3: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/18(土) 00:54:09.96 ID:LTpOvEyL0

 ×     ×

一見すると、ちょっと変わった姉弟、と言った所だろうか。
姉の方は、日本人の目線で言えば白人ハーフの日本人を普通に連想させる
流れる様なロングの金髪も美しいすらりとした美少女。

弟の方は、その意味ではこの辺では珍しくないだろう赤毛の白人少年。
年齢は精々が十代前半かそれよりも下だが、
きちんとスーツを着こなしているのが変わっていると言えば変わっている。

それでは姉の方はと言えば、
見る人が見れば結構な金額になる装いをセンス良く着こなしている。
丁度お茶の時刻、ロンドン市内のオープンカフェで落ち合ったそんな二人は、
実際の所は姉弟と言う訳ではない。

「いかがでしたか、ネギ先生?」

金髪の美少女が尋ねた。

「有意義なお話しが出来ました」

ネギ先生と呼ばれた男の子がそう言ってにこっと微笑む。
金髪の美少女雪広あやかならずとも天使の微笑みと言う表現に躊躇は要らない。
回りくどい表現をしたが種も仕掛けも無い、正真正銘ネギ・スプリングフィールド先生である。
スコーンでミルクティーを楽しみながら、話を続ける。

「夕食の席で改めてお話ししたいと。
先方への取り次ぎに就いても色よい返事を頂きました」
「まあっ」

あやかが目を輝かせた。

「でも、よろしかったのですか?」

あやかが話を続けた。

003

4: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/18(土) 00:59:28.55 ID:LTpOvEyL0
「色々と事情があると伺いましたが。
やはり、わたくしのカードを使うのが確実だったのでは…」
「いえ、カードを使えば発覚してそれに対抗される、
最悪、それだけで宣戦布告とみなされてしまう。そう思った方がいい相手です。
それに、この先、どれだけ困難でも誠意をもって向き合わなければならない相手ですから」

ぐっ、と前を見るその表情を、あやかは優しく、そして惚れ惚れと眺めていた。

「それでいいんちょさん」
「はい、ネギ先生」
「お願いがあるんですけど」
「なんなりと」

「はい。それでは、僕も勉強はしたんですが、
改めて少し、日本の古文を教えていただけないでしょうか?」

「え?あの、ネギ先生?」
「はい」
「あの、確か、イギリス紳士であるネギ先生が
こちらの方と面談なされたのですよね?」
「ええ、そうなんですが」

 ×     ×

「メイゴ、アリサ、ですか?」
「知らんな」

長谷川千雨にとって、想定された通りの反応が返って来た。
場所は麻帆良大学工学部、葉加瀬聡美の研究室。
返答したのは桜咲刹那に犬上小太郎。
葉加瀬聡美は千雨、刹那と同じ女子校麻帆良学園中等部三年A組の生徒であるが、
大学にも研究室を許された天才科学者の一面も持ち合わせている。

「歌手のARISAの本名、って言っても余計分からなくなりそうだな」

そう言いながら、千雨が自分のノーパソを操作してアリサのサイトを映し出す。
そこに映し出されたのは、自身のキーボード演奏と共に歌うアリサの路上ライブの映像だ。
歳は千雨の一つ二つ上か、容姿は可愛いと言っていいだろう。

5: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/18(土) 01:05:12.23 ID:LTpOvEyL0
「…いいですね…」

刹那が言った。

「こういう歌は余り聴かないのですが、何と言いますか、いいです」
「あー、俺もそうや。そういうテレビとか見ぃへんけどなぁ。いいなこれ」

「ああ、歌手って言ってもマイナーだからな。今ん所路上やネットがほとんどだ。
実際いい歌だよ。何て言うか心が洗われると言うか、
例えば、アクセスランキングなんて詰まらないものに囚われて、
アリサのサイトにウィルス送り込んでやろうとか掲示板荒らしてやろうとか、
そんな邪な心を抱いたとしてもこれを聞いたらすっきり洗い流されるってぐらいいい歌だ」

「確かに、何かがありますね」

刹那が続ける。

「魔力的なものではありませんが、質のいい御詠歌を聞いた後の様でもある、
歌そのものの力なのでしょうか」
「そうですね、確かに脳科学的な音波、周波数のパターンの見地からも、
この歌に関するある程度の見解は出せるのですが、
やはり、そうした科学の領域を留保した感覚的なものがあるのではと」

刹那と聡美がそれぞれの見解を述べた。

「で、ひょんな事からこのアリサと知り合いになったんだ」
「千雨姉ちゃんがか?」
「ああ」

少々退屈の虫がうずき始めた犬耳ワンパク小僧犬上小太郎の問いに千雨が応じる。
千雨が「ちう」の名前で運営しているウェブサイトでARISAを紹介した所、
「ちう」の愛読者だったと言うアリサ本人からのアクセスがあり、
非公開のやり取りをしている間柄だった。

「未来のステージ衣装の事とか色々話している中で、
アリサの部屋撮り写真を何度かもらったんだが」

そう言って、千雨はプリントアウトした写真を何枚か取り出して刹那、小太郎に渡す。
当初は何と言う事も無く目を通していた二人が、眉をぴりりと動かし始めた。

6: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/18(土) 01:10:34.84 ID:LTpOvEyL0
「いるな」
「ええ、いますね」

写真に目を通す二人の呟きを聞きながら、聡美が室内の大型モニターを操作する。
そこに映し出されたのは千雨が受け取ったアリサの部屋の画像だったが、
モニターの中でその部屋の窓が徐々に拡大される。
その作業が、別の部屋撮り画像で幾度か繰り返される。

「なあ、何に見える?」
「魔法使い」

千雨の問いに、刹那がぽつっと応じた。
既に、刹那からは珍しい友人からの招きに寛いだ雰囲気は消え失せ、
その眼差しは頼もしい仕事モードだ。

「だよなぁ」

はあっと嘆息した千雨は、バリバリと後頭部を掻く。

「確定的な結論を出すには元の画像の質が不足していましたが、
分析結果として現時点で確実に言えるのは、対象は人間、判明している限り三人です」

聡美が説明した。

「変態コスプレストーカーにしちゃあ気合いが入り過ぎてる」
「只のコスプレやなかったら西洋魔術師やな」

千雨の言葉に、小太郎はややウキウキとした口調で言った。
只、刹那の周辺に洋の東西と外見とのマッチングに少々問題があるケースが無いではないのが引っ掛かる。

「場所はどこですか?」
「科学の学園都市だ」

千雨の言葉に、刹那と小太郎が顔を見合わせた。

「おかしい」

刹那が呟く。

7: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/18(土) 01:13:38.58 ID:LTpOvEyL0
「科学の学園都市がどういう場所だか、長谷川さんはご存じですよね?」
「まあ、表に出てる程度の事はな。
街ぐるみで最先端科学を研究してる実質的な独立国家」
「科学覇権主義、と言ってもいいですね。
今や、世界の科学技術そのものがあの都市のお下がりも同然。
それでいて、物理的にも法的にも厳重に閉ざされたブラックボックス」

聡美が言った。

「インターネットも、少なくとも科学の学園都市側からの発信は
何重にも検閲されています、想像を絶する技術で。

簡単に言えば、向こう側の人間でも害の無い限り支障はありません。
しかし、単純な単語検索を初めとして、
把握される流出情報の質や悪意のレベルに合わせて、エラーを偽装した差し止めから逆探知まで
直ちに対応出来るシステムになっている、と、
これが当たらずとも遠からじな実情であると私は把握しています。

加えて、そもそもソフトもハードも何世代も先に行っていますから、
基本的なものはとにかく、サブ的なものは、
向こうではそれが普通でもそんなものをうっかりこちら側に送られたら」

「ああ、まるっきり解読不能、下手すりゃ開いた途端に冷凍庫、何回か引っ掛かったよ」

聡美の言葉に千雨が応じた。

「より閉鎖的なのは魔法との関係です」

刹那が言った。

「端的に言います。科学の学園都市に魔法使いは立ち入れません。西洋東洋問わずです」
「そうなのか?」

「そうです。余りにも進みすぎた科学の学園都市の科学技術と魔法の技術。
それが交わる事で生ずる現実的、政治的な影響は未だ計り知れないと言う事で、
現時点では、少なくとも外交関係が成立している魔法の勢力は
科学の学園都市には関わりを持たない。その旨の協定を結んでいます」

「一時期はあったみたいなんですけどね」

聡美がデコを光らせながらくいっと眼鏡を直す。

8: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/18(土) 01:16:57.76 ID:LTpOvEyL0
「人間の能力に関して、彼らの科学は魔法を受け容れない。
どうも現時点ではそういう結論に達しているらしいんです」
「この辺じゃロボがうろうろしてるってのに、違うモンだな」

「ええ。こちらはそれこそ魔法を科学するのが流儀ですから、
その流れで色々と話を聞く事もあるんですけど。
一時期向こうでもそのギャップを埋める研究も進められていたらしいんですが、
事は人間の能力と魔術に関わる事です。
研究者のアングラ情報では何かイギリスで凄惨な犠牲が出て立ち消えになったと言う話も聞いています」

「人体実験で人体爆発もやらかしたのかよ」
「恐らくその線だと思います」
「取り敢えず、魔法関係でアリサさんが何か付きまとわれている可能性がある、と」
「そういう事になるな」

刹那の言葉に千雨が同意する。

「分かりました。少し心当たりを当たってみます」
「ああ、そうしてくれると助かる」

千雨が感謝を示し、刹那が頷いた。
一般人でいたい筈の長谷川千雨だが、今やネギ・パーティーと言うべき魔法勢力にどっぷり浸って
ついこの間夏休みがてら世界一つ救出して来た所だ。

そのネギ・パーティーの誰よりも頼りなく誰よりも頼もしいリーダーである
ネギ・スプリングフィールドは、十歳の少年にして飛び級卒業の千雨の担任教師であるにも関わらず、
ここ暫く、夏休み明けからずっとろくに学校にも来ておらず接触する機会が乏しい。

マイナーでも歌手が相手でもある。
千雨の周囲に事欠かない、火力はあってもやかましい面々は余り巻き込みたくない。
だからと言って、現在の実質的な担任とか色黒ノッポな巫女とか恐怖心が先に立つのもあれだ。

等と考えている内に、当面の相談相手としてこの人選に至ったと言う事だ。
人間としては誠実そのものである刹那はもちろん、元はいっぱしの悪ガキをやっていた小太郎も、
喋っていい事と悪い事の区別ぐらいは付くだろう。
見た所、裏側の知恵もある。何よりも半端なく強い。

9: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/18(土) 01:20:09.13 ID:LTpOvEyL0

 ×     ×

「よう」
「いらっしゃい」

麻帆良大学工学部を後にした千雨は、夕食後に女子寮の665号室を訪れ、
住人である村上夏美と挨拶を交わしていた。

「よっ」
「ああ」

リビングで、つい先ほど顔を合わせていた小太郎とも挨拶を交わす。
本来この部屋は村上夏美、那波千鶴、雪広あやかが住人であり
小太郎が暫定的に居候している状態であるが、
最近、夏美以外の元々の住人、特にあやかの外出は頻繁なものだった。

「いらっしゃい」
「ああ」

にこっと微笑む那波千鶴に千雨が挨拶を返す。
ゆったりした部屋着の上からも、やはり圧倒的な胸のボリューム、
だけではない、年齢さしょ…とにかく緩やかでいながら圧倒的に大人びた何かがある。

「どうぞ」
「ああ、ありがとう」

途中で思考を強制的な切り替えた千雨が、ウーロン茶を用意した千鶴に頭を下げる。

「珍しいな、そっちから呼び出しって」
「それはお互い様やけどな」
「まあ、確かに。さっきの件か?」
「ああ」

小太郎の表情は真面目なものだった。

「ちぃと、まずいかも知れんな」
「と、言うと?」
「問題は、刹那の姉ちゃんが言うてた心当たり、や」

「知ってるのか?」
「多分な。千草の姉ちゃん所で小耳に挟んだ。
だとすると、逆の目に出るかも知れん」

10: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/18(土) 01:23:17.74 ID:LTpOvEyL0

「何何だよ一体?」

珍しい奥歯に物が挟まった様な小太郎の言葉に、千雨が苛立ちを覗かせる。

「科学の学園都市で魔法使いがもう動き出してるって事になるとな、
その刹那の姉ちゃんの心当たりが当たりかも知れん。
まあ、簡単に言うとそういう事なんやけど、簡単に言えないから困るんやこの辺の関係は」

「つまり、そっちの業界の話か?」
「まあ、そういう事やな」
「つまり、桜咲が連絡入れる相手が実はストーカー連中と繋がってる、そういう事か?」
「ああ、正直あり得る状況や」
「じゃあなんで止めなかった?」

「そこや。特に刹那の姉ちゃんの場合、元々の人間関係なんかもあって、
あの話の流れだとそっちに話を持っていかなあかん、そういう関係もあるさかいな。
それが当たりやったら、ちぃとまずい事になるかもなぁ」
「何なんだよ、一体…
あいつ、アリサ、一体何に巻き込まれてやがるんだ」
「自分らで確かめるしかないなぁ」

バリバリと頭を掻く千雨に、小太郎が言った。


14: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/19(日) 04:28:47.67 ID:APppSdqA0

 ×     ×

科学の学園都市内境界周辺特別招待所。
日本に帰国したネギとあやかは、その高級ホテルでも十分通用する招待所の一室で待機していた。
ここ科学の学園都市は、国際法及び日本国の立法、公式見解の下に於いては日本国内であるにも関わらず、
独立国家に近い実質を有し外部の人間の出入りは厳重に制限されている。

ネギが交渉した英国の関係及び、
あやかの関わる科学の学園都市の外部協力企業のルートから当面の「入国」許可を得た二人は、
アンチスキルと読み警備員と漢字を当てる科学の学園都市の警察職員から
都市への入国手続きと共にここで待機する様に案内されていた。

部屋のドアがノックされる。
あやかがインターホンで応対し、ドアを開く。
現れたのは、取り敢えず部屋まで案内した、
十分なホテル的挙動を訓練されたここの職員だった。

「ネギ・スプリングフィールドさん」
「はい」
「お電話です」

ネギが立ち上がり、職員の案内を受けて部屋を出る。
ネギが戻って来る前に、ドアがノックされた。
あやかがインターホンで応対し、ドアが開かれる。
相手は、「合い言葉」を知っていた。

ドアを開けて中に入った結標淡希は、何の気無しにあやかを上から下まで一瞥した。
一言で言えば贅沢至極。

クォーターだと言う事だが、そっち系の美少女そのままの容姿、流れる長い金髪。
すらりと背が高く出る所引っ込む所のメリハリが半端じゃない。
服装のセンスもお上品でさり気なく金がかかっていながら成金的な下品さが無い。

そんな圧倒的な相手が自分よりも年下の中学生。
渡された資料がそうだと言うだけではなく、同年代の女子の勘、
特に中学とその上の違いは、事、同性の間に於いては察知出来るものだ。

15: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/19(日) 04:33:59.55 ID:APppSdqA0

一方のあやかの方は、特に悪い印象は持っていない。
ばっさりとしたショートカットで上半身はサラシの様なピンクの布を胸に巻いて
ジャケットを羽織っているだけ、下はミニスカート。
露出過多とも言えるが、元々あやかは色々な意味で変人は見慣れている。

結標の方は少々剣呑、鼻白んだ様な雰囲気をあやかに示しているが、
それも又、特にネギの「事業」に関わり始めてからは雪広あやかの宿命として
初対面で一々気にする程の事ではない。

「あー、どうも、雪広あやかさんでいいんですね?」
「はい」
「そちらを担当する統括理事から連絡役として派遣された結標淡希です」

そう言って結標は一通の書面を差し出し、あやかの差し出した書面と照合される。

「ここ、学園都市は初めてですね。
まあ、聞いてるスケジュールだと、
こっちの理事会からの代表と事業に関わる企業関係者、
その辺の挨拶回りで滞在予定はオーバーって所だね。

ここは外とは違って色々と面倒な所だから、
あんまりうろうろしないで予定通りさくっと用事済ませて貰いましょう。
外の人間が余計な事したら色々と保障できない場所柄なもんで」

鼻で笑ってツカツカと歩み寄る結標は、あやか余裕のクイーン・スマイルが何とも言えず勘に障る。
いっそ、スキルアウト御用達の廃ビル辺りにご案内してやろうかと頭をよぎった辺りで、
学園都市謹製スーパー医療技術で病み上がりに引っ張り戻されて早々に
こき使われても文句の言えない現状を辛うじて思い出す。

そんな、微妙な雰囲気を物音が破壊する。

「お待たせしました、少し補足連絡がありまして。
もう案内の人がついてるって伺ったんですが」

結標が開いて閉ざされたドアに目を向け、改めて資料を確認する。
そして、現れたネギの前に片膝をつき、
白い両手を自らの両手で包み込み情熱的に熱く潤んだ眼差しではっしとネギを見据える。

16: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/19(日) 04:39:02.98 ID:APppSdqA0

「初めまして、ネギ・スプリングフィールド先生。
わたくし、この学園都市におきましてネギ先生の露払いという
大役を仰せつかり恐悦至極に存じ奉りまする栄誉に預かりました結標淡希と申す者にございます。
今後はわたくしにご用命あらば例え火の中水の中、
湖の水を飲み干してでも身命を賭してお助け致しまする所存にて
それではさっそくホテルにご案内いたしまして最も重要なバス・ベッドの使用方法を実地にて…」

あやかは近くにあった巨大な模造紙を山折り、谷折りして、
腰を入れて結標の顔面目がけてフルスイングする。

「あ、あの、大丈夫ですか?」
「HAHAHAちょっとはしゃぎ過ぎてしまった様ですな」

心配そうに覗き込んだネギの前で、
結標は半ば埋もれた壁からボコッと復活して、むくっと立ち上がり後頭部を撫でながら高笑いする。

「まあ、そういう訳で、学園都市のご案内は淡希お姉さんにお任せして
大船に乗ったつもりでどーんと安心しちゃって頂戴って事でHAHAHA」
「はい、有り難うございます」

ダクダクと鼻血を垂れ流しながら高笑いする結標にネギは礼儀正しくぺこりと頭を下げ、
ニコッと天使の笑顔を向ける。
一際激しく鮮血を噴射しながら天を仰いだ結標は、
そっと鼻にハンケチを当てると改めてその天然女殺しな笑顔を目から脳味噌に煙が出るまで焼き付ける。
そして、その隣で慈母の微笑みを浮かべているあやかを見据える。
あやかと結標は共に不敵な笑みを浮かべ、そしてガシッと熱い握手を交わした。

「それじゃあ少し具体的な話をさせてもらうね。
この学園都市は、街自体が外からうん十年進んだ巨大な最先端科学研究機関。
そのために、研究上の便宜、何よりも秘密漏洩防止のために国から様々な特例が認められている。
ざっくり言ってここは日本であって日本ではない、実質的な独立国家、OK?」

人懐っこくも不敵な笑みを浮かべる結標に、ネギとあやかは頷いた。

「あなた達が今持っているのは、ここを含むゲートエリアだけで通用する入国専用ID 。
これが滞在用ID、それからマネーカードにレンタルの携帯電話、PDA。諸々の説明書。
端っから言っておけば、学園都市は最先端科学の街、言い換えれば効率的なデジタル管理の街。

その学園都市内に於いて、
様々な意味での重要人物であるあなた達の滞在中の電子的記録は監視され集約され管理されている。
ここでのあなた達のプライベートは、あるとするなら精々トイレの中までと思った方がいい」

17: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/19(日) 04:42:06.81 ID:APppSdqA0

そこまで言って、結標はすたっとネギの前に片膝をつき、
両手で両手を包み込み情熱的に熱く潤んだ眼差しではっしとネギを見据える。

「但し、ネギ先生が一言仰せ付けられましたらこの結標淡希、
すぐさまあらゆる治安組織統括理事会暗部組織から完全に隠匿された
絶対秘密厳守のセーフハウスをダース単位で用意して
静寂の寝室に於いてネギ先生との熱く親密な秘密の一時を」

その時には、目をぎゅぴーんと輝かせたあやかが鶴の体勢で飛翔していた。

「わー」パチパチ

雪広流vs裏社会実戦組手演武を一通り観賞したネギがパチパチ手を叩いたのを潮に、
あやかと結標の二人はガシッと熱い握手を交わして結標が説明を続ける。

「と、まあ、そういう事なので。
あなた達の申請予定も入力済みのこのレンタル端末使えば
学園都市でも表の事は大概分かるし、
わざわざ私みたいのが付きまとってガイドしてると却って邪魔でしょう。

そっちにはそっちの都合があるでしょうし、どうせこの街にいる限り
監視は電子的にやられてるんだから、この上ガイド兼監視役なんてのもね。
と言う訳で、一応ホテルまでは案内するけど後は自由行動って事で。

許可が出てるぐらいだから大丈夫だと思うけど、
端末にも入れといた通り、危ない所には近づかない、
いや、ホントこれだけはお願い。最先端科学の街だからこそ裏通りは本気で危ないから。

私のケー番とメアドも入れてあるけど、私もすぐ出られるか分からないし、
あんたらのVIPなIDならホテルとか公共機関に頼れば
大概なんとかなるからその辺は私の事あんまり当てにしないで」

18: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/19(日) 04:45:18.83 ID:APppSdqA0

そこまで言って、結標はすたっとネギの前に片膝をつき、
両手で両手を包み込み情熱的に熱く潤んだ眼差しではっしとネギを見据える。

「但し、ネギ先生が夜の相談室に大人の階段を上りたいとこっそりお電話いただけるのでしたら
この結標淡希五秒でベッドメイキングの上不肖わたくし自ら懇切丁寧熱意溢れる肉体言語…」

その時には、鋭い角度で跳躍したあやかの膝が結標の顔面に肉薄していた。

「わー」パチパチ

雪広流vs裏社会実戦組手演武を一通り観賞したネギがパチパチ手を叩いたのを潮に、
あやかと結標二人はガシッと熱い握手を交わして結標が話を続ける。

「それではこれよりホテルまでご案内しまーす」

 ×     ×

「夏の大事件を解決して今も精力的に駈けずり回っている正に英雄」
「その英雄の学園都市訪問許可。協定違反なんてレベルじゃないな」

「彼のプランを大方針として支持する事に就いては、
学園都市を含む各勢力で合意が成立している。
宇宙エレベーターは既に先んじて出来上がってしまっている」
「なぜか、な」

「彼のプランに不可欠なものである以上、
それは既に了承された範囲内の事だろう」
「その理屈で根回しか。もっとも、大方の所は向こうさんで済ませた後だ、なかなか抜かりの無い」
「大上段の人道主義と突拍子もないプランを掲げる、丸で子どもだ」

「その子どものプランは既に基本合意以上のコンセンサスが成立している。
向こうの火力がデカ過ぎるってだけじゃない。
そのデカ過ぎる火力の威嚇を絶妙に鞘の内にしながら、
人道主義と現実的な利権。科学と魔術が角突き合わせてる宇宙の覇権にとんでもない所から唾付けて、
ヨダレを見せた連中を上手く転がしてやがる。無邪気な顔してなかなかの腹芸だぜあいつら」

19: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/19(日) 04:48:37.73 ID:APppSdqA0

 ×     ×

「着いたんか?」
「で、ござるな」

科学の学園都市内のとある廃ビル。
長瀬楓のアーティファクト「天狗之隠蓑」から姿を現したのは、
犬神小太郎、長谷川千雨、村上夏美と言う面々だった。
色々考えた末、一応まとめ役となるネギがいない現状、
そして科学の学園都市と言う越境作業の都合上、思慮深い面子による少数精鋭と言う結論に達した。

まず、言い出しっぺの千雨、そして、総合力の高い「忍術」を使う楓と小太郎。
楓は多人数を異次元空間に収納運搬出来る「天狗之隠蓑」を使う点でも何としても欲しい人材だった。

夏美に関しては小太郎の実質的なパートナーであり、
それでいて本来一般人であるべき立ち位置なのだが、
まず、彼女の使うアーティファクトが隠密行動の上で侮れない。

先の会合の都合上、話を聞いた夏美に一応振ってみたら、
それでも何でも夏休みの苦楽を共にした友人の友人の魔法的な危機であり
自分の能力が頼られると言う事は満更でもない、そんな感じで同行が決定していた。

「ここ、科学の学園都市か?」

小太郎が尋ねる。

「で、ござるな」
「まあ、越境時の一時的な電子的監視システムのごまかし、
それに、いるだけで逮捕されない程度には葉加瀬がやってくれてるって事だが」

千雨が周囲を一瞥して言う。
とにかく、科学の学園都市に於ける電子的な監視網は半端なものではない。

衛星の目による常時監視を初めとした様々な監視網は、
密入国者が都市内を文字通り出歩く事自体を困難ならしめる。
無論、「国境線」の越境も決して簡単な事ではない。

麻帆良学園都市から、「外(科学の学園都市の外)」の科学相手であれば
大概の事が出来そうな葉加瀬でも、科学の学園都市相手では相当に勝手が違う話だった。

20: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/19(日) 04:51:41.22 ID:APppSdqA0

「何せ相手は科学の学園都市だ。
とにかくアリサの状況を把握するまでは可能な限りトラブルを回避して
くれぐれも余計な揉め事等を起こさない様に…」

そう言いながらくるりと振り返った千雨の前には、
いかにも頭の悪そうな風体の見るからにチンピラ集団が死屍累々の巷を形成し、
最新情報を更新するならば、その巨大な槍の如き脚の一撃でコンクリ柱を蹴り砕いた巨漢が、
そのバカ破壊力な脚槍の上をひらりと舞う小太郎の跳び蹴りを顔面に叩き込まれた今その時だった。
そして、そんな二人の背景では、千雨がコオオと更にその背景に炎を燃え上がらせて拳を握っていた。

23: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/20(月) 22:49:38.16 ID:VHmObUUq0

 ×     ×

千雨は腕組みしていた。
そこは、学園都市地下街の一軒のゲームセンター。

「あのー」

楽をして悪いとは思うのだが、途中まで楓の「天狗之隠蓑」に隠れつつそこまで到着した一行は、
千雨の発案で賑やかなゲームセンターに入っていた。
取り敢えず手分けした後、その一角にある機械の前で、千雨は立ち止まり熟考していた。

(カナミンが出来るのか)
「あのー」
(とは言え、こんな所であいつらに裏の顔を知られる訳にはいかない)
「あのー」
(それに、こんな事をしている暇は無い)
「あのー」
(あくまで、路上シンガーと言うイメージからなんとなくゲーセンに手がかりを求めて入ったに過ぎない)
「あのー」
(に、してもよく出来ている、特にこのカナミン。さすが科学の学園都市)
「あのー」
(一度科学の学園都市を訪れたからには、レイヤーとしてこの機会を)
「あのー」
(だからと言って一人で)
「あのー」
(とは言え、こんな所であいつらに裏の顔を知られる訳にはいかない)
「あのー」
「なんだ、あ?」
「こちら、使うんですか?」

24: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/20(月) 22:54:49.06 ID:VHmObUUq0

ちょっと驚きながら声の聞こえた横を見て、千雨は目をパチパチさせる。
そちらに現れたちょっと年上らしき少女の姿にほんの少し考えて、納得する。
さすがは科学の学園都市、実にハイスペックな案内用ホログラムだ。
それは、科学的な技術力だけではない。

(ストレートの黒髪眼鏡、絶妙なバランスでちょっと頼りない仕草、
清楚な白い制服姿でありながら一点突破のインパクト。シンプルだが実によく分かってる)

「あー、うん、そうだな。えーと、あんた一緒に撮ってくれるとか?」
「いいんですか?」
「ああ、そうしてくれると助かる」

気が付いたら、千雨は自分でも意外な程に気さくに応じていた。
後腐れが無さそうだと言うのもあるが、千雨にして安心して応じる何かがあった。

「こ、これはっ」

かくして、更衣室の中に入った千雨は、改めて科学の学園都市の技術力に驚嘆する。

(あのボリューム、なんと言ってもあのボリューム、ああ、この手の技術ってなると、
多分もっとアレな用途にも流用されてるんだろうな、科学の学園都市とは言っても脳内は、
何と言っても日本の技術革新はビデオデッキしかりインターネットしかり常にその方面から…
ふむ、そうやってあたかも用意された衣装にチェンジする様に…)

25: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/20(月) 23:00:32.63 ID:VHmObUUq0

「なん、だと?…」

(…いやいやいや、おまえちょっとそれどっから見ても悪役用ブラック紐ビキニアーマーだと?
そうか、そうかよ。いかにも大人しいオドオドキャラとのギャップ萌えをピンポイントで狙って来たってか。
ふふ、ふふははは、ふふふははははは、
その分野に手を出すと言う事は誰に喧嘩を売っているのか理解しているのかなこのホログラム?
いいだろう。相手が悪かったな。無限にして有限の空間を ネ申 として君臨して来た
女王ちうランルージュがそのちょーっとはっちゃけた幻想を華麗にぶち殺してやるぜこのド素人が)

「」

(………唖然。いや、ちょっと待て。デカイってのもオドオドキャラってのも分かってはいたが、
愕然。これは、凄い、凄すぎる。何の罰ゲームだ?
つまりあれだ、男子に見られて恥ずかしいのなオドオド爆乳眼鏡キャラが
そのまんま悪の秘密結社の女幹部、それも紐、いっちゃったって事ですかァ?
いやいやいやいや間違いなく純度百パー天然本物の恥じらいとダイナマイト過ぎるナイスバディでもって
悪の秘密結社の紐ビキニアーマー、ね。
ねェェェェェェェェェよォォォォォォォォォっっっっっ!!!
ねェよねェって盛り過ぎってレベルじゃねェって、
その、眼鏡の向こうのうるうると、もじもじした腕と紐の向こうから見えるむっちむちのぱつんぱつんのが
真っ裸フルオープンの一京倍凶悪過ぎるだろおいっ、
アハ、アハハハハ、アヒャヒャヒャアヒャハハハ、エラーエラーエラー
天使!これは天使!!
地上に降臨して全てを焼き尽くす破壊力満点の凶悪過ぎるマジ天使っと、って奴だ…)

「ふむ、虚数学区の核心に迫る者が」コ゚ポッ

「はい、チーズ」

26: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/20(月) 23:06:04.04 ID:VHmObUUq0

 ×     ×

なんとなくちょっと寂しい気もした、それも余りによく出来ていたからなのか。
臨時パートナーが、にこっと微笑んで礼儀正しく頭を下げたかと思うと
気が付いたら早々に姿を消した事もあり、
犬耳小僧が気付いた頃には完璧な証拠隠滅を終えていた千雨は、
結局手がかりの欠片も無かった面々を促して次の行動に移る。

「ここだここ」

次にご一行様が訪れたのは一軒のファミリーレストランだった。

「アリサからも聞いた事あるんだけど、ドリンクバーが豊富で使い易いってさ」

それぞれ適当に食事を注文し飲物を運びながら、千雨がノーパソを取り出す。

「結局の所、ネットしか手がかりが無いからな」
「ARISAってネット中心のシンガーだっけ?」

夏美が言う。

「まあ、今ん所はそうだな。ネットとか学園都市の路上がメイン」
「そんなインディーズでも凄く人気あるんだよね」

夏美が言う。夏美も今の所端役とは言え演劇部員、
しかも、本来が決して主役向きでは無いと自覚しているタイプ。
自分と同年代で、メジャーアイドルならそれはそれで別世界にも見えるのだが、
アリサの様に自ら表に出て切り開こうと言う気概には敬意を覚える。

「なんだよな、歌が清々しいせいか面白い話もあるし」
「面白い?」
「ネット上の都市伝説だな、ARISAの歌を聴いたらいい事がある、って」
「うん、あれから私もネットとか見たけど普通に言われてるね。
それに、あの歌聞いたらなんか、分かる」

千雨の言葉に夏美が反応した。

「さあて、どの辺に出没して、るのかな…」
「な、何!?」

突如、ガタッと立ち上がった千雨に夏美が驚きの声を掛ける。

27: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/20(月) 23:09:13.76 ID:VHmObUUq0

「リアル遭遇だっ!」

叫んだ千雨が、じろっと周囲を見回す。

「…二人分、食うか?…」
「おうっ」

千雨が、小太郎の肩をガシッと掴んで言った。
言い出しっぺとして、自分が退く訳にはいかない。
店を飛び出した千雨は、心の中で叫んでいた。

(不幸だあぁぁぁぁぁ)

流石に残りの面々もそれなりに急いで注文を平らげ、
窓際のテーブルからどがしゃーんと轟音が響き
ぞろぞろと店内の客が引き揚げるのに合わせる様に店を後にした。

 ×     ×

「あっ、いた」

携帯で連絡を取り合いながら、楓と共にとある空中通路に駆け付けた夏美が、
通路の柱の陰で千雨の姿を発見した。

「それで、アリサ殿は?」

楓の問いに、千雨が親指を向ける。

「あれが、アリサさん?」
「ああ。で、あっちは何か、
初見のファンみたいだったけど、馬が合ってるらしいな」

夏美と千雨が言葉を交わす。その視線の先では、鳥撃ち帽を被ったアリサが、
アリサと同年代、高校生ぐらいの少年と談笑している。
黒髪がウニの様なツンツン頭の少年だ。そしてもう一人。

28: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/20(月) 23:12:46.29 ID:VHmObUUq0

「シスター?」
「コスプレだな」

夏美の言葉に、千雨がすぱっと言った。

「ちょっと近くで見たが、マジモンの修道服にあんな装飾あり得ない、
って言うか装飾以前に何の前衛芸術だよありゃ」
「ふーん」

やたら快活そうに喋っている一見シスターなちびっこを眺めながら、言葉を交わす。

「おう、まだいたか」

不意に後ろからガシッと肩を掴まれ、千雨がギョッとして振り返る。

「コタロー君」
「なんだ、一緒じゃなかったのか」
「ああ、ちぃと近場の見晴らしのいい所にな。
いる、いや、いたで」
「いた、って?」

夏美が尋ね、小太郎の表情を見て夏美もやや不安気な表情を見せる。

「魔法ちゅうのは一つに薬草使いや。それは西も東も変わらへん」
「で、ござるな。それをもう少し科学的即物的にしたのが忍びでござる」
「ああ。微かにやけど微妙に癖の違う同じ系統の匂いが三つ、確かに残ってた」
「魔法使いか」

千雨の口調も真剣なものとなる。

「ああ。それも、基本の調合は最近嗅いだな。
日本でも、魔法世界でもない…」

千雨と夏美の喉がごくりと動いた。

「今は逃げられたけど、諦めたかは分からん。
夏美姉ちゃんと千雨姉ちゃんが手ぇ繋いでそのアリサにはっ付いて、
俺と楓姉ちゃんでちぃと離れて別々に追い掛ける、ちゅう事でどや?」

真面目な眼差しの小太郎の言葉に、一同小さく頷いた。

29: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/20(月) 23:16:32.10 ID:VHmObUUq0

 ×     ×

村上夏美はつい先ほども訪れたファミリーレストランで目を丸くしていた。

「ブラックホールかよ」

それは、夏美の隣で呆れ返っている長谷川千雨も同じだった。
取り敢えず、席に空きはあるし、あの様子だとこちらが食事を終えても悠々間に合う、
何よりあれを見ながら匂いを嗅ぎながら店の真ん中で突っ立っているのは精神的に厳しい。

と言う訳で、夏美と千雨は一端店の外に出て、
使用していた夏美のアーティファクトを解除してから店に入り、手早そうなスパゲティを注文する。
だが、結論を言えば、その後も暫くドリンクバーで粘る羽目に陥りひたすら呆れる。

「あーあ、泣き入ったよ」

千雨の言葉に、夏美は苦笑した。
二人が見ていた先では、伝票が天高く上り詰める勢いでとぐろを巻き、
とうとうスポンサーらしきウニ頭の少年がオーダーストップを哀願していた。

「あのコスプレシスターも凄いけど、アリサさんも」
「ああ、アリサの歌は歌っても作っても思いっ切りエネルギー燃焼系だってさ」
「自分で作ってるんだ」
「ああ」

目標の三人組が動き出したのを潮に、千雨と夏美も重い腰を上げる。
歩き出した二人に合わせる様に、やはり皿の山を残した別のテーブルからもふらりと動きがある。

「うっぷ。勝った、筈や」

千雨が、額に手を当てて嘆息する。

「うん、後でちづ姉ぇに報告しとくから」
「ち、ちっと待てぇ、ここは男として退けん所でなぁ…」
「いや、その有様の時点で負けてるって」
「げぷっ、お、恐るべし暴食エセシスター」

30: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/20(月) 23:19:53.95 ID:VHmObUUq0

そこまで聞いて、千雨以下の面々は一斉に他人の振りをする。
当の本人が、足運びだけでスタターッとこちらに向かって来たからだ。

「誰がエセシスターなのかな!?それはイギリス清教に対する…」
「おいっ!………」

入口の方から、例の少年が呼ぶ声が聞こえる。
見た目からして、そのウニ頭の少年が保護者っぽい。
一方、小太郎に詰め寄ったシスターは、ちょっと首を傾げて小太郎が被っていた帽子に視線を向ける。

「行くぞーっ」
「待つんだよーっ!」

シスターがタタターッと立ち去り、一同ほっと胸を撫で下ろす。

「イギリス清教?あいつ、マジでシスターだったのか?

