294: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/13(土) 01:15:40.60 ID:XofIAWJd0

 ×     ×

「つまり、そのまま逃走して来たって事か?」
「ああ、そういう事や。あの程度ならシメて話聞いても良かったけどな」
「やめろ、相手は科学の学園都市の認可部隊だ。
そんだけ目立った上に本格的に敵に回すな」

「ほな、いっぺん引き揚げるわ。
これ以上いても夜間外出自体が厳しいしなぁ」
「分かった、急ぎにしちゃあ十分収穫だ、有り難うな」

葉加瀬の研究室で、千雨が携帯電話を切る。

「禁書目録の見立てもギリシャの古典術式ですか」

その側で、夕映が捻った親指と人差し指で顎を掴む。

「じゃあ、やっぱりそういう魔法使いが関わってるって事だよね」

夏美が言う。

「くくっ」

そして、続けていたパソコンの操作に没頭していた千雨が、喉から笑い声を漏らした。

「長谷川?」

夏美が声を掛ける。

「相変わらず科学の学園都市の情報統制は厳しい。
こんだけネットが発達してあんだけ大っぴらに色々やっていながら、
外から普通のやり方じゃあろくな事が分からない」
「しかーしっ、その程度の情報制御、我ら電子精霊七部衆の手に掛かれば…」

「こんだけの事件でありながら死傷者ゼロ。
色々情報錯綜してるけど、どうやらこの結果もマジらしい。
上条当麻だけが病院に担ぎ込まれたらしいがな」

関連作品
長谷川千雨「鳴護アリサ、って知ってるか?」 その1

002

295: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/13(土) 01:32:33.45 ID:XofIAWJd0
「良かった、アリサも他の人も無事で」
「ああ、良かったよ」

素直に反応した夏美に千雨が言う。

「ああ、良かった、本当に良かった。鳴護アリサの奇蹟の歌」

棒読みの喜びの言葉の後で、千雨が付け加える。

「くくっ、くくくっ、あははははははははっ」

それは、椅子にこそ掛けているが反っくり返った、
丸で最後に見破られて地べたに座り込んだ死神ノートの使い手の様な、
つまり、どこか狂気じみた笑い声だった。

「はせ、がわ?」

「鳴護アリサの奇蹟の歌だってさ。温い、実に温い。チャチな事してくれるぜ。
まあ、少しはやり方心得てる、
一般人相手なら余裕で騙せるレベルだけど相手が悪かったな。

さり気なく、しかし着実に、そしてとてつもない質量を、
そうやって麻帆良学園都市の対抗措置を凌駕してネット世論を掌握した
学園祭の茶々丸を知ってる私から見たら駄目だな、全然駄目だ」

「それって…」

「ああ、高度な電子戦って奴さ。
いや、あの時みたいなカウンターがいないんだ、電子戦ですらない一方的蹂躙か。
奇蹟の歌姫鳴護アリサ。今回の事に乗じて、
誰かが意図的にアリサを奇蹟の女神に祭り上げようとしてやがる。
ネット上でも玄人以上の巧妙さで工作が為されてる。
一見自然発生的に偽装されているが違う、
いや、相当数は見たままありのままを伝えてはいるが、
最初っからそれを上手に利用して意図的に誘導してる奴がいる」

296: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/13(土) 01:38:05.92 ID:XofIAWJd0
「ちょっと待って!」

千雨の解説に夏美が叫ぶ。

「ちょっと待って、それじゃあコンサートが爆破されたのって…」

それに対する千雨の眼差しを見た時、夏美は握った拳を震わせていた。
その側で、千雨は吐き出す様に言う。

「ふざけるなだ」

千雨が操作したパソコンには、ファンの隠し撮りらしい一枚の写真。
それを見て夏美が呟く。

「御坂、美琴さん?」
「約束、守ってくれたんだよ。命懸けでな」

 ×     ×

科学の学園都市にとんぼ返りした愛衣は、ショッピングモールの周辺にいたが、
流石にまだアンチスキルの警戒があって容易には接近出来ない。
それでも、様々な周辺観察から、
ここに来る迄に見たテレビニュースとはかけ離れて、
これが明らかに只の事故では無い事だけは把握出来た。

そうやって、現場周辺を歩き回る内に、愛衣はぴたりと足を止めた。
黒いフードを被ったローブ姿の人物とすれ違ったからだ。
その相手には、二つの意味の匂いがあった。

一つは、いわゆる雰囲気としての匂い、そしてもう一つは文字通りの意味での匂い。
どちらも微かなものであるが、ここで嗅ぐのは問題がある、
魔術師の匂いでありその材料の匂いだった。

297: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/13(土) 01:43:24.48 ID:XofIAWJd0

 ×     ×

「アデアット!」

とっさにオソウジダイスキを呼び出した愛衣は、その箒を右手に握り間一髪浮上した。
今まで自分が踏みしめていた足下には、ぼこっ、ぼこっと絡み付く様な土の塊が盛り上がっている。

「風楯っ!」

愛衣が左手で張った防壁が、前方から吹き付ける強力な暴風を断ち割って愛衣の左右に受け流す。
その暴風は、愛衣が追跡していた黒いローブの相手が扇子を一振りして巻き起こしていた。
どうやら、嫌になるほど単純なトラップに引っ掛かったらしいと、
愛衣は自分の馬鹿さ加減を痛感してしまう。

既に日の落ちた時刻とは言え、この市街地の公園にしては不自然な人の気配の無さ。
相手がこの相手では、つまり用意した場所に誘い込まれたと見るしかない。
果たして、少し離れた場所の噴水から相変わらず水柱の椅子に乗ったメアリエが姿を現し、
水の大蛇が愛衣に向かってぐあっと伸びてきた。

「メイプル・ネイプル・アラモード!…」

それを、出力的に対抗出来そうな火炎魔法で迎え撃ったものだから、
轟音と言うべき音と共に、辺り一面が霧に包まれた。
とにかく、このまま脱出するしかない。

あの三魔女の実力は前回にもある程度把握していたが、
一対一ならとにかくそれがまとめて、しかもチームプレイで来るとなると、
並以上程度の愛衣がまともに対抗するのは危険過ぎる選択だ。

「くうっ!」

しかし、一瞬で霧を吹き散らした程の強風が空中の愛衣から敏速さを奪う。
とうとう文字通り吹き飛ばされた愛衣が空中で体勢を整えようとするが、
その暇は与えられず、

「!?」

太い水の紐が愛衣の体を捕らえ、絡み付いていた。

298: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/13(土) 01:48:54.62 ID:XofIAWJd0
「がぼがぼがぼっ!!」

そのまま、愛衣は水の紐に力ずくで噴水に引きずり込まれ、
噴水の池の中に沈められる。

「麻帆良学園の佐倉愛衣さんですね」

そんな愛衣に、水柱に乗ったメアリエが見下ろしながら尋ねる。

「聞きたい事があります」
「随分と手荒な質問ですね」
「最初から素直に答えてもらえる内容でもありませんから。
である以上、最初に立場を理解していただきます。こうやって」
「がぼがぼがぼっ!!」

引きずり込む力が緩み、顔を上げていた愛衣だったが、
にょきっと伸びた巨大な水の腕が愛衣の後頭部を掌で水の中に向けて押さえ付ける。

「今回の件に就いて、麻帆良はどの程度まで把握しているのですか?
どの程度の規模で行動していて拠点はどこですか?」

「げほっ、それは、八千人の部下が…がぼがぼがぼっ!!!」
「私達が日本の人気コミックに精通していないとでも思っていたのですか?」
「その割りには冗談が通じないですねごぼごぼごぼっ!!!」

かくして、息も絶え絶えの有様で愛衣の顔は上半身ごと水から引き揚げられる。

「そろそろ喋りたくなったでしょう…!?」

愛衣を拘束していた水の紐が音を立てて切断される。
そして、愛衣は池の中を駆け出した。

「ぐ、っ」

だが、すぐに池の水が流れ出し重い抵抗を生み出す。
力加減一つで簡単に足をすくわれ、転倒する。

「アーユーフーリッシュ?一度水に入って私から逃れようなどと」

池から湧き出す逆U字の水柱で池の中の愛衣の背中を押さえ付けながらメアリエが言い、
池の畔でそれを覗いている仲間二人共々笑みを浮かべる。

299: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/13(土) 01:51:59.62 ID:XofIAWJd0
「ぶはっ…ぶぶぶ…」

圧力が消え、立ち上がった愛衣の姿は、
次の瞬間には直径一メートルを超えて屹立する水柱のど真ん中に立たされていた。

 ×     ×

「全く」

公園内の、少し離れた木立の中で、ステイル=マグヌスは一服付けていた。
勝手に弟子と言いながら相変わらず先走って勝手な事ばかりをする連中だ。
だからと言って、今の所止める理由はない。

元々、ネセサリウスはその任務の大半を暗殺が占める、
中世風の異端審問にも磨きを掛けた紛う事無き裏の部署。
そして魔術師は我が儘な存在、組織に属していても簡単に組織に縛られるものではない。

自分達のやり方で成果を上げているのなら下手に止める必要は無い。
そんな事をしていてはこちらに火の粉が飛ぶぐらい面倒な存在なのが魔術師と言うものだ。
佐倉愛衣も裏の世界に関わりを持って仕事をしている以上、覚悟があっての事だろう。

「えっ、えほっ!」
「今から水を飲んでたら保ちませんよ」
「はわわわっ!」

ばしゃーんと崩壊した水柱の真ん中で胸を押さえて体を折っていた愛衣が強烈な浮遊感に悲鳴を上げる。
奇っ怪な形の太い水の腕が、手掴みにした愛衣の足首を持ち上げている。
そのまま、逆さ吊りに持ち上げられた愛衣の頭が池に沈められる。
二度、三度、何十秒もの間頭を沈めては、
水滴滴る巻きツインテ髪の先が水面スレスレになるまで持ち上げる作業が繰り返される。

「どう?そろそろ喋る気になった?」

三人娘の中でも比較する迄も無くスタイル抜群のメアリエが、
水柱の椅子で悩ましげに脚を組みながら笑みを浮かべて言う。

「その気になったなら喋らせて下さいお願いしますって言って頂戴ね」
「ごぼごぼごぼっ!!」

今度は60秒きっかり頭が沈められる。

300: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/13(土) 01:55:33.23 ID:XofIAWJd0
「どう?そろそろ喋る気になった?
あなたは水には対抗出来ない、ましてここは私の術中。
所詮学校の学生、全部白状しますから命ばかりはお助け下さいって縋り付いて来ても
全然恥じゃないわよ」

「そうそう、ししょーの足下にも及ばない魔法使いなんて、
所詮私達の敵じゃないって訳よ」
「だからー、ダダ捏ねてるともぉーっときついお仕置きしちゃうんだからね」
「だから…っ!?」

愛衣の足首を掴む水の手に、愛衣の右手から火線が伸びる。
メアリエは瞬時に水柱を立てて愛衣を丸ごとその中に呑み込む。

「ぶはっ、げほっ…」
「本気で馬鹿?今のあなたに焼き切れる程私の術は甘くない。
その前に熱湯火傷で脚が死ぬだけよ。どうする?心が折れるまで続ける?
これだけでもね、あんまり続けて本当に折れちゃったら
結構再起不能でお部屋から出て来られなくなるわよ前例から言って」

愛衣を閉じ込めた水柱が音を立てて崩壊する。
メアリエは、僅かに怒気を滲ませながらも余裕を取り戻し、
改めて警告してから愛衣を唇まで水に沈める。
そして、逆さ吊りのまま高々と持ち上げた。
メアリエは、ひょいと水柱を降りてバシャバシャと愛衣に近づく。

「あなたも知ってるでしょう?イギリス清教の異端審問。
このまま水を胃袋に直結させたら(1)お食事ごとすっきり吐いちゃう事になると思うんだけど」

そして、丁度目の前の高さにある愛衣の腿を、
メアリエがキュロットの上から掌でぺたぺた叩く。
それを合図にした様に、残る二人も噴水に入る。

「お水が怖いのなら、
お空に吊したままで丸裸に剥いてあげましょうか?(2)」

301: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/13(土) 01:58:42.73 ID:XofIAWJd0

 ×     ×

級友、と、言う程ではないが、
互いに多少の覚えのある炎の魔術師として、
学校一つソドムとゴモラにしかけるぐらいには切磋琢磨した覚えはある。

あれから少々時間が経って、色々変わった事もあった。
幾度か相まみえた時にも、それだけの時の流れは確かに感じられた。
で、あるならば、些かの縁のある者として、
その成長をこの目で確かめると言うのも一つの定めと言うものであろう。

ステイル=マグヌスは煙草を携帯灰皿に押し込む。
全般的に、ネセサリウスの魔術師と最新科学との相性は良くない。
そもそも、あるレベルを超えた場合、科学と魔術の融合自体が
言わば彼らの「法」、「条約」として禁止されている。
そこが、麻帆良の魔法とは決定的に違う所であるが、今はそこには触れない。

とは言え、ステイル自身は科学の一端を小道具として、
あくまで科学を従として効率よく魔術を使う事は割と得意な方であり、
加えて、全くちんぷんかんぷんに等しい周囲の中では、
個人的に一般的な科学機材を用いるのは上手な方である。

従って、元々が調査業務も含まれている今回の任務に、
ステイルがこうして望遠機能付き高性能デジタルビデオカメラを持参していたとしても
さ程驚くべき出来事でもない。

302: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/13(土) 02:02:19.36 ID:XofIAWJd0
「ここなら超能力とやらの仕業にしてごまかす事も出来るみたいだし、
人払いのルーンを逆転して人寄せにして差し上げましょう」

メアリエがそう言っている間にも、残る二人の魔女は
目の前に吊された愛衣のそこここを面白そうにぺたぺたむにむにと手掴みにする。
見た目は明らかに愛衣よりも年下、無邪気故の残酷。
イギリス清教ネセサリウス異端審問の専門部隊、
何が心に痛いのかをよく知り、実行する事が出来る。

「最近の科学は携帯とかインターネットとか色々便利と聞いていますよ。
科学かぶれはそちらが得手でしたね、麻帆良の美少女魔法使いさんw」

ステイル=マグヌスは安堵する。
高性能かつ多機能である。使う機会が少なければ即座に必要な対応が出来ない恐れがあったが、
モニターには高性能の望遠、補正機能により、
求めた通りの距離感、アングルの映像が映し出されている中、
赤字のRECランプが無事点灯している。無論、電池残量等という初歩的なミスは無い。

「その1とその2、どっちにするか>>で決めるってやり方もあるみたいだけど
後々の展開上作者が困るみたいからそれはやめておきましょう」

メアリエがひょいと降下した水柱の椅子に戻り椅子が上昇する。
後の二人も噴水を出る。
愛衣の足首を捕らえた水の腕が又、ゆっくりと下がり始める。
その愛衣の、恐らく最後の強がりを浮かべる表情を舐める様に眺めて、
メアリエは実際に自分の唇を嘗める。

303: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/13(土) 02:05:59.45 ID:XofIAWJd0
夏の大事件以来、主導権を握った魔法協会と魔術、科学、政治、宗教、
表と裏のあらゆる勢力、権力が展開している政治、謀議、暗闘。

イギリス清教は裏でも表向きは魔法協会主導のプランに賛同し、静観の構えを取っている。
だが、腹に一物も二つも三つも、
魔物なんて生ぬるいものではないものを飼っているのは知っている人間なら分かり切っている事。

例え英雄を擁して圧倒的なスタートダッシュを決めた魔法協会相手でも、
こんなでっかく美味しい話、何れじわじわと総取りにかっさらいに掛かる。
そういう組織である事はメアリエの様な末端でも知っている。

ならば、裏と裏の暗闘で済むドサクサに、
末端でもちょっとは上にいるらしい魔法協会の手駒の一つや二つ、
完全に掌握しておくのも後々悪くない。

そしてメアリエは異端審問ネセサリウス所属の魔術師として、知っている。
心が折れる音も、その音がもたらす感触も。
そこそこ優秀な魔法使いと言う情報通り、大人し気だが芯の強いタイプ。
だからこそ、もうその舌の上に滴りそうなその甘美な心の悲鳴、
這いつくばって許しを乞う姿は、色々勃っちゃいそうなぐらいに上等と夢想できる。

「もう一回、頭冷やして考える?今度は三分?四分?十分?あ、死んじゃうか」

そう言いながら、愛衣の髪の毛に続いて額が沈んだ頭部がふるふる横に震えるのを眺め、
メアリエは腕組みして唇の端を歪める。
いける、恐らく頭の中では突っ張っているつもりでも、既に体が言う事をきかなくなっている。

「あんまり続けてると、私も疲れて事故とか起きちゃうかもね。
水の中に固定したまま解除の方法忘れちゃうとかスイカ割りの高さから全面解除しちゃうとか。
そろそろお鼻いっちゃうけど、お返事まだかしら?
又お口まで沈んだら五分ぐらい待たないといけないじゃない…」

309: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/16(火) 14:15:36.42 ID:kQlxazpP0

 ×     ×

次の瞬間、魔女三人組と佐倉愛衣は、
近くを通り過ぎた、それだけでも吹き飛ばされそうな衝撃波の方向に首を動かしてぽかんとしていた。

「なーんか、レーダーの反応がおかしいと思ったらさぁ…」

その衝撃波の出所を見ると、親指を上げた、制服姿の中学生ぐらいの少女の姿。

(人払いを抜けて来たのか?)

「もしかしてあんたらも別系統の能力者とか?
そういう反応、こないだ見たばっかなんだよね」

(学園都市の能力者か)

メアリエは嫌な汗を感じる。
雰囲気と言い先ほどの威力一つとっても、話に聞く学園都市の中でも高いランクが推察される。
それが、人払いの術式を突破し、魔術を知っている口ぶりで敵に回りそうな情勢。

310: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/16(火) 14:21:23.29 ID:kQlxazpP0
「只でさえ虫の居所悪いのに、能力使って随分ムカツク事やってんじゃない!?」

三人娘の視線のサインと共に、乱入した御坂美琴の足に土の筒が絡み付く。
だが、美琴は、それをブチ割って走り出していた。

「何をしているマリーベート!?」
「何か、中で変な反応がっ!上手く統一出来、っ!」

マリーベートと美琴の間で、地面が意味不明にぐにゃぐにゃ動き所々で破裂する。
焦って両手を地面に着いたマリーベートは気が付かなかった。
地面の表面に、そのマリーベートの両手に向けて黒い線が移動していた事を。

「ぎゃんっ!」

果たして、術を練る前にマリーベートの両手は地面から弾き飛ばされる。

「ひっ!?」

痺れる体を懸命に動かそうとしていたマリーベートは悲鳴を上げる。
その周囲では、次々と爆発する地面から丸で噴水の様にどす黒いものが噴出している。

「目と口を閉じなさい、死ぬわよ」

それは、ぞっとする程冷ややかな警告だった。
マリーベートの仲間にその敵である愛衣ですら、俗に言うドン引きだった。
マリーベートを巻き込んだ黒い竜巻が収まると、
彼女達の前で、マリーベートの頭部は見た目一回りも大きなボーリングの球と化している。

「えっ、ええっ、べっ、べっべっ、べっ!…」

球状の砂鉄がバカンと割れて、膝をついて懸命に口を動かすマリーベートの前に、
エクスカリバーの如く細長い三角形の鉄片が勢いよく降下して地面に突き刺さり、
そこでバラバラと砂鉄に戻り砕け散る。

「あ、あああ、あ…」
「どう?息の根止められた感想は?それも自分の武器で?」

その返答は、心理的に筋肉が意思から完全に遮断された下半身と、
冷ややかな言葉と共にマリーベートにアイアンクローをきめた
美琴の掌に触れる液体が十分に物語っている。
むしろ、そのまま昏倒するだけの電撃を食らった事が幸せだった程である。

311: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/16(火) 14:26:36.37 ID:kQlxazpP0
「このおっ!」
「くっ!(風力使いっ?)」

怒気を露わにしたジェーンが扇子を振るい、美琴の背中は近くの街灯へと突っ込んだ。
激突したと見たジェーンは、手を緩めず風を跳ね上げて、美琴の体を上空へと弾き飛ばす。

「他愛もない」

パチンと扇子を閉じたジェーンが鼻で笑って落下を待つ。
グロ画像は見たくもないし面倒なので、
取り敢えず降りて来たら地球接触寸前に吹き飛ばして
マリーベートの分まで精々人間ジャグリングを楽しませてもらうつもりだ。
果たして、美琴が真っ逆さまに墜落して来る。

(そろそろ…!?)

扇子を開いてタイミングを伺ったジェーンが目を見開いた。
その時には、軌道を変えた美琴の額が一直線にジェーンの額に激突していた。

「ちぇいさぁーっ!!」

目から星が飛び出した感覚が収まる暇も与えられず、
空中でひらりと体勢を立て直し着地した美琴の回し蹴りがまともに炸裂して
ジェーンの体が物理的に吹っ飛んだ。

「素直に吹っ飛ばされたから油断してたでしょう。
あんたに一直線に一撃出来る様に微調整してたんだけどね。
背中だって本当は街灯にぶつかる前に反発しといたし」

よろりと半身を起こして扇子を振るおうとしたジェーンは、
電撃込みのイナズマ走りで間合いを詰めた美琴に、
人間スタンガン機能付き裏拳を頬に叩き込まれて今度こそ昏倒した。

312: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/16(火) 14:31:56.26 ID:kQlxazpP0
「浮かべっ!!」
「!?」

愛衣の聞き慣れた声と共に、
噴水の池の水がどっぱぁーんっと大音響を上げて爆発した。
拘束が緩んだその一瞬に、愛衣は力を振り絞って上昇気流を巻き起こす。
だが、不完全。空中でわたわたと整えようとしていた体勢が不意に安定する。

目に入ったのはずぶ濡れの黒髪。
気付いた時には、池の中に立つ犬上小太郎に、
太股と背中を下から支えられる形で抱え上げられていた。

「こ、こここっ、ここ、あうあうあうあう」

今の自分の体勢と、髪の毛もお肌も白いTシャツも茶色のキュロットも何もかも
たった今水の底から引っ張り出されたそのままの有様を見比べて、
愛衣は冷え切っていた筈の体で焼ける様な熱さを顔に感じながら縺れる舌を懸命に動かそうとする。

「は、ははは、力ずくでウンディーネを圧倒しましたか」

余りの馬鹿馬鹿しさに笑うしかないメアリエが大揺れした水柱を修復しながら言った。

「いやいや、大した事あらへんて。
ほんまに凄いおっさんやったら、今頃この池全部十メートルぐらい噴水して、
あんた逆さ吊りでパンツ引ん剥いて匂い嗅いでる所やさかい」

そう言った時には、小太郎は愛衣を立たせてから札を水に沈めていた。

「ヴァーリヴァンダナッ!」
「!?」

小太郎の詠唱と共に、水柱に乗ったメアリエに向けて水で出来た大量の手が伸びる。

「…邪悪なる…逆らいし…ウンディーネ!」

全身を掴まれたメアリエの叫びと共に、その腕は水に還る。

313: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/16(火) 14:35:18.62 ID:kQlxazpP0
「き、さ、ま…」

怒りに震えるメアリエを前に、愛衣はぶるりと身を震わせる。

「ナ、メ、て、い、る、の、か?あの程度の、付け焼き刃の東洋魔法で
水の使役で私をどうにかしようだと?
余程、死にたい様だな。貴様がいるのは水の中、私のホームだと言うのに」
「そやなぁ」

それに対して、小太郎は頭の後ろで手を組んでのんびり返答する。

「何せ西洋魔術師でも使えるぐらいやからそうなんやろうな。
誰かさんにきちんと勉強せぇ言われたさかい、
丁度思い出したのやってみたかっただけやさかい。
どっちかって言うと、俺の専門はこっちやし」
「!?」

小太郎の拳が、ドカンと池の水に叩き込まれる。

「ふんっ、馬鹿の一つ覚えの馬鹿力…!?」

ばっしゃーんと上がった水柱を見たメアリエは、慌てて身を交わそうとしたが遅かった。
小太郎の叩き出した水柱から降ってきた黒いものがメアリエの視界を塞ぐ。

(あいつ、ウェアウルフ-人狼-それも使役者。
派手にやらかしている間に水中に待機させておいた、
鴨撃ち用の犬がいるぐらいだ。まして精霊であれば…!?)

その間にも、小太郎はどっかんどっかん池の中に拳を叩き込む。
そして、次々と噴出する水柱の上から、
既に先行組に押さえ付けられたメアリエ目がけて黒狗が次々と覆い被さっていく。

「やっ、やめっ、ひゃっ!?
お、おいっ、それを下げるなだから上げるなまくるな引っ張るな
ひゃうっ!や、やめっ、そこは、術式に集中ううっ出来いいいいっ
ああうっやめああっらめっそこはそこのっかったらあおうううっ
やめっらめ、なめらかられろれろらめぇ
らめらめっらめらめえええええええええっっっっっ!!!」

「ほな行こか、寒かったやろ」
「はい」

314: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/16(火) 14:38:53.97 ID:kQlxazpP0

 ×     ×

「何をやっている…」

苦り切った口調で呻いたステイル=マグヌスは、
高性能望遠デジタルビデオカメラをしまいこみ、ルーンカードを手にする。

そのまま池でお湯でも沸かすのかと言うぐらいに
全身ピンク色に湯気まで立ててほこほこと茹で上がり、
息も絶え絶えに舌を頬へと流しながらぷかーっと浮かぶメアリエの無惨な敗北は、
カメラのモニター越しにこの目で確かめてデータによる視覚的な再確認も可能であるが、
この展開はちょっとまずい、どころではない。

「でも小太郎さん、どうしてここに?」

「ああ、ショッピングモールの件で現場に行ってたからなぁ。
そしたら、愛衣姉ちゃんも来てたの分かったさかい、
ちぃと話でも出来ないか追い掛けてたんやけど、
誰か結界ぶち破ってくれたらしいな。それまでこの辺うろうろしてたわ」

「そうでしたか…!?」

とにかく、深呼吸して、これからの事に就いて
魔法使いとして相応しい対応をしようと思考を整えていた矢先、
愛衣はバッと呼び寄せた箒を振るっていた。
空中で、火炎波と火炎波が激突する。

「やはり炎を察知するのは早いか。面倒な…」

木立の中で、ステイル=マグヌスは当然苛立っていた。
麻帆良のみならず、よりによって高レベルの能力者まで絡んで来たとなると、
科学の学園都市側との暗黙の了解すら面倒な事になりかねない。
炎を飛ばして酸欠に出来れば上等だと思ったのだが、
こうなっては本気を出すしかないかも知れない。

315: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/16(火) 14:42:42.23 ID:kQlxazpP0
「おい」
「?………
………あーーーーーーーーうーーーーーーーーーーーーー………」

何かを察知した小太郎と愛衣と美琴は、
遠くから飛翔してきらーんとお星様になった何かが
ドッパーンと池に墜落するのに合わせて首を動かしていた。

「何か嫌な感じがするから敢えてジョギングコースにしてみれば。
陰でコソコソ見物しながら遠距離の不意打ちとは根性が足りんな」
「お、のれっ、
そもそも僕はこういう直接的な暴力、は…」

元の場所から遠く離れて誰に言っているのか分からない言葉を呟きながら
池の中で立ち上がろうとしたステイルは、
メデューサ、と言うよりはヒュドラとしか思えない黒い影が
我が身に被るのを目にしてそろそろと視線を上げる。

そこで目にしたのは、素晴らしいおみ脚だけなら良かったのだが、
ヒュドラだろうがケルベロスだろうがゼウスだろうがキャン言って
尻尾を巻いてダッシュで逃走する程の眼光が漏れなくセットでついてきていた。

「愛衣との連絡が付かないから探して来て見れば。
随分と丁寧なご挨拶を頂いた様ですね」

ご丁寧な返礼と共にぼきっ、と拳を慣らしていたが、
その背景はゴゴゴゴゴと禍々しいオーラだけでは無かった。

「あ、あーあー、ちょっと待ちたまえ、
高音・D・グッドマンさん?君、学園都市のど真ん中で黒衣の夜想曲を発動させるって事が…」
「ご心配なく。さすがは科学の学園都市、
この程度のサプライズは実験用ホログラムと言う事で納得いただける様ですわ」

ステイル=マグヌスの懸念を、
高音・D・グッドマンはエレガントな微笑みと共に一蹴した。

「と、言う訳で、[ピー]ね」

簡潔な命令と共に、大量の触手が突入した池がばっしゃーんと大波を上げる。
やぶれかぶれのステイルの火炎ルーン発動と共に一帯が霧に包まれる。

316: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/16(火) 14:52:48.83 ID:kQlxazpP0
「た、退却だ退却退却ーっ!いいか、これは決して敗走ではない、
あくまで総合的判断による転身と言うものであって!…」
「はいししょーっ!!」
「待てやゴラアアアアアアアッッッッッッ!!!!!」

本来力仕事は専門外の筈だが、這々の体で池を脱出して
行きがかり上完全にKOされていたチビ魔女二人を小脇に抱えて爆走するステイルと、
ぐにゃぐにゃにふらつく体をぎくしゃく立て直しながら必死に追走するメアリエの周辺の地面に、
ズガンズガンズガンと容赦なく杭打ち機の様な触手が打ち込まれる。

「おい」
「ん?」
「さっきのパンチ、なかなか根性が入ってたな」
「ああ、兄ちゃん強そうやな。雰囲気で分かるわ」
「「………」」

どっぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんんんんんんんんんっっっっっっっっっ

色彩豊かな煙に巻き込まれ、目が点になっていた愛衣と美琴に辛うじて理解出来たのは、
吹っ飛んだ何かが自動販売機を直撃したと言う事だった。

「やばっ、私達も逃げるわよっ」
「は、はいっ!」

 ×     ×

「………」

神裂火織は、物思いに耽っていた。
例の弟子とか言うオテンバ達に引っ張られてる危なっかしさを懸念してこうして追い掛けて来た訳だが、
時既に遅し、こうなってはここで自分が出て行っても余計収拾が付きそうにない。
まあ、ステイルならなんとかなるだろう。

取り敢えず、神裂の手には空から降って来たデジタルビデオカメラ。
神裂はネセサリウスに相応しく生粋の機械音痴。
基本、距離と言う概念が限りなく無効化している神裂火織である。
何だか知らないけど何かの証拠品なら後で女子寮の面々にでも聞いてみよう。
そんな神裂の最大上司も、これ又そうである事が信じられないぐらいのハイテク愛好家である訳だし。

319: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/17(水) 04:15:03.85 ID:bV7S5sT00

 ×     ×

生き返る。
佐倉愛衣が温かいシャワーを浴びて感じたのは、この例え言葉そのままだった。
時間をおいて少しは回復したかと思っていたが、
温かなシャワーを浴びて洗い流すと、
衛生的とは言えない冷水で芯まで冷え切っていた事が改めて分かる。

御坂美琴と共にダッシュで逃走し、その後、
コンビニすら入店の憚られる有様の愛衣は某所で美琴に見張ってもらって
Tシャツとキュロットだけ雑巾搾りしてから今に至っていた。
こうして、冷え切っていた肉体に些かの余裕が出来た所で、
凍てついていた脳味噌が動き出すイメージも感じられる。

彼女は魔法使いのエリート候補として内なるプライドは低い方ではないが、
同時に、聡明な少女である。事、仕事に於いては物事を無駄に高くも低くも考えない様に努めている。
うかうかと敵の術中に踏み込んでしまった事は反省点だろう。
ステイル=マグヌスを初めとして、相手のホームに踏み込んでしまったら
その時点で命が危ないと言う事は魔術の性質上、それ以外の場面でもよくある事、
それは注意しなければならない。

一方で、戦闘で負けたのはそれは総評としては仕方がないと言える。
魔法戦は相乗作用、方程式の要素が強い。
余程の力差が無ければ、系統の違う三人の魔術師を一人で迎え撃つ事など出来る相談ではない。

あれは、負けるべくして負けた状況であり、
細部の工夫はあり得ても結果自体を変えるのは極めて困難だった。
無論、只の言い訳はしたくはないが、こうして生きて次を迎えられた以上は、
仕事である以上冷静に現実を認識しなければならない。

きゅっと蛇口を止めて壁に向かって考える。つい先ほどの記憶を辿る。
転機が乱入して来る迄の自分はどうだったか?
果たして、後一分それが遅かったら、自分の口は何を喋っていたか?
それが恥であったかどうかじゃない、何でもありを相手にする事もしばしばある仕事であり、
である以上、限界がある人間である以上そもそもその状況を作ってはならないのが反省点だ。

320: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/17(水) 04:20:50.11 ID:bV7S5sT00
そう考えても、心から溢れ出すものを完全に止める事は出来ない。
このぐらいの心のブレも又人間だから、仕方がない。
只、出来るのは頭から温かいシャワーを浴びる事だけ。
悔しい思いは消せない。それも現実。
体に残る記憶は、痛みと共に、しっかりと支えられて抱え上げられた力強い感触。

「…情けない所、見られちゃったなぁ…」

 ×     ×

気配を感じて、愛衣は身を起こす。
そして、自分をにこにこ笑って覗き込んでいる顔を見て、
ほんの少し考えてからガバッと身を起こした。
愛衣は、バスローブ姿でリビングのソファーに横たわっていた。

「す、すいません」
「いいって。疲れてたんだね、よく寝てたから」

立ち上がった御坂美琴がそう言って、折り畳まれた衣服を近くに置く。

「洗濯上がったわよ」
「ありがとうございます」

美琴の言葉に、愛衣はぺこりと頭を下げる。
まともに出歩ける状況ではなかった愛衣は、
美琴に勧められるままにこのホテルの部屋に来ていた。
下着は途中のコンビニで購入したが、
後はこの通りシャワーを使っている間に洗濯して貰っていた。

「あの」
「うん?」
「御坂さんはどこか別の所から?このホテル…」
「いや、佐倉さんがあのままじゃ出歩けなかったでしょう。
だからこうやって支度するのに借りたんだけど」

最初、愛衣には、逃走中に名乗り合った御坂美琴の言っている事がよく理解出来なかった。
何とか辿り着いた結論が、
この同年代の少女の金銭感覚は少々かけ離れていると言う正確な分析結果だった。

322: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/17(水) 04:26:15.27 ID:bV7S5sT00
「いただきます」
「美味しい?」
「はい」

テーブルを挟み愛衣の対面の椅子に掛けてにこにこしている美琴に愛衣は応じる。
状況的に至ってポピュラーな選択と言えたが、
美琴のいれてくれたココアは美味しく、有り難かった。

「でもさぁ、佐倉さん」
「はい」
「何で又あんな事になってた訳?」
「分かりません。あの三人に絡まれてああ言う事になったとしか」

あの場面で打算無しに助けてくれた気のいい、崇高なと言ってもいい相手に胸が痛むが、
元々、魔法使いの仕事は嘘が多い仕事、その辺の割り切り、
時間があれば話を作っておく事は仕事柄弁えている。

「佐倉さんを助けてたあの男の子、知り合い?」
「いえ」
「そう、私は知ってるんだけど」
「お知り合いなんですか?」

入浴中に覚悟は決めておいた、相手は科学の学園都市でもあれだけの能力の持ち主。
勝手に巻き込むのは政治的レベルでも問題がありすぎると。
だから、今もポーカーフェイスは貫いている筈だ。

「うん、ちょっとね。あの三人も能力にしてはちょっと変だったし、
多分別系統の能力なんだと思うんだけど」

愛衣の背中にじっとりと汗が伝う。別系統の能力、それは魔法に違いない。
ここまで短時間見ていても、かなり頭の回転が速い少女だ。
助けてもらって悪いが徹底的に交わすしかない。後で小太郎に要確認だ。

「それで、佐倉さんってどこの学校?レベルは?
発火能力でもいい線いってたみたいだけど」
「まだ決まっていません」
「え?」

323: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/17(水) 04:31:40.36 ID:bV7S5sT00
「ごめんなさい、詳しい事情はお話しできないんですが、
とある事情により、これからとある研究機関での研究を経て
編入先を決める事になっています。それ以上は今はお話し出来ません」
「そういう事」

美琴が、ホテルのメモ帳にさらさらと何かを書き付ける。

「佐倉さんの事信じてない訳じゃないけど、秘密の研究って、
この街の研究は色々イカレてる事もあるの。今回の事だって裏があるかも知れない。
だから、何か危ない事があったら私に連絡して。
私は学園都市レベル5第三位御坂美琴、少しは何か出来るかも知れない」
「有り難うございます」

心から感謝の言葉を述べた愛衣は、メモを受け取ろうとして、
テーブルの上でメモを摘んだ美琴の温かな手をその手で包み込む様にしていた。
不意に、大魔王降臨と言われても一切違和感の無い
とてつもなく禍々しいオーラを感じた愛衣は、それを辿り窓に目を向ける。

(ひいいいいいっ!!!)

