが、桐乃は数歩後ろで止まっていた俺の隣まで来て、俺の腕に自身の腕を絡ませる。

618: ◆IWJezsAOw6 2013/08/12(月) 13:58:55.57 ID:lqFxGtDE0
京介「……はは。 返事は無しか?」

桐乃「分かるでしょ? そのくらい。 ひひ」

そうだな。 もうそんなのは、俺にとっては考えるまでも無く分かることだ。 だから、たまには静かに帰るとしよう。

横に居る桐乃の体温は暖かくて、俺の心も自然と暖まる。

それは多分……こいつも一緒。

619: ◆IWJezsAOw6 2013/08/12(月) 13:59:23.25 ID:lqFxGtDE0
ここ数年のクリスマス、桐乃は心の底から楽しんでいなかったかもしれない。 最初から最後まで、な。

一昨年は……イブだったけども。

今年はお互いに、最初から最後まで楽しめた。 そんな、クリスマスだった。

俺と桐乃はその日あったことを話しながら、俺たちの家へと向かって帰っていく。

まあ。

……家に帰ってから、大変だったけどな。

その話は、次にするとしよう。


クリスマス 後編 終

638: ◆IWJezsAOw6 2013/08/13(火) 13:04:37.41 ID:JjeiV/ra0
京介「たっだいまー」

桐乃「誰も中にいないケド?」

京介「なんとなくだよ……なんとなく。 一人で暮らしてた時も言ってたしな」

桐乃「うわー。 寂しい~」

京介「うっせ、ほっとけ」

デートを終えての帰宅。 玄関で靴を脱ぎ、荷物をコタツの近くへと置く。

639: ◆IWJezsAOw6 2013/08/13(火) 13:05:08.83 ID:JjeiV/ra0
京介「ふう。 桐乃、先に風呂入っちゃえよ」

桐乃「お。 良いの? んじゃあお言葉に甘えて入ってこようかな」

京介「今日はお前のおかげで楽しかったからな。 お礼ってことで」

桐乃「はいはい。 でもお礼はベツで請求するケド?」

京介「……へいへい」

どんなお礼が要求されるか分からないが、それがまたちょっとだけ楽しみでもある。 ううむ、良い感じに桐乃に飼い慣らされてる気がするぜ。 ったく。

640: ◆IWJezsAOw6 2013/08/13(火) 13:05:40.06 ID:JjeiV/ra0
桐乃「じゃ、また後で」

そう言うと、桐乃は着替えを持ち、風呂場へと向かって行った。

京介「……あいつ、本当に楽しそうだったなぁ」

誰も居なくなった居間で、一人呟く。

黒猫や沙織と遊んで、俺と二人で遊んで。

あいつが笑っていると、やっぱり俺も楽しくなってくるんだよな。

641: ◆IWJezsAOw6 2013/08/13(火) 13:06:20.22 ID:JjeiV/ra0
それは恐らく、他のことでもそうだろう。

あいつが悲しければ、俺も悲しい。

あいつが嬉しければ、俺も嬉しい。

だとしたら、果たして桐乃の方はどうなのだろうか。

そんなことを考えている内に、いつの間にか俺は寝ていた。

642: ◆IWJezsAOw6 2013/08/13(火) 13:06:57.81 ID:JjeiV/ra0
「ちょっと、なに寝てんの?」

桐乃の声が聞こえ、肩をゆさゆさと揺らされ、目が覚める。

京介「……桐乃か?」

桐乃「そうだケド」

京介「……何でビンタしなかったんだ?」

桐乃「あたしが起こす時、毎回ビンタしてるみたいな言い方やめて」

京介「で、でも、すげえ珍しいじゃん? 今日はどうしたの?」

643: ◆IWJezsAOw6 2013/08/13(火) 13:07:29.89 ID:JjeiV/ra0
桐乃「……そこまで言われると、ちょっとムカつくんですケドぉ」

京介「お、おう……悪いな」

桐乃「ふん。 それよりお風呂空いたから、入って来ちゃいなよ」

京介「ん、ああ。 そうさせてもらう」

……ふむ。

桐乃の態度が多少引っ掛かるが……まあ、良いか。 気にする程のことでも無いだろう。 多分。

そんな風に思いながら、俺は風呂場へと向かって行った。

644: ◆IWJezsAOw6 2013/08/13(火) 13:08:09.21 ID:JjeiV/ra0
風呂から出て、今はコタツに入りながら本を読んでいる。

桐乃は正面に座っていて、何やら先ほどからそわそわした様子。 多少、それが気になるな……。

桐乃「ね、ねえ。 京介」

そろそろ来るかと思っていたが……一体、何だろう?

俺は本から視線を外し、桐乃の方に目を向ける。

京介「どした? なんか相談か?」

645: ◆IWJezsAOw6 2013/08/13(火) 13:09:12.22 ID:JjeiV/ra0
こんな場合は多分、それだと思うからな。 ついでに時計を見ると、時刻は22時。 明日は俺も桐乃も休みだし、夜更かしすることとなっても構わないか。

桐乃「……そ、相談とは……ちょっと違うかな」

……だとしたら、何だ? こればっかりは見当がつかねえな。

桐乃「その、えっとね」

桐乃「……今日、ほんとにすっごく嬉しかったの。 嬉しかったし、楽しかった」

京介「お、おう……」

そう改めて言われると、結構恥ずかしいっつうの。 まあ、そう言って貰えると俺もめっちゃ嬉しいけどさ。

646: ◆IWJezsAOw6 2013/08/13(火) 13:09:44.13 ID:JjeiV/ra0
桐乃「で……でね」

桐乃「……」

何かを言おうとし、桐乃は押し黙ってしまう。

京介「……なんだ?」

桐乃「……ヘンなこと言ってもいい?」

ど、どうしたんだ? 急に。 こいつが変なことって言うくらいだし、相当じゃね……?

いや、だとしても。 だとしても俺はこいつの兄貴だ。 聞かない選択肢はありえん!

647: ◆IWJezsAOw6 2013/08/13(火) 13:10:25.44 ID:JjeiV/ra0
京介「あ、ああ、良いぜ。 言ってみろよ」

桐乃「う、うん」

俺がそう言うと桐乃は頷き、胸を片手で押さえながら、ゆっくりと口を開く。

桐乃「……ちょ、ちょっとだけ。 今日、ほんのちょっとだけ甘えてもいい?」

……何が起きた?

今、明らかに後頭部を強打されたような衝撃が来たんだが……。 桐乃は今、何て言った?

今日、ちょっとだけ、甘えてもいいか。 ってことだよな。 言葉を一つ一つ繋げると……。

……なるほどなぁ! 桐乃どうしちゃったの!?

648: ◆IWJezsAOw6 2013/08/13(火) 13:10:54.87 ID:JjeiV/ra0
桐乃「……ダメかな?」

いつになく顔を真っ赤にして、桐乃は言う。 上目遣いで俺のことを見ながら、目をうるうるとさせて、手を忙しなく動かしながら。

京介「お、おおお俺は別に構わんがっ!?」

す、すげえ声が裏返ってしまった。 つうか桐乃の顔をまともに見れねー! なんか知らんがめちゃくちゃ恥ずかしい!

桐乃「ほ、ほんと!? 嘘じゃないよね?」

京介「……嘘じゃねえよ。 てか、あれだ。 断る理由は無いし」

649: ◆IWJezsAOw6 2013/08/13(火) 13:11:20.34 ID:JjeiV/ra0
桐乃「そ、そか。 ふひひ」

特徴的な笑いを漏らし、桐乃はその場で立ち上がる。

京介「……ど、どした?」

桐乃「えへへ……ちょっとね」

桐乃の顔はあれだ。 例えるならばエロゲーをやっている時の顔になっている。 すっげえ嬉しそうな顔。

桐乃「……ふひひ」

桐乃はとことこと歩き、コタツを半周。 俺の真横まで来ると、すぐ隣に入ってきた。

……なんかつい一週間くらい前にも同じことあったな!

650: ◆IWJezsAOw6 2013/08/13(火) 13:11:56.44 ID:JjeiV/ra0
京介「……桐乃?」

桐乃「良いでしょ? 隣でも」

京介「お、俺は別にいいけど……」

桐乃「あたしはこっちの方が良いの。 ひひ」

……す、すごく可愛いな。 おい。

桐乃はそのまま俺の手を持ち、自身の手を絡ませる。 恋人繋ぎみたいな状態。 これはもうしょっちゅうではあるのだが、こう……桐乃がにこにこしながらやってくるのは初かもしれん。

ていうか、先ほどからずっとにぎにぎとしてくる。 こ、これはヤバイ。

651: ◆IWJezsAOw6 2013/08/13(火) 13:12:23.93 ID:JjeiV/ra0
桐乃「……京介」

京介「な、なんだ?」

桐乃「何でもない。 あは。 呼んでみただけー」

ヤバイんだが! これはヤバイんだが! なんか変な汗掻き始めてるし俺!

京介「そ、そ、そうか。 はは……」

桐乃「京介も呼んで?」

呼んでって……ええっと、桐乃のことを呼べってことか? そのくらいなら、良いけども。

652: ◆IWJezsAOw6 2013/08/13(火) 13:12:54.88 ID:JjeiV/ra0
京介「おう……桐乃」

桐乃「……なに?」

京介「な、なんでもねー。 呼んでみただけだ」

桐乃「そかそか。 えへへ」

桐乃「きょーすけ」

言うと、桐乃は俺の体に寄りかかる。 自然と、俺は桐乃の肩を抱くようにそれを受け止めていた。

653: ◆IWJezsAOw6 2013/08/13(火) 13:13:21.05 ID:JjeiV/ra0
京介「……どした?」

桐乃「あったかいなぁ。 って思っただけ。 ダメ?」

京介「……全然駄目じゃねえよ」

桐乃「うん。 ありがと」

……あー、もうあれだな。 これじゃあ黒猫とか沙織に散々バカップルと呼ばれても無理はねえ! というかもうそれでいいや!

桐乃から段々力が抜けて行き、やがて俺の体に抱きつくような姿勢へと移る。

654: ◆IWJezsAOw6 2013/08/13(火) 13:14:00.56 ID:JjeiV/ra0
うわあ、こいつめっちゃ良い匂いするな……。

桐乃「……京介って良い匂いするよね。 ひひ」

俺の考えを読んだかのように、桐乃は言う。

京介「そ、そか? お前の方が良い匂いするって」

桐乃「ほんと?」

京介「お、おう」

桐乃「……ふうん」

655: ◆IWJezsAOw6 2013/08/13(火) 13:14:35.85 ID:JjeiV/ra0
桐乃は俺の言葉を受けると、何事かを考えるように視線を彷徨わせる。 数秒そうした内、桐乃は今よりも更に、体を押し付けるように抱き着いてきた。

京介「き、桐乃?」

桐乃「どしたの?」

京介「……いや、そんな強く抱きつかなくてもって……思っただけ」

いつもだったら叩かれる様な台詞だが。

桐乃「ベツにいいでしょ?」

今日の桐乃は、そう答えるだけだった。

656: ◆IWJezsAOw6 2013/08/13(火) 13:15:21.00 ID:JjeiV/ra0
京介「……うむ」

桐乃「えへへ。 京介にあたしの匂いを付けてるの。 嬉しいっしょ?」

あやべえ、俺死ぬかもしれない。

明日、起きたら三途の川辺りを渡っているかもしれんな。 はははははは!

つ、つうかだな。 さっきからマジで心臓がすげー勢いでバクバクいってるんだよ。 体もすっげー熱い。

桐乃「……ひひ。 すっごいドキドキしてるけど、大丈夫?」

京介「い、いや……全然大丈夫じゃねえかも」

657: ◆IWJezsAOw6 2013/08/13(火) 13:16:17.90 ID:JjeiV/ra0
桐乃「へえ~? あたしのせい?」

京介「……大分な」

桐乃「ふふん。 そっか。 ならほら、京介もいーよ」

言うと、桐乃は一度俺から離れ、腕を広げる。

……抱き締めろってことだろうな。 これは。

京介「……ああ」

もう流れるままに、俺は桐乃に抱き着く。 桐乃の体は暖かくて、やはり良い匂いがした。

658: ◆IWJezsAOw6 2013/08/13(火) 13:17:27.43 ID:JjeiV/ra0
桐乃「……やっぱ京介の方が良い匂いしない?」

京介「……んなことねーだろ」

桐乃「ふうん……」

桐乃「……ねね、京介」

京介「……ん?」

桐乃「ちょっと、一回座りなおして」

659: ◆IWJezsAOw6 2013/08/13(火) 13:18:01.10 ID:JjeiV/ra0
桐乃の言葉を受け、俺は一旦桐乃から離れ、崩れた体勢を戻す。

で、その時改めて桐乃の姿を見て思ったのだが……こいつって今、家でも着ていたパジャマを着ているんだよ。 可愛い奴な。

……それが今、抱き着いて抱き着かれてとやってる内に、大分肌蹴ているのだが。

みょ、妙にエロいな……。 普通に裸を見るより、かなり。

京介「こ、こうか?」

俺は桐乃から視線を外し、確認を取る。

660: ◆IWJezsAOw6 2013/08/13(火) 13:18:29.69 ID:JjeiV/ra0
桐乃「……足は伸ばした方がいいかも」

言われるままにそうする。 何をしたいのかまだ良く分からないが。

京介「……これでいいか?」

桐乃「うん。 おっけ。 ひひ」

笑うと、桐乃は再度俺に近づき、俺の足の上へと座った。

京介「……ちょ、ちょっと待て。 待て、桐乃」

桐乃「なに? どしたの?」

661: ◆IWJezsAOw6 2013/08/13(火) 13:18:59.17 ID:JjeiV/ra0
京介「な、なんでこっち向いてんの?」

桐乃は俺に背中を向けず、見つめあう形で座ったのだ。 もう、なんか良く分からなくなってきた。

桐乃「だって、こうした方が京介見ていられるし? あったかいし」

桐乃「……嬉しくない?」

京介「ちょ、超嬉しいが……だけど、超恥ずかしいぞ」

桐乃「あたしだって一緒だって。 あ、てゆうか」

桐乃「明日になったら、今日のこれは無かったことにするから。 よろしく」

662: ◆IWJezsAOw6 2013/08/13(火) 13:19:51.53 ID:JjeiV/ra0
……いやいや無理だろ! 一生忘れられねーって!

京介「ど、努力はする……」

桐乃「忘れなかったらマジ怒る」

京介「……分かった分かった。 忘れるから」

桐乃「……ありがと。 京介」

言うと、桐乃は俺に抱き着いてくる。 先ほどと違って正面からの所為か、密着する面積は多い。

663: ◆IWJezsAOw6 2013/08/13(火) 13:20:20.15 ID:JjeiV/ra0
京介「……好きだぞ、桐乃」

俺も桐乃を優しく抱き締め、そう言う。 考えて言ったというよりかは、自然と出ていた言葉。

桐乃「……それは嬉しいんだケド。 でも、京介」

桐乃「そ、その……言おうかすっごく迷ったんだケド……言っていい?」

京介「な、なんだ?」

664: ◆IWJezsAOw6 2013/08/13(火) 13:20:51.98 ID:JjeiV/ra0
桐乃「……さっきから抱き着く度に、その、当たってるんだケド」

桐乃は言いながら、俺の下腹部をちらっと見る。

京介「そ、それは言うんじゃねえよ!! 仕方ねえだろ!?」

い、今すぐ逃げ出したい気分だぜ……。 家から飛び出してしまいたい気分だ。

桐乃「あ、あたしは気にしないから良いっての! それに今始まったことじゃないし!?」

京介「お、おう……」

665: ◆IWJezsAOw6 2013/08/13(火) 13:21:28.50 ID:JjeiV/ra0
桐乃「で、でもさ……それって、あたしの所為だよね?」

ん……? なんかこの展開、見覚えがあるぞ。 ええっと、なんだっけか。

確か、桐乃が貸してくれたエロゲーにこんな展開があった気がする。 うむ。 で、次はどうなるんだっけか。

桐乃「……その、あたし一応エロゲーとかやってるし? ち、知識はあるから……ね?」

こ、これはかなりぐらっとくる台詞だ。 もうマジで、頭がどうにかなっちまいそう。

桐乃「……だから、その」

京介「だ、駄目だ!」

666: ◆IWJezsAOw6 2013/08/13(火) 13:22:03.86 ID:JjeiV/ra0
桐乃「……でも、付き合ってるのにそうゆうのゼロっておかしくない? あたしは、大事にしてもらってると思うから……嬉しいケド」

……そう言われると、ほんとなんも返せねえぞ。 マジで。

京介「……きょ、今日はとりあえず無し! な!?」

桐乃「う、うん! そ……そうしよう。 うん」

桐乃も大分慌てた様子で、俺のその提案に承諾する。 あ、危なかった。

……いや、危なかったというよりかは、そこまで言ってくれた桐乃に対して、俺がへたれただけなのだが。

667: ◆IWJezsAOw6 2013/08/13(火) 13:22:46.30 ID:JjeiV/ra0
京介「……代わりって言ったら変だけど、さ」

京介「キス、しようぜ。 桐乃」

桐乃「……ひひ。 うん、いーよ」

多分、この時のキスという言葉の意味はお互いに分かっていたと思う。

普通のキスではなくて、そういうキスだということを。

桐乃は目を瞑り、俺の首に手を回す。

俺は桐乃の頭を片手で支え、もう片方の手は腰へと回して、体を支える。

668: ◆IWJezsAOw6 2013/08/13(火) 13:23:22.83 ID:JjeiV/ra0
ゆっくりと桐乃に顔を近づけ、俺と桐乃はキスをする。

……何分だろうか。 そのまま数分間、ずっとお互いに唇をくっ付けたまま。

物凄い近い距離で、桐乃は俺の目をじっと見つめる。 俺もまた、一緒だ。

不思議とお互いに目を瞑ることは無く、見つめあう。 いつもは恥ずかしくて目を瞑るのだけど……今日はなんだか、いつまでも桐乃を見ていたかった。

そして、やがて、俺は桐乃の中へと舌を入れる。

桐乃もすぐに唇を少し開け、俺を受け入れる。 桐乃の中は暖かくて、甘くて。

669: ◆IWJezsAOw6 2013/08/13(火) 13:23:59.05 ID:JjeiV/ra0
お互いがお互いを求めて、何分も何分もそれを続ける。 俺と桐乃は時間を忘れて、延々とそれを続けていた。

ひょっとしたら一時間近くそうしていたかもしれないし、数十分かもしれない。 やがて、どちらからともなく、唇を離す。

京介「……桐乃」

桐乃の目はとろんとしていて、目がゆらゆらと揺れている様にも見える。

桐乃「……ばか」

小さくそう言うと、桐乃は再度、俺に抱き着いてきた。 で、俺の耳元で桐乃は言う。

桐乃「……そんなされたら、あたしが我慢できなくなっちゃうんですケド」

670: ◆IWJezsAOw6 2013/08/13(火) 13:24:27.27 ID:JjeiV/ra0
声は小さく、息は荒く。

京介「わ、悪い……」

桐乃「……良いよ。 ベツに。 でも、もーいっかいだけ、キスして」

桐乃「ふ、ふつーのね。 ふつーのキス」

京介「……はいよ。 分かった」

離れた桐乃の頭を再度支え、俺は桐乃に軽くキスをする。

671: ◆IWJezsAOw6 2013/08/13(火) 13:24:54.33 ID:JjeiV/ra0
桐乃「えへへ。 ありがと、京介」

笑い、桐乃は立ち上がった。

京介「構わねえよ……って、どこ行くんだ?」

桐乃「……ちょ、ちょっとお風呂。 すぐ、戻る」

京介「……お、おう」

恥ずかしそうに言う桐乃を見て、大体の事情を察し、俺はそう答えるとその場に寝転がる。

672: ◆IWJezsAOw6 2013/08/13(火) 13:25:21.40 ID:JjeiV/ra0
桐乃が風呂場に行く足音を聞いた後。

京介「はぁあああぁああああ……マジでやばかったな。 死ぬかと思った」

だけど、死ぬかと思っても案外大丈夫な辺り、もうちょっと行っても大丈夫だったんじゃねえか!? と、少し思う。

でもなぁ、未だに抱き着いたり抱き着かれたりするだけで緊張するというか、恥ずかしいというか、そんな気持ちになるしな。

つ、つうかだな。 あいつが「ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ甘えてもいい?」とかいう言い方をする所為で、マジで不意を突かれた気分だ。

673: ◆IWJezsAOw6 2013/08/13(火) 13:26:37.85 ID:JjeiV/ra0
あ、あれのどこがちょっとだっつーの! 桐乃さん本気出しすぎだって!