千雨がぽつりと呟く。


31: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/23(木) 01:27:51.74 ID:KEsJEL6Z0

 ×     ×

長谷川千雨は、一般人であり一般人ではない。
その事はとうに自覚している。
非常識な環境を自覚し、その中で一般人でありたいと思い、それを口に出しながら、
自らの意思で魔法の世界に関わりを持った。
今更違う、と言い切るつもりはない。諸々の事は長谷川千雨の意思だった。

世の中、いいトコ取りなんて都合のいい話は無い。
魔法が奇蹟であり希望であるのなら、そこには必ず対価がある。
取り敢えず、その事は暑すぎる夏に何遍か死にかけた辺りで勘弁してくれ、
と、長谷川千雨は言っておく、今の所は。

自分の意思で魔法に関わり、
魔法の世界の大騒動から大切な人達を引っ張り戻して生きて帰って来た。
だからこそ思う。
リアルに姿を現してリアルの住人を魔法を使って襲っている魔法使いを見て、だからこそ思う。

「何やってんだてめぇらあぁぁっっっっっ!!!」

32: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/23(木) 01:32:56.19 ID:KEsJEL6Z0

 ×     ×

「うわぁー…」

ほんの少し前、村上夏美は、うっとりと聞き入っていた。
それは、隣で手を繋いでいる千雨も同じ様子だ。
ファミレスを出た後、アリサ以下三人組は夜の公園を訪れていた。

石段のちょっとした丘を上ると池がある。
池の畔で、夏美は美しいメロディーを聴いた。
それは、まだメロディーだけだったが、
紛れもなく人の心を震わせるARISAの歌だった。

に、しても、このメロディーでムードは最高潮だ。
シスターがちょこちょこ一緒にいるのもこうなると可愛らしいぐらいで、
見た目には、アリサとウニ頭が全くもって実にいい雰囲気を醸し出しているとしか言い様がない。

夏美はいつしか天を仰ぎ、その頭の中では、
自分がもうちょっと大雑把なツンツン頭と夜の公園で雰囲気を出している構図が急速に具体化する。
あ、駄目、と言うそのシーンは、後一歩の所で、ぐいっと引っ張られる手の感触にぶち壊される。

「へ?」

踵を返す千雨の必死の形相。
見ると、池が洪水を起こしていた。

「はいっ!?」

夏美は叫んだが、足は勝手に動いていた。伊達にあの夏休みを生き残った訳ではない。
その経験からも言えるのだが、洪水と言うにはちょっとおかしい。
そもそも、あの池が洪水を起こしている時点でおかし過ぎる。

何か、生き物の様な巨大な水の塊が池の中から噴出し、そして鞭打つ様に襲いかかって来ている。
とにかく、流石に危ないと言う事でとっさに繋いでいた手を離し、
二人で池の畔から石段を転がり落ちる。

33: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/23(木) 01:38:07.17 ID:KEsJEL6Z0

「つ、つーっ、あ、アリサ…」

転落が済んだ所で、夏美が周囲を見回す。
どうやらアリサは無事、あのウニ頭、なかなかのナイト様だ。
そこで、気付いた。千雨の表情に。
顔だけ上げた千雨の視線の先には池が見える。
その池の中では、突如出来上がった噴水の上に、

「魔女?」

夏美が呟く。噴水の上に「立っている」のは、見た目も行動もまさしく魔女、
絵本の魔女が自分達ぐらいに若くなった様な姿の金髪の魔女がそこには立っていた。

「水のエレメントを操る術式なんだよっ!」
「って事は魔術の連中かっ!」

近くの叫びの応酬に、夏美と千雨は改めて顔を見合わせる。

「やっぱりこっちかよ…」

夏美は、隣で呻く千雨の目がつり上がるのを見る。
千雨の右手はポケットの中でぎゅっと握られていた。

「あいつら、どこに…」
「ちょっ!」

千雨が味方を探して周囲を見回す。
ウニ頭が、叫びを漏らした夏美達に気付かぬまま石段を駆け上がる。

ごうっ、と、風が聞こえた。これも夏美と千雨の経験から言って、只の風ではない。
夏美は石段に隠れながらそちらを見る。
池の畔に上り、池の魔女に駆け寄ろうとした少年の足下がボコッと盛り上がる。
それは筒となって少年の両脚を拘束する。

池の魔女が、何本のも水の槍を生成する。
離れた所にいる風の魔女がそれを吹き散らし、その猛スピードの軌道を少年に向けた。

「やああっ!」

夏美の叫びは声にならなかった。
相当な威力だったのだろう。土煙が上がり、それが晴れた時、
夏美も千雨も凄惨な光景を覚悟した。

34: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/23(木) 01:41:12.42 ID:KEsJEL6Z0

「え?え?」

夏美の経験から言っても、どう見てもほぼ無傷と言う少年の状態はどう見てもおかしい。
少年が何か、例えば夏美も知ってる防御魔法とかそういうのを使った形跡は無い。
そして、長谷川千雨も、その事を理解していた。

「…けるな…」

夏美がうめき声を聞いた、と、思った時には、

「長谷川っ!?」

長谷川千雨は駆け出していた。

 ×     ×

目の前の光景に、水の魔女メアリエは目を丸くしていた。
あり得ない、あの攻撃を受けてほぼ無傷、そんな事はあり得ない。
見た所、普段着の生身の少年、魔術的な防御を使用した形跡も無い。

とにかく、驚いている暇はない。
次の攻撃を、と、水のエレメントたるウンディーネの使役を続けようとした時、
メアリエは新たな怒号に視線を向けた。
その相手、こちらも普段着の眼鏡の少女を視界に捉えたのも一瞬、

「いっ!」

鋭い痛みと不快感がメアリエを襲う。

「これはっ!?」

何匹もの小動物が、宙を浮いてメアリエをつついていた。
つついていたと言うのはメアリエの感触の問題であり、
気絶する程ではないがパチパチと電撃を放って付きまとって来るのだから、
馬鹿にならない痛さだしひたすらにうっとうしい。
しかも、水使いのメアリエでは防御に相性が良くない。簡単な防御ではそのまま貫かれてしまう。

35: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/23(木) 01:44:36.39 ID:KEsJEL6Z0

「メアリ、えっ!?」

メアリエよりも幼い風貌体格に隙間の多い蠱惑の黒妖精衣装を身にまとった風の魔女ジェーン、
メアリエを援護すべく近くのビルの上から動こうとして、バッと横を見た。
ジェーンが手にした扇子が巻き起こす超怪力ってレベルではない暴風が、
手裏剣と言うレベルではない鉄の塊を吹き飛ばした。
ゾクッ、と、何かを感じたジェーンは、更に振り向き様にその暴風を巻き起こす。

「くっ!」

前に進もうとしたウニ頭の脚を、再び土が拘束する。
だが、次の瞬間には、それを行った土の魔女、やはりメアリエより年下、似た様な黒妖精衣装だが
モンペチックに膨らんだズボンが可愛らしいマリーベイトとは逆方向から強力な衝撃波が地面を揺らす。
衝撃波を受け、ウニ頭の拘束がバカンと破裂した。
衝撃波の出所から、学ランにニット帽の小僧っ子、犬上小太郎が駆け付ける。

「いい漢やな、姉ちゃんらの事頼むわ」
「…?…分かったっ!」

漢と漢が、すれ違った。

 ×     ×

「っとっ!?」

マリーベイトへと走る小太郎は、間一髪、
地面から脚を狙って巻き付こうとした土の塊を交わしてひらりと跳び上がる。
そして、糸つき棒手裏剣に繋いだ札を地面に放ちながらもごもごと唱える。

「…ビリチエイ…ソワカ!」
「くっ」

着地した小太郎が走り出し、その先にいるマリーベイトは地面にベタッと掌を付いて四つん這いになる。
小太郎が今正にマリーベイトを摘み上げようと言う所まで接近したその時、
ドカンと巨大なハンマーで地面をぶん殴ったかの様な衝撃に小太郎が一瞬バランスを崩す。

その間にマリーベイトが横に逃げ、
追跡しようとする小太郎の前に人の背ほどもある土柱がズガンと突き上がる。
土柱が瞬時に小太郎の四方を囲み、その中心から更に猛スピードで何メートルもの土柱が突き上がった。

36: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/23(木) 01:47:42.68 ID:KEsJEL6Z0

「ははっ、その程度の東洋魔術で私のノームにかなうと思ったかっ!」
「そやなぁ」
「!?」

ほぼ真横にニッと笑う小太郎の姿を見て、マリーベイトは恐慌して横に走った。

「俺、こっちの方が得意やさかい」
「あ、あわわわわ…」

二人の間に突き上がる土柱を次々と叩き壊し蹴り砕き
ろくな障害も感じさせずに接近する小太郎を前にして、
マリーベイトは確実に震えを自覚する。

「くっ!」

マリーベイトはほぼ本能で、両腕を顔の前で組んでいた。
だが冗談ではない、そもそも、エレメントの使役のために肉体的な条件を削っている部分がある。
それであんなものを食らった日には。

「………あーーーーーーーーうーーーーーーーーーーーーー………」
「うっし!」

気が付いた時には、マリーベイトは宙を舞っていた。
小太郎の手が下の方で空を切ったかと思うと、そちらから吹き上がった強風に吹き飛ばされていた、
一番妥当な所ではジェーンと同系列の術者と言う事になるのだが、
力ずくでやった、と言う仮説は考えたくない。
とにかく、とっさに土の柱を後方に突き上げ、その上に背中から着地する事に成功した。

37: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/23(木) 01:50:54.43 ID:KEsJEL6Z0

「!?」

ほんの一瞬安堵した、ほんの一瞬。
だが、次の瞬間には、マリーベイトはいよいよもって顔から血の気が引く心地と言うものを実感する。
マリーベイトのいる柱の上に、四方から黒ずくめが殺到していた。

その黒ずくめは黒い外套に白い仮面、何よりかにより、
マリーベイトらの立場なればこそ分かる事だが、
一番肝心な事としてこいつら人間、否、生物ですらない。
せめてほんの何秒かでどうにかなったかも知れないのだが、流石に時間が無さ過ぎた。

「ちぃとここ頼むわ」

40: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/23(木) 22:30:59.73 ID:KEsJEL6Z0

 ×     ×

「ええいっ!」

メアリエが固形化した水の障害物をふるい、まとわりつく小動物を強引に振り払う。
次の行動に移ろうとした時、突如、足下が頼りなくなった。

「!?」

ウンディーネの使役により臨時の噴水となり、そしてメアリエがその上に乗る事が許されていた、
池の水にもたらされていたそれらの効果が突如として解除され、
只の水と化して崩壊する噴水に自分の体が沈んでいる事をメアリエは理解する。
何とか水から顔を出したメアリエは状況を理解する。

「スペル・インターセプト!?」

ビルの屋上で事態に振り回されていたジェーンも又、
自分の感想について語彙を間違えていない筈だと思い直す。

「空を、跳んでる!?」

突如現れたノッポの妨害者は、ジェーンの扇子から吹き荒れる突風を交わしながら、
丸でそこに足場がある様にジェーンの周囲で空を「跳んで」いた。

「くっ!」

とっさに下から突風に乗ってジェーンも又飛び上がり、
その下でぐるぐるとぐろを巻いている鎖から逃れる。

「ええいっ!」

その途端、目の前ににっくき妨害者の糸の様な目が姿を現した、
かと思ったらその姿は即座に消滅する。
ハッとしたジェーンが振り返りざまに扇子をふるい、
飛来していた手裏剣を遥か彼方に吹き飛ばす。その視界の先には既に手裏剣の元の持ち主の姿は無い。

41: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/23(木) 22:36:26.84 ID:KEsJEL6Z0

 ×     ×

何とか術を再開出来そうだ。
スペル・インターセプトの中断を確認したメアリエが池から足場の水柱を突き上げ、
再び柱の力で浮上してブチギレモードの禍々しき凶器を生成しようと力を込める。

だが、イザ放たんとしたその時、ガクンと強い衝撃がそれを阻む。
今度はスペル・インターセプトではない。もっと力ずくの妨害。
メアリエが出所に目を向ける。
そちらでは、池の畔に中学生ぐらいの少女が立ってこちらを睨んでいる。

帽子の下で三つ編みツインテールに結っているのは綺麗な黒髪で、
お似合いの眼鏡も合わせていかにも日本人の女の子。
だが、問題は、そのゴシック調の黒い装束に、
何よりもこちらに向けているステッキ、その先の大きな球体。

「大丈夫かっ!?」

鳴護アリサは、前と横から同時に同じ事を叫ばれて、取り敢えず前を見る。
つい先ほど出会ったファンの男の子、上条当麻が駆け戻って来た所だ。

何だか訳の分からない状況だが、とにかく、文字通り死ぬほど危ない状況でも
自分達のために身を挺して駆け出して、こうして戻って来てくれた。
それは十分過ぎる程に分かる。

そして、横から現れたのはちょっと年下かと言う二人の少女、
赤毛っぽい癖っ毛のショートカットの娘と眼鏡を掛けたセミロングの娘。

「何か心当たりはっ!?」

上条に問われても、アリサは首を横に振る事しか出来ない。
その時、更なる闖入者の登場にアリサは目を丸くした。

「メイちゃん!?」

すぐ近くの石段に、不意にスターンと着地した少女を見て、
叫んだのは村上夏美だった。

42: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/23(木) 22:41:47.94 ID:KEsJEL6Z0

「なんだよっ!?」

叫んだのは上条当麻だった。
目の前に突如登場した最新キャストは、一見するとこちらの新規の二人同様御坂ぐらいの歳か、
後ろ髪を巻きツインテールに束ねた、年相応に可愛らしいと言える女の子だったが、
問題は余り普段着とは言い難いゴシック系の黒い衣装にトドメは手にした箒。
この状況でそんな姿の佐倉愛衣に敵意を持つなと言う方が無理がある。

「ここは危険ですっ!急いで…」
「だから…」

石段から池の方を向き、後ろを向きながら告げる佐倉愛衣と苛立ちを露わにしている上条当麻は
明らかに噛み合っていない。
その間に、長谷川千雨と村上夏美は目配せを交わしていた。

「なっ!?」
「近くの人と手を繋いで下さいっ!」

夏美と千雨が直接実行に移した事もあって、どうにかチェーンが繋がる。

「…村上さん、早く一般人を隠して下さいっ!」
「隠れてない?」
「ですからっ」
「やっぱり、なんか上手く発動しないっ!」
「はあっ!?」

愛衣と夏美が焦った口調でしまいに怒鳴り合う内に、夏美の腕がガクンと重くなる。

「存在感をあいさよりも小さくしてそこにいる事を分からなくする術式なんだよ、
術者と繋がってる人に効果が発生するんだよっ!」

夏美がそちらを見ると、シスターが夏美の腕に縋り付いていた。

「…俺達を守ってくれるって事でいいんだなっ!?」
「はいっ!」
「分かったっ!そのまま続けてくれっ」
「分かりました」

44: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/23(木) 22:53:58.20 ID:KEsJEL6Z0
 
 ×     ×

どうやら視界から消えて、ほっと胸を撫で下ろして池に向かおうとした愛衣が、
近づく気配にギクッとする。

「あ、あなた」
「ああ」
「戻って、隠れて下さい」

何か、だるそうなぐらいの気配で近づく、先ほど半ば怒鳴り合ったウニ頭の少年に、
愛衣は押し殺した様な口調で警告する。

「ごめん、それ無理」
「…男だから、ですか?」
「いや、体質的に」

「あなた、素人ではありませんね。
ウンディーネ、シルフ、ノーム、術式から考えても後一人いる筈です」

自分に背を向けたままの愛衣に近づきながら、上条は、
きびきびとした愛衣の声に徐々に信頼を覚える。
事情により自らの過去の多くを知らない上条だが、
その少なくなった過去の中に、こういう声が幾つもある。
大きな力を持って命を左右する仕事に責任と誇りを持っている。
今はそれで十分だと上条は直感していた。

「余り私から離れないで下さい。特に、迂闊にその辺の物陰に入らないで下さい。
私の予想通りだと、死にます。灰も残さず」
「物陰?灰も残さず…おいっ、お前の予測って…」

45: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/23(木) 22:59:15.38 ID:KEsJEL6Z0

 ×     ×

「ウンディーヌ…」
「ラプ・チャプ・ラ・チャップ・ラグプウル…」

類似系統の魔術、単純な力比べだった。

((出来る…))

互いに池の水を支配し相手を打ち倒さんとする魔術が
ギリギリと押し合いへし合い今にも弾けそうにせめぎ合う。
その意味で、タイミングとは言え水柱を維持したまま挑んだメアリエは少し後悔する。
日本人にして想像以上に出来る相手だ、本来余力を使っていられる状況ではないのだが、
今更足場を緩めたら当然真っ逆さまだ。

かと言って、池の畔からメアリエと一進一退の攻防を展開している夏目萌通称ナツメグとて
コメカミから背中からじっとりと汗を掻いて、決して楽観できるとは思っていない。
相手は相当な実力者、互いに一番よく知る分野だからこそそれがよく分かる。

しまいに、二人の間に当たる池の縁近くで爆発音と共に水柱が上がり、
メアリエは崩壊した水柱に呑まれて沈まない深さの池に浸かり、
ナツメグもその場に尻餅をつく。

46: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/23(木) 23:02:47.93 ID:KEsJEL6Z0

顔を上げたメアリエは、ナツメグの背後から現れた増援を見て歯がみをする。
現れたのは、ナツメグよりも二つ三つ年上であろうか、
すらりとした背の高いスタイルにロングの金髪、日本人が言う所のハーフ美少女にぴったりな姿形。

最悪なのはゴシックの黒衣に影法師を何体も従えていると言う事だ。
黒い外套に白い仮面の影法師、一見すると仮装行列だが、
影法師と言うのは例えでもなんでもなく、

(…操影術者…)

メアリエはぐっとそちらを見る。その、やや誇張された人間大に実体化された影法師は四体、
しかも、内一体は黒い触手で拘束されたマリーベイトを引っ立てている。
メアリエが感じ取れる様々な事からも、金髪の術者が相当な実力者である事は分かる。
対して、メアリエはせめて少し休めば、
と、思うが、一連の闘いで魔力を使い果たした今の自分は、素人相手でも危ないぐらいだ。

「お姉様」

ナツメグに声を掛けられ、金髪の操影術者高音・D・グッドマンは頷く。

「どこのお馬鹿さんかは知りませんが、
よりにもよって科学の学園都市で一般人を巻き込んでの馬鹿騒ぎ、
こちらの作業に支障が出ます」

高音が凛とした口調で言い、右手を掲げる。

「拘束させていただきます!」

手ぶらの影法師がばばばっと池に走る。

「!?」

メアリエに殺到した影法師達が、到達しようという正にその時、
横殴りの火炎波になぎ倒された。

「来ます!」

愛衣が叫びと共に右足を引いた。

48: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/27(月) 01:43:37.42 ID:1xJ7PkC00

 ×     ×

「紫炎の捕らえ手っ!」

背の高い赤毛の男がマントを膨らませて突っ込んで来る。
赤毛マントの手からごうっと炎の剣が立ち上り、
愛衣の放った捕縛魔法がその炎剣に押し潰された。

愛衣が速攻の無詠唱で幾つもの火炎弾を放つ。
その火炎弾が迎え撃つ火炎波に呑み込まれる。
愛衣は、顔の前で箒を立てて、たっぷり余勢を残した火炎波に対抗して防壁を張る。

「麻帆良が探りを入れているとは聞いていたが…」
「どういう事ですか?」

相手の呟きはよく聞こえなかったが、とにかく愛衣はぐっと前を見て問いを発する。

素人じゃない。
上条当麻は、その言葉をそっくりそのまま返してやりたい所だった。
赤毛マントのステイル=マグヌスの事は知らない間柄ではない。
従って、今ステイルが振るっている炎剣の事も知っている。

上条の目の前で押され気味の愛衣だが、それでも、
火力そのもので触れたら命に関わる炎剣を箒でさばいて善戦するなど、
技術だけではなく素人に出来る事ではない。
ごうっと横薙ぎの炎剣を交わして、愛衣は後ろに跳躍する。

「!?しまっ!…!」

その愛衣の体は、その辺に幾つも並んでいる石造りのアーチの一つにすっぽり飛び込んでいた。

「………」

死すら覚悟していた愛衣が目を開くと、
体ががっちり抱き留められている。

49: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/27(月) 01:48:50.42 ID:1xJ7PkC00

「…あ…」
「迂闊に物陰に入るな、って言ったのはお前だろ?」
「え?」

状況を確認する。
愛衣は、上条当麻の左腕に抱き締められた状態で、アーチを出て地面に転がっていた。
アーチの中を見て、改めて愛衣の顔から血の気が引く。

発動前に間に合ったのか、そんな暇は無かった筈だがそうとしか思えない。
とっさに全魔力を防御に回して、それでも生命維持を最優先、と言う状態だった筈だが。
とにかく、生身の人間が発動後に飛び込んでいたら、死ぬどころか消滅しかねない。
それでもなんでも、飛び込んで助けてくれたのは確かな訳で。

「どういう事だステイル!?」
(知り合い?)

ダッと立ち上がった上条の怒号に、ようやく身を起こした愛衣が考える。

「Fortis931」
(魔法名、完全に本気)
「魔法名、本気かよっ!」

とにかく、愛衣は慌ててその場から半ば蛙の様に後退する。
その後であの少年を、と見返して息を呑む。

「何?」

愛衣は思わず呆然と突っ立っていた。
ステイルの炎剣は、たった今自分も闘ったばかり、
その方面に多少の覚えがある愛衣でも対処は至難の業の生半可な威力ではない。

だが、あのウニ頭の少年上条当麻は、魔法の欠片も見えない丸腰で
ステイルの「魔法名」つまり「殺し名」を相手にして、
原形を保っているどころか生きているどころか取り敢えず大ケガ一つしていない。

「…メイプル・ネイプル・アラモード…」

愛衣が魔法の始動キーを唱える。
押されているのは上条だが、それでも何とか攻撃を凌いでいる、仕掛けるなら今だ。

50: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/27(月) 01:54:10.16 ID:1xJ7PkC00

「いいぜ、お前ら魔術師が好き勝手やろうって言うんなら…」
「紫炎の捕らえ手っ!」
「!?」

ステイルが発動を察して引きつった顔を愛衣に向けたが、
その時には緩い螺旋の炎がステイルに向かっていた。

「その幻想をぶち殺す!!」
「!?」
「…へっ?」

愛衣は、一瞬の満足の後、ぽかんとそちらを見ていた。
確かに、ジャストタイミングで捕縛魔法がステイルを捕らえた。
筈だったのだが、その次の瞬間には、
手慣れた魔法、十分に練られた筈の炎の戒めが綺麗さっぱり消滅していた。

「…さて、馴れ合うつもりは無いんだが。
君には礼を言うべきなのか、ねっ!」
「ちっ!」
「…あわわわ…」

意味不明の事態に愛衣の脳内処理が急ブレーキしている間に、
勢いを取り戻したステイルの炎剣が上条を追い詰めていく。
対処しようとしても、捕縛魔法を使わずにステイルをどうにかしようとした場合、
その上で上条を巻き込まない職人芸は容易な事ではない。

ステイルに追い込まれ、上条の体が、先ほどとは別の石造りのアーチの中に飛び込む。
二人の距離が開いた、そう見た愛衣が出せるだけの無詠唱の火炎弾をステイルに撃ち込むが、
それはことごとくステイルの炎剣に呑み込まれた。

「いけないっ!」

愛衣がもどかしく思いながらも疲労した肉体から魔術を再調整している内に、
ステイルの攻撃が上条のいるアーチに集中している。
猛攻撃を前に上条は動きを封じられる。
愛衣の耳にも、工業レベルの高温によりアーチの軋む嫌な音が届くぐらいだ。

51: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/27(月) 01:59:17.62 ID:1xJ7PkC00

「メイプル・ネイプル・アラモード…」

詠唱と共に、愛衣は斜めに跳躍した。
愛衣の箒から、強化された炎の帯が発せられる。
それは、ステイルの横を斜めに走り、防護の檻となって上条を取り巻く。
が、取り巻いたと思った途端、檻は雲散霧消した。

「どうして?」

ぺたんと座り込む愛衣をチラッと横目に入れて、ステイルは僅かに嘆息する。

「おいっ!」

アーチが業火に包まれるのを見て、千雨も夏美も青ざめて硬直する。
その千雨の叫びを背に、アリサが隠れ身のチェーンを離れて駆け出していた。

「!?」

愛衣が魔法で身体を強化して駆け出す。
その目の前で、アーチが、一際嫌な音を立てて崩壊する。

(間に合わないっ!)

愛衣が魔力を練る。最大出力の物理的ショック弾で上条を体ごと吹っ飛ばす事を考える。
それだけで大ケガしかねない威力だが完全圧死よりはマシだ。
だが、それ以前に頭の隅に引っ掛かるのが先ほどからの上条の特異現象。
だが、考えている暇は無い。

「やめてえぇぇぇぇぇっっっ!!!」

52: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/27(月) 02:02:27.38 ID:1xJ7PkC00

 ×     ×


「!?」

一瞬、石段を上がって立ち尽くし悲鳴を上げたアリサに目を向けた愛衣は、
視線を戻し、目撃した。奇蹟を。

横棒の形で上条の上に降り注ごうとしていた石の柱が
空中でバカンと真っ二つにへし折れて上条の左右の地面に突き刺さる様に落下した。
そして、ステイルはあからさまに嫌な顔で舌打ちをしていた。

そのステイルが振り向き様に炎剣を振るい、迫っていた触手の束を払いのける。
振り返ったステイルと高音が対峙する。
その間に、解放されたマリーベイトとメアリエが入って四角形となり、
高音の隣にナツメグがついた。

その側に、ジェーンと長瀬楓がスターンと着地した。
涼しい顔の楓の前で、ジェーンは両膝を手で押さえて荒い息を吐く。

「Stale Are you…」
「日本語で結構、君のアメリカ英語とまともな日本語ならね。
もっとも、答えるつもりもないが」

問いかける愛衣に、ステイルはすげなく応ずる。

「この科学の学園都市で魔術のもめ事を起こしておいて、それで通るとでも?」

高音が続いた。

「このタイミングでと言う事は、そちらの狙いも同じと言う事か」
「質問で返さないで下さい」
「だから答えるつもりもない。彼女の事はこちらで扱う、退いてもらおう」

「たまに勘違いしている人がいる様ですが、
魔法協会が十字教の下についたと言う事実は存在しない」
「魔法使いが僕らを妨げると?」
「押し通りますか?」
「ちょっと待てえっ!!」

ズンズン盛り上がるステイルと高音の会話に怒声が割って入った。

53: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/27(月) 02:06:05.42 ID:1xJ7PkC00

「何やってんだてめぇらっ!?
何アリサを魔法使い同士の景品にしてやがるんだてめえらはっ!?」
「ん?全く、困ったものだ」
「!?」

駆け上がって怒号を上げた千雨の目の前で、ステイルの炎剣を愛衣の箒が抑える。

「少しは場数を踏んでいるか」

単に反応出来なかっただけだが、
腰を抜かして漏らさなかったのが上出来だと言うのが千雨の実感だった。

「次は無いでござるよ」

それは、仲間も滅多に聞かないゾッとする様な声だった。
ステイルもこれまで経験した修羅場が無ければ、
腰を抜かして漏らすイメージも決して遠くはないと実感する。
ステイルが鼻で笑って両手を上げ、苦無を手にした楓がステイルの背後から離れる。

「日陰で黙々と人助けをしていると思うから見逃してやっているものを、
表裏の管理もろくに出来ないでは、少し考え直す必要があるのかな」
「魔法協会が十字教の許認可団体だとでも思っているのなら、
まずその幻想をブチ…」
「今は、目の前のリアルを優先した方が良さそうだぜ」

ステイルと高音が宣戦布告を告げようとした正にその時、
親指を後ろに向けた千雨の言葉に、周囲の面々も周囲を見回す。

54: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/27(月) 02:09:39.01 ID:1xJ7PkC00

 ×     ×

「こないな所で高みの見物か、姉ちゃん」

とあるビルの上、犬上小太郎は不敵に笑った。

「!?」

相手がゆっくり、悠然と振り返るのを見届けた小太郎が一踊りして、着地する。
着地した小太郎が、左腕の裂けた学ランの中をぺろりと舐める。
その小太郎が見据えた相手は、たった今、悠然と小太郎の方に向き直した美女だった。

長い黒髪を後ろで束ね、臍上をばっさりカットした白いTシャツに、
こちらこそ片脚をバッサリ切り落としたジーンズと言うラフなスタイルは、
縦には目を引く背の高さ、それでいてバンとばかりに出る所の出た
抜群のプロポーションに見事にはまってる。

そんな長身美女神裂火織が、それこそ平均男性の背丈を上回る長さの刀、儀式用の令刀を構える。
その姿は、イカレてる様だが野性味溢れるファッションも相まって実に凛々しい。
小太郎が駆け出し、令刀の鯉口が切られた。
ニッと笑った小太郎は、ダンスの様にキレた動きを見せながら神裂に向けて突き進む。

「!?」

小太郎の元いた場所から神裂までの中間点辺り、そこで小太郎が屋上の床に右手を着く。
右手を中心に床に影が広がり、二次元から三次元へと実体化を始める。
影から現れた黒狗の群れが小太郎の露払いの如く神裂に躍りかかり、
そして瞬時に弾かれる様に消滅する。

「狗神ですか」

呟きながら神裂は、タッ、と垂直ジャンプする。
その下で、体のあちこちからたらりと血の筋を溢れさせた小太郎が、
カポエラだが骨法だかを見真似に応用した超低空キックを空振りさせていた。

トン、と、神裂は屋上の縁に丸で危なげなく片足で直地した。
着地した、と、思った時には、神裂の姿は小太郎の目の前にあった。
半ばリンボーダンスをして身を交わした小太郎は、じっとり走る冷や汗をごまかす様に口笛を吹く。

その小太郎の上空を突き抜けた神裂の脚が、
小太郎に向けて突き、薙ぎを浴びせようと吸い付く様に繰り出される。

55: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/27(月) 02:12:56.97 ID:1xJ7PkC00

「や、やるやんけ」

とにかく、一瞬でも気を抜いたらブチ抜かれる、その恐怖と闘いながら屋上を踊り、
ようやく大きな動きで間合いを取った小太郎は強がってはいるが、冗談ではない。

まず、絶対交わしたと思った脚の薙ぎが鋭く顎をかすめ脳を揺らされた。
それ以外にも、クリーンヒットは確実に避けている筈なのに、
神裂の見事な脚線美が閃く度に吐き気がする程にダメージが蓄積している。
それを、蹴り技だけでやってのけた上に実力の何分の一にもなっていない筈。

「その歳にしては筋がいい、相当な鍛錬と実戦をくぐり抜けた動きです。
だからこそもういいのでは?」
「何?」

歯牙にも掛けない余裕綽々、むかっ腹の一つも立てたくなるがそれを当然とする力量。
小太郎の肉体と感情がぐるぐる回る。

「例え、その帽子を不要にした所で私には指一本触れられない、とうに理解している筈」
「言うなぁ、ああ、いたなそういう事言われたわ、ついこないだの事の筈やけどなぁ」

小太郎の表情に、神裂は一瞬こぼれそうになる笑みを呑み込む。
いい目だ、違う場面であれば存分に稽古を付けてやりたいものだと。

「なかなかおもろい手品やったけど、そのデカブツ只の手品ちゃうやろ。
紐付きやなくてもそんなん使うのあんただけちゃうからなぁ。
目配り足運び、みんなよう分かる。
抜いてみぃやオバ――――――」

59: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/29(水) 01:38:29.14 ID:lSle65l40

 ×     ×

ステイルが、ばっと周囲を見回した。
周囲は、甲虫と鴉をミックスした様なデザインの黒い機械に囲まれていた。

「我々は統括理事会より認可を受けた………」
「マジかよ…」

長谷川千雨は、麻帆良学園都市の住人である。
科学の学園都市とは系統が違うが麻帆良学園都市も先端科学の街であり、
目の前でアナウンスしている機械が、一人乗りの有人多機能メカであろう、と言う大体の見当は付いた。

加えて、千雨は嗜みとしてフィクションにもそれなりの造詣がある。
更に、丸でフィクションみたいな変な世界にも実体験としてそれなり以上の知識を持っている。
科学の学園都市に就いても、ネット上で可能な限りの下準備はして来た。

科学の学園都市は実質独立国家であり、独自の治安システムを持っている。
その一環として、言わば民営にして公に近いタイプの警備部隊が存在する。
情報の欠片は持っていたし、そう考えるとしっくり来る。

「………「黒鴉部隊」である。これより特別介入を開始する」
「千雨殿、皆をっ!」
「分かった!アリサっ!!」
「は、はいっ!」

楓に促され、千雨がアリサの手を引いて逃げる。
その楓の目の前では、「黒鴉部隊」の機動メカが一台、楓を捕らえようとして
身を交わした楓の放った鎖を食い込ませ不快音を立てて軋んでいた。

60: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/29(水) 01:43:58.30 ID:lSle65l40

「メイ、ナツメグッ!」
「はいっ!」

高音が踵を返し、後の二人を連れて逃走を開始した。

「ええいっ!」

思い切り跳躍した愛衣が、強力な火炎魔法を帯びた箒を力一杯振り下ろす。
丸で漫画かゲームの巨大ハンマーでも食らった様な一撃に、
その目の前を跳躍していた機動メカが一台ふらふらと着地して停止する。

 ×     ×

神裂が瞬時に飛び退き、小太郎に背を向けた、
次の瞬間には、ビルの外から神裂の目の前の空中に「黒鴉部隊」のメカが現れ、
神裂とメカの間で爆発が巻き起こる。

「………やりますね………」

呟いた神裂は、そのまま下のステイルに撤退を指示する。
こんな連中まで関わって来たとなると、
これ以上引き延ばせばここの正式な警察機関である警備員の介入を招く。
そもそも正規の許可を受けての出入りですらない、
ここでは存在自体が御法度の魔術サイドとしては論外の事態だ。

「あなたも、背中を狙わなかったのですね」
「アホ抜かせ」

ぼそっと言った小太郎は、
ほんの一瞬とてつもない気が神裂から噴き上がったあの時、
少なくとも10万3千通りは展開された自分のサイコロステーキの妄想を汗と共に拭い去る。
すれ違い駆け抜ける神裂を、小太郎はやる気なさげに手を振って見送った。

61: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/29(水) 01:49:17.86 ID:lSle65l40

 ×     ×

「鳴護アリサに関わるな、死ぬぞ」

その少女は、黒いライダースーツの様な強化服がよく似合っていた。
歳は余り自分と変わらないのだろう、セミロングの黒髪でキリッとした雰囲気。
見た目は美人の部類に入れてもいいだろう。

だからと言って、機動メカから出て来た少女に告げられた言葉に納得した上条当麻ではない。
だから、懸命に追走し、通りの真ん中で停止したメカから現れた黒い少女に散々に食い下がり、
その結果がこの最後通告だ。

そして、少女は警告した先からオートマチックの拳銃を抜いている。
いやいやいやいや、言ってる事とやってる事が違う、
右手以外は一般人である筈の上条さんとしてはあんだけ言っといて今殺す気ですかあんた、
と、内心の突っ込みが口から出る前に、少女は無造作に発砲する。

「よう」

着弾した建物の陰からメカの機体に跳び乗った小太郎が不敵な笑みを見せた時には、
拳銃は右手から左手に移り、ナイフが突き、退いていた。

「ナイフと拳法をいっぺんに使う、あっちの軍隊の流儀やな」
「貴様も素人ではないな」

既に拳銃をしまい、女性にはごついナイフを片手に構えを取る少女と、
急所こそ外した一撃を交わした小太郎が向き合う。
少女もコクピットを完全に離れ、機体上での攻防が開始された。

鋭い刃を交わす小太郎の動きには、まだ余裕があった。
しまいに、小太郎はナイフを手掴みにしてへし折って見せる。
だが、少女は表情に驚きを見せながらも即座にナイフを捨て、
小太郎の脇腹目指して右脚を跳ね上げていた。

「いい判断や」

小太郎は回転しながら大きく後ろに跳び、通りに着地する。

62: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/29(水) 01:54:39.07 ID:lSle65l40

「!?さっきのかっ!」

先ほど、屋上での片脚ジーパン姉ちゃん神裂火織との攻防は見ていた。
正確に把握した訳ではないが、とにかくワイヤーに繋がった爆弾、
実際にはレアアースペレットが幾つも放たれ小太郎の上で展開しているのは確か。

「おいっ!」

離れた所で事態を見守るしかなかった上条当麻の叫びも虚しく、
レアアースペレットはオレンジ色の光を放ち爆発する。
その跡には、肉片一つ残っていなかった。

「逃げたか」

 ×     ×

「な、なんなのよ、こいつ」

夏美が震えながら呟く。
高音チーム、ステイルチームはそれぞれに逃走。
ステイルが工業レベルの高温火炎で、メアリエが消火栓の水を暴走させ、
マリーベイトが土の筒を絡めてメカを文字通り足止めしながら逃走するのを、
上条当麻も追走して姿を消した。

長瀬楓も別の機動メカに追われて姿を消し、残ったのは火力最低少女四人組。
夏美と千雨、アリサにシスターが手を繋いで公園に残っているのだが、
その理由はひとえに動けないから。
黒い機動メカが一台、夏美達の周囲をうろうろして離れようとしない。

「センサーだ」

千雨が言った。

「このアーティファクトは存在感を消すだけ…」
「アーティファクト?」

シスターの呟きが聞こえるが、千雨は少し失敗を自覚しつつ言葉を続ける。

63: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/29(水) 01:57:44.69 ID:lSle65l40

「多分、センサーで機械的にここに人間の反応がある事を察知してる。
だけど、パイロットの脳が私達を認知出来ないんでうろうろしてるって状態に見える」
「そしたらどうするのよ?」
「あれが諦めて出て行くか、あれを潰せるのが来るまで、
オートマチックの無差別砲撃でも始めない事を祈るしかないな」

言ってる先から、機動メカに上からすごいあつりょくが叩き付けられ、
メカが煙を上げる。

「こ、この…」
「あらよっ!」

コクピットが開き、中の男性隊員が拳銃を抜こうとしたが、
小太郎が頭突きでKOするのが先だった。

「小太郎君っ!」
「助かった」

夏美が叫び、実際は腰が抜けそうだった千雨もふうっと嘆息した。

「いるでござるか?もうこの辺りは大丈夫でござる」

しゅたっと着地した楓が言い、一端隠れ身を解いて合流した。

「さて、こっからどうするかだ」

とにかくぐっちゃぐちゃの状況を千雨が整理しようと周囲を見回す。

「アディウトル・ソリタリウス」

荘厳に澄んだ発音を聞き、千雨がそちらを見た。

「日本語だと孤独な黒子。
日本語だと皮膚の黒い点とか学園都市産のグドンのエサも同じ漢字を当てるみたいだけど、
同じ意味の漢字で言うなら、お芝居で黒い服を着て、そこにはいない事になっている人だね。
言い伝えられているだけでも280年前より後の記録が無い魔法具。
生きている間に伝説通りの効果を身をもって知る事が出来るとは思わなかったんだよ」

そう言いながら、シスターは、きょとんとしている夏美から視線を移す。

64: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/29(水) 02:01:17.64 ID:lSle65l40

「パクティオーカードと言う事は君がマスターなのかな?
日本でも西の方の魔術師は西洋の魔術を使うのを嫌う人が多いって聞いていたけど」

ちょっと聞く分には子どもっぽい口調でもあるが、穏やかな威厳すら感じられる。
そんなシスターの声に夏美が息を呑み、小太郎が身構えた。

「君の術式は陰陽術、基礎を覚えて、後は使う所を我流で摘む使い方だね。
体術の補助に、「血の制御」にも使っているんだね」

小太郎の眉がぴりりと上がった。

「あなたの後ろに隠れているのは雷の精霊、
電気を媒介に急速に発展した科学に介入するために進化した変種だね。
直接知らなくてもコンセプトから理屈は分かるんだよ。
いとめののっぽさんは甲賀流の忍者さんだね」

「何の事でござるかな?」

ごくりと息を呑む千雨の側で楓が飄々と応じる。

「甲賀忍術の発祥は諏訪明神、そこに地理的な条件が加わって
薬草使い、陰陽道、密教、修験道、各種の山岳信仰の魔術と科学が実用的に進化したのが忍術。
日本の戦国時代には軍師と呪術師の明確な境界線は無かったんだよ」
「な、何なんだよ、こいつ…」
「それで、どうするの?」

焦りを見せる千雨に、シスターは静かに尋ねる。

「さっきの黒いサラマンダーも知り合いなんだね。
サラマンダーが使っていた箒はオソウジダイスキ。
いわゆる魔女の箒を定形化した、「学校」の魔術師を中心に使われているもの。

基本から体系的なラテンの詠唱魔術を使う統率のとれた集団。
日本、それも関東であの歳であれだけの実力でそういう魔術集団は一つしか考えられないんだよ。

あなた達は別行動だったみたいだけど、
そういう繋がりがあってこれだけの魔術を使う集団がここに、学園都市にいていいのかな?」

65: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/29(水) 02:04:29.91 ID:lSle65l40

「ヤバイぞ」
「で、ござるな」

チラと周囲を伺った小太郎と楓が、揃って硬い口調で言う。

「これ、いよいよ警察か何かか?」
「その様でござるな」
「アンチスキルが来たのかな?
だったらこれ以上いられない、あなた達はもっとだよね。
行こう、アリサ」
「え?」

元々通じない話を千雨達に向いて喋っていたシスターに
不意に声を掛けられてアリサも戸惑いを見せる。

「頼んでいいんだな」
「アリサは私の、私とととうまの、大切な友達なんだよ」
「頼んだ」
「夏美姉ちゃん」
「分かったっ!」

間一髪、千雨とシスターの間で合意が成立し、
アリサ達が姿を消して夏美に始まる人のチェーンが繋がるのと、
アンチスキルが本格投入されるのは辛うじて入れ違った。

66: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/29(水) 02:07:52.11 ID:lSle65l40

 ×     ×

「転移ポイントはっ!?」
「もうすぐですっ!」
「ん?」

上条当麻は、本日も不幸であった。
ここまでの騒ぎとなると、流石にアンチスキルも動き出す。
そもそも、「学園」と「都市」が同義語に近いこの学園都市では、
学園的秩序、発想に直結して学生の夜間外出自体が厳しく制限されている。

と言う訳で、上条当麻は今日も走る、走る走る走る、
目の合った職務熱心な警備員ボランティア先生を振り切るべく全力でダッシュする事幾度か、
薄氷を踏む思いをしながら、目の合わない内に建物から建物へと駆け抜けた事が幾度か、
近くに聞こえるサイレンと逆方向に駆け出した事もしばしば。