ホテルの一室で御坂美琴と向かい合い、
手を手で包み込む様にしていたバスローブ姿の佐倉愛衣は、本日二度目の死を覚悟した。

 ×     ×

「逆さ吊りの水責めだ?」

カツカツと女子寮の廊下を歩きながら、千雨は急報を告げた携帯電話に向けて言った。

「ああ、何とかかんとか助け出したんやけど、
アンチスキルやらが動き出したんで詳しい事はまだ分かってない」
「おい、大丈夫なのか?」
「ああ、俺は大丈夫、何とか振り切った。
愛衣姉ちゃんもゴタゴタしてる間に逃げたらしいけど」

「って言っても、あの三人にとっ捕まってずぶ濡れだったんだろ」
「ああー、ありゃ結構痛め付けられてたな。
向こうさんもお互い表に出せない科学の学園都市にいる間に
麻帆良学園側がどんだけ掴んでるか掴んでやろうって辺りやろうけど」

324: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/17(水) 04:37:21.27 ID:bV7S5sT00
「佐倉、大丈夫なのかよ」
「ああ、じゃぶじゃぶに水浸しにされてたけど大きな怪我は無かったわ」
「そうか…それで、お前に助けられたって言ったな」
「ああ」

当たり前の様に返答する小太郎の声に、千雨は嘆息する。
さてどうするか、フォローする様に夏美に言わせるのも色々おかしい気もするし、
大体、今この状況でええいもう知らんと言うのが本音の所だ。

「取り敢えず分かった、落ち着いたら又ゆっくり聞かせてくれ」
「分かった」

電話を切った千雨は目の前のインターホンを鳴らし、
現れた同級生神楽坂明日菜に促されるままに麻帆良学園女子寮643号室に入る。
明日菜からの呼び出しでここを訪れたのだが、ふうっと息を吐いて中に入ると、
明日菜と共にこの部屋に住む近衛木乃香がお茶を入れてくれた。

明日菜、木乃香の住むこの部屋を事実上の住所としているネギは今もいない。
そう言えば、自分がこの部屋を訪れたのはいつだっただろう?
自分はここでこの部屋でネギと会ったのだろうか。
その間に、携帯電話を使っていた明日菜がそれを千雨に差し出した。

「もしもし」
「もしもし、チサメ!?」

それは、賑やかで幼い声だった。

「あ、アーニャか?」
「そうよ。科学の学園都市で何かしてる麻帆良の生徒ってチサメの事なのっ!?」
「ちょっと待て、何がどうなってる?順を追って話してくれ」

千雨が驚きを踏み止まる。
イギリスにおけるネギの年の近い同窓生であるアンナ・ココロウァ通称アーニャ。
なんでそんな所に話が飛んでいるのか、ここは慎重に進める必要がある。

325: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/17(水) 04:40:57.82 ID:bV7S5sT00
「あのね、ウェールズはケルトの本場、
大雑把に言えば日本人がイメージする魔法使いのかなりの部分がウェールズの魔法文化なの。
だから、ウェールズ自体が魔術の世界でも一大勢力であり人脈、
ネセサリウスにもウェールズ出身の魔術師は何人もいるわ。

そこから麻帆良と科学の学園都市に関する情報が入って来てたからアスナに調べてもらってたのよ。
麻帆良が関わるって事になったら、ネギの出身であるウェールズにも関わって来る事だから、
ネセサリウスよりも優先的にこっちに情報を持って来る人もいる」

「分かった、大体飲み込めた」
「それで、どうなの?」
「確かに、私は今科学の学園都市に関わってる。
それが表になったらネギ先生や他の人に迷惑になる事も知っている。それは済まないと思ってる」

「鳴護アリサ、って知ってる?」
「私の友達だ。そのアリサが科学の学園都市でネセサリウスに狙われてる。
ストーカーが魔術師なら警察に頼む訳にもいかない」
「そういう事ね」

「そっちでもアリサの事は何か?」
「生憎、魔法協会系列では、アリサ関係の情報は出遅れてるわ」
「みたいだな。麻帆良の方も同じらしい」

「それでも、ネセサリウスの方針は分かった。
ネセサリウスはアリサの力、奇蹟の力を恐れている。
正確に言えば、それが科学の学園都市に渡る事をね。
奇蹟が魔術であるなら、それが科学的に分析されて再現された時、
魔術と科学のパワーバランスに大きな影響が出るから」

「麻帆良でも、ネセサリウスの目的に就いては大体その筋で読んでるよ。
アリサの事をそれ程恐れているのか?」
「聖人、聖なる人、神の子に似たもの。
ネセサリウスは鳴護アリサの能力、みたいなものに就いてそのレベル、
つまり非常に高いレベルで考えている。
聖人絡みだとすると、ネセサリウスが無茶するのも頷ける」

「それで、連中アリサをどうするつもりなんだ?」
「その事なんだけど、ショッピングモールのアリサのイベントが爆破されたって話聞いてる?」
「ああ、聞いてる、あれはやっぱり爆破されたのか?」

326: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/17(水) 04:44:19.25 ID:bV7S5sT00
「こっちに入ってる情報から見ても、それが正しいみたいね。
あれだけの規模の爆発事件でありながら死者重傷者はゼロ、正に奇蹟の歌ね。
そして、この事件にもイギリス清教の関わりが疑われてる」

「なんだと?」
「現場でイギリス清教のエージェントが目撃されてるのよ」

「それは、ステイルか?それとも、うちの桜咲並にバカデカイ刀持った
本人もかなりデカイ日本人の女か?」
「どっちも違う。女の方は神裂火織ね。経歴がユニークだし実力者だからこっちにも聞こえてる。
ステイルも、ルーンの天才の魔女狩りの王。
でも、そんなレベルのエージェントじゃないわ」

「そんなレベルじゃない?」
「これは、私が魔法学校でも信頼出来る人から聞いた話で、
その人も絶対に信頼出来る筋からの情報だとしか教えてくれなかったんだけど、
ショッピングモールの爆破現場でイギリス清教のエージェント、
それもかなりの上級者が目撃されてるのよ」
「それは聞いた」

「うん。そのエージェントって言うのが、どこから見ても日本人の女子高校生、
むしろ日本人以上に日本人って言ってもいい、
丸で墨で描いた日本画に出て来そうな、最近の日本では珍しいぐらい日本人っぽい女の人なんだって」
「女子高校生って事は制服でも着てたのか?」
「そうみたいね。その日本人の女の人が身に着けていたのがイギリス清教の霊装、
簡単に言えば魔法具なんだけど、ステイル辺りが許される様な霊装じゃなかったって」

「その霊装が高いレベルだったって事か?」
「そういう事。ステイル辺りが持ち歩くものじゃない、
非常に高いランクのイギリス清教の霊装だったって。
それを、どこから見ても日本人の女子高校生が所持して鳴護アリサの爆破現場に出没していた」

327: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/17(水) 04:48:11.48 ID:bV7S5sT00
「やったのはイギリス清教だってのか?」
「分からない。第一、ネセサリウスにしてはやり口が派手過ぎる。
こんなに表立って、それも科学の学園都市で事件を起こすのは本来彼らのやり方じゃない。
だけど、どこまで難しく考えるべきか分からないって考えもある」
「現場の落とし物は単純に犯人が落としたのか事前に盗まれたのか、ってか」

「でも、こっちの魔法関係では関係する事件に就いての警戒ランクが上がって
水面下の情報収集が本格化してる。

イギリス清教とこちらの魔法関係との関係は両者の立場を考えると良好だし、
イギリス清教と科学の学園都市の関係に就いても、
こっちの魔法関係でも裏側の窓口として黙認していた部分があるんだけど、
余り派手に好き勝手されると話は別になって来る。

お互い、世界でも有数の魔術勢力が外套の下でナイフ研ぎながら笑って握手してるみたいなモンだからね、
抜け駆けを許してたら命取りになる」

「お前らも本格的に動き出す、って事になるのか?」
「そうなった場合、直接的に動くのは、
現地の管轄で直接の提携関係にある関東の魔法協会だと思う」

「じゃあ麻帆良か」
「その可能性が高い。もちろん、こっちはこっちでイギリス清教との
表と裏の交渉、工作を続けて無駄な争いは避けようとする筈だけど、
こっちとしても譲れる事と譲れない事があるから」
「そうか」

328: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/17(水) 04:55:03.21 ID:bV7S5sT00
「とにかく、これは魔法関係の話で、
しかもかなりきな臭い情勢になってるって事だけは伝えておくからね。
それで、チサメは自分がネギの従者だって事分かってるわよね」
「ああ、分かってる…」

そこまで言って、一度言葉を切る。

「分かってる、ネギ先生に迷惑掛ける様な真似はしない」
「分かってるならいい。でも…」
「ん?」
「鳴護アリサはチサメの友達、なんだよね」
「ああ、そうだよ」

「分かった。元々、アスナならとにかく
チサメが自分から危ない事するなんて最初から考えられないし」
「そりゃそうだ」
「分かった。じゃあ、バーイ」
「お休み、いや、そっちは時間違ったか。じゃあな」

千雨が電話を切った。

「千雨ちゃん?」

明日菜が心配そうに声を掛ける。

「少し、疲れた。後でゆっくり話すって事で頼む」

今回はここまでです。

332: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/23(火) 04:12:32.67 ID:YC8mmy5A0

 ×     ×

「アデアット!」

バック転で自分の座っていたソファーを飛び越した佐倉愛衣は、
そのままテーブルに向かって片膝ついて、両手持ちした箒を捧げる様に横に持つ。
その間に、テーブル上空の空間に突如姿を現した車椅子少女が
重力に従いドガシャーンとばかりにテーブルに着地する。

「…メイプル・ネイプル…」
「やめいいっ!!!」
「あうぅぅぅぅぅ…」

御坂美琴の絶叫と電撃と共に、突如室内に流れ出した
シリアスバトルシーン的BGMがよく似合いそうな雰囲気は唐突に中断する。

佐倉愛衣は箒を両手持ちしたまま前のめりに倒れ込み、
握った両手の指の間全てに鉄矢を挟んだ白井黒子は
そのポーズのまま恍惚の表情で酔い痴れる。

「おにぇえしゃまあぁぁぁ…」
「お姉様?」

気を取り直した愛衣が呟く。

「あのー、ご姉妹…いや、後輩さんですか?」
「正解」

美琴がちょっと驚いた表情で言う。
次の瞬間、佐倉愛衣は飛び退き、片膝ついて箒を捧げる様に横に持つ。
その前方に白井黒子がどっかーんと着地する。

「まぁーっ!よろしいですか見知らぬあなた!?
わたくしとお姉様はその様な平易な概念でとにかくあなたの様な…」
「くっ!メイプル・ネイプル…」
「やめいいっ!!!」

333: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/23(火) 04:17:39.58 ID:YC8mmy5A0
愛衣がもう一度バック転して距離を取り視線と視線が火花を爆裂させた次の瞬間、
御坂美琴の絶叫と電撃と共に、突如室内に流れ出した
シリアスバトルシーン的BGMがよく似合いそうな雰囲気は唐突に中断する。

佐倉愛衣は箒を両手持ちしたまま前のめりに倒れ込み、
握った両手の指の間全てに鉄矢を挟んだ白井黒子は
そのポーズのまま恍惚の表情で酔い痴れる。

「はらひれほれ…」
「あんたねぇ、この狭い部屋ん中で水浸しの次は火事場に突っ込みたいの?」
「ごめんなさいです…」
「くぅーろぉーこおぉー…」

「お姉様あはああああんっっっあの様なあぁぁぁぁぁぁぁんっっっ
わたくしと言うものがあぉぉぉぉぉぉぉんんんありながらはああああああんんんんん!!!」
「やぁーめぇーいいいいいっっっっっ!!!!!」

目の前の火花舞い散る密着戦をぽかんと眺めていた愛衣は、
やがてくすくすと笑い出した。

「あはっ、あはははっ」

余りに快活な笑い声に、ようやく二人ともそちらを見る。

「あ、ごめんなさい。仲、いいんですね」

くすくす笑いながら言う愛衣の前で、
黒子がどかんと両手で車椅子の肘掛けを叩く。

「仲がいい?仲がいいですって?
いいですかどこぞの馬の骨さん、わたくし白井黒子、
お姉様の露払いとしてその絆はその様な凡庸なほぎゃあああああっ!!」
「あー、まあ気にしないで、悪い娘じゃないから」
「はい」

くすっと笑って答える愛衣は、こりゃ男が見たらかなわんわこのザ・女子め、と美琴に思わせる。
それでいて、自分が見ても不快ではない。
女子校の中でも高見で一歩引いている美琴から見ても、素直ないい娘なのだろう。
と言うのもあるが、どうも女子校の呼吸を知っている匂いがする。

334: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/23(火) 04:23:13.11 ID:YC8mmy5A0
「それでは失礼」

ぺこりと頭を下げて、愛衣は着替えを持ってバスルームに引っ込む。

「では、そろそろ行きます。待たせている人もいますので。
今日は本当にありがとうございました」

リビングに戻って来た愛衣が、改めて一礼する。
清々しくて圧倒的なぐらいだ。

「うん…良かった」
「え?」
「いや、結構えぐかったからさぁ。
もしかしたら無理してるかも知れないけど、元気そうで」
「そうですね。ご心配有り難く受け取らせてもらいます。それでは」
「ん」

かくして、ぱたんとドアが閉じられる。
御坂美琴は、顎を指で撫でて考えていた。

(発火能力者…別系統の能力なのかはちょっとおいておいて…
さっき、黒子の突入と同時に陽炎を作ってた。
焦点をぼかしてレーダーを張った?相手がテレポーターだから?
体で感知出来る?判断力も実戦経験も…)

ずりずりと腰から上がって来る両腕の感触を把握しつつ、
御坂美琴は背後の白井黒子の頭を左腕でがしっと掴み、
白井黒子は本日幾度目かのご褒美の時を迎える。

 ×     ×

「もしもしっ!」

女子寮の廊下で、
携帯を取りだした長谷川千雨は縋り付く様にしてメールを読み電話を掛けていた。

「もしもし、ちうちゃん?」
「ああ、無事だったんだなっ!」

ようやく周囲を見回し、千雨は小声で叫ぶ。

335: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/23(火) 04:28:29.21 ID:YC8mmy5A0
「うん」
「怪我は?」
「大丈夫」

「みさっ、いや、えーと、他に怪我人とかは?」
「大丈夫、みんな無事だった」
「良かったぁ…マジ奇蹟かよ…」
「奇蹟…」
「ん?」

「うん、奇蹟だって、みんな言ってる」
「だな、ネットを見ても、相当な大事…大きな事故だったんだろ、
それで大きなけが人が出なかったんだから」
「でも、本当に奇蹟があるんなら、そもそもあんな事起きなかったんじゃないかって…」
「あっ」

アリサの悲しそうな声に、安堵で一杯だった千雨がようやく本来の何かを取り戻す。

「この間だってそう、当麻君も危ない所だった、
本当ならそのまま下敷きになるぐらい危ない事で、
それで怪我して、私と一緒にいてそんな事になって。
それが奇蹟の歌だって、奇蹟だって」

「それは…」
「言ったよね、私、三年前からの記憶が無いって」
「ああ」

「歌っている時だけは私でいられる。
私の歌でみんなを幸せに出来るんなら、いつか取り戻す事が出来るかも。
そんな気がしていた。だから私、歌い続けた。
でも、私の歌が奇蹟なら、選ばれたのも奇蹟なのかも知れない」

「おい」
「本当に奇蹟かあるのなら、そもそもあんな事は起こらなかったんじゃないかって。
あんな事故が起きて、それでも私の奇蹟だって、
私の歌で、私だけ幸せになって、それが奇蹟…」

「JK」
「え?」

336: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/23(火) 04:31:49.04 ID:YC8mmy5A0
「常識で考えろ。
科学の学園都市には色々な能力があるかも知れないが、
そこまで行ったら能力じゃない、神様だ。
そして、そんな中途半端な神様がいてたまるか。

何が奇蹟で何が幻か、そんな事知るか。
分かってるのはアリサが自分で努力して一歩も二歩も自分の足で進み続けたって事だ。
努力だけでどうにかなれば世の中苦労しない。それでも、努力抜きじゃあ絶対どうにもならない。
それをやって来たんだろうアリサは」

「うん」

「じゃあ信じろ。
神様なんかじゃない、自分で前に出た人間の力だ。
あの歌を歌って来たアリサ、関わって来たスタッフ、
そして後押しして来たファンの、人間が力を尽くしたステージだ。
自分が何者か?私の知ってる鳴護アリサは堂々たる歌姫で私の自慢の友達だ。
今は、そいつを信じろ。そいつを信じて吹っ切って前に進んじまえっ」

「うんっ」

「それで、奇蹟ってのがあるんなら、ああ、あるんだろうよ、
一歩踏み出した勇気についてくる奇蹟とか魔法とかあるんだよって言う奴がな。
アリサが自分で掴み取った奇蹟の歌姫なんだ、きっと適うさ」

「ありがとう、ちうちゃん」

「ああ、まあアレだ、自分で言ってて今すぐ枕で窒息してぇ」
「くすっ、有り難う、ちうちゃん。
もう大丈夫みたい。頑張るから、私」
「ああ、及ばずながら応援してる」

電話を切った千雨は、握った左手の側面でガン、と近くの壁を殴っていた。

「千雨ちゃん…」
「神楽坂か」

背後に姿を現した明日菜に千雨が声を掛ける。

337: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/23(火) 04:35:12.87 ID:YC8mmy5A0
「知るかよ」

千雨が吐き出す様に言った。

「知るかよ、ギリシャだろうがイギリスだろうが知った事かよ…
神楽坂、まだこっちにいるのか?」
「うん、次の予定まで何日か空きがあるみたい」
「大変だな…いや、素直にそう思う。そうか…」

 ×     ×

「おねーさまー」
「メイ、来ましたか」
「すいません、遅くなりました」

科学の学園都市内の合流地点で、駆け付けた愛衣に腕組みした高音が言う。

「大丈夫ですか?怪我等は?」
「はい、大丈夫です。すいませんでした」
「そうですね、それで情報の漏洩などは?
正確に把握する必要があります」

「正確に言います。大丈夫です。
私は何も喋っていませんし奪われた情報も無い筈です」
「そうですか。全くの無反省でも困りますが、
元々無理な戦力での活動を指示したのも確かです。
ですから程ほどに反省なさい、あなたなら出来るでしょう」

「はい」
「では、報告は後で。無事で良かった。心配しました」
「はい。すいませんでした」
「では、行きますよ」
「はい」

高音が言った事はおおよそ本心だった。
愛衣は真面目な性格なので、体は元より心のダメージも懸念していたが、
幸いにも回復出来そうな傷で済んだらしい。
無いに越した事はないが、今後の仕事もある。経験として糧になれば幸いだ。

338: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/23(火) 04:38:22.46 ID:YC8mmy5A0

 ×     ×

「聖人か…」

土御門と神裂からアリサに関する大凡の説明を受け、上条当麻は呻いていた。
聖人である可能性が指摘されている鳴護アリサ。
故に、イギリス清教は科学の学園都市による分析を恐れ、
アリサの確保に動いている。
そこで、上条は思い出した。

「魔法使いもそれで動いているのか?」
「魔法使い?」
「ああ、魔法協会とか言う連中が動いてるだろ?」
「カミやん、麻帆良学園の事は知ってるかにゃー?」
「インデックスが言ってたな、あれは麻帆良の学生だって」

「だろうな。麻帆良学園、学園のある麻帆良学園都市は、
事実上関東魔法協会そのもの、実態は魔法の学園都市。
たかーい塀に囲まれてる訳じゃないけど、入った人間を魔法でナチュラルに洗脳して
不思議な事が不思議に思えなくなるこわーい街だにゃー」

土御門の冗談とも真面目ともつかぬ説明は、早速に上条を苛つかせる。

「それで、その魔法の学園都市がどうしてこの件に噛んで来てるんだ?」
「それが、向こうさんの意図は今の所よく分からんですたい。
情報収集しようにも、おしゃまなクソガキ共が先走った事してくれたもんで、
次に顔合わせたら血の雨が降るにゃー」

土御門の言葉に、神裂も目を閉じて暗黙に同意している。
土御門はビッと三本の指を立てた右手を突き出す。

「麻帆良の人間がこっちに出入りしてるのは間違いないにゃー、
それも、三つの勢力がそれぞれに動いてる」
「三つ?」

「まず、麻帆良の学園警備。向こうの学園で正式に仕事をしている魔法使いぜよ。
この連中がこの学園都市に出入りしてる。
この連中の目的は、恐らく鳴護アリサに関する情報収集だにゃあ」

339: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/23(火) 04:41:40.26 ID:YC8mmy5A0
「こないだステイルとやり合ってた箒の娘やその仲間か?」
「そうです」

上条の問いに神裂が答えた。

「二つ目、これが本格的に正体不明、って事になってるにゃあ。
どうも、お友達のためにプライベートで出入りしてるみたいだからにゃあ」
「あの時会った眼鏡とか学ランとか姿を消す魔術師連中の事か」

何となく雰囲気を察知していた上条の言葉に神裂が頷いた。

「プライベート」
「多分にゃあ。だから却って分からない。
まあ、僕もかわいー幼馴染みフラグの一本や二本立ててるっつー事ですたい。
ま、義妹には適わないけどにゃー」
「何が僕だよ」

本格的に訳の分からない事を言い出す土御門に上条が毒づく。

「そして三つ目の、ヒーロー」
「ヒーロー?」

「そう、ヒーロー。
世界の全てを救済して全ての人が笑って暮らせる世界を創る。
それを自分で現実に出来るぐらいにとてつもなく巨大なパワーと
実現させるための心の強さを持つ正真正銘本物のスーパーヒーロー。
そんなものが実在するのは非実在少女の世界だけじゃなかったって事だにゃあ」

「そのヒーローが魔法協会の人間でこっちで動いてるって事でいいのか?」
「オーケーですたい。こちらは表向きの意図がハッキリしてて学園都市にも話は通してる。
だからこそ、この時期なのが故意か偶然か、そこが問題だにゃあ」
「魔法協会ってのは陰で人助けをしてるだけで害は無いって話だったぞ」
「それが状況が変わったんだにゃあ、カミやんが禁書目録とバタバタやってる夏の間に」

土御門は、つと中指でグラサンに触れ、やや上目に上条を見る。

「魔法協会について、どの程度の事を知っていますか?」

神裂が尋ねた。

340: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/23(火) 04:45:24.67 ID:YC8mmy5A0
「ああ、イギリス清教とか他の所からも認められてる大きなほとんど公式の魔術師の団体で、
普段は陰で人助けや魔術のトラブルに関わってる。
それから…魔法世界との外交権を独占してるって言ったか」
「その魔法世界がこの夏、崩壊の危機に立たされました」
「何?」

「世界の基盤そのものに重大な問題があった様です。
もう少しで世界そのものが住人諸共消滅する所でした」
「それを救ったのがヒーローなんだにゃー」

「彼を中心にした魔法協会所属の一つの勢力が中心に、
最終的には関東魔法協会が総出で取りかかる事となりました。
結果、魔法世界の消滅は一時的に食い止められ、
恒久的な世界維持のためにこちらの世界が救済策を実行する事で合意が成立しました」

「当然、そこで主導権を握ったのが魔法協会、そしてヒーロー。
今すぐ崩壊する一つの世界を力業でつなぎ止めたのみならず、
百年単位の時間と天文学的な支出を伴うプロジェクト、
文字通り表と裏の世界総出でかかる必要があるものを、
短期間で基本合意に漕ぎ着けたんだから大した政治家、外交官ぜよ」

「根回しに当たっては、極めて高度な魔術的な要素を巧妙に用いた様ですね」
「イギリス清教のてっぺんに直接それを使ったらバレる所か最悪宣戦布告。
だからこそ、イギリス清教は各個撃破で周辺を固められて
外堀を埋められる形で合意に参加させられたにゃあ。
まあ、どっちがどこまで気付かずに気付かない振りをしていたかはアレだけどな」
「魔法世界か、ピンと来ないなぁ」

ここまで話を聞いて、上条が呻いた。

「そうですね。
私達のランクでは現時点で分かっている事は限られています」

神裂が言う。

341: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/23(火) 04:48:46.32 ID:YC8mmy5A0
「そうだにゃー、詳しく説明したくても、漫画にしても九割方の読者が脱落するとかしないとか
カミやんがそこに踏み込んだらその時点で消えて無くなるとか無くならないとか、
それぐらいややこしい話が色々諸説入り乱れてるからにゃー。
只、はっきりしてるのは、極秘裏に、それでもとてつもない規模で動き出してるって事だにゃあ。

世界を一つ丸々救済するプロジェクトだから、
それにかかる費用は天文学的、国が一つ二つ傾くなんてレベルじゃない。
それに関わる以上、関わる所にはそれ相応の見返りがある。
魔法世界の魔法技術と宇宙規模の巨大な世界構築。その利権は計り知れない。

それを細心の注意を払って上手に利害調整をしているから、
今の所、理性的に計算すればヒーローのプランに乗るのが上策。
裏の世界のトップクラスではその事が浸透していて妨害が無い様に牽制し合っている状態ぜよ」

「魔法協会のヒーローか」
「とてつもないパワーと行動力と私利私欲の無い誠意、
丸で子どもの描くヒーローがそのまま全てを救う勢いで動いてる。
人道的に反対する理由が無いし
裏付けとなる力があるから誰もが従わざるを得ない状況だにゃあ、今の所は」

どう聞いても毒のある土御門の言葉に、神裂の表情にも翳りが差す。
それがどれ程の力であっても、その道はどれ程の困難が、力があるからこそ知っている事だ。

「その上、みんなが幸せになる様に妥協出来る筈のギリギリのラインで分配してる。
理性的に考えるなら、このまま従えば得、抜け駆けを許す方が損だと
周知させてるから今の所は大きなトラブルも無い。あくまで今の所だにゃあ。

それがどれだけ分かっていても、この利権は巨大過ぎる。
隙あらば抜け駆け、事によっては魔法協会に握られている主導権を奪取しようと、
そう考える人間が出て来ても不思議じゃないにゃあ」

「特定の宗教に属さず異能の魔術を掌握している、
その様な魔法協会を苦々しく思っている勢力も少なからず存在しています」
「聞いたよ。だけど、今まではもめ事はあっても上手くやって来たんだろ?」

「だけど、今はその魔法協会が積極的に世界と関わって
とんでもない巨大利権の主導権を握っているにゃあ。
緻密な計算と圧倒的なヒーローのパワー、その上に成り立ってる脆弱なバランス。
乗っかってるものが巨大なだけに、一つ間違えて暴走が始まったら」

342: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/23(火) 04:52:17.10 ID:YC8mmy5A0
「闇の中で、事によっては表にまで現れて、混沌、戦乱」

段々真面目な口調になる土御門に神裂が続けた。

「まあ、実際、今回の事でもどっかのお馬鹿さんが
麻帆良に唾付けようって先走ってこっちの仕事をやり難くしてくれたぐらいだしにゃー。
どこも一枚岩じゃないって事ぜよ。

そんな状況下で、聖人、魔術と科学の戦争すらあり得る存在、
その鳴護アリサに関わる問題にまで魔法協会が絡んで来てる。
それも、魔法協会側のキーパーソンが本来の目的で動いている今その時にだにゃあ」

土御門は壁に背を預け、気取った仕草でグラサンをついっと上げる。

「魔術と科学の間で戦争を引き起こしかねない。アリサの件はそれだけでも頭の痛い話ぜよ。
その上に魔術の中でも宗教と魔術結社の有力団体である
イギリス清教と魔法協会がアリサに絡んで火花を散らし始めたって、正直胃が痛いぜい」
「アリサが悪い訳じゃないだろう…」

友人の苦衷を察するからこそ苦い声で、それでも言わざるを得ない。

「救いは、今こっちに滞在してるスーパーヒーローなVIPのキーパーソンが
今の所はこの件に絡んで来る気配が無いって事だにゃー」
「まあ、それだけの大魔術師を超えた重要人物が
学園都市で公式を外れた行動を取る事自体目立ち過ぎますからね。
プランの事で当然多忙を極めているでしょうし」

「確かに、死ぬ程忙しい身の上みたいだしそんな暇無いかにゃー。
この上そんな超大物までお相手するなんて言ったら、
流石の土御門さんも胃に穴が空いちゃうにゃー」

343: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/23(火) 04:55:49.43 ID:YC8mmy5A0

 ×     ×

「あらあらネギ先生、熱心に何をお調べに?」

ホテルの居室で難しい顔でパソコンに向かっているネギに近づき、
にこやかに声を掛けたあやかが足を止めて硬直する。

「ん?なーに突っ立ってんですかーお嬢様。
さっすがネギ先生、お仕事の出来る男は凛々しい…
…こ…これはっ!?…」

結標淡希が文字通りその場から姿を消した後、あやかはこほんと咳払いをする。

「お茶を入れて参りますわネギ先生。
好奇心旺盛結構結構オホホホホ…」

あやかがつつつと離れた頃、
ホテルの屋上では結標が強い口調で携帯電話に指示を出していた。

「そう、すぐに手に入れて?何に使う?ん、んんっ、潜入、に、決まってるでしょうそんなのっ!
だから、多少割高でもいいから一刻も早く、あの小娘に先を…いやいやなんでもないとにかく…」

ネギの指がカチッ、カチッとマウスをクリックする。
ウェブサイト「学園都市JK制服図鑑」の中の一つのページを表示したまま、
ネギは画面をじっと見据えて考え込んでいた。

350: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/24(水) 13:13:35.18 ID:9YJvE0O60

 ×     ×

確かに、あの後事情聴取もあったしちょっとした騒ぎだった。
それでも、今日にはいつも通りの学校生活が過ぎていく。
そのまま、いつも通りの放課後、吹寄制理はそう思っていた。

「すいませーん」
「?」

校門を出ようとした辺りで、吹寄が声のした方に目を向ける。

「君は?」

声の主は、先日コンサート会場の修羅場とその前の会場周辺で出会った白人の男の子だった。

「君、大丈夫だった?あれから姿が見えなかったから…」
「ああ、はぐれてから一人で帰ったもので。ご心配おかけしました。
あなたは大丈夫でしたか?」
「うん、私は大丈夫、君…」

「あ、ごめんなさい、申し遅れました。
僕はネギ・スプリングフィールドと言います」
「私は吹寄制理、よろしく」
「よろしくです」
「ん」

自然な所作で右手を差し出され、吹寄はその手を握り返す。

351: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/24(水) 13:18:58.29 ID:9YJvE0O60
「それでネギ君、今日は?学校に何か用事?」
「あ、はい。先日吹寄さんと一緒だった友達の方」
「友達?」

「ええ、コンサートの会場で、制服を着てストレートの黒髪の」
「それって…ネギ君、何か用事?」
「はい、是非とも一度お会いしたいと」
「は?」

何を言っているのか分からないネギの発言に、吹寄が戸惑いを見せる。
その間に、ネギはトテテと動き出していた。

「あの、すいません」
「君は?」
「はい、ネギ・スプリングフィールドと言います」
「ネギ君?」

相手に怪訝な顔をされても、ネギはにっこり無邪気な笑みを向ける。
そこに吹寄が駆け付ける。

「知り合い?」
「うん、コンサートの時にちょっとね。ネギ君、彼女に何か御用?」
「えーと、ですね、アリサさんのコンサートの時にお見かけしたのですが」
「うん。私もあの時あそこにいた」
「それで、少しお話しを伺いたいと」

「だから、何でそうなる…」
「そう。私。姫神秋沙」
「姫神さんですか。日本の女神様ですね」
「私。巫女さん」

「日本創造の伝説以来、八百万の神々の中に数多く伝えられる女神様。
由緒正しいお名前ですね。
僕はイギリスのウェールズから来ました。
ウェールズは国としてはイギリスの一部になっていますが元々は独立した国で、
今でもイングランドとは違うブリテン人の独自の文化を伝えています」
「ウェールズか、そういう話は聞いた事があるが」

吹寄が相槌を打つ。

352: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/24(水) 13:24:18.55 ID:9YJvE0O60
「有り難うございます。
いにしえにヨーロッパを制したケルトの文化を伝えるブリテン人の土地から来ました」

そう言ったネギの目は、しっかりと姫神の目を捕らえていた。

「そういう訳で、少しあなたと二人でお話しをしたいのですが」
「分かった」

姫神はこくんと頷く。

「それでは、有り難うございました」
「いえ…」

礼儀正しく一礼してから姫神と共に立ち去るネギを、吹寄はぽかんと見送る。

「ふふ。ふふふふふ。ふふふふふふふふふ。
そう。やっぱり外国人ってああ言うタイプがストライクなんだ」
「あ、あーあー、吹寄、それ吹寄ちゃう。それ姫神のキャラクターやで」
「はぁー、どうなってんですかねー」

吹寄をこっちの世界に引っ張り戻さんと懸命の突っ込みをかます青髪ピアスの側で、
頭の後ろで手を組んだ上条が感想を漏らす。
上条から見て、横並びながらにこにことお互いを見て歩いている姿は
そのまま姉弟の様で微笑ましいものだった。
そして、つと横を見たが、さっきまでそこにいた筈の友人の姿がない。

 ×     ×

「あ、こんな所に古本屋が」
「そう。入る?」
「ええ」

学園都市は新興都市である。
昔ながらの学生街であれば古本屋とセットでおかしくないが、
今や、ネギと姫神が入場した様なタイプの古本屋自体が
大手新古書店に徹底的に圧倒されている。
まして、新興都市である学園都市なのだから、珍しい存在であると言えた。

353: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/24(水) 13:29:51.08 ID:9YJvE0O60
「なぁー、入って見て来ましょうか?」
「駄目だ、店が狭すぎて気付かれる」
「だからー、何を気付かれない様に俺達は…」
「黙れ、貴様」

古本屋の側の塀の角で、振り返った吹寄がキランと放つ輝きに上条はのけ反った。

「一時間は経過したで」
「こりゃー、何か前世に振った女の因縁か何かかにゃー」
「お前が言うと洒落にならないんだよ」
「出て来た」

いつの間にか合流していた土御門に突っ込む上条を制して、
吹寄が古本屋に着目する。

 ×     ×

「一杯買いましたね」
「ふふ。収穫」

ウェートレスが一礼して下がったファミレスのテーブル席で、
向かい合って座るネギと姫神がにこやかに会話を交わす。

「魔法、お好きなんですか?」
「私。魔法使い」
「そうですか」

普通ならこの時点でドン引きな買い物と発言のチョイスにも、
ネギのジェントルマンシップは小揺るぎも見せない。
もっとも、ネギ自身のアンデンティティーをわざわざ否定する必要も無い訳で。

「君も?」
「そうですね。先ほども言いましたが僕はウェールズから来ました。
ウェールズのケルト文化はドルイド、妖精、そして騎士と魔法使いの言い伝え。
アーサー王のマーリンなどが有名ですね」

「そう。君も教会から来たの?」
「きょうかい…ああ、日本だと発音が同じになってしまうんですね。
ちょっと失礼します…ラ・ステル・マ・スキル・マギステル…」

354: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/24(水) 13:33:11.37 ID:9YJvE0O60
「はははははははれんぐんぐんぐっ!!」
「だぁーっ、だから吹寄それは別の漫画の風紀委員やて」

その近くのテーブル席で吹寄と青髪ピアスがすったもんだしている間、
土御門のグラサンの向こうの眼差しは、既にデルタフォースのものではなかった。

「つっ」

姫神のセーラー服の胸元に右手を伸ばしていたネギは、
電線にでも触れた様にその手を引っ込める。

「大丈夫?」
「ええ、有り難うございます。少し、歩きましょうか」

丁度お茶も一服した辺りで、ネギが促した。

 ×     ×

「ウェールズって。どんな所?」
「いい所ですよ、自然豊かで…」
「そう」
「いい雰囲気ですねぇ…」

にこやかに言葉を交わしながら道行くネギと姫神の後方で、
言いかけた上条は背後から漂う禍々しき何かを察知して口をつぐむ。

「こりゃあ、いよいよショタに乗り換えで
ひろーい守備範囲の良さ言うモンを」
「姫神さんを貴様の如き変態と一緒にするな馬鹿者」

ネギは、ふっと息を吐き歩みの速度を緩める。

「姫神さん」
「はい」
「戦いの歌」

ネギが、ぼそっと唱える。
次の瞬間には、ネギ以外のことごとくが目を丸くした。

355: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/24(水) 13:36:33.29 ID:9YJvE0O60
「くっ、くくっ、くくくっ、
くかかかかかかかきくけこォォォォォォォォっっっっっっっっっ!!!」
「吹寄、吹寄吹寄はん吹寄様、
どーして掲げた手の上で風がごおごお巻いて何かヤバイモンがバチバチしてんねんっ!?」

姫神のスカート越しの太股と背中をひょいと下から支え上げ、
ダッシュで路地裏に消えたネギをぽかんと見送るしか無かった後、
懸命、文字通り命懸けの域に至りつつある突っ込みに磨きを掛ける青髪ピアスと
不穏過ぎる空の下、デコをキラーンと輝かせて何かとある領域にたどり着きそうな吹寄を余所に、
その場を離脱し携帯電話に齧り付いた残る二人の目つきは、完全にデルタフォースを離脱していた。

「あー、どうしてお前が出ている?」

「ししょーは蒼白な顔で携帯ごとマントを放り出して
兄弟も友人もいない狭い密室で孤軍奮戦いたしておりますため
ただ今電話に出る事は出来ません」

「分かった、必ず伝えろ。
さもないと百匹の頂点に立った虫入りの壺をプレゼントしてやるぞガキが」

「もしもしっ」
「はいはいインデックスなんだよ」
「姫神がさらわれた!」
「…あいさが!?」

「ああ。多分魔術の連中だと思う。
確かウェールズがどうとか言ってたな。ケルト十字の事も知ってるみたいだった」
「ウェールズはケルト文化、引いては西洋の魔術文化の一つの要。
ウェールズの魔術師ならケルト十字を知らない方がおかしいんだよ。
それで、どんな魔術師だったのかな?」

「まだ子どもだった、十歳ぐらいの男の子、十三歳ぐらいの女の子でも通るタイプだったな。
白人で赤毛でちいさい眼鏡を掛けて、
そう、背中にそれこそ魔法使いみたいなでっかい杖を背負って…」

356: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/24(水) 13:40:37.52 ID:9YJvE0O60
「どこっ!?」
「何?」
「だから、そのウェールズの魔法使いはどこにいるのっ!?」
「だから、見失ったって、今の場所は…」
「分かったんだよっ!」

場所を報せた後に一方的に電話を切られた上条は、ネギの後を追って路地裏に入る。
その進路には、路地裏エリアで遭遇しがちな
佐天さんのお知り合い候補がダース単位で転がっていた。

 ×     ×

「どうしたの?」

表通りでひょいと地面に下ろされていた姫神がネギに尋ねる。

「いえ、確か恵方巻きって日本の節分の食べ物だと…」

ネギが見ていたのは、コンビニのポスターだった。

「最近は色々ある。食べたい?」
「そうですね」

言いかけたネギのお腹がぐうと鳴った。

「あ、失礼」
「いい。お腹空いてた?」

流石に赤くなったネギが下を向いて言う。

「ええ、ちょっと朝から忙しかったですから」

かなり無理に時間を割いてここに来ていたネギが言った。

357: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/24(水) 13:43:54.81 ID:9YJvE0O60

 ×     ×

「美味しい?」
「はい、そちらは?」
「美味しい」

近くの公園を訪れたネギと姫神は、
二人でベンチに座りコンビニで買ってきた恵方巻きを食べていた。

「お茶」
「ありがとうございます」
「お寿司。食べるんだね」
「ええ、大好きです。
僕の友達にも、お刺身天ぷらが大好きな友達がいますから」
「そう」

変則的なランチタイムを終えて、二人は一息ついた。

「そろそろ、本題に入りましょうか」
「うん」
「お尋ねしたいのは…」

358: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/24(水) 13:50:10.36 ID:9YJvE0O60
言いかけたネギの優しい目つきに、歴戦をくぐり抜けた猛者の鋭さが宿る。

「ここでじっとしていて下さい」
「分かった」

ネギがベンチを離れ、もごもご言いながら右手を挙げるとベンチは竜巻に包まれた。
それとは別に吹き荒れる突風がネギを取り巻き、
砕け散って粉末状になった落ち葉の一群がネギの鼻を直撃する。
突風の中、三方向から飛び出した黒い影がネギに急接近する。

(こちらの所属を示す霊装所有者に手を出した、口実としては十分。
こぉーんな可愛いぼーやなら、
イギリス清教流の飴と鞭でとろとろに骨抜きのペットにしてあ、げ、る!)

