501: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) 2011/11/26(土) 23:17:37.62 ID:Ejh6nqiJo
 ■   □   ■


上条「不幸だ……」

 上条当麻は溜息を吐く。
 ただ自分は相手が誰かも知らず絡んでいる不良を助けたかっただけなのだ。
 だというのに。

上条「まさか、雷を落とされるとは……あのビリビリ、デタラメすぎるだろ…………」

 あれの所為で辺り一面は停電になった。それだけでなく、電子機器類にもダメージを深く与えたことだろう。
 無論、付近の上条の寮のそれらに被害が及ばなかったわけがない。なにせ、彼は『不幸』なのだから。
 流石は第三位の超電磁砲といったところだが、彼にとってははた迷惑なビリビリ中学生でしかなかった。

上条「……それより、今日の晩飯の方が優先か」

 腹の虫がなにか食わせろと泣き叫ぶ。
 ファミレスで注文したメニューはぶっちぎってしまったし、今更戻った所で食い逃げ認定からは逃れられない。
 ならば熱りが覚めるまでは行かず、別な場所で食事を済ませるのが利口な判断というものだ。
 そんなわけで、上条は心当たりのあるコンビニに足を向けた。

 辺りでは明日からの長期休暇に浮かれて騒ぎ立てる学生で満ち溢れている。
 上条はそんな彼らを横目に見ながら、道路の中心を歩く。

上条「…………」

 その中でカップルと思わしき男女のペアに上条は僅か眼を止めて、
 グルン!と。
 不幸にも足元に転がっていた空き缶を踏んですっころぶ。

関連作品
フレンダ「結局、全部幻想だった、って訳よ」 その1

003
502: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) 2011/11/26(土) 23:31:01.46 ID:Ejh6nqiJo
 からから、と寂しく転がるそれは乾いた音を立てた。
 しかしそれは雑踏に混じって消える。
 一瞬だけ音に反応した人も、すぐにその仲間との会話に戻っていく。
 まるで上条は一人、世界に取り残されたかのような錯覚を受けた。

上条「……っ、て」

 苦痛に顔を歪ませる。
 よくある不幸だ。何かを踏んで転ぶ、なんて不幸はそれこそ数えても数えきれない。
 それなのに、何故だろう。

 あの時は、周りに殆ど人なんていなかった。
 心境だって違ったし、そもそも外に出ている目的だって違う。
 場所だって、時間だって。一致するのは、空き缶で転んだ、というただそれ一つの筈なのに。
 それなのに、何故だろう。

 何故だろう、あの日によく似ていると感じてしまったのは。

 上条は目を誰ともあわせないように伏せつつ、ゆっくりと立ち上がりその場を後にする。
 彼の行き先は既に近くのコンビニではなくなっていた。

上条「――フレンダ」

 四月の初めも初めの日。
 今日は楽しかったと。そういって上条の目の前から消えてしまった少女の名を彼は呟く。

503: >>502 最後の行 ~。そういって上条の目の前から消えてしまった少女の~ 2011/11/27(日) 00:08:45.61 ID:a5P9pmUoo
 春に再会を果たした幼馴染。
 夏には二人で散々遊び歩き。
 秋では二大祭りを乗り越え。
 冬は妹も含めて交流を深めた。

 だが今ここにその彼女の姿はない。同じ学校だった筈なのに、その籍すら消えていた。
 自分が間違えてしまったから。怖気付いて手を差し伸べられなかったから。
 彼女は、自分の目の前からいなくなってしまった。

 他の人――土御門元春や青髪ピアスから見れば、上条はなんら変わりない、と思うだろう。
 しかし、実際には違う。彼はふとした拍子――例えば、先程空き缶を踏んだ時のような――に度々彼女のことを思い出す。
 そしてその度に、救えなかった自分を責めるのだ。
 時には拳を強く握り。時には歯を強く噛み締め。
 何れにしても、その身体を巡る血が外部に漏れてしまうほどに。

 上条の足は自然と、人の少ない方向へと向かっていた。
 角を曲がり、また曲がり、更に曲がる。
 それを繰り返す内に、いつしか彼の歩く道はあの日に彼が迷い込んだ場所によく似た雰囲気を纏っていた。
 つまりは、『外れた者達の領域』。

上条「……いるわけ、ないのにな」

 フレンダが完全にいなくなってしまったあの日から、深く彼女を思い出すたびに上条はよくこういう道を歩く。
 あの日と同じように、例えフレンダが何をしていようと今度こそ背を向けずに追いかける心意気で。
 しかし一度もそういったことに巡りあってはいない。
 当然だ、こういった場所は学園都市のいたる場所に存在する。その中の一つをたまに歩いた程度で裏の仕事を見ることができるのならば闇に引きずり込まれる人は今の程度ではすまない。
 上条もそこのところはなんとなく理解しているのか、最近では半ば諦めつつこういった道を行く。
 いつか、彼女が自分の目の前に現れてくれると信じて。

504: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) 2011/11/27(日) 00:40:22.82 ID:a5P9pmUoo
 今日も、上条はやはりなんの手がかりも掴めぬまま路地裏の出口を見つける。
 何事も起こらなかった闇の世界は、彼にはまるで実態のない幽霊のようにも思えた。
 実態がまるで掴めないというのに、人々を恐れさせるというその点についてのみ、だが。

 上条は路地裏を抜ける。
 作られた光が歓迎するように彼を照らした。
 しかし立ち止まり、上条は振り返る。
 そこにあるのは暗闇の世界。光が全く差さない、踏み込んだらそのまま沈んでいく、まるで底なし沼のような世界。
 彼がその世界を垣間見たのはたった一度のみ。
 それは、今思い出してもまるで悪い夢を見ていたようにしか思えなくて――――

上条「……ああ、そっか。つまり、そういうことか」

 そこまで考えて、上条は気付く。
 光の世界の住人にとって、闇の世界は『悪夢』のようなものなのだ。
 だったら闇の世界の人々にとって、光の世界はその真逆の存在に違いない。
 つまりフレンダにとって上条と過ごした、彼女が楽しい、と言ってくれたあの日々は彼女にとっては正しく『希望』か、或いは。


上条「――全部幻想だった、ってことか」


 上条は嗤う。なんて皮肉だ、と思わずには居られない。
 そのままであれば、それは幻想のままでいられたというのに。
 嗤い。嘲り。そして、嘆く。
 なぜなら、その幻想を打ち壊してしまったのは『幻想殺し』という異能を持つ上条当麻自身なのだから――――。



 ――翌日の七月二十日。高校二年、夏休み初日。
 その日、彼はベランダで運命に出逢うことを、まだ知らない。

519: SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/10(土) 23:18:23.81 ID:x/iXiHHqo
 第六学区にあるホテルの一室。学園都市暗部組織『アイテム』の隠れ家の一つにて。
 フレンダ=セイヴェルンは果てていた。
 体勢的にはソファーに腰をかけて頭を背もたれの上部に乗せて顔が上を向いている状態、精神的には何を言うにも思うにもできない状態。
 ともすればそのぽかんと空いた口から魂でも飛びでてしまうのではないか、と思うほどに真っ白になっていた。
 そんな彼女を気遣ってか、二人のチームメイトが軽く同情しながら労いの言葉を投げかけた。

滝壺「おつかれ、フレンダ」

絹旗「お勤め超ご苦労様でした」

 その言葉にフレンダは軽く手を上げて下ろす。
 あげた、とはいっても膝の上にあった手をそこか十五センチ程持ち上げただけだ。
 それ程までに疲弊している事実に、絹旗は少しばかり気の毒に思う。

絹旗「……麦野特製オシオキ部屋に三日間。正直、超想像に堪えません」

 先ほど『隠れ家』と形容したが、第三学区のそれと比べてこちらは『秘密基地』に近い。
 第六学区はアミューズメント施設が集中している学区だ。その特色をとってか、この部屋にはカラオケやテレビゲームを始めとした複数のアミューズメント機器がある。
 ――が、基本的にこのようなアミューズメントホテルは恋人な男女が『休憩』と称して一時的に借りることが多い。そのからその使用用途は言わずもがな、だ。
 そんな中、この部屋を含むフロアをとりあえず一年借りている『アイテム』は目立つ。名前を変えていても目立つことには違いない。
 故に『秘密基地』なのだ。

 絹旗の言うオシオキ部屋、というのはフロアの一室にある、この部屋とは違って鞭やら蝋燭やら首輪やら枷やらが揃っている部屋のこと。
 主に麦野がオシオキに使うため、その名前が付けられた。
 ちなみに絹旗は中を見たことがあるだけで何かされたことがあるわけではない。今のところ何かされたことがあるのはフレンダだけだ。
 しかし、それでも彼女の様子と部屋の備品を見ているとその内容が酷いものだということは容易に想像がつく。


520: >>519 特性→特製 2011/12/10(土) 23:43:57.04 ID:x/iXiHHqo
滝壺「それにしても三日なんて長かったね。今までは長くても一日だったのに」

絹旗「そうですね。でもどうしてか、ってことぐらいは超わかりますけどね」

 やれやれ、と絹旗は軽く首をふる。
 今この場に麦野はいない。フレンダを部屋に放り込んでからは全く姿を見せていなかった。(ちなみにフレンダへのオシオキは設定した機械が自動的にしてくれる。)
 だからこそ、出来る話だが。

絹旗「フレンダはあのあとすぐに入れられたから超知らないでしょうけど。麦野、あのインベーダーを取り逃がしちゃいましたからね」

フレンダ「…………。…………うっそぉ!?」

 がばっと、突如フレンダの顔に生気が戻る。
 それほどに衝撃的だったのだ、麦野がターゲットを逃したということは。

 過ぎ去った八月十九日。
 その日には『アイテム』にしては珍しい拠点防衛の任務があった。
 『発電能力』を持った謎の侵略者(但し依頼主は正体がつかめている)。それを迎撃して追い払うなりやっつけるなりする単純な任務だった。
 ただ――相手が超能力相当の能力者だったということを除けば。