そうこうしている内に、既に大方の営業が終わったビル街で、
上条の視界を見覚えのある人影がよぎった。

「おいっ!」

ビル街の中の空き地で、
高音・D・グッドマン率いる魔女見習い三人娘は呼びかけに振り向いた。

「あの人…」

全三人のチームの内の一人、佐倉愛衣が呟く。
視線の先で両手を腿に当てて息を切らしているのは、
先ほどなし崩し的に共闘する事となったウニ頭の少年だった。

「ハァハァ一体ゼェどういうハァ事なんだゼェゼェっ!?
どういうハァハァ事なんだ?
ゼェハァお前達もゼェ魔術のゼェ人間なんだろ?ハァハァ
魔術の人間がどうしゼェゼェてアリサをゼェゼェ襲う?アリサに何がハァハァあるって言うんだ?」」
「お姉様、時間が。それにこれ以上は…」

同行した夏目萌に促され、
元来の誠実な性格でウニ人間のブツ切り言語を解読しようとしていた高音が頷いて歩き出す。

67: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/05/29(水) 02:11:32.02 ID:lSle65l40

「待てよっ!」

力強い怒声が、三人の歩みを止めた。
そして、振り返った三人の美少女は、叫びの主、上条当麻と正面から向き合う事となる。

「お前ゼェゼェら魔術ハァハァ師ハァハァアリサハァ、ハァ」

既に相手の事すら半ば見えない状態で、只、逃がしてたまるかと言う一念だった。
駆け出した上条当麻だったが、体力は限界。
言葉もほとんど繋がらず、吐き気を抑え込むのがやっとの有様。
それでも、歩みを止めた三人にようやく向き合う事が出来る、
と言う客観的状況下で、上条の脚が限界を迎えた。

「お前ハァハァらハァハァアリサハァハァにハァハァ」

もつれた足が大きめの石ころを踏みつける。
完全に限界を迎えた脚の均衡が崩壊する。
三人の美少女は一歩、二歩と、上条当麻に正面から向かい合う形で後退していたが、

「ハァハァ一体ハァハァ何ハァハァをハァハァハァハァ」

何とか痛い転倒は回避しようとした上条当麻は、
ゴシック調の揃いの黒衣姿で自分の方を向いて横並びに立っている
目の前の三人の中でも真ん中で一際背の高い、
金髪のロングヘアがよく似合う美少女の肩を、空中を泳がせていた
右手で、ガシッ、と掴んでいた。

今回はここまでです。続きは折を見て。

71: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/04(火) 23:02:14.73 ID:89UCXMHa0

 ×     ×

「爆弾でも使ったんですかねこれ?」
「…いや…」

科学の学園都市内、とあるビル街の空き地で、
アンチスキルの女性隊員黄泉川愛穂と鉄装綴里が言葉を交わす。
周囲の建物への被害こそ少ないが、一見すると爆発的な惨状である。
だが、先輩であり上司に当たる黄泉川は鉄装の推測に疑問を呈する。

「丸で、暴風雨と火炎竜巻がいっぺんに来たみたいじゃん」
「少なくとも発火能力ですか」

破片を放り出した黄泉川に鉄装が言う。
「能力」、外部で言う「超能力」を持つ学生相手の捕り物も通常業務であるアンチスキル。
そちらに勘が働くのも職業柄。

「物理的な道具を使ったか、能力者だとすると相当な威力じゃん。
明らかに性質の違う破壊が入り交じってる」
「だとすると、犯人は複数、それも相当強力な能力者。
まずはバンクから該当する能力者の検索ですね」

打ち合わせをしながら、黄泉川は予感を覚えていた。
恐らく、この捜査はどこかで尻切れ蜻蛉になる。
最初からこれではまずいのだが、勘は働くものだ。

人一人が余りにもちっぽけな「科学」を我が者にせんとする学園都市。
科学的、理論的、その言葉を操る者は余りにも人間臭い。
その学園都市の正規の警察組織に属する黄泉川だからこそ底が知れない何かがある。
それを感じる事が、最近特に多い気がする。

72: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/04(火) 23:07:22.34 ID:89UCXMHa0

「あー」

書庫と書いてバンクと呼ばれるデータベース検索に考えを向ける鉄装をちょっと離れ、
黄泉川は別の男性隊員を呼び止める。

「黒鴉の方は?」
「先鋒の法務部が出て来て」
「分かった」

尋ねた黄泉川もさして期待はしていない。
流石にごまかし切れない規模の目撃情報があったから先方にも照会を出したのだが、
有益な回答は半分も当てにならない。早速予感的中だ。
アンチスキルが正規の警察ならば、「黒鴉部隊」の様な認可警備部隊は言わば新撰組の様なものだ。

軍事力こそ「能力者」相手の捕り物からイザとなったら「戦争」をこなすだけの軍備を誇るとは言え、
建前上はあくまでも「学園」として、
教師ボランティアの「警備員」アンチスキルをメインとする正規の警察機能。
その一方で、巨大な利権に直結する最先端研究をその存在意義としているのも学園都市。

安全面に於いてその最優先命題をクリアするためには、利益を得る者に負担を任せる。
学園都市の最高権力である統括理事会は、
高レベルの民間警備部隊に武器使用を含む部分的な民営警察の権限を認可していた。
「黒鴉部隊」の母体が宇宙関連企業オービット・ポータル社である様に、
そうした部隊はそもそもが民間の警備部隊であり、民間の研究の保護を主目的とした認可制度なのだから、
大企業や先端研究所の私兵が活動の便宜上認可を受けているケースが大半である。

アンチスキルとして統括理事会から認可を受けた様な部隊と迂闊に揉めたら、
学園都市と利害関係の深い部隊の経営母体や認可責任者である統括理事会の面子も絡んで来る。
何かが浮上しても、上での書類上の決着を押し付けられる事もしばしばだ。

「こりゃあ、明日の授業の準備に専念するのが賢明じゃん」

独り言であり、冗談である。
最初から諦める、そこまで自分が利口だと思っていない。

73: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/04(火) 23:13:04.66 ID:89UCXMHa0

 ×     ×

「参ったな」

途中で楓の「天狗之隠蓑」に隠れ、
葉加瀬のサポートを受けながらようやく戻って来た麻帆良学園都市内で、
千雨は自分の携帯電話を手にして呟いた。

「あいつら…高音さんらの連絡先って誰か知ってるか?早めに話しとかないと」

その言葉に、一緒だった面々が顔を見合わせる。

「ああ」

思い出した様に小太郎が自分の携帯を取り出す。

「何だ?あいつらとメルアドなんて交換してたのか?」

意外な展開に千雨が言った。

「ああ、前に練習約束した時に急用で行き違ったさかいな」
「むー…」

あっさりと説明する小太郎であるが、
そうやって実際口に出したらあっさり応諾されたその申し出に至る迄に
主に脳内で展開されたラノベ上中下巻が埋まる分量の葛藤とか、
そんな小太郎をむーっと見ている夏美の広辞苑一冊が優に埋まる心中とかはこの際おいておく。
それから程なくして、千雨チームは高音チームとダビデ広場で落ち合う事が出来た。

「すいませんね」
「いえ、こちらも話がありましたから」

詫びる千雨に高音が言う。

「ん?」
「?」
「あ、ポニーテール珍しいなあって、似合ってるよ」

夏美に言われて、愛衣がぺこりと頭を下げる。
普段は後ろ髪を巻きツインテールにしている愛衣だが、
この時は何故か後ろで一つに束ね、
丈の短いVカットのタンクトップにミニスカでそのままチアでも出来そうな格好だった。

74: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/04(火) 23:18:14.17 ID:89UCXMHa0

「ああ」

ひょいと小太郎がそちらに声を掛ける。

「動きやすそうやなぁ」

小太郎にそう言われて、しかも、ぴこぴこした子馬の尻尾をひょいと指ですくわれたりして、
顔が見えないぐらい深々と頭を下げる愛衣を、
側で夏美がむーっと見守っている。

千雨が、自分が呼び出した面々を見てみると、
高音はジャージ姿、夏目萌は体操着の白いTシャツにショートパンツと、
人と会うには些かラフな格好をしている。

そんな格好で動くラインがやけにやわやわたゆたゆしている辺り、
気楽な女子校暮らしを鑑みるにもしかしたら帰宅して寛いでいる所を無理に呼び出してしまったかと
千雨もちょっと悪い気がしないでもない。

「一体何がどうなってあの様な事になったか、ご説明いただけますね?」

高音の真面目な口調に、千雨も真面目に大凡の経緯を説明する。

「それで、高音さんは?麻帆良の学園警備が
それこそどうして魔法使い御法度の科学の学園都市に?」
「正直に言います、よく分かりません」
「はあ?」

「上からの指示です。つい最近、鳴護アリサを調査する様に指示が出ました。
調査の上、緊急時の保護の判断は任せると言う非常に曖昧な内容です。
上もハッキリとは把握していない様です」
「何だそりゃ?」

高音の曖昧な返答に、千雨がバリッと頭を掻く。

「確かに、鳴護アリサの周辺に魔術師の影が伺えましたので、我々も警戒していました。
元々科学の学園都市での魔術の行動は魔術サイドの協定でも禁止されていますから」

愛衣が付け加えた。

75: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/04(火) 23:21:20.64 ID:89UCXMHa0

「調査の過程で、おぼろげながら見えて来た事はあります」
「何でござるかな?」

高音の言葉に楓が尋ねる。

「鳴護アリサ、歌手ARISAに関する噂をご存じですか?」
「…それって、もしかしていい事があるとかそういうの?」

愛衣の質問に夏美が応じ、愛衣は頷いた。

「どうも、只のジンクスでは済まない節があります。
そもそも、ジンクスと言う言葉自体、本来は魔術的な意味に基づくものでもあるのですが」

高音が言う。

「おいおい、まさかアリサの歌を聴いたらマジでご利益がある、
………とか言い出すのか?」

今更非常識が非常識だと驚く筋合いでもない。
千雨の質問に高音も真面目な表情で応じる。

「直接回答出来るだけの根拠は乏しい、只、調査に於ける魔法使いの勘、と言いましょうか。
問題は、彼女がいる場所が科学の学園都市だと言う事です。
学園都市の学生であると言う事は、直接的な研究材料である事をも意味する。

我々と違って、科学の学園都市の科学と魔法との接触は危険、
それが魔法協会を含む魔術の世界の共通認識です。
彼らが介入に打って出たのもそれ故でしょう」

「彼ら…あの赤毛ノッポとチビ魔女共か。魔法使いかありゃ?」
「ステイル=マグヌス。イギリス清教所属の魔術師です」

千雨の質問に愛衣が答えた。

76: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/04(火) 23:25:40.21 ID:89UCXMHa0

「イギリス清教?十字教か」
「はい。十字教三大勢力の中でも魔術担当、そう思ってもらって結構です」

記憶を辿っている千雨に、愛衣が簡単に説明した。

「十字教の中でも魔術に関わる秩序を司る、おおよそその役割である彼らです。
魔術的な何かが関わると踏んで動き出したと推測されます」

高音が続けて説明した。

「どういう奴なんだ、ステイルってのは?」
「いけ好かないジョン・ブルですよ」
「知り合いか?」
「留学中に少々」
「まあ、知り合いと言えば知り合いですね」

千雨の問いに、愛衣が珍しく不機嫌な応答をする。
その後に夏目萌が続いた。

「留学中に術式の優劣を巡って
グラウンド一杯のイノケンティウスの鎮圧実験とか
校舎を一つ溶鉱炉にするぐらいには白熱した激論を交わした相手ですから」

千雨チームの視線が愛衣に集中する。

「ひゃうううっ!!!」

わたわた手を振り出す愛衣の前で、小太郎が噴き出した。

「お、おいおい愛衣姉ちゃん、大人し顔しといて随分やんちゃしてるやないけ!!」
「む、昔の話ですっ!お腹を抱えないで下さいっ!!」
「認めたくないものだな、若さ故の過ちと言うものは」
「長谷川さァンっ!」

「全く、先方は元気があってよろしいと言う事でお掃除三ヶ月で済ませてくれましたが、
送り出したこちらは先生方が平謝りで大変だったんですよ」
「お姉様ひゃうぅぅ…」

77: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/04(火) 23:29:00.48 ID:89UCXMHa0

「しかし、それならステイルってのも大概だな。
留学先であんたと一緒だったって、教師にしちゃあ若い感じだったけど」
「え?」

千雨の言葉に、愛衣はきょとんとした。

「ステイルですか?
年齢的には愛衣とそう変わらないと聞いていますが」
「何?」

高音の答えに、千雨以下数人がきょとんとした。

「あー、おほん。黒歴史はおいといて現在の話をしようか」

一部を除き場が和んだ辺りで千雨が話を戻した。

「どう見てもアリサは大丈夫、って状況には見えなかったんだがな。
イギリス清教じゃあダブルオーの指令でも出してるのか?」

「否定は出来ません。あちらの実質トップは名うての雌狐、
何を企んでいるのか読み間違えたら足をすくわれる。
元々、その雌狐率いるイギリス清教と科学の学園都市の上層部の間に
非公式のパイプがあるのは裏の人間の間では公然の秘密となっています」

「それであんな連中が出入りしてるってのか」
「そうでしょうね」

千雨の言葉を、高音は否定しなかった。

「じゃあ、本人に聞くかぁ」

上を向いた小太郎が言った。

「そのステイル、結局は強いんか?魔法使いなら愛衣姉ちゃんが相手したら…」
「まず私が負けます、と言うか死にます。灰も残さず」
「即答やな」

大真面目に返答する愛衣に、小太郎の目も興味を示すものとなった。

78: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/04(火) 23:32:34.85 ID:89UCXMHa0

「同系統の魔術ですから優劣がハッキリしています。
彼はルーンの天才、操る火炎魔術の威力は桁違いです」
「ルーン?ネギなんかが時々使こてるごにょごにょ文字か?」
「そうです。北欧を起源に私達のものを含めて魔術の大きな基礎となっているルーン、
彼はその究極に辿り着き尚かつ自らの至高を求め手にした天才です」
「うーん、愛衣姉ちゃんは真面目な秀才タイプやからなぁ」

「その意味でステイルは魔術において頭一つ抜けています。
あの術式であの威力と発動速度はキレてるとしか言い様がありません。
真面目と言いました、私も今も留学中もあるべき魔法使いたろうと、
自分で言うのは恥ずかしいですが目標に恥じない事はしてきたつもりです。
しかし彼は、そこに辿り着くまで、
何か決して譲れない想いがあってその姿勢は尋常なものではなかった」

あの小さく大きな存在を思い出させるその言葉に、千雨は斜め下を見る。

「そうやって肉体も魂も削る様にして究みに立ったルーンの魔術です。
しかも、所属がネセサリウス、今の私の学校魔法でどうこう出来る相手じゃない」
「ネセサリウス?」
「イギリス清教の魔女狩り部隊です」
「おいおい」
「もちろん、今はやたらとそんな事をしている訳ではありませんけどね」

愛衣と千雨のやり取りの後に、高音が続いた。

「十字教の教義においては、あくまでも魔術は穢れ。
しかし現実問題として魔術は存在する。
故に、十字教のために穢れた魔術に対抗するために魔術を行使する。
だからネセサリウス、日本語に訳すると必要悪の教会」
「ご都合主義だな」

愛衣の説明に、千雨が感想を漏らす。

「それでも、今では魔法協会との間でも不可侵と言う事になっていて、
現実的に魔術を使うだけに、十字教の中では話が分かると言ってもいいでしょう。
一応の秩序を乱す魔術のトラブルを解決する、事によっては討伐する。
それが今の彼らの仕事です。

そこに抵触した団体をその手で幾つも壊滅させているのが
ステイル=マグヌスですから実力、実戦経験も確かです」

79: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/04(火) 23:36:12.87 ID:89UCXMHa0

「聞いてるだけでやばいのが出て来たなぁ」

高音の説明に千雨が嘆息する。

「魔術師としても実力者、その上、私達が彼らと、
それも科学の学園都市でぶつかれば、
それは魔法協会とイギリス清教と言う組織と組織の問題になりかねない」

夏目萌が厳しい表情で言った。

「その意味では長谷川さん、あなた達にも自重していただかないと困ります。
登録上は、麻帆良学園教師であるネギ先生の従者のカードを持っている身、
まして、能力の助け無しに何か出来ると言う状況ではない。
私の言っている意味が分かりますね?」
「やっぱり、俺が連中シメて聞き出すっちゅうんは?」

高音の真剣な口調に千雨が言葉に詰まり、そこに小太郎が割って入った。

「一応麻帆良の生徒で仕事もしてるけど、仕事に関してはあくまで契約やからな。
ドジッたら俺の責任でそっちは指名手配でもなんでもしてくれれば」
「コタロー君」
「小太郎さん」

夏美と愛衣の反応は、千雨が中指を頭と逆側に両手を上げたくなるものだった。

80: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/04(火) 23:39:38.01 ID:89UCXMHa0

「出来ますか?」
「…いや…」

高音に真面目に問われ、少し考えて小太郎が苦い声を出す。

「あの赤毛ノッポとチビ連中なら、生きてる内に勘が掴めたら何とかなると思う。
けど、問題はもう一人や」
「ですね」

小太郎の答えを、愛衣が肯定する。

「こちらが聞いている通りだとすると、難しいですね。
ネギ先生なら何とかなるかも知れませんけど…」
「愛衣姉ちゃん、つまりそれは俺がネギより下、ちゅう事か?」

「い、いえ、決してその様な、
小太郎さんがネギ先生より下とか噛ませとか中国式のティータイムとか
そんな事は決して一言たりとも申し上げておりませんから」
「オーケー分かった、
ちぃとひとっ走りドーバー海峡泳いで寺院と大聖堂と宮殿更地にして来るわ!」

「小ォォォォォ太郎ォォォォォォォさァァァァァァンっっっっっ!!」
「コタロー君っっっ!!!」
「お話し、進めてもよろしいですか?」
「お、おう」

ドカカッと地面に突き刺さる黒い触手に足を止め、
高音が彩る素晴らしい陰影の刻まれた笑顔を見ない様にしながら小太郎が返答する。

81: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/04(火) 23:43:06.05 ID:89UCXMHa0

 ×     ×

後に、佐天涙子は語る。
とある高校男子寮を徘徊する落ち武者の都市伝説を。
その都市伝説が発祥した夜、微かな目撃証言の原形となった男子寮住人が、
現在の自宅である男子寮居室へと落ち延びる事に成功していた。

「……ただ……今……」
「お帰りなんだよ、とうま!」
「……ああ……今……帰……った……」

「あのスリムブロンドは操影術者、
魔術で実体化した影を操る術式の、それも若手ではかなり高位の術者だね。
影の鎧は、そうやって作られた影の防護具を身に着ける術式なんだよ。
一度に複数用意して、チームメイトも一緒に防護する事も出来るんだよ。

影の鎧は、通常であれば三倍、素肌に直接装着する事で七倍の防御力を発揮するんだよ。
だから、高い防御力を求める時は、影を魔力で実体化させた鎧だけを身に着ける事で、
魔術的に表裏一体とされている影と本体の肉体、
それだけを不純物無く交わらせて最大の効果を得るんだよ。

影はあくまで本体に従うもの、だから、術者の術が解けた時には、
その影の術は発生していたものが全て解除されるんだよ。

ずぶ濡れでこんがりローストだけど、術者の影響を離れて
独立した物理現象として反射したものによる影響だね。
あのチームの実力を考えると、直接攻撃を受けたら
そのまま中まで黒こげハンバーグになってると思うから。

それに、打撃力をアップする影の触手が消えても、
パンチそのものが消える訳じゃないんだよ」キラーン

83: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/06(木) 02:18:31.17 ID:4PU4+Hco0

 ×     ×

「アリサは…休んでるのか」
「うん、疲れてるだけだから大丈夫なんだよ」

寮の居室で言葉を交わす。ベッドの上のアリサの寝顔は文句無しのマジ天使。
上条ミイラ男当麻としては、背後で笑みが白く輝く前に本題に入る。

「ステイルもステイルで何考えてるのか分かんねーけど、
その、操影術者とか言うのも何何だありゃ?」
「魔法使いなんだよ」

 ×     ×

「とにかく、こちらとしても黙って手をこまねいているつもりはありません。
そもそも、科学の学園都市での魔術活動は協定により強く制限されています。
先方の黙許で勝手な真似をされたらそれこそ秩序に関わります。
まして、一般人を巻き込んでの狼藉など魔法使いとして見過ごす訳にはいかない」

頑固で思い込みが激しい高音だが、
ぎゅっと拳を握る高音は使命に一途であると言う言い方も出来る。
なまじ突き抜けた力があれば余計に人間色々と明暗もあるものだが、
人間として、それも力のある人間として高音は好ましい人物である。
それは、あの夏を共にした長谷川千雨も知っている事だった。

「鳴護アリサに何があるかは分かりませんが、
イギリス清教が動き出すとなるとそれ以外もどう出るか分からない。
これで彼らが力ずくで何かを手に入れよう等とふざけるのも大概に…」
「…高音さん、荒れてるな」
「裏の世界で、十字教全体の情勢がきな臭くなっていますから」

千雨の感想に愛衣が答えた。

「十字教?イギリス清教だけじゃなくてか」

84: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/06(木) 02:23:46.89 ID:4PU4+Hco0

「十字教は世界三大宗教の一つ、
政治、文化、精神、そして魔術、総合した場合の影響力は世界屈指の規模になる巨大勢力です。
その十字教の中の三大勢力の一つがイギリス清教。

イギリス清教が魔術を用いる事に特化している様に、十字教三大勢力は、
一般信徒には知られていない所でそれぞれの形で魔術と関わりを持っています。
私達魔法協会は、宗教の直接支配を受けていない魔術師そのもののための団体。
しばしばそこから齟齬が生じているのが実際です」

高音が、ざっと触りを説明する。

 ×     ×

「あのー、インデックスさん?」
「何なのかな?」
「先日、魔法使いと言う言葉を非常に馬鹿にされていたと上条さんは記憶しているのですが」
「うん、あの時はね。この場合の魔法使いと言うのは、
魔法協会に所属する魔術師の慣習上の呼び方なんだよ」

「魔法協会?魔術結社とか言う奴の事か?」
「うん、こちらの定義ではそういう事になるんだよ。
世界の主要な魔術文化の拠点ごとに、日本には関東と関西の魔法協会があるんだけど、
西洋魔術をメインに使っていたから関東の所属、多分麻帆良関連の学生なんだよ」

「もう少し詳しく頼む」
「魔法協会は、簡単に言うと魔術師そのものの業界団体。
宗教団体を介さずに魔術師が直接所属している団体で、
宗教団体との掛け持ちを許すかどうかはその宗教団体によるんだよ。
普段は、魔法で影ながら人助けや魔術的なトラブルを解決しているんだよ」

「それだと、いい事してる様に聞こえるけど」
「うん、実際、余り大きな問題は聞いた事が無いんだよ。
仕事やルールもきちんとしているから、魔術サイドの宗教や政治の関係機関は、
直接的な支配者や雇い主とは別のルートで所属している
魔術師そのもののの公的機関として認知して各種の協定を結んでいるんだよ」

「それで、上手くいってるのか?」
「うん。例えば十字教の中には、宗教の支配を受けず大規模な異能の集団を形成している、
その事自体に拒否反応を示す人がトラブルになる事も少なくないんだけど、
それでも魔法協会が認知されている事で事を大きくせずに済ませる事も出来ているんだよ」

85: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/06(木) 02:28:55.85 ID:4PU4+Hco0

 ×     ×

「うーん」

夏美が首を傾げて唸っていた。

「でも、十字教ってうちのクラスにもいるよね、それも普通に魔法関連で」

「十字教自体が巨大ですから、勢力によって温度差があります。
だから、こちらとの掛け持ちが許容されている所もあります。
魔法協会自体は、協会によって方針に違いはありますが、
全体として一つの宗教に限定はしていません。

しかし、あくまでも自らの唯一神の下で、
俗世に於いても異能の力はすべからく俗世で信仰を管理する団体に服属するべき。
こう考えている向きは決して少なくありません。
そういう人達にとっては、魔法協会の存在自体が感情的に許容し難い」

「お姉様も、ヨーロッパでの仕事でトラブルになって大喧嘩して帰って来たばかりです」

高音の解説に、愛衣が付け加えた。

「ご存じだと思いますが、お姉様はこの通り、
頑固で思い込みの激しい所はありますが、決して無闇に人を傷付けたりはしない。
むしろそうした事を強く嫌い、筋を通して行動に移す人です。
あの時の事も、お姉様に非があった訳ではない。
最終的に上の話し合いでそれは分かっていただけましたが、一歩間違えたら戦争でした」
「マジかよ」

例えでは済みそうに無い物騒な愛衣の解説に千雨が呟いた。

「先方は一部の過激派の所行として処分を約束、
こちらはお咎め無しの代わりに帰国命令が出ました。
裏が裏であるための必要な措置でしたからそれは納得しています」
「つー事は、実際にはもっとヤバイ黒幕が上の方にいる、ちゅう話になるんか?」

小太郎の言葉に、高音は真面目な顔で頷いた。

86: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/06(木) 02:34:13.91 ID:4PU4+Hco0

「私も知り得る限りの情報を上に上げて調査を促しましたが、
お互い政治的なパイプのある大勢力同士だけに簡単にはいかない。

しかし、明らかに中枢に近い所に危険な徴候がある。
半ば魔法使いとしての勘ですが、私の見る限りそれは確かです。
特にあちら、欧州における表と裏の影響力を考えると、それはとても看過できない」

「何でそんな物騒な話になってるんだ、十字教ってのは?」
「一つには、ネギ先生です」

千雨の問いに、愛衣が応じる。

 ×     ×

「彼ら、魔法協会の最大の強みは魔法世界との外交権を握っている事なんだよ」
「魔法、世界?」

「そうなんだよ。イギリスにも一つ出入り口があるんだけど、
日本でもこの間テレビのアニメで紹介していたね。
日本の民話にしばしば出て来る迷った先の異界を日本の湯女文化に結び付けて表現していた…」

「えーと、つまりあれか、浦島太郎とか、あれも桃太郎みたいな実は魔導書だとか?
山ん中で霧の向こうはあっちの世界だったとかそういう…」

「そう、それ。十字教が一時期頑なな事をしていた事もあって、
魔法協会は、そういう世界の中でも最も大規模な所との
伝統的な結びつきを今に至るまで維持し続けて魔術の発展に貢献してきた。
連綿と続く魔術の直接的な継承と言う意味では、十字教関係を超えるんだよ」

「あっちの世界と交信出来る老舗の魔法使いの集まりか」
「うん。入口が開く事自体が時間的に限られているから
あっちの世界に行くのは難しいんだけど、その近くの魔法学校には行ったんだよ。
ネセサリウスとも外交関係は結んでいるし、貴重な伝統魔術の宝庫だから。
「禁書目録」には相応しい場所だったんだよ」

そう言ったインデックスは、ふふっと優しい笑みを浮かべた。
それは思い出し笑い、何か楽しい思い出でもあったのだろうか。
そう、思い出。それは上条とインデックスにとって人一倍深い意味を持つ言葉。
それを考えると、この様な表情を作る事が出来る、そんな期間は非常に限られる筈だ。

87: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/06(木) 02:37:43.30 ID:4PU4+Hco0

「そういう所だから、彼らは本来人助けはしても害は無い人達だから。
もし不心得な魔術師がいても彼らは自分達で始末が付けられる人達なんだよ」

 ×     ×

「十字教が歴史的に敵対関係をとった事もあって、
魔法世界との外交は事実上こちら、魔法協会が独占しています。
そして、一言では言い尽くせない裏の社会的属性を持った間違いなくこちら側の人間であるネギ先生が
魔法世界にとてつもない恩を売り、更に、途方もないエネルギーと利権の関わる
二つの世界を丸ごと巻き込んだプランの主導権を握った」
「あー、なるほどなー」

小太郎が上を向いて言った。

「ネギ先生も、十字教その他の宗教勢力にも相当の配慮を払って、
魔術、宗教、政治、各方面の裏のトップ会合は
ネギ先生のプラン承認でおおよその同意、協定が成立しています。

十字教の各勢力も、裏の中でも表向きはそれに賛同しています。
人道的に良心的、或いは計算高い人間であれば、
政治的妥協であってもそれが最善であると理解もしています。

しかし、世界の主導権で頭一つ抜ける様なプラン、
それを宗教に従属しない異能の、それも桁違いのパワーの持ち主に握られる事に就いて、
まず心情的にその事自体が耐えられない、或いはあり得ない、
そう感じる者は決して少なくない。まして、事は宇宙開発、超高度科学の関わる事ですから」

高音の説明に、千雨は嘆息したくなる。
冗談じゃない、なんだか知らないがあの事は自分達、
何よりもガキのネギがとてつもないものと引き替えに命を張って手に入れたものだ。
後から来て文句なんて言わせてたまるか。

それは、あの時最前線でとてつもない攻撃から最前線で仲間を守り、
敗れたとは言え術式発動を阻止する一歩手前まで闘い抜いた高音も
それをサポートした愛衣も麻帆良で闘った夏目萌も立派に含まれている事だ。

「加えて、こちらは情報の入手が非常に難しいのですが、
どうも、科学の学園都市に関わるトラブルで何か痛い目を見ている、
それも、勢力そのものに関わる痛手である、その様な情報すらあります。
それらは全て、現実的な痛手以上に欧州から世界を制して来た彼らのプライドに関わる事です。
そして、歴史を見るならば、そのプライドのために何をするか分からない部分がある」

88: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/06(木) 02:41:06.09 ID:4PU4+Hco0

「実際、ヤバイんか?」

高音の説明に小太郎が尋ねた。

「私がヨーロッパで調べた限りでは決して楽観は出来ない、
それも、あの人達の発想からして一般市民、人道的な事態すら懸念される。
魔法協会と十字教、それぞれ独立した巨大勢力で軽々な事は出来ないとは言え、
非常に嫌な感触です。もたもたしていると恐ろしい手遅れになると言うぐらいの」
「そんな連中が今度の件に噛んで来てるってのか?」

「そうなっては本当に困ります。
イギリス清教は、こちらからしたらむしろ話の通じる相手です。

それでも、協定無視でネセサリウスを動かしている以上、容易に話し合いが出来るとも思えませんし、
あの雌狐が何を考えてそんな事をしているか、迂闊に関わるとこちらが危なくなる。
最悪なのは、鳴護アリサが彼らの欲する何かを持っていた場合、
そして、イギリス清教の協定違反を呼び水にもっと面倒な勢力が介入する事です」

「じょーだんじゃねぇぞ」

顔の前で拳を握る高音の側で、
千雨が吐き出す様に言った。

「分かっています。こちらも魔法使いです。
元々、鳴護アリサの保護は現時点では私達の任務でもあります。
科学の学園都市で勝手な事をして、しかも一般人すら巻き込む等と。

その上事態がこじれる様な事になる等と、
いい加減あの自分達こそが世界であるかの如き
十字軍気取りの幻想をブチこぉおぼろおおおおおおおっっっっっ!!!」

「お姉様っ!?」

突如、高音が右脚を天高く突き上げ、バターンとぶっ倒れた。
千雨は、一瞬頭に血が上りすぎたのかとも思ったが、
とにかく、突き上げられた見事な脚線美をぴくぴく震わせて
白目を剥いてぶくぶく泡を吹いている姿は余り楽観的なものではない。

89: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/06(木) 02:44:45.80 ID:4PU4+Hco0

 ×     ×

「あー、いたいた」
「?…はあっ?間違いってワケ!?…」
「そうである、テンプレ用に作成した指令書が間違えてそちらに届いてしまったのである」
「なんだ、科学かぶれした異能の連中まとめて片付けるって準備万端やって来たのに」
「さ、帰るである。出番はもう少し先なのである」

 ×     ×

「あー、疲れたー。
だから舞踏会なんてガラじゃないにのに、ホント肩凝るわー」
「!?」

千雨が、ハッとしてその声の方を見ると、
見慣れた異国の姫君の同級生が自分の肩を叩きながら、どうやら帰路に就いている所らしかった。

「おーい」
「ん?」

千雨が駆け出して声を掛け、ダビデ広場に参加者がもう一人加わる。

「えーと、高音さん?」

「ん、まあ、色々あって疲れてるんだな。
只、こいつらの見た所なんか変なモンが引っ掛かってるかも知れないとかで」

「つまり、一発ひっぱたいてみろと」
「ダメ元だ、ちょっとやって見てくれ」
「ん、アデアット」

スパコーン

90: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/06(木) 02:47:53.66 ID:4PU4+Hco0

 ×     ×

「う、うーん…」

石段で夏目萌にぐらぐらと半身を起こされていた高音が、頭を振って唸っていた。

「あ、あの、大丈夫ですか、お姉様?」
「ええ、少々頭に血が上ったのでしょうか?」
「ホントに大丈夫かよ…」

愛衣の問いに高音が答え、千雨が呟く。

「ええ、大丈夫です。ああ、有り難うございます」
「なんか知らないけど役に立ったんなら良かった。後何か?」
「いや、これから私らも帰る所だから」
「そ、じゃ、お休み」

93: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/07(金) 13:53:03.73 ID:BMPK0F1F0

 ×     ×

かくして、お疲れの姫君が帰路に就くのを注意深く見守ってから会合を再開した。

「それから、あのウニ男、あれもただ者じゃないだろ」

言いかけて、千雨は一瞬血の凍る様な何かを感じた。

「ちょっと見魔法を使ったって感じじゃなかったけど、
だからって言って只のヒーローの普通人じゃ間違いなく死んでるぞあの場面」

常識、非常識に一際目敏い千雨が言った。

「マジックキャンセル(魔法無効化)」

愛衣が呟く様に言う。

「それって神楽坂のか?」

千雨が尋ねると愛衣が頷いた。

「信じられませんが、あの人の肉体自体、
恐らく右手にマジックキャンセルの機能がある。それ以外に説明が出来ません」
「確かに、にわかには信じがたい事ですが、他の説明が難しいのも確かです」

愛衣の説明に高音が賛同を示した。

「シスター」

千雨が呟いた。

「そうだ、シスターだ。元々あのウニ男の連れだった筈だ。
あの時一緒にいたシスター、あいつもイギリス清教だって言ってた」
「ああ、そんな事言うてたな」
「シスター、ですか?」

高音が言う。

94: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/07(金) 13:58:18.52 ID:BMPK0F1F0

「そう言えば。確かにあのタイプの修道服はイギリス清教」

愛衣が言う。

「只のシスターじゃねぇぞ」

千雨の言葉に、千雨チームがうんうん頷く。

「ガキみたいにちっこいシスターだけど、
見ただけでこっちの手の内を完璧に言い当てやがった」
「そう。私達のやり方を全部知ってた。
あのツンツン頭の人が何て言ってたかな?イン、イン…」
「Internet」

首を捻る夏美に愛衣が言う。

「Ink-jet printer 気になるものがあったら止めて下さい。
impotenz insert immoral incubus injuu incubator
intelhaitteru install interbal indeprndence
indies interactive interpole instant indonesia
interface insider in-course inspire interior
Midkine index」

「それ」
「!?」
「だから、最後に言った奴」

夏美の返答に、高音チームの三人が顔を見合わせた。
三人の顔は青ざめている。

「索引?…何だそれ…」

言いかけた千雨を、高音はビッと指差した。

「これ以上関わらないで下さい」
「なっ」

「これは、本格的に裏側の話、
事は魔法協会とイギリス清教の組織と組織の問題です、
力ずくでどうにか出来る話じゃないと言うか手出しをしてもらっては大変困ります」

95: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/07(金) 14:03:25.39 ID:BMPK0F1F0

「だから、一体何…」
「ネギ先生のプランにも関わります」

千雨の質問に押し被せる様に高音が言う。

「場所は、世界の科学の覇権を握る学園都市、
そして、魔術サイドも学園都市に就いては不可侵の協定を結んでる」
「聞いたよ。それをイギリス清教が堂々ぶち壊してアリサをどうにかしようって事もな」

「その点に就いては、イギリス清教と科学の学園都市の間でどの程度の密約があるのか、
今は伺い知る事は出来ませんが、
仮に密約があったとしても少なくとも表には出せない程度の黙認の筈です。

十字教三大勢力の一つであるイギリス清教、科学の学園都市、そして魔法協会。
この三者の間で政治的紛争が勃発したら、
そこに敵対する者味方をする者が入り乱れて収拾の付かない事になる。

イギリス清教の中でも本気で洒落にならないキーパーソンまで絡んでいるなら
本格的な紛争に発展する事も考えなければならない。いいですか」

そこまで言って、更にずいっと高音は迫った

「世界の科学の覇権を握る科学の学園都市、
そして、特に欧米の精神的文化的支柱として政治的にも魔術的にも重きを為して来た十字教。
その様な所と本格的な政治的紛争を引き起こす事が何を意味するか。

ネギ先生は魔法協会サイドの人間として、
今もあの世界を救うために奔走している、ご存じですね?」

「お陰さんで教え子の私もろくに顔を合わせちゃいませんがね」

96: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/07(金) 14:06:37.54 ID:BMPK0F1F0

「私自身仕事ですれ違いに顔を合わせましたが、
その事は、ネギ先生自身非常に心苦しく思っています。
ネギ先生はそうやって、若年にしてとてつもない実績と圧倒的な魔力、

その裏側の表面を知る人間から様々な感情を抱かれながら、
綺麗な表側も私達も伺い知れない程のどす黒い欲望や利権の渦巻く裏も
そんな世界と渡り合っています。

そして長谷川さん、あなた個人ならまだしも、その能力は間違いなくそのネギ先生、
魔法協会に属するあの世界での偉業を成し遂げたネギ・スプリングフィールドの従者としてのもの。
その様な人間が科学の学園都市、十字教に繋がる導火線に火を付けたらどういう事になるか。

ネギ先生のプランに対する裏側の同意は、
表向きはあくまで人道上、文化的な配慮に基づく極めて危うい均衡の上に成り立っているもの。
莫大な利権、能力の絡むプランが魔法協会陣営主導で進められている事を内心嫌悪し
虎視眈々としている者も決して少なくはない。長谷川さん」

先輩としての厳しい目線が千雨を圧倒する。

「あなたはあの世界を、あの世界の数多の命を、
あの夏、私もあなたもその身を張って守り抜いたものを、
あの歳で最も危険な場所で闘い抜いて今この時も奔走しているネギ先生の労苦を、
水泡に帰するつもりですか?」

千雨が圧倒されている間に、高音はすくっと立ち上がった。

「あなたは賢い人であると理解しています。
行きますよ。今後の事は山ほどありますから」

高音に促され、二人の魔女見習いも立ち上がり、退散へと動き出す。

97: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/07(金) 14:09:55.30 ID:BMPK0F1F0

 ×     ×

「ん?」

小太郎は、ちょいちょいと手招きしている夏目萌に気付いた。

「あー、小太郎君小太郎君、
これこれ、留学中にミスターステイルに感化されて
ファッショナブルに気合いが入った思い出の…」

ナツメグの背後で、黒目が消えたイメージ映像の愛衣が
ゴゴゴゴゴゴゴゴと効果音を立てながら太陽の様に巨大な火球を掲げるのを、
夏美は只大汗を浮かべて眺めていた。

99: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/08(土) 23:03:12.28 ID:nMwct0Kc0

 ×     ×

「ん?」
「おや?」

女子寮大浴場「涼風」の前で、
帰宅すべく通りかかった千雨チームと高音チームがばったり鉢合わせした。

「これから入浴でござるか?」
「ええ、こちらでの打ち合わせもありましたから多少の便宜をいただいて。
なんでしたら皆さんもどうですか?使えるのは一部ですが、この人数なら十分です。
なんだかんだ言って大変な一日でしたから」

先ほどから少し落ち着いたのか、高音はおおらかに言って見せた。

 ×     ×

「んー」

「涼風」の脱衣所で、首をゴキゴキ鳴らしながら籠に着衣を収納していた
夏目萌通称ナツメグが気配を感じて隣を見る。

「よっ」
「どうも」

隣に現れたのは、長谷川千雨だった。
夏休みの大事件でも留守番組で学校も違うナツメグは、
長谷川千雨とはほとんど面識が無い。
只、知識としてネギ・パーティーの一人だと言うぐらいの認識だ。
で、今夜の一件に関しては、ネギ・パーティー側の首謀者であるらしいとも。