……くそ、なんだかやられっぱなしはあれだぜ。 気分が悪いというか、負けた気分だ。

今日桐乃が言っていた言葉、なんとなくだが分かったぜ。 やられっぱなしはあれだな。

よし、よーし! 桐乃が戻ってきたら、今度は俺が甘えてやろう。 あいつがドン引きするくらいに。

は、ははは。 今に見てろよ、桐乃め。

674: ◆IWJezsAOw6 2013/08/13(火) 13:27:04.21 ID:JjeiV/ra0
それからしばらくの間、俺と桐乃は似たようなことを2、3度繰り返し、気付いたらお互い眠っていた。

……間違えても一線を越えることは無かったとだけ言っておく! お互いの体をなんか触った気がしなくもないが、多分そんなことは無かったと思う!

で、今は結局コタツの中で俺が目覚めたということだ。

すぐ目の前には桐乃。 幸せそうな顔で、だけどもどこか……なんか、疲れているような顔、だろうか? そんな顔をしていた。

つか、俺は桐乃に抱き着きながら寝ていた様で、桐乃も桐乃でそうだったらしい。 つまり、こいつが起きないと俺も動けない。

……ま、いっか。 こうしてこれだけ近くで寝息を立てる桐乃を見ていると、なんだか和んでくるしな。

675: ◆IWJezsAOw6 2013/08/13(火) 13:27:32.13 ID:JjeiV/ra0
俺は桐乃を起こさないように、首だけをゆっくりと回し、時刻を確認。

おいおい、もう昼過ぎじゃねえかよ。 ……ま、無理もねえか。 昨日最後に時計を見た時点で、5時くらいだった気がするし。

しっかし、あれを忘れろね……。 どう考えても無理だろ。 桐乃にあれだけ甘えられたのって、初めてだと思うしな。

酒を飲んでいるわけでもなく、桐乃の具合が悪いわけでもなく、桐乃の本心で、そうしたいと言ってくれて、そうしてくれて。

俺が思っている以上に、桐乃はどうやら甘えたいと思っているのかもしれんな。

676: ◆IWJezsAOw6 2013/08/13(火) 13:28:16.57 ID:JjeiV/ra0
桐乃「ん……」

やがて、桐乃が目をゆっくりと開ける。 すぐ目の前に居る俺を見て、こいつはひと言。

桐乃「な、なに抱き締めてんの! 変態っ!!」

……さすがにそれはねえだろ!? いくら忘れろと言っても、いきなりそれは酷いって!

桐乃「し、信じられない! 妹が寝ているところを抱き締めるとか!!」

京介「言っとくが、お前も俺のこと抱き締めてるからな!? つうか昨日のお前はどこ行ったんだよ!?」

桐乃「あ、あれは……うう。 忘れろっつったでしょ! もう今まで溜めてた分は消化したからいいの!! だからあれは無しッ!」

677: ◆IWJezsAOw6 2013/08/13(火) 13:28:44.19 ID:JjeiV/ra0
す、すげえ理論だ……はは、納得せざるを得ない! だって俺はこいつの彼氏で、兄貴だし。 もう仕方の無いことだ。

京介「……別に、溜めなくても普段から甘えりゃいいのに」

桐乃「……いーの?」

京介「当たり前だろ。 つうか甘えろ!」

桐乃「じゃ、じゃあそーしよっかな……」

桐乃は小さく笑うと、口を開く。

678: ◆IWJezsAOw6 2013/08/13(火) 13:29:19.21 ID:JjeiV/ra0
桐乃「……その、早速なんだケド」

京介「ん?」

桐乃「約束だったし、ゆうケド」

そして、桐乃はこう言った。

桐乃「……風邪、ぶり返したかもしれない」

京介「……マジかよ」

679: ◆IWJezsAOw6 2013/08/13(火) 13:29:50.45 ID:JjeiV/ra0
コタツで寝た所為か。 夜遅く……というか、朝方近くまで桐乃と話していた所為か。

それとも、桐乃が上にシャツ一枚しか着ていない所為か。

間違えて無いぞ。 今、桐乃はシャツ一枚しか着ていない。 勿論、下着は着けているけど。

だから俺は朝から色々ヤバイんだよ! 今もこうやって桐乃と抱き合っているわけだが、俺は下に視線を向けない様に気を付けているからな。 偉い偉い。

で、まあ結局は色々重なった結果だろう。

680: ◆IWJezsAOw6 2013/08/13(火) 13:30:19.44 ID:JjeiV/ra0
桐乃「……だ、だから看病して?」

よく見ると、ぼーっとした顔付きの桐乃。 嘘では無いことはすぐに分かる。

京介「分かった。 布団敷いてくるから、ちょっと待ってろ。 大人しくしとけよ?」

だったら俺は、そう言うしか無いだろう。


クリスマスの夜 終

699: ◆IWJezsAOw6 2013/08/14(水) 13:34:33.05 ID:+HZlmNrm0
あれから数日。 桐乃は未だに体調を崩しており、現在は12月28日。

京介「……まだ具合悪いか?」

桐乃「うん……ごめんね。 毎日」

京介「何がだよ。 お前と毎日ずっと居れるんだから、これ程嬉しいことはねえっての。 馬鹿か」

桐乃「……シスコン」

京介「悪いか? シスコンで」

桐乃「……悪くはないケド」

700: ◆IWJezsAOw6 2013/08/14(水) 13:34:59.94 ID:+HZlmNrm0
京介「へへ。 だろ」

布団に寝転ぶ桐乃を見て、俺は桐乃の頬に手を添える。

京介「まだ結構熱あるよな。 なんか飲みたい物とか、食いたい物あれば言ってくれよ」

桐乃「はいはい。 あたしは大丈夫だって……」

京介「仕事は休んどけよ? そんな状態で行くとか言ったらさすがに怒るからな?」

桐乃「……本当は超行きたいケドね。 京介がそうゆーなら、休む」

701: ◆IWJezsAOw6 2013/08/14(水) 13:35:28.10 ID:+HZlmNrm0
京介「……おう。 さんきゅ」

桐乃「ひひ。 なんで京介がお礼言ってんの?」

京介「お前にそういう風にしつけられてるからだよ。 人使いが荒い妹だからなぁ」

桐乃「人が寝込んでるからって好き放題言っちゃって。 ふん……治ったら覚悟しといてね」

京介「……へいへい」

こんな感じで、ここ数日の間、俺はずっと桐乃の近くに居た。 そうするだけでも、桐乃は嬉しそうに笑ってくれたから。

それと、これはお返しでもあるのだ。 いつか、桐乃に看病してもらった時のお返し。

702: ◆IWJezsAOw6 2013/08/14(水) 13:36:06.53 ID:+HZlmNrm0
……そういや、その時こいつはコスプレしてくれたんだっけか。 懐かしいなぁ。 またしてくれねえかな?

京介「へへ」

桐乃「……今絶っ対、ヘンなこと考えてたでしょ」

京介「そ、そんなことねーよ!」

桐乃「嘘吐かないで。 なに考えてたの?」

京介「……あやせ並みの鋭さだな。 くそ」

京介「昔、お前が俺の看病してくれたときの事、思い出してた」

京介「お前のおかげで……即、治ったからな」

703: ◆IWJezsAOw6 2013/08/14(水) 13:36:42.38 ID:+HZlmNrm0
桐乃「ふん……そりゃ、こんだけ超美少女が看病してあげて治らなかったら、マジで許さないしね」

京介「いや、多分ネコミミとネコしっぽのおかげだろ?」

桐乃「……あれは忘れて欲しいんだケド」

京介「写真残ってるけど」

桐乃「ぶっ! ま、まだ持ってたの!?」

704: ◆IWJezsAOw6 2013/08/14(水) 13:37:09.65 ID:+HZlmNrm0
叫び、咳き込む桐乃。 そんな桐乃の背中を叩き、落ち着かせる。

京介「当ったり前よ! あれは俺の家宝だからなぁ!」

桐乃「へ、へえ。 じゃあさ……今度、それでデートしてあげよっか?」

京介「ま、マジで!? いや、でも待てよ……お、お前」

京介「まさか……あの格好で外に出る気か……?」

桐乃「で、出るワケ無いって! 家で! 家でデートしようってハナシしてんの……」

京介「お、おう……そうか。 びっくりした」

705: ◆IWJezsAOw6 2013/08/14(水) 13:37:44.41 ID:+HZlmNrm0
ここで桐乃が頷いたら、どうしようかと思ったぜ。 さすがの俺でもメイド服にネコミミとしっぽを付けた妹と外でデートはしたくねえからな……。 視線で死ねる。

京介「ま、そういうことなら是非お願いしたいな! 出来ればこの前の日くらい甘えてくれると俺は嬉しい!」

桐乃「……どーしよっかなぁ? 考えといてあげる。 ひひ」

京介「はは。 宜しく頼むぜ、桐乃さん」

桐乃「……はいはい。 あ、じゃあさ。 コンビニでゼリー買ってきて。 喉痛いし、そうゆうの食べたいカンジ」

京介「おう、任せろ!」

706: ◆IWJezsAOw6 2013/08/14(水) 13:38:12.72 ID:+HZlmNrm0
俺は全く持って無防備で、何にも警戒していなかったんだ。

桐乃の目的は、そんな物では無く、もっとヤバイ物で。

京介「ただいまー。 桐乃ー、買ってきたぞー」

コンビニ袋を片手に、桐乃のところへと向かう。

布団の上でうつ伏せになりながら、桐乃は何やら本を眺めているようだった。

京介「おかえりくらい言えよ。 ほら、ゼリー今食うか?」

桐乃「……」

707: ◆IWJezsAOw6 2013/08/14(水) 13:38:47.84 ID:+HZlmNrm0
しかとかよ! せめて頷くかしろって。

京介「……何読んでんの?」

なんとなく、その本には見覚えがあった。 ええっと。

……それ俺のノートじゃねえかよ!!!

京介「あ、あー。 俺ちょっと用事あるから、旅立ってくるわ」

桐乃が反応しない今の内にと思い、俺はその場をそーっと離れる。 気付かれない様に。

ある程度距離を取り、居間に到着。 こ、怖かった。

708: ◆IWJezsAOw6 2013/08/14(水) 13:39:25.89 ID:+HZlmNrm0
と思ったが、案の定桐乃から声が掛かる。

桐乃「へえ? あたしが風邪で寝込んでるのに、ほっといてどっか行くんだ?」

京介「……すんません」

俺が言うと、桐乃は指でくいくいと俺を呼びつける。 まるで召使いの気分だぜ。

桐乃「……これだよね? この前あんたが黒いのに見せたくなかったのって」

京介「あ、ああ。 そうです」

709: ◆IWJezsAOw6 2013/08/14(水) 13:39:56.63 ID:+HZlmNrm0
桐乃「ふうん」

ぱらぱらとページを捲り、桐乃は言う。

京介「て、てか……どうやってそれ見つけたの?」

桐乃「この前の時になーんか怪しいなーって思ったから、さっき押し入れ探させてもらっただけ。 もうちょっとうまく隠せばいいのに。 ひひ」

京介「いやいや、だってそれ人生ゲームの箱の中に……あ」

そうだ。 前にそれで遊んだ時、箱から出してそのままだったのか。

桐乃「……だから前は探しても無かったんだ。 なるほどね」

710: ◆IWJezsAOw6 2013/08/14(水) 13:40:27.70 ID:+HZlmNrm0
それでお前は定期的にそういうのを探しているってことか。 やめてください。

桐乃「で、何かゆうことは?」

京介「あ、あはは……えっと」

京介「そ、それに乗ってる奴、めっちゃ可愛くね?」

桐乃「ふーん。 ふう~ん」

京介「……なんだよ」

桐乃「べっつに~。 でも、このくらいじゃ驚かないし。 京介も隠すことないのに」

711: ◆IWJezsAOw6 2013/08/14(水) 13:41:10.83 ID:+HZlmNrm0
京介「そう言って貰えるとすげえ助かるが……」

桐乃「だから、今度は一緒につくろ。 アルバム」

桐乃は笑顔を俺に向けながら、そう言うのだった。

なんというか、あれだけ必死に隠していた俺が馬鹿みたいで、笑えて来るぜ。

京介「……おう」

桐乃「だケド。 このキスしてる写真はちょっとヒドイかな。 これで何してたのかは聞かないであげるケドぉ」

……そういうことはマジで言わないで欲しい。 黙って触れずにいることができねえのか、こいつ!

712: ◆IWJezsAOw6 2013/08/14(水) 13:42:17.89 ID:+HZlmNrm0
桐乃「……だから、あたし用に一枚写真とろ。 それで許したげる」

京介「そ、それって……お前がその写真で何かするってことか……?」

俺が言うと、桐乃は熱で赤くなっている顔を更に赤くさせ、言う。

桐乃「そ、そんなワケ無いでしょ! 変態!!」

京介「は、はは……だよな。 わり」

桐乃「……チッ。 いいから、早く写真とろ」

713: ◆IWJezsAOw6 2013/08/14(水) 13:42:50.71 ID:+HZlmNrm0
京介「分かったよ……で、どんな写真撮ればいいの?」

桐乃「ヒミツ。 とりあえず準備してよ」

京介「……準備?」

桐乃「あたしとあんたで一緒に写るんだから、セットしてってこと」

京介「ああ、オッケー。 分かった」

言われるがまま、俺は桐乃のスマホをテーブルの上に置く。 カメラをこちらに固定して、タイマーをセットして。

京介「出来たけど、これで良いのか?」

714: ◆IWJezsAOw6 2013/08/14(水) 13:43:18.61 ID:+HZlmNrm0
桐乃「うん。 じゃあ、ほら」

桐乃は言い、俺に向けて両手を差し出す。

……つまり、抱っこしろってことだよな。 普通に考えたら。

京介「……はいよ」

俺は桐乃の背中と足に腕を回し、桐乃は俺の首辺りに腕を回す。

そのまま桐乃を抱き上げ。

715: ◆IWJezsAOw6 2013/08/14(水) 13:43:45.06 ID:+HZlmNrm0
京介「これで良いか?」

桐乃「ひひ。 おっけおっけ。 あんま時間無いから、ちゃんとカメラの方向いてね」

京介「へいへい」

その姿勢のまま数十秒。 やがて、その時が近づいていることを知らせる音が、桐乃のスマホから聞こえて来る。

桐乃「ね。 京介」

京介「ん?」

716: ◆IWJezsAOw6 2013/08/14(水) 13:44:11.37 ID:+HZlmNrm0
桐乃「これが最後の指示ね。 はい」

そう言われ、桐乃の方に視線を移すと、目を瞑り、ほんの少し笑っている桐乃の顔が見える。

……ああ、はいはい。 そういうことかよ。

京介「……」

俺はそのまま、桐乃にキスをする。 桐乃は何も言わず、俺に回していた腕を少しだけきつく、ぎゅっとしていた。

717: ◆IWJezsAOw6 2013/08/14(水) 13:44:37.51 ID:+HZlmNrm0
京介「……満足か?」

写真撮影が終わり、桐乃を布団に降ろしながら俺は聞いた。 桐乃は未だに目を瞑ったまま、口を開く。

桐乃「ぜんぜーん。 あたしが満足したと思う?」

京介「するわけねえよな。 俺の妹だもんな?」

桐乃「そーゆうこと。 でも、今日はちょっとだるいし、また今度ね」

京介「おう。 早く治しちまえよ? もうすぐ年越しだしよ」

桐乃「分かってるって。 大人しく寝てるっつーの」

718: ◆IWJezsAOw6 2013/08/14(水) 13:45:44.61 ID:+HZlmNrm0
桐乃「……でも、冬コミいけないのは残念かなぁ」

京介「つっても三日間あるだろ? それまでに治せばいいだろ」

桐乃「そーじゃなくて。 黒いのが出るのって一日目っしょ。 それに行けないのがちょっと残念」

京介「……そっか。 はは」

桐乃「なに笑ってんの?」

京介「いや……仲良いなって思っただけだよ」

桐乃「……ふん」

719: ◆IWJezsAOw6 2013/08/14(水) 13:46:15.65 ID:+HZlmNrm0
その日はそうして、桐乃と少しの話をしながら過ごした。