フレンダ「ってことは……あれ、やっぱりレベル5だったってわけ?」

絹旗「? そういうことは超聞いてませんけど……やっぱりってどういうことですか?」

フレンダ「あり?」

 フレンダは首を傾げながら後頭部をぽりぽりと掻く。
 もしかして言ってないのかなーと思いつつも相手の戦闘スタイルを絹旗に告げた。
 体術そこそこ、陶器爆弾も一蹴、空中に散らばった金属の足場をつなげる。加え、磁力のみで足場を持ち上げるその馬力。
 どう見ても超能力クラスだった、と。

521: SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/11(日) 00:18:50.08 ID:OBWGssmRo
絹旗「……なるほど」

 フレンダの話を聞いて、絹旗は納得の言ったように相槌をうつ。
 そして続ける。

絹旗「恐らく――多分、ですけど。第三位の『超電磁砲』じゃないですか?」

フレンダ「第三位……って、麦野を追い越した奴?」

 記憶を辿って、そういえば電撃使いだったと思い出す。
 自分はそれほどに能力者の知り合いなどいないけれど、レベル5の力を持つ電撃使いなど他に心当たりはない。
 だが、しかし。それだとしたなら。

フレンダ「結局、麦野はかなりの無茶をしてでも追い詰めそうなわけなんだけど」

絹旗「どういう――ああ、そうですね。麦野、序列に超拘ってますし」

 麦野が第四位に落ちたことは記憶に新しい。
 その時、とてもじゃないが人様にはお見せできないほどに乱れまくっていたことも。

フレンダ「もしかして、あと一個残っていた拠点で迎撃して勝ったとか?」

 フレンダは自分の失敗のあと部屋に投げ入れられていた為に知らないことを聞いてみる。
 それの答えは横で二人の話を聞いていた滝壺から返ってきた。

滝壺「ううん。むぎのは私達に作戦の撤退を命令した」

絹旗「そうですね。でも、今のことを聞くと妙に感じます。麦野なら、自分を蹴落とした第三位に怒りを覚えて再戦を挑まない筈がないんですが……」

 三人ともが頭を悩ませる。
 リーダーである麦野沈利の考えは、未だに彼女らには完全には把握できない。

522: SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/11(日) 00:42:19.29 ID:OBWGssmRo
滝壺「……そもそも、第三位はどうして施設を襲撃したんだろう」

 滝壺が呟くように疑問を呈する。
 確かに思えばその通りだ。暗部にほど近いただの研究施設の防衛だと思ったが、超電磁砲は第二位や第四位とは違って暗部に全く干渉していないただの中学生だ。
 それなのにどうしてそんなヘタをすれば捕まるかもしれない危険を?
 その考えに耽りかける瞬間、絹旗が盛大にため息を吐いた。

絹旗「こればっかりは考えてもダメですね。知っていい情報なら初めから上から提示されてるわけですし」

滝壺「……そうだね。でも、むぎのなら何か知ってそうだけど」

絹旗「わざわざ麦野が負けた相手について聞く必要はないでしょう。下手すれば、逆鱗に触れて私達だってオシオキ部屋行きですよ?」

 洒落にならない冗談を交えて、絹旗は滝壺に答える。
 そんな中、フレンダは眼の焦点を二人に合わせずにただカーペットのような質の床を眺めていた。
 しかしその目は何も見ておらず、フレンダの意識はただ思考へと持っていかれて――

滝壺「フレンダ?」

フレンダ「っ…………な、何?」

 滝壺の呼びかけで引き戻された。
 まるで夢見心地のようだった思考は、今のですっかり記憶の彼方へと飛んでいってしまう。

絹旗「大丈夫ですか?超ぼーっとしてたみたいですけど……もしかしてまだオシオキの弊害が?」

フレンダ「あ、ああうん。結局、そんなところってわけよ」

 覚えてもいない思考について別段話す必要もない。
 フレンダはそう思って、絹旗の心遣いに話を合わせる。

523: SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/11(日) 01:14:52.29 ID:OBWGssmRo
絹旗「……それじゃあ、そろそろ超解散としますか?」

滝壺「そうだね、フレンダも無事に解放されたし、むぎのも来ないみたいだし」

 そう言いながら二人は立ち上がる。
 そんな二人を見て、フレンダはソファーに更に腰を深く据えた。

フレンダ「私はもう少しここで休んでから行くってわけよ」

絹旗「そうですか?それじゃあゆっくり休んで、次は失敗しないようにしてくださいね?」

 からかうように絹旗は言ってから、滝壺を引き連れて部屋から立ち去る。
 滝壺の方は最後に一度振り返って小さく手を振ってきたのでそれに振り返しつつ見送った。
 バタン、とドアの閉まる音が聞こえてから、フレンダは大きく深呼吸をした。

フレンダ(第三位、施設破壊、麦野沈利、第四位、劣等感、撃墜願望、敗北)

 思考が無意識に加速をする。
 彼女の能力、『物質収納』は脳がもう一つあるようなものだ。
 その能力を引き出してフレンダは思案する。

フレンダ(暗部でない、襲撃理由、超電磁砲、麦野が見逃す、明かされていない研究内容、目的、目的、目的――――)

 スルリと、フレンダはどこからともなくパソコンを取り出した。
 誰の視線もないこの部屋の中において、フレンダの能力は最大限の力を発揮できる。(一人でできることはあまりないが。)
 彼女はそのパソコンを素早く立ち上げ、とあるツールを起動させる。
 名付けて『偽装認証機能』。
 Cランク端末である家庭用ノートパソコンでは書庫のCランク相当のものしか見ることができないためにそれ以上のランクのものを見るならハッキングをする必要がある。
 が、彼女がAランク相当の情報まで見られる暗部のコードを解析して作成したこれを使えば、学園都市統括理事会クラスであるSランクのものまで閲覧が可能となる。
 つまりハッキングより比較的安全に書庫の中身を閲覧できるというわけだ。

フレンダ(さて、と――――)

 ぽきぽき、と指の骨を鳴らす。
 本来なら、こんなことなどしなくてもいい。
 本当に統括理事会クラスの情報ならば見たことを知られるだけで切り捨てられる可能性も拭い切れない
 けれど、何故だろう。
 知らなければならない、そんな気がしたのだ。

フレンダ「行きますか」

 そして彼女はキーボードに手を伸ばす。
 その先に何が待ち受けているのかも知らずに。

530: SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/21(水) 01:50:10.43 ID:zgHIARVPo
 ■   □   ■


 カタカタカタカタ、とキーを叩く音が部屋に響く。
 書庫の内部データが上から下に流れていく。フレンダはそれを目で追いながら目ぼしい物はないか一瞬で判断する。

 初めに目をつけたのは『超電磁砲』が起こした一連の事件。それに記載されていたデータから彼女がどうしてそんなことをしたのかを知る。
 『絶対能力進化』。芋づる式に『量産型能力者計画』も出てきたがそれはあくまでおまけだ。
 セキュリティランクAのその情報は数多にある研究の一線を画したものだったといえよう。
 本来ならば一研究所ではなく学園都市をあげて行なってもおかしくないものなのだから。
 しかし、それは果たして凍結された。何故か?

フレンダ「無能力者――上条当麻によって第一位『一方通行』が敗北したから……?なんで、当麻が…………」

 愕然とした。
 自分がもう二度と関われなくなっても、草葉の陰から見守るしかなくなくなっても守りたかった大切な幼馴染。
 なんでそんな事になっているんだ。
 もはや指を止めるわけにはゆかず、思考を停止することも儘ならない。

 詳細はこうだ。
 自分と別れる前か後かは知らないが、上条当麻は第三位御坂美琴と知り合いとなっていた。
 その後に彼女の量産型能力者である『ミサカ一〇〇三二号』と接触、紆余曲折を得て『絶対能力進化』を知り阻止するに至る、と。
 そうだ、それが上条当麻だ。自分の知る彼ならば間違いなく、相手がどれだけ巨大だろうと阻止しようとすると断言できる。
 が、しかし――第一位だ。
 学園都市の頂点に立つ、最強の超能力者だ。

フレンダ「……能力は、『自身の触れたベクトルの操作』。デフォルトでは反射にしてある為に攻撃は全て跳ね返り、通用しない」

 『一方通行』を創り上げた木原数多のレポートを参照して、その能力を把握する。
 つまり既存のどんな兵器を持ったとしても傷ひとつつけることのできない能力というわけだ。

531: SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/21(水) 02:34:18.60 ID:zgHIARVPo
 それなのに、どうしてなんの能力も持たない上条が彼に勝つことができるのか?
 それだけじゃない、疑問に思うのはまだある。
 無能力者にやられただけでどうして実験を中止してしまうのか。
 そもそも『樹形図の設計者』によって『こうすれば絶対能力になれる』と導きだされたのが『絶対能力進化』である。一無能力者にやられた程度でその完璧は揺らぐものなのか?
 揺らぐのだとしてもそれを含めて再演算すればいい。絶対能力は研究者なら誰から見ても魅力的なものなのだから。

フレンダ(……或いは、そうなってしまう理由があるってわけ?)