「お疲れさん、今日はどうもな」
「ああ、いえ」

そういう関係なので、曖昧に言葉を交わす。
社交辞令とも言えるが、ごくごく穏当で常識的と言った所だ。
余り親しいとも言えない仕事上の会話が終わると、
ナツメグの目はちょっと年頃の女の子のものとなる。

100: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/08(土) 23:10:18.82 ID:nMwct0Kc0

(スタイルいいな…)

セミロングの髪の毛を手でざっと除けて脱衣しているのに横目を走らせると、
年下のナツメグから見たら千雨は知り合いのちょっと綺麗なお姉さんと言った所だ。

元々はリアルの人間関係に余り強くなかった性格と
年頃から来る自信過剰の逆の無意味なコンプレックスにより、
ネットアイドルとしては修正の限りを尽くしている千雨だが、
この年代の少女としては素の見た目としても悪くない、結構イケてる方だ。

自然なセミロングヘアに顔立ちも整って、笑うと可愛いとフラグっぽい属性も伺える。
ネトアとしてはバン、と、一見して分かる修正を施している千雨だが、
年の近い下級生として今千雨の素のままに遭遇しているナツメグから見ても、
その体つきは大袈裟に言えば年上の女性として十分大人っぽい。

普段余り目立たないのはむしろ均整が取れているからで、
一歩二歩先んじてバランスよく確実に膨らみ成熟している千雨の姿は、
年下のナツメグが素直に羨む所だった。

 ×     ×

一般生徒には知られていない大浴場「涼風」裏スケジュール。
つまり、通常の使用スケジュールから外れた時間帯の一部も使用可能となっており、
しかるべき地位にある者が裏から便宜を図る事が可能となっている。
その裏スケジュールの使用を許可されたと言う事で、
佐倉愛衣は左右に仕切り壁があるタイプのシャワーブースに入り、汗を流していた。

「いっ」

治癒魔法も使っておいた筈だが、漏れがあったのか染みる所もある。
あれだけの本格戦闘は久しぶりだ。お湯を浴びながら、体の節々に疲れが響いている。
きゅっとダイヤルを回して湯を止め、これからを頭に浮かべてつと下を見る。

「んっ」

腕を掲げて一つ、背伸びをして、愛衣は扉を開きブースを出た。

101: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/08(土) 23:15:42.46 ID:nMwct0Kc0

「あ」
「あ、佐倉さん」

丁度、隣のブースから村上夏美が出て来た所だった。

「………」

かくして、互いにタオルを一本右手から体の外側にぶら下げた状態で正面から向かい合う。
ほんの一瞬だけそちらにピントを合わせてから、
両者は大浴場に於いて不躾にならない角度を採用する。

(…やっぱり…)

と、夏美は心の中で呟いてしまう。
愛衣は、パッと見て素直な可愛らしさがそのまま見て取れる美少女タイプ。
愛衣の方が年下で普段は大人しそうにも見えるのだが、
たった今の記憶を巻き戻すならばそれでは終わらない。

美にして微に非ずのバランスの良さによりやたらと目立ちはしないものの、
こうなるとその体型は一見して間違いなく女の子を超えた女性、と言う所に届いている。
年の割には早熟の部類に入るスタイルの良さは見逃せるものではない。

夏美も十分に可愛い女の子なのだが、この年頃で本人が一番気になるソバカスで
大勢の中では見過ごされるタイプだと、本人がよくよく自覚している。
体力勝負の演劇部員として至って健康的に育ってはいるが、
中肉中背、ごくごく年相応にまだまだこれからなのは、
この年頃で一番気になるデコボコ具合も又しかり。

そんな平々凡々の可愛い思春期の女の子としては、
普段自分の右見て左見てにいるぐらい非常識な
同い年でも可愛い女の子と言うよりスーパー美女相手なら諦めもつくと言うものだが、
相手がちょっとした美少女で、しかも本人が至って素直で、
一番気になる年頃の一番気になるピンポイントと言うのが辛い。

これが只の他人、後輩ならまだいい、素直で可愛い娘と思えそうだし実際思っているが、
この年頃、或いは女性たるもの全てにおいていっちばん厄介なものを挟んだ関係、
と言うのが最高に厳しい所だ。

愛衣は愛衣で、そうした辺りの事を全然気が付かない訳ではない、
むしろ、日常に埋没しがちな夏美よりも愛衣の方が意識しがちと言う面もあって、
やはり夏美にすっと交わされると愛衣も気後れしてしまう。

102: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/08(土) 23:21:06.44 ID:nMwct0Kc0

 ×     ×

「ア゛ア゛ア゛ァァァァァギモヂイ゛イ゛ィィィィィィィィィ」
「ご満悦でござるな」

「涼風」の一角で、ジェットバスで背中を刺激していた夏目萌に楓が言った。

「あー、どうも。
崖っぷちでガチンコの力比べしてたみたいなモンですからねー。
体力もそうですが精神的に凝るんですよねー」
「で、ござろうな」

コキコキ首を慣らす萌の隣で楓がのんびりと湯に浸かる。

「んー」

湯から上がる楓を見て、萌が口を開いた。

「ガタイいいですねー。
やっぱ、体力的に余裕あったら少しは楽なんですかねー」

言いながら、萌も湯から上がり、んーっと伸びをする。
萌からは見上げる長身と言う他は、普段は案外目立たない体格。
それこそが忍びと言うもので、中身はぎゅっと鍛えられて悪目立ちする無駄が無い。

それでいて、要所要所はバン、とばかりに逞しいぐらいの肉付きを見せて
女性としてもぶるんと見事な張りと共に十分すぎるアピールが展開され、
ヤワな男など捻り潰されそうな力強さだ。

それを見ているナツメグの、歳から見たら中肉中背、
白い華奢な体つきがようやくふっくらし始めた、いかにも少女らしい体つきが
こうなると本人としてはどうにも頼りなく感じられてしまう。

「ふむ、一つ、マッサージなどいかがでござるか?」
「いいんですか?」

何となく、忍者のマッサージと言うのは効きそうだ。
実際疲れて体が固まっているのも億劫であり、ナツメグは促されるままサウナに入る。
そこで、席にタオルを敷いてうつぶせに寝そべった。

103: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/08(土) 23:26:35.28 ID:nMwct0Kc0

「色が白いでござるな」
「んー、デスクワークが多いですからねー」

楓が、艶やかに流れる黒髪を分け、滑らかに白い背中を指で探る。
その楓の言葉にナツメグが応じる。

「ニン」
「いっ!」
「ここでござるかな?」
「そう、そこ、そこそこ、キク、キクキク、いいっ、あ、いひっ、ひいいいいっ!」
「ふむ、だいぶ凝っているでござるな。それでは、こういうのはいかがでござるかな?」
「ん?いいっ!お、おおおおおっっっっっ!!!」

楓に右脚を何十度か持ち上げられ、足の裏をぐりぐりされると、
激痛である筈なのだが洪水の様な汗も痛みも何故か心地よいナツメグであった。

「あっ、あおおっ、そ、そこ、おおっ、もっと、もっと突いておおおおおおおおおっ!!!」

 ×     ×

「んー」

サウナを出たナツメグが、
大浴場の一角で指を組んだ両腕を掲げて伸びをする。実に気分爽快。

「ありがとうございます長瀬さん」
「喜んでいただけて何よりでござる」
「それでは、水風呂もいいですけど」

ナツメグが桶に隠した小型の練習杖をさっと振ると、
丸でスプリンクラーの様にざーっと冷水が二人のいる一帯に降り注いだ。

104: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/08(土) 23:29:46.13 ID:nMwct0Kc0

「ひゃー、きっもちいぃーっ」

洪水の様に、それでいて何かべっとりと絞り出す様に全身を濡らしていた汗こそが、
この冷水シャワーによって最高の爽快感に変換される。

「爽快でござるなー」
「余り羽目を外してはいけませんよ」

両腕を広げて伸びをする楓の隣で
ぱしゃぱしゃと中途半端なグリコポーズではしゃいでいるナツメグに向けて、
洗い場の腰掛けに掛けて洗い髪の豊かな金髪を片側に寄せていた高音が注意を口にした。

 ×     ×

「…ふーっ…」

千雨が汗を流して大きな湯船に浸かっていると、
すっ、と、白い足首が視界に入る。
つと視線を上げると、つい先ほど真正面から噛み付かんばかりに向かい合っていた
高音・D・グッドマンが立った姿から身を屈めて湯に入る所だった。

(…やっぱり…)

千雨は圧倒される。
滑らかなクリームの肌色に長身の見事なプロポーション。
同級生の雪広あやかがこのタイプだが、
この年頃の少女がハッキリ区別する中学、高校の違いはこうして見ても歴然。

全体にすらりと長身でいながら、その肉体は力強い程に女性的で、
ニンフに近づこうと言うハーフ美少女のイメージそのままだった。
そんな高音の裸体が湯に沈み、千雨の側で金髪の頭にタオルを乗せて寛いでいる。

「先ほどは少々言葉が過ぎたかも知れません」
「いえ、こちらこそ。
私は本来一般人でいたい人間なもので、ビッとラインを引いてくれると助かります。
何せあの夏休みで感覚が未だにグラグラしてる」
「だよねー」

気が付くと、夏美が身を屈めて湯に入る所だった。

105: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/08(土) 23:33:02.56 ID:nMwct0Kc0

「だって、未だにお米のご飯食べながら感涙にむせんで
コタロー君にキモイって言われてるんだから」
「村上さんもですか?」
「え?メイちゃんも?」

いつの間にか遠慮がちに側にいた愛衣の反応に夏美が応じた。

「はい、あの時は急な大事故でいつ帰れるか分からなくなって、
それがいつの間にか大事件のど真ん中で」

「あはは、メイちゃん、佐倉さんも大変だったねー」
「えーと、メイでも構いませんよ」
「あ、そう。んー、じゃあ私も名前で」

「はい、夏美さん…そうですか、夏美さんって小太郎さんと寮で同居してるんでしたね」
「うん、まあ、色々あって。メイちゃんも魔法の特訓頑張ってるんだよね。
コタロー君にも手伝ってもらってるんでしょ?」
「はい、時々、時間の空いている時にアドバイスを頂いて」

「ふーん」
「長谷川さん」

つつつと近づいた高音が小声で言う。

「実に親しげに打ち解けた会話の背後に、
何かとてつもないドラゴンやタイガーの姿がかいま見えるのは…」
「奇遇ですね、ゴゴゴゴゴゴゴゴと重低音と一緒にそれが見えるって事は、
私も魔法使いの才能あるんですから」
「でも、メイちゃんも大変だね」

夏美のその言葉は、至って素直なものだった。

「魔法使いの仕事って、いっつも今日みたいな感じなの?」
「いえいえ、流石にあんなのは滅多に、
今日とか夏休みとか、毎回だったら命が幾つあっても足りません」
「だよねー」
「当たり前です」

アハハと笑う夏美に高音が割って入る。

106: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/08(土) 23:36:31.56 ID:nMwct0Kc0

「本来、魔法使いの任務は地味なもの、
人々の為に、ほんの僅かな助けになる事が出来る様に、
影ながら地道に人助けを行うのが魔法使いの本来の在り方です」

千雨は改めて思う。もちろん、世の中ままならない事の方が多いだろう。
それでも高音は心からそうあろうとして可能な限りの努力と行動を惜しまない。
そういう人間なのだと。

「長谷川さん」
「はい」
「魔術師の狼藉に一般人が巻き込まれて、
それを目にしてはいそうですかと引き下がる我々ではありません。
あなたは学生として、ネギ先生の従者として、分かりますね」
「ええ、お願いします高音さん」 

109: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/12(水) 14:02:19.20 ID:wL7Xv+UE0

 ×     ×

「あ、夏美さん」

三々五々浴場を出て、
これから帰路に就こうとしていた夏美は愛衣に声を掛けられる。

「あの、小太郎さんに伝えてくれますか?
明日の約束すいませんがキャンセルしたいって」
「約束?」

「はい、ちょっと魔法を見て頂く約束を」
「そうだったんだ、って、やっぱり敬語なんだね」
「あは、小太郎さんにもよく言われます」

そう言って、二人は顔を見合わせくすくす笑う。
こうして見ると、素直に笑う愛衣は素直に可愛い、夏美はそう思う。

「明日予定とか?」
「はい、明日から科学の学園都市に潜ります」
「高音さん達と?」

真面目な顔になって尋ねた夏美に、愛衣は笑って首を横に振った。

「お姉様とナツメグさんは上に報告、イギリス清教との連絡役との下交渉を初め、
組織として動ける様にこちらでの準備を徹底していただきます」
「えっと、それじゃあ…」
「その間、私があちらに潜伏する事になります」
「ち、ちょっと待って」

夏美はチラッと周囲を見たが、既に他の面々は立ち去った後だった。

110: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/12(水) 14:07:27.56 ID:wL7Xv+UE0

「確か、あのステイルってメイちゃんより強いって言ったよね。
で、他にも三人、いや、コタロー君よりも強いって人までいてそれからあの黒いメカとか…」

「別に全面戦争しに行くつもりはありませんから。
それに、今の状態の鳴護アリサさんをそのままにしてはおけません。
現に魔術師がいるなら、対抗出来るのは魔法使いですから」

笑っていた愛衣が、真面目に言ってぺこりと頭を下げる。

「では、お願いします」
「…あ…」

夏美は何かを言おうとしたが、
普段の巻きツインテールが解かれた緩いウェーブの洗い髪がふわりと翻り、
気が付いたら夏美は一人で立ち尽くすばかりだった。

 ×     ×

「まずいで」

665号室で夏美の話を聞き、床に座った小太郎が腕組みをして唸った。

「愛衣姉ちゃんが自分で言うてるけど、
同じ系統の魔法使い同士でそんだけ火力に違いがあったら
埋めるのは至難の業や。しかも、愛衣姉ちゃんやしな」
「しかも、って?」

「愛衣姉ちゃんの魔法は秀才の優等生タイプ。
教科書通りなら先に進んでる方が有利で曲げようがない。
しかも、聞いてる限り、ネセサリウス言うんは裏の中でも裏の連中、
実戦で阿漕なやり方も慣れてる筈や」

そう言って、小太郎は首を横に振った。

「大丈夫、じゃないの?」
「厳しいな。それに、多分高音姉ちゃん、魔法協会は最悪愛衣姉ちゃんを切る気や、
上の方までゴタつかんようにな」
「そんなっ!」
「それを愛衣姉ちゃんも望んでる」

そう言う小太郎の歯も又、ギリッと軋んでいた。

111: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/12(水) 14:12:37.98 ID:wL7Xv+UE0

「直接は知らんかったけど、裏にいた時に小耳に挟んでる。
西洋魔術の魔女狩り連中はえげつない、そんなんに捕まったら相当ヤバイてな。
詳しくは知らんし多分知りともない話やけど、
ウスイホンとか何とか、とにかく本気でヤバイ事になるて聞いてる」

「…それじゃあ…」
「あー、まあ、上の連中もアホちゃうやろしパーでもないやろ。
そんな所に愛衣姉ちゃん一人放り込んでどうにかなるて考えへんて。
あれで結構前途有望なエリート候補聞いてるからな。使い捨ては無いやろ」

青い顔でガタガタし始めた夏美に、小太郎はハハッと笑って告げる。
告げた後は、真顔だった。

 ×     ×

楓に声を掛けられ、廊下の一角に移動していた千雨の前で、
楓は携帯電話を取り出した。

「葉加瀬殿から預かったでござる。
学園都市に潜入すると言う事で、独自の暗号技術と衛星電話の機能が使われているでござる」
「そりゃ凄いが、この電話がなんなんだ?」

楓に促されるままに電話を調べていた千雨が、ごくりと息を呑んだ。

「あのドサクサに先方にも滑り込ませておいたでござる。
後の判断は任せるでござるよ、ニンニン♪」

112: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/12(水) 14:18:25.93 ID:wL7Xv+UE0

 ×     ×

それは、日付も変わろうという時刻だった。
寮の部屋でベッドに入っていた千雨だったが、眠っていた訳ではない。
どれだけ待つか、徹夜するべきなのか?

かつては深夜作業自体はさして珍しくもない不健康人だったのだが、
ごく最近体が資本な生活をやけに長い事続けていた。
それに、長谷川千雨のキャラクターとして、わざわざ徹夜して待つ、と言う、
そこまでの事をするべきなのだろうか?

窓を見る。ふと、明日の天気を心配する。
こちらの魔法使いさんがどうするつもりか知らないが、余り悪条件のお仕事にはなって欲しくない。
星空を眺めてふとよぎった、千雨のそんな思いが伝わった様に携帯から歌が迸り、
千雨は思わずベッドの上に跳び上がる様に座り直した。

「もしもしっ!」
「もしもし、ちうちゃん?」
「あ、ああ」
「私、アリサ。メールくれたんだね、連絡欲しいって」
「アリサ、なのか?」
「うん」

アリサの声は、辺りを憚る様な小声だった。

「アリサ、無事なのか?」
「うん。さっき、助けてくれたのちうちゃんなんだね?」
「あー、まあ、私は大した事してないけど」
「ううん、有り難う」

「今、どうしてる?」
「当麻君とインデックスちゃんの所に泊めてもらってる」
「インデックスってのはあのシスターの事か?」
「うん」
「で、とうま、ってのは…
あのシスターインデックスと一緒にいたウニ頭の事でいいのか?」

「うん、上条当麻君。当麻君の寮なんだけど、
そういう人の多い所の方が危険が少ないだろうって。
二人とも寝てるからトイレから掛けてるんだけど…」
「ん?ちょっと待て」
「何?」

113: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/12(水) 14:21:46.15 ID:wL7Xv+UE0

「寮って言ったよな。上条当麻とインデックスが住んでるって。
それって、他に誰かいるのか?」
「ううん、私達三人」
「あー、ちょっと待て、あんたら一体どういう状況で寝てるんだ?」

それを尋ねた時、電話の向こうからクスクス笑う声が聞こえた。

「私とインデックスちゃんがベッドに寝て、当麻君がバスルーム。
悪いと思ったんだけど、どうしてもって」
「何だそりゃ…って、いや、そんな事はどうでもいい。
アリサ、さっきの連中、何で襲われてるのか心当たりあるのか?」

「ううん。当麻君にも聞かれたんだけど、
私にも何がなんだか分からない」
「そうか…けど、正直言って明らかに普通じゃないだろ。
何でもいい、思い当たる事って何か無いか?」

魔法に関しては一般人であるアリサに、千雨は慎重に言葉を選ぶ。

「分からない」
「そうか」
「私には、三年より前の記憶が無い」
「え?」

「三年前、大きな事故があって、私はそこで救出されて、
それより前の事は覚えていないの。身寄りの人も見付からなかった。
鳴護アリサって名前も、施設が付けてくれた名前」
「そう、だったんだ」

一言で言えば異常な状況。であるならば、そこに鍵があると考えるのも自然。
千雨の頭脳にもやもやしたものが引っ掛かる。

「ちうちゃん」
「ん?」
「私、オーディションに合格したんだよ」
「オーディション?」

「うん、エンデュミオン、って知ってる?」
「ああ、科学の学園都市の宇宙エレベーターの事だろ?」
「そう、そのエンデュミオンのイメージソングに選ばれたの」
「…おい…それって、凄い事だろ。まんまメジャーデビューって事で」

114: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/12(水) 14:24:50.77 ID:wL7Xv+UE0

「…うん…」
「嬉しくないのか?」
「嬉しいよ、凄く!」

それは、悲鳴にも聞こえた。

「凄く、嬉しい。
ちうちゃん外の人だよね。だから詳しい事は言えないんだけど、
この学園都市では私は最低ランク、学校の成績も良くない、家族もいない。
私には歌だけだった。だから、歌だけを支えにここまでやって来た」
「だったら…」

「でも、もしそれが原因なら…
当麻君だってあんな危ない目に遭って、
それが、私が歌いたいって、私の我ワガママであんな事になるんだったら…
だったら、私…」

「…けるな…」
「え?」

千雨は、とっさに送話口を指で塞いだ。

「ざけてんじゃねぇぞ魔術師…」

呻きと共に、千雨は指を離す。

「だったら、歌えよ。やりたい事があって、
今まで自分の力で頑張って来て、認められたんだろ。
誰に遠慮する事があるんだよ。

何だか分かりもしない訳の分かんない邪魔されて、
それではいそうですかって、鳴護アリサは、アリサの歌はそんなモンなのかよ」

千雨がそこまで言った時、電話の向こうから又クスクスと笑う声が聞こえた。

「ん?」
「あ、ごめん。ありがとう。
当麻君も同じ事言って、励ましてくれた。だから、私歌う」

115: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/12(水) 14:27:53.81 ID:wL7Xv+UE0

「ああ…あー、アリサ」
「何?」
「いや…何が出来るか分からないけど、私も出来るだけの事はする。
だから、アリサはアリサ、自分の事で頑張れ。
只、そういう訳だから、私の事は内密で頼む」

「うん、分かってる」
「上条当麻、か」
「うん」

実に分かりやすく声が弾んでいる。

「いい男なんだな」
「!?ち、ちうちゃんっ!?」
「じゃあ、もう寝ろ、寝られる時にな大スターさん」
「もうっ、お休み」
「お休み」

 ×     ×

「何だそりゃ?」

翌日、朝のホームルームが始まる前に夏美に目で誘われ、
廊下で話を聞いてから千雨が険しい声を出した。

「じゃあ、潜入してるのは佐倉愛衣だけって事か?」
「メイちゃんの話だけだとそういう事になると思う」

「ああ、うちの関係がバカ強いってだけで、あれで結構優秀な魔法使いってのは聞いちゃいるが、
あのステイル、その佐倉が天才って言ってたな。
しかも、まあまあ使えそうなのが何人もくっついて」

「コタロー君も直接闘ったら厳しいだろうって」
「間に合ったぁ。はよーっス…ぐえっ」

千雨が、横を通り過ぎようとした春日美空の襟首を捕まえた。

116: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/12(水) 14:31:23.61 ID:wL7Xv+UE0

「ちょっと聞きたい事がある」
「何?」
「ああ、知っての通りの事情で、
ネットで世界情勢を色々調べてる。表も裏もだ」
「それで?」
「ネセサリウスと一戦交える、って言ったらどう言う事になる?」

スザザザアッと、千雨が気付いた時には美空は視界の果ての点と化していた。
はあっと嘆息して左手で顔を押さえた千雨がくいくい手招きする。

「非常にヤバイって事は理解した。
取り敢えずあれがどういう組織なのか分かるだけ知っておきたい」
「取り敢えず、あそこと戦争は洒落にならないから。
こっちの魔術の世界の中でも半端なく強いし」

それは、千雨が見た片鱗からでも伺えると言うものだ。

「うーん、どういうって言うと、あそこは基本、来る者は拒まずの実力主義だからね。
技術があれば、基本的な約束事さえ守っていれば余り宗教にはうるさくないって言うか。
あくまでイギリス清教のために邪魔になる魔術を狩る、
イギリス清教の利益の中でそれが出来るなら何教でも構わない、ぶっちゃけそんな感じで」
「女狐」

千雨がぼそっと言った。

「そこまで掴んでる?」
「ネットで拾っただけだ」

そういう千雨に、美空は小さく首を横に振る。

「私も詳しい事は知らないけど、そこまで分かってるなら迂闊に触らない方がいいね。
ネセサリウスの女狐は業界でも知られてるから」
「なるほどなぁ」

「ネセサリウスは魔術の世界でも裏の作業だから私も直接知ってる事は少ないけど、
そういう連中だから腕だから確かって事で、
まあー、まず喧嘩はしない方がいいね。

それ自殺志願者だから、いや、元が魔女狩り軍団だから楽に死なせてくれないし。
正確には分かりかねるけど、ネギ先生ならとにかく、
そっちのパーティーでも中堅所ぐらいだとかなり厳しい事になると見ていいね」

117: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/12(水) 14:34:35.06 ID:wL7Xv+UE0

「ああ、ま、調べててちょっと興味があったって事で。
流石に今更ドンパチは夏休みで十分だ」
「まあ、長谷川だからね」

美空が、ヒラヒラ手を振って教室に入る。

「どうするの?」

夏美に聞かれ、千雨は目を閉じて天を仰ぐ。

「…っきゃねぇか…」

千雨の一人言に、夏美はしっかりと頷いていた。

「………」

背筋に入る冷気は、振り返る事を躊躇させる。
それでも、千雨はチラッとそちらに視線を向ける。

(既に床から十センチほど浮かんでるってかよ)

「副担任として、時計の見方から教えるべきなのかな?」

ここで、主に肉体言語で、等と言われたら、
滅びようとしていた「世界」に比較してとてつもなく脆弱な自分の肉体の事など、
想像以前の問題だった。

今回はここまでです。続きは折を見て。

119: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/14(金) 04:09:03.96 ID:XIFu9C330

 ×     ×

「ってか、水中から女の子が飛び出して来るってなんだ!?
お前達の好みのタイプはネイビーシールズ所属なのか!?」

放課後のとある路上、補習を共にした悪友共の毎度の馬鹿話に、
上条当麻は叫び声を上げていた。
実際つい最近水の中から飛び出して来た女の子に割と痛い目を見せられた訳だが、
多分関係無い事の筈だ。

「はっ、何甘っちょろい事言うんてんねカミやんは」

それに対して示された途方もない包容力の全貌について、
ここで詳述を避けた事に就いてはひとえに作者の根性の問題とご理解いただきたい。

「一個明らかに女性じゃねーのが混じってんだろ」
「えぇーっかっ!カミやんっ!!」

通常ならそれで終わる筈のだるそうな突っ込みに対して、
とてつもない包容力の持ち主はその場に片膝をついて、
ビッ、と反対側の歩道を指差して熱弁を振るう。

「あっちの金髪のオネーチャンもすぅぅぅぅぅぅっごくいい線行ってるけどなぁ、
その隣の子、そう、あの子、あの子がや、
髪の毛をセミロングに伸ばしてセーラー服姿でもじもじしてる姿を想像してみぃっ!!」

「………」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっっかああああっ!
カミやんっっっっっ!!!」

ふと、言葉を止めた上条を追い打ちで一挙に攻め落とすべく、
バッと反対方向の歩道へと右腕を振って力説した。

「そっからメタモルフォーゼや、
あの子が腿まで白いセクシー浴衣でキツネの耳と尻尾を装着して
両手をくいっと曲げてウインクしてる所を思い浮かべてみぃやっ!!」

120: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/14(金) 04:14:20.88 ID:XIFu9C330

「………」

「ほな行ってきまあっすっっっっっ!!!」

上条が上を向いてふと思考に沈んでいる間に、
青髪ピアスの大柄な不審人物が全速力で車道を突っ切っていた。

「雪!月!花!!
春!夏!秋!冬!!
豪!華!絢!爛!!
天!!罰!!覿!!面!!!」

「ごうぅぅぅぅぅぅぅぅほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ
ううぅぅぅぅぅぅぅぅぅびいぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっっっ!!!」

その後、地面にぶっ刺さって林立した鉄骨の檻の中から発見された
コルク抜きのオブジェから察するに、
愛と言うものはやはり何かを凌駕するものであるらしい。

「んじゃ、カミやん後でにゃー」
「ああ」

 ×     ×

「当麻君?」
「何をしているのかなとうま?」
「………」

寮の居室で、帰るなりその場で膝立ちとなり、
両手の指を組んで目を閉じて頭を垂れるこの部屋の主に、
居候二名が怪訝な表情と言葉を向ける。

「うん、とうま、私はシスターだからね、懺悔なら聞いてあげるんだよ」

そう言って、猫の様な笑顔と共にドンと胸を叩く。

「だから、正直に告白して欲しいんだよ、
今度は一体誰の着替えを見たのかな?」キラーン

121: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/14(金) 04:19:40.61 ID:XIFu9C330

 ×     ×

そこは、丸で巨大な図書館だった。
麻帆良学園には図書館島と言う桁違いの大規模図書館が存在するが、
この、しんと静まった図書館も、
長谷川千雨が「図書館」として立ち入った限りでは引けを取る様には見えない。

その長谷川千雨の格好は、図書館の利用者と言うには相当奇矯な、
アニメキャラクタービブリオン・ルーランルージュをそのまま模した姿をしている。
かくして、長谷川千雨は、その奇矯な姿で途方もなく巨大な書庫の中を、
案内板や冊子状の蔵書リストを一つ一つ確認して四苦八苦していた。

今日び、市立図書館に行っても蔵書案内ぐらい機械的な検索、ネットワークで行う事が出来る。
ここでもやろうと思えば出来るのだが、
今の千雨の立場でそれをやればそのままの意味で身の危険がある。

只でさえ、小型UFOやら虫型、タコ型の小型ロボットやらが
サーチライトを光らせて辺りを巡回している。
千雨はそれをかいくぐり、必要な資料を探し出し、手作業でコピーを取る。
察知の危険がある検索や一斉コピーの機能は迂闊に使えない。
この膨大な書庫の中での手作業は気が遠くなりそうだ。

「ちう様、ちう様っ!?」
「ん?」

そんな千雨の元に、警戒に出していた電子精霊達が泡を食って戻って来る。

「!?なんだあっ!?」

危険な行為であるがすーっと空中に浮遊した千雨が、そこから見える光景に絶叫する。
遠くからこちらに向けて、林立する本棚が猛スピードで花びらに化けて次々と粉砕していた。
一端着地した千雨が、バッとジャンプする。
地面から赤い花の咲いた蔓がしゅるしゅると千雨を追う様に伸びてくる。

「ちう様あっ!」
「ちいっ!」

電子精霊た゛いこが蔓に捕獲される。千雨がミニステッキからの電撃でその蔓を焼き切る。
空中を浮遊する千雨に向けて、蔓が下から次々と伸びてくる。
千雨は電撃を帯びたステッキで懸命に其れを振り払う。

122: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/14(金) 04:24:52.55 ID:XIFu9C330

「!?」

更に前方に、とんでもないものを発見した。
それは、丸で巨大な薔薇の木の塊だった。
その塊の真ん中から、ボコンと巨大なトカゲ、肉食恐竜を思わせる首が飛び出す。
その口がガパッと開いた時、千雨にはイメージが目に見えた。

「だああああっ!!」

大トカゲ、ハッキリ言って怪獣の口から放射された青白い光を、千雨は必死に交わす。

「ちう・パケットフィルタリィーングッ!!!」

怪獣の二撃目、回避が間に合わないと踏んだ千雨が攻撃魔法で対応する。
出力がお話しにならない。バリバリバリと今にも食い破られそうな脆弱な魔力で
相手の攻撃の直撃を避けながら、辛うじて攻撃を回避する時間を稼ぐ。
その間に、薔薇の塊からは、やはり爬虫類と思しき腕が、
脚が、ボコン、ボコンと伸び出して動き始めていた。

「ちう様あっ!」
「撤収撤収撤収ううううっっっっっ!!!」

 ×     ×

科学の学園都市内のホテルの一室。
長谷川千雨は、魔法陣の描かれた床に四つん這いになる形で
ぜぇぜぇと荒い息を吐き腕で額を拭っていた。

「大丈夫でござるか?」
「なんとかな」

長瀬楓に問われ、ふらり立ち上がった千雨はどさっと座椅子に座り込む。

123: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/14(金) 04:31:43.53 ID:XIFu9C330

「バンク、どうだった?」
「どうもこうも、葉加瀬とこいつ、「力の王笏」の力を借りて、
それでこの様だ。さすがは科学の学園都市だ」

夏美の質問に千雨が応じる。科学の学園都市に再度潜入した千雨は、
科学者として何れ科学の学園都市との対決も視野に入れていた葉加瀬聡美から借りた機器と
電子精霊を使役する千雨のアーティファクト「力の王笏」の力を借りて、
バンクと呼んで書庫と書く、科学の学園都市の総合データベースへの侵入を試みてこの結果となっていた。

電子精霊の力で、丸で電脳世界をイメージ映像化した世界を自分の肉体が直接体験している様な
感覚変換が行われていたのだが、
そんな状態での猛烈な追撃に、それは文字通り命からがらの脱出だった。

「なんとか追っ手は撒いた筈だが、そもそもおかしいんだ」

一息つきながら千雨が言った。

「アリサは三年より前の記憶が無い、事故で救出されて施設に入っていた、
自分の本名すら分からない。そう言ってた、嘘を言っている様には聞こえなかった。
その設定自体、科学の学園都市と根本的に矛盾する。

ネットや葉加瀬の伝手でなるべく精度の高い情報をかき集めた所では、
科学の学園都市は能力開発とやらのために学園都市の外から所定の手続きを経て学生を集めてる。
そして、書庫は最先端のデータベース、そこで学生のデータを生体認証付きで詳細に管理している。

そんな所に、なんで名無しの権兵衛が存在出来るんだ?」

「それを確認するためにアクセスしたんだよね」
「答えを見付ける前にこっちの存在がヤバくなったけどな」

夏美の言葉に千雨が言う。まだ、気分がハイになっているらしい。

「どうだ、葉加瀬?」
「駄目ですねー」

葉加瀬謹製多機能PDA越しに、千雨と聡美が言葉を交わす。

124: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/14(金) 04:34:49.48 ID:XIFu9C330

「馬鹿みたいに高度な暗号化技術が使われています。
しかも、一つ一つのデータに対してです。

これを解析して元の状態手に復元出来るとしても、最低でもスパコン使い放題で
十字教の神の子が生まれてから今までの時間を何度か繰り返すレベルの時間が…」

「あー、分かった、悪かったな」
「いえ、こちらこそ力不足で」

ああなったらむしろ大丈夫だろうと言う事で
一応、あの本棚の跡地からかき集めて来た
「花びら」のデータ解析を依頼した結果がこれだった。
暗号と言っても麻帆良学園、葉加瀬聡美の手腕をもってすれば大概のものは何とかなる。
やはり科学の学園都市の技術は桁が違っていた。

 ×     ×

ホテルの部屋では、千雨の「帰還」を受けた打ち合わせで再開される。
面子は、千雨が何となくリーダーで長瀬楓、犬上小太郎、村上夏美、
それに、朝倉和美と相坂さよが加わっていた。

なぜ朝倉和美と、現状では人形に封じられて交信している
幽霊生徒相坂さよがここにいるのかと言えば、
要は不審な行動を和美に気取られたからであり、
無理に隠すよりは情報戦の凄腕である和美を引き込んだ方が話が早いと言う判断でもあった。

「科学の学園都市で行動出来る様に葉加瀬には色々やってもらったけど、
それでもバンクへのアクセスが出来る程じゃないからな。
無い物ねだりをすれば、せめて基本情報だけでも閲覧したい状況なんだが」

千雨が、PDAを覗きながらバリッと頭を掻く。

「やっぱり、ここの、科学の学園都市の人間じゃないと無理?」
「まあ、そういう事だな。それも、当然個人情報、
それも能力開発とやらに直結してるからここの人間なら誰でもって訳でもない」

和美の問いに、千雨が応じる。

125: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/14(金) 04:40:13.99 ID:XIFu9C330

「ってなると、そのアクセス出来る人間を味方に付ける、って線か?」

小太郎が口を挟む。

「私もそれを考えた。
この科学の学園都市にはジャッジメントとアンチスキルって二つの警察がある。
アンチスキルは教師、ジャッジメントは学生で組織されていて、
こいつらにはある程度のアクセス権限があるらしい。
アンチスキルは本格的に危ないらしいが…」

「ジャッジメント、風紀委員だっけ?所詮学生は学生」

和美が悪い笑みを浮かべた。この手の話が最も得手なタイプだ。

「バンクで集めるだけ集めた情報から絞り込んで見た」

そう言って、千雨はPDAの画面を示す。

「とても全データには追い付かないが、
一年で見た目もちびっこくていかにもってツインテール、お嬢様学校、
しかも、特記事項として負傷休職の情報まで入ってる」
「悪いけど狙い目、だね」

千雨の紹介に和美が言った。

「まずは探りを入れてもらいたい所だが…」

千雨が、妙に役に立ちそうな面々に視線を順送りした。

130: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/15(土) 03:59:24.97 ID:uYbdsa+r0

 ×     ×

「ヒャッハwwwwwwwww」

科学の学園都市には、スキルアウトと言われる存在がある。

「ヒャッハwwwwwwwww」

正確に定義されている所では武装無能力集団。
しかし、広義で言えば、無能力の不良連中、と言ってもいい。

「ヒャッハwwwwwwwww」

その中のとある一団、そのマイブームは単車であった。

「ヒャッハwwwwwwwww」

それも、ごついオフロードバギーを爆音上げて乗り回すと言う、
科学の学園都市にしてはえらくレトロな連中だ。

「ヒャッハwwwwwwwww」

外の世界から何十年と発展した科学の街でも、
この手の人間の愚かさまでは到底根治されない。
そんな現実の見本の様なものだ。

「ヒャッハwwwwwwwww」

今日も今日とて、揃いのごつい肩パッドを装着して、
背中にホースつきタンクを背負って公害と共に暴走している。

「ヒャッハwwwwwwwww」

両サイドをすっきりそり落として高々と伸ばした髪を空気抵抗になびかせて、
十字路に突っ込んだバギー軍団。その曲がり角では、
一般には街を巡回して自動的に汚物を消毒する用途に使われているロボに跨った
ちっこいメイドさんが驚愕していた。

131: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/15(土) 04:05:27.54 ID:uYbdsa+r0

 ×     ×

「ああ、見付かったよ」

科学の学園都市の一角で、佐倉愛衣は携帯電話で通話をしていた。
魔法的な通信は却って危険と言う事で、
独自の暗号に魔術を組み合わせ衛星を経由する特別製だ。

「Index-Librorum-Prohibitorum。
科学の学園都市の出入国に記録が残っていた」

電話の相手は弐集院光。麻帆良学園の魔法先生として麻帆良からの情報収集を行っていた。
電子精霊の使い手として極めて高い技術で電脳空間に干渉出来る弐集院だが、
それでも科学の学園都市へのハッキングは並の難しさではないと聞いていた。
そんな弐集院が掴んだと言う情報は決して多くはないが、無駄とも思えない。
愛衣は携帯を肩で抑えてメモをとる。

「上条当麻…」

 ×     ×

「………」

小太郎は、巨大な水槽の前で腕組みをしていた。
この手の裏の仕事には経験がある、一応忍術使い。
と言う事で、潜入調査に当たった小太郎は、
話せば長くなる紆余曲折を経て数々の艱難辛苦を乗り越えて
寮の天井裏から適当な部屋に降り立ち、こうして水槽を眺めていた。
水槽の中では、でっかいアロワナが悠然と泳いでいる。
周辺の調度品を見てもこの水槽一つとっても、やはりお嬢様は違うと言う事か。

132: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/15(土) 04:10:55.68 ID:uYbdsa+r0

 ×     ×

「戻ったでござる」

ホテルの部屋に、長瀬楓が戻って来た。

「あー、今戻った、つーかすまんな、ドジッてもうたわ」

楓について来た小太郎が言う。
潜入調査を開始した小太郎が連絡時間を超過しても音信不通となっていたため
二手に分かれて動いていた楓がその後を追って追跡調査していたのだが、
結論を言えば、小太郎は行き先を間違えていた。

間違えて別の寮に潜入していて、楓が力ずくでその小太郎を連れ戻し、
一端麻帆良に戻って神楽坂明日菜にドツキ漫才を頼んでから戻って来た所だ。
取り敢えず小太郎本人は道を間違えたとか思っていない訳なので、
その間に展開されたお手に始まる女子校育ちの好奇心に充ち満ちた黒歴史の数々に就いては
武士の情けとして詳細な描写は敢えて差し控えるものとする。

 ×     ×

当初は楓に全面的に交替する事も検討されたのだが、
一度受けた以上プライドの問題として、
小太郎による潜入調査続行が決定された。

「まぁー、出入りはちぃと厄介やったけど、
ここまで来たら何とかなるかいな」

天井裏から廊下に降り立ち、気配を探りながらささっ、ささっ、と、
目標地点に影の如く歩を進める。

「ほう、今日学ラン姿に該当する立入許可は無かった筈だが?」

小太郎がぴたりと動きを止める。
察知し損ねたのも十分脅威だが、察知した今、
背後から感じられるその雰囲気は、強者のそれに相違ない。

133: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/15(土) 04:16:08.01 ID:uYbdsa+r0