それが起きたのは次の日の朝早くで、俺が桐乃の分の朝飯を作っているときのことだ。

時刻は6時。 桐乃がいつ起きても良い様に、早めに起床したというわけ。

で、おかゆを作っていたところ、俺の携帯電話が居間で鳴っているのに気付いた。

桐乃を起こしたらまずいし、火を止めると急いで居間へと向かう。

発信者は……沙織? 何だ、こんな朝早くに。

720: ◆IWJezsAOw6 2013/08/14(水) 13:47:03.34 ID:+HZlmNrm0
京介「もしもし?」

「良かった……起きてたでござるか。 京介氏」

どこか慌てた様子で、沙織らしからぬその様子に、少しだけ胸が騒ぐ。

京介「なんか用事か?」

俺がそう聞くと、沙織は少々間を置いた後に喋りだした。

「実は……少々困った事になりまして」

721: ◆IWJezsAOw6 2013/08/14(水) 13:47:41.93 ID:+HZlmNrm0
「拙者は今日、黒猫氏と一緒にサークル参加だったのでござるが……」

「……サークルで参加の際は、サークル参加証という物が必要なのです。 それを忘れてしまいまして」

京介「おいおい……ってことは、参加できねえのか?」

「いえ、そういう訳では無いのですが……」

なんだ、随分と濁した言い方だな。

京介「……ええっと、つまり?」

722: ◆IWJezsAOw6 2013/08/14(水) 13:48:11.96 ID:+HZlmNrm0
俺がそう聞くと、電話からはしばらく何も聞こえない。

京介「おい? 沙織?」

「……」

「……ごめんなさい。 忘れたのはわたしよ。 本当だったらあなたに言う必要も無いことなのだけど」

京介「黒猫、だよな? どういうことだよ」

「……こんなことを頼むのは非常識だと分かっているわ。 迷惑極まり無いことも分かっているわ」

「……参加証はわたしの家にあるの。 妹たちに先ほど聞いて、それは確実だわ。 無理なら無理と言って頂戴」

「それを……持ってきてくれないかしら?」

723: ◆IWJezsAOw6 2013/08/14(水) 13:49:12.78 ID:+HZlmNrm0
京介「……そういうことか」

普段なら、絶対に持って行ってやるよ。 友達だもんな。

俺にとっちゃそれが当たり前だし、困ってる時に何もしないなんてことは出来ないだろうさ。

でも。

でも今、俺は。

京介「……悪い、黒猫。 今日はどうしても外せない用事があるんだ。 本当にすまん」

724: ◆IWJezsAOw6 2013/08/14(水) 13:49:39.22 ID:+HZlmNrm0
あの状態の桐乃を放っておいて、いけるわけがねえ。 俺にとって大事なのは、そういうことなんだ。

「良いわよ。 構わないわ」

「それに、忘れたからと言って参加できないと言う訳でも無いのよ。 身分証があれば当日でも入場可能だから。 朝っぱらからごめんなさい」

京介「悪いな……頑張れよ、サークル」

「ふふ。 わたしを誰だと思っているの。 完売して、あのビッチに自慢しにいってあげるわ」

京介「はは……。 おう、期待してる」

そうして、通話を終える。

725: ◆IWJezsAOw6 2013/08/14(水) 13:50:05.68 ID:+HZlmNrm0
桐乃「……電話、黒いのから?」

桐乃の声が聞こえ、そちらに視線を向けると、やはり顔色が悪い桐乃の姿。 ぶり返したのもあり、今日も体調は悪そうに見える。

京介「起きてたのか。 体調は……聞かない方が良さそうだな」

京介「電話は沙織から。 途中で黒猫に変わったけど」

桐乃「……あいつ、なんだって?」

桐乃の近くに行き、すぐ横に座る。 近くで改めてみると、辛そうなのは見て取れる状態。

京介「なんか、サークル参加証ってのを忘れちまったらしい。 でも、参加は出来るから心配いらねーって」

726: ◆IWJezsAOw6 2013/08/14(水) 13:50:32.03 ID:+HZlmNrm0
桐乃は俺の言葉を聞くと、頭を押さえる。 数秒した内、口を開いた。

桐乃「それだけ? 黒いのが言ってたのって」

京介「おう。 それだけだが」

桐乃「……あの馬鹿」

体を起こし、俺の方に顔を向け、続ける。

桐乃「確かに入れるよ。 参加証を当日忘れても」

桐乃「でも、コミケはそういうのにすっごく厳しいの。 ペナルティが付くに決まってるよ」

727: ◆IWJezsAOw6 2013/08/14(水) 13:50:57.14 ID:+HZlmNrm0
京介「……ペナルティ?」

桐乃「……うん。 入場時間を一般と一緒にされたり、最悪……次回参加不可とかになるかも」

京介「あいつ……それを言わなかったってことかよ」

桐乃「迷惑掛けたくなかったんじゃない? あの馬鹿。 ほんとに馬鹿」

桐乃「だから、京介」

桐乃が言おうとしていることなんて、分かっている。 こいつだったら、そう言うのだろう。

728: ◆IWJezsAOw6 2013/08/14(水) 13:51:24.05 ID:+HZlmNrm0
桐乃「行ってあげて、黒猫のとこに」

それでも、俺の答えは決まっているんだ。 黒猫は大切な親友だけど、沙織も大切な親友だけど。

京介「……俺は、行けない。 お前を放って置くことなんて出来ねえよ」

桐乃「あんたも……ばか。 黒いのにとって、本を出すってことはとても大切なことなの。 分かるでしょ、あんたなら」

京介「……まあな。 それは、分かるけどよ」

桐乃「あたしがエロゲーとかを大事にしているのと一緒。 そのくらい、黒いのにとって大事なことだから。 だから、次に参加出来ないとかなったら、あいつすっごい落ち込むと思うの」

729: ◆IWJezsAOw6 2013/08/14(水) 13:52:02.01 ID:+HZlmNrm0
桐乃「……馬鹿だから、口ではそんなこと言わないかもしれないケド」

桐乃「京介も、あたしが同じ様な時に助けてくれたじゃん? だから、黒いののことも助けてあげて。 あたしは大丈夫だから」

京介「……言ってることは分かった。 黒猫がどれ位、それを大切にしてるのかもな」

京介「でも、黒猫は黒猫で……お前はお前だ」

京介「俺は、お前の方が大切なんだよ。 桐乃」

黒猫には悪いが……俺は、そうなんだ。 それが本当の気持ちだ。 嘘を付くことは出来やしない。

730: ◆IWJezsAOw6 2013/08/14(水) 13:52:28.69 ID:+HZlmNrm0
桐乃「……ありがと。 嬉しい」

桐乃「京介ならそうゆうと思ってたのかな。 あたし」

桐乃「……ね、京介」

京介「……どした?」

桐乃「温泉旅行行ったときのこと、覚えてる?」

京介「覚えてるよ。 それがどうした?」

桐乃「あの時、京介は三つだけ命令聞いてくれるって言ったよね。 あたしの命令を」

京介「……そう、だな」

731: ◆IWJezsAOw6 2013/08/14(水) 13:52:56.69 ID:+HZlmNrm0
桐乃「まだ一個残ってるから、命令」

桐乃「黒猫のところに行ってあげて、今すぐに」

京介「……お前」

桐乃「あたしは大丈夫だから。 てゆうか、ただの風邪なんだしそんな心配いらないっつーの。 シスコン」

桐乃にとっては多分、俺には傍に居て欲しいと思っているのだろう。 なんとなく、分かる。 兄妹だからな、俺たちは。

でも、それでも桐乃は黒猫のことを想っているのだ。 大切な友人として、最初に趣味について全力で話せた相手として。

732: ◆IWJezsAOw6 2013/08/14(水) 13:53:26.77 ID:+HZlmNrm0
京介「……はぁ」

京介「分かったよ。 そこまで言われたら、聞かないわけにはいかねーよな。 なんつっても、桐乃の命令と来ちゃあ聞く以外に選択肢はねえよ」

京介「……行ってくる。 桐乃」

桐乃「ひひ。 絶対届けること。 これも命令ね」

京介「おう。 任せとけ」

733: ◆IWJezsAOw6 2013/08/14(水) 13:53:52.56 ID:+HZlmNrm0
京介「だけど、何かあったらすぐ連絡してくれ。 絶対に、な。 これだけは約束してくれ」

桐乃「だから大丈夫だって言ってるのに。 でも……うん。 分かった」

京介「ああ。 じゃあ、桐乃」

京介「行って来ます」

桐乃「うん。 行ってらっしゃい」

734: ◆IWJezsAOw6 2013/08/14(水) 13:54:18.95 ID:+HZlmNrm0
それから、俺がまず向かったのは黒猫の家。

その道中にて、黒猫とは電話を済ませていた。

今から行くことと、絶対間に合わせるということだけを伝えて。

俺と桐乃が住んでいるアパートからはそれ程離れておらず、大して時間は食わずに到着。

黒猫が住んでいる社宅に到着すると、その入り口には俺の見知った奴が立っていた。

735: ◆IWJezsAOw6 2013/08/14(水) 13:54:45.06 ID:+HZlmNrm0
日向「高坂くん! こっちこっち!」

京介「日向ちゃんか!? どうしたんだよ?」

日向「さっきルリ姉から電話があったんだよ。 「わたしの下僕がそちらに行くから、歓迎してあげなさい」って」

京介「……下僕ではねえけど」

どっちかというと、桐乃の下僕って感じだぜ。

日向「へっへっへ。 そういえば聞いたよ、高坂くん」

京介「ん? 何を?」

736: ◆IWJezsAOw6 2013/08/14(水) 13:55:11.65 ID:+HZlmNrm0
日向「まだ彼女作って無いんだって?」

ああ、そっちの話ね。 はは。

京介「……えーっと、誰に聞いたの、それ」

日向「ルリ姉に決まってるじゃん。 別れたって聞いたときはどうなるのか心配だったけど、今だと高坂くんの話とかするとき、とっても幸せそうにしてるんだよね。 だから付き合ってる物だと思ってたんだけどねぇ」

京介「……そっか」

黒猫は多分、気を利かせてくれているのだろう。 そりゃあそうだ。 俺が妹と付き合っているなんて、認める奴の方が少ねえなんてことは分かりきっている。

737: ◆IWJezsAOw6 2013/08/14(水) 13:55:39.21 ID:+HZlmNrm0
日向「で、それで物は相談なんだけど、あたしとかどう!?」

京介「はは。 わりいが、俺の恋愛対象は高校二年生限定なんだよ。 だからごめんな」

日向「ちぇっ。 じゃあ後四年間かぁ……」

京介「いいや、違うぜ。 後四年後は大学三年生限定だな」

日向「ええっ!? もしかして高坂くんって、相手の年齢と自分の年齢気にする感じ? ていうか、年齢にこだわる感じ?」

京介「そうだなぁ。 そういえばそうなるのかもな」

738: ◆IWJezsAOw6 2013/08/14(水) 13:56:06.03 ID:+HZlmNrm0
日向「じゃあ、あたしもルリ姉もダメじゃん!! 今高校二年生の人って誰か居たっけ?」

京介「んー、どうだろうな?」

日向「あ、そういえばキリ姉っていくつだっけ?」

京介「……さぁ?」

日向「今度聞いておこーっと。 あ、てかこんな立ち話してる場合じゃなかった。 これ、持って行ってあげて」

言い、日向ちゃんは俺にサークル参加証を手渡す。

京介「ああ、ありがとうな。 今度お菓子でも買ってやるよ」

739: ◆IWJezsAOw6 2013/08/14(水) 13:56:39.13 ID:+HZlmNrm0
日向「マジ? それってデートの誘い?」

デート、デート。 デートね……ふむ。

「あんた、なに年下の子供お菓子で釣ってんの? マジキモイんですケドぉ」

京介「いや、黒猫とか桐乃と一緒に遊んだときにでも。 はは」

日向「まー、あたしは楽しければ何でもいいけどね~。 それじゃほら」

日向「行ってこい! 高坂くん!」

京介「おう! またな」

740: ◆IWJezsAOw6 2013/08/14(水) 13:57:08.33 ID:+HZlmNrm0
最後にそう言い、手を振る日向ちゃんに手を振り返し、走る。

駅までは……バスを使うよりかは、走った方が良さそうだ。

今の時刻は6時30分。 こっから東京までは50分くらいか? やべえ、これで間に合わなかったら完全に立ち話の所為じゃね?

……いいや、間に合わなかったってのはありえない。 桐乃に絶対間に合わせろと命令されちまってるからな。

だったら俺はそれに答えるだけだ。 何としてでも間に合わせる。 ってな。

強くそう想い、俺は走り、駅へと向かって行った。


コミケ当日 前編 終

763: ◆IWJezsAOw6 2013/08/15(木) 23:46:07.28 ID:r3ehhr4X0
京介「黒猫か? 今どこにいる?」

「……あなた、本当に来たの? 桐乃は?」

「外せない用事とは、桐乃のことでしょう? なのに来るなんて……」

京介「……知ってたのか?」

「桐乃とはしょっちゅう話しているから。 具合が悪そうなことくらい、分かるわよ」

「それで、あなたはそんな桐乃を放って来たの?」

764: ◆IWJezsAOw6 2013/08/15(木) 23:46:33.49 ID:r3ehhr4X0
京介「……ああ、そうだよ」

「それは、あなたの意思?」

京介「……正直に言った方が良いよな? その質問には」

「……」

黒猫は答えず、俺はそれを肯定と受け取り、続ける。

京介「俺の意思じゃあない。 俺は、桐乃の傍に居てやりたかった」

京介「でも、命令されちまったんだよ。 生意気な妹にな。 行って来いって」

765: ◆IWJezsAOw6 2013/08/15(木) 23:47:02.50 ID:r3ehhr4X0
「……ふふ。 そう」

京介「……俺が恩知らずでショックか?」

「いえ、そんな訳無いじゃない」

「あなたも本当のことを話してくれたから、わたしも本当のことを話すわ」

「それを聞いて、とても安心したの。 今、わたしはね」

京介「安心?」

766: ◆IWJezsAOw6 2013/08/15(木) 23:47:30.33 ID:r3ehhr4X0
「そうよ。 多分……だけど。 あなたが桐乃のことを大切にしているのが分かって、安心したのかしら? 勿論、そんなことはずっと前から分かっていたことだけれど」

「自分でも良く分からないのよ。 良く分からないけれど、そんな感じ。 ごめんなさい、上手く伝えられなくて」

京介「いや……充分だよ。 それだけ言ってもらえりゃあ、充分だ」

京介「って、こんな電話してる場合じゃねえよな? お前、今どこにいんの?」

「あら。 あなたには見えないのかしら。 でもそれは仕方の無いこと。 魔界の波動を感じられないあなたには、わたしの姿を見ることが出来ない……」

……そうですか。

767: ◆IWJezsAOw6 2013/08/15(木) 23:47:57.96 ID:r3ehhr4X0
京介「悪かったな。 で、どこだよ?」

「あなたの後ろよ。 先ほどからずっと、その間抜けな背中を眺めていたわ」

そう言われ、振り向く。

黒猫「おはようございます。 先輩」

そこには黒猫が居た。

……怖いな、こいつ。

768: ◆IWJezsAOw6 2013/08/15(木) 23:48:25.43 ID:r3ehhr4X0
沙織「ありがとうございます! 京介氏!」

無事に間に合ったようで、入場時間を待つ沙織から頭を下げられる。

京介「構わないって。 それに、お礼は俺より桐乃に言ってくれ」

沙織「……分かっております。 きりりん氏には、京介氏のコスプレ写真を送ることでお礼をすることになっておりますので」

京介「へ、へえ……」

とりあえず、毎度のことだが水面下でその様な取引をするのはやめて頂きたい。 せめてひと声掛けてくれよな。

769: ◆IWJezsAOw6 2013/08/15(木) 23:49:07.69 ID:r3ehhr4X0
京介「……でも、俺は桐乃に頼まれればいつでもコスプレくらいしてやるけど……何でだろうな?」

沙織「京介氏がきりりん氏の前だと、だらしない顔付きになるからでは?」

京介「……自覚無いけど」

沙織「はっはっは」

なんだその笑いで誤魔化した感じ。 俺ってそんななってるの? 納得いかないんだけど。

770: ◆IWJezsAOw6 2013/08/15(木) 23:49:34.47 ID:r3ehhr4X0
黒猫「……迷惑掛けたわね。 ありがとう」

沙織と話していると、横から黒猫がそう言った。

京介「そう改まって言われるとなんか照れるな。 はは」

京介「……あ、そういやさ」

一つ思い出した。 俺も礼を言わなければならないことを。

京介「黒猫、ありがとな。 日向ちゃんに黙っててくれて」

771: ◆IWJezsAOw6 2013/08/15(木) 23:50:01.91 ID:r3ehhr4X0
黒猫「……何を?」

京介「俺と桐乃のことだよ。 黙っててくれたんだろ?」

黒猫「……いえ? わたしは何もそんな配慮はしていないわ」

京介「……ん?」

黒猫「魔界からの魔女にあの男は攫われたとは言ったけれどね」

……魔女ってな。 つうか、それを日向ちゃんは適当に解釈したんだろうな。

772: ◆IWJezsAOw6 2013/08/15(木) 23:50:28.79 ID:r3ehhr4X0
京介「……結果オーライって奴か。 はは」

先ほどのお礼の言葉をすぐに返して欲しいと思ったところで、着信音。

携帯を開くと、メールが一件届いていた。 差出人は桐乃。


From 桐乃
どう? 間に合った?