(前回は予想外の事でちょっとした醜態を晒したが、
ヒーローと言ってもパーティーのリーダーとしての実績。
ここでど真ん中から一気に把握して名誉返上汚名挽回!!)

(それだけのパーティーのリーダーで魔法学校の天才的卒業生。
決して油断するつもりはないが相手はお子ちゃま魔法使い一人。
獅子が兎を狩るがごとく三元素による全力の総攻撃で負ける要素が無い。
もう何も怖くない!!!)

「「「ヒャッハwwwwwwwwwwwwwwwww!!!」」」

365: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/26(金) 15:03:02.98 ID:JqCHEx3/0

 ×     ×

「やれやれ。
ぶちのめされるぐらいなら、たまにはいい薬かとも思ったんだけどね」

それは、どこか気取った気怠い口調だった。

「さすがにこの様となると、僕、引いては組織の沽券にも関わって来る」

一部において女性観に関するある種の方向性に関する風聞の側聞される
ステイル=マグヌス氏の名誉のためにも敢えて正確を期した記述を行うと、
ステイル=マグヌス氏は、頭の回りにヒヨコを回転させながら揃って伸びている
ジェーン、マリーベート、メアリエを一秒一秒3.5秒一瞥しながら、
わざとらしくばりっと頭を掻いて顔を上げる。
ネギに向けられた眼差しは決して笑ってはいなかった。

(…掌のカード、火のルーン魔術、
自分を焼かずに使えるのなら推定三千度レベルの術式…)
「Fortis931いいいいいっ!!」

丁度、>がまともに突っ込んできた、と言うのがぴったりのイメージだった。
ネギを包んだ風の防壁がステイルの両手からぶわっと噴き出した炎剣を突き破り、
そのネギの肘がステイル=マグヌスの水月を直撃する。

「ラス・テル マ・スキル マギステル………」

ステイルから距離をとったネギは、杖を振り上げて本格的に呪文を唱える。
二人の周囲が暴風に包まれ、風に巻き上げられたその上空が爆発炎上する。

「風楯っ!」

改めて、体をくの字に折ったままのステイルに駆け寄ったネギが、
杖を上に掲げて呪文を唱える。
上空から落下して来た、拳を振り翳した巨大な炎の巨人が
ネギの展開した防壁にぶち当たり、砕け散る。

366: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/26(金) 15:08:05.06 ID:JqCHEx3/0
「大丈夫ですか?魔法戦の礼儀としてお返ししたんですけど、
想像以上に出力が大きかったみたいで…」
「アハ、アハハハハ、アハハハハハハハハ…」
「…風楯っ!」

察知されて破壊されて再現されて破壊された事を知ったステイルをおいて、
ネギはバッと左手を後ろに差し出し障壁を張る。

バシーンと障壁越しに衝撃が響き、
振り返り駆け出したネギは、撃てるだけの光の矢を空中から無詠唱で叩き出した。
光の矢が空中で次々と爆発する。

後何歩、と言う所まで神裂火織に接近したネギは、杖を下に振り下ろし、
豪傑の鉄鞭、剛槍にも匹敵するワイヤーの一本を地面に叩き付ける。
鞘入りの令刀を槍の様に持った神裂がネギが突き出した杖を鞘で叩き、
そのままねじり上げようとする。双方が弾けて退く。

何度となく鞘に納まったままの刀が突き出される。
ネギがそれを交わす先から先に、神裂の見事な脚線美が柔軟に閃く。
攻め込んでいる神裂だったが、
何度となく身近な空気を裂く杖によるカウンターは肝を冷やすに十分なもの。

((一撃でも貰ったら終わり!))

神裂がまともに打ち込んだ面打ちを、片膝をついたネギが両手持ちにした杖で受ける。
ネギがギリギリ押され、得物がぐるりとねじられる。気が付いた時には神裂は踏み込まれていた。
繰り出される杖の打撃を神裂は猛然と受け太刀し、
大振りの蹴りを放ってそれを交わすネギとようやく距離を取った。

「無茶苦茶ですね」

肩で息をしながら神裂が言った。

「太極拳の槍術、十分に達人と言える技量です。
でありながら、明らかに神鳴流の影響を受けている。
一つの武器で複数の流派を究めるなら、高みに行く程に矛盾は避けられなくなる。
しかし、あなたの技量は小器用に使い分けていると言う次元ではない、
その大元をしっかり呑み込んでいる。そもそも出力が馬鹿げてる」

言いながら、神裂はすーっと令刀を鞘走らせた。

367: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/26(金) 15:13:18.67 ID:JqCHEx3/0
「有り難うございます」

ネギが一礼し、構えを取る。
言う迄もなく、納刀したままの打ち合いは日本刀としてはイレギュラー、
そのフォルムは当然白刃をもって用いるために完成されている。
大体、鞘に納めたままの攻撃を維持するだけでも面倒この上無い。
即ち、ここからが本番。

「Salvare000!」

白刃と杖が幾度となく打ち合い、双方ターンと退く。
空中で光の矢とワイヤーがバババッと弾ける。
その間にもネギは神裂に踏み込まれて必死に刃を交わし、退く。

刃と杖が打ち合う間にも、双方爆弾級の足技が何度となく交わされる。
飛び退き、何カ所も裂かれ辛うじて戦闘不能を免れている事を自覚しつつ、ネギは集中する。
すぐにでも神裂は間合いを詰めてくる。

「小賢しい、っ?」

ぶわっと風が巻き、一瞬だけ視界を塞がれた神裂が気配に刃を振るう。

「つっ」

跳躍した左脚をかすめた刃の感触に一瞬顔を顰めながらも、
ネギは一瞬の遅れだけでやりかけの事を完成させた。

「!?」

とてつもないスピード、神裂はそれを感じてとにかく勘の命じるままに刃を振るう。
距離が開くと同時にワイヤーを放つ。
それが一瞬の交錯だった事が信じられない密度の濃い攻防。
神裂が命を繋いだのは、厳しい修練と歴戦の勘の賜物。
それでも、一瞬の交錯を生き残ったに過ぎない。

368: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/26(金) 15:18:25.46 ID:JqCHEx3/0
「雷の魔術、身体を強化?身にまとって?いや、違う…」

つーっと汗を感じながら、神裂はごくりと息を呑む。
神裂も歴戦の猛者だ。しかも、その中で敗戦は数える程も知らない。
事、一対一であれば俗に言う怪獣や兵器レベルの相手でも
今と同じ条件でタイマンを張ってその上での戦績だ。

雷に関する能力も知らない訳ではない。魔術ではなく神裂が直接知らなくても
典型的には御坂美琴の様な能力者も世の中にはいる。
だが、白く輝く今のネギは明らかにそれら神裂の経験からも逸脱している。
何よりも、能力を「使う」と言うレベルの速さではない、と、すると、

「雷、そのもの?」

次の一瞬、神裂がネギの猛攻から生きて脱出したのは、
彼女も又規格外の歴戦の猛者だったから、
だからこそ、その一瞬を紙一重で生き抜く事が出来た。

(攻勢に転じ、死中に生を、ですか)

神裂の選択に、ネギはどこか嬉しさを感じる。
今の状態のネギであっても、ネギの攻撃を凌ぎ交わしてぶつかってきた
神裂の反撃は決して侮る事の出来るレベルではない。だからこそ、ネギも全力でぶつかる。

故に、双方侮れぬダメージを受けながら、ターンと距離を取る。
そこから踏み込んだネギが、猛然と襲いかかるワイヤーを弾きながら飛び退く。
ネギは神裂から距離を取り、そのまま動きを止めた。

369: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/26(金) 15:21:50.78 ID:JqCHEx3/0
(居合?)

それ自体、脅威だった。
そもそも、2メートル近い令刀で居合など出来る相談ではないのだが、
その辺の常識についてはネギ自身の経験則からも当てにならない事を知っている。
だとすると、居合の一撃必殺は日本刀の最強攻撃。
相手が神裂の様な達人であれば十分すぎる程の脅威。

それ以上に、ネギは嫌な汗を覚える。ネギの経験と勘がアラームを鳴らしている。
ネギ自身がそうしたタイプの術者だから分かる、神裂を中心に恐ろしく精緻な何かが均衡している。

何よりもネギは知っている。その体で知っている。
例え全く同じでなくても、もしネギが考える、知っているものに重なる類型のものであるならば、
それは最強である筈の今のネギだからこそ危ない。この神裂ならやりかねない。

何より、この変な格好ののっぽの綺麗なお姉さんは滅茶苦茶に強い、
強さが馬鹿げているなんて言葉はそっくりそのまま熨斗を付けてお返ししたい。
その馬鹿げた強さでカタナの居合抜きでネギの悪い予感を的中されたら命が無い。
ネギは低く構え、杖を神裂に向ける。

「ラス・テル マ・スキル マギステル…」

勝負は次の一瞬、その次はない。

373: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/28(日) 04:34:40.12 ID:p5Z/rNRW0

 ×     ×

「おいっ!」

緊迫感限界一杯の空気をぶち破ったその声に、二人は視線を向けた。

「神裂?お前、だよな?」

学生ズボンにワイシャツ、
いかにも高校生と言うウニ頭の少年に指差され、ネギは自分を指差す。

「おいっ、姫神はどうしたっ!?」

ネギの視線を追ってウニ頭上条当麻はベンチに駆け寄る。

「おい、姫神っ!大丈夫かっ!?」
「上条君?」
(覚醒が早すぎる?)

ベンチで姫神を揺り起こす上条を見て、ネギは怪訝な顔をする。

「姫神に何をしたっ!?」
「何を?ああ、ちょっと眠って頂いただけです。健康に害はありません」
「どういう事なんだ?お前魔術師か?姫神をどうするつもりだ?」
「取り敢えず、直接お話を伺いたかったのですが…
お知り合いですか?イギリス清教の?」

ネギが神裂に視線を走らせる。

「イエスでありノー、彼は学園都市の一般学生です。
学園都市に関わる事で少々こちらに協力いただいた事があります」
「そうですか」

上条がツカツカとネギに近づく。
神裂が一歩踏み出した時には、ネギは上条に練習杖を向けていた。

374: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/28(日) 04:40:09.99 ID:p5Z/rNRW0
「何かしたのか?」

右手を突き出した上条が険しい顔で言う。

「姫神さんと同じ眠りの霧を嗅いでいただいた筈なんですが」

言いながら、ネギはダッと飛び退いた。

「まさかあなた達がマジック・キャンセルを探し出していたとは思わなかった。
少し厄介な増援ですね」
「彼は無関係です」
「では、どうして姫神さんを?」
「彼女は彼のクラスメイトです」

「だから、姫神がなんなんだよ魔法使いっ!?」
「一般人だと言うなら外していただけますか?」
「じゃあ、姫神も連れて行くぞ」

「それは出来ません。姫神さんには直接伺いたい事があります」
「あなたは知った上で姫神秋沙を連れ回している。
それは、イギリス清教への宣戦布告にも繋がる発言だと理解していますか?」
「それはこちらの台詞です」

上条を制しながら刀に手を掛けた神裂に、
ネギが静かに、しかし威厳すら漂わせて言い返した。

「こういう事は言いたくありませんが、
事はイギリス清教と魔法協会では済みません。それを確かめに来たんです」
「言っている意味が理解出来ない。考えてみれば私達は今争う理由が無い。
なぜ姫神秋沙が関わって来るんですか?」

「先日、僕は商談先の誘いでコンサートを見に行きました。
そうしたら、そのコンサート会場が爆破された。
現場にイギリス清教の上級エージェントがいた。
政治的に言えば、僕の暗殺であれば論外。それ以外でも、よりによって学園都市、
そうでなくてもイギリス清教があんな事件に関わったと言うのならそれは捨ててはおけません」

「コンサートって、イギリス清教の上級エージェント?」
「まさか…」

怪訝な顔をする上条の横で、神裂が呟いた。

375: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/28(日) 04:45:14.66 ID:p5Z/rNRW0
「どこから見ても日本人以上に日本人の学生に見える、
それでいながらイギリス清教でも極めて高い地位の霊装を着用していた。
日本、それも科学の学園都市では余りにも珍しい存在です。
それも非常に珍しいシチュエーションで目撃しました。

これだけでも十分過ぎる程に面倒な話です。
ストレートに組織を通した話にした場合、非常に難しい事になるのはご理解いただけますね?

そもそも、僕としてはイギリス清教と言う組織が愚かな事をするとは思えないし、
であれば尚の事、この奇妙な状況は出来るだけ穏便に秘やかに事態を把握して
どの程度の関与があっても無くても、プランへの支障は最小限に食い止めたい」

「非常に遺憾な誤解です」

見た目丸でそのまま大人と子ども。
それでも、毅然としたネギの態度に揺るぎはなく、神裂の態度にも一分の侮りも無い。
上条が息を呑む程だった。

「あの事件に就いて、イギリス清教が関わったと言う事実は存在しない。
無論、敵対する意思も無い。まして、姫神秋沙はその様な存在ではありません。
姫神秋沙はこの学園都市で我々に何等拘束されず日常生活を送っている。
プライベートでコンサートを見に行った、それだけの事の筈です」
「おいっ!」

神傷の丁重な返答を聞き、今度こそ上条が怒声を上げた。

「魔法使い、お前、まさか姫神があの事件をやった、とか言ってるのかっ!?」
「それを確かめに来ました」
「ふざけるなっ!」

本当なら殴り飛ばしたい所だが、それでも一応の筋が通っているのも分かる。
むしろ、事を荒立てずに身一つで乗り込んで来たネギの真剣も伝わるからこそ上条も踏み止まる。

「姫神はなっ、この学園都市でやっと平穏な生活を手に入れた普通の女の子なんだよ」
「やっと?」
「お前、魔法使いだよな。それなら吸血殺しって知ってるか?」
「聞いた事はあります。吸血鬼を引き寄せ、そして殺す血液の事ですね」
「姫神秋沙はその体質保有者です。ケルト十字架はその抑制の為に下された霊装。
これはあくまで人道的な措置であってあなたが考えている様な意味ではない」

そこで、ネギは少し考え込む。

376: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/28(日) 04:48:22.64 ID:p5Z/rNRW0
「分かりました」

一礼したネギがベンチに近づく。

「悪い、頭に血が上ってベラベラと。喋っちまって良かったのか?」
「いえ、却って助かりました。我々は、手持ちの情報を口に出すのは抵抗があります。
しかし、今回の件はそうは言っていられない。

どこまでが偶然かはとにかく、関わった人間がピンポイントで最悪過ぎる。
ここでもたもたしていたら、疑念を持たれただけでも「魔法」サイド、
そこに協調する全ての勢力がイギリス清教との戦端を開きかねなかった」

目の前でぺこりと頭を下げるネギを、姫神は見上げる。

「姫神さん」
「何?」
「見せていただけますか?」

頷いた姫神が、セーラー服の胸元からケルト十字を引き出す。
ネギは跪き、手に取り一礼する。

「旅先でいいものを見せていただきました、有り難うございます」
「どういたしまして」
「名残惜しいですが、これから予定がありますのでこれでお別れです」
「そう。今日はありがとう。楽しかった」
「僕もです」

言葉を交わしながら、あの二人の言っている事は多分本当だろうとネギは見当を付ける。
勘に過ぎないが、まず、あんな事件に関わるエージェントには見えない。
姫神と話しながら何となく、
いよいよとなったら頭の中を覗く様に手配しようか等とも一応は考える。

377: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/28(日) 04:51:29.11 ID:p5Z/rNRW0
「………神裂、やっぱり一発殴っておくか?ナンカムカツク」

「確かに、あなたの右手であれば常時展開障壁でも打ち抜けますが、
やはり今の内に刀の錆にしておくべきかも知れませんね。プラン以前に、

これ以上

特大の修羅場の発生源を増やしたくないものです」

離れた場所でベンチを眺めながら、至って真面目な口調の会話が交わされる。
その二人に、ネギはスタスタと近づく。

「と、言う事です。
旅先で見かけた素敵な日本の女性に声を掛けさせていただいたのですが」
「分かりました。余り羽目を外さない様にして下さい」
「了解しました。僕はこれから予定があります、彼女の事をお願いします」
「ああ、分かった」

上条が食えないマセガキと思いながらも憎めないと思い従うのは、
お利口に理屈が通っているのと同時に、何かを背負った誠意が感じられるから。
攻撃の行方と共に、心のどこかでそれを察するに敏感になりつつあるから。

「この様な決着でいいんですか?」

目の端でこの場を離れる二人を見送りながら神裂が尋ねる。

「いけませんか?」
「中途半端に後を引かれると却って困ります」
「信じたいと思います、あの人を。
あの人の怒り、友達への思いに偽りが見えなかった」

単純と言われても馬鹿と言われても、そういう心の在り方をネギは知っている。
言いながら、目の前の神裂も又その事を知っているのだろうとネギは察知していた。

378: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/28(日) 04:54:33.50 ID:p5Z/rNRW0
「無茶をします。上級エージェントだと思っていたのなら尚の事、
何が出て来るか分からないとは思わなかったのですか?
あれだけの腕に覚えがあればどうにでもなるとでも?」

「ここは学園都市です。
あなた達が裏で友好的で潜入していたとしても出来る事には限度があります。
それに、今も言った通り、イギリス清教自体がそれ程愚かとも思えませんでしたし、
事を荒立てる事無く最速で最善が求められました」


「自分への危険は度外視、ですか」
「あなたが出て来て多少では済みませんでしたが。久しぶりです」
「え?」

「この夏、思えば随分と無茶をしました。闘い、闘い、闘い。
こちらに戻って来てからは、師匠との修行はあっても、
やはり政治向きの仕事がずっと続いていました。
いけませんね。真面目に任務に当たったあなた達に大変失礼で申し訳ないのですが、
さっきの様に血湧き肉躍る息詰まる緊張感の闘いは本当に久しぶりでした」

「漏れ聞くだけでも彼の地での英雄の働き、最強の称号。
今の言葉は大変光栄なものとして承りました。
正々堂々剣と拳で向かい合って解決出来る事ばかりならいいのですが」
「全くです」

そして、互いに一礼し、背中を向け合って歩き出す。

「食えない政治家でジェントルマン、その中身は男の子、ですか」

今だけは、その心に残るのは清々しさだけだった。

379: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/28(日) 04:57:49.99 ID:p5Z/rNRW0

 ×     ×

「おい」
「ん?」

力尽き、大の字になっていたステイル=マグヌスが顔を上げると、
妙齢の女性が腕組みをして立っていた。
硬い黒い制服ながら、それでも胸がつかえて顔が半ば見えない。

これは、まずいかも知れない。いつの間にか人払いが外れていたのか。
どうやら忘れ去られていたらしく、
三人の弟子もステイルが発見した時のままそのまま転がっている。

「ごめんなさぁーいお仕置きはあぁーんっzzzzz」
「きゃうぅーん飛んぢゃうぅーっzzzzz」
「らめぇぇそんな激しいのぉーzzzzz」

身を起こしながら、ステイルの顔にダラダラと熱い汗が洪水を起こす。

「真っ昼間の公園でいい度胸じゃん。
これは、アンチスキルに対する挑戦かじゃん?」

どごんとルーンを爆発させたステイルは、
そのままぐにゅっとマントの中に三人をかっさらいダッシュする。
とにかく、ここで捕まれば終わる、色々と。

385: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/29(月) 14:51:29.74 ID:h2L6EFVh0

 ×     ×

「あ」

放課後、学園の敷地内で小太郎と夏美と愛衣がばったりと顔を合わせる。

「あ、こっちに戻ってたんだ?」
「はい、連絡がありましたから」

夏美と言葉を交わしてから、愛衣はじっと押し黙る。

「?」
「先日は、有り難うございました」

すーはーすーはー深呼吸した愛衣が、ぱたんと体を折った。

「?」
「どうしたのコタロー君?」
「あ、いえ、学園都市でちょっと助けていただいて」
「あーあー」

尋ねる夏美の前で愛衣がスカートをぎゅっと握って簡単に説明し、
小太郎が思い出した素振りを見せる。

「ああ、そやったな。
あー、あのイギリスの三馬鹿魔女と揉めててなぁ、追っ払ったんや」
「ふーん」

説明する小太郎と聞いている夏美の前で、愛衣は地面を見続ける。

「んー、あん時はよう頑張ってたな」
「有り難うございます。それでは!」

愛衣は、もう一度ぱたんと体を折ってたたたとその場を立ち去った。

386: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/29(月) 14:57:10.76 ID:h2L6EFVh0

 ×     ×

「とうまー」
「インデックス?」

上条と姫神が公園を離れた辺りで、インデックスがタタタと駆け寄って来た。

「とうまにあいさも」
「おいおい、ここまで来たのかよインデックス」
「うん。それで、そのウェールズの…」
「ああ、さっき分かれた所だ」

「分かれた?」
「ああ、えーとあれだ、別の用事で出入りしてたみたいだけど、
姫神が気に入って声を掛けたらしい」
「本当に?」

インデックスがじーっと姫神を見て、姫神はこくんと頷く。

「ほら、姫神っていかにも地味にロングの黒髪で地味に外国人受けしそうな
地味にお人形さんみたいな地味に巫女さんタイプだろ。
そのケルト十字架が気になったってのもあったらしいけど、
向こうさんも忙しいみたいでさ、ちょっとしたデートして大した話もしないでお別れした所だ」

「今の移動、幽幻の域に達しているんだよ…」

すーっと上条の背後に移動していた姫神の手には、白く光る魔法のステッキが握られていた。

「とうま、その魔法使いと会ったの?」

よろりと立ち上がる上条にインデックスが尋ねる。

「ああ、ま、悪い奴じゃなさそうだったぞ。
まあー、お子ちゃまの癖に将来フラグを束で立てまくりの
スーパー女ったらしになりそうな別の意味で危ない奴だったけどな。
しかもあれ、多分天然だから最高にタチが悪いって言うか。今に刺されるんじゃないか」

インデックスと姫神にじっと凝視されながら上条が解説する。

387: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/29(月) 15:02:23.71 ID:h2L6EFVh0
「とうま」
「ん?」
「女たらしって、その、ちゃらおとかいうそういう子だった?」
「いや、正反対。日本語ぺらぺらで凄く礼儀正しくて、
まだ子どもだけどしっかりとしたいい男だったんじゃないですかね」
「匂いがする」

上条の言葉に姫神が付け加える。

「なんとなく。もしかしたら私と同じ。
あの子の目。あの目。何を見て来た目?
もしかしたら。私が見たもの。それを乗り越えたからあんなにしっかりしてる?」
「…そう…分かったんだよ…」

 ×     ×

土御門元春は、舌打ちして携帯を切る。
最初の連絡以来イギリス清教側の要員との連絡がつかない。
それ以外の情報網からも今のところめぼしい情報は得られない。
決して楽観的な状況ではない。トラブルが拡大した場合への備えも必要になる。

直接関わっている相手が相手だ。
特にあのステイルの連れの三馬鹿は、
それがたまたま幻想殺しと禁書目録だっただけで学園都市で一般人連れの標的を殺しモードで襲撃するわ
穏便に動いてる魔法協会を問答無用で拷問掛けるわ、
組織を利用するものとしか思っていない自分勝手な魔術師の典型で本格的に頭のネジがぶっ飛んでる。

そこまで馬鹿ではないと思いたいが、
そんな調子で一応公式訪問中の魔法世界の超大物にして宇宙規模プロジェクトの中心人物に絡んだ日には、
宮殿と寺院に世界滅亡規模の魔法攻撃が来る事すら想定されるレベルだ。

「?」

その時、土御門は、目の前にひらひらと落ちてきた紙片を空中で受け取る。
そして、周囲を見ると、景色が一変していた。
つい先ほどまで学園都市の路上にいた筈が、気が付くと庭に立っていた。

そこは、野生化一歩手前の日本庭園。うっすらと霧が掛かっている。
取り敢えず周辺の捜索を開始した土御門だったが、
途中から目標物を固定して歩いても歩いてもいつの間にか元の場所に戻ってきている。

388: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/29(月) 15:07:43.62 ID:h2L6EFVh0
「無間方処か」

呟いた土御門は、庭園の中の最大のアクセント、そこに踏み込む覚悟を決める。
ここで血まみれになりながら術式の出所を見破ったとしても
その先に何が待ち構えているか分からない。
土御門は手水を使い、にじり口から建物の中に入る。
その向こうは、広いが落ち着いた茶室だった。

「座りなさい」

穏やかにして威厳を秘めた声に勧められ、土御門は下座に正座する。
そして、茶室の主を見た土御門は腰を抜かしそうになった。
茶釜の側、茶室の主の位置にいるのは、
神主を思わせる和服に豊かな白眉に白い髭を長く伸ばした、
それこそトンカチみたいな才槌頭の後頭部からも一房の白髪を伸ばしている老人。

いやいやいやいやアロハにグラサンはねーよすいませんでしたと、
土御門にして全力で非礼にひれ伏して退散したい所だが、それが出来ない事が分かっている。
今までもトップクラスとは決して無縁では無かったエージェントとして腹をくくる。

そして、左前方を見る。その時点で、イメージとしてはグラサンがピシッと音を立てる。
そちらに座るスーツ姿の中年男は、
一見すると不健康そうにやつれの見える顔立ちながら、その落ち着きはただ者ではない。

そのスーツの男が眼鏡の向こうから穏やかな眼差しを土御門に向けた時、
土御門は熱湯の様な汗が背中に溢れるのを自覚する。
そのスーツの男は、傍らの野太刀を引き寄せ柄に手を掛ける。
そして、座り直して目の前にあった盆を才槌の亭主に手渡す。

「御義父様」
「ん」

かくして、才槌の亭主が茶席に今手渡された菓子を回す。
回された最高級の羊羹は精緻に切断され、丹念に塗り重ねられた漆塗りの器には傷一つ無い。

389: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/29(月) 15:11:13.30 ID:h2L6EFVh0
土御門の目の前では、日本人形の様に可憐な少女が、
桃色の地に花をあしらった若い華やぎを匂わせる、それでいて落ち着いた和服姿で茶を点てている。
派手さは無くてもまず粗相をしてフコウダーで済む値段とは思えない和服姿の大和撫子を前にしながら、
土御門元春にしてこれは到底眼福などと言う心境ではない。ただただ喉が渇く。

絹の様に滑らかな色白の肌に淡くも整った顔立ち。
そして、烏羽そのままの艶やかな長い黒髪には可愛らしい花簪のアクセント。
ようやく女の子から少女へと踏み出したと言う辺りの、
ちんまりと小柄で折れそうに華奢な脆さの中にもふうわりとした柔らかさが感じられる。

名のある日本人形、或いは日本画から抜け出た様に端正に整った美少女が
幼少時からである事を伺わせる手並みで茶を点てたその時、
花の蕾の様に柔らかく綻び年頃の娘の温かな明るさをその微笑みに覗かせる。
デルタフォースを除隊した土御門はその高貴さに圧倒され、そして温かさに包み込まれている。
その上に、土御門の知識通りであるならばシチュエーションに圧倒されるしかない。

茶碗が回される。
右前方の上座の女性から土御門は茶碗を受け取る。
こちらは、大学生ぐらいの年頃の美人のお姉様。

薄い紺色を基調に少々あしらった、渋い中にも若さを感じさせる和服姿。
さっぱりとしたショートカットの黒髪に力強さの覗く整った顔立ちは
普段はキリッとしているのが想像できるのだが、
今は落ち着きある年上の女性としての所作の一つ一つが土御門を引き付ける、
筈であった普段であれば。

その女性の一つ上座には、もう少し年上の美女。
こちらも見事にナチュラルな黒髪ロングヘアで、
いかにも若奥様と言った風情の、品のいい薄紫の色無地。
青髪ピアスであれば無限の包容力と表現したかも知れない、
そして、その果てに同居する菩薩と鬼が土御門を圧倒する。

二人の美女の顔立ちは血の繋がりを示す様にどこかに通っているのだが、所持品も似通っている。
土御門としては、その脇に置かれている長い、
手元に切れ込みのある房紐の付いた木の棒に就いては全力で見なかった事にしておきたい所だ。
土御門が漆黒の天目茶碗を手に取り、傾ける。
碗の内側で白く縁取りされ溶け合った星々が瞬く。うん、考えたくない、全力で。

390: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/29(月) 15:14:19.35 ID:h2L6EFVh0
「何事も修行」

亭主が口を開いた。

「若い内はの。故に、後の事は我ら年寄りが引き受ける。
世界を背負うと言っても一人ではない。
何事も修行。
婿君に、と、考えないでもないでもないでもないでもないでもないでもないでもない者、
それぐらいの器量がなくては困る」
「ややわーお爺ちゃん」

美しく整った日本人形から花が綻ぶ様に、
可憐な大和撫子が明るくも品良くコロコロ笑いながらトンカチで突っ込みを入れている、
実にほのぼのと微笑ましく温かな光景であるのだから、
土御門の全身、顔面に、パチンコ台に機械連打されたパチンコ玉の如く
大量の汗が伝い落ちてるのも不思議ではない。

互いの望みが「何も無かった事にする」で一致していると確信し、役目を貫く理性が無ければ、
土御門は間違いなくこの場にひれ伏して額を擦り付けていただろう。

「老人が左様に呑気な事を言っていられるのも、
危うい所で世界の均衡を支える陰の働きがあってこそ。
真に、感謝する」

才槌の亭主が、静かに頭を下げる。
土御門が、床に手をつき礼を返す。

 ×     ×

「おいっ、土御門っ」
「ん?あ、カミやんに、禁書目録?」
「何やってんだお前?」

そこは、科学の学園都市の歩道だった。
そこで、土御門は呆然と突っ立っている所を上条に声を掛けられていた。

「あ、ああ、ちょっとな」
「もしかして、魔術…魔法、の事か?」
「カミやん?」

391: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/29(月) 15:17:43.22 ID:h2L6EFVh0
「解決した、一応な。詳しい事は神裂に聞いてくれ」
「そうか、分かった。何だか知らないけど面倒掛けるな」
「で、それは?」

上条に言われて、土御門はようやく自分が手にぶら下げた紙袋に気付く。

「生八つ橋なんだよっ!」
「おーし、そんじゃー帰ってみんなで食べようかにゃー」

取り敢えず生還して一応の解決を見たと言う所で、
土御門は僅かに気を大きくしていた。

「んで、カミやん、概略だけでも聞いておこうかにゃー」
「ああ、何か一色触発だったぜ。
居合抜き構えた神裂と白く光った子どもの魔法使いが…そっちは?」
「ん?」

紙袋の中身を引っ張り出しながら、上条が指差したのは瓶詰めだった。
本格料亭の味最高級明石の鯛茶漬けのラベルを見た時、
土御門はその場に引っ繰り返った。

「………あのクソガキ三匹、絶対殺す………」

 ×     ×

麻帆良学園女子寮643号室。
この日は、久しぶりの千客万来だった。

今まで、この部屋には何かある度に、
主にネギ目当てのクラスメイトが押し寄せていつの間にかどんちゃん騒ぎ、
しまいに明日菜がブチ切れて叩き出す。これがパターンになっていた。
最近はそのネギがいない上に明日菜も麻帆良を離れがち、随分と静かになったものだ。

そして、この日に集合を掛けたのは、他でも無い神楽坂明日菜その人だった。
集合しているのは、クラスメイトの中から通称ネギま部のメンバー。
そして、運動部四人組と村上夏美。犬上小太郎。
只、その中で一人、ここにはいない人間がいる。

「お待たせ」

そう言って部屋に現れたのは長谷川千雨、そして葉加瀬聡美も同行していた。

392: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/29(月) 15:21:38.39 ID:h2L6EFVh0
「神楽坂に頼んで集合掛けてもらったのは私だ。
まず、そこん所の礼を言っておく。有り難う。
で、今起きてる事を説明する」

そう言って、千雨は茶々丸を促し一同に用意したレジュメを回す。
葉加瀬の助けを借りてモニターとパソコンを接続しプレゼンテーションを行う。

「つまり、千雨ちゃんの友達の鳴護アリサが悪い魔法使いに狙われてるって事でFA?」

大凡の説明が終わった所で明石裕奈が手を上げて尋ねる。
普段はお祭り娘だが今は至って真面目な表情だ。
夏休みを経てネギのプラン、母親の関わった魔法の裏への関心を強めつつある。
そして、長谷川千雨はあの夏を共に闘った友人だ。

「おおよそ、そんな所だ」
「悪い魔法使い、と言う定義が少々微妙ですね」

口を挟んだのは綾瀬夕映だった。

「聖人の能力、それも学園都市が関わって来るとなると、
イギリス清教が必死になるのも分かります。
下手をすると世界規模の文字通り戦争の引き金を引くですから」
「あっちに潜ってた佐倉も一時とっ捕まって水責めの拷問食らったぐらいだ、
相当ピリピリしてやがる」