「面白い。

まだこの時間から堂々無断侵入とは

良 い 度 胸 だ」

ホテルの部屋で、長谷川千雨は報告を受ける。

「いやー、流石科学の学園都市、警備に追っ掛けられてすっ転んでもうたわ。
ちぃーとこのか姉ちゃんと茶ぁーしばいてすぐ戻って来るさかい」
「ああ、ごゆっくり」

首を白く固めたミイラの出来損ないの言葉に、千雨は片手をひらひらふって送り出す。

 ×     ×

「で、又行くのか?」
「ああ、色々準備はして来たさかいな、成功は目前や。
ま、ちぃとごたついたけど待っててや」

ホテルの部屋に戻って来た小太郎が千雨と言葉を交わしてから、
和美と密談を交わす。

「眼鏡の年増や、なんとかそいつの動向見張ってくれ。
そいつさえ何とかなれば後はこっちでどうにかするさかい」

かくして、影の如く出て行った小太郎が戻って来てからの報告を、
千雨はホテルの部屋で腕組みしながら聞いていた。

「いやー、さすがは科学の学園都市やなー、
どこに逃げてもどこに隠れても、あっつう間に居所察知されて
電流は飛んでくるわ手裏剣は飛んでくるわ。

どうしてもっちゅうから、
これからちぃとこのか姉ちゃんとゾンビライダー一勝負して来るけど、
ここは一つ、方針の変更ちゅう奴を進言したいんやけど」

134: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/15(土) 04:19:45.98 ID:uYbdsa+r0

「ああ、そうしてくれると助かる、私の精神衛生上もな」

カラカラ笑って後頭部を掻いているアフロなハリネズミを前に、
はあっと息を吐き、バリバリと後頭部を掻きながら千雨が言う。

「そもそも、相手が悪かったねこりゃ」

ノーパソを操作していた和美が言う。

「千雨ちゃんがかき集めたデータ、
バンクだけじゃなくてあちこち集められるだけ集めた奴、
色々分析して見たけど、噂に聞く超能力者、それもかなり上位だよその娘」
「超能力、か」

科学の学園都市の超能力、魔法のまほネットも含めた電子情報に長けた千雨や
天才科学者としてのルートを持つ葉加瀬聡美が関わっての今回の作業だ、
その辺の事も嫌でも耳に入る。

「科学の学園都市で超能力って言うと別の意味になるから、
私達が言う所のエスパー、ジャッジメントでも相当なやり手みたいだしね。
その辺のデータはやっぱり機密だね。千雨ちゃんの電子精霊に色々やってもらったけど、
ファイル自体が見付けにくい上にややこしい鍵が掛かってる。
これは符丁で書かれたメモみたいなものかな、おおよそ解いてはみたけど」

「ふむ、案外アナログに頭を使って意味を読み解くタイプでござるな」
「機械的に解こうとしたら、往々にしてそっちの方が難しい事があるからな」

楓の言葉に千雨が続いた。

「んー」
「村上?」

浮かない顔で呻く夏美に千雨が声を掛ける。
全くチームリーダーなんて向いていないと千雨としては思うのだが、
自分が無力で頼んだ以上は責任がある。
それに、夏美の相棒はまだ戻って来ていない。

135: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/15(土) 04:23:38.92 ID:uYbdsa+r0

「本当にとんでもない街なんだね。メイちゃん大丈夫かな?」
「まあ、滅多な事は無いとは思うけどな」
「うーん」

千雨が言うのは気休めではない。
夏休みの事では、特化した能力で事件の中枢近くで活躍したのは夏美でも、
その裏で愛衣がぶっ飛ばされながらも少数精鋭の一兵士の役割を堅実に頑張っていたのは見聞きしている。

もちろん夏美も怖い思いも大変な仕事もした、それは誇るべき事だと思っているが、
同時にすぐに美味しく物凄く美味しいアーティファクトの大当たりと言うラッキーも大いに自覚している。
そう考えても、あの夏休みの愛衣の仕事は決して容易なものではない。
それをこなした愛衣が容易にどうにかなるものではない、それは理屈だと夏美も思う。

だが、夏美の見た所、愛衣は真面目な頑張り屋で、それが割とストレートに報われるタイプだ。
普段は素直ないい子ちゃんタイプにも見えるが、だからこそ忠実に貫くものを持っている。
本当は強い芯を持つ頑固者だ。個人的には、ある分野で張り合うのにだからちょっと怖かったりもする。

魔法の事はまだ詳しいとは言えなくても、これは何の仕事、何の夢を叶えるのでも同じ事で、
そうでなければ小太郎からも一目置かれる、それなり以上に優秀と聞こえる魔法使いにはなれない筈だ。
自分の様に弱いと分かっている人間なら早めに諦める事が出来るのだが。
それが、夏美に一抹の不安を抱かせる。

「確かに、色々簡単じゃないけどな」

千雨も、決して無闇に楽観的ではなかった。

「向こうは仕事でやってるんだ。こっちはこっちの都合で勝手にやってる。
下手に一緒に動いて何かあったら先生や高音さん達に
私達の勝手の分まで直に火の粉飛ばして責任問題になっちまう。
あいつの実力なら滅多な事は無い、引き時も知ってる筈だ、
今はそれぞれで出来る事をするしかない」
「うん」

夏美も、それで納得するしかなかった。

136: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/15(土) 04:27:13.11 ID:uYbdsa+r0

「やっぱ断片的だなぁ。千雨ちゃん、もう一回アクセス出来ない?」

「厳しいな。そもそも、身元の特定、不特定と引き替えにルートが限定されてて
そこをかいくぐって中に入るだけでも一苦労だ。
同じルートからの侵入は向こうも手を打ってるだろう。
しかも、そのセキュリティーやってる奴が見事にイカレてやがる」

「そんなに凄いの?」

夏美が尋ねた。

「技術は極上、使うワクチンプログラムはぶち殺し上等の極悪品、
その上、あの規模を迷わず焦土作戦かけるキレっぷりだ。
何て言うか、総合力ではこっちが上でも向こうは特化した殺し屋か人食い虎みたいなモンだ。
手加減してたら侵入出来ないが、
あんなの相手に感覚リンクして殺り合ったらこっちの精神がヤバくなる」

「と、すると、他に誰か…こっちの方使えないかな?」

ガシガシ頭を掻く千雨の側で、
収集したデータを読み込んでいた和美が改めて口を挟んだ。

「何か見付けたか?」
「うん。ジャッジメントの内部資料の隠しファイル。
人事関係の資料だねこれ、それも裏の調査資料」

説明しながら、和美は操作を進める。

「黒い交際って奴だね。
本人の情報なんかを総合すると、昔の話だし優秀な人材だから不問に付した、って所だね。
只、他のデータなんかを見る限り、多分この情報はこのファイルだけ、
人事関係の一部分に限定された情報で他には知られていない」

「…何か、物凄い悪役めいた事考えてないか?」
「だーいじょうぶだって、この手の交渉事は得意なんだから」

千雨の問いに、和美はニカッと悪い笑みを浮かべた。

137: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/15(土) 04:30:27.67 ID:uYbdsa+r0

 ×     ×

「交通事故だって!?」

友人が巻き込まれた一報を聞き、御坂美琴は病院に駆け込んでいた。

「ああー、いっきなり突っ込んで来たからすっ転んじゃった」
「大丈夫なのっ!?」
「うん、かすり傷なんだぞー」
「良かったぁ」

思いの外元気な笑顔に、美琴は額の汗を拭い座り込む。

 ×     ×

「ったくよぉー」

上条当麻は、ぶつぶつと呟きながら帰路に就いていた。
流石に今回は「不幸だ」とは言わない、正当に健康的な苛立ちを募らせている。
例の一件に就いて情報を得るべく、
上条は自分の知るとある多重スパイにコンタクトを取り、密談の手筈を整えていた。

しかし、蓋を開けると相当時間すっぽかされた上に緊急事態に就きスマンと
丁重な謝罪メールが送りつけられて今に至っている。
無論、その間にとある多重スパイが実行していた
命懸けの昆虫等採取ノルマ百の事などは上条当麻の与り知らない所であった。

138: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/15(土) 04:33:45.02 ID:uYbdsa+r0

 ×     ×

佐倉愛衣は、科学の学園都市のとある通りを歩いていた。
人気の無い道を進んでいた愛衣は、その事に気付いて足を止める。
ハッと周囲を伺った愛衣の顔からは既に血の気が引いていた。

「アデアット!」

愛衣が、呼び出した箒の底でガン、と地面を突き座り込む。

「…メイプル・ネイプル・アラモード…」
「………偉大なる始まりの炎よ………それは………邪悪を罰する………」

142: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/16(日) 03:57:03.38 ID:fvpY0l480

 ×     ×

轟音を上げて通りを埋め尽くす炎の塊。
そのまっただ中から、左手で箒を掴んだ佐倉愛衣が文字通り飛び出す。

「くああああっ!!」

その愛衣に、よく見ると人の形を原形とする炎から
巨大な紅蓮の拳が腕と共に突き出される。
愛衣がその炎に右手を差し出し、悲鳴と共に宙を舞う。
空に逃れるまでの僅かな時間、魔力のほとんどを防御に回して辛うじて一撃目での蒸発を避ける。

そして今、魔法による浮力だけを僅かに残しながら、
炎の拳に対抗する右手に魔力を集中させる。

単純防御だけではない、蜥蜴使いのスキルを駆使していわゆるベクトル操作、
愛衣を呑み込まんとする炎に対して受け流し、僅かな力で軌道を反らし、
愛衣の知る炎に関する魔法理論を出し尽くして、
可能な限り小さな力で直撃の回避だけを最優先とする。

「あーーーーーーーうーーーーーーーーー」

だが、上空では、ばぁんと強烈な抵抗力によって愛衣が弾き飛ばされた。
火力が余りにも違いすぎる。相手に比べて限られた愛衣の魔力では、
ほんの僅かでも効率のバランスを間違えていれば今頃間違いなく蒸発していた所だ。

本当に出来るかどうかはとにかく、真正面からこちらに飛んでくるビル解体用の振り子鉄球を、
ピンポイントの弱点をとらえて小石をぶつけて軌道を反らし、爪楊枝で静止させた様なもの。
炎使いとして、それぐらい無茶苦茶な攻撃と防御の力差のやり取りを何とか凌いだ、ここまでは。

143: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/16(日) 04:02:27.27 ID:fvpY0l480

「く、あっ」

愛衣が地面に叩き付けられる。防御魔法により人体内部への直撃は避けられたが、
それでも二次的な衝撃の苦痛は半端なものではない。

「!?」

そんな愛衣に、大きな炎の拳がぐあっと殴り付けて来る。
愛衣は、両手で掲げた巨大な火球を叩き付けて一瞬だけそれを打ち消す。

「まだ抜け出していない、一体どれだけの…」

立ち上がろうとした愛衣の膝が砕けた。
肉体もそうだが、既にして精神的に追い込まれている事が自分でも分かる。
只でさえ実力が大きく離れている。遭遇戦でなら多少の分があっても、
ここまで完璧に待ち伏せされた場合、相性が悪過ぎる事がよく分かっている相手だ。

(…ドウスル?ドウスル?ドウス?…)

 ×     ×

愛衣の目の前で、触れただけでも灰となる巨大な炎の拳が消し飛んだ。
愛衣と紅蓮の炎の間に立つのは、右手を突き出した、

「上条、当麻?」

ぽつりと呟き、愛衣は頭をぶんぶんと振る。
次に進めない容量一杯の状態で問いだけを続けていた自分の思考に気が付いた。

「早く逃げろっ!こいつは…」
「かの教皇の名を冠した魔女狩りの王。
その意味は…必ず殺す…」

上条は振り返りながら相手を見据える。
すくっと立ち上がった愛衣の顔には力強さが戻っていた。

144: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/16(日) 04:08:05.15 ID:fvpY0l480

「やっぱりマジック・キャンセル」
「魔法使いはそう呼ぶのかよ」
「少しだけ時間を下さい」
「ああ、長くは無理だぞっ!」

ぽつ、ぽつと、しかし確かな愛衣の口調に上条は叫び声を返し、
瞬時に再生する炎に右手を向ける。
パン、と両手で顔を叩いた愛衣が自分の状況を把握する。

懸命の防御魔法で首から上は維持、首から下も、
防御範囲をギリギリまで限定した事で人体への直撃は回避出来た。
肉体を外れた焼失範囲は95%を超え、二次的なダメージは吐き気がする程だが、
それでも魔術の直撃を受けていたら灰も残っていない筈だ。

愛衣は右の脛に縛り付けた布を解く。布状の高価な魔法素材だ。
その布の中から大量のカードを取り出し、トランプの様な扇状に広げると、
たたっ、とその場でステップを踏んだ。

「メイプル・ネイプル・アラモード…」
(バレエ?)

爪先でつつつーっとその辺を動き出した愛衣の挙動に
激しく突っ込みたい上条当麻であったが、実行には移さない。

一つにはそんな余裕は毛程も無いと言う事。
この相手は、今ここでトドメをさせない。ひたすら攻撃即ち防御の一方的展開で、
右手以外に僅かに触れたら人体など瞬時に灰になる薄氷がその場で蒸気になる展開。

それに、詠唱しながらと言う事はあれも魔術的な意味があるのだろうと、
上条も経験で学んでいる。盆踊りの魔術師がいるのだからバレエぐらい突っ込む迄も無い。

「う、おおおおっ!」
(四大元素の…流れを…読めたっ!…)

いよいよ上条が、優勢であるほんの一点を除いて圧倒的な火勢に呑まれようかと言うその時、
ぐるん、と回転した愛衣から大量のカードが放たれ、
愛衣は両腕両脚をあちらこちらに伸ばしてスタンとポーズを取る。
別に格好を付けたかった訳ではなく、
勢いを放出しつつガシッと地面をとらえない事にはそのまま転倒しそうな勢いだった。

145: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/16(日) 04:13:29.26 ID:fvpY0l480

 ×     ×

「!?」

上条の目の前で、一帯を呑み込む巨大な炎は
バッ、と、大量の花びらとなって風と共に消え去っていった。
ハッと上条がそちらを見ると、ステイルと愛衣が交差していた。

ステイルの手には炎剣が燃え上がり、
交差してザッと振り返った愛衣は、後ろ髪から右側の束ねが失われて
セミロングの後ろ髪の半ばをぞろりと流れていた。

「スペル・インターセプトに近いものか。
ルーンの配置を逆算して別のルーンカードを差し込んで別の意味に書き換える。
僕のイノケンティウスは術式自体が複雑、その上に何重にも強調しておいた筈だが、
ああ、魔法理論の成績は優秀だったか」

「卒業は首席でしたから」
「そうかいっ」

ダッと駆け寄るステイルの手には、既に二振の炎剣が現れていた。
炎剣と箒が激しくぶつかり合い、弾かれる。
タンッと飛び退いた愛衣が地面に両手をつき、大量の火球がステイルに飛ぶ。
ステイルの炎剣がそれをうっとうしそうに払う。
その間に急接近していたステイルが愛衣の箒さばきに押され、炎剣を大きく振った。

「ちっ!」

何度か攻撃を交差しながら、ステイルは予想外のうっとうしい思いをしていた。
ステイルの知る愛衣は純然たる魔法使い。
それだけの実力もあった。無詠唱の速射一つとっても並の魔術師を圧倒する程だ。

だが、今回はそれに比べて、箒さばきが格段に上達している。
元々箒はポピュラーなマジックアイテムであり、魔法の補助として直接使う事もしばしばある。
だが、今の愛衣は箒自体を武器として上手に使いこなしている。

本来ならば、炎剣一つとってもステイルの火力は圧倒的、
サラマンダーの使役者同士であれば、そのまま灰になるまでねじ伏せて押し通るだけの力差がある筈だが、
愛衣は武術とサラマンダーの知識、魔法の両方の技量で押されながらも上手くさばいている。

146: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/16(日) 04:18:54.22 ID:fvpY0l480

更にそれを補う様に、ステイルの動きが大きくなった時、
低い位置を狙って来る愛衣の蹴り技が意外と鋭く馬鹿にならない。
距離を取ったら無詠唱の飛び道具が来る。
ステイルから見たら飛来する火球の威力自体はどうにでもなる程度だが、
元々得意だった無詠唱の速攻に磨きが掛かっている。

「少しは場数を踏んだらしいな。あの夏、君もあそこにいたのか?」
「ええ、センターとまではいきませんでしたが」
「そうかい」
「!?」

愛衣がハッと振り返り、顔の前に立てた箒に防壁を集中させる。
愛衣の正面でワイヤーを弾き飛ばされた神裂火織が、チラと目線で周囲を伺う。
紅い蛍の様に大量の火の粉が神裂の周囲に自然発生している。

その蛍が、不揃いのボール大になり神裂に一斉に吸い寄せられた。
大量の火球が瞬時に消滅した後、神裂は特にその場を動く事も無く、
腕の動きだけで自分の側頭部を狙った蹴りを受け止めていた。

「あ、ぐっ…」
「神裂っ!」

愛衣の脛を掴み、そのまま近くの建物の壁まで放り投げた行為に、
ステイルの炎剣をさばいていた上条が怒号する。

「大丈夫ですよ」

神裂の声からは、むしろ慈悲深さすら感じられた。

「残り少ないとはいえ、彼女は体を守るぐらいの魔力と技術は持っています」
「つ、うっ…」

言葉の通り、愛衣はくらくらしながら立ち上がった。

「拳法に棒術、堅実に基本を踏まえていますね。
速攻性の強いあなたの魔術と組み合わせるなら侮れない。
しかし、イノケンティウスの回避だけで九割方使い果たした魔力と
その覚えたての初歩的な格闘技で私達とこれ以上続けますか?」

「今のを交わされたら、正直無理ですね。
元々1%も当たると思ってませんでしたが…ステイル」
「ん?」

147: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/16(日) 04:21:57.01 ID:fvpY0l480

「あれだけの規模のイノケンティウス…完全に動きを読まれて先回りされた…
私がそこに目を付けると言う事を、知っていた。魔道図書館…」

上条と神裂の足が動く。愛衣の一言で、ステイルの目つきが明らかに変わっていた。

「鳴護、アリサ…ネセサリウスの戦略兵器とも言うべき禁書目録、
ここまで引っ張り出したのはアリサの解析のため?…」
「ステイル!」

切れ切れの口調で辛うじて問うていた愛衣が気が付いた時には、
彼女の目の前で上条がステイルの炎剣を握り潰していた。

「これだけは言っておく」

ステイルは怒気を隠そうともしない。

「あの子に手を出すな。
いいか、指一本触れてみろ、麻帆良、否、魔法協会まとめて魔法名にかけて灰も残さない」
「ステイル!」

神裂の鋭い言葉に、ステイルはつかつかと、殺意そのものの眼差しを向けたままその場を離れた。

「退いて下さい」

神裂が低い口調で言った。

「今これ以上は学園都市の介入も抑えきれない、互いに益も無い。
麻帆良は穏健な魔法勢力、あなたは賢明で優秀な魔法使いと聞いています」
「分かりました」

鼻を鳴らすステイルを脇に、合意が成立した。
神裂が頷き、引き揚げが始まろうとする。
少し下を向いていた愛衣が顔を上げた。

「ステイル」
「何だ?」

返答があっただけ上等だ。

148: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/16(日) 04:25:17.39 ID:fvpY0l480

「ステイル。その力を得て、あなたは望んだものを手にしたの?」
「…忌々しい事にな…」

不思議な反応だった。ステイルの殺意に等しい眼差しは愛衣を僅かに逸れていて、
それでいて、愛衣は殺意の奥底にほんの僅か安堵の様なものを嗅ぎ取る。
神裂の表情も心なし柔らかく見えた。

 ×     ×

「おいっ!」

ステイルと神裂が見えなくなった頃、ふらりとバランスを崩した愛衣を上条が支えた。

「あ、すいません」

立ち上がろうとした愛衣の脚と脚が絡まり、
上条と正面から向き合う形で倒れ込む。

「お、おい、大丈夫か?」
「え、ええ、何とか」

余り大丈夫とは言えない、意識を保つ事すら辛いのを愛衣は自覚している。
肉体的なダメージが馬鹿にならない上に、
火力では圧倒的に優位、言わば人の身でクマと力比べをする様に
イノケンティウスと自分の魔力で正面対決する羽目に陥った。

魔力の素となる気力、精神力はあと何欠片かと言う有様で、
今すぐにでもベッドに倒れ込みたいと言う渇望が脳内メーカーのほとんどを塗り潰している。

「本日は大変もってありがとうございました。これにて失礼おばつかまつります」

よろよろと立ち上がり上条から距離をとった愛衣は、
日本語すら滅茶苦茶になりつつある状態で
ばたんと二つ折りにお礼をしてひらりと箒に跨る。

149: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/16(日) 04:28:57.72 ID:fvpY0l480

「…おいっ!…」
「ひゃっ!?…あうあうあうあうあうっ!!」

離陸直後、只でさえ残り僅かな魔力で無理やり急上昇しようとした状態から
上条の右手に足首を掴まれ、魔力の循環不全を起こして
ガクガクガクと震動する箒に揺られた愛衣が、
しまいに異常を察して手を離した上条の側でドタンとその場に箒ごと墜落した。

「たたた…」
「あ、悪い。大丈夫か?」
「え、ええ、なんとか…」

いよいよもって意識が危険水域に達したのか、
血の気の昇った顔色で口からは見るだけで聞こえて来そうな大きな呼吸を出入りさせ、
とろぉーんと瞳を潤ませて立ち上がるやつつつとあらぬ方向に動き出した愛衣だったが、
上条の声を聞き、ぱしぱし頬を叩いて意識をつなぎ止める。

「お前には色々聞きたい事が」

「え、ええ。気持ちは分かります。でも、ここに長居は出来ません。
その場の口約束とは言え、互いの立場で交わした約束。
特にステイルは本気です。今は誤解すら許されません」

「…ああ、そうだな。悪い」

元々は桁違いに諦めが悪く小利口ではないと言う意味で頭の悪い上条が、
意外な程に素直に応じる。
それは、ステイルの事を多少なりとも知っているからでもあった。

「それではこれにて失礼します」

再びバタンと体を折った愛衣が箒に跨って飛び去っていく。
自分の説明もその通りなのだが、本当の所は、寝たい、と、
当然の要求をした一般市民に対する魔法少女にあるまじき欲求が思考の大部分を占めていた。

「とうまーっ」
「インデックス?」

その通り、声のした方から、見慣れた白い塊が上条に向けて駆け寄って来た。

150: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/16(日) 04:32:48.17 ID:fvpY0l480

「どうしたんだ?」
「とうま、おなかへったんだよ。いつまでも帰って来ないから」
「ああ、悪りぃ」

「でも、まさか学園都市でサバトを見られるとは思わなかったんだよ。
今夜はワルプルギスだったかな?」
「は?それってあのスーパーセルで結界がいらなくて
上下逆さまで笑い声で歯車でビルが飛んで来て…」

「とぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ
うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ
ま?」キラーン

 ×     ×

科学の学園都市風紀委員第177支部周辺のとある喫茶店。
そこで、着席した朝倉和美が右手を挙げる。

「お電話下さったのはあなたですか?
私を名指しで重要な情報提供があると」
「ええ」

テーブル席で自分の対面に相手が着席するのを見届けながら、和美は問いに答える。

「すいません」

和美は、茶封筒をテーブルに置いてウエイトレスに声を掛ける。

「パイナップルジュース」
「ミルクティーを」
「かしこまりました」

オーダーを書き込んだウエイトレスが一礼してその場を離れた。

「ごめんなさい、お手洗いを。
用事を抜けて急いで来たもので。お話しはその後でいいかしら?」
「ええ」

和美が頷き、テーブル席には和美が残される。

151: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/16(日) 04:36:17.87 ID:fvpY0l480

「パイナップルジュース、お待たせしました」
「ありがと…さよちゃん」
「はい」

テーブル席で一人椅子に掛けた和美が、
一見すると鞄に付けたぬいぐるみアクセサリーの相坂さよに話しかける。

「ちょーっと手伝ってくれないかなー?」
「何でしょうか?」
「うん、当面の目標は、麻帆良に戻って肉まんを食べたいかなーって」

バチバチッ
シャキーン
カキーン
カタカタカタカタ

153: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/21(金) 03:00:10.86 ID:YCtx6nCn0

 ×     ×

「ジャッジメントですの、少々お話しを伺いたいのですが」

話しかけてきた相手を、朝倉和美は把握していた。
白井黒子、かつて、ジャッジメント懐柔作戦の標的としてマークしていた相手だ。
黒子は車椅子に乗っており、その車椅子を別の少女が押している。

車椅子を押す少女も又、ジャッジメントの腕章を着用している、
頭の花飾りがやたら個性的な女の子だ。
そして、この二人の背後にさり気なく配置しているもう二人も、
黒子の仲間と見て間違いない。和美はそう踏んだ。

「!?」
「白井さんっ!?」

近くの無人のテーブル席で、椅子が僅かに床から浮いてそのまま落下した。
その音に気を取られた一瞬、手が離れた車椅子が後方に暴走し、
花飾りの少女初春飾利が叫び声を上げた。

「このっ!」
「避けて下さいっ!」
「わっ!」

初春が車椅子に気を取られた隙に和美が入口に走り出す。
その背後で、それを見た御坂美琴が怒気も露わに立ち上がっていた。
さよの警告を聞き、和美が斜め前方にスライディングする。
その近くを電撃が走り抜けた。

「わあっ!?」
「ジャッジメントですのっ!」

どがしゃーんと音を立て、車椅子が和美が逃げ込んだ側のテーブルに着地した。

(テ、テレポートだねどう見ても)

ごろごろ床を転がりながら和美は現実を把握する。

154: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/21(金) 03:05:45.10 ID:YCtx6nCn0

「!?」

黒子が放った鉄矢が明後日の方向に飛んでいく。

「このおっ!?」
「佐天さんっ!」

テーブルの上で車いすがぐるぐる回転する。
和美が元のルートに戻って走り出し、佐天がそれを追った。
その佐天の前方に、椅子がシャーッと滑り込んだ。

「佐天さん伏せてっ!」

美琴の放った電撃のルートに幾つものテーブルが飛び出し、
電撃を浴びたテーブルが帯電しながら落下した。

「サイコキネシス、それもかなり強力な」
「釣りは要らないとっときなっ!」

カウンターに札を放り込んで店を飛び出す和美を睨み、美琴はぎりっと歯がみした。

 ×     ×

「上手くいった、って感じじゃねーな」

とある路地裏で、長谷川千雨が駆け込んで来た朝倉和美に声を掛ける。
打ち合わせ中にこの辺で佐天涙子と遭遇する類の連中が
わらわらと沸いて来たのを掃除して、今ここで死屍累々の背景となっているため、
却って安全だろうと言う事でここに待機して和美を待っていた。

「だーめだね、最初っからエスパー待機させて話し合いの前にOHANASHIしましょってパターン。
何とかかんとか逃げて来たけど、流石にヤバかったねー」
「ちょっと待て、逃げて来たって?」

千雨の言葉に、小太郎と楓がザッと周辺に視線を向ける。
楓の放った棒手裏剣が金属音を立てて空中で弾けた。

「これは、驚きましたわね」

手裏剣と鉄矢が地面に散らばり、空中から更に地上へと瞬間移動を繰り返した黒子が言った。

155: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/21(金) 03:12:58.76 ID:YCtx6nCn0

「村上っ!」

路地裏に駆け付けようとする足音が聞こえる。
叫びながら、千雨が和美の手を掴む。
楓の放った巨大手裏剣が黒子に飛び、黒子が姿を消す。

「あいつらはっ!?」
「それが…」

路地裏に駆け込んだ美琴が叫ぶが、
瞬間移動で手裏剣を交わして三次元に帰還した黒子は首を傾げていた。

「逃げられましたの?」
「追い掛けましょう」

駆け出そうとする初春を、美琴が手で制する。
そして、美琴は右手の指で額を抑える。

(…目でも耳でもない、この違和感…機械に徹して…反射だけに反射的に…)

「ヤバイっ!」

美琴の放った電撃は、手繋ぎで繋がった千雨チームを直撃するコースだった。
その前に、小太郎が気で大きな物理障壁を張り、辛うじて直撃を免れる。
だが、そのゴタゴタで夏美と繋がる手繋ぎのチェーンが外れ、千雨チームが姿を現す。

「何っ!?」

美琴、初春と団子になっていた佐天が金属バットを正眼に構える。
小太郎が地面に着いた手からどろりと現れて美琴達に殺到した黒狗の群れが美琴に一掃されるのと、
楓の放った煙玉が爆発するのはほぼ同時だった。

156: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/21(金) 03:18:26.49 ID:YCtx6nCn0

 ×     ×

「お待ちなさいっ!ジャッジメントですのっ!!」

路地裏を駆け抜け、屋根から屋根へと飛翔する楓に、
車椅子に乗ったままの黒子が瞬間移動で追いすがる。

「これ以上は墜落も辞さない実力行使になりますわよっ!」

楓からニッと笑みをもって返答され、黒子の頭に血が上る。
だが、果たして、黒子が楓の左横に追い付き様に放った鉄矢は、
空中で楓の握る苦無に弾き飛ばされた。

「黒子どいてっ!」

こちらは文字通り空を飛んで猛追して来た美琴が楓の右隣で叫んだ。
美琴の放った電撃が、楓の放った巨大手裏剣に呑み込まれる。

「!?」

近くのビルの屋上に着地した楓をピンポイントで狙って
巨大手裏剣が突っ込んでくる。

「ニンッ!」

間一髪、巨大手裏剣は轟音を響かせて屋上の床を砕きながら突き刺さり、
楓は前方に跳躍して直撃を回避していた。
そして、その周辺の上空では、二振の、
これもやけに大振りな苦無がバチバチと電撃を吸収していた。

「邪魔っ!」

美琴が、空中で障害物となった苦無をあらぬ方向に吹き飛ばして屋上の楓に迫る。

「!?」

タンッ、と、再び跳躍した楓に向けて軌道修正しようとした美琴は、
下方から蛇の様にとぐろを巻いて上昇する鎖に絡み付かれていた。
美琴の視線の先で、楓は手近な別のビルの屋上に到着し、屋上入口のドアを強行突破していた。

157: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/21(金) 03:23:40.78 ID:YCtx6nCn0

「お姉様っ!今すぐテレポートで…」
「くっ、あああああっ!!」

黒子が事態に気付いた時には、
一瞬真っ白になった美琴に巻き付いていた鎖はビキビキと一挙に硬度を落とし、
美琴の肉体的全力をもって破綻するまでに脆くなっていた。

「あいつ…」

黒子は憧憬し戦慄し劣情した。あの忍者紛いが何者であれ、贈る言葉はご愁傷様。
学園都市超能力者レベル5第三位常盤台の超電磁砲を本気で怒らせた。
その愚か者に掛ける言葉など他にあろう筈も無い。

「どうだった?」

ビルの屋上で、駆け上がって来た佐天、初春に美琴が尋ねるが二人とも首を横に振る。

「逃げられましたの?」

呟く黒子の側で、初春は一心不乱にミニノートを操作している。

「準備完了」
「初春?」
「行きましょう。絶対に、許しませんから」

初春の言葉に、そこにいた一同は頷いた。

 ×     ×

「!?」

村上夏美は戦慄した。
楓と手を繋ぎ、「孤独な黒子」を発動しながら表通りを歩いていたのだが、
そこに、見覚えのある四人組が次々と集まって来たからだ。

「ひゃっ!?」

楓が夏美を抱いてゴロゴロ転がり、
夏美の側にあった街灯が電撃を受けてショートし消灯しつつバチバチと帯電していた。

158: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/21(金) 03:27:00.82 ID:YCtx6nCn0

「ちいっ!」

又も飛んで来た巨大手裏剣を美琴が反らし、
その隙に楓と夏美は手を繋ぎ直してダッシュで逃走していた。

「そっちっ!?」
「佐天さんストォーップッ!」

勢い込んで曲がり角を曲がろうとした佐天を美琴が大声で制した。

「っ、何これっ!?」
「撒き菱ですわね、随分と古典的な」
「ふんっ!」

美琴がザッと右手を払うと、
曲がり角から先の歩道にバラ撒かれた鉄菱は建物の壁際に一斉に移動する。

「さぁ…」

獲物を見付けた猟犬の目をした美琴が駆け出す体勢に入る。

「さっすが御坂さんっ!…」
「佐天さんストップですのっ!」
「これ、天然物ですね。炒って食べると美味しいみたいですよ…ひいいっ!?」

駆け出そうとする佐天に黒子が叫ぶ。
ぺたんと地面にしゃがんでいた初春が背筋に走る戦慄に振り返り、喉から引きつった悲鳴を上げる。
ふわあっと髪の毛を浮き上がらせてバチバチと白く放電し、
ギリギリと表情を引きつらせながら素晴らしいいい笑顔を浮かべる
学園都市超能力者レベル5第三位常盤台の超電磁砲御坂美琴の勇姿を拝し奉り、
白井黒子は劣情し欲情し絶頂した。

161: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/22(土) 01:27:48.27 ID:NckjQtes0

 ×     ×

「こっちが見えてるってのか?」

駆け込んだ路地裏で、「天狗之隠蓑」を出た小太郎が夏美の説明を聞いて言った。

「それ以前に、撒いた筈が着実に追い付いて来てるって事だよね」

和美が言う。

「種が割れたみたいだぜ」

イヤホンマイクの携帯電話を使っていた千雨が言い、
葉加瀬と繋がった電話をスピーカーに切り替える。

「皆さんが科学の学園都市の通常の侵入者監視システムから外れる様にこちらで手配しましたが、
学園都市の防犯カメラの大部分と繋がるホストコンピューターに、
カメラに皆さんの顔が映り次第
データを所定のコンピューターに送信する様に優先命令を上書きした人がいます。

過去の防犯カメラの映像から皆さんの顔のサンプルを取り出して、
顔面認証システムに照合させてヒットしたら情報を送るやり方です」

「やっぱりな。そのプログラム、どうにかならないのか?」

162: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/22(土) 01:33:18.02 ID:NckjQtes0

「強力なプロテクトが掛かっていて現在鋭意解体中です。
しかし、恐るべき精度でチラッと一瞬でも判別した上にタイムラグを無くすために使われている
プログラムの性能と言い使用されているスパコンの規模と言い、
明らかにジャッジメントのセクタ単位の権限を越えています。
非常に犯罪の匂いがするレベルなのですが、
一体何をやって誰を怒らせたらこんな事になるんですかっ?」

「来たっ!」

足音を聞いて和美が叫ぶ。

「あの花飾りだ」

建物の角の壁に張り付いた千雨が小太郎に言う。

「あいつのPDAなんとか出来るか?」
「分かった」

小太郎が駆け出す。

「防犯カメラが見付けた先からあの花飾りのPDAに送られてるって寸法だろうな。
機械的に示されるこっちの居所の座標に合わせて電撃までぶち込んで来てるって事だ」
「いや」

そこで、楓は意を唱えた。

「おおよそ合っているとは思うでござるが、拙者の見た所、
あの韋駄天娘、夏美殿が隠したこちらの居所を自身で把握していたでござる。
あれは、人間が把握して微調整した動きでござった」

「何だそりゃ…バックにハイテクチームがいて、
割り出したデータを花飾りに送ってるんだろうが…」
「よっ」

まずひとっ飛びして美琴の電撃を交わしてから、小太郎はひらりと初春の側に着地する。

「とっ!」

そこにすかさず飛んでくる電撃も、これは交わしたのだが、

164: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/22(土) 01:38:24.00 ID:NckjQtes0

「何や?」

小太郎は嫌な感じに襲われた。次々と電撃が近づいて来て近づけない。
それは、単に早いと言うのとも違う、何か丸で吸い付いて来る様な反撃だ。
動いた先から付け狙われて、予想以上に接近出来ない。
夏美の手を握っていた千雨が、一瞬だけ離脱して指笛を吹いてから再び手を握る。

「みんな下がってっ!」

タンッと飛び退きながら、小太郎が空牙の連打を放った。
美琴が物理的に防御出来る防壁を張った隙に、駆け付けた小太郎の手を楓が握った。

「消えた…」
「大丈夫初春っ!?」
「え、ええ、何とか」

「何の能力かはとにかく、相手は私達から認識出来ない状態になってる。
防犯カメラからコンピューターで割り出した機械的な情報を聞いて、
私のレーダーで物理的な反応だけを確定する、こっちのやり方を読んで初春さんを狙って来た」

「最初からそう出て来ると読んで迎撃したお姉様に仕留められず妙な技で逃走するとは、何者?」
「追うわよっ!学園都市にいる限り逃げられはしないんだからっ」

叫びながら、美琴は考える。

(それも分かっているとしたら…)

 ×     ×

「ふーん」

いかにもと言った感じで目の前に広がる工事現場で、
美琴は頷いていた。

「よう、強いらしいなぁ姉ちゃん」
「強い、らしい?」

姿を現してニヤッと笑った小太郎に、美琴は不敵な笑みを見せる。
そして、明後日に向けた右手から電撃を放つ。

165: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/22(土) 01:43:34.80 ID:NckjQtes0

「ひっ!?」

その先で、夏美、千雨、和美がバッと散り散りになる。
小太郎が、美琴と夏美の間に滑り込んだ。

「光でも曲げていたのですの?」

「違うわね、この娘の能力は系統としては脳波干渉系、信じられないけど他に考えられない。
私の脳にするりと侵入してほとんど目的を達するなんて、
桁違いに凄い演算をしているか何か全く違う思いもよらない法則を使っているか。
それでも、ほんの僅かなフィルタリングの成功が引っ掛かりだけでも残してる」

こちらを見る夏美に、千雨は首を横に振った。
夏美の能力が完全ではなくても破られているのなら、
この電撃使い相手に手を繋いで動き回るのは却って危険だ。

「ひっ!?」

ノッポが土煙を上げる勢いでこちらに突進して来ている。
佐天涙子が悲鳴を上げるのも無理はなかった。

「お下がりなさいっ!」

それでも初春の前で金属バットを振った佐天の前に黒子が移動した。

「!?」

黒子の右横で、棒手裏剣と鉄矢が弾けた。

(この女もテレポート?いや、違う。紛れもなく…)

「身体能力ですのおっ!?」
「えええええっ!?」
「ニンニン♪」

限りなく瞬間移動に近い物理的移動という現実を把握し、
佐天と共に絶叫する黒子の左横で楓はにこにこ笑っていた。

166: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/22(土) 01:49:07.11 ID:NckjQtes0

「ちぇいさぁーっ!」
「おおっ!」

地の身体能力も結構高いらしい。
速いけどやけに直線的な動きからして多分なんかズルもしていると小太郎は見当を付けるが、
ともあれ、美琴の打撃と電撃を組み合わせた攻撃に、小太郎はまずは防戦に回る。

「このおっ!」
「よっ!」

バチバチと放電しながら攻撃して来る美琴と攻防を展開しながら
その気合いの入った絶叫を聞いていると、
小太郎は何か胸躍るものを感じていた。

「ぶぶぶ、分身っ!?」
「ちょこまかと、お見事な背丈の割りにはマメですわね」

びゅんびゅんびゅんと視界のあっちこっちに現れる楓に
佐天が悲鳴を上げて黒子が呻く。

「てれぽおとがどういうものか、それによっては
何としても的を絞らせる訳にはいかないでござるからな」
「!?」 

172: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/23(日) 13:33:44.88 ID:c3J+wkc60

 ×     ×

千雨、夏美と一緒にいた和美がつつつと動き出す。
さよを連れてイレギュラーを仕掛ける、
アーティファクトのラジコンを使うタイミングを伺う、そんな事を考えて。
無論、千雨もここで単に逃げ出すだけの和美ではないと分かっている。
その和美の前に、があんとバットが打ち下ろされた。

「どこ行くの?」

そこに立っていたのは、普段の陽気な女の子をばっさり封印した佐天涙子と
その背後でPDAを手にぐっと和美を睨む初春飾利だった。
和美は一端千雨達の所に戻るが、
あの様子だと夏美と共に消えた瞬間に今度こそ美琴の最優先攻撃が来る。

「おおおっ!!」

地面から人間よりも巨大な土柱が上がり、それが剣と化して小太郎に突っ込む。
小太郎が前方に気の防壁を張り、小太郎を貫こうとした砂鉄の剣を力ずくでぶち壊す。

「とっ」

視界で砂鉄の剣が砕けている、その隙に接近していた小太郎を美琴がひらりと交わした。

「とっ、とっ、とっ」
(何や?)