773: ◆IWJezsAOw6 2013/08/15(木) 23:50:56.17 ID:r3ehhr4X0
京介「だってよ。 沙織、黒猫」

沙織「全く。 人の心配よりは自分の心配を……と言ったところですなぁ」

京介「そりゃあ、お前にも言える台詞だぜ。 ペナルティの件、黙ってた癖によ」

沙織「……はは、面目無いでござる」

黒猫「そういえば」

黒猫「桐乃が風邪をひいた原因って、結局何だったの? クリスマス前に一度ひいたとは、聞いていたけど」

774: ◆IWJezsAOw6 2013/08/15(木) 23:51:22.57 ID:r3ehhr4X0
……シャツ一枚だけで寝てたからじゃね? とは言えん。 無理無理。

京介「あー。 えっと……コタツで寝てたからじゃね?」

と、俺は嘘とも言えないことを伝える。 ざっくり言えば、そうだろうし。

黒猫「なるほど。 なら自業自得ね」

黒猫「という訳で、写真を撮りましょう。 三人で撮って、あの女に送ってやりましょう」

京介「……ぶっちゃけると、俺は早く帰りたいんだけど」

775: ◆IWJezsAOw6 2013/08/15(木) 23:51:52.79 ID:r3ehhr4X0
黒猫「まだバスが来るまでは時間があるわ。 それまでなら良いじゃない。 ね?」

沙織「そうですな。 きりりん氏にとっても、良いと思いますぞ」

沙織「……黒猫氏も、本当はそういうお考えなのでは?」

黒猫「……そんな訳無いでしょう。 勝手に推測しないで頂戴」

京介「はは、分かったよ。 一枚だけ撮って、送ってやるか」

京介「でもさ、あいつ内心では安心するだろうけど、表面的には絶対怒るぞ?」

776: ◆IWJezsAOw6 2013/08/15(木) 23:52:19.53 ID:r3ehhr4X0
黒猫「分かっているわよ。 その為にあなたが居るのでしょう?」

……酷い扱いだな、おい。

要するに桐乃が表面的に出す怒りを俺が抑えろってことだろう? 体を張って。

……いやこの扱いはやっぱり酷いと思う。 マジで。

京介「へいへい……」

結局はそう答えるんだけどな。 いつものことだから。

777: ◆IWJezsAOw6 2013/08/15(木) 23:52:47.04 ID:r3ehhr4X0
沙織「では、撮りましょう!」

そうして俺と沙織と黒猫は、三人で集まって写真を撮る。 間に合ったことを伝える為に。

俺はその撮った写真をメールに貼り付け、すぐに桐乃に送った。


To 桐乃
俺を誰だと思ってるんだ? 桐乃さんよ。


送信ボタンに指を置き、少し考える。

……ううむ。 ちょっと違うな。

778: ◆IWJezsAOw6 2013/08/15(木) 23:53:13.86 ID:r3ehhr4X0
To 桐乃
妹との約束を俺が破る訳無いだろ。 シスコンだからな。


よし。 これで良い。

俺はそのまま、送信ボタンを押す。

黒猫「本当にシスコンね?」

京介「の、覗いてるんじゃねえよ! ほっとけ!」

779: ◆IWJezsAOw6 2013/08/15(木) 23:53:40.17 ID:r3ehhr4X0
黒猫「あら? わたしはただ推測して言っただけよ。 当たったのかしら?」

京介「お、お前はなあ……くそ」

桐乃もよくこんな奴と言い合い出来るな。 あいつのメンタルには時々驚かされるぜ。

で、そんな会話をしている最中に着信。 開いてみると、今度は電話。

京介「もしもし、桐乃か」

「そだケド。 あんたあたし抜きで随分と楽しそうだね?」

……やっぱそうなるよなぁ!

780: ◆IWJezsAOw6 2013/08/15(木) 23:54:06.74 ID:r3ehhr4X0
京介「あ、あー。 はは、いやいや、桐乃さんが居なくて滅茶苦茶寂しいっすよ。 マジで」

「ほんと? ふうん。 じゃあちょっと黒いのと変わって」

京介「黒猫か? 別にいいけど」

京介「黒猫、桐乃から電話」

黒猫「わたしに? まぁ、構わないわ」

そう言い、黒猫は電話を受け取り、耳に当てる。

781: ◆IWJezsAOw6 2013/08/15(木) 23:54:32.80 ID:r3ehhr4X0
黒猫「もしもし、ご機嫌いかがかしら。 苦しんでいるの?」

……今までに聞いたことの無い心配の仕方だぜ、それ。

黒猫「あらそう。 苦しんでいるようで何よりだわ。 ふふ」

黒猫「……え? ええ。 ああ、そういうことね」

黒猫は俺の方をちらっと見ると、続ける。

黒猫「それはもうとても楽しんでいたわよ。 わたしと沙織に会えて。 会っていきなり抱き着いてきたもの」

782: ◆IWJezsAOw6 2013/08/15(木) 23:54:59.71 ID:r3ehhr4X0
京介「おいおいおいおい、おい! 何の話だそれ!?」

俺は黒猫から携帯を奪い取り、耳に当て。

京介「桐乃か? 黒猫の言ってたこと全部でっち上げだからな!?」

「……はぁ、なにを心配してるワケ? 今更そんなの分かってるっての」

京介「お、おう……そうか。 なら良かった」

「でもぉ? あたしが具合悪くて寝てるのに、写真送りつけてくるなんて良い度胸だよね? そう思わない?」

783: ◆IWJezsAOw6 2013/08/15(木) 23:55:26.31 ID:r3ehhr4X0
京介「……マッハで帰ります」

「うん。 よろしい」

通話終了。 末恐ろしい妹だぜ、全く。

黒猫「大変そうね。 兄さん」

京介「だ、誰の所為だと思ってるんだよ……」

黒猫「それについてはしっかりと感謝しているわよ。 ありがとう」

784: ◆IWJezsAOw6 2013/08/15(木) 23:55:54.61 ID:r3ehhr4X0
黒猫「それと、桐乃にも伝えておいて頂戴。 ありがとうと」

京介「さっきの電話で言っとけば良いのによ……そのまま伝えちゃっていいのか? お前の言葉」

黒猫「たまには、ね。 打ち上げもやるつもりだから、とっとと治しなさいとも伝えておいてくれるかしら」

京介「へへ。 了解」

京介「それじゃ、沙織、黒猫。 頑張れよ」

785: ◆IWJezsAOw6 2013/08/15(木) 23:56:24.50 ID:r3ehhr4X0
沙織「お任せください! 京介氏の最後の頼み……しかと聞き入れましたぞ!」

京介「……俺はまだ死なないからね?」

黒猫「そもそも、あなたが桐乃の元へ戻ったら、余計に熱が出るのじゃないかしら」

京介「お前の言っている意味は分かった。 それを踏まえた上で、少し黙れ」

と、こんな感じで愉快な仲間に見送られ、俺は桐乃の元へと帰るのだった。

786: ◆IWJezsAOw6 2013/08/15(木) 23:56:50.39 ID:r3ehhr4X0
京介「桐乃、大丈夫か?」

部屋に入るやすぐ、俺は桐乃が寝ている布団の横に行き、話し掛ける。

桐乃「遅い。 あたしが死んでたらどーすんのよ」

京介「……一生後悔するだろうな?」

桐乃「ふん。 なら呑気に写真とか撮るんじゃないっての」

京介「悪い悪い。 反省してるよ」

787: ◆IWJezsAOw6 2013/08/15(木) 23:57:43.69 ID:r3ehhr4X0
桐乃「ならいいケドぉ」

桐乃は口ではそう言いつつも、嬉しそうな表情をしている。 俺が間に合った事が、こいつにとっては嬉しいのだろう。

黒猫が無事、コミケに出られることが嬉しいのだろう。

京介「そういやさ、黒猫から伝言だ」

桐乃「……どーせくだらないことじゃないの?」

京介「ありがとう、早く治せ。 だってよ」

桐乃「……ふうん。 そか」

788: ◆IWJezsAOw6 2013/08/15(木) 23:58:33.47 ID:r3ehhr4X0
更に嬉しそうな顔してやがるよ、こいつ。 面白いなあ。

京介「言っとくが、もうお前が治るまで俺は離れないからな。 命令も全部使ったろ?」

桐乃「はいはい。 今回は傍にいるの許してあげる。 感謝してね?」

京介「おう。 風呂入るときも一緒だぞ」

桐乃「……なんでそうなんの! 絶対イヤ」

京介「んだよ。 そんな嫌か?」

桐乃「……だ、だって」

789: ◆IWJezsAOw6 2013/08/15(木) 23:59:12.03 ID:r3ehhr4X0
桐乃「……あんたとお風呂入ると、体余計に熱くなるし」

……聞いといてあれだけどな。

そういうことは頼むから心の中だけで思っていてくれ! 言われるとマジで意識しちゃうからさ!

京介「そ、そりゃ……俺も一緒だが」

桐乃「……変態」

京介「……でも、お前は俺のこと好きなんだよな? へへ」

桐乃「……チッ。 ばーか」

790: ◆IWJezsAOw6 2013/08/15(木) 23:59:41.90 ID:r3ehhr4X0
俺はそのまま、桐乃の頭をゆっくり撫でる。 桐乃の目は少しだけとろんとしていて、俺に向けられている。

桐乃「……一回しか言わない」

桐乃「……好きだよ、京介のこと」

お、おう! おうおう! やっべえ可愛い!

思わず俺は桐乃を抱き締め、布団の上に一緒に倒れた。

桐乃「ちょ……あんま近いと、風邪移っちゃうよ」

京介「構わねえ。 俺は今、こうしていたいんだよ」

791: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 00:00:47.97 ID:mtmAVoWE0
桐乃「……シスコン」

京介「そう言うお前はブラコンじゃねえか」

桐乃「……それがどうしたっつーの。 あたしは兄貴と付き合っちゃう程のブラコンだケドぉ。 文句ある?」

京介「ねーよ。 むしろめっちゃ嬉しいぜ」

桐乃「……ひひ。 だよね?」

京介「おう」

そのまま桐乃は目を瞑ると、気持ち良さそうな笑顔になっていた。

792: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 00:01:15.18 ID:mtmAVoWE0
京介「……顔、触ってもいいか?」

何聞いているんだろうな、俺。

だが俺がそう聞くと、桐乃は何も答えず、頭を少しだけ俺の方へと寄せる。

その行動の意味を理解した俺は、顔に掛かった髪を後ろに流し、桐乃の頬へと触れた。 撫でるように。

京介「……黙ってれば世界一可愛いな、やっぱ」

793: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 00:01:45.40 ID:mtmAVoWE0
俺が言うと、桐乃から返答。

桐乃「……一応聞こえてるからね、それ」

京介「……はは」

京介「でも、俺にとってはどんな桐乃も、世界一だぜ?」

桐乃「よくそんな寒い台詞出てくるよねえ。 ひひ」

未だに目を瞑りながら、桐乃は続ける。

794: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 00:02:12.23 ID:mtmAVoWE0
桐乃「でも、あたしにとっては嬉しい言葉だから」

京介「……そうかよ。 へへ」

桐乃「……うん」

それから数分、俺たちの間には心地よい沈黙が訪れていた。

やがて、桐乃は口を開く。

桐乃「……てか、顔触りすぎじゃん?」

795: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 00:02:41.25 ID:mtmAVoWE0
京介「だって仕方ねーじゃん。 お前の肌、触ってると超気持ち良いし」

桐乃「……そりゃ、モデル一応やってるし、そういうのチョー気を使ってるしね」

京介「だろうな。 で、触るのやめた方がいいか?」

桐乃「今日だけ、特別に許してあげる。 今日だけだからね、明日触ったら殺す」

迂闊に近づけないじゃねえかよ。 ていうか、寝てるときに間違えて触ったのもカウントされてしまうのだろうか。

そんなくだらないことを考えながら、俺は桐乃に。

796: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 00:03:06.54 ID:mtmAVoWE0
京介「そうか。 ありがとよ」

やったぜ! よっしゃ! 良い日だ、今日。

とりあえず今は触り放題だもんね! へっへっへ。

……それにしても、こいつってマル顔って言われると怒るけど、そんな気にすることなのかね。

俺としちゃあ、可愛い限りなんだが。

そんなことを思いながら、ほっぺをつまんでみた。

797: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 00:03:32.43 ID:mtmAVoWE0
桐乃「ひょっと、ひっぱんないれよ」

……手で払わない辺り、そんな嫌では無いってことか。 というか、そのまま喋るとか可愛いなこいつ。

桐乃「……」

俺がそれを続けていると、やがて桐乃も目を開け、俺の頬をつまむ。

京介「……」

桐乃「……」

何しているんだ、俺たちは!?

798: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 00:03:59.03 ID:mtmAVoWE0
冷静に考えてみると、すごく恥ずかしい状況になりつつあるが。

桐乃「……はらして」

桐乃も同じ事を思っていたのか、恥ずかしそうに言う。 それを聞かない訳には行かないので、俺はそっと桐乃のほっぺをつまんでいた手を離した。

桐乃「なんか、眠くなってきちゃった」

京介「……おう。 寝とけ」

桐乃「一つお願い。 良い?」

京介「命令じゃなくてか?」

桐乃「うん。 お願い」

799: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 00:04:26.11 ID:mtmAVoWE0
京介「……なんだ?」

桐乃「あたしが寝るまで、ぎゅってして」

京介「お安い御用だよ。 任せろ」

俺は再び目を瞑る桐乃の背中に手を回し、抱き寄せる。

桐乃「……えへへ」

こいつ、熱を出すとめちゃくちゃ甘えるんだな。 前もそうだったけど。

クリスマスのときは……。 あの時は確か「あんたの所為でああなった」とのことらしい。 ていうか忘れろって言ってたのに自分で覚えてるじゃねえか。

800: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 00:04:53.05 ID:mtmAVoWE0
俺としては、どっちの桐乃も桐乃で、妹で、可愛いことには変わりないけど。

それでもなんというか、このギャップはすげえぐっとくるな。 これがギャップ萌えとか言う奴なのか。 だとしたら恐ろしい物だぜ。

京介「桐乃、まだ起きてるか?」

桐乃「……ん」

京介「なんか、今更になっちまったけど」

小さく返事をした桐乃に、俺は言う。 言い忘れていた一つの言葉を。

801: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 00:05:25.09 ID:mtmAVoWE0
京介「ただいま」

俺が言うと、桐乃はすぐに返事をする。

桐乃「……おかえり」

桐乃は安心した様な顔をしていて、俺は桐乃の顔を一度撫でると、少しくすぐったそうにする。

自然と、俺は笑っていたと思う。 俺はお願いを叶える為に桐乃をゆっくりと抱き締め、目を瞑る。

それから数分経った頃には桐乃は静かに寝息を立てていた。

802: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 00:05:51.75 ID:mtmAVoWE0
寝ている桐乃に布団を掛け直し、俺は一度居間へと戻った。

喉が渇いたのもあり、冷蔵庫から麦茶を取り出したところで、携帯が鳴り響く。

発信者は沙織。 恐らく今日のコミケのことだろう。

京介「もしもし」

「京介氏。 沙織でござる」

「きりりん氏の体調はどうでござるか?」

803: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 00:06:18.16 ID:mtmAVoWE0
京介「ああ。 大分良くなってると思う。 今は寝てるけどな」

「そうでしたか。 それならば一安心……ですな」

京介「それより、そっちはどうだった? 同人誌は売れたか?」

「はっはっは。 勿論ですぞ。 今回も無事、完売したでござる」

京介「はは、良かった。 黒猫の奴、喜んでただろ?」

「それはもう。 興奮して拙者が何故か叩かれまくっておりました」

804: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 00:06:44.54 ID:mtmAVoWE0
京介「……どっかで似たようなことをされている気がするぜ。 俺の気持ちが分かったか?」

「はっはっ。 可愛いものですな。 拙者的にはきりりん氏の愛情表現を受けてみたいのですが……」

京介「あいつのは過剰すぎるんだって……まあ、可愛いけど」

「……しかし、京介氏も随分と素直になられましたなぁ」

京介「なんで俺が前は素直じゃなかった。 みたいな言い方してんだよ」

805: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 00:07:10.53 ID:mtmAVoWE0
「素直になったというより、気持ちに気付いたと言った方が正しかったですかな?」

京介「……さあな?」

「ははは。 何はともあれ、無事に終わりましたので、その報告でござるよ」

京介「おう。 お疲れ様。 打ち上げの予定とかは決まってるのか?」

「お。 さすがは京介氏。 遊ぶ事に関しては手が早い早い」

京介「遊び人みたいに言うんじゃねえ!」

806: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 00:07:39.44 ID:mtmAVoWE0
「まぁまぁ。 実は、昨年の夏の様にまたお泊りでもしようかと思っておりまして」

京介「泊まり? ああ……またあそこか?」

「いえ、今度は違うところでござるよ。 にん」

京介「……一応聞いてみるが、お前っていくつ別荘あんの?」

「……企業秘密で」

京介「……はいよ」

807: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 00:08:05.96 ID:mtmAVoWE0
「京介氏ときりりん氏が良ければ、なのですが」

「ご一緒に年越しなど、どうでしょうか?」

京介「おお、いいんじゃねえの? 桐乃も多分、喜ぶと思うけど」

京介「黒猫は?」

「是非、とのことです。 では打ち合わせも兼ねて、お時間ある時にでも一度全員でチャットでもしましょう。 勿論、きりりん氏の体調が優れないようでしたら、日程はずらしますので」

808: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 00:08:35.22 ID:mtmAVoWE0
京介「おう。 楽しみにしておくわ。 今日の夜か、明日にでも桐乃と話してみるよ」

「ええ。 では、また」

京介「またな」

こうして、俺たちの冬コミは終わる。

そして後日、打ち上げをすることが決まったのだった。


コミケ当日 後編 終

822: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 16:35:13.90 ID:mtmAVoWE0
京介「たっだいまぁ」

今更だが、夕飯の材料の買い出しは順番制となっている。 俺が買いに行った次の日は桐乃で、桐乃が買いに行った次の日は俺で、と言った感じ。

まあでも、結局は俺の番のときは桐乃が「暇だしあたしも行ってあげよっかなぁ?」と言って来て、桐乃の番のときは「桐乃、一緒に行こうぜ!」と俺が言うから、結局は殆どの場合一緒に買い物をしているのだが。

だとすると、どうして今日に限って俺一人か。 という疑問にぶち当たるだろう。

答えは簡単。 今日、12月30日は桐乃に仕事が入っていたからだ。 勿論近くまで送っていった。 つい昨日まで体調を崩していたし、何より桐乃に変な奴が近寄らないように。 仕事に行くのも本当は反対なんだけどな。

823: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 16:35:40.49 ID:mtmAVoWE0
そして、俺は帰りに商店街に寄って来て、買い物を済ませたというわけだ。

で、だとしたらどうして「ただいま」と言ったかという疑問に次はぶち当たる。

それも答えは簡単だ。 単に俺にそういう癖がある。 というだけのこと。 大した意味なんて無い。

そろそろこんな無駄話を続けるのもどうかと思うので、本題に入るとしよう。

京介「……ふむ」

俺は料理の材料を冷蔵庫に入れると、最後に一つ残った物をコタツの上に置く。

824: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 16:36:06.91 ID:mtmAVoWE0
寒いのもあり、コタツの中に入り、その物を凝視。

「果汁100%! 寒い冬に、暖かい家の中で、冷えたチューハイ *お酒は20歳になってから」

京介「どうみても酒だよな……」

興味があったわけじゃないよ? 一応言っとくけど。 てか、別にあったとしても良いだろ。 俺だってもう20歳だしな。

正直に言うと、くじ引きで当たったんだよ。 当たったというか、今回ははずれの様な物だけど。 でもまあ、はずれにしては良い物だと思うぜ。

……で、だ。

825: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 16:36:34.02 ID:mtmAVoWE0
この酒をどうするかって問題が出てくるんだよなぁ。 以前なら、仮にもこういうのが当たった場合は親父に渡せば良かった。 それで全て解決。

だが、今はそれは出来ない。 かと言ってただ捨てるのも勿体無さすぎる。 ううむ……。

でもさ、俺はもう飲んでも問題無いわけだし、そこら辺は堂々としてても問題ねえよな?