 まるで奇術師のように指を軽く動かすだけで幾つかのデータが表示される。
 その中で目を引いたのは一つのデータだ。
 統括理事会へ消息不明の『樹形図の設計者』のについての最終報告。
 ランクはS。つまり相当の情報というわけだ。
 迷うようにマウスカーソルは右へ左へと揺れる。が、今更だと思ったのか、すぐにそのファイルを開きにかかった。
 内容は、一言で言ってしまうと『樹形図の設計者』が何者かに破壊された、ということ。
 これで疑念の片方は消え失せた。どうやって破壊されたのかが気になるがそれはさて置き、再演算しようにもできない状況ならばどうしようもないだろう。

フレンダ「それで、残るは当麻の方……か」

 ベクトル操作の網を潜る方法。そんなもの考えた所で見つかるはずがない。
 そうでなければ最強の超能力者などと呼ばれない筈だ。
 デフォルトで反射。レポートによれば睡眠時も発動しているとある。
 正しく無敵。反射ならばぶつかる直前に引けばいいと思いもするが、言うほど簡単なものじゃないし自分の幼馴染にそんな器用なことができるとは思えない。

フレンダ「だったら、結局どういうことってわけよ……」

 全くわけがわからない。フレンダは苛立ちを収めることができず、髪を掻きむしる。
 かと思えば、顔を両手で押さえる。その手に伝わるのかほんのりとした熱。知恵熱、とでもいえるだろうか。
 逆に手は冷たくて、その熱を僅かに抑えるにはちょうどいいものだった。

532: SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/21(水) 03:04:30.58 ID:zgHIARVPo
フレンダ「……焦っても仕方がない、か」

 大きく溜息を吐く。
 あの幼馴染が意味不明なのはよくよく考えればいつものことだった。
 あの理不尽なまでの不幸もそうだし、他の人とは比べ物にならないくらい入退院を繰り返している。
 そして何より。
 初めて会った人を相手にしても、その人が事情を抱えていれば直ぐ様に助けようと思うおかしな人物なのだから。
 それが自分が好きになった理由の一つでもあるし、魅力的なところでもあるけれど、と心のなかで付け足す。

フレンダ「……元気にしてるのかな」

 呟き、思い出すのは四月も初めの時期。
 残酷なまでに少年を突き放し、決別を告げたあの時のこと。

 少年はどうにかして自分を闇から引き戻そうとしていた。
 穢れていようが汚れていようが関係ないと叫んでくれた。
 別れを告げて背を向けた自分に、縋るような声を投げかけてきた。
 最後の叫びが鮮明に再生されて、図らずも胸が締め付けられる。
 悪いことをした、とは思う。
 上条に、自分はフレンダを救えなかった、という事実を植えつけてしまったことにもなるのだから。

フレンダ「……それでも、当麻には平和な世界で生きてて欲しかった、ってわけよ」

 その結果が、『コレ』……『絶対能力進化』の阻止だが。
 はぁ、と。再び溜息を一つ。

フレンダ「……もういっそのこと、ついでだし当麻がこの数カ月何してたか調べちゃおっカナ!?」

 そう言って指を走らせるフレンダ。
 それをする彼女の顔は、なんとなく笑っているようにも見えた。


 ――彼女、フレンダ=セイヴェルンがとある病院のカルテを見つけるまで後八分。
 そしてその内容――上条当麻の記憶喪失を知るのは、見つけてから僅か十三秒後の事だった。

538: SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/22(木) 02:07:21.96 ID:jyGxs/gao
 ■   □   ■


 カチャン、と部屋を密室状態へとしていた鍵が放たれる。
 その音は勿論部屋の中にいたその少女の耳へと入り、彼女はまるで猫の様にテーブルに突っ伏していた頭を持ち上げた。

フレンダ「ただいまー」

フレメア「……!おかえりなさい、フレンダお姉ちゃん!にゃあ!!」

 声が聴こえると同時に少女、フレメア=セイヴェルンの表情は明るくなる。弾かれたように立ち上がり、玄関へと駆けていく。
 ここ三日間、姉であるフレンダは家に帰っていなかった。とはいっても、そのぐらいならよくあることに過ぎない。
 しかし仕事の都合上よく家を開けることはあるとはいえまだ小学生のフレメアだ。一人で留守番をすることに慣れてはいても、姉が返ってくることは嬉しいことこの上ない。
 だからその喜びを抑えきれずになりふり構わず玄関まで駆けて行ってしまうのだ。
 そんな尻尾を振るフレメアを見て、フレンダはにわかに微笑む。

フレンダ「ただいま、フレメア。いい子にしてた?」

フレメア「にゃあ!」

 一鳴き。
 靴を脱ぎ終えたフレンダは自分と同じ金髪の頭を撫で、抱きしめ、ぽんぽんと幾度か背中を軽く叩く。
 それはフレメアへのご褒美のようなものでもあるし、フレンダ自身の癒される行動でもあった。
 こういっては失礼だが、さながら主人とペットの関係の様にも見える。

フレンダ「ごめんね、いつも留守番任せちゃって。本当に申し訳ないってわけよ」

フレメア「ううん、フレンダお姉ちゃんはお仕事で忙しいから、大体気にしてない、にゃあ」

 軽く棒読みの入ったそれは明らかに気にしていることを如実に表していたが、言葉上は隠すところにフレンダはたまらなく愛らしさを覚える。
 そうしてフレンダは再び、力の入れ加減に注意しつつフレメアを抱きしめる。フレメアはその抱きしめられた胸の中で頬を擦りつける。
 これら一連の行動が、彼女らセイヴェルン姉妹によく見られる光景、やりとりだった。

539: SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/22(木) 02:48:12.27 ID:jyGxs/gao
 いつもならばこれを数分間(よく飽きもしない)続けるのだが。
 今日のフレンダは途中で思い出したように笑顔を消して、フレメアを引き離した。
 フレメアは不思議そうな顔をして直ぐ真上にある姉の顔を見つめる。

フレメア「……お姉ちゃん、大体どうかしたの?」

フレンダ「…………」

 フレンダは僅かに逡巡し、そして瞬きをすれば消えてしまうだろう淡い笑顔を貼り付ける。

フレンダ「ううん、なんでもないってわけよ。結局、少し疲れてるだけだから」

 フレメアはそう言うフレンダの瞳をまじまじと見つめた。
 彼女は別にそうして嘘を嘘と見抜くわけではない。が、単純に勘が鋭いのだ。
 今年度に入ってから特に強くなった、とフレンダは姉としてそれを実感していた。
 恐らくは春先に起きた出来事――というかそれ以外に原因は見つからない――が引き金となったのだろう。

 上条当麻との別れ。
 決別の後、フレンダはフレメアにも有無を言わさず彼に会うことを禁じた。
 当然だ。フレメアと関係を持っていたならフレンダの尻尾を掴むことなど容易になるのだから。
 それがどうして勘が鋭くなるのか、という疑問を抱かざるを得ないが、フレンダは既に一つの仮説を確立している。
 『自分が何かを見逃したから自分達と当麻お兄ちゃんとが別れるはめになった』と思いでもしたのではないかとフレンダは推測する。
 実際はそんな事は全くないのだが、蚊帳の外に居たのは事実であり、知っていれば何かがほんの少しだけ変わったかもしれないこともまた事実だ。
 それを経験した結果、無意識か意識してかはわからないが、物事を注意深く観察するようになったのだろう。

 閑話休題。
 結果、フレメアはお姉ちゃんが何かを隠していることを僅かに感じ取った。
 が、別段問い詰めるようなことはしない。十中八九、聞いても仕方のないことだ、とでも判断したのだろう。
 フレメアも笑顔を浮かべ、もう一鳴きする。

フレメア「にゃあ。ベッドはちゃんと整えてあるから、今日はゆっくり休んでね」

フレンダ「ありがとう、フレメア。フレメアも、もう時間遅いから速く寝なよ?」

フレメア「うん、大体、わかった」

 お休み、と最後にもう一度だけ頭を撫でてからフレンダは玄関を後にして自分の部屋へと向かう。
 フレメアもその背中におやすみなさいと言ってから、フレンダが帰ってくる直前までいた、居間の方向へと足を向ける。
 本日の姉妹の会話はコレにて幕を閉じた。

540: SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/22(木) 03:08:32.00 ID:jyGxs/gao
 学生寮、とはいっても彼女らが住むそれは、そこらの学生寮とは一線を画している。
 3LDK……と言ってしまえば話は早いだろう。
 もっと簡単にいってしまうなら、上条当麻の寮に更に部屋が三つ付いている状態。
 とはいっても、先程姉と妹が別の方向へ行ったように一つの部屋は玄関から居間へ向かう途中に設置してあるのだが。
 兎も角、高校生と小学生が二人で暮らすには少々広い間取りな寮なのだ、一人一部屋使ってもまだ一つの部屋が余るほどに。
 これも『アイテム』の恩恵といったところだろう。

 フレンダは部屋に入るやいなや、ベッドに仰向けに倒れこむ。
 彼女の部屋は思った以上にファンシーな雰囲気で彩られている。
 ところ狭しと棚が置かれ、その上には沢山の人形、ぬいぐるみが置かれている。
 無論のことながら彼女が倒れたベッドの上にも沢山のぬいぐるみがいた。
 その中の一つを手に取り、真っ直ぐ上へと持ち上げる。とある第三位が大好きなキャラクターであるゲコ太と呼ばれるカエルのぬいぐるみだ。
 しかし、どれだけ金を積まれようと脅されようと、彼女がこのぬいぐるみを手放すことはないだろう。
 なぜなら、これは。

フレンダ「当麻がくれた、ものだもん」

 ぱっ、と空中で手放し、胸で受け止めてから力いっぱいに抱きしめる。
 そうだ。これは上条が自分へとプレゼントしてくれたぬいぐるみだ。
 再会してからゲームセンターへ二人で行った時のこと。
 そこで上条が唯一手に入れた戦利品を、フレンダはもらい受けた。
 昨日のことのように、思い出せる。
 きっと、彼もそうに違いない。
 ――――今はもう、そう思うことすらできない。

フレンダ「どうして――――」

 どうして、死んでしまったの。
 彼女の抑揚のない声は室内にすら響かず、消える。

541: SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/22(木) 03:26:06.16 ID:jyGxs/gao
 記憶喪失。
 エピソード記憶の消失。
 それはつまるところ、その人の死だと言ってもいい。

フレンダ「…………」

 腕の中にいるぬいぐるみに、更に力を入れてしまう。
 事実を知り、ショックだった。直後は、何も考えたくなかった。
 だって、上条当麻は死んでしまったのだから。

 幼馴染として積み重ねた思い出。
 同級生として重ねあわせた記憶。
 それらと共に、上条当麻は死んでしまったのだから。

フレンダ「でも、それでも――――」

 けれど、今はつい数時間前より少し進んだ。フレメアを見て、多少なりとも思考を回復させた結果の賜物だった。
 上条当麻は記憶をなくし、死んだ。
 ――――それでも。
 それでも、彼は生きている。

 『絶対能力進化』。それを上条が止めたという事実を見た時、フレンダは流石当麻、という感想を抱いた。
 その時の彼は、既に記憶を失っているのに。

 彼以外の誰が、なんの特にもならない、無謀とも言える戦いに身を投じることができるだろうか?
 いいや、何人たりともできやしないだろう。上条当麻でなければ。
 逆にいえば、上条当麻でさえあれば、第一位に真っ向から喧嘩を売るなんて真似ができる。