又だ。小太郎は、この御坂美琴本人にはそこはかとない好感があるのだが、
美琴との闘いには何か嫌なものがある。
電撃は侮れないし身体能力や動き自体にキレがあるのは確かだが、それ自体はむしろ楽しめる。
それにしても、何と言うか変な交わされ方をしている。そういう薄気味悪さがある。

「小太郎君?」
「どうした?」

呟いた夏美に千雨が尋ねた。

173: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/23(日) 13:39:03.75 ID:c3J+wkc60

「何か、様子がおかしい。体の調子が悪いみたい」
「何だと?」

千雨がそちらを見ると、小太郎が掌底で自分の額をこんこん叩いていた。

「!?」

キーンと金属音が響き、美琴がそちらに視線を走らせる。
手裏剣と金属矢が衝突して地面に落下し、
着地した黒子がぎりっと睨み付けている先で楓の姿がナックルの様に微妙にぶれている。

「黒子の実力は能力だけじゃない、
黒子のテレポート攻撃に身体能力で対応してる?」
「流石やな」

鼻を鳴らしながら、小太郎は腕で汗を拭う。
ダメージらしいダメージは受けていない、運動量もまだまだの筈なのだが、
この御坂美琴と闘っていると何か嫌な感じがする。
その嫌な感じは彼女の闘い方だけではない。
はっきりとは分からないのだが、自分の体に何らかの変調がある。

「くおおおっ!」
「!?」

小太郎が、人間相手には十分過ぎる速攻を仕掛けた。
美琴はよくそれを凌ぐ。

「あつっ!」

最終的には、バチーンと両者が弾け飛ぶ。美琴がとっさに張った電気防壁による強制終了だ。

「つーっ」

とっさに防御した両腕を小太郎が振る。
割りとうっとうしい火傷をしたかと、もちろん、只の人間ならそんな程度では済まない。

「ちっ!」

そんな小太郎を追い掛ける様に、速射の電撃が次々と飛んでくる。
無論、電撃のスピードである。小太郎でも瞬時の判断を誤ればそれで終わりだ。

174: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/23(日) 13:44:28.78 ID:c3J+wkc60

「ヤバイぞ」

千雨が呟いた。

「あんたの能力は電気だなっ!て事は人間センサーって訳か!?」

千雨の叫び声に、美琴の唇の端が緩んだ。
美琴の行動の端々から見て、能力はとにかく根は素人、
つまりうまく煽てれば乗って来ると千雨は踏んでいた。

「どういう事?」

夏美が聞いた。

「自分の周囲に張った微弱な電気の動きを感じる事が出来る。
多分結構な広範囲でな。
そいつで相手の動きを目で見るよりも早く肌で感じて、
いや、もしかしたら神経回路に直結して動いてるってからくりさ」
「正解♪」

美琴の返答が弾み、小太郎も理解した。
とにかく相手は電撃だ。今までも雷使いと闘う機会はあった。
電撃そのもののスピードと張り合う事は出来ない。
その上、電気で直接感知してワンモーションでの攻撃に手慣れているのなら、
これは想像以上の難敵かも知れない。

「!?」

次の瞬間、小太郎の視界がぐにゃりと歪み、くらっと倒れそうな程の何かを感じた。
見ると、勝負をかけて電磁波レーダーの出力を一挙に上げた美琴の両手が
バチッと音を立ててまるでカ○ハ○波寸前のごとく白く大きく帯電していた。

「くあああっ!」
「!?」

小太郎が大きく跳躍、美琴を飛び越す。

175: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/23(日) 13:50:03.55 ID:c3J+wkc60

(なっ!?間に合わないっ!?)

「うっ!」
「お姉様っ!?」

小太郎の動きが余りに速く、そして、美琴は攻撃に集中しすぎていた。
背後に回った小太郎への反応が遅れている間に血の尾が引き、黒子が絶叫する。
美琴の背中に何筋も、丸で刃物で斬りつけられた様な痛みが走る。

「つっ…刃物は…持ってない。まだ、妙な能力隠してるって訳?
まさか暗器とか言わないわよね」

指先の血をひゅっと振るった小太郎に、右手で背中を押さえながら振り返った美琴が言う。
大丈夫、かすり傷だ。闘いにはつきものだ。
肉を抉るまではいっていない、その程度にとらえていた美琴に対し、
小太郎は苦り切った表情だ。

「小太郎君…」
「逃がさないし手出しもさせないって!」

佐天と初春が駆け出そうとした夏美の前に回り、千雨が引っ張り戻した。

「どうしよう」
「どうした?」
「あの人強い」
「当たり前でしょっ!」

ごにょごにょ話していた夏美に佐天が叫んだ。

「学園都市レベル5第三位、常盤台の超電磁砲だよっ!」
「じゃあ、集中しないと負ける。でも、小太郎君このまま勝ったら…」

ごくりと喉を鳴らした夏美の表情は、明らかに青ざめていた。

「くっそおっ!」
「何よっ!?」

叫び声を上げて、目の前でぎゅっと右手を握った小太郎に美琴が叫んだ。
そして、美琴が速射で電撃を放つ。
小太郎は、それを妙な姿勢で交わしながら、気が付くと美琴のすぐ側にいた。

176: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/23(日) 13:53:19.43 ID:c3J+wkc60

「あっ!」

低い姿勢から全身を伸ばして回す様に小太郎から打ち出された足払い。
美琴には色々付属品の強さはある、それ以外でも平均よりは強い方だが、
相手が小太郎では、格闘センスそのものは違い過ぎる。

「あ、ぐっ!」

美琴が辛うじて受け身を取った時の、激痛とどろりとした血の感触。

「!?」

地面に突き刺さる勢いの拳を美琴は転がって交わす。

「?」

見た所、そこまでの負担でもない筈なのに、
小太郎は地面に拳を立てたまま、荒い息を吐いて動きを止めていた。
小太郎はもう一度、ドン、と地面を殴り、ぐっと立ち上がり美琴を見る。

「何よ」

立ち上がった美琴の右手からは、バチッと電気がスパークする。

「あんた、まさか手加減とかしてた?」
「いや、手加減ちゅうか順序ちゅうか…」
「あったま来た…」

苛ついた口調でもごもご言う小太郎を見て、美琴の髪の毛の先がバチッと弾ける。

「コイン?おいっ!」
「何よ?」

自分に向けた千雨の叫びに佐天が応じる。

「さっき、常盤台のレールガンって言ったなっ!?」
「言ったけど?」

目の前で御坂美琴がバチバチッと白くスパークを始めた。
レールガンと言うのが物の例えには見えない勢いだ。

177: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/23(日) 13:56:32.09 ID:c3J+wkc60

「レールガンって分かってる?」
「分かってるし笑えねぇぞ」
「当たり前でしょっ!」

千雨の引きつった言葉に佐天が激昂した。

「小太郎君っ!」

夏美が悲鳴を上げた。小太郎は美琴に向けてぐっと前傾姿勢を取る。
そのやる気に緩んだ美琴の唇が、夏美を更に震え上がらせる。
夏美は小太郎が負けるとは思っていない。レールガンにも詳しくはない。

それでも、雰囲気は分かる。生半可な強さではない。
今の状態の小太郎がそんなものとヤリアウと言う事の恐ろしさも。
千雨も、その事は十分分かっている様子だ。

「お姉様…くっ」

暴走しつつある美琴を懸念し、何とか今の自分の状況を、
と、自分のスカートの中を触れた黒子が、一本の鉄矢に触れて呻きを噛み殺す。
その前方では、相変わらずにこにこと糸目を微笑ませた楓がぶれている。

「うっ…あああーっ!!」

絶叫と共に黒子が姿を消した。
一度、二度、三度、別の場所に姿を現す。
空中で、鉄矢と棒手裏剣が火花を散らした。

「あぁあああぁぁっっっ!!!」
「黒子っ!?」
「白井さんっ!?」

断末魔すら感じさせる悲鳴に、仲間達が叫び声を上げた。
そちらを見ると、黒子が楓に組み敷かれていた。
無人の車椅子が離れた場所で動きを止めている。

「う、ぐっ…」

そのまま、楓はゆっくり立ち上がる。

178: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/23(日) 13:59:37.54 ID:c3J+wkc60

「鉄矢を囮、体一つの瞬間移動で間合いを詰めて、
肉体的負担の少ない合気道で一発勝負。見事でござった。
その様子では…」
「黒子おっ!?」

楓の右目が見開かれ、美琴が絶叫した。
その楓の側で、黒子がゆらりと立ち上がっていた。

「ジャッジメントですの…」

こめかみに汗を浮かべた楓の足が、じりっと後退していた。

「やめなさい黒子っ!後は私は…」
「お姉様は、一般人。大丈夫、ジャッジメントですの」
「な、なんだよ」
「止まりませんよ」

大体、さっきまで車椅子に乗っていた時、演技と見るべき要素は皆無だった。
今、脚の震えと言い汗と言い、黒子の様子は素人目に見ても尋常ではない。
それでも、その事を決して声に出そうとはしない。
戦慄した千雨に、初春が言った。

「止まりませんよ、白井さんは。止まる理由が無いんですから」

地が甘い声だからこそ響く凄みに、千雨は改めて戦慄した。

185: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/25(火) 04:01:59.52 ID:hbuBaKiB0

 ×     ×

「あんたら」

呻く様に低く言う美琴は、既にバチバチ帯電している。

「黒子に後遺症でも残ってみなさいよ、消し炭なんかじゃ済まないからね」

本格的にまずい、バトルモードの過熱がヤバ過ぎる。
ここはどう考えても後方担当が、と、千雨達が動きを見せようとしても、
目の前の佐天が同じぐらい熱くなっている。

佐天が凶器持ちだとしても刃物ではない。恐らく荒事は専門外同士で三対二。
仮にもあの夏を乗り切ったメンバーだ、そこはどうにかなるか、
まずは相坂さよとコンタクトを、等と、千雨は思案する。

「絶対に、許さない」

佐天がぼそっと言う。

「絶対に、許さない」

それに、美琴が続いた。

「今はそうでもないけど、ジャッジメントになりたての頃は
あんたらみたいなのがちょくちょく来てたって。
笑って話してくれたけど、本当は嫌な思いしてた筈。
そんなの、私達が二度と許さない。まずはあんたから」
「おいっ」

186: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/25(火) 04:07:11.41 ID:hbuBaKiB0

美琴が摘んだコインを持ち上げ、小太郎が千雨に視線を向ける。
千雨が深呼吸をする。
小太郎が言いたい事は分かっている。
いくらなんでも、世界一つどうこうと言うレベルではないだろう。

だが、今の状況を例えるならば、こちらの手持ちが日本刀と核爆弾で
サブマシンガンの一団とやり合っている様なものだ。
核爆弾と言ってもこちらにリスクは無い。
ここで切実に問題になるのは、ここでそれを使う大義があるのか、と言う事だ。

自分達が何者で、何者と闘っているのか?
何を学んで帰って来たのか、大切なものはなんなのか?

千雨が、一歩踏み出した。
小さく両手を上げて、歩みを進める。
気圧された佐天、初春の横を通り過ぎる。
大体の中心地に立った千雨は、深々と頭を下げた。

「私が悪かった」

その千雨の姿を、超電磁砲四人組がじっと見ている。

「ちょっと千雨ちゃん、あれやったの私…」
「私の力不足でみんなに協力を頼んだ。
それでいて、知っていて止めなかった。弁解の余地はない。
私が悪かった、申し訳ない」

「ちょっ」
「ごめんなさいっ!」

叫ぶ佐天の横を走り抜け、千雨の横に立った和美が頭を下げた。

「ごめんなさい」
「すまんかった」
「申し訳ないでござる」

187: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/25(火) 04:12:14.49 ID:hbuBaKiB0

 ×     ×

はあっと息を吐いた美琴が、バリバリと頭を掻いた。

「話、聞かせてくれる?理由がありそうだってのは分かったけど、
正直意味分からないし、ここまでやっといてろくな理由も無いって言うなら、
謝って済む話じゃないから本当に消し炭にするけど」

そう言った美琴を、楓が一旦手で制して姿を消す。
美琴と佐天、初春がすわっとなる中、楓は黒子の側にいた。

「拙者で構わぬでござるか?」

無念ながら座り込んでいた黒子は、
楓が差し伸べた手を取った。

「んっ、くっ」
「真に申し訳ないでござる」
「承りましたの。先ほどは合気道に合気道でお相手いただき、見事な手並みでしたの」
「光栄にござる」

お姫様抱っこされた黒子の元に、美琴が車椅子を押して来る。
楓が美琴に黒子を引き渡す。

「大丈夫、黒子?」
「あぁああぁー、お姉様あぁー、黒子は、黒子はもおうぅー…」

これまででも一際大きな雷鳴が轟いたところで、改めて本題に入った。

「まず、私達は外の人間、いわゆる密入国者だ」
「オーケージャッジメントですの、
動くと刺す逃げたら刺す武器を出しても刺すですの」
「話、続けて」
「鳴護アリサ、って知ってるか?」
「アリサ…アリサって、もしかして歌手のARISA?」

佐天の答えに千雨が頷く。

188: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/25(火) 04:17:19.75 ID:hbuBaKiB0

「まさか、アリサのストーキングのために密入国してこんな騒ぎ起こした、
とか言わないわよね?」

実にいい笑顔を見せた学園都市レベル5第三位常盤台の超電磁砲御坂美琴の全身からは
バチバチと白い火花が散り始めていた。

「逆だ」

そう言って、千雨は写真を取り出す。

「私とアリサは元々知り合いだ、ネット上のな。
で、部屋の写真を送ってもらった訳だが…」

そこから先は、
魔法使いの事は伏せて不審人物が写り込んでいると言う話を続けた。

「麻帆良学園ですか」

初春が言った。

「知ってるの?」
「知ってると言いますか、言わばもう一つの学園都市です。
科学技術ではこちらの方が上ですが、それでも先端技術開発に関しては相当な水準と聞いています。
この写真技術に関しても頷けます」

佐天の質問に初春が答える。

「ここはこういう街だ、超能力に関しては私達の所にもある程度の噂が聞こえてる。
このストーカー共もちょっと普通じゃない。
そんなこんなで考えた末にあんたらに非常に迷惑を掛ける事になった、本当に悪かった」

改めて深く頭を下げる千雨の前で、美琴以下は少々考えあぐねていた。

「…ここ、ちょっと電波が良くないですね。
御坂さん、すいませんがこの人たちの見張りをお願いします」
「う、うん、分かった」

資材の上でミニノートを操作していた初春が表通りに向けてスタスタと歩き出し、
そちらに佐天が同行する。

189: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/25(火) 04:22:50.61 ID:hbuBaKiB0

 ×     ×

「あの人の言ってる事、信用出来ます」

表通りから近くの物陰に入り、初春が佐天に言った。

「そうなの?」

佐天の問いに、初春は真面目な顔で頷いた。

「ちょっと、持っててくれます?」
「うん」

かくして、佐天を支えに初春はミニノートを操作する。

「コスプレ?アイドルのホームページ?」
「メジャーではないですけどね」

そう言いながら、初春が操作を続ける。
画面が二分割され、左側が今まで通り、
右側に隠し撮りした長谷川千雨の写真が映し出される。

「ん?…ちょっと待って。これって…いや、でも…」

初春が操作を続けると、
左側に映し出されたウェブサイトの人物画像が徐々に変化していく。

「これって、同じ人?」
「そうです。写真に施された修正を復元しました」

そう言って、初春は改めて左側に元のウェブサイトを映し出す。
初春の操作に連れて、画面には目や耳、唇を拡大した小窓が映し出され、
それぞれの小窓の下に98%を超えるパーセンテージが表示される。

「通常同一人物と判定されるレベルです」
「このサイトって」
「ネットアイドル「ちう」のホームページです」
「その「ちう」とあの「長谷川千雨」が?」
「同一人物です」

190: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/25(火) 04:26:10.38 ID:hbuBaKiB0

「化けるモンだね、ちょっと見だと分からないんだけど」
「修正技術に関してはかなりの使い手ですね。
もっとも、本人の自覚がマイナスなだけで素材の良さも十分なんですけど。
だから、さり気なくナチュラルなレベルで盛るだけでもぐっと見栄えがしてる」

「それはそう思う、結構いい線行ってる」
「最初に彼女を見た時から引っ掛かっていたんです。
それで、情報収集用のウィルスの詰め合わせをこのサイトにごっそり送信しておきました」
「ちょいと初春…」

「それぐらいやってもバチは当たりません。
正式な手続きをするなら令状が出るレベルの容疑者なんですし」
「うん、まあ、それは」

「それから、そこを取っかかりに私が解除ツールを使って、
サイトの管理者メニューから彼女の個人PCまで丸ごと把握しました。
現状において彼女が使っているPCのデータに関しては、
公式サイトと言う店先からその裏のバックヤード、事務所、分離されている筈の自宅スペース。

机の引き出しのガソリン袋付きの二重底の向こうの裏帳簿から
額縁の裏のへそくりからベッドの下の秘匿書籍から床下の隠し金庫に至るまで、
全てを把握出来る地図と通行許可証と合鍵を手に入れた状態です」

この友人だけは絶対に敵に回してはいけない。佐天涙子は改めて痛感する。

「只、単にアイドルとしてサイトを作るのに長けていると言うだけじゃない。
長谷川千雨のネット、PCに関するセキュリティーを含む技術は極めて高い水準です。
正規の手続きを取ったとしても、学園都市の大概の専門家でも容易には突破出来ないかも知れない」
「それって、凄くない?」

「凄いです。得られたデータから見て、彼女が直接手がけているみたいですね。
学園都市の水準でも市販のセキュリティーソフトならスルーして丸裸にして中身を送信してくれる筈の、
私が開発、改良を重ねてきたウィルスの大半が独自のセキュリティーソフトで粗方駆除されていました。

麻帆良で開発したんでしょうか?非常にユニークと言うか独特のプログラムを色々使っていて、
先ほどの修羅場の真っ最中の作業なのを差し引いても想像以上に手間が掛かりました。
ハッキングによる直接の攻防戦でも…彼女とそうなったとしても厳しい」

「で、そこまでして分かった事は?」
「彼女の言う事は信頼出来ます。彼女がARISAと友人であると言う裏付けも取れましたし、
断片的ですが今回の越境計画に就いても形跡が残されています」
「それじゃあ早速…」

191: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/25(火) 04:29:29.24 ID:hbuBaKiB0

そこで、佐天は、どこか浮かない顔をしている友人の様子に気付く。

「どうしたの、初春?」
「このちう、長谷川千雨と言う人は、クレバーでいて人恋しい、そういう人です」
「はあ?」

「セミプロとしておちゃらけて内心斜に構えてそう思いながらもそれに徹する事が出来ない、
心のどこかで真っ直ぐな事をしたい、そう思っている人です」
「ちょっと、どうしちゃったの初春?」

「悪く言えば、少し頭が良すぎるネット弁慶、だから容易に他人の事を信頼しない。
信頼出来ないと言う理解が先に立って、まず防衛を優先させる。
自分が強くない事も理解しているからです」
「…それを読んだら、それが分かるの?…」
「セミプロの作りに乗せられているだけかも知れませんが」

初春の答えに、佐天は小さく首を横に振る。

「プライベートも読んだんでしょ?」

佐天の問いに、初春は頷く。

「全部ではありません。鍵を開いて見つけ出した日記やメモの中には、
理解出来ない記述が少なからずありましたから」
「理解できないって?アラビア語か何かで書かれてたの?」

「いえ、間違いなく日本語です。
そして、厳重に隠されて鍵が掛けられた金庫から見つけ出したものですが、
使われている符丁が本人に聞かないと理解出来ないタイプの暗号日記です。

奇跡も魔法もあるんだよ、とでも言うんなら話は別ですけど、
そうでなければ、一つ一つの単語の変換が分からなければ意味が通らない。
それでも、読める所からだけでも分かるのは、
長谷川千雨は鳴護アリサの友人です」

「そう」

192: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/25(火) 04:32:38.41 ID:hbuBaKiB0

「クレバーで、自分の無力を誰よりも自覚している、
他人は他人だと自覚して、むしろ、恐れていると言ってもいい。
写真修正、匿名性の向こうでリスクを冒さず人からの賞賛を求め、
時に真面目な事を言い、どこか共鳴するものがあるから匿名の人達から受けている。

そんな人が、友人のために破滅的なリスクを冒してここに来た。
そして、御坂さんや白井さんを圧倒する能力があるとは言え、
とても打算的には見えない事に協力する仲間がいる。それだけのチームを作ってしまう。
決定的な矛盾を踏み越えてでも自分で行動した結果です」

「初春」
「はい」
「惚れた?」

「え?」
「だーめ」
「佐天さん…」
「だって…ねぇ」
「ですよね…」

「だって…初春は私の嫁になるのじゃあああっ!!!」
「ひゃああっ!だからスカート、っ…」

初春がバッと口を掌で閉じて周囲を伺い、二人で顔を見合わせ、笑い声を上げた。

「あの二人がどう言うかな?」
「そこなんです。白井さんはあくまでもジャッジメントです。
それに、御坂さんは何と言うか、こういう屈折したと言うか、
そういう人の心理を理解してもらうには非常に…」
「ああ、うん」

初春の要領を得ない言葉でも、佐天は納得した様に頷く。

193: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/25(火) 04:35:50.64 ID:hbuBaKiB0

 ×     ×

「あ、初春さん」
「戻りましたの?」
「ええ、お待たせしました。長谷川さん」
「ああ」

「つまり、友人である鳴護アリサの安全確保、
それがあなた達の目的だと言う事ですね」
「そういう事だ」

「外の人間として、友人の危険に際して
その手がかりを得るきっかけを求めて無謀な情報収集を行ったと」
「三年前だ」

初春の問いに、千雨が言った。

「三年前、大きな事故があって、それで鳴護アリサはそれ以前の記憶を喪っている。
鳴護アリサと言う名前も施設の人間がつけてくれたもので、
自分の身元すら知らない、これは私が直接聞いた話だ。
この時点でどれだけおかしな話か、あんたらなら分かるだろう」

千雨の言葉は、先ほどまで敵対していた四人にも十分説得力のある話だった。

「私は、そこが知りたかった。何か鍵があると思ったからな。
だけど、外の人間に出来る事は限られていると言うか本来何も出来ない。
何にせよ悪かった、申し訳ない」
「分かった」

美琴が口を挟んだ。

「アリサの事は私が引き受けた」
「御坂さん」

請け合う美琴に佐天が声を掛ける。

「元々、アリサとは知らない間柄じゃないし」
「本当か?」

千雨の問いに美琴が頷いた。

194: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/25(火) 04:38:56.92 ID:hbuBaKiB0

「さっきも話したが、そのストーカー連中、
いっぺんとっ捕まえようとしたけど結構厄介な能力者だ」

こういう時、超能力都市なのは実に助かる、話が作り易い。

「私を誰だと思ってるの?」

美琴と千雨が不敵な笑みを交わした。

「んじゃー、帰ってもらおうか」
「お姉様っ!?この人達は学園都市に不法侵入を…」

「その辺はまぁー、元々表沙汰にすると却って嫌な事もある話だし。
本当に条例で裁判ってなると、私達もここまで色々無茶しちゃったしね、初春さんも。
それに、悔しいけどこっから総力戦って訳にもいかなそうだし」
「お姉様、黒子は…」

言い募ろうとする黒子を美琴が手で制して、
やはり正義と言えるのか分からないものが反対側の正義を
力でねじ伏せる結果になってしまったと、黒子の悔しそうな顔が千雨の心に刺さる。

「そういう事なら、これ以上の悪さもしないでしょう?」
「本当に、悪かった」
「と、言う事なんだけど、手伝ってくれる?」

御坂美琴も又、素晴らしい仲間に恵まれていた。

 ×     ×

「それじゃあ、私は支部で関係する情報を集めて見ます。
御坂さんと白井さんは寮に戻って下さい、これ以上は」
「そうね、寮監が洒落にならないわね」
「ですわね」

「それじゃあ、私達は引き揚げさせてもらう。
本当に恩に着る、申し訳ない」
「分かったから、後は任せて」
「ああ」

めいめい、それぞれの方向に動き出した。

195: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/25(火) 04:42:09.21 ID:hbuBaKiB0

「朝倉」
「はいはい」

先ほどの現場からしばらく歩いた所で、
千雨に声を掛けられた和美は、アーティファクトの携帯モニターを手にしている。

 ×     ×

「黒子」
「はいな」

途中の屋根の上で、美琴は黒子に声を掛けた。

「先に戻っててくれる?」
「えっ?」

 ×     ×


204: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/27(木) 13:06:14.14 ID:BLWVr4ul0

 ×     ×

科学の学園都市風紀委員第177支部。

「鳴護アリサ…元々の基本電子データはトラブルにより破損。
統括理事会権限により再発行、根拠となる紙資料は統括理事会扱い…
露骨に怪しいですね。一応探しましたがスキャニングその他で閲覧出来る箇所は無し。
これでは手が出せません」

他に誰もいないオフィスで、聞こえそうな声でぶつぶつ言いながら
初春飾利はパソコンを操作する。

「三年前の大事故、と言うとオリオン号事件、
多分これで合ってますよね。あれ?」

途中で、初春は首を傾げた。

「なんだろう、これ?」

言いながら、初春は手元のメモに「正」の字を書き始める。

「…セクウェンツィア…何これ?
数が、合わない?え、でも…どうして、これこんな簡単な…」

初春は、紙のミニノートに走り書きをしながら急ピッチでパソコンを操作する。

「開いた…これってホロスコープ?…」

初春の頭が不意にカクンと揺れた。
初春が、一転して無機質にキーボードを打鍵し始める。

「やばいっ、あいつを落とせっ!」

千雨が叫び、小太郎が飛び出して初春の首筋に手刀を叩き込む。
少し遅れて、部屋の一角からその他の千雨と愉快な仲間達が姿を現した。
千雨の放った電子精霊がモニターに呑み込まれる。

205: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/27(木) 13:11:33.48 ID:BLWVr4ul0

「長谷川、これって?」
「藪を突いて、かよ。まさかこんな所に…」

和美の問いに言いかけた千雨が物音に目を向ける。

「初春ー、差し入れ持ってモガモガッ!!」
「オーケー落ち着け、今は誰かに危害を加えるつもりも無いし
これやったのも私達じゃない、その事を理解して騒ぎを起こさないでくれると有り難い」

楓の掌に口を塞がれた佐天に千雨が言い、佐天が小さく頷く。

「初春っ!?」
「なーにしてくれちゃってるのかしらねぇー?」

それでも佐天が叫びながら初春に駆け寄り、
千雨が、ギギギと音を立てそうな首の動きで不意に聞こえた声の方向を見ると、
傍らに白井黒子を従えた御坂美琴が実にいい笑顔でバチバチと白く光り始めていた。

「近くまで来て一応携帯掛けても出ないから来て見たらさぁー」
「分かった、私に責任があるのは確かだけど私がやった訳じゃない、
それを踏まえて初春さんのこれからに就いて話し合いをしたい」

裏声で歌う様に朗らかに発言する美琴を相手に、
十分過ぎる命の危険を感じながら両手を上げた千雨が言葉を選ぶ。

「初春、初春っ!?」
「これはどういう事ですの?」

佐天がぐったりした初春をゆさゆさ揺さぶり、そちらに移動した黒子も千雨に厳しい視線を向ける。

「パソコン?」
「見るなっ!」

元凶に気付いた佐天に千雨が叫んだ。

206: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/27(木) 13:16:51.56 ID:BLWVr4ul0

「な、何?パソコンが?」
「ああ、まず分かりやすく言う。原因は昔の漫画で言う所の電子ドラッグだ。
パソコンから人間の五感が受信出来る各種の刺激を人為的に調整して有害化する」
「そんな、初春がそんなものに…」
「初春さんだからだ」

佐天の反論に千雨が言った。

「大概の人間なら、手前の意識誘導で
ネット上のミスディレクションに落とし込む所で終わっちまう。
だけど、初春さんはハッカーとして切れ過ぎた。
それで、深入りし過ぎた対抗措置として用意されていた虎の尾を踏んじまった」

「つまり、何か見せたくないものがあって、
それを無理に見ようとするとこうなる、そう言いたいのね」
「そういう事だ」

美琴の理解に千雨が応じた。

「じゃあ、取り敢えずパソコンの電源…」
「駄目よ」

そう言った美琴の表情には苦いものが浮かんでいた。

「まさかと思ったけど、パソコンの電磁波と初春さんの脳波の境界が不明瞭になってる。
この状態で電源落としたら、僅かなリスクだと思うけど…」
「プログラム稼働中のPCのコンセントを引っこ抜く、
そいつを彼女の脳味噌でやる事になる、って事か」

電気使いの意外な視点に舌を巻きながら千雨が言い、美琴が頷いた。

「ちょっと待て、何してる?」

そして、パソコンに手を添えた美琴に千雨が尋ねた。

「パソコンの電磁波と脳波を解析して分離して初春さんを治療する」
「今、そいつを操作したらあんたも巻き込まれるぞ」

207: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/27(木) 13:22:20.01 ID:BLWVr4ul0

「私の体内電気で直接このパソコンに干渉するわ。
外の人間には信じられないかも知れないけど、体内電気を電気機器の電気信号に接続させて、
とてつもなく細かい単位の電気信号をとてつもなく細かい演算で、
例え高性能コンピューターでも、私の体から私の意思で直接支配して操作する事も
そこからネットワークに接続して操作する事も出来る。
初春さんに取り憑いた不正電磁波を解析して…」

「もっと駄目だっ!」

千雨が叫んだ。

「そんな事したら逆流してあんたの脳が食われるっ!」

「私を誰だと思っているの!?
学園都市のエレクトロマスター電撃使いの頂点に立つ
学園都市レベル5第三位、常盤台の超電磁砲よ。
例えスパコンレベルの高度な電気信号でも自在に出来る」

「これは只の電気信号じゃないっ!」
「電気は電気よ、私には見える」
「いいかよく聞け、これ以上続けるなら私達はあんたに総攻撃を掛ける。
これ以上被害を拡大させる訳にはいかない」

千雨は我ながら情けないと思いながら、構えを取る小太郎と楓を見る。
美琴と黒子の目つきからも退く意思は一片も見えない。

「じゃあ初春はっ!…」
「私が行く」

叫ぶ佐天に押し被せる様に千雨が言った。

「あんた達の超能力とは別の系統のトンデモ能力が絡んでる、
これは私達の領分だ」
「それ、冗談だったら消し炭とか言うレベルじゃないんだけど」

千雨の取り出した「力の王笏」を見て美琴が言った。

208: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/27(木) 13:25:36.47 ID:BLWVr4ul0

「これは、私の責任だ」

両手持ちにした「力の王笏」を床に水平にパソコンに向けながら、千雨が言った。

「そうだよ、これは私がやらなきゃいけないんだ」
「………」
「私が初春さんを巻き込んだ。だから、絶対に助け出す。
広漠の無、それは零。大いなる霊、それは壱。
電子の霊よ、水面を漂え。
「我こそは電子の王」!!」

 ×     ×

ぐらりと脱力した千雨を楓が支える。
そのまま、床に横たえた。

「な、何よこれ?まさか本当にパソコンの中にダイブした、
とか言わないよね」

佐天が青い顔をして言った。

「今の初春さんの状況を応用して考えるなら、
決してあり得ないとは言えない」

美琴が真面目に言った。

 ×     ×

ルーランルージュ姿の千雨が歩いていたのは、暗い、薄気味の悪い岩場だった。
そこで千雨が見付けたのは、小柄な人の背丈ぐらいで湯気を立てている蛇の塊だった。

「どきやがれっ!」

千雨が「力の王笏」を振ると、蛇の大群が半ば剥がれ落ちて、
その下から大理石製初春飾利1/1フィギュア最低落札価格以下略が姿を現した。

「この野郎っ!」

改めて呪文を唱えて「力の王笏」を石像に向けると、蛇は石像から離れて逃げ出した。

209: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/27(木) 13:28:41.01 ID:BLWVr4ul0

「良かった…損傷は自己修復出来る範囲内か。
お前ら、プログラム(呪い)を解除しろ、私の相手は…」

電子精霊に指示を出し、嫌な汗を感じながら千雨が視線を向けた先には、
巨大な犬の双頭、そこから光る凶悪な光が隠し様もなかった。

「こっちだっ!」

千雨が走り出した。
それに合わせて、双頭の犬ケルベロスは石像とは別の方向を向く。

「!?」

千雨がとっさに身を交わす。
千雨に猛スピードで突っ込んで来た一抱えほどもある大きな鳥は、
そのまま引き返した所を千雨のパケットフィルタリングで撃ち落とされた。
同じ双頭の人面鳥が二羽、三羽と、千雨の周囲を旋回する。
千雨が「力の王笏」を振るい、必死で追い払いながら逃走する。

「くっ!」

ケルベロスの口が光る。千雨が手近な岩陰に飛び込み、
ケルベロスの吐き出す青白い炎の直撃を避けた。

更に、ケルベロスの足下にも、
今度はやたら現代的と言うか近未来的な人型敵キャラの一団が姿を現す。
全身真っ黒な装甲、ヘルメットに身を固め、
その一部である黒い仮面に目の部分だけが不気味に赤く光っている。

「ちう・パケットフィルタリーングッ!!」

その黒い装甲が抱え持ちの大型機関銃を一斉掃射して来たからたまらない。
千雨はとっさに防壁を張りながら岩陰に飛び込む。

210: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/27(木) 13:32:23.58 ID:BLWVr4ul0

「遅いんだよバカがっ!」

只、敵兵は頭の方に多少の問題があったらしく、
一斉に弾薬交換を始めたタイミングで千雨はジャンプで岩の上に飛び出し、
そのままパケットフィルタリングで黒装甲どもを一掃した。

見て目通りの多少の硬度はあっても、所詮はプログラムと言う事だ。
だが、ほっとする間も無く双頭鳥が千雨を狙い、
千雨は「力の王笏」で牽制しながら岩陰に逃げ込む。

「うげっ」

見ると、ケルベロスの周囲には、その双頭の人面鳥がふわふわと浮いている、
一羽や二羽ではない群れだ。

「おい、まだかっ!?」
「まだです、ちう様。非常に複雑な術式が使われています」
「何だと?」

「直ちに取り寄せる事が出来るワクチンプログラム(解呪法)では効果がありません。
手がかりは見付かりましたから、
現在まほネットから必要な情報を取り寄せてワクチンプログラムを構築しています。
しかし、それらの材料には禁呪や上位に指定された情報が多数含まれていまして、
そこを突破して手に入れる事自体に困難を極めているのが現状であると…」

双頭鳥が千雨の頭上から急降下して来た。
千雨が横っ飛びに交わし、「力の王笏」からのビームで撃ち落とす。
そのまま別の岩陰に飛び込み、ケルベロスの炎から防御する。
そうしながら、今の状態であればイメージとして直接脳内で操作出来る携帯電話に接続する。

211: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/27(木) 13:36:01.28 ID:BLWVr4ul0

「葉加瀬かっ、頼まれて欲しい…」

言ってる側から、千雨は飛び込んで来る双頭鳥を叩き落としながら岩陰を駆け出す。

「だからこっちだって…だああっ!!」

千雨は向きを変えようとしたケルベロスにビームを浴びせ、
ギロリとこちらを向いたケルベロスの口が光るのを目にしながら
命からがら岩陰に飛び込む。

「…もしもし…」
「もしもしっ!」
「話は聞きましたです。
とにかく、分かるだけの情報をこちらに送って下さい」

215: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/28(金) 04:21:10.81 ID:sIRf/bqg0

 ×     ×

「と、言う事だ。
情報を共有してアドバイスに従って、一刻も早く、
だけどプログラム化した精神には傷一つ残さずに修復する。
厳しい条件だけどよろしく頼むっ!」

「ラジャーちう様っ!」
「我ら命に替えてっ!」
「どうぞ何々しろと命じて下さいませちう様っ!」
「とっととやりやがれっ!!」
「「「「「「「ラジャーッ!!」」」」」」」

「命に替えて、か」

背中を岩に預け、ずずっ、と千雨は座り込む。
一瞬だけまどろんでから、岩の地面を転がり双頭鳥の頭突きを回避する。

どかん、どかん、どかんと、地面に当たるや爆発する
ケルベロスの青い炎を、地面を転がりながら懸命に交わし続ける。

 ×     ×

じっとしゃがみ込んでいた御坂美琴が、すっと立ち上がる。
腰を浮かせようとした小太郎が、楓の制止に従う。

「正解」

美琴が、ぽつっと言った。

「女は殴れないとか、やっぱりそういうタイプか。
殺す覚悟が無いなら私の前に立たないで」

ぼそぼそと、しかし、圧倒的な雰囲気と共に言いながら、
美琴は歩みを進めた。

216: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/28(金) 04:26:11.50 ID:sIRf/bqg0

 ×     ×

「っそおっ!だからそっちじゃねぇって言ってるだろっ!!」

一休みしたかった体を叱咤して、千雨は駆け出した。
走りながら、「力の王笏」からの光弾の速射を足下に撃ち込んでケルベロスを牽制する。
走り抜けて、一息ついていた千雨がバッと体勢を立て直した。
初春を背にした千雨が、双頭鳥の体当たりをまともに受けて背中で岩の地面を滑る。

「っ、てぇーっ…」

肋骨がまともに折れた感覚だ。
生身よりはマシなのだろうが、それでも呼吸が苦しい。

「やっ、ろおっ!!」

トドメを刺す様に飛来した鳥を「力の王笏」でぶん殴り、
そしてその杖の底で鳥の体をブッ刺し、抉り殺す。

「うええっ」

嫌な感触に嘔吐している場合では無かった。

「ちう・パケットフィルタリィーングッ!!!」

それは、ケルベロスの大出力の火炎放射との真っ向勝負だった。
流石に巻き込まれたら危ないのか、未だうじゃうじゃ飛び回っている双頭鳥も上空を旋回するばかりだ。
火炎放射が止まった。千雨もそのまま「力の王笏」からのビームを止めて尻餅をつく。

「うざいっ!!」

ここぞとばかりに飛来した双頭鳥を三羽ほど、
立ち上がり様に悲鳴を上げている肉体を酷使してボコボコボコと「力の王笏」で叩き殺す。

「キリがね、えっ?」

ケルベロスの背後から、更なる巨大生物の姿が見えた。
ずるっ、ずるっとその身を引きずって現れたのは、十分に怪獣サイズの大蛇。
但し、胴体の後ろ半分は一本でも、そこから先は幾つもに枝分かれしてそれぞれに蛇の頭がついている。

217: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/28(金) 04:31:37.75 ID:sIRf/bqg0

「ヤマタノオロチ?いや、ここまでのチョイスって、事は?…」

脚が砕け、座り込みながら千雨は呟く。そこに、更なる新手。
双頭鳥とは比べ物にならない巨大な鳥らしきものがばさっ、ばさっと着地する。
但し、こちらは前半分は巨大な鷲だが、その後は獅子の肉体。
ケルベロス同様、麻帆良の地下でもお見かけした相手だが、

「これもまあ、幻って言えば幻なんだけどダメージは幻じゃすまないしなぁ、
誰かイングラム持って来い…」

千雨は、よいしょと立ち上がる。
しかし、大蛇ヒュドラの多数の首は明後日の方向に伸びて、
伸びた先端が空間に呑み込まれる様に消滅する。
開かれた大鷲のクチバシからも、猛烈な火炎放射がヒドラの方向に噴射され、
その炎も途中で空間に呑み込まれる。

「そう言や、バ○ドンってのも強いよなぁバー○ンってのも…」

千雨は、自分の思考が危険なレベルで取り留めがなくなりつつある事を自覚する。
新手がこちらを向いていないのは助かった、
今一斉に来られたら確実に挽肉の消し炭だ。

だが、事態は丸で改善されていない。
ケルベロスに双頭鳥の群れは丸で衰える気配が無い。
実際、千雨も防御が手一杯で効果的なダメージを与えられていない。
最初から本気で殺り合えばやり様もあったのだが、それが出来ない事情がある。