よし……。 と、とりあえずひと口飲んでみるか。 桐乃が帰って来る前に、ちょろっと。

そんな考えに至り、俺はコタツの上に立つチューハイの缶を手に取る。

俺も飲んだことが無いと言えば嘘になるから、大体の味は知っている。 結構美味いよね、チューハイ。

826: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 16:37:01.26 ID:mtmAVoWE0
そして、俺は指を蓋に掛け。

「たっだいまあ」

誰だ!? いや一人しかいねえよ!! 桐乃だ桐乃!!

京介「お、おう! おかえり! はは」

桐乃は自身のカバンと、どこかで買い物でもしたのか、ビニール袋を床へと置く。

桐乃「……なんか隠したでしょ?」

京介「いや! そんなことは無いぞ!?」

827: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 16:37:28.10 ID:mtmAVoWE0
桐乃「怪しすぎ。 早く出して」

……なんでこいつはそんな鋭いんだよ!! ああ、考えてみればそうだ。 あのお袋の娘だぜ。 そりゃそうだ。

と、変に納得したところで状況に変わりがあるわけも無く、俺は相変わらずの乾いた笑いを桐乃に向ける。

京介「は……はは」

桐乃「……」

無言で片手を差し出す桐乃。 早くしろとのことらしい。

俺は泣く泣く、渋々、つい先ほど隠した酒を桐乃に手渡すのだった。

828: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 16:37:53.40 ID:mtmAVoWE0
そして、再び缶はコタツの上へ。

俺と桐乃はその缶を挟むように座っている。

桐乃「……京介ってお酒飲むっけ?」

危うくぶち殺されるのかとも思ったが、意外にも桐乃から怒りは感じられない。 というよりは、少しだけだが興味がありそうな顔付きをしている。

京介「いや、飲まないけど。 たまたまくじ引きで貰ったんだよ。 それ」

桐乃「へえ。 で、飲むの?」

829: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 16:38:20.13 ID:mtmAVoWE0
京介「と思ってたんだけど……桐乃が嫌って言うなら、飲まねえよ」

桐乃「あー。 実はさ」

桐乃は言い、先程置いたビニール袋を取り出す。

桐乃「これ、今日貰ってきたんだけど……」

中を見ると、数本の缶。 ふむ、どうみても酒だな。

京介「お前の仕事先はどういう考えなんだ……」

830: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 16:38:46.76 ID:mtmAVoWE0
桐乃「京介の思ってるのとはちょっと違うって。 あたしが無理矢理貰ってきたの。 お父さんにあげますって言って」

京介「……なんで?」

桐乃「だって~。 ひひ。 興味あるじゃん? 少し」

……やっぱそうかよ。 大体そんなところだろうとは思ったけど。

京介「お前まだ高校生じゃねえかよ! 駄目に決まってんだろ?」

桐乃「ふうん~。 じゃあ、昔あんたが隠れてお酒少し飲んでたのとか、全部あたしの気のせいだったってこと?」

831: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 16:39:13.65 ID:mtmAVoWE0
京介「……何故知っている」

桐乃「どうしてだろうねぇ~? ふひひ~」

恐ろしい奴だ。 絶対誰にもばれてないと思ったのに。

桐乃「で、なんて?」

京介「……でも駄目! 駄目な物は駄目だ!」

桐乃「ケチ。 じゃあもうあやせに言いつけるし」

京介「あやせを良い様に使ってるよな……? お前」

832: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 16:39:39.27 ID:mtmAVoWE0
桐乃「あたしはただ報告するだけだって。 問題無いっしょ?」

京介「一応、その報告する内容とやらを聞いても良いか?」

桐乃「京介がぁ、毎日毎日お酒飲んで、あたしに暴力振るってくるって相談する」

京介「それあやせじゃなくても問題になるじゃねえかよ!! やめて!?」

桐乃「じゃ、飲んで良いでしょ?」

……このヤローめ。

833: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 16:40:06.77 ID:mtmAVoWE0
ぶっちゃけた話、別に俺も真面目に生きろなんて言える立場じゃねえし、ある程度のことくらいなら良いんじゃねえの? とは思っている。

でもな、俺が恐れているのはそうじゃねえんだ。 こいつ、酒飲むとめっちゃ本性出すんだよ……。

普段当たりがキツイから……まあそれも、最近だと大分甘えてくるようにはなったけれど。 それもあり、酒を飲んだときのこいつはヤバイ。

俺が危険視しているのは、こいつがそうなることによって俺が死に掛けるということなのだ。 だが、ここで承諾しないとあやせに殺される。

比喩とかではなく、文字通り。

834: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 16:40:37.83 ID:mtmAVoWE0
京介「……よし」

京介「じゃあ言うぜ。 桐乃」

京介「お前、酒飲んだときどんな状態になってるか自分で分かってるの?」

桐乃「んー……」

桐乃「京介~、愛してるよぉ。 ふひひ~」

桐乃「とか、こんなカンジ?」

835: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 16:41:12.68 ID:mtmAVoWE0
冗談で言ったのは分かるが、それでも言われるとすげー恥ずかしいぞ。 嬉しいけどな。

京介「……もっと酷い」

桐乃「……マジ?」

京介「マジ」

桐乃「でも、京介はそれで「しめしめ」みたいにならないっしょ?」

……いやなりますけど?

836: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 16:41:59.14 ID:mtmAVoWE0
京介「ま、まあな……はは」

桐乃「……そーいえば、前にあたしがそうなったときの詳細ってまだ聞いてないんだケド」

京介「へ!? あの時はお前すぐ寝ちゃったからな! 特になんもなかったぜ!」

桐乃「じゃあ問題無いよね?」

京介「……そうなっちゃうな」

嵌められたのか、これは。

837: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 16:42:55.91 ID:mtmAVoWE0
京介「でもなぁ……」

と俺が言うと、桐乃はすぐ近くまで来て、座り込む。

俺の方に顔を向け、手を合わせ。

桐乃「きょうすけぇ、おねがぁい」

落ちたな俺。 断るの無理だ。

京介「はぁあああぁああ……分かったよ。 けど飲みすぎるなよ?」

838: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 16:43:22.55 ID:mtmAVoWE0
桐乃「ひひ。 やったぁ!」

つうか、別に俺の許可が無くても飲めば良いのに。 わざわざ許可を求める辺り、可愛いぜ全く。

桐乃「じゃあ、コップ持ってくるね~」

と、桐乃は機嫌が良さそうな声で台所へと向かって行った。

839: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 16:44:27.78 ID:mtmAVoWE0
桐乃はそれからコップに氷を入れ、持ってきて、コタツの上へと置く。

さて今から飲むか……となったのだが、ちょっと待て。

京介「……突っ込んでいいのか?」

桐乃「なにが?」

京介「えっと、なんでコップ一つしか持ってきて無いの?」

桐乃「そ、それはあれ! コップもう一つ見当たらなかったしぃ~。 そっちの方が片付け楽だしぃ~。 それに、飲みすぎ無いように?」

840: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 16:45:08.02 ID:mtmAVoWE0
可愛いなあ! 目的忘れて抱き締めたくなるよ、ちくしょうめ。

ちなみに、一つどうでもいい話をここで挟もう。

俺は今、コタツに足を入れて座っている。 で、桐乃はそのすぐ横に座っているのだ。 対面じゃなくて、真横。

な? どうでもいい話だったろ。

京介「まあいっか……じゃあ」

桐乃「うん。 最初はこれどう?」

841: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 16:45:35.80 ID:mtmAVoWE0
……最初は? ええ、こいつもしかして、一本で満足しないつもりなのかよ。

京介「最初っていうか今日な? 明日は一応黒猫と沙織と泊まりだろ? なら前みたいに二日酔いにならないようにしろよ?」

桐乃「……仕方ないなぁ」

桐乃「じゃー、これが良いかな」

言い、桐乃は先ほど持って帰って来たビニール袋から缶を取り出す。

その缶には梅酒と書いてあった。 ふむ。

842: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 16:46:03.69 ID:mtmAVoWE0
京介「分かった。 じゃ、注いでくれよ」

桐乃「なんであたしがやらないといけないの。 京介がやって」

……普通お前が注いで「どーぞ」とか言うんじゃねえの!? い、いや……まあ、そうだな。 桐乃の場合はそれが逆だとしてもおかしくは無い。 俺の考えが甘かったってことだ。

京介「へいへい」

俺は結局そう返事をし、置かれているコップに桐乃が渡してきた梅酒を注ぐ。

桐乃「ひひ。 あたしからねー」

早速それを取り、桐乃は言い、コップに口を付ける。

843: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 16:46:32.28 ID:mtmAVoWE0
京介「あんま飲むなよ? さっきも言ったけどよ」

俺の言葉を聞くと、桐乃は一度コップから口を離し、若干不機嫌になりながら返答。

桐乃「分かってるっつーの。 しつこい」

怒られてしまった。 お前のことを心配して言ってるんだけど!

桐乃「……」

桐乃はコップに入っている液体をしばし見つめ、やがて、それを口に運んだ。

844: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 16:46:59.65 ID:mtmAVoWE0
桐乃「……ん」

ひと口含み、桐乃は飲み込む。

桐乃「……あ、おいし」

……こいつって意外と酒好きなのか? 前もなんだかんだ言って半分飲んでいたし。

桐乃「ほら、京介も飲んでみて」

言うと、桐乃は俺にコップを手渡す。

京介「……おう」

俺は受け取り、口を近づけ。

845: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 16:47:26.67 ID:mtmAVoWE0
桐乃「待ったぁ! なんであたしが飲んだところから飲もうとしてるワケ!? 違うとこから飲んでよ!!」

……別に良いじゃん! このケチが!!

京介「わ、分かったよ……」

返事をし、渋々違う場所から飲む。

京介「……お、本当だ。 美味いな」

桐乃「でしょ? ひひ。 次はあたし~」

俺の手からコップを奪い取り、再び桐乃は口に含む。

……お前が今飲んでる場所って、俺がさっき飲んでいた場所じゃねえかよ! このヤロー!

846: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 16:47:52.51 ID:mtmAVoWE0
で、今は俺と桐乃でひと口ずつ飲んだので、コップにはまだ結構な量が残っている。

こいつはその殆どを一気に飲みやがった。

京介「お、おま……」

桐乃「うひひ。 おいし~」

京介「……もう酔ってんの?」

桐乃「まだ大丈夫だって。 ほら、次京介の番」

言うと、桐乃は俺にコップを手渡す。

847: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 16:48:18.61 ID:mtmAVoWE0
いやまあ、確かに美味いけど……こいつどうなっても知らないぞ。

京介「……はいよ」

渡されたコップに口を付け、残りを飲み干す。

……ふむ。 なんか顔が熱くなっているのは分かるけど、そんな変な気分にはならねえな。 さすがに。

桐乃「よし! じゃあ次ね~」

京介「まだ飲むのか?」

桐乃「当たり前でしょ! たった缶一本じゃん」

最終的にこうなっちまうんだよな。

848: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 16:49:01.51 ID:mtmAVoWE0
いやまあ、確かに美味いけど……こいつどうなっても知らないぞ。

京介「……はいよ」

渡されたコップに口を付け、残りを飲み干す。

……ふむ。 なんか顔が熱くなっているのは分かるけど、そんな変な気分にはならねえな。 さすがに。

桐乃「よし! じゃあ次ね~」

京介「まだ飲むのか?」

桐乃「当たり前でしょ! たった缶一本じゃん」

最終的にこうなっちまうんだよな。

849: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 16:49:32.74 ID:mtmAVoWE0
てか……こいつ本当に大丈夫かな?

まだ口調とかは割といつも通りだし、この酒自体もそんなに強くない奴だから、平気なのかもしれんか。

京介「わーったよ。 今持ってくるから待ってろ」

俺はそのまま冷蔵庫に行き、中から缶を一本取り出す。 こっちは俺が貰ってきたチューハイだ。

京介「ほら、今度はこっちでいいだろ?」

桐乃に渡すと、なんだかすげー嬉しそうな顔をする。

……俺の妹がこんなに酒好きなわけがない!

850: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 16:49:59.04 ID:mtmAVoWE0
桐乃「おっけ! ほら、じゃあ早く座って座って」

京介「へいへい……」

俺は再度、桐乃の隣へと腰を掛けた。

桐乃「ひひ。 んしょっと」

桐乃は言うと、俺の膝の上へと腰を掛けた。

……ちょっと待て! やっぱお前酔ってるじゃねえかよ!!

851: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 16:50:25.37 ID:mtmAVoWE0
京介「き、桐乃……?」

桐乃「なに? 文句あんの?」

京介「……ねえけど」

うう。 いきなりのこれは結構びびるんだよ。 何回かやられているけどよ。

まあ嬉しいけども! 超嬉しいけどな!

桐乃「じゃあ問題なーし。 注ぐよ?」

言うと、桐乃は缶を開け、コップに注ぐ。

852: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 16:51:11.71 ID:mtmAVoWE0
桐乃「えへへ。 おいしそー」

なんか、俺めっちゃ悪いことをしている気分になってきたぜ。 女子高生に酒飲ませて膝の上に座られてるってかなりヤバイんじゃないか? しかも妹だし。

……まあいっか!

京介「さっきは桐乃からだったし、次は俺からな? 良いだろ?」

桐乃「え~。 まぁ、いっか。 どーぞ」

桐乃はコップを手に取り、後ろに居る俺の方を見ると、そのコップを俺に手渡す。

俺は軽く桐乃の頭を撫でた後、コップを受け取り、ひと口。

853: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 16:51:58.40 ID:mtmAVoWE0
京介「お……結構美味しいな、これも。 ほら」

桐乃の体を抱き締める様に、俺は目の前にコップを差し出す。

桐乃「ほんと? ひひ。 いただきまーす」

言うと、コップを両手で持ち、桐乃はそれを飲む。 その仕草がなんだか可愛らしく、ついつい横から覗き込んでしまう。

桐乃「なにみてんの?」

京介「別に? 可愛いなって思って見てただけだ」

桐乃「……ふうん」

854: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 16:52:29.77 ID:mtmAVoWE0
桐乃は俺から顔を逸らし、コップに入っているチューハイをちびちびと飲む。 多分、恥ずかしがっているのだろう。

俺はそんな桐乃の髪をとかすように触り、もう片方の手で抱き締める。

桐乃「……ほら、京介の番」

京介「ん、ああ。 サンキュー」

俺は桐乃の髪を触るのをやめ、コップを受け取った。

桐乃「ちょっと離してくれない?」

京介「えー。 なんで?」

855: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 16:54:31.25 ID:mtmAVoWE0
桐乃「いいから。 早く」

言われ、不満に思いつつ、桐乃を抱き締めている手を離す。 ちくしょうめ。

桐乃「よいしょっと」

言うと、桐乃は俺の膝の上で体を半回転。 分かりやすく言うと、向き合う形にする。

京介「……ど、どした?」

桐乃「ベツに? こうした方が、あたしのこと見れるでしょ?」

京介「お、おう……へへ。 だな」

桐乃「えへへ」

856: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 16:55:06.22 ID:mtmAVoWE0
桐乃は言いながら、俺のことをじっと見つめる。 普段なら逸らしそうな物だが、今日は全くその気配が見られない。

京介「……」

桐乃「……」

京介「……っ」

ついには恥ずかしくなり、俺は顔を逸らす。 そうしながらも、桐乃の目って綺麗だなぁ、とか思っちまうが。

桐乃「ひひ。 あたしの勝ちね」

京介「勝負だったのかよ。 はは」

857: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 16:55:33.38 ID:mtmAVoWE0
桐乃「ふひひ~。 京介!」

桐乃は唐突に笑い出すと、俺に抱き着いてきた。 抱き着いたというよりかは、しがみつくの方が正しいかもしれない。

京介「あ、あぶねえよ。 コップ持ってるんだし」

桐乃「……イヤなの?」

京介「嫌じゃねえって。 馬鹿。 ちょっとコップ置くからさ」

桐乃はそれを聞くと、一旦俺に回していた腕を解く。 超不満そうな顔をしながら。

俺はそんな桐乃の頭を一度撫で、コタツの上へとコップを置いた。

858: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 16:56:00.75 ID:mtmAVoWE0
桐乃「もういい?」

京介「おう」

桐乃「……京介から抱き締めてよ」

京介「へいへい」

俺は言われた通りに桐乃を抱き締め、そのまま後ろへと倒れる。

桐乃は俺の胸に頭を置きながら、嬉しそうな表情を作っていた。

桐乃「……あ、そーだ」

京介「んー?」

859: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 16:56:26.13 ID:mtmAVoWE0
桐乃「ちょっと待っててね」

桐乃は起き上がり、先ほど置いたばかりのコップを手に取る。 二杯目のチューハイも、もう残り少なくなっていた。

桐乃「あのさ、エロゲーとかやってると、時々こんなのあるんだけどぉ」

若干呂律が回っていないような、そんな口調で桐乃は言う。

桐乃「こういう風に、飲み物を口に入れてぇ」

そのまま、自分の言った通りに残ったチューハイを口に入れる。

桐乃「んー」

860: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 16:56:53.62 ID:mtmAVoWE0
俺に顔を近づけ、桐乃は何かを言おうとするが、飲み物が入っている所為で口を開けない。

……ドジだなおい! いやぁ。 ていうか、こいつは何をしようとしてんだ?