 上条当麻は、生きている。
 記憶を失っても、例え自分のことを完全に忘れていたとしても。
 自分の愛した上条当麻は、まごうこと無く、生きている。

542: SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/22(木) 03:39:15.87 ID:jyGxs/gao
 生きている。
 しかし、記憶を失っている。
 つまり、それはどういうことか。

フレンダ「普通の人なら、きっと別人だというかもしれない……ってわけよ」

 自分は絶対に違う。
 上条当麻は、上条当麻だ。
 例え記憶を失っても彼の本質はなんらかわりはしていないのだから。

フレンダ「けど、記憶はない」

 そう、記憶はない。
 だが、上条当麻だ。
 今の彼は、寸分の狂いもなく『記憶がない上条当麻』なのだ。

フレンダ「結局――――」

 そう、つまり。

フレンダ「私はまた、当麻と会える、会うことが出来る――――ってわけよ」

 フレンダと上条が分かたれたのは上条がフレンダの秘密を知ってしまったことにある。
 しかし、当の上条はそれを忘れてしまっているのだ。
 それならば会ってはいけない道理などない。

フレンダ「…………っぷ、はははっ」

 フレンダは、笑う。
 久しく、心の底から笑う。
 それ程までに、彼女にとっては嬉しいことなのだ。
 相手は、例え記憶が無くとも、その生き様はなんらかわっていない、自分の好きになった上条当麻なのだから。


 まずは、どう挨拶をするところから始めよう?『初めまして』?或いは『久しぶり』?
 元知り合いか知り合いでないかできっと印象はガラリと変わるだろうなぁ、なら、どうしようか――――
 フレンダは疲れきった心身でそんなことを考えつつ、深い眠りへと落ちて行く。

552: SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/30(金) 00:21:51.40 ID:B9gxW1Fao
上条「あー……不幸だー……」

 上条当麻は疲れていた。
 学園都市の誇る超能力者、七人しかいないそれのトップにたつ能力者一方通行との戦闘より三日。
 身体的な疲れが完全にとれない(痛みがないわけではないが松葉杖などの補助があれば歩くことも出来る)のもそうなのだが、それよりも見舞いの応答の方が疲れた。
 一日目(入院時の記憶はないが一方通行戦後)の夜中にはミサカ10032号基御坂妹が、二日目にはその姉である御坂美琴とインデックスが。
 そして本日三日目の午前中には以前に一度あったことのある青髪ピアスと、そして上条は覚えていないが寮の隣人だという土御門元春が来た。
 後にも先にもこれほどに緊張したことはなかっただろう。

上条(隣人でクラスメートだっていうから結構密接な関係だと思ったんだけど……意外となんとかなるもんだなぁ)

 適当に、今までの自分と同じように手探りで話していても少しも疑われなかった……と、思う。
 それの件はそれでほっとしたので大した精神的苦痛にもならなかったわけなのだが。
 問題はその後。午後に訪れた客人にある。
 小萌先生率いるインデックス、姫神秋沙の三人組だ。
 姫神からは『この人はまた。馬鹿みたいに無茶をして』と呆れられ、インデックスには『本当だよ!とうまは全く何もわかってないんだよ!』と再びかじられ。
 最後に小萌先生からは『上から上条ちゃんが退院した後に強制的に外に連れ出せって命令が来たんですけど、上条ちゃん一体何したんですかー!?』と詰問された。
 無論のことながら『一方通行と戦ってました』なんて言えるはずもなく。
 口八丁の口車で不承不承ながらも納得してもらって帰ってもらったのだ。
 上条的には、土御門を相手にするよりこちらのほうがよっぽど疲れたのである。
 はぁー、とため息を吐くと噛まれた頭がズキン、と痛む。

上条「っつつ……インデックスのやつ、昨日より噛む力が増してないか……?」

 この様子では明日辺りになると頭蓋骨を噛み砕かれるのではないか、と背筋に薄ら寒いものを覚える。
 そんなこんなで、上条当麻は精神的にも肉体的にも疲労しているわけなのだった。
 ぐてー、と食事やモノを置くようのテーブルに上半身を乗せてぐだついていると、慎まやかに、小さく病室のドアをノックする音が響く。

上条「どうぞー」

 その突っ伏した体勢のまま上条は告げる。
 上条はもう誰が来ても『どーにでもなーれ』状態なのだ。心身ともに疲れたならばきっと誰だってそうなってしまうだろう。

553: SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/30(金) 00:38:39.29 ID:B9gxW1Fao
 続いて、からからから、と引き戸の音がする。
 上条は誰が来たんだ、とゆっくりと身体を持ち上げてその入ってくる客人を見る。
 思わず息を飲んだ。
 一応インデックスも銀髪だし、一方通行も白髪だった。街中でも髪の色が黒や茶とは違う人は多々見た。
 だから今更どんな人でも(無意識下で)驚かないと思っていたのだが。
 その、綺麗な金髪に思わず目を奪われた。

フレンダ「失礼します……ってわけよ」

 おずおずと言うそれに上条は現実に引き戻される。

上条「え、あっ、おっ、おう」

 口篭るのは仕方がない事だ。
 目の前にいるのは金髪の美少女だ。勿論インデックスだって御坂美琴だって姫神秋沙だって美少女とはいえるわけだがこの破壊力は彼女らの何れにも当てはまらない。
 言うならば、絵に描いたような外国人の少女。被っているベレー帽が邪魔といえば邪魔だが、それで魅力が損なわれているわけではない。
 と、上条がじっと見ていると、気まずそうにその少女は口を開く。

フレンダ「ええと……その、ひ、久しぶり、ってわけよ、当麻」

上条「あ、え……えっと…………」

 誰だっけ。
 そう出かけた言葉を慌てて飲み込む。
 久しぶり、というからにはいつの知り合いなのかわからないが、自分ではない上条当麻の知人であるに違いない。
 名前で呼ぶということはそれなりの親しさも感じさせる。
 ならばこの一瞬の間は致命的だ。少なくとも名前を当てもしないと収集しないに違いない。
 そう思った上条を先回りするように、その少女は苦笑いを浮かべて言う。

554: SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/30(金) 01:01:25.97 ID:B9gxW1Fao
フレンダ「結局、学園都市に来る前だから覚えてない?幼稚園で一緒だった、フレンダだけど……」

 やっぱりね、とでもいうように肩を落とす。
 学園都市に来る前の、幼稚園での知り合い。
 その情報を聞いて上条は若干安心した。これならば覚えていなくとも問題ないかもしれない、と。

上条「名前は聞き覚えがある……と思う。俺、幼稚園の頃って全然覚えてないんだよなぁ」

 フレンダは椅子に座りつつ、相槌を打つ。
 上条がつい先程まで突っ伏していたテーブルの上にお見舞いの品を置きつつも答える。

フレンダ「まぁ、当麻はいろんな人と遊んでいたからね。結局、私のことを忘れてても仕方がないってわけよ」

上条「ごめんな?えっと……フレンダ、だったか?」

フレンダ「うん、フレンダ。フレンダ=セイヴェルン。もう二度と忘れちゃ嫌……とかいって」

 フレンダは頷き、言った後にてへへ、と笑みを浮かべる。
 それは心からの笑みではなく作り笑いであることは上条にもわかった。
 フレンダ=セイヴェルン。彼はこの瞬間にその名前を脳裏に刻み込んだ。

上条「それで、どうしてこんなとこに?」

フレンダ「それは単純ってわけよ。前に病院に来た時に当麻の姿を見かけて――――」

 自分の知らない自分。
 それを知る少女の話に、上条は一片も聞きのがさんと耳を傾けた。

555: SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/30(金) 01:22:58.51 ID:B9gxW1Fao
 ■   □   ■


上条「あ、え……えっと…………」

 上条の戸惑う姿を見て、フレンダの胸の奥がぎゅっ、と締め付けられた。
 記憶喪失。それがわかっていて近づいた。
 なのに改めてその現実をつきつけられ、表面上は隠せても心の中ではそれを誤魔化すことなど出来なかった。

 忘れた。
 当麻は忘れた。
 自分のことを忘れた。
 自分との思い出を忘れた。
 忘れた、忘れた、忘れた、忘れた――――

 暴走しかけた、狂うほどに激しいその感情を、無理矢理にねじ込み、飲み込む。
 わかっていた。わかっていて、接触した。
 そしてそれがなければ接触出来なかった。
 そうだ。自分にとって最も大切なのは上条当麻自身ではないか。
 例え記憶を失っている、自分を知らない彼だとしても。芯は彼であると自分は知っているではないか。
 ならば、上条当麻は上条当麻なのだ。
 現に、ほら。もう二度と忘れちゃ嫌だ、と、冗談めかして言った自分に対して彼はそれを虚だと見抜いて、しかしそれを言わないではないか。
 恐らく、絶対的に忘れないように心に刻んでいるに違いない。
 自分の話の一つをとって、自分を本物に近づけようとして周りを傷つけないようにしようとしているに違いない。
 それならば、ほら。やはり、彼は上条当麻なのだ。

上条「じゃあ、俺とフレンダって――――」

 上条が質問をしてくる。
 こんな日が、やってくるなんて思ってなかった。
 こんな日が、二度と来るなんて思ってもみなかった。
 しかし、その一度失い、そして夢見た日々が目の前にある。
 それだけでフレンダの心は、その底から温かい思いで満たされていた。

 そして、彼女は決意する。
 今度こそ。
 そう、今度こそ。

フレンダ(――今度こそ、間違えない)

 二度とこの景色を失わない、と。
 少女はその心に、唯一の大切な想いを刻む。

578: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/02/12(日) 14:55:51.75 ID:3IbwCkvTo
 ■   □   ■


滝壺「フレンダ、最近随分と機嫌いいよね」

 八月二十五日。第七学区の地下隠れ家にて。
 取り立てて活動のなかった『アイテム』が解散してすぐに滝壺が言った。
 ちなみにその話題の人物であるフレンダはこの場にはいない。食べかけていた鯖缶(煮付け)も食べかけそのままにさっさと場を去ってしまっていた。
 麦野はソファーに腰を深く落としてテレビを見ていたのを止め滝壺を顧みて、絹旗は食べ残した鯖缶を冷蔵庫にしまいつつ。