千雨の言葉に、夏美がぎょっと小太郎を見て小太郎が頷く。

「その辺はお互い仕事の事やけどな。
愛衣姉ちゃんも俺らが助けるまで気張って黙り通したみたいやし」
「問題なのは、魔法使い、魔術師の争いならまだしも、
アリサの周辺で起きてる事が尋常じゃ無いって事だ」

「コンサート会場が爆破された、って…、これ本当に?」
「少なくとも会場は爆破された」
「ああ、俺もこの目で見て来た。化学的に作られた爆弾で計画的に吹っ飛ばされてた」

和泉亜子が震える声で発した疑問に千雨と小太郎が答えた。

「その犯人ってネセサリウスなの?」
「その疑いがある、書いた通りだ」

裕奈の問いに千雨が答えた。

393: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/29(月) 15:24:48.41 ID:h2L6EFVh0
「妙ですね」

夕映が言う。

「コタローさんが言う手口だと、ネセサリウスのやり口とは思えない。
大体、学園都市のど真ん中でそんな派手なテロ事件を起こす性質の組織ではありません」
「それはアーニャも言ってた」

夕映の言葉に千雨も半ば同調する。

「現場にギリシャの魔術師が出張ってた。そっちの方が気になるな」

小太郎が言う。

「アリサさんに関わる電子情報を隠蔽していたのもギリシャの魔術」

夕映が呟いて考え込む。

「だけど、裏の裏をかくって事もあるし、動機からしても科学の学園都市に渡る前にいっそ、って、
組織の上がどこまで噛んでるか、焦ったら絶対無い、って事も無いよね」

朝倉和美が言う。

「そういう事だ」

千雨が言う。

「パズルのピースは足りなすぎる。だけど、起きてる事がデカ過ぎる。
こんな状況じゃあアリサの奴、命が幾つあっても足りない。
現実問題として魔術師は徘徊してる。表の警察じゃあ対処出来ない。
うちの学園の魔法使いもいつ本格的に動けるか分からない」

千雨が、ばりっと頭を掻いて立ち上がった。

「考えたのは一番単純な手だ。
アリサをマークして、出て来た奴をぶっ叩いて引きずり出す」

そこまで言って、千雨が一同を見回す。

394: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/29(月) 15:27:57.81 ID:h2L6EFVh0
「分かっているだけでも侮る事の出来る相手じゃない。
ここにいる全員で総力戦を掛けたいぐらいだ。

だけど、科学の学園都市は一般人でも無断立入禁止、魔法関係はもっと駄目だ。
そこで引っ掛かったらネギ先生や学校に迷惑が掛かる。
悪くすると首が飛ぶ、学校的な意味もそうだけど、最悪物理的に首が飛ぶって事だ。

赤の他人のためにそんだけのリスクがあって、私からの見返りは何も無い。
だから、関わらないのが当たり前だ。関わらないなら今の話は聞かなかった事にして欲しい。
その上で、私の友達のためにみんなの協力をお願いしたい」

頭を下げる千雨の前に、部屋がしんと静まる。

「もう一度だけ言う。
関わらないなら黙って退席して何も聞かなかった事にしてほしい」

頭を下げる千雨の前に、部屋がしんと静まり小揺るぎもしない。
千雨がすとんと腰を抜かす様に座り込む。

「有り難う」

かすれた声で言い、千雨は座り直す。

「神楽坂、近衛、桜咲、茶々丸」
「ん」
「はいな」
「お前らはこっちに残ってくれ」
「ちょっ」
「千雨ちゃんっ?」

千雨の言葉に、明日菜と木乃香が詰め寄る様に声を上げる。

395: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/07/29(月) 15:31:37.97 ID:h2L6EFVh0
「茶々丸はですねー、
そもそも、千雨さんが当初から気付いていたと言う話ですから
麻帆良の外で活動する事自体今の時点では色々ありますし、
科学の学園都市で魔術関連の紛争中に魔法動力で動く、
自我、ゴーストの成立したガイノイドとなると一種の悪夢ですから。
こちらにいて貰います」

まず、葉加瀬が説明した。

「で、茶々丸さんにお前ら三人。
他のみんなには申し訳無いが、ネギ先生のプランを考えるとこの四人はもう一つ別の次元で替えがきかない。
例え私ら全員ぶっ潰れても、あんたら一人でも欠けたらプラン、ネギ先生の根幹がヤバくなる。
だから、何かあっても知らなかった事にしていてくれ。
もちろん、あっちで私らに何かあれば、その時点でネギ先生に大迷惑がかかるって話なんだが…」

まだ何か言いたそうな明日菜を見て、千雨がぎゅっと右手の拳を握った。

「それでも、そこにお前らまで関わってたら余りに事がデカくなり過ぎる。
そうだ。こいつはさ、とびっきりタチの悪いガキの遊びだ」

401: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/03(土) 02:20:56.05 ID:Leh/PzuH0

 ×     ×

「携帯、通信の調整はいいな。
向こうに着いたら今言った通りの班分けと配置で、
私がバックアップで仕切らせてもらう」
「鳴護アリサの居所は分かってるの?」

千雨の言葉に裕奈が尋ねた。

「今日、これからコンサートがある。
出来ればその前に把握したいが、多分勝負はそっからだ」
「携帯持ってるんじゃないの?」
「それなんだが、確かにこっちで渡した衛星携帯は持ってる。
だけど、居場所に関しては私達が直接アクセス出来る状態じゃない」

「科学の学園都市と言う性質上、位置情報を直接確認し合える設定にしておくのは
何かあった場合に却って危険であると判断しました。
もちろん、関係筋に照会したら可能ですが」

葉加瀬が説明を追加した。

「御坂さんには?」

夏美の質問に、千雨は首を横に振った。

「こっちの密入国の規模がデカ過ぎる。
あっちにはジャッジメントもいる、事前に報せて協力するのは無理だ。
ジャッジメントに妨害されるか科学の学園都市の住人であるあの人達に迷惑がかかるか。
総力上げて短期決戦。こっちは余所者、他のやり方は難しい」

402: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/03(土) 02:26:09.44 ID:Leh/PzuH0

 ×     ×

とある病院。
ロビーでバタバタしてる女の子がいる。
まだ思春期にも到達していない、
本当なら今にもはしゃぎ回りたいところを辛うじて我慢していると言った感じだ。
そのアホ毛の女の子に、長身の黒いコートの男が接近する。

「やあ、お嬢さん」
「何か御用?ってミサカはミサカは問いかけてみるー」
「うん、おたくの先生の知り合いなんだけどね、はい飴あげようね」

「知らない人から物を貰ったらいけないんだよーって
ミサカはミサカはペロペロキャンディーの誘惑にぐっと堪え忍んでみる」
「だから、ミサカちゃんのトコの先生の知り合いなんだけど、
その先生からね、ミサカちゃんに急に…」

「なァにやってるンですかァ………」ピキッピキピキッピキッ

「うわーいってミサカはミサカはこの後の修羅場を想像してはしゃいでみたりー」
「だァってろ。便所だ便所、ちょォっと男同士の連れしょん行こう、な」
「ご愁傷様ってミサカはミサカは拝んでみる」

\ごっがあぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!/

「誘い出す様に金で雇われただけってかァ、
ま、嘘は言ってなかったみてェだな。くっそ面倒臭ェ」

大便器を用いて犬○家を演じる愉快なオブジェの前で、
携帯電話を手に凶悪な呟きを漏らしていた。

403: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/03(土) 02:31:17.99 ID:Leh/PzuH0

 ×     ×

「どうしてこうなった?」

早乙女ハルナは、とある公園で頭を抱えていた。
楓のアーティファクトに隠れる形で科学の学園都市への密入国に成功。
事前の計画に従い配置についていたのだが、そこで、一旦行動をストップしていた。

同行していた綾瀬夕映が
自動販売機に張り付いてキラキラした眼差しで釘付けとなっているのはまだいいのだが、
同じく宮崎のどかは、通りすがりの大名行列の先頭に対峙する形で本を開いたまま膠着していた。
その女だらけの大名行列の先頭は、
意外なぐらいに幼い顔立ちからして自分達と同年代にも見える。

だが、そのシルエットだけを見てそう判断する者は稀であろう。
早乙女ハルナも同年代の中では割と自信がある方である、ちょいぽちゃなのも魅力を損なうものではない。
だが、のどかの目の前では、服の上からもぶるんと震えそうなけしからん膨らみが
きゅっと引き締まったスリムな全体から余計に目立っている。

無邪気な眼差しに柔らかな金髪がお人形さんの様だが、
ハルナはその一見悪意無き眼差しに、むしろ悪意が無い方が怖い類の何かを嗅ぎ取る。
のどかの眼前で形のいい唇がふっと歪み、そして、行列を率いて去っていく。

404: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/03(土) 02:36:36.94 ID:Leh/PzuH0

 ×     ×

とある路地裏。
路地裏の風物詩スキルアウトの皆さんが得物を手に物陰から獲物を観察している。

「おい、あれって?」
「マジかよ」
「いや、待て、無能力者に負けたって聞いたぞ」
「しかもなんだ?怪我してんの?」

「もしかして楽勝?」
「って言うか、これ勝ったらやっぱり最強?」
「つー事で」
「ヒャッハwwwwwwwwwwwwwwww!!!」

\ごっがあぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!/

「ま、ままま待ってくれ、おおおおお俺達が悪かった、
手、手を引く。たたた頼まれただけななななななななな」

\ごっがあぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!/

「たたた頼まれただけただただただ
こっちに来るひょろい白モヤシをボコッて土下座させるだけの簡単なお仕事って
はははははいっただ今世界一美しい土下座をををををっっっっっ」

\ごっがあぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!/
\ごっがあぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!/
\ごっがあぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!/

「ほ、本当に知らないんだ。只、金で頼まれてここに来る奴を、
俺ら一人頭イチマン…」

405: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/03(土) 02:40:03.05 ID:Leh/PzuH0
\ごっがあぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!/
\ごっがあぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!/
\ごっがあぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!/
\ごっがあぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!/
\ごっがあぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!/

「だぁーかぁーらぁー…ホントに、しらな…
終わったら、ケータイ、後金…」

\ごっがあぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ………/

「くっそ野郎がァ…」

 ×     ×

「時間だな」

待機中の現場で、シャットアウラ=セクウェンツィアが腕時計を見て呟く。

「私は休憩に入る、後の事はルール通りに」
「了解しました」

黒鴉部隊は近代的な組織である。
根性論に固執せずコンディションを整えるのも仕事の内だ。

「来た」

犬上小太郎の隣で村上夏美が頷く。
路上を進むシャットアウラがマンションの建物玄関の自動ドアをくぐり、
その後ろに、小太郎と夏美がぴたっと張り付いて自動ドアをくぐる。

小太郎と夏美はマンション周辺に張り込んでいた。
可能性は半々、予定時刻までにシャットアウラが帰宅しなければ次の行動に移る予定だったが、
ここは賭けに勝ったと言う事だった。
「孤独な黒子」を発動した夏美と小太郎が手を繋ぎ、シャットアウラを追跡する。

406: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/03(土) 02:43:29.57 ID:Leh/PzuH0
「………」

夏美は、小太郎の掌の汗としっかりとした体格をその身に感じる。
通常モードの外見で小柄な小太郎でも、体力に関しては比べ物にならない。

かくして、居室のドアが開くと同時に、
その行動には無理やりな体勢、手を繋いでかつ抱き締められたまま、
跳躍した小太郎と共に夏美はドアの中に滑り込んだ。

その後から本来の部屋の主が入室する。
とにかく、シャットアウラがアリサの警備をしている事は確か、
それ以上に何かありそうだが、今は少しでも確かな情報が欲しいと言う千雨の方針だった。

 ×     ×

「いたいたっ」

一仕事終えて一旦戻ろうとしたネギの前に、
セーラー服姿の結標淡希が現れた。

「結標さん?」
「ネギ先生、雪広さんから何か変更聞いてましたか?」
「いえ、午前中から会談場所のホテルに詰め切りの筈です。
これから合流しようと思った所でしたが」

「それが、おかしいのよ」
「どういう事ですか?」
「雪広さんの携帯電話、電源が切られてる。
それでも作動する非常用のGPSにアクセスしたんだけど」

結標がPDAに地図を表示した。

「場所が全然違うし、雪広さんが行く様な場所じゃないわ。
こんな所に事情を知らないカタギの女が出入りしたら大変な事になるっ、ちょっ!」

一陣の風が通り過ぎた後、その場に一人ぽつんとたたずむ結標は携帯電話を手にする。

「だから何やってんのよっ!?用意しろって言ったのは…
こういう胸パッカーン魅惑の太股スレスレパンチラは逆効果なんだって何このコスプレ!?
ああ言う子はね、一応先生なの、まんま校則通り野暮ったいぐらいに、だから、
はあっ!?私の趣味だから?××××とケ×ん穴コルク抜き抉るぞゴラアアアッ!!!」

407: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/03(土) 02:46:57.83 ID:Leh/PzuH0

 ×     ×

科学の学園都市風紀委員177支部。

「どう、初春さん?」
「この娘ですか?後ろ髪を巻いたツインテールにしたって言う」
「うん、この娘」

初春が、美琴の依頼で集めて検索した防犯ビデオ映像をパソコンのモニターに映し出し、
美琴が頷く。

「間違いありませんわこの女狐。
過日お姉様とホテルホテルホテルホテルホテルバスローブバスローブバスローブフフフフフフフフフフフ」
「例の事件の関係者?」
「分からない」

佐天の問いに美琴が答える。

「だけど、多分何らかの繋がりがあると思う。
例の、私達の能力開発とは違う何らかの能力。
この娘も侮れない実力だと思う」
「長谷川千雨の一派、ですか」

初春が呟く。

408: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/03(土) 02:50:18.11 ID:Leh/PzuH0
「それも分からない。あの娘も悪い娘じゃないとは思うんだけど…」
「いぃーえっ、お姉様っ!!!」

黒子がバァーンッと机を叩いてから車椅子に着席する。

「今すぐ、総力を挙げてとっ捕まえてひっくくって吊し上げて
この白井黒子直々にお姉様にお近づきになるに当たっての身の程と言うものを…」

「ただ、おかしいんですよね」
「?」

「多分、これなんかやってますよ。
彼女の映像、断片的に見付かっていますけど、途中から不自然に消失しています。
一見すると不自然には見えませんが」

「ハッキングして自分のいた痕跡を消した?デジタル映像を修正して?」
「一つの可能性ですが」
「そういや、あいつらデジタル関係にも変な能力持ってたっけ」

全ての指の間に鉄矢を挟んで踊っている白井黒子を背景に、
初春と美琴が状況を確かめ合う。

「変な能力ねぇ…」

佐天が親指の根元で顎を挟んでうーんと唸り声を上げる。
そして、半ば苦し紛れに人差し指を立てて結論を出した。

「科学の能力開発じゃないって言うんなら、
いっそ、魔法、とでも呼んでみよっか?
実は杖とか箒に跨ってその辺飛んでたりして」

409: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/03(土) 02:54:22.54 ID:Leh/PzuH0

 ×     ×

「はわわわっ!!」

飛行モードの杖に跨って空中を吹っ飛んでいたネギが、
目の前に現れた飛行船を回避して急降下する。
防壁をまとったまま何本かの街路樹を突っ切り、
杖飛行中の常識として発動している認識阻害を身にまといながら
風紀委員177支部の窓の向こうを風の様に横切り急上昇する。

「さぁー、今度こそ頑張りますよおぉぉぉぉぉぉ
あぁぁーーーーーーーーうぅぅぅぅーーーーーーーーっ!!!」

飛行モードの箒に跨って空中を吹っ飛んでいた佐倉愛衣が、
目の前に現れた飛行船を回避して急降下する。
防壁をまとったまま何本かの街路樹を突っ切り、
箒飛行中の常識として発動している認識阻害を身にまといながら
風紀委員177支部の窓の向こうを風の様に横切り急上昇する。

419: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/06(火) 13:35:46.03 ID:2/P3XlId0

 ×     ×

「お待たせ」
「おう」

コンサートホールの外で、夏美と小太郎は千雨と合流した。
そして、適当な物陰を探す。

「ほな、戻るで」
「ああ」

そこに寄って来た少々物騒なナンパ集団を片付けてから小太郎が引き返した。
シャットアウラの部屋に侵入した小太郎と夏美は、
片手同士悪戦苦闘しながら64個とまではいかなくても大量の隠しカメラを設置。
その後で隙を見て部屋を脱出、犬狗飛行でここまで飛んで来たと言う訳だ。
この後、小太郎はシャットアウラの自宅マンションの屋上に戻りモニター監視に勤しむ予定である。

「じゃあ、行くぞ」
「うん」

残った二人は手を繋ぎ、「孤独な黒子」を発動して機材搬入口を探し出して中に入る。

「しかし」
「ん?」

420: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/06(火) 13:40:57.93 ID:2/P3XlId0
「アリサの奴、これが本番直前イベント。
こないだまでのストリートがいつの間にかこんなホールであの大行列。
で、ふらっと来てそん中に入ってる私達。
村上とか宮崎とか、アーティファクトの神様だか協会だかが、
与える人間間違わなくて良かったってつくづく思うよ」

「んー、そんなに私人畜無害なのかなー。
本屋ちゃんならまだ分からないでもないけど」
「安心しろ、至ってまともだ」
「そう」

そう言って、千雨は携帯電話を取り出す。

「…なんだと…」
「どうしたの?」

それは、先行してここに潜入していた筈の楓からのメールだった。

「つけられている、振り切って戻る」

「嘘…」

夏美が呟き、千雨も顔を顰める。

「ここにいるの私達だけ?」
「そういう事になるな。ここで何かあったら火力が足りない。
まあ、それは無いって前提だからそういう配置にしたんだが…」

千雨が苦い声で言う。
相手がネセサリウスであれば、コンサートのど真ん中で何かを仕掛けて来るとは考えにくい。
だが、現実にショッピングモールで大爆発をやらかした何者かがいる。
出たトコ勝負、こうなったら効能自体は高い夏美の能力で出来る所までやるしかない。

「ごめんなさい」
「おい」

夏美が謝り、千雨が夏美に声を掛ける。
と、言うのも、誰かにぶつかったからなのだが、
コンサートホールの通路でもたもたしていては、それは誰かにぶつかると言うものだ。
それでも、今は「孤独な黒子」で存在感を消しているのだから、本来相手も気にならない筈。

421: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/06(火) 13:46:28.98 ID:2/P3XlId0
「おいっ!」
「!?」
「そこにいるのかっ!?」
「!?やべっ!あだだだだだっ!!」

その、結果的には過信により逃走が遅れた。
そして、闇雲に掴み出された右手により、千雨のセミロングの後ろ髪がまともに掴まれていた。

「悪い、だけど今離す訳にはいかないな」
「あんた、上条、当麻?」

千雨の目配せを受けて夏美が離脱した。

「ぶつかった時に右手が掠めたんだな。一瞬だったけど、
それでいたりいなかったりしたからな」
「マジック・キャンセルかよ…」

次の瞬間、上条は千雨の髪の毛から右手を離し、さっと身を交わして右手で掴み掛かった。

「その消える魔術、攻撃する瞬間には途切れるらしいな。
悪いけど、少しは喧嘩慣れしてるんで、女の子にそんな回し蹴りされても、な…」

その通り、上条の目の前では、右手に「孤独な黒子」を掴んだ夏美が、
ついつい素人が派手にやりがちな回し蹴りを交わされ、
危うくずっこける所を上条に体を掴まれ辛うじて踏み止まっていた。

「ん?」

そこで、上条当麻は葛藤する。
敵か味方かはよく分からないが、自分の政治的立場と相手の特性を考えると、
今、もう一度透明化させるのは決して得策ではない。

だからと言って、ようやくその掌の中に違和感と言う程の弾力に気付いた上で、
更に掴みっぱなしにしておくと言うのも別の意味で色々と問題が生ずる。
そのほんの何秒かの葛藤の間に、
夏美の顔が青くなり赤くなり、千雨のイメージ背景がゴォーッと業火に包まれてカーンとゴングが鳴る。

422: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/06(火) 13:52:08.01 ID:2/P3XlId0
「いぃぃぃぃぃぃぃぃぃやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…」
「わ、わりっ…」

夏美の悲鳴は最早悲鳴にならず、上条が常識的な速度で常識的な判断に至った時には時既に遅く、
魔法世界の新たな英雄にして救世主を宙に舞わせて来た長谷川千雨の拳は今日も快調な滑り出しだった。

「あー、今のは上条さんが悪かった、ごめん」

電灯代わりに突き刺さった天井からボコッと頭を抜いて着地した上条が、
バツ字の腕で体の前を抑えた涙目の夏美と
玩具にしか見えないミニステッキを構えてじりっと後ずさりする千雨に近づく。

「改めて聞くけど、お前ら魔法協会の魔法使いだろ?」

上条が、周囲に聞いてる者がいないのを確かめて小声で尋ねる。

「曖昧で悪いが、違う、とも言い切れないけど完全にそうだって事でもない」
「ああ、何か正式な魔法使いとも違うってな」
「あんたこそ、どうしてそんな事情に詳しいんだ?インデックスと一緒だったからか」
「まあ、そんな所だ」

上条当麻と長谷川千雨、お互いカードの読み合いが始まったと自覚する。

「お前ら、アリサの敵なのか、味方なのか?」
「味方だ」

千雨が即答する。
上条当麻の事を詳しく知っている訳ではない。
だが、鳴護アリサが全幅の信頼をおいている「いい男」。

現に、自分達の間では決して高いとは言えない筈の戦闘能力、
しかも、そういう世界である事を自覚しながらも
拳一つで決して退かなかった「漢」の姿は千雨も見ている。

それも又裏がある、とは考えたくもないが、
二対一とは言え相手は男、喧嘩慣れしていると言うのも嘘ではなさそうだ。
「孤独な黒子」があってもマジック・キャンセル相手では今の様に万が一もある。
今、真正面からやり合うのは得策とは言えない。

423: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/06(火) 13:56:42.82 ID:2/P3XlId0
「同じ質問をする」

千雨が上条を見据える。

「あんたを信じていいのか?アリサのナイトとして?」
「俺はそのつもりだ」

上条も正面から応じる。

「分かった。悪いがここまでだ、あんたとは相性が悪い。
こっちで出来る事をやらせてもらう」
「おいっ、待てよっ!!」

目配せと共に夏美と千雨が姿を消し、上条が逃すかとばかりに掴み掛かる。
そこで、上条当麻は葛藤する。
敵か味方かはよく分からないが、自分の政治的立場と相手の特性を考えると、
今ここで透明化させずにしっかりと話し合っておく必要がある筈。

だからと言って、突き出した右手の中に捕らえた違和感と言うにはしっかりとし過ぎた
少なくとも先ほどとは倍掛けの確かな弾力に気付いた上で、
更に掴みっぱなしにしておくと言うのも別の意味で色々と問題が生ずる。

そのほんの何秒かの葛藤の間に、
長谷川千雨のイメージ映像はドゴーンと噴出する火柱に包まれていた。

「わ、わり…」

汗だらっだらで上条が常識的な速度で常識的な判断に至った時には時既に遅く、
魔法世界最強の傭兵にして理屈無用の最強バグキャラチートを一撃した
長谷川千雨の跳び蹴りは今日も快調な滑り出しだった。

「わ、わり、ぃ…」
「おい」

通路の床に這いつくばっていた上条当麻が顔を上げると、
相手の二人は既に姿を消して、妙齢の女性が腕組みをして立っていた。
硬い黒い制服ながら、それでも胸がつかえて顔が半ば見えない。

「警備に駆り出されて誰かと思えば、
コンサートだからってナンパから先のステップスピード違反し過ぎじゃん。
月詠先生が悲しむじゃん」
「あ、あのですね、これにはふかーい訳が…」

424: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/06(火) 14:00:14.67 ID:2/P3XlId0

 ×     ×

「俺は内臓潰しの横須がああああっ!!
あいつらを可愛がっでえええええ!!!
れたようだなあぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」

いかにも数カ国に及ぶ傭兵上がりと言わんばかりのむきむき人間兵器外見な巨漢が、
ゴキゴキ首を鳴らしながらむくりと立ち上がる。
但し、その大木の如き両脚は既に震動を開始している。

「だがしがあぁぁぁぁぁいぃぃぃぃぃぃっっっ!!
まずい所にぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっっっ!!!
ここは後がいおおおおおおおおおおっっっっっ!!!
対能力者戦闘のえぎずばあああああっっっっっ!!!
ざばの前にだっぢまっ、だあああああっ!!!」
ぎ、ざ、ま、ば、ご、ご、で…」

巨漢が、朽ちた大木の如くずーんと倒れ込む。
確かに、前回の反省からか口上と突進が同時進行だったのだから
その間に攻撃を受けても文句の言える筋合いではない。

「大丈夫アルか?」
「あ、ええ、有り難うございます」

にっこり無邪気に微笑む少女に手を差し伸べられ、
薄汚い路地裏で腰を抜かしていた原谷矢文は素直にその手を取る。

周辺は既にして死屍累々。
それに対する中学生ぐらいのむしろ小柄な少女の動きは実に軽やかで、
それでいて一撃一撃はとてつもなく重い。

それより何より、これで何度目かの遭遇だろうか、
ここでぶっ倒れた巨大モツ鍋ももこんな所でケチなカツアゲしてないで
世界征服でも企んで下さいよと言いたくなるいいキャラであるが、

こちらの初対面の少女も褐色アジア系にチャイナ服で多分中国拳法で見た目結構可愛くて、
怪し過ぎるアル言葉で拳銃よりも早くスキルアウトの大群を轟沈と、キャラが立ちすぎている。

「うむ。しかし、路地裏のチンピラにしてはまあまあいい根性をしていたアルね。
あれだけヒットして立っていられたとは」

425: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/06(火) 14:03:37.38 ID:2/P3XlId0
「ごん、ぢょう」

そのチャイナ娘の言葉に、あの巨漢横須賀がゆらりと立ち上がる。
あー、気持ちは分かる、と言うのが原谷。

「あ゛あ゛ー、確がにー、俺はごんなモンだぁ。
げどなぁ、本物の根性、ってのはこんなモンじゃねぇー。
女ぁ、お、前は、まだ、しら、れぇ…」

巨漢が、朽ちた大木の如くずーんと倒れ込む。

「本物の根性アルか」

 ×     ×

「ニンッ!」

科学の学園都市だからこそ、その方々に造成された緑地帯。
その、とっぷりと陽も沈んだ森の一角で、
長瀬楓がさっと身を交わす。
そして、楓のいた辺りの樹木にピシッ、ピシッと着弾する。

「もう一度だけ聞く、居場所はどこだ?」
「だから、その様な者は知らないでござる」
「甲賀者が学園都市をうろついていながらか?」
「んー、何の事でござるかなー」

楓がタッ、と飛び退き、木の幹に券銃弾が着弾した。
確かに、射撃の腕は悪くないのだろう。
それで、今の所は身を隠して狙っている自分が楓よりも優位である、
そう受け取っている口ぶりだった。

とにもかくにも楓としては大切な私的任務中である。
拳銃をぶっ放す様な相手なら会場を離れて誘い込んだ判断は正解だったが、
こんな所で時間を掛けてはいられない。

431: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/08(木) 13:59:26.89 ID:zmk7ZZy/0

 ×     ×

言葉にならない。
手を繋いだままコンサート会場に忍び込んだ千雨と夏美は、
圧倒されるばかりだった。

過去、二人が直接鳴護アリサを目にしたのは一度だけ。
千雨はライブも見ているがそれは普段着のストリートでの事。

しかし、今、熱狂的な歓声を浴びながらステージ上に現れたアリサは、
赤い、凝ったチアリーディングと言った感じの
ステージ衣装に身を包んだステージ上のアイドル。
歌い出し、そして歓声。二人はそれだけでKO級に圧倒された。

「…凄い…」

夏美が震える声で呟く。
やはり、言葉にならない。文学的にも論理的にも。
出来る者はいるのかも知れないが、少なくともその表現はどこぞのヘボ作者の手には余る。

只、ここに直面し心を震わせる。
夏美が手に痛みを感じて隣を見る。
夏美の手をぎゅっと握った千雨の表情は真剣そのものだ。
千雨の喉がごくりと動き、息まで荒くなっている。

「…これが…アリサ…」

千雨の口から漏れる呟き。たたえている様であり、恐れている様である。
その諸々を全て呑み込ん心を幸福で満たす。
一曲目が終わった頃には、それはよくよく自らの気持ちとして理解出来る事だった。

432: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/08(木) 14:04:36.38 ID:zmk7ZZy/0

 ×     ×

夢の様な、そして、丸で戦場から帰還したかの様でもある。
そんな一時が終わり、千雨と夏美は通路にいた。
千雨は、パンパンと掌で顔を叩く。

そして、慣れないチームリーダーの顔を無理やり取り戻す。
泣きたい、叫びたいその心を一度深呼吸と共に呑み込んで。
千雨は、イヤホンマイク接続の携帯電話を操作する。

「もしもし、朝倉」
「ああ、千雨ちゃん、いけるよこれっ」
「ああ、詳しく頼む」

「私のスパイゴーレムが目標捕捉した。イギリス清教と鳴護アリサね。
ネセサリウスの方は千雨ちゃんに聞いた見た目分かり易過ぎたから
そっちがライブ中だと思って近くにいる奴を動かした。
鳴護アリサは今さっき出て来た所を捕捉。取り敢えず尾行させるって事でいい?」

「それでいい、もう始めてるんだろ予定通りに」
「ばっちり」

今回潜入した千雨他ネギ・パーティーの大部分によるチームは、
携帯のGPS機能とPDAによりメンバーの居場所が把握出来る様になっている。

但し、把握出来るのはリーダーの千雨とサブリーダーの朝倉。
和美がサブリーダーになったのは第一にアーティファクトの性質故だが、
無論その頭の切れも買っている。

全員が把握出来る形も考えたのだが、万一と言う事がある。
こちらの人数が少なくない、決して侮れる相手ではない以上、
一人捕まって芋蔓と言うのは避けると言う事になった。

433: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/08(木) 14:09:48.15 ID:zmk7ZZy/0

 ×     ×

「………」

全くもってかしましい。
但し、日本語が堪能と言っても外国人の限度である以上、
ここで、丁度女三人、一番相応しい漢字における表現にまでは思い至らないステイル=マグヌス。

そのステイルの目の前では、メイド服型ユニフォームやらカチューシャやらを手にした三人娘が
ピーチクパーチクワーワーキャーキャーさえずっている。

その様子を、三人娘の師匠と言う事になっているらしい。
なっているらしいと自ら心の中で解説するステイル=マグヌスは、
指に挟んだ煙草の煙を頭上の換気扇に吸わせながら、長椅子に掛けて黙って見守っている。

「ししょー、問題はありません。予定通りこれでいきます」
「そうかい」

ステイルがやれやれと立ち上がり仕切りカーテンに手を掛ける。
そして、しゃっと横に手を動かす、筈だったのだが実行はされなかった。
ドガーンと音を立ててぶち破られた扉に、中の四人の目が集中する。

「ししょーっ!?」
「しまっ!?」

自分を撃ち抜いた何かと共に、ステイルは物凄く嫌な感じを覚える。

「きゃあっ!?」
「わあっ!」

狭い室内であり、撃ち抜く的が、
動こうとした先から中途半端に身に着けていた黒い衣装やメイドワンピが
引っ掛かってすってんころりんな事を差し引いても見事な速射と言うべきだった。

「君達は?」

煙草を挟んだ二本指を垂直に立てた余裕ぶった態度でステイルが尋ねる。

434: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/08(木) 14:14:53.07 ID:zmk7ZZy/0
「通りすがりのチャイニーズアルね」
「同じく通りすがりのカウボーイ」

「どこの世界に駐車中のトラックのコンテナの中に扉ぶち破って
通りがかるチャイニーズとカウボーイがいるんですかっ!?」
「そーよそーよ、それってまんまホールドアップよっ!」
「うん、それが分かってるなら話が早い」

魔女っ子達の当然の抗議の声にニカッと笑って自称カウボーイ明石裕奈が応じ、
さっとジェーンが先頭に回り扇子を振る。

「はれ?」
「あー、涼し。空調効いててもコンテナって蒸すねー。
さっきのであんたらの魔力大幅削減だから無駄な抵抗やめといた方がいいよ。
と、言う訳で、皆さんちょーっと一緒に来てくれるかなー?
出来れば穏便に話を付けたいんだけど」
「話にならないね」

ステイルが鼻で笑って立ち上がる。

「大体、君はどこから見てもボーイではないだろう。
やはり英語は難しかったのかい?」

そのステイルの言葉に、ジェーンとマリーベートは右見て、左見て、
イザ潜入と準備中に不意打ちを食らったメアリエと
自称カウボーイのバリッバリのアーティファクト衣装を見比べる。

ざっくざくの山型にカッティングされた衣装からはみ出しそうにけしからぬ存在感は、
憎ったらしいメアリエにも勝るとも劣らない、
我が同盟の敵がもう一人増えたと、ジェーンとマリーベートは頷き合う。

「ふーん、身一つで盾になるとか師匠冥利だね」

両腕を広げてステイルの前に両腕を広げて立ちはだかる魔女三人を見て、裕奈が言った。
だが、実際問題やり難い。バンバンバンバンと射撃してしまえば話は早いのであるが、
魔力を封印してしまえば見た所ちびっこい可愛らしい女の子相手に躊躇を覚える。
まして、古菲が自分の拳を使うのはもっとそういう事になる。

435: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/08(木) 14:18:08.78 ID:zmk7ZZy/0
「そんなものじゃないよ」

ステイルが言った。

「魔術師とは自分勝手なものさ。こうする事が得だと分かっている、それだけだ」

裕奈が息を呑む。ゆらりと前進するステイルの行動はハッタリには見えない。

「イノケンティウスッ!!」
「なっ!?」

弟子三人がザッと展開し、裕奈は光線を発砲しながら飛び退く。

「ハッ!」

その裕奈に殴りかからんとした人間型の炎に古菲が如意棒を叩き付ける。
果たして、炎は一瞬拡散したもののすぐに元の形を取り戻す。

「このおっ!!」

裕奈が炎に立て続けに発砲するが、一瞬縮小してもすぐに元に戻る。
ステイルが発動したのは完全証拠隠滅用に、
このコンテナに予め設置しておいたルーンを用いたもの。
つまり、裕奈に何割減されても分母が巨大すぎて人一人灰にするには十分な計算だった。

「亜子っ!」
「はいなっ!」

(魔力が急上昇っ!?)