顔がスゲー近いし。 恥ずかしいんだけどよ。

京介「……なんだ?」

俺が聞くと、桐乃は自分の顔を指した後、俺の顔を指す。

……キスってこと? そのまま? それってつまりあれか?

京介「……えっと、それって、口移しするってことか?」

861: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 16:57:19.68 ID:mtmAVoWE0
俺が聞くと、桐乃はコクコクと首を縦に振る。

京介「そ、それはまだ早いっつうか! 恥ずかしいっつうか!! も、もうちょっと仲良くなってからとか!?」

京介「だ、だから桐乃。 俺は別に嫌って訳じゃねえんだよ? お前可愛いし、俺はお前のこと、超好きだしよ」

俺がそう答えると、桐乃は口に含んでいたのを飲み込み、言った。

桐乃「ひひひ。 さすがに冗談だってのぉ。 まさかぁ、本気にしちゃったワケ?」

京介「お、お前絶対本気だったじゃねえか! そんな感じしたんだけど!」

862: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 16:57:47.92 ID:mtmAVoWE0
桐乃「どうだろね~? それとも無理矢理して欲しかった? ふひひ」

京介「……うっせ。 アホ」

桐乃「ふうん。 そうゆうこと言っちゃうんだ。 折角ちゅーしてあげようかと思ったけどぉ。 やーめた」

ま、まじで? 桐乃からしてくれるはずだったの!?

京介「……マジ?」

桐乃「うん。 でも京介素直じゃないしなぁ~」

京介「く……くそ。 分かったよ! ぶっちゃけして欲しかった! これでいいか!?」

863: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 16:58:15.66 ID:mtmAVoWE0
桐乃「キモっ! 襲われるぅ~」

京介「こ、このヤロー」

桐乃「ひぃ。 あはは」

桐乃はケタケタと笑い、俺の顔をじっと見る。

桐乃「まぁ、でもぉ」

急に真面目な顔付きになり、桐乃はそのまま俺に顔を近づけ、キスをして。

桐乃「約束だし。 感謝してよね?」

俺から離れ、桐乃はそう言った。

864: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 16:59:24.72 ID:mtmAVoWE0
京介「……ああくそ! お前卑怯だぞ!!」

桐乃「なにが? うひひ」

京介「良いぜ良いぜ。 今日はぶっちゃけてやる。 俺はお前ともっとキスしたいんだよ! 桐乃はどうだ!?」

桐乃「京介がそうしたいってゆうなら、付き合ってあげてもいいよ?」

京介「い、言っとくが、普通のキスだけじゃないからな!?」

桐乃「へんたーい」

865: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 17:00:15.15 ID:mtmAVoWE0
京介「うっせ! じゃあ、ほら、桐乃」

京介「……ここじゃあれだし、布団行こうぜ」

俺が桐乃に言うと、桐乃は俺にしがみつく。

桐乃「はいはい。 早くしてね」

俺はそのまま桐乃を抱きかかえ、布団へと向かっていった。

866: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 17:00:43.67 ID:mtmAVoWE0
次の日。

京介「……な、なあ、桐乃」

目が覚めて、俺は桐乃に話しかける。

桐乃「……なによ」

京介「……昨日の夜、あまり記憶が残って無いんだが」

桐乃「……あたしも一緒だケド」

京介「そ、そうか。 それで、俺たちって今こうして布団で一緒に寝てるよな?」

桐乃「う、うん」

867: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 17:01:18.97 ID:mtmAVoWE0
京介「……正直に言うと、今下着しか着てる感覚が------」

桐乃「ゆうなぁああああ!!!」

京介「お、お前もか? もしかして」

桐乃「ど、どっちでも良いでしょ!!」

京介「……一線越えてねーよな?」

桐乃「それは大丈夫だと思うケド……」

京介「な、なら良いか……」

桐乃「……一つ気になること」

京介「なんだ?」

868: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 17:01:49.33 ID:mtmAVoWE0
桐乃「……口の周りがなんかべたべたする」

……うわ、俺も一緒だぞそれ。 でもなんか大体想像付いてきた。 敢えて口に出すことはしないが。

京介「よし……こうしようぜ、桐乃」

京介「昨日はめちゃくちゃ暑くて、暑さの所為で俺と桐乃の記憶が若干飛んでて、それで俺も桐乃も今こんな格好ってことだ」

桐乃「今、冬だケド?」

京介「すっげー異常気象だったんだよ。 昨日は。 だからこれは自然な流れであって、おかしくなんてない!」

桐乃「……口の周りがべたべたしてるのは?」

869: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 17:02:19.53 ID:mtmAVoWE0
京介「あ、汗じゃね?」

桐乃「……キスしてたよね?」

京介「い、言うんじゃねえ! 言われたらなんだか若干思い出してきたから! 今になってすっげえ恥ずかしいからやめろ!!」

桐乃「う、あ、あたしも一緒だっての……」

桐乃「てか、京介」

870: ◆IWJezsAOw6 2013/08/16(金) 17:02:46.66 ID:mtmAVoWE0
京介「……今度は何だよ?」

桐乃「……そろそろ着替えたいから、目一回瞑ってよ」

京介「あ、あはは。 だな」

その後、少し話し合い、俺と桐乃の間ではその日のことは無かったこととなるのだった。


アルコール 終

901: ◆IWJezsAOw6 2013/08/17(土) 18:02:21.54 ID:ASt53XOW0
京介「沙織、お前って本当にすげえな……」

俺は言いながら、山からの景色を見下ろす。

こいつ、海の近くだけでなく、山にも別荘を持っていたのかよ。

沙織「景色はかなりの物ですわ。 冬だからこそ、こういうのも趣があって良いかと思いまして」

黒猫「……ここって旅館では無いのよね? 沙織」

沙織「一応……個人で所有している物となっていますが。 どうかなさいましたか? 黒猫さん」

902: ◆IWJezsAOw6 2013/08/17(土) 18:02:47.85 ID:ASt53XOW0
黒猫「……さっき、ちらっと見たわ。 禍々しいオーラを放っている浴場を。 なんてこと……これは」

桐乃「チョーでっかいお風呂あったよね! うちもあれだけ大きければなぁ」

沙織「ふふ。 京介さんと一緒に広々と入れるのに、ですか? きりりんさん」

桐乃「そうそう!」

そうそうじゃねえよアホ! 馬鹿!!

黒猫がすっげえ冷めた目で俺のことを見ながら、冷ややかに笑っているじゃねえか!

903: ◆IWJezsAOw6 2013/08/17(土) 18:03:14.30 ID:ASt53XOW0
京介「は、はは……」

沙織「仲が良くて羨ましいですわ」

うっさい。 ほっとけや。

ていうか、沙織のこの状態もなんだか随分久し振りな気がするな。 こっちの方が可愛いし、普段からこうしてりゃ良いのに。

桐乃「とりゃ!」

京介「いってぇ! なんだよ!?」

急に桐乃にケツを蹴られ、俺は後ろを振り向きながら言う。

904: ◆IWJezsAOw6 2013/08/17(土) 18:03:45.33 ID:ASt53XOW0
桐乃「なんかムカついただけ」

……相変わらずだが、勘でやってるとしたら恐ろしい的中率だぜ。 やれやれ。

黒猫「いちゃつくのもその辺にして頂戴。 こんな山奥で干からびたく無いわ。 しかも冬に」

黒猫「あなた達の熱波はもはや公害レベルなのよ。 この公害カップル」

京介「悪かったな公害で!」

沙織「うふふ。 では、夕飯でも作りましょうか。 先ほど、材料も買いましたし」

沙織「きりりんさんも、黒猫さんも、手伝ってくださいますか?」

そういや、もうそんな時間か。 時刻は18時、年越しまでもう少しと言ったところ。

905: ◆IWJezsAOw6 2013/08/17(土) 18:04:13.08 ID:ASt53XOW0
桐乃「もっちろん。 当たり前じゃん?」

黒猫「ええ、良いわよ。 むしろ、手伝わせて貰いたいくらいよ」

桐乃と黒猫はすぐにそう答える。 あー、てか、俺は?

京介「俺もなんか手伝うか?」

桐乃「いい。 あんた来たら逆に邪魔だしぃ~」

906: ◆IWJezsAOw6 2013/08/17(土) 18:04:40.03 ID:ASt53XOW0
京介「……へいへい」

相変わらず酷い言い方だぜ。 はは。

沙織「京介さん、きりりんさんは恐らく……京介さんに食べて頂きたいのかと思いますよ。 毎日食べていると思いますけどね」

京介「……知ってるよ。 ありがとな、沙織」

沙織「ふふ。 余計なお世話でしたね。 京介さん」

907: ◆IWJezsAOw6 2013/08/17(土) 18:05:06.88 ID:ASt53XOW0
それから数十分待ち、やがて沙織達が料理を運んでくる。 なんか、俺すっげー良い気分なんだけど! 階級が上がった気がするぜ。 へへ。

桐乃「なにボーっと座ってんの。 運ぶのくらい手伝えっての」

……お前いっつも家じゃ「京介は座ってて良いよ。 あたし持ってくるから」って言うじゃねえかよ! なんで友達の前だとそんな当たりキツイわけ!?

京介「……へいへい」

照れ隠しにしても酷い言い方だぜ。 まあそんなところも好きだけどよ。

俺は思い、にやにやしながら桐乃を見ると、こいつはこう返す。

桐乃「なに笑ってんの。 チッ……」

そして俺の足を踏みつける。

908: ◆IWJezsAOw6 2013/08/17(土) 18:06:47.22 ID:ASt53XOW0
京介「いって! 足踏むんじゃねえよ!」

桐乃「え~? だってぇ、京介踏んで欲しそうな顔してたしぃ」

京介「どんな顔だ!?」

言いたい放題だな、桐乃め。

黒猫「本当に気持ち悪いわね。 この変態」

……うわー。 超帰りてえ。 なんで俺はこんな暴言吐かれながら、必死に料理が乗った皿を運んでいるのだろう。

気分はあれだ、性格の悪い奴に雇われた執事って感じ。 だって黒猫も桐乃も既に座って料理を運ぶ俺を眺めてるし。

909: ◆IWJezsAOw6 2013/08/17(土) 18:07:20.55 ID:ASt53XOW0
そんな光景にため息をつきながら、キッチンに置かれている料理を運ぶ。 ひたすら。

沙織「ごめんなさい、京介さん。 わたくしたちだけでは運びきれなかったので」

そこに居た沙織は、先程から忙しなく料理を運ぶ俺に向けて言う。 一番のお嬢様が一番の優しさだよ、ほんと。

京介「良いって良いって。 俺もただ座ってるだけじゃ、わりいしな。 何か他にもあったら気軽に言ってくれよ」

沙織「はい……あ、それでしたら京介さん」

京介「お、早速か? 何だ?」

910: ◆IWJezsAOw6 2013/08/17(土) 18:07:48.20 ID:ASt53XOW0
沙織「わたくし、自宅に本を忘れてきてしまいましたの。 急に読みたくなったので、取ってきてください」

京介「……外、雪降ってるけど」

沙織「ええ」

京介「……ここ山の中だけど」

沙織「ええ」

京介「……ここには悪魔しかいねえ!!」

沙織「ふふ。 冗談ですよ。 ごめんなさい」

京介「お前が一番まともなんだから、頼むからおかしくならないでくれよ……」

ほんと、心の底からのお願い。

911: ◆IWJezsAOw6 2013/08/17(土) 18:08:17.03 ID:ASt53XOW0
京介「いただきます」

ようやく運び終わり、待ちに待った食事。

さすがに四人ともなると賑やかで、なんだか少し、懐かしかった。

黒猫「……それ、どうかしら?」

黒猫は言いながら、俺が食べていた茶碗蒸しを見る。

京介「すっげえ美味いけど……これ、お前が作ったのか?」

黒猫「え、ええ……まあ」

ちょっとだけ嬉しそうな顔をする黒猫。 あれだよな、料理って作る側からすると、ひと言美味いと言われるだけで、すっげー嬉しいんだよな。

俺自身、あんま作ったことは無いけどさ。

912: ◆IWJezsAOw6 2013/08/17(土) 18:09:50.38 ID:ASt53XOW0
桐乃「そーいえば、黒猫って和食系得意だったよね。 よくそんなの作れるね?」

黒猫「難しい料理では無いわよ。 手間は確かにかかるけれど……火加減さえ気を付ければ、誰でも作れるわ」

桐乃「へぇ~。 んじゃさ、今度教えてよ。 あたしも作ってみたい」

黒猫「ええ、良いわよ。 愛する旦那様の為だものね」

桐乃「ち、違うっての! 自分で食べる用だしっ!!」

今日はそんな衝突も無さそうで何よりだな。 それにしても桐乃が作ってくれる茶碗蒸しか……早く食べたい! 今度黒猫に早く教えるよう言っておこう。

最早、桐乃の言葉は頭の中で自動変換だぜ。 今のは「京介と一緒に食べたいな!」ってところだ。 やべ、顔がにやけてしまうぞ。

そんなことを思いながら、皿に乗った肉じゃがを口の中にいれる。

913: ◆IWJezsAOw6 2013/08/17(土) 18:10:20.23 ID:ASt53XOW0
京介「……あ」

京介「これって、お前が作ったのか?」

俺は言いながら、桐乃の方に顔を向ける。

桐乃「え? そうだケド。 なんで分かったの? 見てた?」

京介「いや……見て無いけど、味が桐乃の作った奴と同じだからさ」

桐乃「ふ、ふうん。 そか」

沙織「良かったですね。 きりりんさん」

桐乃「は、はぁ? なにが?」

沙織「うふふ」

桐乃「……ふん」

914: ◆IWJezsAOw6 2013/08/17(土) 18:10:55.26 ID:ASt53XOW0
そんな一連の流れを見ていた黒猫が口を開く。

黒猫「前から思っていたのだけど、あなた達は定期的にイチャイチャしないと死ぬ呪いにでもかかっているのかしら?」

桐乃「どこがよっ! ベツにイチャイチャなんてしてないでしょ!」

京介「俺も同じ意見だが……」

黒猫「……やれやれ。 仕方無いわね。 それならあなた達がどの程度イチャイチャしているのか、説明してあげるわ」

なんだってんだ。 俺と桐乃なんて一般的に見れば、至って普通なのだと思うけど。

そりゃあ、家で二人っきりの時とかはある程度自覚も無くはねえが……それでも、普通のカップルとかだってやってることじゃねえの? って思うよな。

915: ◆IWJezsAOw6 2013/08/17(土) 18:11:21.62 ID:ASt53XOW0
黒猫「まず一つ目。 あなた達、全体的に距離が近すぎるのよ」

京介「……そうか?」

俺は言いながら、すぐ隣に座る桐乃に顔を向ける。

桐乃「……そうでもないっしょ」

桐乃も俺の方を見て、そう言う。

ふむ、問題無いじゃん。

沙織「うふふ。 ここに来る時も、手を繋いでおられましたね」

京介「そりゃそうだけど……」

桐乃「だ、だってそれは仕方ないでしょ? 京介がどうしても手を繋ぎたいって土下座してくるんだもん」

916: ◆IWJezsAOw6 2013/08/17(土) 18:11:47.56 ID:ASt53XOW0
京介「いやしてねーけど!?」

自然と嘘を付くのはやめてもらいたい。 ていうかどっちかと言ったら、お前の方から手繋いできたじゃねえか。

黒猫「……ああ、分かったわ!」

黒猫は突然大きな声を挙げ、何かに納得したような表情をする。 一体なんだってんだ。

京介「な、なんだ……?」

黒猫「ふふ。 あなた、桐乃に飽きたのね」

桐乃「はぁ!? あんた舐めてんの!?」

そこで何で俺の胸倉を掴むんだよ! 言ったのは俺じゃなくて黒猫だ!

917: ◆IWJezsAOw6 2013/08/17(土) 18:12:19.86 ID:ASt53XOW0
京介「な、なわけないだろ! 俺は今でも桐乃のことが超好きだ!」

桐乃「そ、そう? ……良かった」

くぅ、心配そうな顔しやがって。 俺がそんな風になることなんて、絶対ねえっての!