絹旗「まぁ、何かあったんだろうな、ということぐらいは超わかりますね」

 仕事関係でいえば最近フレンダに起きた良かったことなど彼女らには思いつかない。
 良くなかったこと、なら思い当たることも無くはないが。
 数日前に窶れたフレンダを見たのを絹旗と滝壺はまだ忘れていない。
 麦野もそれに心あたったのか口元を少し釣り上げた。

麦野「大方、マゾにでも目覚めたんじゃないの」

絹旗「それは流石に超ないと思いますけど」

 絹旗はけらけらと笑う麦野に若干呆れる。
 あの様子では確かにマゾになったほうが楽は出来るだろうが、そうするには人間として大事な何かを捨てなければならないだろう。
 というかオシオキの後真っ白になっていた時点でその線はない。

 となればあとはプライベート、ということになるのだが。
 彼女らは互いのプライベートをあまり知り得ていない。絹旗が稀に皆を誘って映画を見に行くが大体はそれだけだ。
 それだとしても『良い事』となれば大体の予想はつくわけだが。

579: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/02/12(日) 15:47:28.93 ID:3IbwCkvTo
 長期間的に喜びが続くものといえば、大量のお金でも手に入ったか、いい玩具でも見つけたか。
 他の場合もあるが個人によって大きく左右される。
 フレンダの場合ならぬいぐるみや人形でも発見したのか、或いは……

麦野「男か」

絹旗「……え、超なんですかそれ。フレンダが?男?」

 絹旗は割と激しい動揺を見せる。
 何を今更、というように麦野はテレビを眺めながら答えた。

麦野「絹旗、アンタ知らないの?前にフレンダが学校に入った理由、あれ男よ」

絹旗「えっ……え、えぇ…………?」

 その新情報に改めて絹旗は動揺する。
 知ってましたか?とでも言うように滝壺を見るが彼女も横に首を振った。
 その様子を見て、そっか言ってなかったか、と麦野は小さく呟く。

絹旗「ちょっと、待ってください……ええと、つまりフレンダは男を超追いかけるために学校に通ってる……いや通ってた」

滝壺「そういえば、通ってる時のフレンダも最近の様子に似てた気がする」

麦野「そゆこと。学校をやめた理由は何故か知らないけど、振られたかどうかしたんでしょーよ」

 もはや真剣に考察するのには飽きたのか最後の方は割と投げやりに彼女は言い、テレビへと意識を戻す。
 しかし絹旗はそれを聞いて、滝壺の横に腰を落としてまた考えに耽る。

絹旗(……フレンダは、然程遊び人ってわけでもありません。寧ろ超一筋っぽい生き方をしてます)

 何があってもフレメアを守ろうとしたところなど最たるところだろう。
 大事なものは何があっても守る、そんな生き方をしている。

絹旗(そんなフレンダが、一度超振られたからって男を捨てて他の男に走るでしょうか……いや寧ろ、振られた程度では学校を止めない気が……)

 絹旗は深く悩み始めて、そしていつの間にか眠ってしまうのは数分後の事。

590: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/02/19(日) 23:11:46.82 ID:uSVHjpCCo
 そんな自らが身を置いている組織のことなど露知らず。
 フレンダは今にも空を駆けそうな程に機嫌が良かった。
 その腕の中には何も持つものはないが、彼女の能力があれば別段手ぶらだろうと構わないだろう。

フレンダ「んー……でも、結局これとかでよかったのかな?」

 彼女が思い浮かべるのはここを通る道すがら購入したお菓子類である。
 見舞いといえばお菓子、そしてフルーツだが如何せん、日常茶飯事だった上条の入院に態々そういったものを渡すことは先の一年なかったのだ。
 しかし今は、『久しぶりにあった幼馴染』という設定なのだから何かしらのお近づきの印というものが必要だろう。
 食事に誘う、というのも考えたのだがまだ学生である身分にして、そういうのは少し大人伸びすぎだとも思った。
 高校生という子供でも大人でもない、この中途半端なお年頃。誠に不便だと思う。
 というか最近再会した(という設定)の幼馴染に、こんな短期間で二回もあっていいものなのか。

フレンダ「我ながら、少し逸っちゃったわけよ」

 後少しでも考えて行動すればよかったかなーと思うも後の祭り。
 しかしやらないで後悔するよりはやって後悔する方がいいとも言う。
 また善は急げと言葉が示すように、ゆっくりしていたら虎視眈々と少年を狙っているハイエナにかっさらわれてしまう可能性も決して小さくはない。
 果たしてフレンダは上条にとってどんな行動を起こせばよかったのか。
 正解などきっとありはしないが、一度見舞いに行った後、もう一度会うには難しい距離感を思うとそう考えずにはいられなかった。

上条「おーっす、こんなとこで何してんだー?」

 まぁ、その悩みなど少年にはほと関係なく、簡単に打ち破られてしまうわけだが。

フレンダ「!???!?」

 松葉杖をついて、まだ包帯を巻いている上条の姿を見て、フレンダは激しく動揺する。
 同時にぼとぼとぼと!とスカートの端から様々なお菓子がこぼれ落ちた。

591: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/02/19(日) 23:42:09.68 ID:uSVHjpCCo
上条「おわっ!?な、なんだ?」

 上条は突如として出現したお菓子に驚く。
 が、フレンダにはそんなことよりも目の前の少年の方がひたすらに重要なのだ。

フレンダ「とととととっ、当麻!?あれ、どうして結局こんな所にいるってわけよ!?」

上条「どうしても何も、ただ上条さんは退院しただけなのでありますが」

 いや、それはわかっているのだ。
 わかっていたから今病院に向かっていたのだ。
 そこでどんな顔をしてどんな風に退院祝いを渡そうかと、或いは別のことにしようかと悩んでいたのに。
 道すがら、突如としてその本人が登場したなら混乱せずにはいられない。
 だが会えて嬉しくもある。そんないろんな感情がごちゃまぜになって、フレンダは地団駄を踏んだ。

フレンダ「――――ッ!病院を出るのが早すぎるってわけよ!」

上条「えぇー!?なんなんですかその逆ギレ!?上条さん一体何かしましたか!?」

 なんだなんだ、と周りの少年少女達が上条とフレンダを見る。
 その様子に気付き、はっ!と顔を赤くして周りを見て、しゅん、と大人しくなる。
 できるならとっとと離脱をしたいところなのだが上条が怪我をしている以上引っ張っていくのは難しい。
 だからといってフレンダだけが去ると、彼の思考からして『なんだったんだ……』で終わってしまうに違いない。
 結果的に取れる選択肢は絞られる。無茶な因縁をつけて怒鳴り続けるか、或いは何もかもを押し込んで羞恥に耐えるか。
 これまでの上条との関係ならばきっと前者をとっていただろうが、やはり今の関係だとそういうムチャぶりも難しい。故に後者を選びとることとなる。
 とまぁ無理矢理に理由付けてしまえばそうなるが、実際にはただ感情が混ざり合った延長線上で何をどうすればいいのかわからなくなっただけだ。

フレンダ「あ、あうあう……」

 フレンダの様子がおかしくなって上条は先程までとのギャップに首を傾げた。
 上条にはコレぐらいの視線など気にするモノにも入らないらしい。
 というか視線が気になるのだったらいちいち人助けなどしていられないだろう。

592: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/02/20(月) 00:19:54.29 ID:d+GXsckao
上条「んー……ってかとりあえずこれ拾って移動しないか?動いてるとそうでもないけど立ちっぱなしだと結構辛いんだ」

フレンダ「え、あ、う、うん」

 言われて生返事を返し、ようやく地面に散らばった惨状に気付く。
 慌ててしゃがみ込み、拾った菓子類をベレー帽の中に次々としまい込む。
 さながら、それは手品そのもので様子を見ていたギャラリーは勿論上条すらも呆気に取られる。
 何かしらの能力だ、とは察しはついてもモノをしまい込む能力などと一瞬では判別つかないだろう。

フレンダ「さて、と」

 全てしまい終わったフレンダの思考はもうスッキリとしている。
 結果的に退院見舞いをする、という計画は狂ってしまったがその帰り道に会えたのだからまだまだ運は残っているに違いない。
 ならばこれを生かしてやろう、とフレンダは心中で自らを鼓舞する。

フレンダ「じゃあとりあえず、そこら辺の喫茶にでも入って涼もう……ってわけよ」

上条「あ、ああ」

 楽しげに先を行くフレンダを上条は松葉杖をついて必死に追う。
 そんな彼らの後ろ姿を、一部始終を見ていた人々は『なんだったんだろう一体』と首を傾げるのだった。

608: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/02/27(月) 01:13:47.01 ID:UiBp4k76o
 喫茶店、と言っても学園都市には様々なものがある。
 貧乏学生が入るようなファミレスから、学園の園のお嬢様達が立ち寄るような高級店まで、多種多様の店がある。
 無論のことながらそれはバッグや服などの多様のジャンルにも相違ないと言えるが飲食店においての格差は著しい。
 
フレンダ「私は、ガトーショコラとミルクティーのセットをお願いするってわけよ」

上条「えーっと……俺は……」

 上条はメニューに目を落として言葉を詰まらせる。
 彼らがいるのは店の隅から隅まで話し声が聞こえるような学生御用達のファミレスではなくもっと静かな雰囲気の漂う喫茶店だ。
 シックなBGMが店内を包み込んでいて、席は全て埋まってはいないが訪れている客は良い育ちだと人目でわかるような上品さを漂わせている。
 つまるところ、『いい雰囲気』の店だということだ。
 勿論通常のファミレスならワンコイン、高くても一枚にも届かない料理がこういう所では簡単に倍の料金を叩き出したりする。
 メイド喫茶のようなコーラを頼んだだけで500円などということはないだろうが、それでも財布の中身を心配せずにはいられなかった。
 家に帰ったら大飯食らいの居候にも食事を用意しなければいけないのだ、財布の中身を多く残しておくことに越したことはない。
 そんなこんなで悩んでいる上条をちらりと見て、フレンダは嫌な汗をかいている上条のメニューをその手から抜き取った。