「チイッ!」

背後から巨大な注射を射たれた裕奈の発砲した光線がイノケンティウスを爆散し
その向こうの壁までぶち壊してステイルは辛うじて身を交わす。

436: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/08(木) 14:21:15.63 ID:zmk7ZZy/0
「散れっ!」
「くっ!」

ステイルの指示で弟子達も走り出す。
それに対応しようとした裕奈は、復活したイノケンティウスへの対処を先に迫られる。
イノケンティウスに背中を見せられない裕奈の隙を突いて、
魔女っ子三人はコンテナから駐車中の空き地に転がり出た。

「捕まえたっ!」
「くっ!」

メアリエが佐々木まき絵のリボンに脚を取られてスリップする。
その地面を走るリボンにステイルが飛び付いた。

「行けっ!」
「はいっ!」

リボンが焼き切れ、メアリエが這々の体で走り出す。
本来は人体など瞬時に蒸気にする炎剣を一瞬だけ掌で包み込んだ局所に集中したステイルが、
全く馬鹿馬鹿しいと思いつつも掌のルーンカードをまき絵に見せながら威嚇する
その威嚇が効いているらしいオツムの相手に苦戦していると言う事が又悔しい。

「このっ、このっ、このおっ!」

半ば乱射に近い状態になっているコンテナの裕奈を見て、
アキラが携帯を操作した。

437: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/08(木) 14:24:44.68 ID:zmk7ZZy/0

 ×     ×

「大河内か?は?何?ああ分かった」

電話を切った千雨が電話をかけ直す。

「出てくれよ…もしもしっ!」
「はい」
「急ぎだ、ステイルが使う消えない炎の消し方分かるか?」

「ステイルの、消えない?…何してるんですか長谷川さんっ!?」
「だから急ぎだ」
「すぐにその場を離れて下さいっ!!」
「頼むっ!」

「…ルーンです。炎は影か鏡像みたいなもの。
周辺に張られた大量のルーンカードが本体ですっ!
今どこにいるんですかっ!?今すぐ…」
「悪い、佐倉」

電話を切った千雨がかけ直した。

438: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/08(木) 14:28:01.11 ID:zmk7ZZy/0

 ×     ×

「まき絵っ!」
「オッケーッ!!」

アキラとのコンタクトでまき絵がコンテナに飛び込んだ。
追跡しようとするステイルの前にアキラが立ちふさがる。
ステイルが本調子であればその場で灰にされていた所だ。
イザとなったら、近くに用意しておいた水たまりにワープするしかない。

「ゆーな、ちょっとだけあいつお願いっ!」
「分かった!」

裕奈が発砲し、瞬間だけ炎人形が吹き飛ぶ。

「!?」

ステイルが目を見張り、吐き捨てそうになる。
まき絵のリボンがざーっとコンテナの壁を、天井を一掃していた。
ステイルが舌打ちして横に走り出す。

「待て…」
「死にたいのかっ!?」

憎々しげなステイルの言葉に、一瞬だけアキラの足が止まる。
それは、紛れもなく本物の人殺しの迫力。
そして、アキラが直接的な攻撃魔法に乏しい事を察知した現場の勘。

実際、只組み付いて来るだけであれば、
今の自分でも、筋肉から内臓まで貫通する程度の近距離魔術なら
どうにか出来る自信はステイルにもあった。

439: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/08(木) 14:31:30.13 ID:zmk7ZZy/0

 ×     ×

「待つアルねーっ!」
「あああーしつこいっ!」

苛立ちながらも、絶体絶命のピンチだった。
こうやって、右手に魔女衣装左手にメイドワンピを握ったまま這々の体で空き地を脱出したマリーベートを
あのチャイニーズがドドドドドドドドと効果音を立てる勢いで追跡して来ている。

いつもなら土の魔法で相手の脚を拘束すれば追跡を止めてもお釣りが来る、
土の筒に脚を飲まれている所をボッコボコにしてやってもいい所なのだが、
今回はそれが上手く発動しない。
ボコッ、ボコッと多少デコボコに隆起する地面を
あのチャイニーズはホッホッと面白そうに避けて突き進む。

いやいやいやいや、ああ言うのは映画の中の話であって、
本物のチャイニーズがみんなカンフーマスターだとかそういうのは、
日本に来たらチョンマゲで刀差してゲイシャが歩いている類の話だと思ってたら、
その映画みたいな一撃必殺を目の当たりにしてくれる非常識が
そんな弱り目に祟り目のマリーベートを追跡して来ているのだからたまらない。

しかも、任務の性質上、余り目立つ訳にもいかない。
追い回されている上にアンチスキルなんかの保護欲をかき立ててもいけないのだから
ややこしい事この上無い。


そんなこんなで、古菲とマリーベートは表通りを避けて、
いつの間にか空き地のコンテナ置き場で追いかけっこしていた。

マリーベートがコンテナの曲がり角を曲がる。古菲がその後を追う。
ドッパーンッと盛大に爆発し周辺にもうもうと立ちこめるカラフルな煙と共に、
吹っ飛ばされた古菲が空き地に弾き戻された。

440: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/08(木) 14:34:37.89 ID:zmk7ZZy/0

 ×     ×

「もしもし」
「もしもし、定期連絡です。無事ですね?」
「はい、お姉様」
「何か分かりましたか?」
「いえ、特には」
「そうですか」

「あの、お姉様」
「何ですか?」

「今後の参考までにお伺いしたいのですが、
もし、今回の件で長谷川千雨さん辺りが痺れを切らして
ネギ・パーティーを引き連れて科学の学園都市に侵入して
ネセサリウスと交戦状態に突入した、何て事になったらどうなるでしょうか?」

「ネギ先生がいないとは言え、
ネギ・パーティーはそれ自体があの夏の世界戦争レベルの帰趨を決した、
とてつもない潜在能力レアアイテムを所有する一大勢力です。人数の問題ではありません。
魔法協会も含めて裏同士で探り合い殴り合いをしている程度ならやり様もありますが、
そんなものがよりによって科学の学園都市で真正面からぶつかり合ってそれが表沙汰になった、
なんて事になったら」

「なったら?」

「既に我々が調査に着手していると言う事情もあります。
そんな事になったら、他の魔術勢力への説明と言うものもあります。
私達も上の先生達もまとめてオコジョ、と言う事も十分にあるパターンです」

「そ、そうですよね」

「そうです。ですから、もしその様な徴候を発見したならば直ちに対処しなさい。
いくらあのいけ好かない極道神父その他が相手だと言っても、
間違ってもネギ・パーティーが彼らを襲撃して直接交戦状態に突入する、
等という洒落にならない事態に陥らない様に迅速に対処するのです」

「リ、リョウカイシマシタキモニメイジテオネエサマ」

444: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/09(金) 04:11:34.24 ID:16trXnbX0

 ×     ×

科学の学園都市内、とある男子寮。

「?」

工山規範は、玄関ドアの妙な物音に気付いて首を傾げる。
施錠はしていた筈だが。
腰を浮かせて玄関に向かった工山は、その途中で腰を抜かした。

「よォ」
「ま、ままままま、待ってくれっ!」

腰を抜かし、歯をカタカタ鳴らしながら工山は絶叫していた。

「た、たたたた、頼まれた、知り合いに頼まれただけなんだ、
た、たたた、只、見たいもんがあるからちょっと入口を開けてくれって、
アアアアア一方通行襲撃計画に使われるななななんて事はししししし知らなかった
知らなかった全然知らなかっただだだだから…」
「あァー」

腰を抜かし、右手を突き出して絶叫する工山の言葉を、
一方通行は平常運転でだるそうに聞いている。
そして、一方通行はテーブルの上に襲撃者から取り上げたノーパソを置く。

「これからお前ェがやる事を教える」
「ま、待ってくれっ!」
「あァ?」

「い、今、条件付きの保護観察中なんだ。
だから、パソコンに触る事すら禁止されてる」
「運良く発覚せずに済むか悪くすると檻ン中か
今すぐ鶏ガラな感じの肉塊になるか、五秒で選べ」

445: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/09(金) 04:16:38.18 ID:16trXnbX0

 ×     ×

科学の学園都市風紀委員第177支部。
初春飾利がパソコンのキーボードを離れて携帯電話を手にする。

「はい、幾つかダミーを噛ませてますけど間違いないです。
電波の発信源と何よりも解析した花の形からして彼のものであると。
記録は確保しました。性質上令状は間に合わないかも知れませんが注意だけでもお願いします」

電話を切り、クッキーを摘んだ初春はパソコンに目を向ける。

「又、上書きされてますね。今度はどこから…」

 ×     ×

「ニクマン・ピザマン・フカヒレマン!!」フオオオオオッ
「き、気合い入ってますね」

麻帆良学園内に隠匿されている学園警備オフィスで、
ナツメグこと夏目萌が弐集院に声を掛ける。

「佐倉君、マークされているよ」
「え?」

「科学の学園都市、君達が動ける様に、
あの街の通常の裏セキュリティーから除外される様に仕組んでおいた訳だが、
個別設定で佐倉君の顔面認証データを入力して
街頭カメラが察知したらあちらの学園都市内のどこかに送信するプログラムを組んだ人間がいる」

「なんですって?」

「対処していた電子精霊が手に負えないとマスターの僕に泣き付いてきた。
相当手強い、一流のセキュリティーとしてハッカーと言うものをよく知っている相手だ。
さり気なく改竄しておいたものをすぐ後に正確に察知して地雷まで仕掛けて待ち構える。
僕はその上を行って再度改竄する。この鼬ごっこだ。丸で抗生物質と耐性菌みたいにね。
ここまでお互いに拠点と見せかけたダミーを幾つも潰し合って、それがダミーだと察知して対処してる」

「詳しい事は喋っていないと言っていましたけど、
さすがにあちらのレベル5に接触したのは痛かったですか」

446: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/09(金) 04:21:50.94 ID:16trXnbX0

 ×     ×

「こ、これ以上はマジで無理だ。
本当だ、本当に開かないしこれ以上アクセスを続けたらか、確実に殺られる」
「そォか」

「しかし、なんなんだこれは?
僕には通用しなかったけど追跡回避に並のハッカーじゃ抜けられない規模のサーバー噛ませて、
それで、辿り着いた先も巧妙な偽装に包まれた正体不明カップル、いや、カップルって言うより…」
「深入りすンな」

それだけ言って、一方通行はひらりと窓から飛び降りる。

「おいっ、ここは…」
「おーい、開いてるのかーっ」

玄関から最近聞き慣れた声が聞こえる。

「家庭訪問じゃん真面目にやってるかー」

 ×     ×

「ああ、分かった」
「どう?」

電話を切った千雨に夏美が尋ねる。

「逃げられた、取り敢えずもうちょい周辺捜索するらしい」
「そう」
「だが、ステイルと三人娘には明石が魔法禁止食らわせた。
完全とはいかなくても戦力としては大幅減。幸先は悪くない」

千雨が自分の言葉に納得する様に頷く。

「…待てよ…」
「ん?」
「いや、さっき上条当麻、なんで…」
「何?」

「魔法協会とかの政治的な枠組みを知ってるのは分かる。
だけど、つい最近この世界に関わった私達の事、
正式じゃない魔法使いがいて、それでこっちで動いてる。何でそんな事知ってるんだ?」

447: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/09(金) 04:27:16.58 ID:16trXnbX0

 ×     ×

「間に合ったぁ」
「大丈夫?」

事前に集合場所に決めておいた路地裏で、
最後に現れたマリーベートにメアリエが尋ねる。

「ええ、何とかまいて来たから」
「でも、困りました」

ジェーンが浮かない顔で言う。

「まだ、力が完全には戻りません」
「恐らく、時間制限で魔力を制限する術式だろうね。
時間が経てば元に戻る感触だけど」

ステイルが嘆息して言う。

「でも、このペースだと…」
「作戦時間ぎりぎり、だな」

そう言いかけたステイルが通りに視線を向けた。

「不幸だ…」

幸いと言うべきか、調書を取る前に「被害者」が姿を消した事もあり、
あくまで事故と言う事で謝り倒してお説教で済ませてもらって
コンサート会場を後にしたウニ頭がぶつぶつ言いながら歩いていた。

「上条当麻」
「お前らっ!?」

つい先日も派手に殺し合いをしたばかりの魔術師軍団がずらっと目の前に現れたら、
只でさえ不幸体質を自認し、たった今まで不幸だった上条当麻が警戒するのも当然である。

448: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/09(金) 04:30:31.04 ID:16trXnbX0
「ああ、僕らも忙しいからね。これから奇蹟の歌姫を拉致監禁して
千客万来のギャラリーの前に生まれたままの姿で逆さ吊りにして
何が何でも自白する魔女裁判に掛けてから生贄の祭壇に鎖で大の字に縛り付けて
我がロンギヌスの槍をもってその処女地の奥深くに生命の源を注ぎ込んで
その紅と白の体液を百八回ドクロに塗り込めたしかる後に
牛に引っ張らせて八つ裂きにしてその心臓を捧げる儀式を行う予定だから
君と遊んでいる暇は無いんだよ分かったか馬鹿が」

[sogebu][sogebu][sogebu][sogebu]

テレパシールーンを手にした四人の魔術師が軽快に通りを疾走する。

「ばっちりです、フルパワーいけますっ!」
「でもぉ、女の子の顔をグーで全力殴ります普通!?」

「上条当麻だからな」
「でも、これでは次の作戦が」
「ごまかせ、出力不足よりはましだ」
「はうぅ…」

「それよりも…」
「うん?」
「イギリス清教に対する非常に深刻な誤解が生じた様な気がするのですが…」
「そんなもの、生きていればどうとでも説明出来る」

そこまで会話して、ステイルは別の通信霊装を取り出した。

「あらステイル、随分と愉快なる儀式をプロデュースしたりけるのかしら?」
「………」
「私の知りける限り聖書に左様なる記述はなかりけるのだけれども
取り敢えずは異端審問の準備をしておけと言わんとしているのでありけるのかしら?」

449: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/09(金) 04:33:38.30 ID:16trXnbX0
まだ、ぱたぱたと水滴の音が聞こえる。

「おい」

ウォーミングアップ代わりに
周辺の消火栓全部から総攻撃を受けて引っ繰り返っていた上条当麻が顔を上げると、
妙齢の女性が腕組みをして立っていた。
硬い黒い制服ながら、それでも胸がつかえて顔が半ば見えない。

「ナンパに失敗した腹いせにDQNな水遊びか?
いい加減、月詠センセが泣く前に
涙も出なくなるまで締め上げた方が良さそうじゃん」

 ×     ×

ネギが降り立った所は、これから大型の工事が行われる所らしく、
現在は資材置き場となっている広い空き地だった。
直接的には察知出来ないが、何か嫌な感じがする。

「!?」

ネギが、ハッと向きを変えて防壁を張る。
それでも、地面から伝わって来た強烈な衝撃波を受けて、
ネギの小さな体は軽く吹っ飛ぶ。
ネギは、とっさに出所と目される資材の山に光の矢を撃ち込む。

「?」

光の矢が、物陰に入ってから変な方向に打ち上がった。

「ネェェェェェェェェェギィィィィィィィくゥゥゥゥゥゥン!!!」

450: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/09(金) 04:36:40.85 ID:16trXnbX0

 ×     ×

麻帆良学園都市世界樹前広場。
野太刀夕凪の柄側を正面から左肩に当てる様にして、
桜咲刹那は石段に腰掛け一人静かに待っていた。

「彼なら来ませんよ」

背後からの声に、刹那は目を見張った。

「かの地での縁を過信しましたか。あちらの人にありがちな事です。
大体、正式な学園都市の生徒が簡単に出て来られる筈がない」

刹那の喉がごくりと動く。

「こちらの、「魔法」サイドは鳴護アリサの件に関して
どの程度把握してどの程度の規模で動いているのですか?」

刹那の掌が、鞘から柄にそろそろと動く。

「麻帆良学園、関東魔法協会の性質から考えて、
余り無茶な横紙破りを組織的にやっているとは考えがたい。
その麻帆良の中でも、英雄のパワーと求心力、そして個々の要員の強力な潜在能力によって、
世界を一つ救う程に急激に膨張した一大勢力。

力頼みの急成長故に統率が取り切れず、
或いは協会自体その全容を必ずしも把握していない半ば独立愚連隊。
それ故の暴走と見るのが妥当でしょう」

落ち着いた説明と共に、コッ、コッと足音が近づいて来る。

451: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/09(金) 04:40:05.77 ID:16trXnbX0
「穏便に話を進めましょう。
こちらとしても「魔法」サイドとの摩擦は避けたい。それは「魔法」サイドも同じの筈。
悪い様にはしません、あなたの知っている事を話して下さい。

その歳にして夏の事件の核心近くで奮戦した、
英雄、そして西の姫の信任も事の他厚い素晴らしい手練れである事は聞いています。
であればこそ、今はまだ、無駄な足掻きにしかならない事も理解している筈」

「無駄、そうですね」
「そうです。あなたは聡明で、そして誠実で忠実な人物であると伺っています。
私もその様なあなたを傷付けたいとは思わない」

「二つほど申し上げておきます。確かに私も皆もまだまだ未熟。
しかし、そんな若僧にも譲れない、力一杯ぶつからなければならない信義がある。
私も又、それを譲る事は出来ない。
そして、私一人の無駄な足掻きであればそれはゼロに過ぎない。マイナスにはならない」
「…残念です…」

 ×     ×

科学の学園都市、とある電話ボックスの中。

「はいはいー、それではよろしくお願いしまーす」

月詠小萌は、よいしょと背伸びして受話器をフックに戻す。

「いけませんねー、携帯電話を忘れるなんて。上条ちゃんの事を言えません。
早く取りに戻ってお風呂に行きましょう」

こちんと自分の頭を拳で叩いた小萌は、
くるりと振り返りガラスドアを開く。
そこで待っていたふわふわに白い女の子にぺこりと頭を下げる。

452: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/09(金) 04:43:39.45 ID:16trXnbX0
「ひょおおぉーーーーーーーーーーっっっっっ!!!」
「貴様、何を往来で奇声を発している」
「あれは。小萌先生」

車道の向こうの電話ボックスを目にした青髪ピアスの平常運転の変態振りに、
そこを通りがかった吹寄制理と姫神愛沙も又、普段通りの反応を示す。

「見てみぃ!最っ高のミニロリと甘ロリ、
奇跡のコラボレーションやあぁーーーーーっっっ!!」
「馬鹿者」

小萌先生がボックスを出た後、すれ違いに中に入ったふわふわ白い甘ロリは、
ひょいと受話器を取ってカードを差し込みダイヤルボタンをプッシュする。

「もしもしー、はいー、仰せの通り到着しましたえー。
それで次はどないしたらよろしおすかー?」

456: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/10(土) 03:38:30.30 ID:3LA324yK0

 ×     ×

一分間も要しなかった事は言う迄もない。
路地裏で待ち構えていたスキルアウトの集団が、
ネギの突入と共に一山幾らで転がされる。

「ご、の………おおおっ!!………」

それでもほんの僅か当たりが甘く、
拳銃を手にくらくらと立ち上がったチンピラの右腕にコルク抜きが突き刺さり、
そのチンピラの目の前に現れた結標淡希の脛がチンピラの股間にヒットする。

「ったく」
「結標さんっ!場所は…」
「もう移動してる」

セーラー服をその本来の使用先の規定から寸分違わずに着こなし
黒のウィッグで首から上をメ○ほむ化した結標がPDAを見せる。

「有り難うございますっ!」

力強い言葉と共に周辺が突風に包まれ、
イメージアップ用の黒縁伊達眼鏡も防御にはならず
結標がようやく目を開いた時にはネギの姿はそこには無かった。

457: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/10(土) 03:43:50.70 ID:3LA324yK0

 ×     ×

廃ビルの階段を駆け上がったネギは、途中のフロアで足を止める。

「しっ!」

黒いツナギ姿の者が、軍用ナイフを手に
剥き出しの柱の陰から次々と襲いかかってくる。

(特殊部隊レベル)

ネギが、少しだけ本気を出した。
ツナギ集団は、ナイフ、場合によっては拳銃を手にネギを襲撃するが、
そのことごとくが昏倒させられるまでの時間はさ程のものではない。

「分かった」

壁際で、この連中のボスらしいやはりツナギ姿の威厳のある漢が、
用意しておいたポケットの携帯のボタンを一つ押してから、
体の前で一度腕をバツ字に組み呼吸する。

「コマンド・サンボですか」
「やはり、八極拳」

 ×     ×

ネギとボスが一手交えたその時、
その廃ビルにほど近いビルの屋上で、砂皿緻密はポケットに携帯電話の震動を受けて動き出す。
砂皿の手にするライフルのスコープ内を掠めた、
次の瞬間砂皿は、はっと全くあらぬ方向にスコープを向けた。
スコープの中は別のビルのフロア。

(…同業者…レミントンか…)

その同業者は、フード付きの黒いローブを着用して得物をこちらに向けている。

「…嘘、だろ…」

フードの中から覗く黒髪、それを束ねる赤い紐、僅かに見える浅黒い容貌。

458: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/10(土) 03:49:01.11 ID:3LA324yK0
「何やってるんですかっ!?」
「馬鹿っ!」

砂皿の側にいたステファニー=ゴージャスパレスがミサイルランチャーを構え、
屋上に着弾と銃声が響き始める。

「うっし…いっ!?」

着弾確実と目されたミサイルが空中で爆発する。

「!?」
「僕一人ならまだしも、プロでもあれだけ大勢の巻き添えはぞっとしません」

次の瞬間には、ランチャーを捨てて立ち上がったステファニーとネギは
互いに構えを取って対峙していた。

((速いっ!))

一手、二手、技を交わして双方タッと距離を取る。

(この人、多分飛び道具よりもこっちが専門。ベースは警察官系?)
(な、何、この子?能力での強化?
いや、能力開発だけでは説明出来ない本質的な、
天賦の才と厳しい修行だけが作り出せる本物の格闘センス、こんな子どもがっ!?)

多分気付かれている、そう感じながらも、
ステファニーは後ろ腰に横差しにした特殊警棒にそろそろと右手を伸ばす。

「シッ!」

抜き打ちでネギの顔に横に叩き付ける。
その時には、ネギの体は低く沈んで変則回し蹴りがステファニーの脚をすくう。
ネギが迫った、次の瞬間ステファニーの意識はブラックアウトする。

459: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/10(土) 03:54:33.37 ID:3LA324yK0
「武器を置いて下さい。この距離では僕が優位です」
「テレポーター?」

呟きながらも、砂皿はライフルを置く。
元々、どっちかと言うとそういうのが得手なステファニーがこんなガキに見事にKOを取られている。
それ自体は学園都市ならあり得そうだが、テレポーターとセットとなると話は別だ。
ガキにしか見えないが、その身のこなしから見てもどうも嘘は言っていないらしい。
装填済みのライフルでチャンバラしても勝てる気がしない。
そして、ネギは震動した自分の携帯電話を使う。

「ええ、はい、ではメールで」

電話を切ったネギが、スタスタと砂皿に近づく。

「今、プロを相手に自白を求める手間は要らないしかけられない。
邪魔はしないで下さい」

ネギは砂皿を気絶させてからメールで移動先を確認する。
かくして、急行した先の資材置き場で、ネギは学園都市最強と対峙する。

 ×     ×

「神鳴流奥義・極大雷鳴剣!!」

大爆発の上空で、桜咲刹那の野太刀夕凪と神裂火織の令刀七天七刀が激突する。

「神鳴流奥義・斬空掌散!」

着地した刹那が、掌から大量の気弾を放つ。
刹那は届く前にことごとく弾き飛ばされたその手応えを確かめ、神裂は読まれた事を察知する。

「神鳴流奥義・斬鉄閃っ!!」

豪剣に匹敵するワイヤーが、
夕凪の一振りが巻き起こした「気」に呑み込まれ突き破る勢いで抗いバリバリと音を立てている。

「神鳴流奥義・斬岩剣っ!!」

その一瞬で間合いを詰めた刹那の一太刀を、
神裂が掲げた七天七刀の柄近くがガチッと受け取める。
その神裂の表情は涼し気ですらあった。
双方飛び退いて距離を取る。

460: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/10(土) 03:57:51.90 ID:3LA324yK0
「神鳴流秘剣・百花繚乱っ!」

神裂火織に迫る花吹雪をワイヤーが弾き飛ばす。
桜咲刹那と神裂火織が世界樹を背景に交差し、通り抜けてスリップ気味に距離を取る。
その後、幾度となく交差し、刃を交わし、打ち合う。
だが、その度ごとに、刹那は思い知り懸命に気力を奮い立たせる。
強固に動こうとしない、動く見込みが全く見えない「死」と言うジョーカーを手に
ボロボロと凄まじい勢いでカードが消える感覚。

「がはっ!」

その刹那の腹に神裂の蹴りが炸裂し、刹那の背中が広場の壁に叩き付けられた。
その刹那の顔の横で、ワイヤーの一撃を受けた壁がガラガラと音を立てる。

「未熟」

その場にずるずる座り込んだ只でさえ無様な姿勢で、
神裂の長身からの見下ろしは刹那の心に見事に響く。

「それでもあなたの力量であれば、未熟である事が骨身に染みたでしょう。
もう一度だけお願いします。こちらに協力してそちらの動き、
誰がどの様にどの程度の規模で活動しているのかを教えるのです。
悪い様にはしません。我々も魔術の世界の秩序のために働いているもの」
「く、あああっ!」

立ち上がり様の一刀、これでも、並の達人であれば簡単に面を取られる一撃。
その刹那の一撃が空を斬った時には、神裂のボレーシュートが刹那の腹に炸裂していた。
神裂が左手に刀を持ち替える。ガン、と、突き刺さる勢いで、
刹那の左耳のちょっと外側にある壁に鞘の底が叩き付けられる。

「互いに裏で働く人間、覚悟の上の事でしょう。
この上は体に聞く事になります。
その様子では、終わった時には剣を握ることはおろか
二度と立ち上がる事すら保障できない。あなた程の者を実に惜しい。
だから、早めの心変わりを切に願います」

壁の前にずるずる座り込んだ刹那を前に、すーっと右手に握った鞘を天に掲げた神裂は、
ザッと振り返りその鞘を振るう。

461: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/10(土) 04:01:07.98 ID:3LA324yK0
(南京玉簾?)

自分が弾き飛ばしたものを見て、一瞬神裂は怪訝な顔をする。
しかし、そんな暇は無かった。

「やあああっ!!」

神裂の目の前で、神裂が放ったワイヤー七閃が
大型のハリセンチョップでことごとく弾き返されている。
普通、普通の達人でもそうそう抜けられない七閃が突破された。
ガキン、カン、キン、と、鞘とハリセンが激しく打ち合う。
ハリセンがスチール製、と、言うかその道のプロに言わせれば強化されているのはいいとして、
ここまでを可能とする技量は決して侮れるものではない。

(この太刀筋、神鳴流?)

「せっちゃんっ!」

ハリセンを手に飛び込んで来た神楽坂明日菜がザッと距離を取り、
近衛木乃香が刹那に駆け寄ろうとするが、その進路を神裂が横に振り出した白刃が妨げる。

「あんた、何やってるのよ?」

明日菜が爆発寸前の低さで尋ねる。

「退いて下さい」

二人を把握した神裂が言う。

「これは裏側で行う摺り合わせ、姫様が知る必要の無い事です」
「…あんた…」

すーっと、絶対零度に達する声。

「何、寝惚けた事言ってんの?」

低く、重い声。それと共に、明日菜の全身で何かが燃え上がる。

(完全な情報が届いていない、独自情報により姫君に値すると仮称させるプランキーパーソンVIP。
ハリセンが大剣、アーマー、話に聞く魔法のアーティファクト。そしてその素質は…巨大…)

462: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/10(土) 04:04:16.14 ID:3LA324yK0

 ×     ×

ミサイルが突っ込んで来た。
そう思った時には、すぐ側に白い人間の姿があった。
普通であればそのスピード自体で何も見えなくなる所だが、
それが見えているネギにして見れば力は弱く、むしろ素人っぽくすらある。
だからこそ、ネギの勘は異常な危険を察知する。
ダンッ、と、ネギはそのむしろひ弱そうな攻撃を大きく横っ飛びで交わすと、
交わされた一方通行の拳はネギの背後にあった鉄材の山を崩壊させる。

(力が、急速に?)

「くァァァァァァァァァァァァァ」
「風っ!?」

ゴオッと異様に力強く重い風がネギに向けて叩き付けられる。
魔法使いの中でも元々の専門が優秀な風使いであるネギだからこそ、その異常さを実感する。

「ラス・テル マ・スキル…」
「!?」

一瞬で吹き飛ばされるべき所を、小さな練習杖を向けながらそれを回避し、
それどころか一方通行の絶対の支配下にあった風の向きが乱される。
しまいに、二人の中間でゴオッと竜巻が噴き上がり一瞬で消滅する。

「おィおィおィおィィィィィっっっ!!!」
「!?」

一方通行の一撃を受けた、それだけで大量の資材が大爆発した。

「マギステル…風花・風障壁っ!!」
「おっ?」

その資材が上空で自分の頭上に集中していた、その事に気付かないネギではない。
そして、「常識」で考えるならば資材の下で圧縮圧縮圧縮しかあり得ない結果が
その落下物の異常な拡散と共に回避された事が分からない一方通行ではない。
そして一方通行は、自分の頭上で翻るネギを見る。

463: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/10(土) 04:07:54.79 ID:3LA324yK0
「ラス・テル マ・スキル マギステル…」

(物凄く強力な念力?他にも何かある。光の矢の変な感触…
とにかく、分かっているのは物凄く強い。出し惜しみしていい相手じゃないっ)

「…薙ぎ払え雷の斧っ!!………!?」

吹っ飛ばされたネギが、ダンッと着地した。
殺しきれないダメージがくらっと来る。

「風楯っ!」
「ン?」

ぶわっと風楯を抉られながら、ネギは急接近して来た一方通行から飛び退いて距離を取る。

「おィおィおィおィ、何だ何だ何ですかァ?
威力だけでもオリジナルより上じゃねェのかァー?
しかも、全部てめェンとこに戻る筈がさっきから変な反応で拡散されて、
戻って行った分もこれも変な壁でシールドされてるじゃねェかァ。
ごちゃごちゃ小うるさいダミー噛ませててめェの正体も上手く偽装して
裏で糸引ィてたみてェだが、こりゃあやァっと当たりだなァ」

468: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/13(火) 04:19:31.64 ID:iyPqKpu70

 ×     ×

(とは言え、本当に姫様を斬ったらそれはそれで面倒)

明日菜に向かって突進する神裂。
その明日菜の周辺でワイヤーが複雑に展開されるのを、明日菜の並外れた視力が捕らえる。
多少の経験と視力で、明日菜もそれが何だか把握する。

(魔法陣?)
「!?」

明日菜が、ぶおんと大剣を一振りすると、明日菜の周囲でパアンと何かが弾け飛んだ。

469: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/13(火) 04:24:56.40 ID:iyPqKpu70
(今の感触、まさかイマジン・ブレーカー!?それが向こうの世界、の!?)

ザッと飛び退いた神裂は、気が付くと目の前に明日菜を見ていた。
神裂がそうなると言うだけでも相当の事だ。
明日菜の斬撃を何度か防御し、力任せの大振りで明日菜を突き放す。

「やはり神鳴流、自己流の混ざる荒さがありますが、
一流の剣士と言うには十分な技量と底知れぬ程の才能。併存の難しい気と魔力の使い分け。
少し、厄介ですね…」

明日菜は、ぐっと構えを取る。

(この女、達人のその上のネギ?向こうで闘ったトップレベル?のクラス?)

ぶつぶつ言っているが、神裂は決して追い詰められている訳ではない。
それは、今こうして剣を交えた明日菜が一番よく分かっている。

「ぐ、っ、ああっ」
「せっちゃんっ!?待ってな、今っ!」

刹那が立ち上がろうとするが、かなわない。
防壁の限界まで叩き込まれて辛うじて命を繋いだフルボッコ以上。
ここまでの有様は最後に月詠と闘って以来だろうか。
しかも、月詠と違ってそれでも明らかに手加減してくれたと言う辺り、
やはり話に聞いた、それ以上の本物の実力者。

「いけ、ません、アス、ナさん…」
「あああっ!!」
「アスナっ!?」

刹那と木乃香の目の前で明日菜が吹っ飛ばされていた。

470: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/13(火) 04:30:31.28 ID:iyPqKpu70

 ×     ×

「インデックス?シスターと一緒に席についた所」
「分かった」

千雨は、夏美の力を借りて、適当な建物の屋上でノーパソを広げて朝倉和美からの報告を受けていた。

「朝倉だけかよ。おい、早乙女、どうなってる?」

鳴護アリサとインデックス、それを追跡した朝倉和美がファミレスに入店した状況を把握した後、
千雨は早乙女ハルナに連絡を取る。

「ごめんごめん、この街のチンピラってどんだけ重武装なのよ。
のどかが絡まれたからちょっと捻ってやったら
拳銃標準装備とか柄の悪いエスパーとかゴキブリみたいに沸いてきてさぁ、今片付いた所」
「分かった、場所を報せる。ファミレスでアリサ達のガードに当たってくれ」
「オッケー」

その直後、別方面から連絡が入る。

「こちら大河内、運動部チーム現着。
離れた席しか空いてなかったけど取り敢えずガードに入る」
「頼む」

 ×     ×

明日菜は、あちこち生傷だらけの有様で辛うじて正眼に大剣を構えている。
その後ろに、水干姿の木乃香が立っている。

「文字通り命懸けの突貫。
紙一重の瀕死の重傷から強力な治癒魔術による回復以下繰り返し、
一体どこの人魚姫ですか」

神裂が呆れた様に言う。だが、その表情には苛立ちが混じり始めている。

「西の姫の魔力は桁違いの様ですが、それでも無限ではない筈。
何より、これまでもこれからも一つ当たり所が悪ければ
治癒魔術と存在しない蘇生魔術の一線を越えてしまう」
「おおおおっ!!!」

471: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/13(火) 04:36:23.07 ID:iyPqKpu70
次の瞬間にはすれ違った血達磨がごろごろと転がり、
渋い顔をした神裂が七天七刀を天に掲げている。

「行かせません、意識を失う、までっ!」

木乃香に向けて差し出された七天七刀の刀身が上から押さえ付けられる。
神裂がその大剣を跳ね上げた時、血達磨がぐらりと後ろによろける。
だが、その一瞬で十分だった。

「ぜぇ、ぜぇ…サンキューこのか」

明日菜がチラッと後ろを見て言い、木乃香が頷いた。
次の瞬間、突っ込んで来た神裂と明日菜がガキッと剣を交える。
明日菜が馬鹿力で弾き飛ばし肩で息をする。

「このか離れてっ!」

弾き飛ばされたと見えたのは只のステップ、倍掛けの勢いで神裂が突っ込んで来る。
神裂が明日菜から離れた時には、地面には赤黒く血だまりが広がり、
明日菜が剣を杖に懸命に立ち上がり、その側で木乃香が地面に両手を付いて荒い息を吐いている。

「西の姫様の負担も最早限界。次は本物の達磨になってその手足を繋ぎ合わせれば、
最早それだけでも西の姫様の負担は命にすら関わる筈です。
これが冗談ではないのはその身で十分理解している筈」

神裂が、片手持ちした刀の切っ先をすっと二人に向ける。

「何も見なかった事にして家に戻って下さい。
これ以上はお二人が姫様でも、姫様だからこそ、
私としても本当に何も無かった事にしなければならない。

例え事件になっても、こちらに繋がる一片の証拠も
物理的に存在しない事にして立ち去らなければならなくなります。
これは裏側で終わらせる話、あなた方が関わる次元の事ではない。
私は退けない。あなた達には役割がある。弁えて下さい」

472: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/13(火) 04:40:37.66 ID:iyPqKpu70
「…分かった…」
「アスナ…」

この場にいる武闘派二人がこの有様では、木乃香は余りにも無力に過ぎる。
本当は三人の関係に軽重など無い筈なのだが、
それでも、木乃香としては刹那の事は自分の事と言う意識がある。
これ以上明日菜に無理を言うのも、自分が対抗するのも簡単な事ではない。

「よく、分かった。
あんたが人の事をそういう風にしか見れない奴だって事はね」

明日菜が、ゆらりと姿勢を立て直す。

「刹那さんをこんなにされて、私にどうしろって?」

明日菜が一歩踏み出す。その確固たる眼差し、全てを圧倒する気迫。
神裂ですらその足を後方に退く誘惑にかられる一歩だった。

「刹那さんをこんなにして、このか悲しませて、関係無い?誰に関係ないって?
そんな事、出来る訳ない。それが出来るぐらいなら夏休みの話はとっくに終わってる!」
(尽きた筈の力、急速にっ!)