黒猫「では、どうしてわたしと付き合っていたときは手を繋ぐだけでドギマギとしていたの?」

京介「そ、そりゃあ……当たり前だろ?」

桐乃「チッ……」

うわ、超不機嫌顔。 つうか黒猫の奴は一体何が目的なんだ!? くそ……。

黒猫「それで、今桐乃と手を繋ぐのに緊張はしないのかしら? ふふ」

京介「……もうしっかりと付き合って一年は経つしな」

918: ◆IWJezsAOw6 2013/08/17(土) 18:12:45.89 ID:ASt53XOW0
思えばそうか。

もうあれから一年経ったのか。

俺と桐乃が家を出てから、もう一年。

黒猫「それを飽きたというのよ。 分かる?」

京介「……わかんねーな。 お前が何を思ってそう言ってるのかも、わかんねえよ」

俺が若干苛立ちを覚えながら答えると、黒猫は顔を上にあげ、口を開く。 雰囲気から、ふざけた様子は感じ取れなかった。

黒猫「理由を知りたいのよ。 どうして桐乃のことをそこまで好きになれるのか」

京介「どうして? 好きになるのに理由なんかいらないだろ」

黒猫「……そうね、その通りよ」

919: ◆IWJezsAOw6 2013/08/17(土) 18:13:11.39 ID:ASt53XOW0
俺と黒猫の会話を沙織と桐乃は黙って聞いている。 何かに気付いてか、その空気に圧されたのか、それは分からない。

黒猫「でもそれは、普通の恋人の場合。 そうでしょう?」

普通の恋人、ね。

京介「それは俺と桐乃が兄妹だからか?」

黒猫「ええ、そうよ」

俺が聞くのとほぼ同時に黒猫は答えた。 そして、続ける。

黒猫「わたしや沙織、それにあやせやあのメルルもどき。 その人達は分かっているわ。 あなたと桐乃の関係も。 分かった上で、友達でいたい……仲間でいたいと思っているわ」

黒猫「それでも、それを認めない人たちも出てくる。 当然のことよ」

黒猫「あなた達の両親だってそう。 田村先輩だってそう」

920: ◆IWJezsAOw6 2013/08/17(土) 18:14:01.55 ID:ASt53XOW0
黒猫「これから、もう何年もしない内に社会に出て……普通に行けるとは到底思えないわ」

黒猫「必ず問題にぶつかる。 それでも、あなたは今と変わらずに同じ事を言えるかしら?」

黒猫の問いに、俺は答える。 決まっている答えを口に出す。

京介「言えるさ」

黒猫「桐乃がそれで泣いたとしたら、あなたはどうするの?」

京介「その時は話を聞いてやるよ。 桐乃が泣き止むまで」

黒猫「それでもどうしようも無かったら?」

京介「その時は一緒に泣くさ。 どうしようもねえからな」

黒猫「そう。 今、この場ではそう言って置けばいいかもしれないわね。 でも、それはあなたも分かっているでしょう?」

921: ◆IWJezsAOw6 2013/08/17(土) 18:15:57.85 ID:ASt53XOW0
京介「まあな。 だけど、俺にも一応考えって物があるんだよ」

黒猫「……それは、何?」

それを聞くとき、黒猫は不安そうになりながら聞く。 見てすぐに分かるさ、そのくらいなら。

そして黒猫の考えは、何となくだが分かった。

こいつは、俺たちのことを心配しているのだろう。 今は楽しくやってるが、それが何年経っても続く物なのかと、心配しているんだ。

不器用な聞き方だけどな。

京介「俺と桐乃が問題にぶつかって、どうしようも無くなっても」

京介「俺たちには、お前らが居るからよ。 黒猫も沙織も、あやせも加奈子も。 御鏡も瀬菜も」

京介「その時は遠慮無く頼らせてもらうさ。 良いだろ?」

922: ◆IWJezsAOw6 2013/08/17(土) 18:16:24.63 ID:ASt53XOW0
俺の言葉に、黒猫は頬を緩ませ、笑った。

黒猫「良い答えだわ。 前に言ったこと、忘れていなかったのね」

京介「当たり前だろ。 お前には本当に、返しきれないくらいの恩があるしな」

黒猫「ごめんなさい、こんな話を急に……年が明ける前に、確かめておきたくて」

京介「そうかい。 で、その結果は?」

黒猫「聞くまでも無いことでしょう? それは」

黒猫「ふふ。 それで、今……恩があると言ったわね? その恩、一発で返す方法があるのだけど……どう? 試してみる?」

923: ◆IWJezsAOw6 2013/08/17(土) 18:16:50.59 ID:ASt53XOW0
京介「無理なことじゃなきゃ、試したいけど」

黒猫「簡単なことよ……」

黒猫は言うと、俺の左隣に腰を掛ける。 ちなみに右隣には桐乃が座っている。

黒猫「……か、体で払えばいいのよ」

何言ってんだこいつ!? つうかめっちゃ恥ずかしそうに言うんじゃねえよ! 俺が変なことしてるみたいな構図になってるじゃねえか!

沙織「あらあら。 京介さん、ハーレムですわね」

京介「なんで携帯構えてるんだ!」

ていうか、ていうかだな。 これは敢えて言わなかったことなのだが……と言うよりかは、敢えて触れなかったことなのだが。

……右隣から、殺気を感じる。

924: ◆IWJezsAOw6 2013/08/17(土) 18:17:23.52 ID:ASt53XOW0
京介「ま、まあとりあえず食器片付けるか! はは」

手をポンと叩き、俺は言う。 あからさまに怪しすぎるぜ、今の俺。

桐乃「……」

チラ見したところ、八重歯剥き出しで俺の事を睨んでいる桐乃が見えた。

京介「あ、あー美味かった。 さ、風呂でも入るかなぁ」

立ち上がろうとしたところで、肩を掴まれる。 やっぱりそうなるよね。

桐乃「さっき黒いのと話してたときはあんな格好良いこと言ってたのに、なんで今デレデレしてたの? ん?」

京介「し、してねーよ? 俺はいつも通りだよ?」

桐乃「へええ。 へえ。 ふうん」

こういう風な反応する時って、かなり怒ってるんだよねぇ、こいつ。

925: ◆IWJezsAOw6 2013/08/17(土) 18:17:50.49 ID:ASt53XOW0
桐乃「……まぁ、今日は良いや。 もうすぐ年越しだし、トクベツ」

京介「さっすが桐乃さん! 優しいなあ! 天使みたいだ!」

ここぞとばかりに持ち上げる俺。 だけど生憎、それが逆に怒らせることになったらしい。

桐乃「言っとくケド……今日は、だからね。 明日になって家帰ったら覚えとけ」

京介「……はい」

こうは言うが、意外とノリノリだぜ、俺。 だって桐乃の怒ってるところとかも可愛いしな。 うん。

黒猫「どうでも良いことだけれど、そろそろお風呂に入りましょう?」

京介「え? 一緒にか?」

桐乃「あんたねぇ……」

926: ◆IWJezsAOw6 2013/08/17(土) 18:18:48.85 ID:ASt53XOW0
京介「いやいや、冗談だっての! 桐乃としか入らねーよ!」

黒猫「前に言っていたのは本当だったのね……二人で毎日お風呂に入っているとか、なんとか」

京介「毎日は入ってねえよ!! 何勝手に解釈してんだ!」

黒猫「なら、何日に一回かしら?」

京介「……しゅ、週一くらい」

最初は一ヶ月に一回だったんだけどな。 気づいたら週一回になってたんだ。 今でも不思議なんだよね、これ。

黒猫「今度あやせに報告しておかないと」

京介「お前、良いのかよ。 そんなこと言ってただで済むと思うのか」

927: ◆IWJezsAOw6 2013/08/17(土) 18:19:20.32 ID:ASt53XOW0
黒猫「な、何よ……?」

いつもと違う答えに、黒猫の表情が険しくなる。 へへへ、俺にも考えがあるんだよ。

京介「お前な。 俺がぼっこぼこにされて、最悪包丁で刺されるかもしれないんだぞ! それで良いのか!? そうなったら捕まるのはあやせだぞ! お前は友達を一人失うことになるんだぞ!」

黒猫「……お風呂に行ってくるわ」

無視されたなぁ! 最近、黒猫がどんどん酷くなってる気がするぜ。 誰の影響だろう。

……桐乃とあやせだな。 間違いない。

928: ◆IWJezsAOw6 2013/08/17(土) 18:19:57.92 ID:ASt53XOW0
こうして、黒猫と沙織と桐乃はそのまま風呂に行き、俺もまた風呂へと向かう。

ちなみに、この俺たちが来ている沙織の別荘なのだが、なんと風呂が男女別になっている。 何でも昔は本当に旅館だったらしく、それを買い取ったとのことだ。

こんなところに桐乃と一緒に住んでみたいなぁ。 なんて考えながら、一人風呂。

京介「……ふう」

黒猫にも先ほど言われたが、大変なのはこれからだろう。

そんなのは分かっている。 桐乃も分かっているはずだ。 俺たちが歩こうとしている道は、とてつもなく険しい物だろうと。

ゲームみたいにはいかねえよ、さすがに。 いや、あのゲームの主人公達も、裏ではすっげえ頑張ってるのかもしれないけどさ。

だけど俺は、あの妹の為になら何でも出来る気さえするんだ。

929: ◆IWJezsAOw6 2013/08/17(土) 18:20:25.51 ID:ASt53XOW0
桐乃。

今だからこう思えるのかもしれないけど、俺にとって何より大切な奴で、何より好きな奴で、世界でたった一人の妹だ。

……桐乃はどういう風に思っていたのかな。 今までのことや、これからのこと。

あいつは多分、あいつの性格なら、多分。

ずっと、気持ちを抑えて影で泣いていたのかもしれない。 俺には何となく分かる。

どう言えばいいんだろうな。 こんな気持ちは。

930: ◆IWJezsAOw6 2013/08/17(土) 18:20:56.05 ID:ASt53XOW0
守ってやりたいだとか、抱き締めたいとか、一緒に居たいとか。 それよりも、もっとこう……大切にしてやりたい。

今、あいつは俺に「幸せ」と、良く言ってくれる様になった。 でも、俺はもっとあいつを幸せにしてやりたい。 今よりも。

これから多分、そんな道を模索し続けることになるのだろう。 そして、それも黒猫が言っていた「問題」とやらに含まれているのだろう。

ならば良いさ。 やってやる。 俺は俺が思うように、あいつを今よりももっと、幸せにしてやる。

それが、兄である俺の役目で、桐乃を好きになった俺の役目で、桐乃に好きになってもらえた俺の役目だ。

931: ◆IWJezsAOw6 2013/08/17(土) 18:21:21.59 ID:ASt53XOW0
その後、風呂から出て再びリビングへ。

入ると沙織と桐乃と黒猫が揃って髪を乾かしている。 中々に面白い光景だ。

京介「なあなあ、桐乃」

そんな桐乃の背中に、俺は声を掛ける。

桐乃「なに? なんか用?」

京介「桐乃のこと、俺めっちゃ愛してるからな」

桐乃「ぶっ!」

桐乃は勢いよく立ち上がり、俺の方にずんずんと詰め寄ってきた。 可愛いな! はは。

932: ◆IWJezsAOw6 2013/08/17(土) 18:21:51.50 ID:ASt53XOW0
京介「本当のことじゃん」

桐乃「こ、このバカっ!!」

黒猫「沙織、見なさい。 あれがバカップルの良い例えよ」

沙織「羨ましいですわね。 うふふ」

桐乃「ちょっと来いッ!!」

黒猫と沙織の冷やかしに耐え切れなくなったのか、桐乃は叫ぶように言うと、俺を引っ張り廊下まで連れて行く。

933: ◆IWJezsAOw6 2013/08/17(土) 18:22:45.22 ID:ASt53XOW0
京介「な、なんだよ?」

桐乃「なんだよじゃないでしょ! な、なにあいつらの前であんな恥ずかしいこと言ってんの!?」

京介「はは。 悪かったって」

桐乃「……笑いながら謝ってもムカつくだけなんですケド」

ったく、一々可愛い奴だ。

俺はそんなムスッとした顔付きの桐乃に、キスをした。

桐乃「っ!? な……なっ! あんたッ!」

ここではしないとでも思ったか! 馬鹿め、俺はどこにいてもお前にキスするんだよ。

934: ◆IWJezsAOw6 2013/08/17(土) 18:23:12.56 ID:ASt53XOW0
京介「あいつらにばれなきゃいいだろ?」

言いながら、笑う。

桐乃「……そ、そうゆう問題じゃないし」

京介「もう一回してもいいか?」

桐乃「だ、ダメ! それはダメ……」

京介「どして?」

桐乃「ど、どうしても。 その……帰ってから、家で二人の時に、すればいいじゃん……?」

俺が優位に立っていたと思ったら、このひと言ですっげえ来る物があるんだよな。 てか、こいつがもしおねだりとか覚えたら、俺は何でも聞いてしまいそうだ。

昨日のアレだって、こいつが「おねがぁい」とか言った瞬間、全部吹っ飛んで行ったしな。 全部だぜ、全部。

935: ◆IWJezsAOw6 2013/08/17(土) 18:24:00.05 ID:ASt53XOW0
京介「お、おう……そ、そうだな。 はは」

桐乃「……か、帰ってからなら何回でもいいから」

すげえ台詞だな……。

いや、てか。 ううむ。 恥ずかしいぞ、くそ。 やはりこいつの破壊力はヤバイ。 今から家に帰ってでも布団の中でゆっくりしたい! 二人っきりで! マジで!

沙織「お二人とも、もうすぐ年越しですよ?」

と、廊下で話していた俺達に声が掛かる。

京介「あ、ああ。 もうそんな時間か」

京介「ほら、行こうぜ。 桐乃」

桐乃「う、うん」

936: ◆IWJezsAOw6 2013/08/17(土) 18:24:35.07 ID:ASt53XOW0
未だに桐乃は顔を赤くしていて、恥ずかしさを我慢している様な顔をしていた。

……写真に収めてぇ!! 携帯を寝室に置きっぱなしってのがすっげえ悔やまれる!!

黒猫「ほら、もう年を越すわよ。 沙織、桐乃」

京介「あのー、俺も一応居るんですけど……」

黒猫「あら、そうだったの。 ふふ。 気付かなかったわ、ごめんなさい」

京介「……はぁ」

溜息を付きながら、時計に目を移す。 時刻は23時50分程。

京介「そだ、テレビでなんかやってんじゃねえの? この時間なら」

沙織「あ、そうですわね。 付けて見ましょう」

そう言うと、沙織はリモコンを手に取り、テレビの電源を入れる。

937: ◆IWJezsAOw6 2013/08/17(土) 18:25:45.47 ID:ASt53XOW0
『新年あけましておめでとうございます!』

とのこと。 テレビに表示されている時間は既に日付が変わってから5分ほど経っている様だ。

京介「……沙織?」

沙織「ええっと……時計がずれていたみたいですね。 うふふ」

黒猫「気付かぬ内に新年を迎えていたというの? それは不味いわ。 非常に不味いわよ……現世と魔界に歪みが生じてしまうわ」

桐乃「……あんた、まだ厨二病抜けてなかったの?」

……まぁ、この方が俺たちらしいと言えばそうなのかもしれない。

938: ◆IWJezsAOw6 2013/08/17(土) 18:26:15.25 ID:ASt53XOW0
桐乃「あれ……ちょっと待って。 だとすると、あたしの新年最初の言葉って」

桐乃は言うと、俺の方を睨む。

京介「は、はは。 続きは家に帰ってから聞くからよ」

京介「とりあえず、あれだ」

四人、顔を見合わせ。

「あけましておめでとう」

そして、新しい年は始まる。


年越し 終

947: ◆IWJezsAOw6 2013/08/18(日) 11:26:35.80 ID:px5GbtGY0
新年になってから、まだそんな日が経っていない頃。

夜で外が真っ暗で。

気温は雪でも降りそうな寒さの日。

って言っても、その日は晴れていたんだケド。

そんなある日。 あいつはあたしに声を掛けた。

「桐乃、ちょっと付いてきてくれ」って言って。

あたしは不審に思いながらも、渋々と付いていった日の話をしよう。

948: ◆IWJezsAOw6 2013/08/18(日) 11:27:02.54 ID:px5GbtGY0
桐乃「なんかさぁ、あんた最近どこ行ってるの?」

京介「え、えと。 俺? どこって?」

桐乃「あんたしか居ないでしょ。 最近、夜になる度にどっか行ってない?」

京介「あ、ああ。 そうだな……運転の練習だよ、練習」

ふむ。 京介が免許を取って、一緒に貯めてた貯金で車を買って、それでその練習ってことか。

怪しいっつの!

949: ◆IWJezsAOw6 2013/08/18(日) 11:27:29.28 ID:px5GbtGY0
桐乃「じゃ、なんで夜?」

京介「はは……そっちの方が練習になるかなーって思って」

桐乃「……ふうん?」

京介「そんなことよりエロゲーやろうぜ! 新作買ったって言ってたじゃねえか。 な?」

どう見てもウソだケド……。 何か、隠しておきたいことでもあるのかな。

あたしも言いたく無いこともあるにはあるから、人のことを言えた義理じゃない。 でも、やっぱり気になるよねぇ。

950: ◆IWJezsAOw6 2013/08/18(日) 11:28:03.59 ID:px5GbtGY0
桐乃「京介も相当エロゲ好きだよね?」

京介「……誰の所為だと思ってるんだよ」

桐乃「所為って言わないで。 おかげでしょ?」

京介「へいへい……」

……よし。 明日、少し調べてみよう。 京介が何をしているか。

951: ◆IWJezsAOw6 2013/08/18(日) 11:28:50.85 ID:px5GbtGY0
次の日。 今日もあいつはどこかへと出掛けて行った。 一人残されるあたしの身にもなって欲しいよ。

思い出されるのは、あたしが小さかった頃のこと。 あいつは遊びに行って、あたしは追いつけなくて。 そんな超悔しかった日のこと。

……ま、今日はそっちの方が都合が良い。 京介の前じゃ堂々と調べられないし。

一応言っておくケド、この時間以外殆どべったり一緒に居るワケじゃないからね? 今の言い方だとそう聞こえるかもしれないから、一応。

だってほら、あたしが学校とか仕事のときは別々なんだし。

……それ以外だと、いつも一緒だけど。

ってそうじゃないそうじゃない! あいつのことを考えてぼーっとしてしまった。 ムカつく!

952: ◆IWJezsAOw6 2013/08/18(日) 11:29:26.86 ID:px5GbtGY0
これもあれも、全てはあたしに何も言わないで変なことをしてるあいつが悪い! うん。

桐乃「……ほんと、どこ行ってるんだろ?」

そう呟き、窓から外を眺める。 空は曇っていて、いつもは綺麗に見える星は見えなかった。

桐乃「ダメダメ! 落ち込んだらダメだ!」

若干落ち込みそうになった気持ちに活を入れ、電話を手に取る。

まずは、黒いののところで良いかな。

953: ◆IWJezsAOw6 2013/08/18(日) 11:29:52.14 ID:px5GbtGY0
桐乃「もしもし、夜遅くにごめんね」

「構わないわ。 丁度、妹たちとお風呂が終わったから」

桐乃「え!? あんた妹と一緒にお風呂入ってんの!?」

「邪悪な気配を感じるわよ。 食い付き方が怖いわ……」

桐乃「そ、そんなことないって……ふひっ」

あ、よだれが。

「……はぁ。 それで、用件は何だったの?」

桐乃「お、おっと。 忘れるところだった。 えーっとね」

954: ◆IWJezsAOw6 2013/08/18(日) 11:30:20.42 ID:px5GbtGY0
そっちが本題だったのに。 黒猫が妹たちとCG回収シーンを迎えていたなんて。 伏兵すぎる。

桐乃「京介ってさ、最近なんかヘンなところなかった?」

「……ちょっと待ちなさい。 もしかしてそれは」

あれ。 もしやいきなり当たり?