フレンダ「こっちの人には和風オムライスとアイスコーヒーで」

「かしこまりました」

上条「あっ、ちょっ」

 上条が止める暇すらもなかった。
 上品に注文を承った店員はフレンダからメニューを受け取って店の奥へと消えてゆく。

上条「ふっ、フレンダさん!?上条さんはこんな高そうな所で食べるお金なんてあまりないのでございますが!?」

 慌ててそう告げる上条に、フレンダは溜息を吐いて肘をつきながら答える。

フレンダ「結局、当麻ってば周りを見ろってわけよ」

609: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/02/27(月) 01:34:19.82 ID:UiBp4k76o
 言われ、ふと回りに意識を集中させるといいところのお嬢様方が上条達のテーブルをみてクスクスと笑い合っていた。
 別に彼女らは『庶民が私達と同じ処で食事をとっておられるわ』などと思っているわけではなく、言うならば馬鹿な行動をした弟や妹を見る年上の兄弟の様な感情を抱いているのだ。
 言うならば『大人の余裕』といったところだろうか。
 女性の精神の成熟は早いとはいうが、育ちも良ければその成長もまた優雅に育つのだろう。
 それを察して上条は恥ずかしさに顔を赤くした。
 道端での衆目に晒されるのは平気のようだがこういう場所においては雰囲気に飲まれてしまうらしい。

フレンダ「……心配しなくても結局、今日は私のおごりだから。気にしなくてもいいわけよ」

上条「……いやいやそんな、悪いだろ」

 今度は音量をちゃんと調節した上条が言う。
 お金がないとはいっても奢られるのはその言葉の通り相手に悪いと思っているのだろう。
 しかし、フレンダには一応ながら、大義名分の理由がある。

フレンダ「そんなことないってわけよ。今日誘ったのは、ほら。つまり当麻の退院祝いなわけだから」

 だから来るのが早いとか言ってたのか?と上条は僅かに首を傾げる。
 が、そこはやはり上条当麻である。自分に何かをしてもらうなんて相手に悪いという考えの持ち主だ、千幾ら程度の食事でも受け取れない。

上条「そんなこといってもな……さっきはお金なんてあまりないっていったが、いや実際そんな多いわけじゃないけどさ。
    飯を食えるぐらいはあるから、やっぱり自分の分は自分で払うよ」

フレンダ「別に遠慮なんてしなくていいってわけよ。結局当麻って、自分から勝手に相手に何かしに行くくせに自分がやられるのは嫌なのね?」

 自分がされて嫌なことは相手にするなって習わなかった?と皮肉交じりに言う。
 それとこれとは違う。そうは思っても上条には反論できなかった。

フレンダ「たまにはご褒美として受け取ってもいいんじゃないかって私は思うわけよ。
      そうじゃなくても、態々『何々してくれる』って言ってるんだから、それを断ったらその人の顔に泥を塗ることになるし、ね?」

610: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/02/27(月) 01:51:55.06 ID:UiBp4k76o
 フレンダは言外に告げていることを上条は察す。
 『いいから好意を受け取れよ、お前は私の顔に泥を塗る気か?』と。
 ニュアンスはもっと別なものに違いないが、彼女の言葉を要約するとそういうことに違いない。
 流石に善意でしてくれていることを何度も断るのは失礼に当たるということぐらいは上条も知っている。
 仕方がないとばかりに上条は溜息を吐いて答えた。

上条「わかった。それじゃ遠慮無く奢らせて頂きます」

フレンダ「それでよし、ってわけよ」

 満足そうな笑顔を見せるフレンダを見て、上条もつられて口元を釣り上げる。
 そんな時、まるで見ていたのではないかというタイミングで注文の品がテーブルへと届いた。
 ちゃんと訓練されているのか、店員に頭の上にひっくり返されることもなく目の前に並べられたオムライスからはバター醤油の良い香りが漂っている。

上条「それじゃあ、いただきまー……」

フレンダ「ストップ!」

 手に持ったスプーンをオムライスへと突き刺そうとした瞬間に目の前に座る少女から『待て』の命令が下る。
 思わず止めた手からサッ、とそのスプーンは奪い取られ、上条が入れる筈だった初めての切れ込みはフレンダが入れることとなる。
 何が起こっているのかと唖然とする上条の前にぐっ!とつきつけられたのは無論のことながらスプーンに載せられた、ご飯が卵に包まれた料理の一口分。

フレンダ「あーん」

 ともすれば語尾にハートでもつきそうな程甘ったるい声でフレンダは突きつける。それも、満面の笑みで。
 上条はつい包帯を巻いた両手をあげて、降伏を示した。

上条「あの、フレンダさん?上条さんはまだ怪我は完璧に治ってはいませんが、一応スプーンとかフォークとかは使えるわけでして」

フレンダ「あーん」

上条「であるからして、上条さんはフレンダさんから子供のように態々口に入れさせてもらわなくても一人で食べれ、」

フレンダ「あーん」

上条「フレ、」

フレンダ「あーん」

 駄目だこれは、逃げられない。
 観念した上条がその後オムライスを全て口に入れるまで、10分以上の時間を要したのだった。

638: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/11(日) 22:06:51.60 ID:1RN8OGe4o
フレンダ「じゃあ、またねー!」

 喫茶店を出た後、フレンダは手を振って上条から遠ざかってゆく。
 上条は松葉杖をついているため手は振り返せないが故に言葉だけで返し、遠くに消え行く少女を見送った。
 少女が見えなくなった後、上条は小さく溜息を一つ。

上条「……なんだったんだろう」

 正しく、風と共にやってきて、風と共に去る。
 道端にいたのを話しかけたのは上条のほうだが、そのまま連れさらわれたに等しいのだから問題はないだろう。
 そういえば病院を出るのが早すぎだと言ってもいたし、結局やることは変わらなかったに違いない。

上条「奢ってもらえたのは正直嬉しいけど、あのプレイはもう勘弁」

 やれやれ、と上条は深い溜息を吐いた。
 食べ終わるまでの十分間、店内にいた人たちの温かい視線に包まれていたのだ。溜息を吐きたくもなる。
 心なしか、店員さんまでそんな視線をしていたような気もした。

上条「でもま、幼馴染って言ってたし……ああいうこともやってたのかな?」

 記憶がない以上、想像することしかできないが。
 彼の辞書に、幼馴染というのは第一に幼い頃仲の良かった人物、第二にゲーム等において大半の場合無条件にフラグの立っているキャラクター、だ。
 後者はさておき、前者の方を考えるならばやはり鉄板イベントの『一緒にお風呂』とかもこなしていたのだろうか、などと考えてしまう。

上条「いやいや、それはないだろ流石に」

 幼馴染とはいっても流石にそういうことは聞けないし、胸に永遠の謎としてしまっておこう、と誓う。
 しかし、その彼女に関して疑問に思ったことが一つあるのだ。

 どうして彼女は今更ながら、自分に会いに来たのだろう。

639: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/11(日) 22:26:01.73 ID:1RN8OGe4o
 先日初めて会った時、彼女は自分を自分だと確信しているような物言いだった。
 理由を聞いたら、あの時はそういうこともあるのかもしれないなーと思ったが、よくよく考えてみるとやはり僅かに不自然なのだ。
 あの日、理由を尋ねた上条に彼女はこういった。

フレンダ『それは単純ってわけよ。前に病院に来た時に当麻の姿を見かけて――――』

 それ自体は不自然ではない。
 が、彼女は初めに『久しぶり』といい、そして名前で呼んだ。
 その二つの事実を照らし合わせてみたら、ほんの少しだけ疑問に感じる点がある。
 もし、自分がフレンダならば。きっと、初めにこう言う筈だ。

フレンダ『ええと……当麻、だよね?』

 そう、つまり。
 確認作業が、抜けていた。
 入り口に名前が書いてあったとしても、外見を予め見ていたとしても。久しぶりにあった知り合いを互いに認識するためには先ず尋ねるだろう。
 当麻、と呼ぶほどの親しさ。きっと今も彼女は、自分をそれなりに親しい幼馴染だと感じているのだろうと思う。
 だから間違えないのだ、と言われてしまえばそれまでなのだが。そうなるとやはりおかしいのだ。
 以前に見かけた時に、フレンダは上条に話しかけなかった、という事実が発生するのだから。

 すると、一つの仮説が浮上する。
 フレンダは上条を昔から認識していて、その上であえて今まで話しかけていなかった、という仮設が。

 考えすぎ、と言われたらそうなのかもしれない。
 気のせいだ、と言われたらそうなのかもしれない。
 が、考えたくはないが、或いはその仮説が会っていて、今更接触してきたことに何か裏があるのだとしたら、それは――――

「――――上条、当麻……だな」

640: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/11(日) 22:51:25.11 ID:1RN8OGe4o
上条「…………っ!」

 ゆっくりとインデックスの待つ自宅へと進めていた松葉杖を、止める。
 その声は、鈍く、鈍く。
 名前を呼ばれなければ、『ただの雑音だろう』と片付けてしまうだろうほどに鈍く平坦な声。
 言葉を変えるならば、無機質だとも言える。
 その声は、上条に自らの言葉が届いたことを確認して尚続けた。

「数日前……今まで幾人もの能力者達、スキルアウト達が挑み敗れた……『最強』を倒した。……間違いないな」

 見れば、ビルとビルの隙間。僅かな影。
 その影に紛れて、自分より一回り大きな巨体が身動ぎしたのが見えた。
 瞬間上条が思うのは、どうやって逃げるか、ということ。

 小萌先生はお見舞いに来た時に上層部からの伝言とやらを教えてくれた。
 曰く、『腕に覚えのある不良ちゃん達が上条ちゃんを狙って大々的な人間狩りを始めてしまったので、退院したら少しの間、外に追い出してくださいって命令されたんですよー!?』と。
 学園都市最強という地位と名声を手にしたい能力者か、或いは無能力者か――それはわからないが、路地裏でよく遭遇するスキルアウトと同じような雰囲気を発しているのはわかった。
 故に、逃げの選択肢をとる。

上条(けど、俺だってまだ全力じゃはしれねぇし……そもそも逃げた所で、名前が割れてるんなら寮まで追いかけられるかもしれない……)

 もし寮がバレていないのだとしても、バレるのは時間の問題だろう。
 そして、そうなれば我が身だけではない。インデックスまでが危険に晒されてしまう。
 それだけは、なんとしても避けなければ。
 兎も角、一当。今の自分の全力でぶちかまして、運が良ければ記憶も吹っ飛ぶ。その隙に逃げる。

上条(……怪我してると油断して襲いかかってきたところをカウンターで……!)