神裂は、とっさの動きで強烈な一撃を受け太刀する。
動けない、と言う段階だった筈の明日菜の、とてつもなく速く、強烈な一撃。

「そんな事も分からないあんたなんかに絶対負けないっ!!」
「くあああああっ!!!」

二度、三度、強烈な斬撃が神裂に叩き付けられる。
確かに強烈、そして、並の達人なら為す術もない程の技量。
だが、神裂が見るならそれは、荒削りに叩き付けられる暴走。

「…っ…」
「このおおお、っっっ!?」
「………せ………ぇんだよこのド素人があああっっっっっ!!!」
「アスナっ!!」

剣を弾き返されたその勢いのまま、明日菜のボディーに神裂の鞘の突きが炸裂する。
広場の壁に背中を叩き付けるまで吹っ飛ばされ、
元々ボロボロだった明日菜は痙攣して動かない。

473: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/13(火) 04:44:11.38 ID:iyPqKpu70
「か………はっ………」
「…何が、分かる…!?」

刀を振り上げ、明日菜に迫る神裂の頬に鋭い痛みが走る。
振り返りざまに神裂が刀を一振りし、木乃香が放った玉簾が砕け散る。
そのまま斬り伏せる勢いだった神裂が動きを止め、七閃を放つ。
そのワイヤーは、ふわりと下向きに扇がれた白扇の動きと共に地面に叩き付けられる。
神裂は、刀を八双に構え直した。

「限界に近いとは言え無尽蔵クラスの魔力に素質。そして、幽幻の域に達した舞。
確かに、並の手練れならば触れる事も適わないでしょう。
カウンター狙いで十分相手を仕留められる素質、技量です。並の手練れであれば!」
「…うちも、諦めない…」
「それはあなたの役割ではないっ!あなたは…」

「わことる!綺麗なお人形で控えて笑ってお目見えして、
それだけでも大事な大事な、ネギ君みんなのためにもうちやないとあかん役割やて。
それでも、それでも今、今はせっちゃん、アスナ、うちも闘うっ!!」
「…あなたなら大丈夫でしょう。自分で修復して十二時間ほど寝ていて下さい、っ!?」

その瞬間が来た、それを感じた木乃香は目を閉じそうになった。

「!?」

だが、神裂は立ち止まり、二度、三度振り返り、刀を振るう。
その度に紅白の羽毛が舞い散るが、特に記憶を焼き消す効力はないらしい。
神裂が刀を正眼に構え直す。その長い黒髪が束ねを失い、
既に白いシャツが汗でべったりと張り付いた背中にばらりと流れる。

「………ナニヲ………シテイル………
………お嬢様………フレル………ナ………」

神裂の視線の先で、刹那が大きく脚を開き夕凪を正眼に構えを取る。

「あなたは………烏族の血を、それも忌まわしき………!?」

神裂は、斜め横からの大剣の強烈な一撃を辛うじて受け太刀した。

474: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/13(火) 04:47:30.66 ID:iyPqKpu70
「その先、一言でも口に出したらコロス…」
「くあああっ」

神裂に押し返された明日菜が弾き飛ばされ尻餅をつきそうになるのを辛うじて堪える。

「…そうですか…」

神裂が、刀を鞘に納める。

「Salvare000」
「京都神鳴流、桜咲刹那」

熱く煮えたぎっていたものが、しんと冷たいぐらいに静まり返る。

「アデアット」
「最期に、剣士としての礼をもって応じましょう」

今この時だけ、その身の震えを押さえ付け建御雷を呼び出した刹那の前で、
神裂が刀の柄に手を掛けてその指で握っていく。

「せっちゃん…」
「刹那、さんっ…」

木乃香は動けない。今度こそ、目に見える現実の可能不可能とかけ離れて無駄な事は出来ない。
明日菜も動けない。今度こそ限界を突破している。邪魔にしかならない事は出来ない。

低く構えを取る。

「!?」

不意に、神裂が跳躍した。
そして、その下で、バキバキと石造りの地面をかち割って神裂を絡め取ろうとする
ぶっとい木の根の大群が七閃によって切り刻まれる。

そして、神裂は一度、びゅんと鞘を振るう。
着地した神裂が、目にも止まらぬ速さで周囲をステップし始めた。
ターンと神裂が着地し、離れた所に火達磨が着地する。
そして、空に向けてバッと七閃を放つ。大量の石針が弾き飛ばされた。

475: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/13(火) 04:51:46.66 ID:iyPqKpu70
「錬成肉体による位相移動活動テストも兼ねていた訳だけど、成果は上々と言った所だね。
まず、彼女を喪った時点でプランはそのまま空中分解する。
それから、今、彼のメンタルに破局的な打撃を与えるのも又しかり。
もっとも、その程度の事を防ぐ事が出来ずに挫折するのであればそれはそれまで、
一時休戦に応じて時を逸した僕の眼鏡違いと言うだけで誰の責任でもない」

神裂が息を呑み、鞘に納めた刀の柄を握る。

「それでも契約した身だ。契約した上は、雇われ人としての信義を果たさなければならない。
それに、その役割を果たす事で僕は学習しなければならない。
深夜徘徊の不良生徒の捕導、そして保護も又その役割の一つだからね」

満身創痍の不良生徒共の頬に僅かに浮かんだのは、喜色だった。

「言わんとする事は、割とシンプルだ。

僕の生徒に手を出すな


死の淵まで覗いた今、明日菜達の心に安堵が生まれたのは当然だった。
この職務熱心な副担任、敵に回したらどれ程恐ろしい相手であるか、
その事は彼女達が誰よりも骨身に染みて理解している。

「と言う訳で、深夜徘徊の上での破壊活動に関する後程の指導については覚悟しておく様に」

骨身に染みて理解している。

「僕としても慣れない事をしているから色々分からない事もあるのだけど、
取り敢えず、僕の立場におけるこのオバサンに対する通告は
こんなもので良かったのかな?」

天を仰いだ神裂のメロンと化した頭部からは、
二本三本プシューッと細い赤い噴水が噴出していた。

483: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/14(水) 04:30:52.21 ID:qxUjQuZ10

 ×     ×

神裂火織が、下から突き上げる木の根のみじん切りをまき散らしながら突進して来る。
周辺に薫製用チップの山を築いている豪剣にも匹敵するワイヤーの帯びる衝撃波が、
ヴァイオリンから放たれる超音波の破壊効力を呑み込みかき消す。
七天七刀の柄近くの鞘を握る神裂の左手がすっと前後し、調は体をくの字に折って倒れ込む。
それを終えた神裂火織が、ふと周囲を伺う。

「幻覚?いや、結界の類ですか」

巨大な柱が立ち並ぶだけの無機質な空間で神裂が呟く。

「はい、ご名答です」
「こちらは幻覚ですか」

目の前に現れた環の姿に、神裂が言った。

「出来れば降伏して欲しいのですが、武器を置いて手を上げていただいても
軍隊の十やそこら殲滅出来そうなので正直どうしましょうか。
十日ほど断食していただいたらさすが、に…
ほぎゃあああああっっっ!!!」

這々の体で脱出した環の目の前で、環が座っていた柱が粉砕される。

「どどどどうやって私の居場所をををっっっ!?!?!?」
「気配が多分こちらだろうと」

「は?いえ、あのですね、
私としましてもミニステルとしての意地と言うものがありますから、
私は決してこの結界を解くつもりはありませんので、例えどの様な…
あのー、何を?」

環が、近くの柱の上で居合抜きの構えを取る神裂に質問する。

484: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/14(水) 04:36:06.33 ID:qxUjQuZ10
「お嬢様っ!」

一瞬だけ膨張する何かを察知した刹那が、木乃香を羽に包み込んだ。
世界樹広場にちょっとした大爆発が巻き起こる。

「…もう、嫌…」

広場では、既に抜いた刀を鞘に納めた神裂の側で環が引っ繰り返っていた。

「つっ!」
「どけっ!」

ワイヤーが暦の手から「時の回廊」を弾き飛ばした次の瞬間には、
七天七刀の柄近くの鞘を握る神裂の左手がすっと前後し、
その前で焔が体をくの字に折って倒れ込む。

「にゃ、にゃんで、獣化、した私の、動き…」
「何かが接近して来たと思えば獣の力を使った狩りのスタイルでの襲撃でしたか。
体に炎を巻いていたみたいですね。確かに少々熱かったですけど。
それで、あなたは?」

「い、いえ、接吻…させてくれませんよね。
出来てもお役に立ちそうにありませんし。それでは」ソソクサ

「ふむ」

千の剣が弾き飛ばされた。

「なるほど」

万の剣が弾き飛ばされた。

「結構」

家を潰す巨大な石柱複数だったサイコロが周辺に降り注ぐ。

「厄介かな」

石像の首が百個ほど転がる。

485: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/14(水) 04:41:38.41 ID:qxUjQuZ10
「高密度の砂壁ですか、少々厄介ですね」

と言いつつ、神裂の刃は砂壁が爆砕してから再生するまでの一瞬でフェイトの体を捕らえる。

「これも石像」

フェイト・アーウェルンクス。知識ぐらいは神裂にもある。
関西呪術協会の襲撃やゲートポートの破壊。
これらは「魔法」サイドのテリトリーの事であるが、
イギリス清教としても無視出来ない規模の事件になる。
フェイトに関しては名前が出ていながら、その点不可解な形で幕引きとなったのだから尚更だ。

イギリス清教の公式な関与は避けられたが、微妙な所で表から裏から聞こえて来る事はそれなりにある。
ガン、と、神裂が刀を地面に突き立てる。
次の瞬間、神裂の左手はフェイトの拳を掴んでいた。

「いい拳です」
「光栄だね」

パッと手を離した神裂が間合いを詰めて来た。
右のパンチとボディーを狙った右脚の蹴り込みのコンボ。
一瞬の差で顎から脳を揺らされてぶっ倒れていたと、フェイトは神裂の確かな技量を把握する。

「知りたいね」
「?」
「十分に、重い。その拳、知るに値する重さだよ」
「では、その身で存分にっ!」

互いの腕が伸び、腕が反らされ、拳が空を切る。
相変わらず見事に伸びた神裂の脚が空を切った。

「と、言いながら逃げますか?」
「いや、これは思い入れの差かな?」
「?」

タンターンと後方にジャンプするフェイトを見送った神裂は、悪寒を覚えた。

486: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/14(水) 04:47:13.06 ID:qxUjQuZ10
「僕が留守がちにしていて、元教え子に何か不始末があったのなら、
大人として省みるべきなのだろうね。
まして、互いに政治的な問題が絡んで来るVIPと外部勢力に関わる話」

それは重圧、言葉通り押し潰されそうなプレッシャー。

「だけどね、幼稚な話で申し訳ないが、
僕にもそれ以上の漢の信義と言うものがあるんだ」

七天七刀を鞘に納め、必殺の構えに入ろうとする。

「そうか。

 ア ス ナ く ん を き ざ ん だ の か



 ×     ×

予定が変わったのー
だからお友達に会いに行くのー
もしかしたらいつも行ってるって言うファミリーレストランにいるのかなって思ったのー
だからちょっとそっちに行ってみるのー

 ×     ×

「鳴護アリサがさらわれたっ!!」

朝倉和美からの悲鳴に近い急報に、長谷川千雨がノーパソを操作する。
第一報のメールを一斉送信する。

 ×     ×

「さよちゃんっ!」
「はいっ!」

ファミレスでウェートレスに化けてアリサをさらった三人組。
その素早さの上に認識に関わる何かを仕掛けたらしい。
報道部の鷹の目で注視していた和美ですらその瞬間に注意を反らされた。
既にテーブルを大きく離れた犯人グループに、和美とさよが反撃を開始する。

487: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/14(水) 04:50:30.40 ID:qxUjQuZ10
「!?」
「この反応、ポルターガイスト?」
「ちいっ!」

人さらいの前にドドドッと滑り込んだ無人の椅子が、
突風に巻き上げられて店内の宙を舞う。

「そっちかっ!」
「くっ!」
「ええいっ!」

風に乗って飛んで来た椅子を、さよが弾き飛ばした。

「待てこの…」
「おいっ」

立ち上がり追い縋ろうとした和美が、肩を掴まれて足を止める。

「んー、ちょっと見この辺とか立派だけど中学生ぐらいじゃん。
さっきのお前の能力じゃん」

さあーっと青ざめながら、和美は振り返ろうとする誘惑に耐える。

「と言う訳で、主に妙に忙しかった一日のシメに相応しい
自分へのご褒美ドーンとステーキセットビールつき、
の上に落下して来た椅子の事とか、アンチスキルの取調室でとっくり聞かせてもらうじゃん」メキメキメキメキ
「あ、UFO!」
「ふざけ…」
「はいチーズ!」

和美が左手に持ったデジカメのストロボが和美の背後に向けられていた。

「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉらあ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
待つじゃんよおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ!!!」

488: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/14(水) 04:55:28.38 ID:qxUjQuZ10
「まだなんか…いたっ!」

周囲を伺ったマリーベートが向けられる銃口に悲鳴を上げた。

「伏せてっ!」

察知するや、いの一番にダダダッと飛び出した明石裕奈。
元の席が離れ過ぎてとても追い付けないが、その必要は無い。
裕奈が発砲した魔法弾はしかし一瞬の差で人さらい達の頭上を突き抜ける。

「仕方がないっ!」

裕奈が空きテーブルに跳び乗り、狙いを付ける。

「ええいっ!」
「ちっ!」

メアリエが走りながら手を振り、引き金を引こうという裕奈に向けて水差しが飛んできた。

「おっと…わわっ!」

上からのは囮、もう一つ下から突き上がって来た水差しを交わしながら引き金が引かれた。
その銃弾は裕奈と誘拐団の間で丁度オーダーが届いてウェートレスが去った所だった、
赤茶色っぽいセミロングヘアの見た目一番年増のいい女と
ブランド制服っぽい装いと綺麗な金髪によく似合うベレーを被った小柄な少女と
どこか剣呑なパーカー姿のショートカットの女の子と黒髪寝惚け娘の着席した
テーブルの上を直撃して爆発する。

489: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/14(水) 04:58:59.62 ID:qxUjQuZ10

 ×     ×

「どうなってる…」

千雨の指が、ノーパソのキーボードの縁をタンタンタンと叩き続ける。

「こちらチームTTBコードネームパル!」
「長げえっ!」
「もうすぐファミレスに到着する!」
「ちょっと待って下さいです」

早乙女ハルナからの電話に綾瀬夕映が横から割り込む。

「何か、様子がおかしいです」
「?」
「小さなシスターが路上で拘束されています」
「小さなシスター?」

「白い修道服に銀色の髪の毛…」
「インデックスだ」
「ですね。あれは、恐らく水の魔術で口を塞がれているです。
そのインデックスを女の子が取り囲んでいます」

「何だと?どんなだ?」
「三人組ですね、一人が扇子を持って…」
「そいつらだっ!」

千雨の叫びに、電話の向こうも驚く気配だ。

「他に誰かいるかっ!?アリサはっ!?
緑マントのノッポとかバカデカイ刀持った背の高い年増痴女とか」
「どちらもいません」
「その三人がネセサリウスの魔女だ、今すぐ抑えろっ!
かなり手強いぞ、先手必勝で一気にやれっ!!」
「りょーかいっ!!」

ハルナが電話を奪還していた。

494: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/17(土) 03:37:49.92 ID:zE5xl/Ws0

 ×     ×

ゾクッ

目の前で発生した大爆発に、明日菜は血の凍る感覚を覚える。
ネギと闘った時の手加減を知っている。だからこそ、
カテゴリー的に色々間違ってる気がしても一応人間の女相手に
初手からこれを叩き付ける、想像を絶する事の重大性はよく分かる。

凄腕の仕事人であっても、明日菜の前では優しいお兄さん、おじさんであったのだから尚の事だ。
間一髪空中に逃れた神裂火織は、二発、三発、
辛うじて急所を外しながらもいいのをもらいながら、その攻撃の正体を体で学習する。
着地した神裂の前で、大量の拳圧が七閃に弾かれて爆発する。

「くっ!」

遠距離の飛来拳圧の防御に追われている間に、
正真正銘のパンチが神裂を襲う。
一発、二発、三発、神裂は辛うじて交わし続けるが速い上に絡み付く様にしつこい熟練の「殺し技」だ。

僅かに歩が遅れたその瞬間に三途の川を飛び越える一撃だ。
神裂が跳躍して距離をとる。そして、次の攻撃を予測して七閃を放つ。
果たして、七閃の衝撃波と大量の拳圧が激突した。

(殺し、切れないっ!)

神裂が、体に響く打撃に乗る形で後ろに跳躍した。
そのまま、背後にあった壁を蹴って高畑の頭上を飛び越える。

495: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/17(土) 03:43:07.66 ID:zE5xl/Ws0
「く、っ…」

辛うじて一撃必殺は避けたものの、何発もいいのを貰った、
見事に肉に、骨に響く打撃。大概の使い手ならかすっただけでも一発KOだ。

「タカミチ…」
「高畑、先生…」

神裂が一瞬でも顔を歪めて跳躍する間、
高畑の両手に光る凶悪な光に、明日菜と刹那が息を呑む。
神裂が着地し、同時に抜刀する。

神裂と高畑の間で、とてつもない衝撃波が激突し大爆発が起きた。
神裂が一気に間合いを詰める。七閃が高畑の残像を切り裂いた。
残像を切り裂く、残像を切り裂く、残像を切り裂く。

(やはり、パワーだけではなく速さも)

「っ!!」

ドドドドドドッと、飛来した連打連打連打が神裂の体を壁に叩き付ける。

(それでも全て急所はセーフ、か)
「ひっ!」

明日菜が、喉から引きつった声を上げる。
高畑の両手の間が光り出す。

「…や、め…」

ついさっきまでの事を忘れるぐらい、明日菜が何かを言いたくなる。

「あああっ!!」

ダンッ、と、神裂が力一杯高畑を飛び越えて背後に回る。
そして、丸太ぐらいチーズも同然と言わんばかりの七天七刀の抜き打ちは
その場で空を切る。

496: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/17(土) 03:48:48.32 ID:zE5xl/Ws0
「くっ!」

神裂が刀を鞘に戻して構えを取る。

「タカミチっ!!」

明日菜が絶叫し、広場が大爆発する。

「く、っ…ぐふっ!」
「吹っ飛んで勢いを殺した、か」

左で持った鞘で辛うじてその身を支えた神裂のボディーに
着地した高畑の拳が炸裂していた。
壁を背後にタタッと着地した神裂の前に高畑がごうと迫る。
神裂が這々の体で転がってすれ違った時、高畑の目の前の壁には拳を中心にすり鉢が広がる。

「先ほどの一撃も、あの上からの打ち下ろしを力負けせずに切り裂いた、
やはり彼女も並々ならぬ達人、いや…」
「で、でも、でもこのまま、このままじゃ…」

明日菜は、完全に恐れていた。この先に待つ決着を。
立ち上がった神裂の七閃が石の地面を削り、大量の小砂利が撒き上がる。
高畑は、それを詰まらなそうに見ていた。

(目くらまし、時間稼ぎ)
(その通り!)

神裂にとってもそれ以上の意味は無かった。
とにかく、ほんの僅かなインターバル、次に繋ぐにはそれが必要だった。
ザシュッと間合いを詰めた神裂が、
ガン、と、地面に刀を突き立て鞘を地面に落とす。
そして、すぅーっと呼吸を整えて自然体で前を見る。

高畑が小さく頷き、二人の姿が消えた。
明日菜と刹那が目を丸くした。
辛うじて見える領域にいた二人。その二人に見えた事実は至って単純。
高畑のパンチの勢いをそのまま乗せて神裂が高畑に一本背負いを決めたと言う事。

497: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/17(土) 03:55:37.50 ID:zE5xl/Ws0
「タカミチッ!!」
「紙一重の違いで私の上半身が塵になっていた所です」

明日菜の絶叫が響く広場で、
乱れた黒髪を頬に張り付かせ土砂降り後を思わせる程の汗にまみれた神裂が
本当に生還、と言った雰囲気でふーっと呼吸を整えた。

「「悠久の風」タカミチ・T・高畑、
術式の規定により肩書きが得られないだけで、
実力、実績はマギステル・マギに匹敵する「魔法」サイド最強クラスの英雄。
なるほど姫様のナイトとしては最適な人選です」
「違うっ!!」

ひび割れたすり鉢と化した地面に伸びる高畑を静かに見下ろしていた神裂に
割れる様な叫びが叩き付けられる。

「違う!そんなんじゃないっ!!
そこ動くなっ!ぶっ殺す!殺す殺す殺す殺す殺すうっ!
殺してやる殺してやるっ!!殺してやるううっっっ!!!、っ…」

全ての激痛を無視して立ち上がろうとした明日菜が、ふと動きを止めた。
そして、僅かに違和感を覚える。微かに唇を動かす神裂の、どこか寂しげな表情に。
常軌を逸した感度の明日菜イヤーが微かに音声を拾う。

「……ん、ですね……しい、ですね………」
「……んな……ものじゃないよ……しかく、は……」

さっと、明日菜達の目の前をスーツの腕が塞ぐ。

「ここを動かないで下さい。これは、大人の仕事です」
「刀子さん」
「ここがどこか、自分の行い自分の置かれている状況を把握していますか?」

明日菜達の前に現れた葛葉刀子の言葉を聞きながら、神裂が周囲の気配を察する。

「………魔法教師本隊ですか………」

498: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/17(土) 03:59:09.22 ID:zE5xl/Ws0

 ×     ×

爆発的な勢いでネギに迫る一方通行が、素早くネギに掴み掛かる。
よく分からないが触れただけで命の保障が無いのは分かる。

「風楯っ!」
「ンァっ!?」

一方通行の手を交わしながら、とっさに防壁を張って攻撃を回避する。

(確かに速い、だけど直線的。何か機械的な仕掛けの動き…
それよりも、風楯が又えぐられて、どういう効果…)

「ちょこまかと」

文字通り分身しているネギの動きに、一方通行が舌打ちする。
取り敢えず、今の所どれだけ速かろうがネギがそこから一歩踏み出せば終わりなのだが、
それでもうっとうしい。

「風よっ!」
「あ゛?」

ごうっと風が巻き、空の木箱が幾つも一方通行に突っ込んで来る。

「おィおィおィ、ナメてるンですかァ!?」

箱そのものや爆発してナイフと化した木箱の破片が一直線にネギに向かう。

「風楯っ!」
「ンァ?」

風の防壁でそれらが叩き落とされた後、跳躍したネギを一方通行は一応目で負った。

「光の三矢っ!」
「まァた反射がねじ曲がってやがる。けど、当たりはしねェンだよなァ」
「白き雷っ!…つあっ!!」

ざざざっと低く移動しながら光の矢を撃ち込んでいたネギは、
一方通行の背後に回り白き雷を発動する。
それに対する一方通行の動きなど、ネギでなくてもド素人と感じる緩慢さだ。

499: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/17(土) 04:02:23.42 ID:zE5xl/Ws0
「だからァ、電気でもおンなじなンだってェの。
けど、ねじ曲がってる上にやっぱり妙なシールドでガードしてンだな」

ネギは自分の白き雷に吹っ飛ばされ、スタンと着地し片膝をついていた。
そこに、又、ミサイルの様な突進が来る。

「風楯、っ!?」

一方通行の手が風楯を突き破り、ネギの顔を掴もうとする手をとっさに転がって交わした。

(動きが素人で助かった…!?)
「風楯っ!」

ネギが防壁を張りながら、ターンと飛び退く。
果たして、風楯は易々とぶち破られた。

(僅かな抵抗を残してるけど、風があの腕を避けてた。
間違いない。これも基本は同じルールだ)

ネギが、じわっと嫌な汗を覚える。

「どォすンァだ?頼りの壁も解析済みだぜェ」
「…解析…」

イメージは、繋がった。
片膝をついたネギが、手近な石ころを一方通行に投げ付ける。
そして、戻って来た石をパシッと受け止める。
それは、弾丸の様な行き来。

「何か、分かったってツラだよなァ」
「防壁とか、そんなものじゃない。
根本的にそういう事になってる」
「多分、正解だぜェ。オマエの頭ン中を文字に起こしたらな。
じゃあどうすンだァ!?」

500: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/17(土) 04:05:43.26 ID:zE5xl/Ws0
一方通行の足踏みと共に、ネギの周辺で爆発が起こる。
巻き上がる土の中から小砂利が弾丸の様にネギに飛来する。
跳躍したネギの目の前に一方通行の姿が現れる。
ネギはとっさに突風を操り吹っ飛んだ所への着地で難を逃れる。

そこに向かって空中を一直線に突っ込んで来る一方通行を交わし様に、
ネギは目を付けていた鉄パイプを投げ付ける。
鉄パイプは、その直後に跳び上がったネギにまっすぐ向かって跳ね返って来た。

「杖よっ!」

杖で鉄パイプを叩き落としながらネギは考える。

(防壁とか、そんなものじゃない四大元素の理。全部じゃなくてもその法則そのものの一端を把握して、
大元の流れそれ自体に干渉して鏡と光みたいに自動的に反射、そして任意の調整すら可能にしている)

突っ込んで来る一方通行にネギの手からバババババッと光の矢の連打が撃ち込まれるが、
それはあちこちに拡散するだけだ。
風を操る事で、ネギは辛うじて一方通行の手を逃れて着地する。
今度は資材の山に大量の光の矢を撃ち込む。
爆発した資材がネギの操る風に乗り一方通行へと突っ込んでいく。

「うぜえっ!!」

そして、近くの資材の山を文字通り吹き飛ばして一方通行に叩き付ける。

「風花・風障壁っ!」

それはそのまま大半がネギに向けて跳ね返り、ネギは防壁で難を逃れる。
それでも、派手にやり過ぎて僅かばかりでも一方通行の視界を妨げるぐらいには役に立った。

「かくれんぼですかァ?ネェェェェェェギィィィィィィくゥゥゥゥゥゥゥン
あァァァァァァァそびィィィィィィィましょォォォォォォォォォ」

一方通行の足踏みと共に彼の正面の資材の山が爆発する。
ほぼ同時に、その向こうから何か白いものが突っ込んで来た。

501: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/17(土) 04:09:19.27 ID:zE5xl/Ws0
「おォ?」

すごいちからが正面から一方通行に浴びせられる。

「ぐがががっ!」

跳ね返って来たすごいちからに耐えながら、
ネギは更にすごいひかりを一方通行に向けた。
一方通行を逸れた光が資材の山を塵にする。
戻って来たすごいちからを受けて、吹っ飛んだネギが着地した。

「ギャハッ、力押しですかァ。
確かに桁違いのパワーだったけど、ざァーンねンでしたァ。
オマエが言う様に力で壊せるとか根本がちげェンだよ。
ま、大陸の一つ二つぶっ飛ばせるってンなら違うかも、なっ!」

未来予知が出来る訳でもないので適当を言いながら、
びゅん、と、弾丸移動した一方通行とすごくはやく移動したネギがすれ違う。

「何ンですかァ?何か、音がオマエを追い掛けてっぞォ」
(ついて来るっ!)

ネギの視界に、くわっとこちらを狙う一方通行の姿が飛び込む。

「あっ!」
「あァ?」

ネギが飛び退き、一方通行が自分の手を見る。

(彼の口ぶりから考えても、物理的な存在であれば、
彼に触れたものは固形物から光まで彼の法則に支配される。
だけど、そこに魔法が関わると支配力が弱まる。でも、完全に振り切るまでは行かないから当たらない。
しかも、時間を掛ければ不完全でも実用的なまでに魔法の法則すら解読出来る。
彼の、法則、解読…)

502: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/17(土) 04:12:52.47 ID:zE5xl/Ws0
「おィおィおィ…」

一方通行の顔には、実に不気味な喜色が広がっていた。

「なンだなンだなンですかァ?
電気そのものってのはなンですかァ?
例によって妙な混ぜもン入ってやがるが、
なァンですかァって聞かれたら電気としか答えようがねェじゃねェかおィ」

ババババババッと地面から土塊がネギに突っ込み、ネギはバツ字の腕でガードする。

「ちィと抉ったツラが、瞬、で再生したのも電気で出来てるからですかァ?」
(この体でも、不完全でも今は彼の支配を免れない)
「オマエ、電気の神様かなンかですかァ?
ニンゲンの電気のトップの回数がアレなら、
オマエを掴めば届いちまうのかもなァ、そんなモンが今更出て来やがって」

(速さと精度を考えると、触れるだけで全ての「構造」を「理解」してる。
今を理解して、ほんの少し何をどうすれば望む変化が起こるのかも理解してる。
だから、この体でも、
まともに掴まれたら最悪構造の根っこから分解される、命の保障は無い)

「面白れェ、
面白過ぎンぞ三下ァァァァァァァァァァァァ!!!」
(受けるのも駄目、打つのも駄目、
とにかく触れる事が出来ない。攻撃が届かないと先が無いっ!)

 ×     ×

「………なのー………なのー………なのー………なのー………
………なのー………なのー………なのー………なのー………」
「ごめん、周りがうるさ、もう一回最初から………
ふんふん………凄い風が吹き荒れて雷が横に飛んで物が浮かんで
謎のマッチョが暴れて本が空を飛んでビームが………」

513: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/19(月) 04:29:35.16 ID:SnI8vPYZ0

 ×     ×

「ああ、シャットアウラに連絡が入った、アリサがさらわれたてな。
これから部隊と合流するらしい。俺も後を追う」

マンションの屋上で、小太郎が連絡事項を告げて携帯を切る。
手近なミニノートのモニターには、つい先ほどまでシャットアウラが映し出されていた。
隠しカメラの位置の関係で、寝そべった姿勢で正面から間近に彼女を見上げるのと同じ視界で
部下からの連絡を受けるシャットアウラの姿を小太郎はモニター越しに見ていたのだが、
既に彼女は素早く必要なものを身に着けて部屋を出た所だ。

 ×     ×

「黒鴉部隊が動き出した、アリサ拉致の連絡が入ったらしい」

電話を切ってそう言った長谷川千雨の顔は真っ青だった。

「どうなってやがる…」

アリサ拉致直後を最後に、仲間からの連絡がことごとく途絶えていた。
携帯のGPSで確認した所では、
アリサ拉致の一報を報せた朝倉和美は、その後見る見る現場のファミレスを遠ざかった。

同じくファミレスの店内に配置していた運動部、
現場近くまで来た図書館探検部マイナス近衛木乃香のチームは、その場に留まったまま。
火力要員として期待されていた古菲、長瀬楓も全く意味の分からない所に留まっている。
そして、そのことごとくが、千雨の報告要請に対して無視を決め込んでいる。

今の所、希望は二つ。小太郎がシャットアウラの追跡に当たっているので、
組織力のある彼女がアリサに行き着けば対応能力のある小太郎が必然的にアリサに行き着く。
もう一つは、朝倉和美。元々それが能力である彼女が拉致されたアリサを追跡している、そう思いたい所だ。

514: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/19(月) 04:34:48.12 ID:SnI8vPYZ0
それにしても、この状況は尋常ではない。
連絡の途絶えている面々のそのことごとくが、経験の浅い深いはあっても、
曲がりなりにもあの夏の事件を闘い抜いた強者達だ。
それが、揃いも揃って、そもそもの目的であるアリサの緊急事態に際して
あったとしても一報の後は何一つ連絡を寄越して来ない。嫌な予感しかしない。

今更ながら、千雨は人選の問題に頭を痛める。
最大の失敗は、通信を軽視した事だ。
遠隔指示をするならば、遠隔偵察、通信能力のある朝倉和美を司令部付にするか、
今千雨の隣で心配そうにしている村上夏美を監視専門で前線に張り付けておくか、
情報を把握できるラインを確保しておくべきだった。

あの夏に上手に行った、それだけのパワーに知らず知らずに頼り過ぎていた。
結果、見事に孤立している。流れに任せてアバウトにやり過ぎたと千雨は内心で頭を抱えていた。

 ×     ×

「ゆーなっ!」

席を立ったアキラが裕奈を追い掛けようとする。
その前に、小柄な人影が素早く割り込む。
運動神経のいいアキラがさっと一撃目を交わし、
立ち上がったアキラはとっさに手近な空きテーブルを楯にする。

「超馬鹿力ですね。あの刺客の超仲間ですか?」

一言目に就いては、あんたに言われたくない。
悠々とテーブルを貫通した穴から腕を引っこ抜く絹旗最愛を前に、
大河内アキラはぞーっとしながらしみじみ思う。
結局、テーブル一つ半ば振り回して楯にするアキラも
そのテーブルを最終的には木屑になるまで破壊する絹旗最愛もどっちもどっちって訳よ。

「やあああっ!!」

亜子が殴り付けた椅子が絹旗の鎖骨付近で粉砕され、絹旗がくるりとそちらを向く。

「別に超痛くもありませんが、
五億円回収して超倍返しされる覚悟は超あるんですよね」
「ち、超倍返しって超痛そうなんやけど」

515: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/19(月) 04:40:04.17 ID:SnI8vPYZ0
「亜子っ!」

声と共に、絹旗の体が着弾の衝撃を受ける。

「?」

そこで、絹旗は異変に気付いた。

「パンチ力キック力普段着なのに異常な防御力、それ自体なんかの術でしょ」
「オフェンスアーマーの効力が超減退している。能力に超干渉する能力者ですか?」

絹旗が両手を握って事態を把握する。

「お仲間の援護とは余裕だにゃーん、ナメてんのかああああっ!!」

絹旗に向けてニカッと笑った裕奈がダッと飛び退き、そばにあったテーブルが爆発した。

「!?」

そのままビーム、原子崩しの狙いを付けようとした麦野沈利の視界が塞がれる。

「麦野っ!」
「わわっ!」

麦野の顔に巻き付けたリボンを途中で切断され、佐々木まき絵がバランスを崩す。

「結局、その程度って訳よっ!!」

リボンに飛び付き焼き切って身軽に飛び込んで来た
フレンダ=センヴェルンの回し蹴りをまき絵が辛うじて交わした。

「でかしたっ!」

実戦拳法?vs格闘新体操棍棒術の激突開始を尻目に、
顔に巻き付いたリボンを床に叩き付け叫んだ麦野がぼっぼっぼっと空中に光を浮かべる。
裕奈がドンドンドンと拳銃を発砲するが、
その銃撃は即座に強力なビームに呑み込まれて裕奈は這々の体で転げ回る。

516: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/19(月) 04:45:14.87 ID:SnI8vPYZ0
「オラオラオラッー!何マット運動やってたんだぁーっ!!
そんなオモチャでどうにかなるとか思ってんのかにゃーんっ!?」

ダッと飛び込んだテーブルの下から裕奈は又飛び出す。
そのテーブルがどうなったかに就いては見なかった事にしておく。

「つっ!?」

割れたガラス壁からびゅうと突風が吹き込んで来た。
裕奈がそっちに視線を走らせると、
表では突風が吹き荒れ
なんとなく見覚えのありそうなマッチョがジャンプ力の設定を間違えたかの様に空に消える。

「な、何…」
「だーから、何よそ見してんだおらあああっ!!!」

ざっ、と、通路を一歩進み出た麦野の原子崩しを転がる様に交わした裕奈がそのまま銃口を向ける。

「はひゃっ、どこ狙ってるのかにゃーん…」

麦野のすぐ隣の空きテーブルで、ソースが醤油が水差しが着弾を受けて爆発する。

「大丈夫、私はそんなまだら模様のむぎのを応援してる」
「………ガキが汚ねぇケツ振って逃げてんじゃねぇぞオラァーッ!!!
その半端なコスプレひん剥いて
ご自慢のデカチチごと腐れ×××丸出しご開帳で吊してやっからよおおおおっっっっっ!!
パリィパリィパリィパリィィィィッッッ!!!」

ガタッと立ち上がったクドイ肉塊候補達がテキトーに放たれた原子崩しで阿鼻叫喚を展開する中、
通路をしゃかしゃか逃走する裕奈のすばしっこさは
麦野の危ない目盛りを着々とMAX近くまで押し上げる。

517: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/19(月) 04:48:18.47 ID:SnI8vPYZ0

 ×     ×

資材置き場に立つ一方通行の元に集団で殺到して来たのは、
光で出来た、箒をまたいで空を飛ぶ人間だった。
知っている人間に言わせれば戦闘用の使役精霊だった。
それらも、一方通行にかかるとぶつかる先から弾き飛ばされ、
いい加減苛立った一方通行に適当に殴られる先から消滅する。

「分身の術、つーか…」

一方通行は呆れて見ていた。
一方通行の周辺四方八方を目にも止まらぬ速さで飛び回るネギが、
物凄い数の光の矢を一挙動ごとに一方通行に打ち込み、更にその合間に白き雷を放つ。

そのかなりの部分は不完全反射で明後日の方に消え失せるのだが、
真っ直ぐネギの元に戻って来るもの、ネギ自身が速すぎて前の攻撃の反射とかち合ってしまうもの、
ネギだけが自分自身の攻撃で多少なりともダメージを受けながらも、
この高速攻撃をネギはやめない。

(考えている暇は無い筈。どれだけ撃っても確実に跳ね返ってる。
目算で言えばかなり高い確率で機械的に一定の反射、
当たる直前に機械的に元の方向に…)
「ヒャハッ、下手な鉄砲数撃ちゃ当たるってそンな希望に縋ってるンですかァ?」
「雷の斧っ!!」

強力な落雷の打ち下ろしにも一方通行は傷一つ負わず、
その一部の跳ね返りを受けたネギが吹っ飛ばされるだけだった。
呆れたのか、幸い一方通行は追ってこない。

チラッと懐の小さな精霊に視線を走らせたネギが呪文詠唱を完成させ、
一方通行が竜巻に巻き込まれる。

その中心は比較的安定していて例え一般人でも巻き上げられる事は無かったが、
その代わり、周囲を渦巻く風の壁から大量の石礫が飛来し降り注ぐ。
常人であれば一分も掛からずグロ画像直行の勢いだ。
だが、当然そんなものを歯牙にもかけない一方通行が、風の壁に腕を突っ込む。

518: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/19(月) 04:51:27.81 ID:SnI8vPYZ0
(こいつが、不自然に動かしてる核か?)