千雨が、チラッと後方に視線を走らせる。
初春の灰色の全身にピシッ、ピシッとひびが入り始める。

「何とか、なるか…」

何度目になるか、プログラミング補正された動きで、
体ごとひゅんひゅんと「力の王笏」を振り回す。

飛来した三羽の双頭鳥の内、二羽はケルベロスの上空に戻る。

218: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/28(金) 04:36:50.90 ID:sIRf/bqg0

 ×     ×

「御坂さんっ!?」

ガクン、と体を揺らした美琴を見て、佐天が悲鳴を上げた。

「つーっ、気持ち悪っ、これが…うぐうっ!!」
「ああっ!」

床に座り込んでいた佐天が、どんと床を叩いて顔を伏せた。
美琴は、吐き気を堪えながらも両手でしっかりとパソコンを握る。
千雨ほど鮮明ではないが、
それでも、接続に成功してかなりの所まで感覚的なイメージ化には成功しつつある。

 ×     ×

「ぐあっ!」

感情任せに墜落していた双頭鳥を踏み付けた、その脛を噛み付かれて千雨は悲鳴を上げる。
その隙に、防御した千雨の左腕に噛み付いた別の双頭鳥共々
千雨は「力の王笏」の発する至近距離の高出力ビームで確実に消滅させる。

「パケットフィルタリングっ!!」

ケルベロスの青白い炎を「力の王笏」の力ずくで抑え込み、凌ぎ切る。
千雨が後ろに視線を走らせる。初春の全身に、ビシッ、とギザギザに縦一筋の大きな亀裂が入った。

「いける、間に合う…」

 ×     ×

「ああああっ!!」
「御坂さんっ!!」
「お姉様っ!」

ガクガクと全身を痙攣させる美琴を見て、今度こそ佐天が悲鳴を上げた。
だが、それが収まった時、美琴の口元は綻んでいた。

「くくっ」

その笑みは、ここにいる意識のある全員が退くに十分のものだった。

219: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/28(金) 04:40:11.91 ID:sIRf/bqg0

「くくっ、くかかっ、くかかかかかかっ、かかかかきくけこォォォォォっっっっっ!!!
なンですかなンなンですかァ!?
別系統の能力ってこの程度なンですかァァァァァァっ!?!?!?」

叫んだ先から、美琴の体が海老反りする。

「くか、くかか、くかかかかかかかか、
だーいじょうぶ大丈夫、あーはははははははっ、ほろ酔い気分だにゃー。
結局、電気信号は電気信号、私に制圧されるために存在してるって訳よ。
こんなので私に勝ったとか思っちゃったのかにゃーん?
ハリーハリーハリーハリーハリーッ!!!おぶうううううううっ!!!」

「御坂さん…」
「お姉様…」

「うふっ、うふ、うふふふふふふっ、うふぅふふふふふふふふ
だぁーいすきっ!!
[sogebu][sogebu][sogebu][sogebu]
だいだいだいだいだーいすきっ大好き大好き愛してるうっ!!
好き好き好き好き好き好き好きあぁぁぁいぃぃぃぃしぃぃぃてぇぇぇぇぇ
好きで好きで好きで好きであぁぁぁぁぁたまらないたまらないのおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ
はああぁぁーーーーーんっらめえぇぇぇぇぇぇぇぇぇいっ………ふぅーっ………
アハハハハ………あああああっ!!!」

絶叫と共に美琴が荒い息を吐いた時、同室の面々は一斉にそっぽを向いた。

「んっ、ぐっ…」

想像を絶する干渉感覚だ。そんな電圧がある筈が無い等と考えている暇も無い程。
いや、これは法則が違う。村上夏美と対した時もそうだったが、
長谷川千雨の言う「系統の違う」と言うのも満更デタラメでは無い。

こうしてぶつかり合っている以上完全な別物ではないが、電気で御坂美琴の脳を突き破る、
それをストレートにやるにはどう考えても出力が足りな過ぎる。
それ以外の思いもよらぬ要素がある筈だが、今はそれを解く暇は無い。
ギリギリと歯がみしながら意識を演算に集中させる。

220: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/28(金) 04:43:28.56 ID:sIRf/bqg0

「うぐっ!」
「お姉様!」
「御坂さんっ!」
「何や?いいの貰ったんかっ!?」

ドゴン、と、ボディーブローの様に強烈な刺激が美琴の神経から脳に描き出され、
それに合わせて美琴が体を半ばくの字に折りながらその手を必死にパソコンに繋ぎ止める。
美琴の視線がつと外れる。
床にぐったりと横たわっている長谷川千雨、その目尻を見た時、
御坂美琴の頭の中で、何かがブチッ、といい音を立てた。

 ×     ×

千雨が魔力を込め、「力の王笏」にガジガシと噛み付いていた双頭鳥が煙を上げて剥がれ落ちる。
同時に、「力の王笏」もガランと地面に落ちた。

「くっそおっ!」

「力の王笏」から発せられた電撃に耐え兼ねて手放した千雨が、
岩の地面を転がりながら「力の王笏」を拾う。

「うらあっ!!」

突っ込んで来た双頭鳥が千雨を狙って開いた口に
千雨が「力の王笏」を突っ込み、そのまま後頭部までぶち破る。
足をかけて引っこ抜き、群れで飛来する双頭鳥を帯状のビームで追い払う、が、

(出力が、全然足りてねぇ…ハゲタカかよ…)

双頭鳥が、千雨の上空でぐるぐる旋回を始める。
ケルベロスの口も光り始める。

千雨が音に気付き後ろを向く。
初春の花飾りからぱあんと表面が弾けて、カラフルな色彩が戻って来る。

「何とか、なりそうだな」

「力の王笏」を握った右手諸共両腕がだらんと下がり、
千雨の口元に笑みが浮かぶ。

221: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/28(金) 04:46:45.85 ID:sIRf/bqg0

「…有り難うな。御坂美琴の性格読んで、上手く乗せてくれたんだよな…」

千雨が、前を向いた。

「これは、私の責任だ。私がやらなきゃ、いけないんだ。
私が、初春さんを戻さなきゃいけない、大丈夫、戻れる。
初春さんは、戻れる…」

呼吸を整えながら、千雨はぶつぶつと頭の中で繰り返した。
両手持ちした「力の王笏」を天に掲げる。
バチバチと放電する「力の王笏」を掲げ、巨大な双頭犬を見据える。

「戻れる…戻して、見せる。
来るなら来い…けど、なるべくなら来るな。
終わるまでは付き合ってやる。人としてやんなきゃなんねぇ、それまではな…
………終わり、かよ………」

耐え切れず、千雨の顔が下を向いた。

「…あの夏にも…戻って来て…なのに…
………すけ………て………ギ………んせい………」

ケルベロスが吠えた。甲高く吠えた。
千雨が、はっと天を仰ぐ。
ヒュドラの首が戻って来た。
戻って来たまま、空中で踊り狂い、全体がばったりと衰弱する。

その隣で、勇ましい大鷲の羽毛と獅子の毛も絶叫と共に炎に包まれる。
双頭鳥の群れが上空で異常な旋回軌道を取り、ケルベロスも不安げに足踏みを始めた。
聞いた気がした。千雨が最も待ち望んでいた、勇ましきその声を。

222: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/06/28(金) 04:50:37.24 ID:sIRf/bqg0

 ×     ×

「お姉様っ!?」
「つーっ…最悪の目覚めって感じかなぁ…」
「御坂さんっ」

「ははっ、私の責任、巻き込みたくない、ははっ、はぁーっ。
いたなぁー、そんな事言ってた奴。
うふっ、あはははははっ、ねぇ、何が見えてる?あんたの目には今何が見えてる?

私の目の前でこの人達泣かせるとかさぁ、
あんた、この学園都市レベル5第三位、常盤台の超電磁砲にどんだけ恥掻かせたら気が済む訳?
何一人で格好付けてんのよ。
っざけてんじゃないわよおおおおおっっっっっっっ!!!」

230: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/01(月) 04:36:52.99 ID:drfsv7vh0

 ×     ×

「っけるな、っざけるな!ふっざけるなあっ!!
あんた分かってんの?
アリサも初春さんも私の友達だっつーのっ!
あんたが二人を助けるために一人で危ない橋を渡るって言うんなら、
まずはその幻想をおおおおっ………」

 ×     ×


「こりゃあ、イメージ的にもやってくれたのって…」

長谷川千雨は苦笑した。
双頭鳥の群れは、爆発する様にして消滅していた。
巨大な落雷を受けてぷすぷすと煙を上げているケルベロスも、
消滅こそ免れたが明らかに弱体化している。

「御坂さんっ!つっ」
「あ…ごめん…」

駆け寄った佐天が、パソコンを手放してぐらりと揺れた御坂美琴の体を支える。
特大の静電気を連想させる感触が佐天に突き刺さる。
美琴の声に、佐天は首を横に振った。

「ここまで、かぁ…大口叩いたんだから、後は…」

佐天にゆっくり座る様に誘導されながら、美琴はまどろむ様に言った。

231: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/01(月) 04:41:53.83 ID:drfsv7vh0

 ×     ×

「初春っ!?」

佐天の叫びと共に、
机に突っ伏していた初春がガバッと身を起こした。

「良かったぁ」
「あ、ありがとうございます」

机の側に座り込んでいた美琴も安堵し、頭を下げる初春に笑みを返す。
初春は、少しの間両手で顔を覆っていた。
それから、USBメモリを接続し、猛烈な勢いでパソコンを操作し始めた。

「初春っ!?」
「大丈夫ですの」

叫ぶ佐天に黒子が言った。

「この目は、ジャッジメントですの」

 ×     ×

「っつこいっこのバカ犬っ!!」

ちうはにげだした
しかし、まわりこまれてしまった

只の電気信号ではない、自分の言葉が突き刺さる。
感情があるのだろうか、大ダメージを受けたからこそ思い切り執着されているとしか思えない。

「くあっ!」

蹴躓いた千雨目がけて、ケルベロスの巨大な前足が持ち上げられる。

232: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/01(月) 04:47:04.71 ID:drfsv7vh0

(やべぇやべぇやべぇ…)

「ギャインッ!!」

かつての痛覚を伴う幻覚を思い出しかけたその時、絶叫したケルベロスの足の裏には、
地面から突き出してビンと鉄筋の如く硬直した薔薇の蔓が何本も突き刺さっていた。
その隙に千雨は逃走し、薔薇も軟化して引き抜かれる。
体勢を立て直した千雨の目の前では、
ケルベロスが自分の体に絡み付いた大量の薔薇の蔓を悲鳴を上げながら引きちぎる所だった。

「ちう様っ!」
「ああっ、目的は果たした、行くぞっ!!」
「ラジャーッ!!」

千雨が脱兎の如く出口へと駆け出す。
ケルベロスがざっ、ざっと後ろ脚を跳ねて追走を構える。

「あなたの門に帰りなさい」

そのケルベロスに、凛として、それでいてどこか優しい声が聞こえる。

「あなたは、あなたの門に帰りなさい。
ここは学園都市。私は、私の門を守る。決してその先には進ませない」

 ×     ×

「ただ今、でいいのか?」
「お帰り」

横たわっていた床で身を起こし、側頭部を抑えながらの千雨の質問に美琴が応じた。

「初春さんは?」
「お早うございます」
「ああ、お早う」

のんびりとしたやり取りに拍子抜けして、ついでに腰が抜けて千雨はすとんと座り込む。

233: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/01(月) 04:52:03.37 ID:drfsv7vh0

「ああ、来て下さったんですね」
「あ?」
「いえ、確認したい事があったので、
帰る前にこちらに来ていただいたんですが、
どういう訳か私が昏倒してしまったらしくて」

「ああー、そう言やそうだったな。で、何が分かった?」
「それなんですが、記憶が曖昧で。ご足労おかけしました」
「いやいや、わざわざ有り難う」

初春と千雨の棒読み一歩手前のやり取りを眺めて、初春の友人の中には肩を竦める者もいた。

「ところで」

美琴がちょっと首を傾げて尋ねる。

「やっぱ電子ドラッグね、思いっ切り思考回路引っかき回された感触あるんだけど、
その間に私、何か言って無かった?」

素直に小首を傾げた者以外は、
黒幕も情報源も吐かなくなる条件を即座に思い出して首を横に振った。

「そう」

何となく納得していなさそうな美琴を前に、
白井黒子は胃袋に転移させるロンギヌスの槍を探す旅立ちを決意し、
佐天涙子は録画した携帯ムービーの用途を脳内で模索する。

「それじゃあ、今度こそ帰らせてもらうわ」
「うん、アリサの事は私達に任せて」
「これ以上黙認し難い事はくれぐれも避けて下さいまし」
「ああ、迷惑かけた」

234: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/01(月) 04:55:54.97 ID:drfsv7vh0

 ×     ×

「で、帰るんやなかったんか?」
「一箇所だけ、寄りたい所がある」

歩みを進めながら、千雨は仲間にPDAを回す。

「オリオン号事件、三年前に発生した宇宙旅客機の墜落事件だ。
乗客乗員88人全員が無事救出されて、学園都市じゃあ88の奇蹟って事で知られている」
「先ほど、初春殿が調べていた事でござるな」

「ああ、だからこれはwikiレベルの最低情報だ。
電子精霊総動員で潜在ブラクラチェック掛けながらキーワードからの基礎情報だけ引っ張り出した」
「この事件が鳴護アリサの言う三年前の大事故」

PDAを手にした和美が言う。

「その可能性は高いな。
少なくとも初春さんはそう踏んで探って虎の尾を踏んだ。何かが引っ掛かる」
「何が?」

千雨の呟きに夏美が問うた。

「これは能力なのかなんなのか分からないけど、私は魔法に関する勘が働くらしい。
魔法のごまかしに対して、おかしいものをストレートにおかしいってなんとなくでも思える勘がな。
だから、これは勘だが、多分理論化したら理論とも言えないぐらい
バカみたいな簡単な事がごまかされてる。初春さんの反応を見てもそう思った」

「だけど、その簡単な事に気付かない様に仕掛けがされていて、
気が付いたら、食われる」

和美の言葉に千雨が頷いた。

「奇蹟…88の奇蹟…奇蹟の歌…そろそろだ…」

言いかけた千雨を、小太郎の腕が制した。

「どうした?」
「誰かいる」

235: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/01(月) 04:58:57.85 ID:drfsv7vh0

小太郎に促され、一同は物陰に入った。
確かに、目的地の石碑の前にたたずむ人影があった。

「あいつ…」
「知り合いか?」
「こないだの公園で、黒いカブトムシメカに乗ってた」
「なんだと?」

千雨は、自分よりやや年上だろうか、
少女と言ってもいいその黒ずくめの女をじっと観察した。

「…なぁ…何してる様に見える?」
「お墓参り」

千雨の質問に、夏美がぽつっと答えた。
別に線香も何もないが、雰囲気がそれ以外の何物でもない。
黒ずくめの女が無言でその場を立ち去る。
アーティファクトを発動した夏美と手を繋ぎ、
一同は女の後を追っていたが、千雨がそれを制した。

「悪い、先行っててくれ」

離脱したのは千雨と和美だった。
二人が駆け寄ったのは入れ違う様に石碑に現れ、花束を拾った作業服の男だった。

「本当に墓参りか」
「だからだ」

男の握る黒いリボンに気付いた千雨の言葉に、作業服が言った。

「縁起でもない、片付けさせてもらうよ」

作業服が、バッと腕を振り払う。

「に、しても」

千雨が言う。

236: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/01(月) 05:02:29.95 ID:drfsv7vh0

「やけに早い片付けですね。たった今までいた筈ですが」
「あー、連絡があるんだよ」
「連絡?」

「ああ、ちょっと頭がアレな女だってな。
実際、こんなモン置いて行かれてるんだ。
本当なら業務妨害で届けを出してもいいぐらいなんだが」

「誰が報せて来るんですか?」
「分からん。同じ人物から管理事務所に匿名の予告電話が掛かって来る。それだけだ」
「分かりました、有り難うございます」

238: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/01(月) 14:12:19.60 ID:drfsv7vh0

 ×     ×

「シャットアウラ・セクウェンツィア?」

千雨が、夏美と小太郎からその報告を受けたのは、
すっかり夜更けの麻帆良大学工学部の研究室での事だった。

「うん、間違いない。彼女の部屋で色々確認したから」

夏美が言う。
結局の所、絶対条件である夏美と身軽な小太郎のペアで
尾行相手の黒ずくめの女、シャットアウラにぴったり張り付く様にして
彼女の住むマンションとフラットの玄関をくぐり抜ける事に成功。

以後、お疲れの彼女が入浴中にしっかり手を握ったまま
僅かな痕跡も残さぬ様に悪戦苦闘して身元を示す手がかりを室内から見つけ出した。

が、夏美達が脱出する前に予想外の早さで浴室からリビングまでストレート移動して来たために、
そのままリビングで思索に耽る彼女やその他の家具にぶつからぬ様に右往左往しながら、
ようやく出入りが聞こえないタイミングに至ってフラットを脱出。

先に他の面子を脱出させてから
科学の学園都市に戻って来て待機していた楓と合流してようやく今に至っていた。

「これが、彼女の部屋ねぇ」

和美が、夏美の撮影して来た携帯電話の画面を覗いて言う。

「これって、パイロット?写真に、帽子?」
「ぼろい帽子やなぁ」
「ん?」

会話を聞き、千雨も携帯電話に録画された映像を見る。

239: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/01(月) 14:17:41.13 ID:drfsv7vh0

「何と言うか、すっごいアホな事が起きてそうな気がするんだが、
マジだったら笑い事じゃ済まない様なな。
だが、それを確認する事は多分出来ない。
普通の調べ方をしたら、催眠誘導でなんとなく忘れるか納得させられる。
そいつを突破しちまったら」

「初春殿の二の舞でござるか」

「多分な。あれ見ると、私がアーティファクトで手こずった所から見ても、
初春さんと同じルートを辿るのはリスクが高過ぎる。
科学の学園都市は電子データの街、
そいつを利用して、辿り着くルートにあの手の地雷が仕掛けられてる、そう見るべきだ。

素直に理論化したら100プラス100イコールゼロってぐらい、
馬鹿馬鹿し過ぎて却っておかしいのが分からなくなるんじゃないかって、私のゴーストは囁いてる。
この辺に生えてるでっかい樹がなぜ世界遺産じゃないのかってぐらい。
だからこそあんな物騒なモンを仕掛けた。そうでもなけりゃあんな事までする意味が無い」

「その、初春さんですか?彼女が引っ掛かったトラップの事なのですか」
「ああ、綾瀬、今回はサンキューな」
「いえ、お役に立てて何よりです」

研究室に待機していた綾瀬夕映と長谷川千雨が言葉を交わす。

「それで、さっきの件だが」
「呪いですね、西洋魔術系の呪いを応用した術式です」
「だったら、やっぱりイギリス清教の連中か?」
「あり得ません」
「何?」

夕映のあっさりとした返答は意外なものだった。

「ネセサリウスですね、あそこには色々な使い手がいるのは確かですが、
おおよそ近代魔術と呼ばれるものを使っています。
全般的な傾向として、現代科学のハイテクノロジーとは非常に相性が悪い。
恐らく、携帯電話の表向きの機能を使うのが精々でしょう。

とてもじゃありませんが、
高度な魔術の術式をインターネット上に組み込むなんて芸当は彼らには出来ません。
下手したらそのまま本来の意味で脳味噌が吹っ飛びます」

240: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/01(月) 14:22:51.10 ID:drfsv7vh0

「おいおい…」

「それに、術式の問題があります。
使われていた術式は、古典的なギリシャ語系の術式でした」
「ちょっと待て、確か、ギリシャ語って西洋魔術では」

「はい、ギリシャ語自体は、ランクこそ高いですが西洋魔術の中ではポピュラーな語学です。
魔法学校から始まるこちらの西洋魔術では、
ラテン語に始まってより高位のギリシャ語の呪文詠唱を行います。
ですから、ネセサリウスにもギリシャ語の詠唱魔術を使う術者自体はいてもおかしくありません。
しかし、今回使われたのはそういう次元のギリシャ語術式ではありません」

「どこが違うんだ?」
「古典的、古過ぎます。
千雨さんや弐集院先生、電子精霊を使う術者は麻帆良学園、魔法協会にもそれなりの数がいます。
しかし、それとこんな古典的な術式を組み合わせる人はいません」

「そんなに珍しいのか?」
「魔法そのものが一般には迷信と目されている訳ですが、
その魔法、魔術が進化する過程の中でも非論理的、非合理的として切り捨てられて廃れた筈のもの。
そうしたものが少なからず含まれていたです」
「それで、あれだけの威力があるってのかよ」

「そもそも、千雨さんの電子精霊魔法で電脳空間内の闘いであれば、本来大概の事に対処出来る筈です。
それが容易に出来なかったのは、表現が難しいのですが、
電脳空間だからこそ本来通じるべき共通ロジックがそのままでは通用しなかったからです」

「いや、それは感覚で分かる。
電脳戦じゃ割と修羅場くぐったつもりだが、いくら何でもあれは無い」

241: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/01(月) 14:28:08.57 ID:drfsv7vh0

「「力の王笏」による共感は、
あくまで千雨さんの主観としてイメージ出来る様に感覚が変換されているものであって、
高度な電子戦である以上、闘っているのはあくまでロジックとロジックです。

実際に魔術なのですから、電子精霊は魔術として感知して対応しようとする。
しかし、対応するロジックが電子精霊の扱うデータバンクに含まれていない為に、
相手に直接対応する電子的なロジックを直接構築する事が出来ない結果、攻防が上手く噛み合わない。

例えば魔物の中でも物理的に存在するものの何割かは
タンクローリーやトマホークミサイルを直撃させれば退治できます。

話に聞く御坂美琴さんは、あれをあくまで電脳空間の電気信号と言う
それ自体理論上間違ってはいない定義で把握して、
物理的な存在そのものをロジカルに解析して対応した事が、
今回に関しては上手くはまったものと思われます」

「化け物だろうとぶん殴れるものは殴った方が早かったって事か」

「無論、例え科学の学園都市でも
そこらのセキュリティソフトでどうこう出来るレベルの話ではありません。
それで済むならそもそも科学の学園都市に連なる電脳空間に潜伏し得なかった筈です。

その意味では、やはり御坂美琴と言う人はその分野に於ける想像を絶する天才なのでしょう。
デジタルにしてアナログ、自分の能力として自分の意思と直結して電気を使うからこそ、
電気の中の魔術と言う自ら変異する生き物の尻尾を捕まえる事も出来た。

それでも、只でさえ材料が乏しく困難な初春さんの解呪を行っている間、
現在進行形の破壊プログラムで初春さんが破壊されない様に盾になりながら
正体不明の敵が相手なので敵に最適化した攻撃が出来ず対症療法しか出来ない。
この非常にまずい条件下の闘いです。

こちらでモニターした限り、対処したのがどちらか一方であれば、
初春さんを断念して脱出するか自分が廃人になるかが現実的な選択肢となる危機的状況でした」

「紙一重で二重遭難かよ。言いたい事は大体理解出来る。
しかし、魔法自体が科学とどこまで折り合うかって話なのに、
そんな骨董品紛いの魔法が電子戦でそこまで恐ろしいのか」

242: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/01(月) 14:31:23.79 ID:drfsv7vh0

「例え話として言いますと、口伝えの伝統と修行して覚えた感覚、
それだけで患者に触れて草と鉱石を調合する。
現代医学から見て、その結果は理論的におよそ三つに分類されます。

迷信として切り捨てられ忘れ去られるもの。
現代医学によっても合理的な説明が出来る範囲のものも少なからずある。
そして、現代医学では説明すら出来ずに、尚かつ現代医学を遥かに凌駕する結果が生ずるケース」

「何と言うか、魔法使いそのものだな」

「迷信が実は迷信では無かった。
当時の最先端の科学が迷信として切り捨てたものに実は大変な価値があった
科学的な分野でも歴史的にしばしば生じている事です。
今回使われたギリシャ語術式はどうもそういう匂いがします。
実際、私の「世界図絵」でも丸っきり駄目でした」

「そう言や、綾瀬の「世界図絵」は自動更新だったか」

夕映が示したパクティオーカードを見て千雨が言う。

「はいです、まほネットによる情報更新システムによって、
容量がオーバーすると使用頻度その他重要度の低い情報から上書き領域に回されてしまいます。
今回の様な考古学に属するレベルのケースでは本来相性が良くないアーティファクトです」

「本当にすまんかった」

「いえ、実に貴重な経験でした。
それでも、巨大図書館レベルの情報量を誇る「世界図絵」です。
無論、ギリシャ語系の魔法研究に関しても、通常を遥かに超えるレベルで網羅している。
それでも、今回のケースでは必要な情報をそのまま検索する事が出来なかった。

千雨さんの電子精霊と協力して、実際使われた呪詛と現存するギリシャ語研究資料の僅かな痕跡を辿って、
既に削除された原形を突き止め、或いは発生している現象に対して現在の魔術を代替品として応用して、
再構築する作業を重ねてようやく初春さんの呪いを解くワクチンプログラムを作り上げました」

「誰がそんな化石を掘り出して来たって言うんだ…」

243: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/01(月) 14:34:49.86 ID:drfsv7vh0

「現代のギリシャを含む西洋魔術全体で見ても、
使われた術式のかなりの部分に就いては、そのまま使う所か原形、
断片すらを把握している人すらいないと思われます。

しかも、土に解けた恐竜の心臓を復元する様にこちらで把握した術式自体は極めて高度、
元々は相当に高いレベルのシビル、ギリシャ系の専門術者によるものと推察せざるを得ない。
考えられるとしたら、エヴァンジェリンさん…」

「何だと?」

夕映から出た思わぬ名前に、千雨は腰を浮かせそうになる。

「今回使われた術式は只古いだけではありません。
温故知新、とてつもなく古く進化の過程で葬られた術式をそのまま覚えていて、
しかも、進化の過程も把握し尚かつ最先端科学に組み合わせる離れ業です。
一番手っ取り早いやり方は、その時代から覚えていながら現代に至るまで学習する事です」
「なるほど、千年ロリ婆ぁなら条件に合致するってか」

適当な数字と共に千雨が言った。
多分、本人が聞いていたら次に千雨が発掘されるのは氷河の中であっただろう。

「いえ、エヴァンジェリンさんでは無理です。
エヴァさん本人にそこまでのメカへの適性はありません。

やるとしたら茶々丸さんによる補助が必要ですが、
麻帆良学園で科学の学園都市に関わる事でそんな事をしたら流石に何らかの形で察知されます。
それに、茶々丸さんの魔法科学の基礎は現代魔法ですから
あそこまでストレートに古典を反映させる事も困難です。もう一つ考えたのは、禁書目録」

「その時点で危ないネーミングだな」

「実際危ないのですから仕方がありません。
今回の事件にも関わっていると言うネセサリウスによる術式と言うか存在です。

一度覚えた事を忘れる事が出来ない完全記憶能力者に古今の膨大な魔道書、
それも、特殊な高位の防護術式を何重にも施して、
本来読むだけで命に関わる猛毒の呪いの文献のオリジナルを記憶させる人間図書館。

ネセサリウス、イギリス清教にとっては戦略兵器と言うべき存在。
しかし、先ほども言った通り、それ程までの魔道書の記憶者だからこそ、
インデックスと先端科学との相性は絶望的に悪い。その線も却下です」

244: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/01(月) 14:38:37.75 ID:drfsv7vh0

「ちょっと待て、今なんて言った?」
「は?」
「いや、インデックス?」
「ええ、インデックス、禁書目録魔道図書館、どれも同一人物に使われる呼称ですが」
「なるほどなぁ、道理で高音さん達が泡を食う訳だ。物騒過ぎる」

千雨が、大雑把に説明する。

「そうですか…確かに科学の学園都市での事件で禁書目録まで引っ張り出して来たとなると、
この業界の人間であればネセサリウスが尋常ではないと見るのが当然です」

「だが、私の見た所ではちょっと違う。
あいつら、ステイルのチームとインデックスは明らかに別行動で、
インデックスは意図を知らないでむしろ邪魔をしていた。
何よりもアリサ本人を大切に思っていた。
とにかく、これで一つハッキリした事がある」

「はい」
「イギリス清教でも魔法協会でも無い、
しかも、こっちからも正体不明の第三の魔法勢力がこの事件のヤバイ所に噛んでるって事がな」

250: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/06(土) 01:10:48.50 ID:owyyBzlP0

 ×     ×

「あ、千雨ちゃん」
「お前ら」

放課後、授業を終えた千雨が小太郎、夏美、夕映と合流して
麻帆良大学病院を訪れると、見慣れた先客がいた。
神楽坂明日菜に近衛木乃香、桜咲刹那、何れも千雨のクラスメイトに他ならない。
そして、検査コース中の待機所でベッドに腰掛けている佐倉愛衣の頭を
木乃香が扇子でぱたぱた扇いでいる。

「千雨ちゃんもお見舞い」
「まあ、そんな所だ」

明日菜の問いに千雨が答える。
その間にも、ぺこりと頭を下げる愛衣と偉そうかつ謙虚な小太郎とそのすぐ側にいる夏美が
空間を軋ませている音を千雨の心の耳は確かに聞いていた。

「上から私を通じてお嬢様に依頼がありましたので、
後で面倒が無い様にアスナさんも一緒に」
「ああ、分かった」

夕映と明日菜が話し込んでいる隙に刹那が千雨に耳打ちする。

251: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/06(土) 01:16:02.55 ID:owyyBzlP0

「大した事ではありませんが、頭に関わる事故でしたので念のため」
「なるほど」

愛衣の言葉に、千雨は素知らぬ顔で応じる。
小太郎を通じて愛衣に連絡を入れた所ここにいると言う事で、
夏美の能力で高音達が帰ったのを確認した上でここを訪れていた。

「…少々人数が多過ぎますね」
「じゃあ、私達先出てるから」

かくして、先発組がその場を離れる。

「さて、と」

腕組みした千雨が、横目で愛衣を見る。

「主な外傷は先に対処したのですが、
割と激しく頭をシェイクしてしまったもので一応検査を受けろとの指示が」
「科学の学園都市か」
「はい」
「やられたんか?」

小太郎のやや剣呑な口調に、夏美の視線が走る。

「勝負で言えば完敗です。ステイル=マグヌスです」
「あの赤毛のっぽか」

愛衣の返答に小太郎が言う。

「あんたらが焦ってた理由はインデックス、禁書目録か」

千雨の言葉に愛衣は少し驚いた表情を見せたが、夕映が目で語って納得させる。

「私の見た所、アリサに関してステイルとインデックスの思惑、行動は一致していない。違うか?」
「私もそう思います。ステイルはこの件にインデックスを巻き込むつもりは無い」
「けど、実際に巻き込まれてるな」
「ネセサリウス、或いはステイルの意に反した状況、そう見るべきです」

「どこまで調べた?」
「インデックスと鳴護アリサとの関わり、その周辺調査、
それをやろうとしてステイルから追い払われたのが実際です」

252: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/06(土) 01:21:14.58 ID:owyyBzlP0

「じゃあ、そこを突っ込んで…」
「やめて下さいっ!あ、すいません」
「いや」

小太郎の言葉に愛衣が悲鳴に近い声を上げ、千雨がそれに応じる。

「ヤバイのか?」

小太郎も真面目に問う。

「はい。もし私達がインデックスに接触しようとするならば、
あのステイルなら麻帆良学園都市の外周全部にルーンを張って
そのままこの街をソドムとゴモラにするか、
それが無理でも学園結界ぶち破って炎剣二刀流振り翳して突貫して来かねません」
「無茶苦茶だな」
「無茶苦茶です」

千雨の言葉に愛衣が真面目に応じた。

「最悪なのは、必ずしもネセサリウスの意思ではないと言う事です」
「何だと?」
「幾ら禁書目録が大事でも、イギリス清教、ネセサリウスと言う組織は、
同じく巨大組織である麻帆良学園、引いては関東、日本に留まらない魔法協会自体に
一触即発で全面戦争仕掛ける程キレてはいません。この事でキレてるのはステイル個人です」
「あいつ、いけ好かないけど馬鹿じゃないと思ったけど」

千雨が首を傾げる。

「基本的にはその通りの筈です。
イギリス清教と裏で繋がっていて表向き魔術師が介入できない科学の学園都市に
禁書目録を滞在させておく事が却って安全。それがイギリス清教の判断である事は把握しました。
しかし、今回のインデックスに関するステイルの判断はステイル自身の判断です。
実際、接触しようとした私は先回りされて火焙り寸前の目に遭いました」

「おい…」
「それでも魔術師、魔法使いの裏と裏が裏で接触した際の事ですから」

何か言いかける小太郎を愛衣が制する。

253: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/06(土) 01:26:29.19 ID:owyyBzlP0

「私はステイル、仲介に入った神裂火織とのその場の合意でインデックスから手を引きましたが、
その場凌ぎの口約束でも、其れを破ればステイルは本気で
麻帆良はおろか魔法協会に今言ったレベルの反撃をしかねない。
ネセサリウスどうこうではなくてです」

「なんだそりゃ?いくら何でもステイル一人でそんな事した日にゃ、
こっちにはそれこそネギ先生から何から、
こっちの猛者が集合したらあの夏の黒幕連中とガチバトルしたレベルだぞ」

千雨の言葉に愛衣は首を横に振った。

「そういう事態になれば、ステイルの頭にそういう事は判断材料に入っていません。
元々、ネセサリウスに所属しているとは言っても、本質的に魔術師は我が儘な存在です。
私達がそこに触れるならば、彼は一人の魔術師としての判断を優先させると言う事です。
一人の魔術師、或いは、一人の…」
「マジかよ…」

愛衣が呑み込んだ言葉の気配を察して千雨は額を抑える。

「ですから、インデックスとセットであれば、
少なくともこちら側の人間として顔を覚えられた人間では鳴護アリサにも迂闊に接近出来ません。
無論、ステイルが本当にそこまで馬鹿をやったとして、こちらの学園であれば早々に対処出来ますが、
彼は過去幾つもの魔術結社を炭化ハンバーグと共に殲滅して来た魔女狩りの王です。
ステイル一人の本気と言うか狂気でもこちらの犠牲者は避け難い。と言う現実的な問題が一つ」

「非現実的な理由があるのか?」
「旧友、と言う程の仲でもありませんが、
あれ程のルーン魔術を我が者とした魔術への狂気にも似た情熱の一端は私も見ました。
私はあくまで現実的な判断をしますが、少しは尊重したい気持ちもあります」
「インデックスか」

愛衣の言葉を聞いて、千雨も思い返していた。
一見幼いガキ、何とも我が儘で頼りなく見えるシスターだったが、
それでも知識だけではない、禁書目録としての片鱗、ハートはしっかりと見せてもらった。

「インデックスには、ステイルにそこまでさせる何かがあるって言うんだな?」
「そこに触れたらそのまま血の雨硫黄の雨が降ります」

千雨の質問に小さく頷いて愛衣は告げる。

254: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/06(土) 01:31:40.85 ID:owyyBzlP0

「問題はもう一つある。インターネット経由で調査を進めてたら妙なものにぶつかった」
「妙なもの?」
「魔術を使った電子ドラッグ、第一段階の催眠誘導を突破しちまったら
そのままこっちの脳味噌に電波流し込んで廃人直行って代物だ」
「電子精霊、ですか?」

夕映が紙の束を差し出す。

「これは…ギリシャ語の術式ですね。まだ私が到達していない部分もあるみたいですが…」
「それどころか現存しない術式が多数含まれているです」
「何ですって?」

「こっちの協力者がやられた。それで、呪いの電子ドラッグから本人の魂を引っ張り戻すために
私と綾瀬でやっとの事で分析してなんとかかんとか呪いを解いた。その分析結果だ」
「魔法学校やギリシャを含む現在の西洋魔術の世界では実用化されていない、
それどころか記録すら残されていない古典のギリシャ語術式をベースとして、
それをインターネットに組み込んで閲覧者を呪詛する離れ業です」

「ちょっと待って下さい、そんな事って」
「ええ、そうです。今魔法業界一般に把握されている限りではまず出来ません」
「つまりだ、この事件には、イギリス清教、魔法協会、
それに加えて正体すら分からない骨董品を使う第三の魔法勢力が関わって来てる、そういう事だ」
「第三の…」

千雨の説明に愛衣が息を呑む。

「当然、ここに至るまで私達も高音さんには話しにくい事を色々やってる。
それに関しては、申し訳ないがこっちにも思うところがある。
それでも、状況だけは説明する必要がある。佐倉が一人で潜入してるってんなら尚の事、
そんな物騒な動きがあるってのは報せないとまずい」

「有り難うございます。
それで、長谷川さん達はどうするんですか?
この上、この事件に関わり続けるんですか?」

そう問う愛衣の目は、確かな仕事モードだった。
守るべきものは守り、邪魔はさせないと言う。

「そこなんだよな」

千雨が自分の頭を掴む。

255: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/06(土) 01:35:10.16 ID:owyyBzlP0

「アリサの過去、鍵になる事件がオリオン号事件、そこまでは掴んだんだが、
その先の電子データには今言った地雷が埋め込まれてて手が出せない。
今聞いた状態だとアリサ本人に近づくのも厳しい。

科学の学園都市じゃあ余所者が出歩く事自体危険、
変に探りを入れたら地獄を見るって身を以て教わった。
私達で動くには手詰まりだ。アリサ自身の安全は何とかなりそうなんだがな」

「その、電子ドラッグに行き着くルートを教えて下さい」
「どうする気だ?」
「こちらの電子精霊術者に対処を依頼します。
長谷川さんの立場を考えると説明が少し難しいですが」

「それはすまん。最初に言っておく。
自分で言うのもなんだが私が死にかけた相手だ、相当ヤバイぞ。
今言った鳴護アリサとオリオン号事件、
そっから注意深く入口の誘導、催眠を避けて探っていけば多分ぶつかる」

「分かりました。私は検査が終わったら科学の学園都市に戻ります。
魔法協会の裏からのバックアップもあります。
そんな状態なら尚更、魔法使いとして放置していられる状況ではありません」
「病院に来た先からあれだが、頼む」
「はい。ステイルにはステイルの思いがあるのかも知れませんが、
私も魔法使いです。魔法使いの在り方に背くつもりはありません」

愛衣が言って、千雨と愛衣が頷き合った。

 ×     ×

とあるショッピングモール側で、吹寄制理は嘆息していた。

「ねぇねぇ、俺らといいトコ行こうよ」
「こっち来てよおじょーさん」

元々、最先端科学の街と言いながらこの手の治安には不安がある学園都市だが、
この辺にもこんなのがいたかと、もう一度心の中で嘆息する。

いかにもチンピラと言った風体のスキルアウトの集団に対して、
吹寄は女子高校生一般として見ても堅過ぎるぐらいに堅いタイプ。
そういう女にこそ下衆な興味が湧くと言うロクでも無い連中に囲まれて、
ひくひくと動く眉が吹寄の苛立ちを現している。

256: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/06(土) 01:38:42.62 ID:owyyBzlP0

それでも、無愛想なのも堅実と言う内実を正当に評価するならば、
束ねた髪の毛は長い綺麗な黒髪。そこから輝くデコもチャームポイントなぐらい、
力強いぐらいにしっかりした顔立ちは凛々しく整って頼もしい。
実は一見してバーンと膨らみすらりと健康的な素晴らしいプロポーションなのも見て取れる、
十分にいい女の部類に入っている。

行き交う通行人は、素知らぬ顔で通り過ぎる。まあ、これもいつもの事だ。
ここだけでも5人の集団だ、武装している事も多い。
そこそこの能力者でも無い限り、関わり合うのも面倒と言うのが実際の所だ。
どうせなら、もう少し会場に近い所であれば警備の目も行き届いていたのではないか、
それも後の祭りなので誰かさっさとアンチスキルでも呼んでくれないかと。