「……何か、勘違いをしているようだが」

 身構えた上条に、巨漢は諭すように言う。
 相も変わらず、平坦な声で。

641: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/11(日) 23:12:38.34 ID:1RN8OGe4o
「俺は……『最強』の座を必要としてはいない。……その座を手に入れたことで強大な力が手に入るなら別だが、そうではあるまい」

 その真偽はわからない。
 顔色を確かめようにも影に隠れ、彼の人相すら伺えない。
 尚も警戒を解かず、上条は恐る恐るといった様子で影に向かって投げかける。

上条「……じゃあ……なんだ?なんで、お前は俺に接触してきた?」

「学園都市最強の超能力者を倒した無能力者……そして、その志の方向は同じとなればこそ。俺の正体をしれば容易に想像がつく……」

 上条の見ている前で、彼は一歩、表の道へと踏み出す。
 まず上条が感じたのは、圧倒的な存在感。
 それは常人の倍はあろうその体躯故に、ではない。彼そのものの存在が、大きいのだ。
 だが同時に、影に紛れることの出来るほどの身のこなしも持っている。
 異質――――。
 そういうのが、相応しいと上条はふと思った。
 こんなのにカウンターを決めた所で記憶どころか、果たしてダメージすらも与えられるかどうかを考えることすらも馬鹿馬鹿しくなる。

「俺は、駒場利徳。ここら一帯のスキルアウト……それらを束ねる代表者、とでも言おうか……」

上条「駒場……」

 聞いた覚えはない。記憶にもその名前は見当たらない。
 が、嘘を言っている様子は見られない。
 そんな彼が上条に接触してきた理由を考えると、彼の言ったとおりに簡単に思い当たった。

駒場「それで……どうだ。高待遇で迎え、」

上条「お断りだ」

 きっぱりと。
 上条は最後まで聞く必要はないと言わんばかりに、駒場の言葉を叩き斬った。

642: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/11(日) 23:28:33.40 ID:1RN8OGe4o
上条「組織されてるスキルアウトがどんなことを目的にして活動してるのか、なんてしらねぇ。だけど、スキルアウトは大体の場合において人に迷惑をかけてる奴らだ」

 俺だって何度襲われたことか、と呟く。
 記憶を失って以降でさえ、この夏休み中に3、4回絡まれているのだ。
 記憶は無いが、学園都市に来てからを考えると、両手両足の指では数えきれないに違いない。

上条「そのせいで、無害な無能力者すら恨まれることだって少なくない。そんなことをしている奴らの仲間に、俺はならない」

 もしくは、駒場利徳の話をしっかりと聞いたなら。
 上条当麻は、スキルアウトに入っていた道もあったのかもしれない。
 が、今の上条の言うこともまた真実であり、絶対なる事実である。
 故に駒場は、その揺るがない表情をほんの少しばかり、残念そうに顔を歪ませた。

駒場「そうか……残念だ。ならば、去るとしよう。気が変わったなら、いつでも尋ねてくれ……」

 足を後ろに下げて、再び路地裏へと消えてゆく駒場に対して上条は少しばかり呆ける。
 スキルアウトというなら、断るなら襲ってくるとばかり思っていたのだが。
 この駒場利徳という男は、そこらのスキルアウトとは考えが異なっているらしい。

駒場「……そういえば、あの舶来は……お前が助けたのに、よく似ていたな」

上条「舶来……?」

駒場「或いは同一人物か……。果たして、子供の成長というのは早いものだ……舶来ならば、尚更か」

上条「おい、ちょっと、まっ……」

 呼び止めようとしたが、時既に遅し。
 駒場は現れた時と同じように、音もなく、闇の中へと消えてしまった。
 上条は言い知れない疑惑と共に、暫しの間そこで立ち尽くした。

654: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/21(水) 21:55:26.14 ID:Ao5QWZ7To
 ■   □   ■


インデックス「ゼッタイ、許さない! とうまの頭骨をカミクダク!」

 そんなこんなで、上条の日常は不幸と絶叫から再開された。

上条「痛い痛い痛いですってインデックスさん!? やめてやめて、死んじゃう死んじゃう!?」

インデックス「ほれくらいはははひんはほ! ほうははひひどひはいへほひはほうはひひんははは!」

訳『これぐらいじゃ甘いんだよ! とうまは一度痛い目を見たほうがいいんだから!』

 不幸だー!と上条当麻は嘆く。
 折角。折角学園都市の外に出たというのにマトモに羽休めもできず、海岸から実家まで往復したりしたというのに。
 『御使堕し』の解除を試みようと頑張ったというのに。

上条「この仕打ちはあんまりだだだだだだだだ――――――――――っ!?」

 ガガガガガッ! とインデックスの歯、否、牙が上条の頭蓋に打ち付けられる。
 最早激痛どころの騒ぎじゃない。ヘタをすれば、いやヘタをしなくとも今回土御門から受けたダメージよりも深いのではないだろうか。
 そしてインデックスがまだ怒りは収まらんとばかりに(話しかけられただけで埋められたのだから当然といえば当然だが)、顎に力を入れ始めた瞬間。
 こんこん、と病室の戸が叩かれた。

上条「ほっ、ほらインデックスさん! 誰か来たから! お客様が来なすったからぁあああああああああ!?」

インデックス「誰が来たからって、そんなの関係ないんだよ!」

 ギャ――――――ッ! という悲鳴をBGMにその客人はスルリと病室内へと入って彼らを唖然とした顔で目撃する。

656: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/21(水) 22:26:31.03 ID:Ao5QWZ7To
フレンダ「な……何をしてる、ってわけよ……?」

 その彼女の言葉に、インデックスはようやくその口を上条の頭から放し、上条はその隙にインデックスを引き剥がす。
 ぜー、ぜーと肩で息をするだけで済んでいるのは正直僥倖に近い。
 そして入室してきたフレンダを確認して助かった、とばかりに笑顔を見せつつ、声をかけた。

上条「ようフレンダ、一体どうしましたのですか?」

フレンダ「いや……結局、風の噂で当麻が外から帰ってくるなり病院に運ばれたって聞いて駆けつけたんだけど……」

 言いつつ、彼女の視線は銀髪碧眼少女へと集約される。
 その彼女も、見知らぬ金髪蒼眼の少女を見遣り、視線を外さずに上条に尋ねた。

インデックス「とうま、この金髪白人は誰なの? 知り合い? とうまのことを名前で呼ぶとかどんな関係?」

フレンダ「それはこっちの台詞、ってわけなんだけど。当麻、結局このシスターは誰?」

 ええと、と上条は言葉を詰まらせる。
 フレンダは彼女曰く幼馴染だ。しかしインデックスの説明が難しい。
 魔術云々の話を抜きにしたとしても自分は出会いを覚えていないのだ。
 いうならば……

上条「こっちは、インデックス。ぶっちゃけただの居候……だな」

インデックス「ただの!? とうま、今私のことただの居候って言った!?」

 居候=同居人。その結論に言葉を失くすフレンダをよそに、インデックスは上条の言葉へ噛み付く。
 ぎゃーぎゃーと騒ぐ彼らを目の前に、我を取り戻すのは案外早かった。
 どうしてそんなことになったのか、という理由について考え始めると彼の性質を考えると直ぐに思い当たる。

フレンダ「あー……なるほどなー……」

657: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/21(水) 22:38:49.75 ID:Ao5QWZ7To
 何かに納得したような声を出すフレンダにインデックスは指を向けた。

インデックス「それでとうま、こっちの女はどこの誰なの!? まさかまた私のしらない所で引っ掛けてきたりして――――」

フレンダ「いやどちらかといえば逆、ってわけよ」

 その言葉にインデックスの目付きが鋭くなり、フレンダを射抜く。
 数多の修羅場を潜った覚えのあるフレンダはその視線など物ともせず、言葉を探るように続けた。

フレンダ「んーと……私はフレンダ、フレンダ=セイヴェルン。当麻が学園都市に来る前からの知り合い……つまり幼馴染ってわけよ」

フレンダ「とはいっても、結局再会したのは最近。だから逆、ってコト」

 新ヒロインではなく、元祖ヒロイン。
 思わぬ伏兵にインデックスは僅かに慄く。

上条「まぁ、そういうことだ……つっても、フレンダにせよインデックスにせよこの上条当麻、何もやましい事はありませんとのことよ?」

 その瞬間だけは互いに警戒する少女達の想いが一致する。
 嘘をつけ。

659: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/21(水) 23:00:11.97 ID:Ao5QWZ7To
フレンダ「ま、いいか……とりあえずこれ、お見舞いの品」

 いいつつ、後ろからとりだしたその缶は以前にも見覚えのある。
 御坂美琴が買ってきたクッキーと同様のもの。あの後に調べて、上条では気軽に買えない料金だったのを覚えている。
 それを受け取って、更にもう一つ同じものが乗せられた。
 あの高いのが二つも!? と上条は戦慄を覚え、しかしその上条はきにせずにフレンダはインデックスへと視線を向ける。

フレンダ「結局もう一つのはあなたが食べていいってわけよ」

インデックス「……もしかしていい人?」

 おずおずと疑問形で尋ねるインデックスに、それは自分の判断基準で考えろ、と思いつつ。
 もしかしたら、と思いこちらから申し出てみる。

フレンダ「……お望みなら、もうひとつ乗せるけど」

インデックス「金髪、貴方いい人! 頂戴!」

上条「いけません! これ高いんだから!」

 再び騒ぎ始める二人。
 彼らを眺めて思わず苦笑いをし、銀髪少女のお望み通りサイドテーブルにクッキーの缶を一つ置いて踵を返す。
 そんな彼女の背に上条は一旦インデックスとの口論を止めて、声を投げかけた。