一方通行が念を込める様に何かをすると、竜巻はあっさり消滅した。
巻き込まれていたものがバラバラと降り注いでいるのをまるっきり無視して、
背後からネギが急接近して来ていた。

「くっ、あああああっっっっっ!!!」

両手に凝縮して包んだ光の球を一方通行の背中に叩き付けたネギが、
思い切り吹っ飛ばされて資材の山に背中から叩き付けられる。

「ほォーおっ、零距離なら反射を突き破れるとか考えたのかァ?
ざーンねンでしたァ。分かってンだろ、そういう理屈じゃねェって。
それでも縋り付いてみたくなるってかァ?」

パン、パン、パンと手を叩きながら、一方通行が緩慢に歩み寄る。

「前に一度だけ、俺に土を付けて見せたのはレベル0の無能力者だった。
まァ、普通のレベル0じゃァなかったけどな、
それでも、最弱だからこそ最強の強さをすり抜ける何かがあったってなァ。
だから、オマエが初めてなンだよ。
オマエみたいに強い奴でここまで食らい付いて来たのはなァ。だから」

資材の山の前でずるずる崩れるネギに、一方通行はいびつな笑みを向ける。

「敬意を表して、最強の最っ強って奴で終わらせてやるぜ」
(風が、流れ…)

一方通行の掲げた両手の上で、大気の変動が始まる。
魔法の風使いであるネギは、肌で感じるそのとてつもない規模の動き、力に戦慄する。

「くかっ、くかかっ、かかかきくけけこかきくけかこくかけかかきくけけけけけかかかかかか」

上空で空気が圧縮され、放電が始まる。

「最強からの最っ強の電気のプレゼントだ、
呑まれちまえよ電気の神様よォォォォォォォォォ!!!」

519: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/19(月) 04:54:36.34 ID:SnI8vPYZ0
「………エーミッタム………」

それは、最初は微かな違和感だった。

「あン?はァーずれェー?」

遠くの爆発音を聞いた一方通行が言う。
だが、音色の違う爆発音が不規則に始まると、違和感は無視できない程にうるさくなる。
一方通行が周囲を見回すと、下から上に、竜巻が、火柱が、稲妻が下から上に、
更に地面も局地的に震動している。

それは、ネギがそこら中にばらまいたルーン札が巻き起こすものだった。
ネギは、勉強熱心な魔法使いであり、そして天才、である。
その技量、特にパワーは専門のルーン魔術師に勝るとも劣らない。
そのネギがばらまいたルーンが次々と、不規則に発動する。

「何だァ?どれもこれもデカいって程でもねェのによ、
密度が異常に濃いじゃねェか、演算をかき乱してくれやがる。
面白れェ、面白れェ面白過ぎンぞ三下ァァァァァァァァァ!!!」
(ルーンが呼び出す四大元素、それがどう響いて歪んで変化しているか)

ネギ・スプリングフィールドは天才と呼ばれている。
その理由は色々ある。
拳法の師である古菲が舌を巻き、時間遅延の反則があったにせよ、
そんな程度の有利さなど話にならない成果をもって、
とうとう不死の真祖すら諦めた禁断の術式をも身に着けた学習能力。

そして、頭脳の天才葉加瀬聡美を驚愕させた基礎応用力。
そう、今そうである様に、
小さな補助精霊の力を借りながら基礎的な魔法の応用を徹底的に突き詰める事で、
超高性能コンピューターに補助された時間魔法すら真っ向から打破して見せた。

理論的に可能と実現可能のラグを限りなく無効化してしまう天才、
ネギ・スプリングフィールド。

520: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/19(月) 04:57:58.09 ID:SnI8vPYZ0
「おォ、まだやる気ですかァ?」
(ルーンからの反響、精霊の反射、光の矢の反射、白き雷、雷の斧の反射、
物理的反射と魔法による攪乱反応の落差………正確な理論値を出すには全然足りない。
最後の所はこの体の記憶、感覚に頼るしかない)

尻餅をつきながらも、決して死んではいないネギを見て一方通行が喜色を浮かべる。

「勘違いすンなよ。大技が使い難くなったってだけだからな」
「ラス・テル マ・スキル マギステル…」
(チャンスは一度だけ。僅かでも数値を変更されたら全部が分からなくなる。
それ以上に、これは無理そのもの。
有効な威力で普通に実行したらその場で引き裂かれて破綻する。
この体だからこそ、辛うじて修復が効く。二度目が出来る程の回復時間はもらえない)

ネギがぎゅっと握った手が光を帯びても、今更一方通行は驚かない。

「分かった、掴み取ってやンよ。
この手でな、この手でオマエを掴み取って終わらせてやる!!」
(だから、理論的な成功率は限りなくゼロに近い。それでも…)

528: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/21(水) 04:16:14.92 ID:7MCpUfDs0

 ×     ×

「ちっ!」

七閃が、一見すると小砂利、正確には主に神裂による破壊活動の痕跡を大量に巻き上げる。
思わず腕で顔を覆った次の瞬間には、
ガンドルフィーニはたった今まで銃口を向けていた神裂の手刀を後ろ首に叩き込まれて昏倒する。
なお、銃口を向けながら発砲しなかったのは、遥か射程距離外にいたからに他ならない。
神裂がタッと飛び退きながら七閃を放ち、何かがバババッと弾き飛ばされる。

(カマイタチ、風の術式…)
「………奥義………斬岩剣っ!!」

大跳躍からの打ち下ろしを、七天七刀がガキッと受け止めた。
葛葉刀子と神裂火織が互いに手にした大太刀がギリギリ押し合う。
ガキンと刃が弾かれ距離が開くと同時に、又、カマイタチの連射が神裂を襲った。

(遠距離の後衛と接近戦の前衛。
オーソドックスな魔法使いの戦闘スタイルですが実力があるだけに厄介)

七閃でカマイタチを凌ぎながら飛び退いた所に、刀子が食らいついて来る。
七閃で刀子を牽制する。

「神鳴流奥義・斬鉄閃!」

だが、刀子はタッと飛び退くや手堅く次の攻撃を仕掛けてくる。
神裂がそれを七天七刀で弾き飛ばしている間に、刀子は間合いを詰めて来ている。
大太刀同士である事などどうでもいい、
物理とか人体とか全くもってどうでもいいと言んばかりの、ガガガガガッと速く鋭い刃の応酬。
勢い余って流されたのは神裂の方だった。

「風花旋風風牢壁!」

その気を逃さず、離れた場所で後衛に当たっていた魔法教師神多羅木が風の魔法を放ち、
神裂は渦巻く強風の中に閉じ込められた。

529: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/21(水) 04:22:22.40 ID:7MCpUfDs0
「監禁術式、少々厄介ですね」

呟きながら、神裂は刀を鞘に納める。

「…ぬっ…まずいっ!」
「いけないっ!」

確実とは思わなかったが術自体は決まった、
一仕事終えた一服したいぐらいの心地だった神多羅木が伝わる感触に緊迫し、
刀子が大きく跳躍した。
凄まじく強烈な逆回転をぶつけられ、神裂を取り巻いていた風の檻は瞬時に消滅した。
その時には、神多羅木の上空で神裂と刀子の刀が激突していた。
ターンと弾け、両者は神多羅木を挟む形で着地した。

「くっ!」

神多羅木が無詠唱で連射するカマイタチを、神裂は抵抗と言える遅れ一つ見せず
七閃で弾き飛ばしながら見る見る距離を縮める。

「神多羅木さんっ!」

刀子が駆け付けた時には、
刀子は水月に刀の柄を叩き込まれた神多羅木の体をとっさに支える事しか出来なかった。

「ちいっ!」

刀子がさっと神多羅木を地面に横たえ動き出す。
跳躍した刀子と神裂がすれ違い、着地した時、
神裂のTシャツの右袖に出来た裂け目は限りなく内側の小高い隆起のスタートに近づき、
元々長いとは言えない刀子のタイトスカートにベルトに迫ろうかと言うスリットが加わる。

「見事」
「流石ですね」
「長年剣をもって叩き上げて来た経験豊富な古強者」
「長い年月を経て磨き上げて来たまさしく熟練の技」

ピキッ、ピキピキッ、ピキッ、プチィィィィィィィィィンンンンンンンンン

530: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/21(水) 04:27:36.68 ID:7MCpUfDs0
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁたしはまだじゅうはちだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」
「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁれが
としまのじゅくじょですかああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」

何かユイセンとかシンメイリュウケッセンオウギとか言う発音が聞こえたのは
多分気のせいだろうそうに違いない

「ねえ、何が起きてるの?」
「うーん、第三次世界大戦にはまだ間ぁがあるんやけどなぁ」スイショウダマノゾク
「起こる事前提ですか」

ガキーンと弾き飛ばされ、
ダメージを流すために敢えてそれに乗った神裂は、振り返り様に七閃を放つ。
バッと切断された大量の触手が舞い散り、
高音・D・グッドマンは次の一撃を「黒衣の夜想曲」の自動防御で回避する。

高音が、自分が動けない程の完全防御を固める。
神裂であれば下手をすれば力業、そうでなくても浸透打撃術で打破する事も可能だったが、
この無意味な行為そのものに就いて一瞬思考し、ざっと飛び退く。

「メイプル・ネイプル・アラモード…」
「ラプ・チャプ・ラ・チャップ・ラグプウル…」

神裂の周囲に、急遽呼び戻された佐倉愛衣と夏目萌の放つ火球と水球が
放物線を描いて次々と落ちて来る。

(やけに命中精度が低い?………!?)

神裂を逸れる遠距離攻撃と亀を決め込む高音にチラと視線を走らせた神裂がザッと大きく飛び退いた。
バランスを調整された火と水の球が空中で激突し、次々と爆発する。

「………小賢しいっ!!」

爆発を避けて跳躍していた神裂が、着地前に七閃を放つ。
魔法の隠れ身札を手に潜伏していた瀬流彦他槍持ちの魔法教師が一蹴された。

「捕縛結界でしたか」

神裂は、駄目押しに地面に刃を突き立て、地面に仕掛けられた魔法陣を粉砕した。

531: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/21(水) 04:33:10.83 ID:7MCpUfDs0
次の瞬間には、振り返り様に目にも止まらぬ速さで鞘に納めた刀を抜き放つ。
そして、真っ直ぐ突っ込んでいく。

神裂の進路が一本の道となってその両サイドには人が埋まる程のかき氷の山がこんもり積み上がり、
超高速移動から急ブレーキした神裂が納めた刀を鞘走らせ
ガン、と、某ジャンプ漫画の某元新撰組副長助勤警視庁巡査を思わせる突きを繰り出す。

かくして、とてつもない速度でその一挙動を終えた神裂の手にした七天七刀は
エヴァンジェリン・A/K・マクダウェルの胸板をぶち抜いて後ろの壁に突き刺さっていた。

「なるほど、不完全とは言え結界を緩めてまで、
つまらん言葉で私を挑発してここに仕向けただけの事はある。あの爺ぃ」

エヴァンジェリンは神裂に不敵な笑みを向ける。

「光栄ですね。出会い頭から駆け引き無し戦争レベルのフルパワーで一気に仕掛けていなければ、
恐らく私は氷河の中です。そういう訳で」

E/
v/
a/
n/
g/
e/
l/
i/
n/
e/
A/

K/
M/
c/
D/
o/
w/
e/
l/
l/

532: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/21(水) 04:38:28.35 ID:7MCpUfDs0
「あなたの事は聞いています。終わったら修復してもらって下さい」

神裂が刀を鞘に納め背を向けて歩き出す。

「私達、あんなのと闘ってたの?」
「何か、そのまま宇宙でも闘えそうやなぁ」ゼイチクジャラジャラ
「いや、どこかの塾長じゃないんですから」

ここで、攻撃に転じた高音と妹分の魔女見習い二人、
そして刀子がじりっ、じりっと神裂に近づく。
人数はもちろんだが、ここまでチートをやっておいて何だが、
この四人がチームで来ると言うのは神裂にとっても決して侮る事が出来る状態ではない。

相性の都合で遠距離タイプを最初に潰した神裂だったが、
年月を重ねた熟練の技を使う刀子は、剣士、魔術師として神裂に相対するに十分値する。

高音も魔法使いとして高い能力を持っており、
絶対防壁の使い方次第で神裂を苦しめるぐらいの目はある。
その上、まともな戦闘であればそこそこ使える妹分二人を従えている。

(いざっ!)

各陣営が腰を浮かせた次の瞬間、
ドガーンと巨大な石の拳が麻帆良側の両サイド近くの地面に叩き付けられた。

「何やってんのっ!?」

神裂の側でぼこっと湧き出した土塊の中の目玉が開き、声を伝える。

「情報収集に行って麻帆良の魔法教師と全面戦争とかあんた頭大丈夫っ!?
んな事されたら今度こそバックアップの私まで処刑塔行きだっての!!
そいつら片付けても上の方で見てるんだよ、ユニークな脳天の爺ぃと多分変態のニヤケ面が、
多分だけどそいつら私らがタッグでも瞬殺されるぐらい強いから」

533: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/21(水) 04:42:00.47 ID:7MCpUfDs0

 ×     ×

「はあっ!?多重能力者!?」
「いや、だから御坂さん、都市伝説じゃなくって、
春上さんが報せてくれたんだけど…」
「それはだから不可能だって」

「でも、一人は間違いなく風と電気を一人で扱ってて、
それから、妙な具現化能力使う奴もいて、
何とか凌いでるみたいだけどかなりヤバイ状況だって」

「分かった、近くにいるからちょっと行ってみる。
どっちにしても、放っておけない」
「気を付けてっ!」

 ×     ×

一方通行がロケットスタートした。

(ほおおっ、渾身の一撃って奴ですかァ。そィつァ命取りになるぜェネェギィくゥン。
それとも、核爆弾十個分のパンチとか怪獣図鑑に載ってるパンチか何かですかァ?
アハ、アハアハッ)
「やって見ろやァ三下あァっっっっっ!!!」

「………桜華崩拳………」
(………ここ………だっ!!!………)
「………退っ!!」
「………ごっがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!」

ネギの拳を受けた一方通行の体が吹っ飛ぶ。
資材の山から山へ、ピンボールの様に叩き付けられて跳ね飛ばされ、
その内角度が変わって地面を何度かバウンドして
ようやくの事で大の字にぶっ倒れる。
当然、自動反射でなければとっくに即死だ。

534: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/21(水) 04:45:25.89 ID:7MCpUfDs0
「くああああああっっっ!!!」

そのネギはネギで、そのまま地面に倒れ込んで悶絶していた。
一通り絶叫して、やはり地面に大の字に倒れ込む。
押せば引く、押すも引くもこの場合方向が違うだけで同義、

そうであれば、引くが押す。
この馬鹿馬鹿しい理屈を、その一瞬、
押すが引かれるそのほんの一瞬だけに全てを懸けて大真面目に実践して、
その馬鹿馬鹿しさの反動で無理やりな方向に引っ張られた体に未だ激痛が走る。
生身の人体であれば引き裂かれた勢いだ。

「あー、もう終わってたかにゃー」
「土御門、元春さん」
「あー、魔法世界の英雄様がご存じとは、光栄の至りだにゃー」

かくして、土御門はひょいひょいと気楽な足取りでネギに近づき、そして、
深々と頭を下げた。

「まず、この不始末を謝罪する」
「今回はどの立場ですか?」
「お前…君を招いた側、学園都市統括理事会、そこに連なる立場、そう思ってもらっていい」
「お前で結構です。お互いここでは表に出ない立場。
歳と立場がアンバランスだとやり難いですから」
「そうか」

真面目な口調で話していた土御門がネギに携帯を渡す。

「もしもし、ネギ先生?ただ今会食を終えました。
ホテルに戻りますのでネギ先生もお戻りの際は連絡下さい」
「いいんちょさん?」
「ネギ先生?聞こえておられますか?」

「え、ええ、大丈夫なんですか?」
「ええ、お陰様で有意義に交渉が進められました。
電話ではなんですので詳細はホテルでゆっくりと」
「わ、分かりました」

ネギが電話を切る。

535: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/21(水) 04:48:49.27 ID:7MCpUfDs0
「只の行き違い」

土御門が言う。

「連絡が行き違って予定変更に関するちょっとした連絡漏れがあった。
携帯も信用出来る人間が預かっていただけ。
それを持ち出した人間、それを故意にやった人間がいるって事だ。

あっちの学園都市最強一方通行に関してもな。
人の死体の上に犬の死体を埋めておけばそれ以上は詮索されない。
犬の死体にお前達に貸し出されている電子機器を使った奴がいるって事だ」

「じゃあ、あの人も?」

「ああ、あいつの大切なものに手を出した奴、そいつの正体を追跡して行けば、
最初の偽装を突破すると学園からお前に貸し出された機器に行き着く。

もちろん、こっそりとハッキングした結果だが、
何しろお前ら自身お忍びのために名目を色々偽装してるって事もある。
犬の死体に引っ掛かったって事さ。本来敵対する理由は無い」

「そうですか」
「誰がやったのか、聞かないのか?」
「雪広あやかの無事は確認出来ました。そうですね」

「ああ、お前が戻るまで決して手は出させない」
「後は土御門元春さんにお任せするのが最上、この結論は間違っていますか?」
「今回、出だしは抜かったがな。
こっちの事はこっちで始末を付ける。任せてくれて感謝する」

536: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/21(水) 04:52:31.18 ID:7MCpUfDs0
心当たりはあり過ぎた。
少なくとも、この学園都市の中でもトップクラスが関わらないと今回の仕掛けは無理だ。
ネギ達とて、学園都市内でも簡単に行動を乗っ取られない様にそれ相応の用心はしている。

ざっと想定するだけでも、主導権を握るネギを亡き者にして
エンデュミオンを足がかりに学園都市がプランを総取りするもくろみ、
或いは、ネギの訪問による魔法、或いは魔法を含む魔術と科学の歩み寄りを警戒する立場。
或いは一方通行の方に何か含む所が、科学の最強一方通行と魔法の最強ネギとの闘い、
少なくとも、このどっちかを倒すにはもう一方がいるのは絶好の機会。

ありとあらゆる意味で客観的には愚かな試みなのだが、
今のネギは社会的地位のある愚か者など掃いて捨てる程見ている立場だ。
学園都市の事は学園都市に任せる。今はそれが最善であるとネギは踏んでいた。
善悪は別にして、ネギは学園都市自体の聡明さに就いては相応に信頼していた。
少なくともこれが学園都市最終意思の本意ではなかろうと言うぐらいには。

許可を得た上で訪問している「魔法」の「英雄」、
引いては「魔法」を含む「魔術」サイドの大物に
学園都市の上層部が関わって「科学」の「最強」を差し向けた。
或いは、学園都市内でその科学の最強を魔法の英雄がぶちのめした。

それが知れた時点で、全軍進撃を指示し兼ねない者をネギはダース単位で知っている。
当然、それはネギのプランに取って軽視し難い悪影響となる。そして、その事を望む者も存在する。

それだけのプランのために学園都市を訪問している以上、
土御門元春と言う男に就いてもネギは相応に情報を得ている。

少なくとも、彼に就いてネギ自身が知り尽くしていると勘違いしない程度には確かな情報を得ている。
そして、学園都市に絡む下らない戦争を止めるためには
取り敢えず彼に乗った方がいい事を知っている時点で、そこは流石ネギ先生と言う事だ。

「大丈夫なのか?」
「ええ、何とか」

人間の体に戻り、よいしょと立ち上がるネギと土御門が言葉を交わす。

537: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/21(水) 04:55:53.11 ID:7MCpUfDs0
「まだ動けるんなら、本業の方も片付けてもらおうかにゃー」
「本業?」
「ああ、ちょーっとオイタが過ぎて困った事になってる
ネギ先生、を、大好きな可愛子ちゃんのお説教タイムぜよ。この学園都市でにゃー」
「ちょっと、待って下さい、この学園都市で、って」

「まぁー、お互いややこしい街に住んでると色々あるモンぜよ。
取り敢えず、少し急いだ方がいい。
今回の件で分かっただろう。見た目可愛子ちゃんで
その実あの夏にお前と戦火をくぐり抜けた強者でも、この街はそう甘くはない」
「分かりました」

ぐっと真面目な顔で返答したネギに、土御門はグラサンで目を隠したまま口元を緩める。

「あー、杖はいらないにゃ。魔法でごまかせるって言っても
ここは科学の学園都市だからにゃー、確実とは保障出来ないぜよ」

右手を挙げるネギに土御門が言い、ついっと視線を脇に向ける。

「ネェェェェェェェェェギせぇぇぇぇぇぇぇんせぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
「あ、結標さん」

「話は伺いました。さ、参りましょうネギ先生。
ええ、私の能力は私自身に極めて密着したもので無ければ移動する事が出来ない能力でして、
ですからそう、こうやってぎゅっと力一杯ぎゅーって、

それで、決して長距離を一度に移動できる訳ではございませんし場所的な制約もありますから
目的地に向けて小刻みにぐるりと移動する事になります。
もーちーろーん、私自身が一緒に移動する事に就いてはぜーんぜんオッケーと言うか
そうしなければならない訳でございましてこの結標淡希地獄の底までネギ先生とご一緒に。

はい、ですからしっかりと力を込めて
埋まる勢いで大丈夫ですよそうめくるめく時を過ごす勢いでネギ先生、

はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ漲るぅぅぅぅぅぅぅぅぅ
これは全てを乗り越えられるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ

はい、ぎゅぅーっと、さーんにぃーいーち

我が人生一片の悔いなぁーっしいっ!!!」

538: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/21(水) 04:59:22.88 ID:7MCpUfDs0
「………」

結標淡希ネギ・スプリングフィールドの消失を見届け、
土御門は地面にいまだ大の字になっている一方通行に近づく。

「あ゛ァ?」
「あー、今ん所無関係なお前で悪いんだが、ちょっと仕事を頼みたい。
ま、いっぺんやった事だ」
「ンだァ?」

「なーに、今さっき顔面から赤い噴水まき散らしてぶっ飛んでって
そろそろ絶頂を極めて戻って来るキャラ崩壊を究めたムーブポインターに
肉体言語で原作ってモンを思い出してもらう簡単なお仕事だにゃー」

それだけ言って、土御門は一方通行からも離れる。

「はぁーあ、「魔法」の英雄が「科学」の「最強」をねぇ…
それ抜きにしても凛々しいにゃあ、流石は英雄か、真っ直ぐとまぁ。
あいつが惚れる訳ぜよ。
こっちの収拾に奔走させられたが、あっちの方は…」

取り出した携帯を覗いた土御門は、
イメージ映像で言えばサングラスがピシッと音を立て顔中にだーっと汗が伝い落ちていた。

544: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/23(金) 04:28:29.17 ID:x5iBC5rr0

 ×     ×

「くっ!」

絹旗最愛の回し蹴りを受けて、
ボクサーガードしたアキラの腕が痺れ足が大きく後退する。

「超もういっちょうっ!」
「つっ!」

窒素装甲が大幅に削減しても絹旗にもそこそこ経験値はある。
絹旗のひらりと身軽な回し蹴りを後退して交わしたアキラの足がスリップし
空きテーブルに背中から倒れ込んだ。

経験値と残りの窒素装甲で今でも格闘家ぐらいシメる勢いの絹旗。
これで絹旗がフルパワーであれば、一撃でもまともに受けたら
防御関係なく骨格、筋肉が無事では済まなかった筈だ。
アキラがそのテーブルを自分の前に倒し、絹旗は危うく拳を止める。

「超肩凝りを治してくれた超お礼をしますか」

絹旗はコキコキ肩を鳴らしながらアキラに背を向けて、
半ば腰を抜かしている亜子の元にツカツカと歩み寄る。

「超外れです」

アキラが放り投げた水差しが放物線を描いて絹旗の前に落下する。

「アデアット!」
「!?」

絹旗は目を見張る。
逃げ遅れた亜子を一撃する予定だった拳が、
両腕を広げたアキラのボディーを一撃していた。

545: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/23(金) 04:33:53.46 ID:x5iBC5rr0
「アキラっ!」

アキラが、叫ぶ亜子の手を取る。
そして、絹旗の前から二人は姿を消し、倒れた水差しだけが残される。

「あれは、超テレポート?それも余りレベルが高くない」

混乱した店内のあちこちに現れるアキラと亜子を見て絹旗が呟く。
そして、そんなアキラに視線が向いた隙に、
裕奈が店のあちこちの水差しを狙って拳銃を乱射していた。

「くあっ!」
「アキラっ!」

フレンダとの一進一退の末に後ろに跳躍したまき絵が、
アキラの大きな体で空中で抱き留められて叫ぶ。
床に待たせた亜子もすぐに縋り付く。

「結局、逃げられたって訳よ」

フレンダの前から姿を消した運動部三人組が、パッと通路に蹲る様に姿を現す。
むっちり色っぽいおみ脚からそーっと上を見ると、
どこぞのお嬢様が実に素晴らしい笑みを浮かべていた。

「…はーい…」
「こんにちわぁ…」

まき絵と亜子が引きつった笑みで愛想を返す。

「パリィパリィパリィパリィィィィィィィィィッッッッッ!!!」

取り敢えず、自分らの肉体が液体を通り越して蒸発する前に三人は姿を消す。
心得たもので、ささっととあるテーブルの下に隠れていた裕奈は、
早速に通路に水差しをぶちまけていた。

「アッキラッ」

そして、通路に姿を現したアキラの背中に裕奈が勢いよく抱き付く。
ジャッと原子崩しが空を切り、四人揃った運動部の姿は入口近くに存在していた。

546: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/23(金) 04:39:34.05 ID:x5iBC5rr0
「はいごめんなさいっ!!」
(………犯罪者だ、犯罪者の群れだぁ………)

裕奈、まき絵が次々とテーブルからカウンター前を飛び越えていく。
心中の呟きを余所に、アキラも又、腰の抜けた亜子をお姫様抱っこして現実に従い、

「ホントーにごめんなさいっ!」

申し訳にお会計だけカウンターに放り込み入口にダッシュする。

「テレポーターかよ、ったく…」

呟いて、麦野沈利は携帯を取り出す。

「と言う訳で、事態を穏便に収拾するために修理代その他含めてこっちで負担しといたから。
次の仕事の報酬はその辺考慮されるって事でよろしく」

「はわわわわわわわわわ………」
「超ブチギレてますね」
「大丈夫、私はそんな髪の毛がふわーっと浮かんで
目から赤い光を放ってるむぎのを応援してる」

麦野の手の中で携帯がバキンと嫌な音を立てる。

「ブ・チ・コ・ロ・シ・か・く・て・い・ね」

 ×     ×

「な、なんですのっ!?」

ファミレス近くの路上で
二人の友人共々大型のくらーけんはんどに拘束されて、婚后光子は声を上げた。

「何だか知りませんが無闇にじゃれつくものではありませんわよ」
「はあっ?」

角から覗いていた図書館三人組が唖然とする。
そうやって、婚后に撫で撫でして話しかけている内にくらーけんはんどが力を緩め、
三人とも脱出してしまった。

547: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/23(金) 04:45:20.79 ID:x5iBC5rr0
「あなたたち、どういうつもりですか?」
「やばっ」
「フォア・ゾ・クラティカ・ソクラティカ…」
(………何か、風が感じられますわね………)

くらーけんはんどを脱出した泡浮万彬がつかつかと曲がり角へと歩き出す。
ハルナが焦りを見せている間にも、綾瀬夕映は着実に手を打つ。

「………戒めの風矢………!?」
「はわわわっ!」
「防壁っ!」

婚后光子の扇子の動きに合わせる様に、突如巻き起こった突風が図書館組を襲う。
風は夕映の放った捕縛魔法を易々と呑み込み、
ハルナが防御用ゴーレム「盾の乙女」を召還しなければまとめて吹き飛ばされていた勢いだ。

「行けっ!」
「これは、少なくとも人間ではありませんわね。能力の物質?」

ハルナが「盾の乙女」をそのまま攻撃に回す。
相手の三人組の先頭に泡浮万彬が立ちはだかった。

「ハルナ、飛ばしたですか?」

夕映の質問にハルナが首を横に振り、「盾の乙女」はデタラメにジャンプして相手を飛び越える。

「こりゃー、千雨ちゃんの言った通り、相当厄介な相手だね」
「ですね」

ハルナと夕映が意見を一致させる。
図書館チームが、隠れるのをやめてさささっと前進して動き出した。

「くっ!」

新たな突風に吹き飛ばされそうになりながら、夕映は練習杖を前に出す。

548: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/23(金) 04:48:26.16 ID:x5iBC5rr0
「あなたも風の能力者ですの?
しかし、その程度ではどうにもなりませんわよ!」

扇子で笑みを隠して言う婚后光子の言う通りだった。
とっさにそのまま強風をぶつける魔法で対抗した夕映だったが、
風の出力だけなら、間違いなく婚后の方が圧倒していた。
ならば、まずはどうやって上手に負けるかだ。

「………白き雷っ!」
「!?」

上手に転がって身を低くした夕映が、練習杖から雷を放つ。
とっさにそれを交わしながらも婚后はギョッとしていた。

「そんな、まさか………?」

夕映から見て、優位に闘いを進めていた筈の婚后の狼狽は異常な程だった。

「隙ありっ!」

その婚后に気を取られた泡浮万彬にハルナがマッチョゴーレムを差し向ける。

「又っ!?」

だが、ゴーレムは、泡浮の前で投げ飛ばされたと言うのか奇妙な軌道を描いて
泡浮を飛び越えてしまった。

「もう一度…」
「ハルナよけてっ!」

宮崎のどかの声に、ハルナがとっさに地面を転がる。
ハルナがいた辺りを、細長い水の塊がびゅうと通り過ぎる。
素通しになったガラス壁から店内に入っていた残る一人、湾内絹保が路上に戻って来る。
のどかがとっさに湾内に空飛ぶ本を放つが、
それは湾内が混乱する店内で集約して飛ばした水の塊に呑み込まれる。

「(とにかく、これはいけそうです)白き雷、っ!?」

追い打ちを掛けようとした夕映は、ぞわっとしたものを覚える。

549: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/23(金) 04:51:37.14 ID:x5iBC5rr0
「(風楯ならぬ)雷楯っ!!」

夕映がとっさに応用防壁を張る。
強力な電撃に白き雷が呑み込まれ、更に防壁をも突き破り夕映に一撃を食らわせる。

「ゆえっ!」
「大丈夫!?」
「ええ、何とか」

友人の声に、後方に吹っ飛ばされた夕映は頭を振って応じた。

「ふうん。今の感触、あんた体にも電磁バリア張ってたわね」
(これはっ、生半可な出力じゃないです)
「盾の乙女っ!」

ハルナが「盾の乙女」を上に展開する。
何故なら、破片の様な五月雨電撃が上から降り注いで来たから。
そのハルナに夕映が耳打ちする。
ハルナが前方に展開した「盾の乙女」が激しく帯電する。

「「盾の乙女」が力負けっ!?」
「くっ!」

予測されていたとは言え、「盾の乙女」の消失と共に図書館三人はざっと横に飛び退く。

「跳んだっ!?」

ハルナが叫ぶ。夕映が打ち出した風の塊が、異様なジャンプ力で交わされていた。

550: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/23(金) 04:55:06.72 ID:x5iBC5rr0
「なぁにしてくれちゃってるのかしらねぇ…」
「ま、さか、風、電気…」
「婚后さんっ!」

もう一度、我が目を疑っていた婚后光子が、割り込んで来た友人の呼びかけに我に返る。

「ここは任せてみんな逃げてっ!」
「し、しかし、この婚后光子…」
「私が抑えておくからいいから早くっ!」
「は、はいっ!!」

それは、押しが強い筈の婚后が圧倒される程の迫力だった。

(………例の事件の関係?だとすると、婚后さん達を巻き込めない………)
(上位の相手だとすると、こちらに聞いた方が早い?でも、何かがおかしいです…)

「とにかく………まずはお礼をさせてもらおうかしら!!!」
「ハルナっ!」
「盾の乙女っ!」

目の前で掌に宿る青い光に、夕映が小さく叫ぶ。
ゴーレムを盾にしながらも予測される攻撃力に図書館組は覚悟を決める。
轟音が響き、一同目を見張る。

「な、に?…」

通常、雷と言うものは上から下に落ちるものである。
その意味では、彼女達の目の前で展開された光景はある意味正しい。
但し、問題なのは、雷と言うには小さすぎる、
しかし、図書館三人組に向かって放たれた電撃を阻止する程の電撃が
上から下に天から放たれたと言う事だった。

551: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/23(金) 04:58:19.40 ID:x5iBC5rr0

 ×     ×

「らちがあかねぇ」

とある建物の屋上で千雨がノーパソを閉じる。

「前線に行くぞ。ファミレスまでは分かってる」
「分かった」
「何とかタクシーでも捕まえて…」

言いかけて、千雨が夏美を手で制する。
ドアノブの音を聞いた千雨は、即座に夏美の手を握り夏美は「孤独な黒子」を発動する。
次の瞬間、千雨の体は強烈な衝撃波に吹っ飛ばされて屋上の柵に激突していた。

「つ、っ!?」

身を起こそうとした千雨が、ようやくそれが出来ない事に気付く。
右肩に強い圧力が掛かってる。
強い力が押し付けられて背中が床から離れず今にも関節が外れそうな程に。

(や、べぇ…)

「出て来いっ。
もう一人いる事もここからの電波が妙な事件に繋がってる事も分かってんだよ、クソボケ」

558: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/24(土) 04:19:34.08 ID:VbSpwEJa0

 ×     ×

「くそっ!」

小太郎が狗神に乗ってトンネルに突入した途端、視界がオレンジ色に染まった。

「モモモモンスターッ!?」

高速道路とは言え暴走と言うべき速度でかっ飛ばす車の後部座席で、
後続を見たジェーンが叫んだ。

「イヌガミと言ったか。
日本では我々が精霊と呼ぶものも含め、神様の数がやたらと多いとな」

半ば炎に包まれた怪獣に片脚突っ込んだ巨大狼が
辛うじてその前段階のス○○ーサ○ヤ人もどきに収束するのを見てステイルが言った。

「先日の麻帆良者、やはりウェアウルフですか」

自分がアクセルを踏み込みかっ飛ばしているスピードに
半ば硬直しながらハンドルを握るメアリエがバックミラーを見て言う。

「………引き返す?………」

559: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/24(土) 04:25:02.12 ID:VbSpwEJa0

 ×     ×

「………この気配………」

科学の学園都市上空で、箒に跨った佐倉愛衣が自分の向かう方向からこちらに向かう気配に呟く。
緊急警報による麻帆良学園都市への緊急帰還。
その後、科学の学園都市の通信網に接続していた弐集院からの報せで、
秘かに繋いでおいた転送ポイントを通って科学の学園都市に蜻蛉返り。

かなりきな臭い事件が進行しているとの情報だったが、
目的地に向かう途中、行き先の方からとてつもなく危険な気配が突き刺さって来た。

(…これは機械ではない。魔力、いや、どちらかと言うと…)

果たして、猛スピードですれ違った後で、
愛衣は箒の方向を変え、その金色の光の尾に食らい付く様に猛追した。

「どうしたんですかっ!?」

追い縋りながら愛衣は絶叫する。

(尋常な顔つきじゃない。一体…)
「………が………ぶな………」

560: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/24(土) 04:30:28.86 ID:VbSpwEJa0

 ×     ×

「………おおお………」
「ネギせんせー?………」

迂闊に前を見る事の出来ない電撃連打の後で、
大きいとは言えない人影が雄叫びと共に
バチバチ白く放電して突っ込んで来ると言う希少現象を前にした場合、
宮崎のどかが一瞬自分の知っている現象と勘違いするのも無理からぬ所もあった。

「ちぇいさぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっっっっっ!!!」

しかし、現実には、白く輝きながら突っ込んで来たのが御坂美琴で、
上空からスタンと着地したのがネギ・スプリングフィールドだった。
もう少し詳しく説明すると、歌って踊れるハイテンションムーブポインターと共に移動を繰り返し、
窒息寸前の高密着状態のネギが到着したのがこの近くのビルの屋上。

後は、認識阻害を張った杖に乗ってここの上空から白き雷を放ち、
まずは知ってる顔を狙った電撃を阻止していた。

ネギは、とっさに跳び蹴りを交わすと、電気防壁を張った腕で続く回し蹴りを流す。
たんっと後退した美琴がネギを跳び越えた。
双方振り返る。美琴が放った電撃をネギが受け流す。

「………これは………」
「ちょっと、何でネギ君が………って言うか………」

夕映もハルナも目の前の展開に唖然となる。
白く放電しながら攻勢に出ている美琴に対して、
ネギも相手の主力が電気と理解して、
雷天とまではいかなくても通常の魔法防壁の性質を出力増しの雷に切り替えて対処している。

普通の感覚であれば目にも止まらぬ早業と言う事になる美琴の猛攻撃に対して
ネギも決して油断せず小刻みに対処している。

そんな二人、見た目では一般的な中学生女子とこれから思春期に入ろうかと言う男の子が
そんなトンデモ状態でバチバチ白く放電しながら気合いと共にすばしっこく動き回っているのだから、
ちょっと目を離すとどっちがどっちか一瞬見分けが難しくなるぐらいだ。

561: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/24(土) 04:35:51.16 ID:VbSpwEJa0
「白き雷っ!」

距離を取った美琴の電撃がネギの白き雷に呑み込まれる。

「ちぇいさあっ!!」

その時には、ネギの目の前に着地した美琴の回り蹴りがネギに受け流される。

(さっきの電撃が呑まれた、並の電撃使いじゃない、ってまさかレベル5の私よりっ!?)