「ほらほら、黙ってないで行こうぜほらー」

いい加減ウザくなって来た、実力行使で突破しようか、と思った時、

「あー、いたいた」

タタタッとこちらに駆け寄って来る気配あり。

「あー、どうも、ナギ・スプリングフィールドです。
山田さんですね?予定と違ってすいませんがちょっと駅まで連れて行って下さい」

駆け寄って来た白人の男の子は、
そう言って吹寄の手を引っ張りながら一瞬ぱちんとウインクした。

「ああ、ナギ君ね?待ってた。駅ならこっちだから…」

 ×     ×

「あのー、どうして皆さん付いて来られるのでしょうか?」

ネギは、吹寄に手を引かれながら、ぞろぞろと付いてくるスキルアウトに礼儀正しく質問した。

「場所が悪かったなガキ、最近この界隈じゃあ、そういうやり方が流行ってるんだよ」
「ああ、そうなんですか」

それは、吹寄アイアンハートにして何か詰まるものを覚える、そんな天使の微笑みだった。

「ちょっ」

ネギが吹寄の手を引いて猛ダッシュを始めた。

257: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/06(土) 01:42:40.01 ID:owyyBzlP0

「待てこらガキゃあっ!!」
「ち、ちょっと、君、もういいからっ!」
「大丈夫です」

その返答には、何故か頼もしい程の自信が含まれていた。
そして、ネギは吹寄の手を引いて路地裏に突っ込む。

「すいません、ちょっとあっちに」
「はあっ!?」

吹寄は、押し込まれる様に路地裏の曲がり角に押し込まれていた。

「ちょっ!?」
「てめぇええええっ!?」

冗談ではない、あの子ども一人をスキルアウトの群れに直面させるなど論外だ。
慌てて引き返した吹寄は、目を丸くした。
吹寄の記憶が正しければ、あの男の子がスキルアウトの中をすっと通り過ぎた、
と思った時には、スキルアウトは揃って転倒していた。

「行きましょうっ!」

そう思った時には、吹寄は再び手を引かれていた。

 ×     ×

「ここまで来たら、もう大丈夫だと思い、ます」

そう言って、ネギは腕で額の汗を拭い、後ろを向いた。
そちらでは、腿に両手を当てる姿勢で腰を曲げた吹寄が
建物の間から差す太陽にデコを輝かせ、
ネギの目の前で大きく呼吸を整えている所だった。

そして、吹寄は大きく背筋を反らす。
まだまだ残暑の季節、Tシャツにショートパンツとラフな格好の吹寄だが、
そうやって背筋を伸ばしながら袖口で汗を拭う。

258: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/06(土) 01:46:36.12 ID:owyyBzlP0

「ん?こぉらっ、十年早いっ」
「はうううっ」

つつつと顔の向きを変えたネギに気付き、
吹寄は拳でネギの額をぐいっと押してからくすっと笑った。
えらくお利口で頭が回って更には非常識に強い様にも見えた。
加えて、下手をすると女の子よりも可愛らしい男の子の見せる隙は微笑ましいものだった。

「でも、君足早いね」
「あなたも早かったですね」
「まあねぇ。に、しても、君ねぇ」
「はい」
「いつもあんな事してるの?」
「あんな事とは?」
「だから、あんな風に誰かを助けたりしてるの?」
「それは、女性が往来で困っていれば、イギリス紳士ですから」

天然過ぎる回答に目をぱちくりさせていた吹寄は、
頬の熱さに気付きそれをごまかす様にして水筒に口を付ける。
これが、似た様な事をしてそうな自分と同年配のウニ頭であれば拳が出ていたかも知れない。

「うぇー、にがっ」
「グリーンドリンクですか?」
「うん、飲む?健康にいいんだぞ」
「いただきます」

ネギが、水筒のカップで口を付ける。

「どう?まずい?」

吹寄が、本当に珍しく意地悪くも素直な笑みで尋ねる。

「まずいと言いますか、失敗作ですよこれ」
「え?」

「ああ、ごめんなさいご馳走になっておいて」
「いや、そこまで言ったんなら参考までに聞かせてくれる?」
「元は市販の粉末だと思いますけど、わざわざグリーンドリンクを生で飲んでるんですよね?」
「うん、通販で買ったんだけど」
「一般的な栄養学で言っても、この配合だとわざわざ栄養価を殺し合ってるみたいなものです」

そう言って、ネギはすらすらと書き付けた紙片を吹寄に渡す。

259: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/06(土) 01:49:48.27 ID:owyyBzlP0

「コンセプトは分かりましたから、
普通にこれを買ってきてミキサーした方がずっと増しです。飲みやすいですし」
「…ありがとう…」

メモを受け取りながら、吹寄は素直ににこにこ微笑んでいるネギと見比べる。
何と言うか、この少年このまま成長したらとんでもないものになりそうだ。
何よりこの天然っぷりが始末に負えない。

「あっ」
「どうしました」
「友達と待ち合わせしてたんだ。戻らないと」
「僕もあちらに用事がありますから」
「そう、じゃあ行こうか」

 ×     ×

「来たかあっ!」

路地裏では、先ほどのスキルアウトの集団が待望した後続部隊の気配に叫んでいた。

「あのガキ、ナメやがっ、て…」

スキルアウトがそちらを見ると、
彼らの待ち人達は既にダース単位で死屍累々を形成していた。

そして、その背後では、表通りの陽光を受けて、
鶴の構えを取る金髪のゴージャス美少女と、
コルク抜き満載のワイン樽を抱えた見た目まあまあいい線いってるショートカットの痴女スタイル少女が、
コオオオオと禍々しいオーラを背景にこちらに向かっていた。

260: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/06(土) 01:53:11.86 ID:owyyBzlP0

 ×     ×

「じゃ、ここで」
「はい」

路上で吹寄と分かれたネギは、後ろを振り返って仰け反りそうになった。

「ほう、こんな所でも僕と仮契約してミニステルになってよと誘っている訳か。
流石は僅か数ヶ月であれだけのパーティーを作り上げて世界を救済した英雄は違うものだな」
「ママママスターっ!?違いますよ、あの人はたまたま」

「ふむ、たまたまラッキーなんとかで又一人毒牙に掛けたと言う事か。
やはりその無自覚天然な有様こそが武器なのだろうなぼーや」

「だだだ、だから、科学の学園都市でそんな事してたら大変ですって。
大体、ここの人って魔法そのものが使えない人も多いですし。
大体、どうしてマスターがこんな所まで?」
ナニアレカワイー

と言う事で、ゴスロリ日傘のエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル相手に
ネギはようやく本題に入る。
取り敢えず、科学の学園都市にダーク・エヴァンジェリンの入場を許した事が発覚した場合の
政治的影響その他は後で考える事にする。

「うむ、マ○オブ○○○ズ、あくまで頭にスーパーすら付かないものだ。
それを終えてフ○○リーコ○ピ○○ターの電源を落として何気にリモコンを操作した時に
珍しい顔が目に入ったものでな」
「は?」
「学園都市は学園都市だ、と言う事で、学園都市の移動と言う事で
爺ぃ(麻帆良学園学園長)には秒速で判子を押し続ける簡単に仕事に勤しんでもらっている」
「はあ…」

言葉が見付からないネギの前で、エヴァは天を仰いだ。

261: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/06(土) 01:58:58.78 ID:owyyBzlP0

「…宇宙エレベーターか…」
「はい」

真面目な顔で応じるネギの前で、エヴァはつと視線を外す。

「…愚かな…」
「バベルの塔、ですか」
「ぼーやはこれから商談か?」
「はい、これから少し」

言いながら、ネギは再びエンデュミオンに視線を走らせる。

「科学の粋を集めたバベルの塔、星の彼方に連なる新世界。
まさに新しい時代未来への道筋、そういう事か」

そこまで言って、エヴァは意味ありげな笑みを浮かべる。

「何事も修行だ、精々頑張ればいい。
まあ、私もぶらっと来てどうこう出来る訳ではないからな、
そろそろ引き揚げるとするが、面白い街だ。
何とはなしに芳醇な香りすら感じられる」
「ごめん、待った?ちょっと変なのに絡まれてさ」
「ううん。大丈夫。今来た所だから」

271: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/08(月) 04:10:49.59 ID:VXsFjgbe0

 ×     ×

元々、科学の学園都市は学生の街である。
ショッピングモールのファーストフード店と言う事になれば、
時刻になれば放課後の学生で大にぎわいになる。

そんな店内の真ん中辺りで、二人がけのテーブル席にダークスーツの一組の男女が着席していれば、
どちらかと言うと場違いな雰囲気になる。
ネギ・スプリングフィールドは、その二人を見付けて近づき、
声を掛けようとして怪訝な表情を浮かべる。

それでも、目印となる文庫本がテーブルの上にあるので、声を掛けようとする。
すると、ネギが声を掛けようとした女性ががたりと立ち上がり、一礼して席を勧めた。
ネギがぺこりと頭を下げて席に就く。
無駄にイケメンとしか言い様がない対面にいる男も立ち上がり、
入れ替わりに一人の女の子が着席する。

「飲物は何がいいかしら?それとも何か食べる?」

ネギの対面に座った女の子が尋ねる。

「じゃあ、ウーロン茶を」

この店舗内では相当に異様な状況であるが、ネギは臆せず応じる。

「そう。じゃあウーロン茶とグレープジュースを」

この女の子の秘書らしきダークスーツの女が一礼し、カウンターに向かう。
同じくダークスーツの男は、先ほどまで自分達が口を付けていたドリンクを片付ける。

「改めまして、レディリー=タンクルロードよ。
詳しい紹介は必要かしら?」
「いえ、タンクルロード代表。ネギ・スプリングフィールドです」

272: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/08(月) 04:16:00.59 ID:VXsFjgbe0

唇で笑みを作るレディリーにネギが礼儀正しく応じる。
実質的には雪広グループ中心の政府・企業合同でひっそり起ち上げられた研究会。
プランに関わる事では、ネギは当面この研究会の参与と言う肩書きで活動している。

それは雪広あやかも同じ事であるが、それでも何でもあやかには、
既にして表の政財界にも多少は顔が利く血筋と学生としての実績もある。
対して、ネギの知名度は知っている人の間では絶対でも本当に知っている人しか知らない。
結論を言えば、この二人がプランの中枢近くにいると言う事は、
必要な人間だけに事前に報されて交渉がセットされる、と言う状態になる。

或いは、最初からあやかのアーティファクトで問答無用のセッティングが為されるか。
取り敢えず、そんな感じでも、二人の精力的な働きにより、
各界のトップクラス、本当の実力者の間では、あまり派手に知られても逆に困るが
知られるべき所にはそれなりに顔が売れているのが今のネギとあやか。

それでも、今の所は、表の実力者に近い位置にいるあやかを立てているのがネギの立場。
それは科学の学園都市でも同じ事の筈だったが、
最有力の交渉相手として打診していたオービット・ポータル社から思わぬ連絡が入った。
面会相手はネギ一人を指名して、ここでの会談に担当者を寄越すと。

ネギもあやかも当惑した。余り偉ぶりたくもないが仮にも国家レベルをも超えたプロジェクトである。
当然、オービット・ポータル社にもそれ相応のしかるべき筋を通じて打診している。
研究会の中でも言わば只の天才少年の一種と言う形を取っているネギ一人を指名して、
何よりもこんな場所を指定して来ている時点で、普通に考えるならばガキ一人と侮っている。

しかし、ネギが指名相手であると言う事は、もう一つの可能性もあり得る。
事、科学の学園都市では余り考えられないしまずい事態とも言えるのだが、
こうしてレディリー=タンクルロード直々のお出ましとなると、
もう一つの可能性を考えるのが自然。

かくして、ネギ・スプリングフィールドは、
本日二度目のゴスロリ美少女とのご対面を果たしていた。

「ごめんなさいね、あなた程ではなくても私も少々忙しい身で、
スケジュール上こんな所での会談になったわ」

表で会っていたエヴァのゴスロリが黒を基調としていたのに対し、
今、ネギが相対しているレディリー=タンクルロードの衣服は赤系の色彩だった。
何れにせよ、どこか蠱惑的な西洋人形、そんな形容が似合う事は共通している。
そんなレディリーの背後に、ビシッと黒服スーツの男女の秘書がドリンクを配り終えて控えている。

273: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/08(月) 04:21:18.36 ID:VXsFjgbe0

「いえ、お時間を頂きありがとうございます」
「ご丁寧に、やはり噂に違わぬイギリス紳士さんね」

レディリーは右手で不躾に頬杖をつき、悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「あなたのプロジェクトにエンデュミオンを使いたい、そういう話だったわね」
「はい」

「送っていただいた提案書は読ませて貰ったわ。
雪広や関連企業、関係する政府機関、
夢想的でありながら芯となる計算は確かで企業人として見ても魅力的な内容。
我が社のプレゼンにも十分耐え得る内容だわ」

「有り難うございます」
「ふふっ、その無邪気な笑顔でどれだけの乙女を死地に赴かせたのかしら?」
「感謝しています」

ふふっと小悪魔の笑みで抉って来るレディリーに、
ネギはさらりと、しかし正面から答える。

「実際、今このタイミングで宇宙エレベーターを完成させた以上、
あなたのプランにおいてエンデュミオンの利用は避けて通れない。そういう事ね」
「はい。是非御社の協力を頂きたい」

「そうね、今も言った通り、我が社にとっても魅力的な提案。
現時点で断る理由は見当たらないわね。
あなたのプラン、それはあなたがあなたを慕い信頼する幾人もの乙女達と共に、
その命を懸けて入口を開き、そして一代では済まない年月を掛けて実現に邁進しているもの。
この理解で正しいのかしら?」

「その通りです」

薄く笑みを浮かべて尋ねるレディリーにネギはしっかりと返答する。

「知られている事に毛程の動揺も見せないのね」
「オービット・ポータルの代表が僕を直接指名しての会談です」
「知らないと考える方が間抜けと言う事ね。確かにその通りだわ。
気が付いているんでしょう?
あなたがその気になれば今すぐにでも本物の木偶人形になるのだと」

レディリーは、右手を秘書が控える後ろに払って言った。

274: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/08(月) 04:26:35.08 ID:VXsFjgbe0

「そうですね」

ネギの答えは、曖昧な微笑と共に発せられた。

「オリオン号事件」

ネギのその言葉にも、レディリーの口元には面白そうな微笑が浮かんだままだ。

「オービット・ポータル社は、あの事件で経営危機に陥りながら、
宇宙エレベーターエンデュミオンの開発主体としてその成功に漕ぎ着けた。
その過程で経営再建のために巨額の出資を行い経営権を獲得したのが
あなたが率いるファンドだった。そういう事ですね」

「特に間違ってはいないわね。一夏で一つの世界を救った英雄と、
少しは肩を並べる事が出来ているかしら?」

「弱冠十歳の天才経営者、尊敬に値します」
「只のお人形かも知れないわよ。天才で通じる学歴ぐらいは本物かも知れないけど。
インターネット上では私は宣伝用のお人形かホログラムなのだそうよ」
「お人形さんみたいに綺麗で可愛らしいですから」

「流石、素で言ってくれるのね。
あれだけの麗しい軍団、ハーレムを率いる雄々しいリーダーだけの事はあるわ。
気を付けなさい。あなたみたいなハンサムが素でその有様じゃあ、
いつ刺されてもおかしくないわ」

レディリーの言葉に、ネギがくすっと笑みを浮かべる。

「…どうやら、私が言う迄も無かったみたいね。
そこまで優しく懸念して裏でメラメラ嫉妬してくれるお姉様にも恵まれたみたい」
「ご明察です。本当に人に恵まれました」

「あなたの場合、せっせと種を蒔いて耕して収穫しているのよ、自分でも知らない内に。
そう、お褒めにあずかって光栄の通り私はお人形だとしましょう。
天才ゴスロリ美少女社長、普通に考えるなら胡散臭さが先に立つ。
最早生物学的なレベルでそんなの良くて専門馬鹿常識的には只のマスコットじゃないかしら?」

「僕は、それは無いと思います」
「そう?どうして?」
「勘です。今こうして目の前にした」

275: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/08(月) 04:29:59.94 ID:VXsFjgbe0

「実に非論理的ね。
これから学園都市でスーパー宇宙工学レベルのプロジェクトの話をすると言うのに」

会話をしながらネギは、良く似た雰囲気、パターンの相手を知っている、
と言う内心の言葉をさらりとカモフラージュに包み込む。

「だけど、その程度の勘も働かないなら、今頃とっくに終わってるわね。
大体、あなた自身の年齢と実績と言う存在がとうに常識の限界を突き抜けている」
「つまり、あなたが僕を英雄と呼んでくれるのなら、
あなたは本物だと言う事になります」

「有り難う、と、お礼を言うべき所なのかしらね」
「あのエンデュミオンを完成させるためには、
資金力があったとしても、オリオン号事件から今に至るまでの時間をフルに使っても
本来ならばとても足りない。あらゆる意味での超人的な働きがあってこその奇蹟の成果です。
超人的な奇蹟と言う前例は過去に幾つもありますが、それでも時間には絶対量があります」

僕もその辺相当無茶をしました、と言う本音は呑み込む。
そんなネギを、片方の頬杖をついたレディリーは面白そうに眺めている。

「オリオン号事件から今に至るまで、エンデュミオンの開発計画、
一体誰の指示で行われたんですか?」

ネギが尋ねた時、ネギもレディリーも真顔だった。

「あなたは、交渉相手の社史も読めないのかしら?
何なら社史編纂室にでもご案内しましょうか?」

「ハンコを押した人間なら把握出来ます。
それはこちらも同じです。少なくとも表向きのハンコを押した人間の事はですね」
「そう言えばそうだったわね。一応私はポジションを得ているけれども、
お互いお子様経営者と言うのは大変ね。だから、英雄も今の所は黒幕に落ち着いている訳ね」

「元々が裏の仕事ですから。ですけど、エンデュミオンに関しては、
設計図を書き上げ着工させて完成までのあらゆる問題を解決する。
少なくともこの短期間で完成させるためには、
それら諸々の事を一貫して一つの流れとして把握していた人間がいる筈です」
「つまり、この計画にも黒幕がいる、そう言いたい訳かしら?」

「ある要素を抜きにするならば、最も合理的な予測は簡単に出来ます。
結局の所、あなたが三年に渡る絵図面を書いて、
色々とカモフラージュ要素を織り交ぜながらあなたの手元に行き着く様に操作していた」

276: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/08(月) 04:33:11.71 ID:VXsFjgbe0

「私が三年前から」

言下に、「面白い事を言うわね」と言う表情をレディリーは作っている。

「もちろん、そこが最大のネックになります」

そう言って、ネギがドリンクのストローに口を付ける。

「こうは考えられないかしら?」
「何でしょうか?」
「そもそも、今の私がオービット・ポータル社を代表している、その事が非常識極まりない話。
最初から常識が通用しないのであるならば、別に三年ぐらい遡っても構わないと」
「そうなんですか?」
「どうかしら?」

素直に尋ねるネギに、レディリーは今度こそ面白そうな含み笑いを浮かべた。
紳士と淑女は、完璧なスマイルと共に心の中で剣を鞘に納める。
そして、レディリーは一枚のカードをネギに渡す。

「お土産よ」
「これは、関係者パス?」
「これから、ここのホールでちょっとしたコンサートがあるわ。
奇蹟の歌姫鳴護アリサ、エンデュミオンのキャンペーンガールよ。
これをスタッフに見せたらいい場所に案内してくれる」

「有り難うございます」
「名残惜しいけどそろそろ時間だわ。コンサートも始まる」
「そうですか」

潮時と見て両者が立ち上がり、ネギがテーブルを離れた。

「その手で全てを、世界をもつかみ取れる程の強き英雄。
奇蹟の歌姫の加護をどう見るかしらね?」

277: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/08(月) 04:38:10.46 ID:VXsFjgbe0

 ×     ×

ショッピングモールの吹き抜けホール。
そこに設営された特設ステージ周辺で、
ネギ・スプリングフィールドは聞き入っていた。

可愛らしいマスコット・ガールズを従えた歌姫、鳴護アリサ。
歳は普段教師としてネギと縁のある女生徒達よりやや年上らしいが、
ステージ上の彼女は実に活き活きとしていた。
そんなアリサの歌は、歳の割りには色々と経験値の高過ぎるネギでも
そうそう体験できない程に素晴らしい。

素晴らし過ぎるからこそ、ネギは熱狂の中ですっ、と、目を細める。
それは、心に響く感触だった。
歌が心に響く。物の例えではなく、本当に響いている様な感触。

魔法使いだからこそ怪しむ。だが、魔術の気配はしない。
例え科学的なものだったとしても、直接的な干渉術であればネギ程の魔法使いが気付かぬものではない。
だとすると、結論は、本当にそんな感覚を覚える程に素晴らしい歌だと言う事。

改めて思う、素晴らし過ぎる。
この鳴護アリサを手に入れたのがレディリー=タンクルロードなのだとしたら、
そこに何かの意図があるのか、そこまで疑いたくなる。

(…あれは…)

ふと、一般観客スペースを見たネギが見知った顔に気を止める。
次の瞬間、彼の歴戦の勘が鋭く働いた。

(この震動?…)

「!?」

地響きに先んじて、ネギはバランスを取っていた。

「ああっ!」

ネギが、とっさに一般観客スペースの吹寄制理に向けて一筋の風を放つ。
風は、吹寄にぶつかるとそのまま彼女を取り巻き、落下して来た破片を弾き飛ばした。

278: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/08(月) 04:41:30.03 ID:VXsFjgbe0

「わっ!?」

気が付いた時には、吹寄の体は誰かに抱き付かれる感触と共に跳躍していた。

「君っ!?」

一瞬だけ見たのは、先ほど表で出会った白人の坊やだった。
自分がいた辺りから響く嫌な音は聞かなかった事にする。

「失礼っ」
「うぷっ!」

吹寄の視界がぎゅっと押し付けられるネギの胸で埋められた。
やはり外国人、何やら口から漏れるぶつぶつと呟く言葉が吹寄に聞こえる。
そのネギの視線はステージ上に向いていた。
ステージ上では、短髪のマスコットガールが鳴護アリサを庇う様に抱き付いている。

「ラ・ステル・マ・スキル・マギステル…」

パニックに乗じて、ネギはとっさに撃てるだけの光の矢を飛ばす。
それは螺旋を描いてアリサの頭上へと吸い込まれ、落下する照明や鉄骨の破片を人の頭上から回避させる。

「くおおおっ!」

丁度友人である本人から頼まれ、長谷川千雨一派の事は伏せて付き人として同行し、
行きがかりでマスコット・ガールまでやらされて
恥ずかしい事この上無かったがこの状況では本当に良かった。

と言う訳で、同じくマスコットをしていた佐天涙子、初春飾利が
こういう時は本当に頼もしい車椅子で待機していた白井黒子の手で避難したのを見届けた御坂美琴は、
アリサを抱え、頭上から落下する鉄骨を大出力の電磁バリアで回避する。

その鉄骨が弾かれている時、ネギは左腕でぎゅっと吹寄の頭を抱えて目くらましをしながら
右腕でもう一度光の矢群を鉄骨の上からの落下物に飛ばしアリサの周辺へと落下点を散らす。
だが、それでも、数が多すぎる。ネギにしても周囲に人が多すぎて、
まずは目の前の吹寄の目をごまかす都合もあって全力の何分の一も力を使えない。

((全部は無理っ!))

279: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/08(月) 04:45:03.91 ID:VXsFjgbe0

「もがもがもがっ!」
「あっ!」

ネギは慌てて左腕を緩めると、衝撃に顔が揺れた。

「つーっ、何をしている貴様あっ!」

こちらも、逃れた拍子に硬い感触に襲われたおでこを押さえ、
立ち上がった吹寄制理が相手を忘れたかの様にいつものペースで叫ぶ。

「全く…!?」
「あっ、ごめんな…うぶぶっ!?」

ハッと上を見た吹寄は、
今度は自分が目の前の男の子をぎゅっと抱き寄せて力一杯その場を駆け出す。
自分のいた所に落下する鉄骨を見て、吹寄は目を丸くしながら恐怖に震えた。

「ぶはっ!あ、あのっ…」

両者立ち上がり通常の背丈となった状態のために、
吹寄の両腕で頭を力一杯胸に抱かれる形となったネギが、
緩んだ腕を逃れようやく顔を上げて塞がれていた呼吸を取り戻す。

言いかけてステージに目を向けたネギが呆然と立ち尽くし、
一旦そのネギに視線を向けた吹寄もネギに視線を合わせて目をばちくりさせる。
ステージ上では、御坂美琴が「助かったの?」と言った表情で唖然としていた。

「あっ、大丈夫ですかっ!?」
「う、うん、貴様、君が助けてくれたんだな」

言いかけて吹寄が目を見開く。

「私は大丈夫、友達がっ!」
「えっ!?」

ネギが吹寄のいた辺りに視線を走らせると、
吹寄と同年配のセーラー服姿の少女がばっ、ばっと胸を押さえて狼狽していた。
綺麗な黒髪を伸ばして淡い一重の顔立ちの、ネギから見て丸で日本人形を思わせる少女だった。

しかし、ネギが目を見開いたのはその斜め後方の光景だった。
丸で金色の矢の如く、金髪をなびかせるどころか金色に輝きながら、
この状況をガン無視してその少女に向けて凄まじい勢いで突進して来る存在がネギの目を捕らえる。

280: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/08(月) 04:50:16.57 ID:VXsFjgbe0

「大体君は…へ?」

吹寄が気付いた時には、側からネギの姿が消えていた。
そして、常人の目には届かない勢いの金色の矢にタックルしていた。

「何をしているんですかっ!?」

この二人でなければこの時点で大ケガをしている
瓦礫だらけの地面で、小声で叫ぶネギとエヴァンジェリンがもつれ合っていた。

「ちょうどいい、ぼーや、私をしっかり抑えて組み伏せていろ!」
「は、はい」

珍しく焦燥するエヴァの様子からして、ただ事ではないと見て取ってネギは従った。

「もうすぐだ、3、2、1で私から手を離せ、
もうすぐ麻帆良への強制召還魔法が発動する」
「はあっ?あの、このままここから消えるつもりなんですかっ!?」
「仕方が無かろう。経験と知識で辛うじて理性は、
だから肉体が、3、2、1!」

エヴァの姿は、ぷつんとかき消す様に消えていた。

「皆さーん、ジャッジメントですのっ!」

ようやく、公的機関の救助が始まった様だ。
腕で汗を拭ったネギが立ち上がり、吹寄の姿を探す。
吹寄はどうやら先ほどのセーラー服の友人と合流したらしい。
吹寄の前で、ようやく見付けた落とし物を足下から拾い上げてほっとしている。

吹寄と合流しようとしていたネギはふと足を止めて向きを変えた。
どっち道、騒ぎに巻き込まれるのはまずい。
ショッピングモールを出たネギは、表通りで見付けた電話ボックスに入った。

「もしもし…はい、確認していただきたい事が…」

284: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/12(金) 04:09:23.16 ID:2rOlLayh0

 ×     ×

佐倉愛衣のお見舞い兼打ち合わせを終えた長谷川千雨等の一行は、
適当にどこかで打ち合わせようかと場所を探して通りを歩いていた。
その様な中、千雨は携帯電話の震動に気付き、手に取る。

知らないメルアドからの着信、元々やたらとメール交換をする性格でもない千雨は、
迷惑メールかと思いつつ一応覗いてみる。

村上夏美はぎょっとした。
携帯電話を手にした千雨の表情が一変し、
目を見開いた千雨はどこかに電話を掛け、会話無しで電話を切ってからメールを送信する。
それから、心配そうに千雨を見ていた夏美に携帯を投げ渡し、
自分は電話ボックスに入ってノーパソを接続する。

「おいっ!?」

後ろから覗き込んだ小太郎が声を上げ、夏美も震え出す。

鳴護アリサのイベントが行われていたショッピングモールで大規模崩落
鳴護アリサは無事

 ×     ×

ショッピングモール周辺に設置された仮設テント内。
コンサート会場からそこに入った初春が、携帯電話を置いてパソコン操作を再開する。

「初春ー」

そこに、佐天、美琴、黒子が現れる。

「どう、初春さん?」

美琴が尋ねた。

285: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/12(金) 04:14:38.80 ID:2rOlLayh0

「当然アンチスキルの仕切りになってますけど、これは事件ですね」
「だよね、事故って崩れ方じゃなかったし」

初春の言葉に美琴が同意する。

「只、アンチスキルの初動捜査も余り上手くいっていません」
「どういう事?」
「初期段階で民間の防災部隊が救助名目で大量投入されて、
アンチスキルの捜査を事実上妨害したんです」
「………だから………じゃんよっ!!」

それで十分だった。ここからでも、その苛立った口調が聞こえてくる。
かと思うと、黄泉川は鉄装を呼び寄せ肩を抱いて何やら指示を出す。

「防災部隊も、統括理事会からの認可で一定の権限を認められています。
警備部隊、それを雇っているショッピングモール自体がオービット・ポータル社の資本ですね。

アンチスキルに対してオービット・ポータル本社の法務部が出て来て折衝していますが、
人命救助優先の現場の判断と言う事でアンチスキルもその辺は強くは言えません。

それでも、最初の段階で土建屋レベルのレスキューが大量投入されて
解体し直す勢いで動いた結果、少なからぬ証拠の散逸が発生しています」

初春の言葉に黒子が額を抑えた。
一応大型災害であり話の筋が通っているが、どうも色々ときな臭い。
大体、それ程の部隊がアンチスキルに先んじて即応した時点で怪しい。

中学生の身ではあるが、それでもジャッジメントだ。多少なりとも汚い話を見聞きする事もある。
それは、実質上部団体であり教師である筈のアンチスキルに関してもしかりだ。
露骨なものではないにしても、話が通る、通らないと言う事は耳にしないでもない。

 ×     ×

愛衣は、検査中別に置いておいた携帯電話が放つ光に気付き、携帯を手にする。
一通りの検査を終えた愛衣は、トイレに入り個室で携帯を確認する。
個室を出てから鏡の前で頬を叩き、後ろ髪を巻きツインテールに束ねる。
既に、動きやすくどこにでもいそうな感じで白いTシャツにショートパンツを選んでいた。

286: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/12(金) 04:19:43.51 ID:2rOlLayh0

 ×     ×

「ああ、俺や」

科学の学園都市に急行した小太郎は、
半ば崩壊した地下施設で片膝をついて携帯電話を使っていた。

「間違いない、爆弾、それも高性能の化学爆弾や。
裏の仕事で嗅いだ事のある匂いや。ああ、分かった事があったら又な」

小太郎が電話を切る。

「そこで何をしている?」

それは、凛々しい女の声だった。

「両手を上げてゆっくりと立ち上がれ」

背後から聞こえる声に、小太郎はゆっくりそれに従う。

「あんた、ここにいたな?」
「何だと?」

「血の匂いや、大きいのと小さいの。
大きい方はちぃと無事に済ますのは難しい量やが、
小さい方はあんたのや。大体、事件があった頃合の乾き方や」

「冗談を言っている様には聞こえないな。嗅覚でも強化する能力なのか?」
「さあな。あんたこそ、こないな所で何してた?
まさかここ吹っ飛ばそうとして自分も巻き込まれたんか?」

振り返り、小太郎はニッと笑みを浮かべた。

「表にはまだ警察もいる、チャカぶっ放して大丈夫なんか?」
「心配は有り難いが、私は統括理事会の認可を受けた警備部隊に所属している。
立入禁止区域で不審者が抵抗逃走すると言うなら、褒められこそすれ問題は無い」
「出来るんか?シャットアウラ=セクウェンツィア」

地下道に銃声が響いた。

287: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/12(金) 04:24:54.75 ID:2rOlLayh0

「いい判断や」

小太郎の右手は、シャットアウラが左手で突き出したナイフの棟をしっかり掴んでいる。
最初から小太郎が拳銃弾を交わし飛び込んで来る事を前提とする動きだった。

「うっ!」

そのまま、銃把で小太郎を殴り付けようとしたのを逆用して、
握られた小太郎の左手がシャットアウラの右腕のツボを一撃し拳銃が落とされた。
それでも鋭く鋭く抉って来る足技も小太郎は交わして見せる。

判断は的確、表の世界では十分出来る方だと小太郎はシャットアウラを評価していた。
だが、性格も生真面目なのだろう。
まだまだ教科書通りから抜け出ていないやり方では、裏のやり取りには及ばないとも。

「しっ!」

小太郎の目の前で振られる筈だったシャットアウラの右手の指も完全に虚空を切る。

「ぐふっ!」

そして、小太郎の頭突きが実際女性の急所である胸を一撃し、
シャットアウラは息が詰まる激痛に体を折る。

「目摺りな、ちぃとはエグイの知っとったな。こっちも合わさせてもろたで」

そのまま、小太郎はシャットアウラの左腕もねじ上げて後ろに回る。

「自分には聞きたい事がある」
「ふざけるな、何も喋らないぞ」
「おーおー、いいねぇ、何つーか久々に悪役つーか、
ビリビリねーちゃんとかこないだから嫌われっ放しや」

「当たり前だ、ぐっ!」
「姉ちゃんの場合、あんまり遠慮すると却って失礼みたいやな。
あんたの名前はシャットアウラ=セクウェンツィアでいいんやな?」

小太郎の質問にも、シャットアウラは視線を斜め下に落としたままだ。

288: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/12(金) 04:28:00.45 ID:2rOlLayh0

「あんたに聞きたいのは…!?」

小太郎がシャットアウラをその場にドンと突き倒し、バッと飛び退く。
たった今まで二人がいた空間を銃弾がすり抜ける。

「くっ!」

拳銃に飛び付いたシャットアウラが遠くの柱に向けて発砲する。
そちらで人影が逃げ去る。

「待てっ!」

シャットアウラが人影を追跡し、小太郎は一旦近くの柱の陰に身を隠す。
シャットアウラが向かった方向から銃声が響く。
小太郎が物陰に入りながら注意深くそちらに近づく。

「逃げられたか…」

呟いたシャットアウラが一度拳銃をしまい、右手で左腕を押さえる。

「怪我したんか?」
「ふん、かすり傷だ…」

そして、歩き出した途端に転倒した。

「な、なんだ…」
「おい、どうした?」
「…つっ、これは、毒でも仕込まれたか…」

立ち上がろうとして上手くいかないシャットアウラに小太郎が近づく。

「お、おいっ!」

小太郎がシャットアウラの左腕の傷にかぶりつき、吸った血を吐き出す。

289: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/12(金) 04:31:05.39 ID:2rOlLayh0

「こりゃあ…」
「何をしているのかな?」

険しい顔をしていた小太郎が振り返ると、
いかにも場違いな修道服姿のちびっこシスターが近づいて来ていた。

「この間の子だね。この人は…怪我人?」
「インデックス言うんは自分か?」
「私の事を知っているんだね」
「血に石の匂いが混じってる。
そのまま体そのものが石になる、これを使う奴と組んだ事もやりおうた事もある」
「ぐ、っ」

インデックスが怪我の周辺を握ってみる。

「手持ちの道具を見せてくれるかな?」
「ああ」

小太郎が札を何枚か取り出した。

「これならいけるかも」
「ちょっと待て、こないだあんたが言うた通り、
俺はぶん殴る専門、補助出来る程度に覚えてる程度や」
「私が教えるんだよ。君なら出来ると思うけどやるの、やらないの?」
「分かった」

インデックスの迷いのない眼差しを見て小太郎も真面目に頷く。
インデックスが、落ちていた破片でシャットアウラの周辺の地面に紋様を描き、
小太郎が指示通りに札を置く。

「…オン・コロコロ・センダリ…」

インデックスに合わせて、小太郎が印を切り詠唱する。
その周囲では、狗神が伏せたまま低く唸り声を上げている。

290: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/12(金) 04:34:14.05 ID:2rOlLayh0

「…オン・コロコロ・センダリ…
オン・ガルダヤ・ソワカ・オン・ガルダヤ・ソワカ…」
「ぐ、あう…あああっ!」

「出て来るんだよ、蛇は火喰い鳥に食べられちゃうよ」
「オン・ガルダヤ………オン………
………バサラ………カン………!!」

急激に突き刺さる焼け付く様な痛みに、
横たわっていたシャットアウラが声を上げて魚の様に地面に跳ねそうになる。
だが、それでも堪えているのは、これが病巣を抉り出す痛みと言う予感があったからだ。
その側で、昔覚えた頭を絞って印を切っていた小太郎が相撲の仕切りの体勢を取る。

「おらあああっ!!!」

見える者には見える、シャットアウラの左腕からぐわっと現れたアナコンダ以上の大蛇を、
小太郎の光る右腕が思いきり殴り付ける。

「とっとと去ねうらあああっ!!」

そのまま、とっ捕まえて傷口から引きずり出し両手で地面に押さえ付ける。

「あぶなっ…」

インデックスが言いかけた時には、くわっと大口を開けた大蛇の側で小太郎がひらりと飛び退いていた。

「させるかっ!」

傷口に戻ろうとした大蛇に向けて、小太郎が印を切ると共に
伏せていた狗神が殺到しあっと言う間にぺろりと平らげてしまった。

「こっつぉーさんってな。ご苦労さん」

小太郎が言い、狗神も姿を消す。

291: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/12(金) 04:37:26.98 ID:2rOlLayh0

「ま、狗神使いも本業やしな」
「大丈夫かな?」
「あ、ああ、何だか知らないが随分と楽になった」
「さてと、早速聞きたい事が…」
「とうまを見なかったかな?」
「何?」

割り込まれた小太郎が尋ねた。

「とうまがいないんだよ。アリサのイベントで事故があったって、
とうまの事だから巻き込まれたとしか思えないんだけど、どこにもいないんだよ」
「あー、とうまってあのこないだ一緒だったウニ頭か?」
「そうなんだよ」

「それなら病院に運ばれてる。主治医がいると言っていたからな、
救急のラインからは外れているのだろう」
「ありがとうなんだよ!」

調伏の終わりの方の記憶が激痛と共にほぼ無くなっていた、
未だどこか朦朧としたシャットアウラの言葉を聞き、インデックスがトテテと動き出す。

「インねーちゃん」
「何かな失礼な狗族の坊や」
「術式はギリシャ、それも古い奴か?」

真剣な眼差しが交錯してインデックスが頷く。

「もう少し洗練された術式を予想していたんだけど、
私達の魔術に対する反応が信じられないほど荒々しいのに効力は決して悪くなかったんだよ。
調伏に手一杯で詳しい分析までは無理だったけど、
近代以降では滅多に実用されないレベルの古典術式だと思うんだよ」

「有り難うな」
「君、やっぱり筋がいいんだよ。
ちゃんと系統立てて勉強したらモノになると思うんだよ。でも…」
「ん?」
「君が自慢する通り、体術の方が得意みたいだから、
魔術との両立は難しいかも知れないけど…」

その言葉を聞き、小太郎がニッと笑った。

292: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/12(金) 04:42:40.42 ID:2rOlLayh0

「そう聞かされたら退けんなぁ」
「負けず嫌いなんだね」

「ああ、そう聞かされたらなぁ。
俺は、その「難しい」を超えな、そこに追いつけんさかい」
「そう。なんだか知らないけど目標があるんだね」

「ああ…けど、一番凄いのはあんたや」

小太郎の口調は真面目なものだった。

「あんた、イギリス清教のシスターやろ。
インデックス、禁書目録、ちぃとは聞いてたけど、
俺らんトコでも関東と関西でこないだまで角突き合わせてたのに、
シスターがあんな本式な調伏でギリシャの蛇をねじ伏せるて
無茶にも程があるわ」
「それを実行した術者の素質もあるんだよ」

全く、純粋だからこそ食えない笑顔、どうにもかなわないと小太郎は肩を竦める。

「なあ」
「何かな?」
「あのウニのあんちゃん、いい漢やな」
「そうなんだよ」

輝く様な笑みを見せてトテテと立ち去るインデックスの傍らで、
シャットアウラの美しく謹厳な顔が年相応に綻んでいた事に
気付く者がいなかったのは実に惜しい事だった。

「さぁて、いい加減あんたには聞きたい事が」
「たいちょーっ!」

立ち上がり部下に応答して周囲を見回したシャットアウラは、
瞬時に消えた気配にふっと笑みを浮かべた。



次→長谷川千雨「鳴護アリサ、って知ってるか?」 その2

長谷川千雨「鳴護アリサ、って知ってるか?」
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1368805523/)