「…………惚気話かしら?」

桐乃「ちっがうっての!!! てゆうかあんたに惚気たことなんて無いっつーの!!」

955: ◆IWJezsAOw6 2013/08/18(日) 11:30:52.86 ID:px5GbtGY0
「今までのが惚気じゃないとして、あなたの惚気の基準が恐ろしくなってくるわよ?」

桐乃「あーもう! で、あいつヘンなところなかった? さっさと答えてよ」

「ふふ。 そうね」

「わたしが知る限り、先輩におかしなところは無かった筈よ」

「もっとも、普段の先輩も変と言えば変だけどね」

956: ◆IWJezsAOw6 2013/08/18(日) 11:31:21.14 ID:px5GbtGY0
桐乃「だーめーだー。 全然分かんないし」

その後……あやせに加奈子、沙織にもせなちーにも電話して聞いたんだけど、全員が何も知らなかった。

てかね、ちょっとこの一連の電話で不満な点があるの。 みんな、あたしが「京介のことなんだケド」と言った瞬間に惚気かどうか聞いてくる。

どうしてだー! あたしってそんなキャラなの!?

……ま、まあ。 そりゃあ、京介はいざというときに物凄く頼りになって、超格好良くて、それにいつも助けてくれるし。 優しいし。 気配りできるし。 あたしのこと見てくれてるし。 あたしのこと大好きだし。

不意にキスしてくるのは許せないケド! あれ、ほんとこっちの身にもなって欲しいんだよね。 てか、未だにあいつとキスするのに全然慣れないんだよねぇ。

957: ◆IWJezsAOw6 2013/08/18(日) 11:31:49.60 ID:px5GbtGY0
心臓とか張り裂けそうになるし、顔は赤くなってるのが分かるくらいだしさ。

でも、不思議と近くに居ると落ち着くんだよね。 夜、寝るときだってそう。

あいつと一緒に布団の中で目を瞑るだけで、ゆっくり休めるから。

あ、でも! これもまた許せないことがある!

……最近だと寒いのか知らないケド、朝起きるとほぼ確実に抱き締められてるんだよね。 あたしは抱き枕じゃないっての。

抱き枕かぁ……。

そういえば、新しい抱き枕出るんだっけ? 今度京介と一緒に買いに行こうかな。

通販で買っちゃってもいいんだケド……どうせなら一緒に行きたいし。 あいつ車あるしね。

よし、そうと決まったら早速デートの予定を。

958: ◆IWJezsAOw6 2013/08/18(日) 11:32:15.76 ID:px5GbtGY0
桐乃「……あれ。 なんか忘れてる気がする」

……なんだっけ?

ま、そんなことより今はデートの予定だ! 行く場所はアキバだとして……どんなコースにしよっかな。

朝から出掛けて、お昼は喫茶店でも行こう。 で、お昼過ぎからは渋谷に行くのもありかな?

そだ。 どうせなら渋谷か新宿辺りであいつの服も見てあげようかな。 最近、新しい服欲しいとか言ってたし。

んで、それでぇ……夜はどうしよっかなぁ。

たまには落ち着いたところでも良いかな? でもそれだとこの家になっちゃうんだよね。

それは京介と話して決めることにしよう。 早く帰ってこないかな、あいつ。

959: ◆IWJezsAOw6 2013/08/18(日) 11:32:43.63 ID:px5GbtGY0
次の日。

桐乃「デートの予定とか考えてる場合じゃなかったじゃん!! あいつが出掛けている原因を調べてたのに!!」

またこのパターン! あああもう! ムカつく!! 家に居ないときまであたしの頭の中を占領するなんて、許せないんですケドぉ!

今日もまた京介はどっか出掛けてるし。 あいつがこんな行動をしなければ、あたしも頭を抱えることなんて無いってのに。

あいつが行きそうな場所……今日はそこを考えるとしよう。

とにかく、まずは電話~。

960: ◆IWJezsAOw6 2013/08/18(日) 11:33:11.07 ID:px5GbtGY0
桐乃「もしもし、あやせ?」

「桐乃? どうしたの? こんな夜遅くに」

桐乃「あはは、ごめんね。 昨日に引き続き、ちょっと聞きたいことがあってさ」

「お兄さんのことだね。 うん、良いよ」

桐乃「ありがと。 それで」

桐乃「もし、あやせが京介だったとしてさ……その」

う……いざ聞くとなると、言い辛い。

961: ◆IWJezsAOw6 2013/08/18(日) 11:34:04.63 ID:px5GbtGY0
桐乃「…………エロいお店とか行きたくなる?」

「ぶっ! ちょ、ちょっと桐乃!」

電話越しであやせが咳き込んでいる。 無理もないケド。

桐乃「だ、だから例えばのハナシだって! お、男の人ってそうなるのかなぁ……って」

「なんでそれを私に聞くの! そ、そういうのって男の人に聞いた方が早いと思うよ」

桐乃「言えるワケ無いじゃん! 御鏡さんならフッツーに答えそうだケドさ……でも、やっぱイヤじゃん?」

「それで私……ってこと?」

桐乃「うん、まあ……そう」

「分かった。 桐乃が真面目なのは分かったけど……でも、やっぱ私じゃ分からないよ」

962: ◆IWJezsAOw6 2013/08/18(日) 11:34:31.27 ID:px5GbtGY0
「……だけど、仮にお兄さんがそういうお店に行ってたとしたら、桐乃はどうするの?」

桐乃「あ、あたし?」

あたしは……。

良いかな、あやせにだったら。

桐乃「チョームカつくケド。 ムカつくし、悔しいケド。 でも、京介がそれで悩んでいるとしたら……許しちゃうかもしれない」

「そっか。 やっぱり、優しいんだね。 桐乃」

桐乃「そんなことないって! もしそうだったら一発か二発は殴ってやるつもりだし!」

「あはは。 その時は私も手伝うよ」

……その台詞はちょっと怖い。

963: ◆IWJezsAOw6 2013/08/18(日) 11:34:58.10 ID:px5GbtGY0
桐乃「やっぱあやせは分からないかぁ。 あ、加奈子ならそうゆうの詳しいかな?」

「……それは止めた方が良いよ。 加奈子、余計なことを言いそうだから。 例えば」

「京介? ああ、行ってるに決まってんだろ~? 男ってエロいし」

「とかね?」

桐乃「あ、あー。 確かに。 なんか言いそう」

「ふふ。 まぁ、もしも桐乃にそんなことを言ったら……」

964: ◆IWJezsAOw6 2013/08/18(日) 11:35:24.94 ID:px5GbtGY0
桐乃「あ! あたしやらなきゃいけないことあったんだ! ごめんあやせ! ありがとね!」

それ以上先は聞かないほうが良いと思い、あたしは慌てて電話を切る。

結局、今日も収穫無しか。

もう、こうなったら直接本人に聞くしかないよね。 あいつは言いたく無さそうだけど、気になって仕方ないんだもん。

……明日、出掛ける前に聞いてみよう。

965: ◆IWJezsAOw6 2013/08/18(日) 11:35:50.78 ID:px5GbtGY0
桐乃「京介、ちょっと来て」

京介「ん? 別に構わんが」

桐乃「そこ、座って」

京介「出来ればコタツに入りたいんだけど……」

桐乃「ダメ。 良いから早く座れ」

京介「へいへい……」

そう返事をすると、京介は床に正座する。 正座までしろとは言ってないのに。

966: ◆IWJezsAOw6 2013/08/18(日) 11:36:17.14 ID:px5GbtGY0
京介「で、何だよ?」

桐乃「……あんた、何隠してるの?」

あたしが言うと、京介は分かりやすい程に慌て、答える。

京介「べ、別になんも隠してねえよ? マジ」

桐乃「へえ。 ほんとに?」

京介「お、おう……毎日出掛けてるのは、運転の練習だし」

桐乃「……ひひ」

京介「き、桐乃? どした?」

967: ◆IWJezsAOw6 2013/08/18(日) 11:36:43.00 ID:px5GbtGY0
桐乃「ねえ、京介。 あたしは何を隠しているのか聞いただけなのに、なんで運転の練習が出てくるの?」

ここまで見事にぼろを出すとは思って無かった。 妹としても、こいつの彼女としても少し心配になってしまう。

京介「そ、それは……なんて言うか」

桐乃「早く言った方が楽だよ? ほら」

京介「……あーくそ! まぁ、良いか。 元々そろそろだったし」

京介は言うと、立ち上がり、あたしに手を差し伸ばしながら続ける。

京介「今日は一緒に出掛けようぜ。 桐乃、ちょっと付いてきてくれ」

968: ◆IWJezsAOw6 2013/08/18(日) 11:37:17.34 ID:px5GbtGY0
俺は渋々ながらも言った。 もう、隠すのにも限界は近そうだし、何よりこいつに悩んで欲しくは無いから。

桐乃「……良いの? あたしも一緒に行って」

京介「当たり前だろ。 つうか、元々その予定だったし」

最終的には桐乃の為だしな。 こいつが喜ぶかどうかは置いといて、だが。

桐乃「分かった。 行く」

桐乃は言い、立ち上がる。

京介「じゃ、俺は外で待ってるから、準備出来たら来てくれ」

俺は最後にそう言うと、部屋を後にした。

969: ◆IWJezsAOw6 2013/08/18(日) 11:37:43.99 ID:px5GbtGY0
桐乃「で、これどこに向かってるワケ?」

京介「まーまー。 もうすぐだからよ」

助手席に座る桐乃に言い、俺は目的地へと向かう。

場所はそこまで遠くは無い、近くの山を少し入ったところだ。

桐乃は暇潰しの為か、ラジオのチャンネルをカチカチと回す。 いつもは桐乃がCDやらを持って来てくれるのだが、今日はそうではないらしい。

てか、こいつたまにエロゲーソング持ってくるんだよ。 あれマジで恥ずかしいからやめて欲しいぜ。 この前なんて、赤城を乗せた時にそれが入ったままで若干気まずかったし。

しっかし、最初の頃はわざわざ後部座席に乗っていたのに、今となっちゃ普通に助手席に乗ってくれるようになって、若干嬉しいぜ。

いいね、車デート!

970: ◆IWJezsAOw6 2013/08/18(日) 11:38:09.13 ID:px5GbtGY0
そんなことを考えている内に、目的地へと到着。

少し開けた場所にある駐車場に車を止め、桐乃に降りるよう伝える。

京介「着いたぜ、桐乃」

桐乃「こんな山の中? あんた、こんなとこで何してたの?」

京介「良いから良いから、ほら」

桐乃「チッ……はいはい」

俺と桐乃はそのまま外に出る。 そして、俺はカバンからひとつの物を取り出し、それを桐乃に手渡した。

桐乃「なに? これ」

京介「それ、付けといてくれ」

971: ◆IWJezsAOw6 2013/08/18(日) 11:38:38.43 ID:px5GbtGY0
桐乃「……目隠し?」

京介「おう」

桐乃「ま、まさかあんた……あたしにエロいことする気!? こんな山奥で!?」

京介「ちっげーよ!! エロゲーのしすぎだッ!!」

いやまあ、俺だってこの状況でそれを渡したらそう勘違いされるのは無理も無いとは思ったが。 でも、そうしないとなぁ。

桐乃「ほんっと変態。 ふん」

言いつつも、素直に付けてくれるんだなぁ。 全く、俺が悪い奴だったら間違いなくヤバイことになってるだろうに。 どれだけ信用しているんだか。

京介「ほら、手繋ぐぞ。 それだと歩けないし」

桐乃「……うん」

972: ◆IWJezsAOw6 2013/08/18(日) 11:39:15.95 ID:px5GbtGY0
桐乃の声は先ほどよりも小さく、視界が塞がれているのが恐らくは怖いのだろう。

俺は心の中で桐乃に謝り、手を引いて歩き出す。 桐乃が転ばないように気を使いながら。

そして歩くこと数分。 その場所へと到着した。

京介「着いたぜ、桐乃」

桐乃「もう? じゃ、これ取っていい?」

京介「おう」

俺が答えると、桐乃はすぐに目隠しを取る。

桐乃「……なにここ? 完全森の中じゃん。 少しは見晴らし良いみたいだケド」

ま、そりゃあそうだろうな。 夜景を見る場所じゃあ無いから。

973: ◆IWJezsAOw6 2013/08/18(日) 11:39:41.91 ID:px5GbtGY0
桐乃「ちょっと、京介?」

聞いてくる桐乃に向け、俺は上を指差した。

桐乃「……?」

桐乃の顔は疑問でいっぱいになっていたが、俺はそんな桐乃を少しの笑みを浮かべながら眺める。

やがて、桐乃は上を向いて。

桐乃「……これ」

そうだ。

ここは夜景を見る場所じゃない。

ここから見れるのは、星空だけだ。

974: ◆IWJezsAOw6 2013/08/18(日) 11:40:08.00 ID:px5GbtGY0
京介「ずっと良い場所探しててさ、心配掛けてたら悪かったな。 付き合ってからもう一年になるし、その記念でお前に見せたかったんだ」

桐乃「……ばか。 心配なんてしてないっつの」

京介「へへ。 そうかい」

桐乃は膝を抱え、その場に座り込む。 俺は黙って、その隣に腰を掛けた。

京介「家を出た日も、こうして星を見てたっけか」

桐乃「……うん。 覚えてるよ、あの日のことは。 多分、一生忘れない」

京介「俺も一緒だよ。 思いっきり殴られた痛さが今でも思い出せるぜ……」

桐乃「ひひ。 あたしの為に殴られたんだから、幸せっしょ?」

京介「へいへい。 そうだな。 お前の為になら、俺はいくら殴られたって構いやしないさ」

975: ◆IWJezsAOw6 2013/08/18(日) 11:40:34.67 ID:px5GbtGY0
桐乃は笑顔で星空を眺める。 その横顔は、とても綺麗な物だった。

桐乃「長かったね」

京介「この一年が、か?」

桐乃「ううん。 そうじゃなくて、一緒になれるまで」

京介「だなぁ。 十年以上だもんな。 はは」

桐乃「でも、この一年はあっという間だった」

京介「……そうだな」

桐乃「だけどね、京介」

桐乃は俺の方に顔を向け、言う。

976: ◆IWJezsAOw6 2013/08/18(日) 11:41:01.12 ID:px5GbtGY0
桐乃「今まで生きてきた中でさ、この一年が一番楽しかったよ。 あたしは」

笑顔でそれは反則だぜ。 今度、やってはいけないことを取り決めた方が良さそうだ。 じゃないと俺が死ぬ。

京介「ありがとよ、桐乃。 夏にも来ような」

桐乃「ひひ。 いーよ。 てか、チョー寒い」

厚着をするよう言ってあったから、格好は問題ないと思うが……それでもまあ、寒い物は寒いよな。

京介「桐乃、俺を舐めたら駄目だぞ。 こんなこともあろうかと」

俺は言いながら、カバンから水筒を取り出す。 予め予想していたので、中には暖かいお茶を入れてある。

977: ◆IWJezsAOw6 2013/08/18(日) 11:41:27.41 ID:px5GbtGY0
桐乃「ちょっと期待してたケド、本当にそんなの持ってきてたんだ」

言いながらも、何故か不満そうな顔付きをしているな、こいつ。

京介「なんか怒ってるか? お前」

桐乃「……ベツに」

明らか怒ってるじゃん。 お茶は飲んでいるけどさ。

京介「んだよ。 まだなんかあるのか?」

桐乃「無いっての。 もう良いし」

京介「……へいへい」

こうして、俺と桐乃は一緒に星空を眺めた。

978: ◆IWJezsAOw6 2013/08/18(日) 11:42:00.59 ID:px5GbtGY0
なんてな。 こいつが不満そうな顔をしている原因も、少し不機嫌になっている原因も分かっているさ。

ただちょっと、意地悪をしたくなっただけで。 ただちょっと、桐乃の反応が可愛かっただけだ。

そして、俺は隣に座る桐乃を抱き締めた。

桐乃「……チッ」

京介「へへ、寒いんじゃなかったのか?」

桐乃「べっつに。 ふん」

京介「んじゃあ、離れるか?」

桐乃「……寒い」

京介「そうかい。 気が合うのか俺もさみーんだよ。 だから、もう少しこうしてるか」

俺が言うと、桐乃はこくんと頷く。

979: ◆IWJezsAOw6 2013/08/18(日) 11:42:35.33 ID:px5GbtGY0
桐乃「……ありがと」

京介「え? 今なんつった?」

桐乃「なんでもなーい」

桐乃「てか、まだ寒いんですケドぉ。 もうちょっと近くよって抱き締めてくんない?」

京介「りょーかい」

俺は一度立ち上がり、空を眺め続ける桐乃を抱きかかえ、膝の上に座らせる。

桐乃「……そこまでは頼んで無いんだケド」

京介「良いじゃん。 俺がこうしていたいんだよ」

桐乃「……あっそ」

980: ◆IWJezsAOw6 2013/08/18(日) 11:43:01.25 ID:px5GbtGY0
とは言いつつも、桐乃は前に回している俺の腕を抱く様に、しっかりと掴んでいた。

京介「今年もよろしく。 また沢山遊ぼうぜ」

桐乃「だね。 沙織とか黒猫とか。 たまにはあやせとか加奈子とかとも良いかもね」

京介「おう。 暇しそうにはねえな、はは」

桐乃「あたしが居るのに暇とか言ったら、許さないし?」

京介「へいへい」

桐乃「……そだ。 今度さ、新しい抱き枕が欲しいんだケドぉ」

桐乃はどこから持ってきたのか、手帳を取り出し、俺に何かのコースを説明し始める。 恐らく、デートコース。

俺は楽しそうに話す桐乃に耳を傾け、ゆっくりと頭を撫でる。

そして桐乃は、それを当然のことのように、笑顔のまま受け入れた。


星降る夜に 終


京介「おかえり」 桐乃「ただいま」
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