ぱぱぱっと美琴の胴体を狙う拳を美琴が受け流す。

(やっぱり、攻撃も防御も常時電磁バリア張ってるし、
しかも拳法使いってどういうスペックしてるのよこいつっ)

ターンと後ろに斜め飛びしながら次にネギを跳び越え、
双方振り返り美琴が放った電撃がネギの腕に跳ねられた。

(速い、多分電気を使った機械的な速さ。
直線的だから難しくはないけど、使い慣れてる分厄介な動き方。)

美琴のスタンガン機能付き体術攻撃を交わしながらネギは考える。
かつて高畑に足を出されて蹴躓きそうになった、美琴の動きはネギから見てそんな動きだ。
只、それでも、電気のこういう使い方には慣れている印象だ。

タッ、とネギが後退する。
ネギがいた辺りの地面が爆発して噴出した土が固定化する。

「風楯っ!!」
「なっ!?」

刺突を掛けて来た砂鉄の剣が、ネギの張った風楯に阻まれて左右に割れる。

(これもさっきの資材置き場の?いや、電気の感触、あくまでそういう術式)
「電気じゃない、風?やっぱり多重能力ってのは…」

跳躍した美琴がその高さから五月雨電撃を撃ち込む。

562: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/24(土) 04:39:08.63 ID:VbSpwEJa0
「白き雷っ!!」

それが白き雷に一度に呑み込まれた。

「つーっ………」

美琴が、白き雷から自分をガードした両腕を振る。
無論、電磁バリアだが、重要なのは、

(電気の勝負で私が押し負けた…)

考えたくない事だが、レベル5の優秀過ぎる能力は美琴の発想を現実から逃さない。
レベル5第三位、「学園都市最強のエレクトロマスター」の自分よりも上、
それも桁違いに上の電気使いなのかも知れないと言うあってはならない現実。

「そんな事、そんな事をぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!」

バチバチイッと青い電撃がネギを襲う。
ネギが白き雷で拮抗している間に美琴が吹っ飛ばされる様に跳躍する。

「そんな事おおおっっっ!!!」

落雷の様な一撃だった。
着地した美琴は、悠然と振り返るネギを見た。

「あああああああっっっっっ!!!」

ネギは、瞬時に詰め寄って来た美琴の右の拳を腕ごとネギ自身の左腕で跳ね上げる。
そして、ネギの右の掌がとん、と、美琴の水月を押す。
次の瞬間、美琴の背中は近くの街灯に激突していた。

563: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/24(土) 04:42:17.39 ID:VbSpwEJa0
「………か、はっ………」

ネギは、ふうっと一息つく。
余り良くない言葉で言えば、面倒な相手だった。
戦闘力で言えば、圧倒的にネギの方が上になる。

だが、それは、瞬時に塵も残さずにと言う意味だ。
色々な意味でそれが出来ない状態では、
御坂美琴が「そこそこ出来る」と言うのが実に厄介だった。

多分、美琴のあの電磁バリアの状態ならそんなに大きな怪我はしていない筈だが。
その美琴の右手がきゅっと握られる。

「場所が悪すぎる、と、思ったんだけどなぁー………つっ………」
「のどかさん?」

美琴が腕に軽い痛みを覚え、視線だけそちらに向ける。
どうやら石を投げられたらしい。

(………陰険な真似、するじゃない………)

美琴が、ゆらりと立ち上がる。

(これはっ!)

右手を握った美琴がバチバチッと放電し、ネギが踏み出そうとしたその刹那、

「!?」

両腕を広げた宮崎のどかが両者の間に割って入った。

「なっ!?」
「のどかさんっ!?」
「ごめんなさいっ!!」

のどかが、まず、美琴に向けてぱたんと体を折った。

564: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/24(土) 04:45:23.86 ID:VbSpwEJa0
「人違いでしたっ!」
「はあっ!?」

美琴は知らないが、普段ののどかとはかけ離れた大声に美琴は気を削がれる。

「えっと、近くで盗難事件があって、それでその、
たまたま特徴がお友達の人に似ていてそれで私達の方から捕まえようとして、
お互いに能力者で事が大きくなってホントーにごめんなさいっ!!」

謝りながら、のどかは開いた右手を差し出していた。

「………マジ?………」

美琴の言葉にしっかり頷いたのどかの右掌に張られたメモには、

「長谷川千雨友人
メイゴアリサさらわれた」

と書かれている。

「すいませんでしたっ」
「ごめんなさいっ!」

そこでようやく、夕映とハルナものどかに従い、頭を下げた。

「分かった」

美琴が言った。

「あんた、いい度胸してるじゃない」

美琴の言葉にのどかがほっと胸を撫で下ろす。
御坂美琴の事は事前にある程度聞いてはいたが、本来惚れ惚れする様な気風なのだろう。

「とにかく、こっちでも確認するからそう伝えて」

すれ違い様に美琴がのどかに囁く。

565: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/24(土) 04:48:43.09 ID:VbSpwEJa0
「あー、知り合い?何か、悪かったわねお互い誤解あったみたいで」
「いえ、こちらこそ。大丈夫ですか?」
「うん、あそこまで見事にやられちゃあね。
じゃ、いいんなら私急ぐんで」
「そうですか」

ネギと言葉を交わし、美琴が走り去りながら携帯電話を操作する。

「それで、どうして皆さんがここに?」

ネギが根本的な疑問を口にする。

「申し訳ありません」

夕映が言った。

「その事に就いてはお話ししますが、それよりも忘れている事があるです」
「え?」
「今言った事件の事です。縛られていた人がいなくなってるです」
「なんですって?」
「縛られた白いシスターです。何かあったら大変ですっ!」

 ×     ×

「むーっ、むーっむーっ!!」

ファミレスからそれ程遠くない路地裏で、インデックスは物音にぎくりとした。
通行人に助けを求めた所魔術師が乱入し魔術と科学の直接戦闘が勃発する超展開を前に、
身の危険を感じたインデックスは尺取り虫の様に逃亡する内に
よりデンジャラスなエリアに辿り着いていた。

「じっとしていて下さい。やはり水の術式でしたか。この術式は…」
「ぶはっ!!」

インデックス口を塞いでいた水の塊に金属棒が差し込まれ、
呪文詠唱が終わるとようやく口が自由になった。

566: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/24(土) 04:51:56.45 ID:VbSpwEJa0
「有り難うなんだよ。それは「世界図絵」だね」
「その通りです」
「道具もあなたの解除も見事なんだよ」
「有り難うございます。あなたにそう言っていただけるのは光栄です」

その時、トテテと聞こえる足音にインデックスが反応する。

「大丈夫です」

インデックスの口を解放した綾瀬夕映が言う。

「ああ、いた。よかったー。
Index-Librorum-Prohibitorumさんですね」
「………それ………は………」
「すいません、状況の確認、を」
「………あ………あ………だめえええええええええっっっっっっっっっ!!!」
「?…のどか…?」

573: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/26(月) 04:17:20.69 ID:93/wvHjm0

 ×     ×

「………え?………あ………
………あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっっっっ!!!」
「…のどか?…のどかあっ!!」
「何っ!?」

路地裏にハルナとネギが飛び込んで来た。

「ちょっ、のどかっ!?」

血まみれになって地面に横たわるのどかを見付け、ハルナがストンと座り込む。

「のどかさんっ!?これは…つっ!」

地面に落ちたパクティオーカードを拾おうとしたネギがその手を引っ込める。

「いどのえにっき」

虚ろな表情で見ていたインデックスが口を開いた。

574: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/26(月) 04:22:36.60 ID:93/wvHjm0
「容量オーバーを起こしたか安全装置が働いたか」
「つっ、まさかのどかさんオリジン(原典)をっ!?」
「な、なんなのよ…」

ネギの驚愕は、ハルナが震え上がるに十分なものだった。

「いどのえにっきは表層意識を読み取るアーティファクトです。
インデックスさんの完全記憶能力を考えると、何かの術式の事を考えていたならば、
魔道図書館全ての記載内容と一繋がりになっていた可能性は否定出来ません。

しかし、魔道図書館に収蔵されている本物の原典であれば、
そんなものを目にした時点でこれでは済まない筈です。

レベルの差こそあれ、読心術自体は魔術の中でもそこそこ普及しているもの。
魔道図書館であれば当然その対策もしてある筈。
読心術に対応する迎撃術式に当てられたと見るのがこの場合自然です」

「だから何なのよ夕映っ!!」

ネギに向けて説明する夕映に、ハルナが痺れを切らした。

「とにかく、ここは色々とまずいです。ネギ先生、それにハルナ」

 ×     ×

「「落書帝国」でこんな精巧な錬成使役が出来るんだね」
「有り難う。で、一体のどかはどうなってる訳!?」

ネギが防壁を張った手でパクティオーカードをしまい、意識を失ったのどかを抱いて箒に乗り、
夕映とインデックスはハルナの用意した空飛ぶマンタに乗って
総員近くのビルの屋上に移動していた。

「こちらのインデックスさんは禁書目録、魔道図書館とも呼ばれています。
一度見たものを忘れない完全記憶能力を持って、
10万3000冊の魔道書のオリジン、原典を頭の中に記憶するイギリス清教ネセサリウスの魔道図書館。

その魔道書には、本来一冊、そのページが目を掠めただけでも
人の脳を直接攻撃する程の魔術的な毒が込められています。
それを特別な術式で防護して記憶しているのがインデックス、禁書目録、魔道図書館です」

575: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/26(月) 04:27:50.76 ID:93/wvHjm0
「ひっ!」

夕映の説明を聞いて、ハルナはインデックスを見て腰を抜かして後ずさりする。

「ハルナっ。今回の件は、
緊急事態とは言え他人の頭を勝手に覗き込んだこちら側に非があります。
申し訳ありませんでした」

夕映がインデックスにぺこりと頭を下げる。

「な、何言ってるのよ夕映。
のどかがこんな、あんた、やっぱりまだ…」
「………ゆえの、いうとおりだよー………」

微かな、声が聞こえた。

「のどかっ!」
「かみ、じょう…」
「え?」
「かみじょう、とうま、報せて、インデックス、電話…」
「そうなんだよっ!」

横たわるのどかの声に、既に拘束を解かれたインデックスが携帯電話を取り出した。

「うーんと、えーっと…」
「事件の事を報せるのですか?」
「そうなんだよっ!」

夕映がインデックスの携帯を手にする。

「恐らく、短縮の1………もしもし、上条当麻さんですか?」
「なんだ?あんた誰だ、どうしてインデックスの携帯に?」
「インデックスさんの代理の者です。
麻帆良の魔法使い、と言えばご理解いただけるでしょうか?」

「ああ、お前らまさかインデックスに?」
「いえ、こちらで保護しました」
「保護?」
「とうま、とうまっ!」

576: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/26(月) 04:33:14.77 ID:93/wvHjm0
「鳴護アリサさんがさらわれました」
「何だって!?」
「場所は………のファミリーレストラン。
状況と、私の記憶を鑑みるに、現場から猛スピードで逃走した車両が非常に怪しいです。
インデックスさん、犯人を見ましたか?」
「あの公園のウンディーネ達だったんだよっ!!」

「と、言う事です。申し訳ありませんがこちらも事情がありますので一度電話を切ります」
「ああ、分かった」

一旦夕映が電話を切る。

「問題はのどかです」
「ああああーっ!!」

片膝をついて思考する夕映を前に、ハルナが頭をかきむしって絶叫する。

「インデックス、さん」
「ここにいるんだよ」
「ごめん、なさい。勝手に心を読んで、
あの本を、持つ者としてしてはいけない事をしました」

「分かった、分かったんだよ。
まだ、物凄い痛みが続いてる筈なんだよ。だからもう喋らないで楽にしていて」
「うん」

とても透明で、魅力的な宮崎のどかの笑みに、ハルナは涙を浮かべて震え上がる。

「何とかしてっ!」

そして絶叫する。

「原因は何なのか」

ネギが呻き、カードを見る。

「オーバーフローが収まるまで開けないと思います。
よしんば開いたとしても、原因となった記述を削除せずに本を開いたら
目にした瞬間にこちらが危ないので意味がないです。
アーティファクト自体は最新の記述をデリートして使い直すより他にないです」

577: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/26(月) 04:36:28.92 ID:93/wvHjm0
「じゃあ、のどかは…道具があったってのどかがいないと…」

不意に、気配が一つ増えた。

「こんな所にいたの」
「あ、結標さん」

そこに現れたのは、半ばミイラ女と化して蒼白な顔面に笑みを浮かべた結標淡希だった。

「ちょっと失礼」

ビニール袋を手に一旦姿を消した結標が、
ハンカチを唇に当てながら屋上出入口のドアから戻って来た。

「えーと、どうしたんですか?」
「ああ、ちょっと愉快なオブジェを体で表現してね、
ついでに私の活躍する8巻の220ー221ページを
百回音読してから自分で迎えに行けって言われたモンで」

「………結標さんっ!!」
「は、はいっ!!」

ネギが、ざっと結標の前に立って叫んだ。
結標はその瞬間、叩き付ける様に始まるピアノ演奏のBGMを聞いた気がした。

「僕と、結婚して下さい!
一目見た時から決めてました、本気なんですっ!!」

パンパカパーン
リーンゴーンリーンゴーンリーンゴーン

「あっ、でもそんないきなりっ、年の差なんて関係ない、ああっそんな情熱的、
えへら、えへらえへらえへらえへらぐふぐへぐふぇ…」
「ハルナ、この人もしかして…」
「うん、多分同類だと思う…」

夕映とハルナがよく知る金髪を脳内に描いてヒソヒソ話している前で、
結標淡希は二行ほど台詞を水増しした自分だけの世界を着々と構築していた。

578: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/26(月) 04:39:33.75 ID:93/wvHjm0
「これから言う僕のお願いを聞いていただけるか否か、それだけ教えて下さい」
「聞かせてくれる」

ぴしっとお姉さんの顔を取り戻した結標が言い、ネギが説明する。

「どうでしょうか?かなり無茶な…」
「まぁーっかせなさぁーいっ!!
ネギ先生のお願いとあらばこの結標淡希、例え地の果てまででも…」
「ありがとうございますっ!」

ハルナと夕映がヒソヒソ話し込む横で、ネギはパタッと体を折り携帯を使う。

 ×     ×

「でも、まさかあんたらと共闘とはねぇ」
「勘違いするにゃ」

引き揚げの頃合に、近くにいた焔に明日菜が話しかけた。

「たまたまテスト中にフェイト様の指示があったから従ったまで、
誰が馴れ合うものか」
「ツンデレ乙や」

木乃香の言葉に、焔はぷいっと横を向く。

「しかし、なんなんですかあの人は」

側にいた環があきれ顔で言った。

「ああ、何でもこちらの世界では20人に満たないの聖人の一人だと言う事だ。
まあ、標準的な存在じゃないのは確かかな」

ふらりと通り過ぎるフェイトが言った。

「ですよねー、
流石に気合いや根性で私の結界をぶち破る人がこれ以上いるとは思いたくありませんし」
「まぁね。大体、常識は通用しねぇとか、
そんなのホイホイいたらそれ既に常識だから」

環とアハハと笑い合っていた明日菜が携帯電話を取り出す。

「もしもし…え?うん、いるけど…」

579: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/26(月) 04:42:55.42 ID:93/wvHjm0

 ×     ×

「ラス・テル マ・スキル マギステル…」
「フォア・ゾ・クラティカ・ソクラティカ…」

インデックスの助言で対処療法を続けるネギと夕映を、
ハルナは見守る事しか出来ない。

「はい、軽いから受け取って」

突如聞こえた声に合わせて、ハルナは腕を差し出し木乃香をお姫様抱っこする。

「お待たせいたしましたネギ先生」

屋上出入り口のドアから、ハンカチを唇に当てながら結標淡希が現れた時、
ネギと夕映は練習杖を振り翳して渾身の一撃をのどかに与えていた所だった。

「消えないですね」
「ですね」
「これは、既に内部に住み着いているのかな」

腕で汗を拭うネギと夕映の側でインデックスが悲痛な声で言う。

「ネギくんっ!」
「このかさんっ!」
「のどかっ」
「このかー」

弱々しく微笑むのどかに、木乃香が頷く。
次の瞬間、のどかの体が一回海老反りした。

「時間がありません。はっきり言って呪詛の術式は不明、
だから吹っ飛ばすしかない。いけますか?」

ネギの言葉に木乃香は力強く頷いた。
木乃香はネギや他の友人に気付く暇を与えなかった。
ここに着く直前、嫌な汗は全て拭ったばかりだ。

580: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/26(月) 04:46:01.99 ID:93/wvHjm0
「結標さんっ!」
「はい、ネギ先生」
「本当に有り難うございましたっ!」
「何を仰せられますネギ先生っ!」

パタンと体を折るネギの前に結標がさっと跪く。

「この結標淡希、ネギ先生のご希望とあらば例え銀河の果てまでも」
「なぁハルナ、もしかしてあの人…」
「うん、いいんちょと旨い酒が呑めるタイプの淑女だと思う」

叩き付ける様に始まるピアノ演奏のイメージの下、
結標がキラキラした眼差しをネギに向けながらそっとネギの両手を掌で包み込む側で、
木乃香とハルナがヒソヒソ言葉を交わす。

「と言う訳で、僕は少しだけ本業の用事がありますから
先に戻っていて下さい。すぐに戻ります」
「分かりました、予定が詰まっていますのでなるべく速くお願いします」

隠して、結標は改めてその場から姿を消す。

「水干?」

そこで、インデックスはようやく木乃香の姿に気付く。
その間にも、木乃香は静かにその場に立つ。

「………もしかして神楽舞なのかな?
素質と技術のある術者なら神楽舞で呪詛を祓う事は可能なんだよ。

だけど、私の魔道書は洋の東西を問わずにフォローしていてどの系統の呪いか
さっきまで絞り込みをしてたけどもう少しの所で把握出来ない。

オリジンの毒は強烈でここには陣となる舞台の用意も無くて、
組み合わせを間違えたら相乗作用すら………」

そこまで言って、インデックスはぽかんと口を開けた。

581: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/26(月) 04:50:29.09 ID:93/wvHjm0

 ×     ×

千雨は喜ぶべきか悲しむべきか、村上夏美はその姿を現して立っていた。
踏まれていた足を外された長谷川千雨が立ち上がろうとして、
ばあんと胸板を蹴られてその場に転がされる。

「う、ぐっ…」
「長谷川っ!」

その時には、夏美は目にも止まらぬ速さで移動した敵に捕まっていた。

「おいテメェ、パソコンと携帯、ロック解除してこっちに寄越せ。
パスは全部喋ってもらうからな。
俺の敵になるか否か、テメェの生き死にの選択肢はそれだけだ。

その選択にちょっとでもブレが見えたらテメェの両脚へし折って
このソバカスちゃん材料の愉快なオブジェの製造過程をライブで見せてやっからなぁ、
悲鳴聞くだけでも五秒で狂うピカソ級だ、妙な気起こすんじゃごはあああああっっっっっ!!!」

ドン、と、夏美を捕らえた腕に痛みが走り、次の瞬間には全身が吹っ飛んでいた。

「誰に、何をするて?もっぺんぬかしてみぃやクソダボ。
ついでに言うとくけど、
近くでコソコソしてたライフルとヒラヒラねーちゃんと機械頭も寝かせてあるからなぁ」

下向きに空牙を放ち着地早々回り蹴りをかました小太郎は既に金色に光っていた。

(?紫炎の捕らえ手が何かに弾かれた?それなら)
「………炎牢壁っ!」
「助かった…」

ごうっとミニチュア火炎竜巻レベルの防壁に閉じ込められるのを見て、
千雨は安堵に腰を抜かす。

582: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/26(月) 04:53:37.80 ID:93/wvHjm0
「大丈夫ですかっ!?」
「ああ、なんとかな」

箒から着地した佐倉愛衣に千雨が答え、よいしょと立ち上がる。

「夏美姉ちゃん、怪我ないか?」
「う、うん、大丈夫」
「しかし、どうしてここに?」
「ですよね」

千雨と愛衣が疑問を呈すると、夏美がとん、と愛衣の前に移動する。
携帯を差し出した夏美は、実にいい笑顔だった。

「これ、ちづ姉ぇがどうしてもって勧めるから、

小太郎君と

ペア契約

したんだけど、その時GPS搭載にした訳。
普段はそういうのやり過ぎだから、本当にイザって言う時、
予め決めたテンプレを相手のGPS検索を許可するパスワードと一緒にメール送信したら
有無を言わさず駆け付ける、そういう約束しておいたの」

「そうでしたか、ご無事で何よりです」

愛衣が実に素晴らしい笑顔で夏美の無事を祝し、
その側で千雨は先ほどまでの直接的な恐怖とは又別のとてつもない冷気を心に感じながら、
みしいっ、と、何か空気が軋む音を聞いた気がした。

583: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/26(月) 04:59:04.41 ID:93/wvHjm0
「うん、コタロー君メイちゃん有り難う」
「ちょっと待て」

小太郎が口を挟む。

「………何か、ヤバイぞ………」
「え?あ、何、軋んで………危ないっ!!」

愛衣の悲鳴と共に全員が横っ飛びした。

「つ、っ」
「メイ姉ちゃんっ!?」

火炎竜巻の中から突っ込んで来た白い羽が、
愛衣の張った風楯をぶち破り術者の腕を掠めていた。
その火炎竜巻がバキバキと破壊され、

「は?あ?あんな天使、いてたまるか…」
「心配するな。自覚はある」

千雨の疑問に自信たっぷりの返答が返って来る。

「人質とって粋がってるチンピラやなさそうだな」

小太郎のコメカミにつーっと汗が流れ不敵な笑みが浮かぶ。

「当たり前だ。仕事だから効率的にやってるだけなんだよ。
女子供相手にくだらねぇ、
やるってんならやるが本当なら口先だけで済んだんだクソボケ」
「嘘………まともに決まってたのに」
「質量のある炎か。それもまあまあ非常識だが教えといてやる。
俺の未元物質に常識は通用しねぇ!!」

585: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/28(水) 02:38:51.19 ID:owRQlUiw0

 ×     ×

脚が震える、体が震える、致命的な判断ミス。
これは例えでもなんでもなく、今すぐにでも命が危ない。
息が詰まりそうな所を無理やり呼吸し、懸命にその脚を叱咤し、前に進みながら、
長谷川千雨はつい先ほどまでの事を思い返す。

 ×     ×

その時、取り敢えず今の所は人間形態を取っている小太郎が、
自身の体を呑み込まんと言う大きさの黒球を幾つも打ち出した。
その小太郎は、手首同士を重ねた両手に黒いものを渦巻かせ、
もうもうと立ち上る爆煙に突っ込む。

「!?」

バーンと弾き飛ばされた小太郎の背中が屋上の柵に激突する。
その時には、急浮上していた佐倉愛衣が、
箒を左手に、オレンジ色の右手を思い切り振り下ろす。

「きゃあああっ!!!」

強烈な熱量が上から下に叩き付けられた、筈が、
吹き飛ばされたのはそれを引き起こした愛衣の方だった。

「ひっ!」

辛うじて右手で鉄柵を掴んだ愛衣は、上空に巨大な白い羽を見て引きつった悲鳴を上げる。
羽、と、言うが、長さが人の身長を大きくオーバーしてて幅が人一人すっぽり隠れそうで、
しかも、見た目が羽と言うだけで人ぐらいぶった斬るレベルの極めて硬質。
そんなのが何枚も展開している。

586: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/28(水) 02:44:33.08 ID:owRQlUiw0
「うおっ!?」

羽の中心から声が上がる。巨大な黒狗が空中で羽に激突し、
そのまま羽を踏み台にジャンプして屋上に戻る。
その間に、愛衣は熱魔法で浮力を作り、屋上に戻った。

「くああああっ!!」
「はあああああっ!!」

夏美と千雨を背にした愛衣がまず防壁を張り、
少し遅れて小太郎が後ろから前への「気」を広範囲に流動させる。
それでも、前衛となった小太郎と愛衣の全身から少しずつ、血が迸る。
僅かでも気を抜いたら全員ミンチになる衝撃波だ。

「おいっ!」

小太郎が叫ぶ。

「夏美姉ちゃん、千雨姉ちゃんと逃げえっ。
下手打ったら屋上どころかビルごと吹っ飛ばされる!」
「………で………も………分かった」

夏美は、朝倉和美にひっぱたかれた最終局面を経験している。
そして何より、千雨としては思い出したく無い事実だが、

「………」

「孤独な黒子」を左手に、そっと差し出された夏美の右手に、千雨は心底安堵していた。
あの時既に、千雨は自分の震えが限界に近づいていた、その自覚があった。
衝撃波が収まる。
ドガガン、と、屋上の床に羽が突き刺さった時には、
小太郎と愛衣が横っ飛びに身を交わしていた。

「逃がしやがったか」

爆煙の向こうに、若い男の姿。

587: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/28(水) 02:49:54.39 ID:owRQlUiw0
「無駄な事をしやがる。
テメェらを一瞬でぶち殺して追い掛けてとっ捕まえるだけなんだからよ」
「やってみぃや、チャラいあんちゃん」

小太郎の後ろにいる愛衣としては、
お願いですからそんな挑発しないで下さいと言うのが本心だったが、
そうでも言わないと、今は己を支えられない。
コメカミにつーっと汗を伝わせている小太郎にもその予感があった。

一見して軽薄なホスト風の優男、その全身から突き刺さる剣呑な空気。
科学の学園都市レベル5超能力者第二位垣根帝督。
その名を知らずとも頂点には遠くともあの夏を闘い抜いた強者二人を震わせるに十分な存在。

「ムカついた!ご希望通り愉快なオブジェにしてやるぜ!!」

 ×     ×

千雨と夏美が屋上出入り口のドアを潜り、階段を下り始めた頃には、
既にして屋上から聞きたくない音が響いて来た。

階段を下り、必死に逃げる。
建物の外に出る。そうすると、同じ空気を伝わって、更に何かが伝わって来る。
上は見ない、見てもどうにもならない。千雨はそれを硬く心に決めていた。
角を幾つ曲がっただろう。

「………村上………」

そこで、足を止め、千雨は声を掛けた。
それは、千雨にとって気の迷いとしか言い様がなかった。
知っていた。夏美が千雨の足に合わせ手足を動かしてくれていたのを。

「これだけは言っておく」

千雨の言葉に、夏美が千雨の顔を見る。
その思いを丸で隠せない表情で千雨を見る。
今思えば、その時だけ、不思議な程に千雨の心は静かだった。
何かがぶっ壊れていたとしか思えない。

588: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/28(水) 02:55:13.56 ID:owRQlUiw0
「今から、村上がどう言う選択をしても、
私は決してお前を恨まない」

夏美は、怪訝な顔をした。

「さっきのメルヘンホスト、ありゃガチでヤバイぞ。
あの二人が相手してもだ。その一つ上のランクかも知れない。
あれでもまだ何パーセント実力出したかも分からない。
で、どう見ても殺す勢いでやってやがる」

千雨も、常軌を逸した観戦経験だけは豊富である。
異常な闘いの実態を多少は理解する事が出来る。
それは、夏美も同じ事だった。

「力比べで勝てるかどうか分からない。
単純火力で負けたら相当ヤバイ、狡い手が使えなきゃあな」

千雨の目の前で夏美はガタガタと震え出していた。

「速く決めろ、時間がねぇぞっ!!」

気が付いた時には、千雨は叫んでいた。

「………格好付けやがって………」

そして今、長谷川千雨は震えながら独りごちる。
で、結局、男を選んだと言う訳だ。
女の友情と天秤に掛けて、それはもう分かり切った結論だ。

冗談じゃない。リアルではありとあらゆる意味で一般的な女子中学生一人、
どこにどんなインフレカンストが敵キャラで潜んでるか分からない街中に放り出されて、
馬鹿としか言い様がない。どう考えても合理的ではない。

麻帆良の地下で化け物に踏み付けられた時、幻覚がそれを教えてくれた時に学習すべきでは無かったのか。
ついさっき踏み付けられて蹴られて、体に残る痛みはつくづく自分が雑魚だと教えている。
それでも生きているんだから、そこで何故理解していないのか理解出来ない。

589: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/28(水) 02:58:20.15 ID:owRQlUiw0
恨まない、そんな訳がない。
千雨を黒幕として狙って来ていた。
そんな連中に捕まってあーされてこーされてどうされて、誰がそんな約束守れるか。

それでも、結局自分は弱虫だった。合理的な選択をして、
その代償としての怨みを受け取る覚悟すら無くリーダーを気取っていた。
とにかく、他の仲間の居所を把握して、そこに合流するしかない。

最初は、そんな極限の恐怖から来る空耳かと思った。
だが、被害妄想と天秤に掛けながらも、千雨は希望的観測を振り捨てる。
確かに近づいてきている。

それは、足音だった。
そして、金属音だった。
カシャン、カシャンと、軽快なぐらいに。
機械音、金属音と言うのが適切なのかも知れないが、
それでいて、それは確かに足音として千雨に近づいて来ていた。

 ×     ×

「ふわぁー」

それは、インデックスの感嘆の声だった。
こんな感動はつい最近、鳴護アリサの歌に触れて以来。
知識記憶に残る素晴らしい聖歌にもどれだけ匹敵するものがあっただろう。

白拍子の姿で優美に舞っていた近衛木乃香は、
気が付くと横たわる宮崎のどかに重なっていた。
木乃香がのどかにその身を重ね、周囲が清らかな、温かい光に包み込まれる。

「………ん………んっ………」

夢うつつとも思える時間は、小さなうめき声にひび割れた。

「のどかっ!?」

ぴくりと指を動かし、うっすら目を開いたのどかにハルナが駆け寄り抱き起こす。

590: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/28(水) 03:01:41.14 ID:owRQlUiw0
「ハル、ナ?」
「のどか!?のどか大丈夫のどかっ!?」
「うん、だい、じょうぶ…楽になった、痛くない…」

そのひどい顔は友情の証だった。
気が付くとそんな顔ですぐ隣に両膝を突いていた夕映をのどかは抱き締める。
夕映は嗚咽した。

「………す………すごいんだよすごいんだよっ!!」

舞を終えてふーっと前髪を払っていた木乃香にインデックスが駆け寄った。

「こんなに完全ないぶきどのおおはらへを見る事が出来るなんて信じられないんだよっ!!
魔法協会の近衛家の人なのかなっ!?」
「はいな。近衛木乃香言います。インデックスさんですやろか?」
「そうなんだよっ」

「はい。父と祖父がその職に就いてますよって、何かご縁があるかも知れまへんなぁ」
「やっぱり………血筋もあると思うけど、
その歳であれだけの治癒術式を実行するには大変な天賦の才と努力が必要な筈なんだよ。
とにかく、魔力の容量が尋常じゃないんだよっ!」

「そやなぁ、確かに地獄の特訓はさせてもろてますけど、
その高みにはまだまだですわ。
でも、うち、その力で大事な友達を助ける事が出来た。凄く、嬉しい」

うんうん頷くインデックスの前で木乃香はすとんと両膝を突いた。

「このか?」

言いかけたインデックスの両手を、木乃香の両手が包み込む。

「良かった、本当に良かった…」
「うん、このかのために祈るんだよ」
「おおきに」

理解したインデックスに、木乃香は温かな笑みを返した。

591: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/28(水) 03:05:08.66 ID:owRQlUiw0
「大丈夫ですか?無理は?」
「うん、大丈夫」

夕映の肩を借りて、座り込んだ木乃香とインデックスの側にのどかが近づく。

「このか、有り難う」
「良かった。もう大丈夫なん?」
「うん、大丈夫。このかのお陰だよー」
「そう。うち、凄く嬉しい」

「インデックスさん、改めて、ごめんなさい」
「その言葉、受け取ったんだよ。
いどのえにっき、術者を認めて授けられたものだと思うんだよ。
だから、のどかは信じられる、そう思うからこそ気を付けてこれからも頑張るんだよ」

「有り難うございます」
「こーのかっ!!」

静かに座り込んだ木乃香の鎖骨に、ぐにゅっと力強い感触が伝わる。

「このかこのかこのかっ!さっすがこのかお嬢様有り難う有り難う有り難うMVPっ!!!」
「もー、ハルナはぁ」

涙を止めないハルナの手を、木乃香は優しく撫でていた。

「Negi・Springfield」
「Index=Librorum=Prohibitorum」
「君がマスターさんなのかな?」
「はい」

すれ違い様にインデックスが声を掛け、ネギと言葉を交わす。

「あんなに可愛い女の子ばかりミニステルにして、
何を考えているのかな?」

何か身近に心当たりでもあるのか、インデックスの言葉にはしっかりとトゲが尖っていた。

592: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/28(水) 03:08:29.16 ID:owRQlUiw0
「は、はは、それにはちょっと色々と事情がありまして。
でも、本当に素晴らしいミニステル、僕の仲間達です」

僕には勿体ないと言う彼女達への侮辱となる言葉を、ネギはぐっと呑み込む。

「そうだね、みんな素晴らしい魔法使いの卵、素晴らしい仲間なんだよ」
「有り難うございます」

素直に認めるインデックスにネギが頭を下げた。

「そうなんだね、見付けたんだねNegi」
「Indexも」

かつて虚ろな心を抱え、図書館の闇の中でひたすらに禁書の力を求めた。
かつて過去も未来も知らず、只、禁書目録であり続けた。
今、その先に見えるのは、未来、絆。

「ところで、皆さんはどうしてこの科学の学園都市に?」
「私から説明します」

ネギの質問に夕映が一歩前に出た。

「千雨さんの友人で歌手の鳴護アリサさんが
この科学の学園都市で魔術に関わるトラブルに巻き込まれているとの情報が入りました。

この学園都市が部外者、特に魔法関係者の出入りを禁じている事は知っていましたが、
現に発生している魔術のトラブルは知らない人間には解決出来ない。
そう考えて、敢えてこうして介入させていただきました。

現状の情報では、今正にリアルタイムでイギリス清教の魔術師がアリサさんをさらって逃走中、
私達も直前までそこに介入しようとしましたが、今さっきのトラブルにより断念しました。
インデックスさんの知人でこちらの学生の上条当麻さんに対処を求めた所です」

593: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/28(水) 03:12:50.04 ID:owRQlUiw0
「上条当麻?」
「その身にマジック・キャンセルを宿しているとの情報を得ているです」
「本当ですかっ?」

ネギが、少し驚いてインデックスに尋ねる。

「マジック・キャンセルは向こうの王族を起源とするのが今の所私が知る有力な解釈だね。
とうまの右手の「幻想殺し」は多分別物だと思うけど、
伝えられている限りの効果はよく似ているんだよ」

「でも、イギリス清教が歌手をですか。Index、何か事情を?」
「ううん、私は知らないんだよ。
私はこの夏からとうまの所に預けられて、向こうの詳しい事情は分からないから」

「何やら込み入った事情があるらしいのですが」
「分かりました………うぶぶぶぶっ!!」
「あらごめんあさーせ、ちょっと到着地点の座標に誤差が生じたかしら」

目の前に現れた結標淡希の両腕にがっしりと頭を抱かれ、ネギの両腕がばたばた踊る。

「ぶはっ、結標さん」
「ごめんなさい、ネギ先生これを」

結標がネギにメモを渡す。

594: ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs 2013/08/28(水) 03:16:31.06 ID:owRQlUiw0
「こんな時間だけど、想定外のVIPとのコンタクトが可能と言う事で
雪広さんが是非とも一緒に顔合わせをしたいと」

「分かりました。これは極めて重要です。
夕映さん、その件は僕の方からも働きかけてみます。

ここは魔法禁止の学園都市、
イギリス清教、ネセサリウスが関わっていた場合、政治的にも武力的にも
これは非常に厄介な事態も考えられます。皆さんはこれ以上危ない事はしないで下さい」

「分かりました、ネギ先生。お忙しい所を申し訳ないです」
「何を言っているんですか」

夕映の言葉に、ネギがやや気色ばんだ。

「僕は皆さんの先生で、仲間ですよ。
とにかく、麻帆良に帰るルートはあるんですね?」
「はい」
「それじゃあ、そういう事で皆さんお願いします。すいませんが…」

「じゃあ、行きますよネギ先生、
はい、しっかり捕まってはいそうそこにこれはあくまで安定のためにぎゅーっと」
「はわわわわわわわ…」
「のどか、そろそろいっちばん分厚い本で脳天に狙い付けた方がいいわあれ」

「はいいーちにーさーんパァーラダーイッスッ!!!」
「………………」

小さな風だけがそこを吹き抜け、ネギは結標と共に姿を消した。
一息ついた所で、夕映はふと夜空に目を向ける。
視線の先には、学園都市の建物の群れ。
その中から一つ抜けて上へ上へと、頂きの果てを見せる事なく伸び続ける緑色の光の塔。

「あれが、エンデュミオンですか。
だとすると、ネギ先生は………」

次→長谷川千雨「鳴護アリサ、って知ってるか?」 その3

長谷川千雨「鳴護アリサ、って知ってるか?」
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1368805523/)