上条「もういくのか? ちょっと話したいこともあるし、少しゆっくりしていったらどうだ?」

 それは、とても魅力的な申し出だけれど。
 フレンダはその顔だけを振り向かせ、答える。

フレンダ「今日はちょっとバイトがあるから遠慮しとくってわけよ。それじゃまたね、当麻」

 そう言って彼女は笑いかけ、軽く手を振った。
 上条には、その顔が何故か一瞬寂しげに見えて。
 瞬きをすれば掻き消える幻想に意味も分からず心が強く締め付けられた。

660: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/21(水) 23:20:30.30 ID:Ao5QWZ7To
 ■   □   ■


 時は少しばかり巻き戻る。
 フレンダが病室に辿り着く直前のこと。
 彼女は廊下で、上条の隣人でありクラスメート、そして超能力者であり魔術師でもある彼が真正面から歩いてくるのを見た。

フレンダ(っ……)

 警戒するのは当然だ。
 なにせ彼は彼女を知っている。
 自分がいついなくなってもいいように学校の生徒とはなんら接点をもたなかったが、上条の知り合いとなると別だ。
 ほんの少しでも、関わらざるを得なかった。
 そしてまた、彼が記憶喪失するまで自分を探すことを手伝ってもらっていた、或いは話していた可能性もある。
 だから染められた金髪にアロハを着込んでいる彼が単純にすれ違った時、ほっとしたのだ。
 安心して上条のところにいける。そう思った瞬間。

土御門「安堵したか?」

 ゾク、と背中にナイフをつきつけられたような尖い殺意と言葉が自らに冷や汗を垂らさせる。
 素早く振り返りながらバックステップで距離をとり、その彼と向き合った。
 その少年はサングラスの奥で、フレンダをしかと捉えている。
 いつでも武器が出せるように道具箱を入れ替えつつ、後ろ手にスカートの中にそれを入れる。
 が、相対する彼は構えず、言葉を投げかけてくる。

土御門「安心しろ、危害を加えるつもりはない」

フレンダ「……それを、信じろってわけ? ついさっき、殺意を向けてきた奴の言葉を?」

 尚も警戒し、先手必勝と思い武器を出そうと考えるのも束の間。

土御門「ここには人目が多いからな。俺達のような奴にはそういうのはあまりよろしくない」

 確かに、ここは病院で、そして廊下だ。
 今は人気が全くないとはいえ、両側に並んでいる戸を開けば人がすぐそこにいるのだ。
 フレンダは武器を出すのは止め、しかし警戒は解かずに彼へと尋ねる。

661: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/21(水) 23:40:48.70 ID:Ao5QWZ7To
フレンダ「……結局、何が目的……ってわけ」

土御門「まぁ、聞けよ」

 フレンダの問いに土御門は答えず、ズボンのポケットに手を突っ込みながら続ける。

土御門「お前がいなくなった時、俺と青ピは『フラレたか』と思いカミやんにその件について問い詰めたんだ」

土御門「だが、カミやんは何も言わなかった。青ピはそれ程までにショックだったんだ、と納得したようだが俺は違った」

土御門「少し調べたらお前は元からいなかったことになっていた。また少し調べたら、お前がこっち側だということに簡単に辿りついた」

 所属まではわからんがな、と笑い飛ばしながら言う。
 余裕のありそうな彼に対して、フレンダにあまり余裕はない。
 土御門元春、その目的が全く見えてこないからだ。

土御門「そう睨むな。お前がカミやんのことを思って身を引いたことぐらい俺にはわかるし、カミやんにお前がいたことを教えてお前の目的をぶち壊すなんて無粋なことをするつもりもない」

フレンダ「じゃあ、結局何……ってわけよ」

土御門「フレンダ=セイヴェルン、お前は学校をやめてからもカミやんを見守っていたんだろうな。そして今からも影から様子を見に行くんだ、違うか?」

 その通り、だが。
 この何もかもを見透かしたような奴にそんなことを正直に言う義理はない。
 その敵意は知らず知らずのうちにフレンダの視線に隠っていて、それを逸らすように土御門はクイ、とサングラスを軽くあげた。

土御門「おいおい、別に何も邪魔するつもりはない。だが一つ忠告しておく。今はやめておけ、でなければきっと後悔する」

 フレンダは目を細める。
 後悔する、の理由が見当たらないからだ。
 その内容を吟味していると、目の前のまるで街に入れば胡散臭いほどこの上ない少年はフレンダへ背を向けていた。

土御門「まぁどちらを選ぶにしてもお前の自由意思だ、好きにすればいい」

 だが、と。
 土御門は一瞬だけ振り返り、そこにいるフレンダを一瞥する。

土御門「今のは同じ守るべきものを持つ奴の忠告だ」

 そう言って、土御門は去っていった。
 見えなくなった所でようやくフレンダは構えを解いたが、冷や汗は拭えない。
 自分も相当な使い手の筈だが、アレは得体の知れない何かを秘めていたから。

662: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/21(水) 23:50:09.89 ID:Ao5QWZ7To
フレンダ「…………はぁー」

 そして現在。
 少女が佇むのは屋上。
 シーツが風に揺られてバサバサと音を立てる。
 その給水塔の足元に彼女は体育座りをして溜息を吐いた。

フレンダ「なるほどなー……」

 フレンダは病室で呟いたその台詞をもう一度呟く。
 上条の様子を見れば、あの少女とくっついた、というわけではない。
 だからその親しさは関係ない。
 しかし、あの忠告の意味がよく身にしみてわかったからだ。
 自分の場所が取られてしまったことほど、辛いものはない。

フレンダ「……でも、チャンスはまだ残ってるわけだし」

 そもそも上条と付きあおう、などと考えた事は一度もない。
 自分はたまに、隣に居られる存在であればいいから。
 例えば彼が躓いた時、その肩を支えてあげる程度の存在であればいいから。
 付き合ってしまえばそれこそ自分の事情に否応なく巻き込んでしまい、本末転倒となってしまうのだから。

フレンダ「私は、当麻の杖になれればそれでいい……ってわけよ!」

 バッ、と一気に立ち上がる。自分の頬を叩き、気合を入れる。
 それに、自分は少年の隣にいたからバレてしまったのだ。近すぎたからバレてしまったのだ。
 ならば、今の関係がいい。今の関係が丁度いい。
 言い聞かせるように、少女は想い――――

フレンダ「おっ、電話だ」

 そしてまた、血腥い少女の日常へと還ってゆく。

677: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/04/22(日) 01:40:58.07 ID:alYlxhyXo
 ■   □   ■


 これは、九月上旬の或る日のこと。

 言うまでもなく、フレンダ=セイヴェルンは『アイテム』の構成員である。
 その『アイテム』の活動は主に学園都市内の不穏分子の削除及び抹消。
 時に統括理事会含む上層部、『アイテム』と同じような暗部組織の暴走の阻止も行う。
 しかしながら結局は、彼女らの『電話の声』こと制御役、もとい上層部のさじ加減によって決まることが専らだ。
 つい先日行われた、捨ておいても殆ど問題などなさそうな一方通行による『絶対能力進化計画』の御坂美琴による阻止など最たる例だろう。
 つまるところ、『アイテム』とは軽い任務から重い任務までやらされる何でも屋に近いものなのかもしれない。それを言ってしまえば彼女ら以外の暗部組織も同じようなものなのだろうが。
 故に、というべきか。彼女らは割と頻繁に呼び出されては、いいように使われている、というのが現状だ。
 無論のことながら一つの仕事ごとに報酬もでるので、リスクとリターンはそれなりに釣り合っているわけなのだが。

フレンダ「ふむ……」

 フレンダはファンシーなぬいぐるみ類を前に、頭を捻っていた。
 彼女の資本は風紀委員や暗部で培ったその体術と、なんでも出すことの出来るその能力。そして拠点防衛などにおけるトラップ類の設置にある。
 相手の戦力を見誤ったり、逆に相手にトラップを利用されることを考えない致命的なうっかりも多々あるのだが、それに目を瞑れば比較的優秀な部類に入るに違いない。
 その彼女のトラップとは、大体の場合において爆弾、である。
 設置し、タイミングよく爆発させるだけで大火力が保証できる。非常に優れた武器である、とは彼女自身の弁。
 だが、生身のまま設置するわけにもいかない。そこで使用するのがカモフラージュの為の人形、ぬいぐるみなのだ。
 普通の人形から始まり、犬、猫は言わずもがな、多種多様の動物系ぬいぐるみを使用する。
 その為の物色、なのだが。

フレンダ「むぅ。結局、いいのを買おうとすると値が張るってわけよ」

 結局何も購入せずに店を出る。
 安価なものを購入すればいい、という人もいるだろうがフレンダにもフレンダなりのこだわりがある。
 だがこだわりが過ぎるとやはりどうしても値が張ってしまうのだ。

678: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/04/22(日) 02:06:42.13 ID:alYlxhyXo
 爆弾の方は経費で落とせるが、カモフラージュ類は落とせない。
 設置した場所がバレることを前提に仕掛けることがそもそもおかしいのだから、言わせれば『バレないようにしかければいい』なのだ。
 よって人形やぬいぐるみは実費でおとすしか無い。
 が、彼女も年頃の女の子である。妹であるフレメアにも比較的自由にさせてあげたいし、罠に必要以上にお金を割くわけにはいかない。

フレンダ「と、なると……やっぱりアソコ、ってことになるのかな」

 次なる目的地へ足を向ける。
 一応、彼女の見目は平均よりは遥かに上である。
 見目麗しい、とまでは到達せずとも可愛いなあの子、と人の目を軽く引くレベルの容姿だ。
 それはつまり――――

「ねーちょっと、きみ君。ここでよく見るけど、何? ぬいぐるみとか好きなの?」

「ちょっと俺らとお茶とか付き合ってくれたら、買ってあげるけど、どうよ?」

 こういった輩の視線も引くわけで。
 はぁ、とフレンダは心中で溜息を吐く。
 この程度のナンパ行為は、学生の多い学園都市では頻繁に起きていることだ。暗部だから目くじらを立てて、『目立ってはいけない』というルールに反するわけではない。
 しかしながら、だ。

「あれ、聞こえてない? もしかして日本語わかんない? ……こういう時ってなんて言うんだ?」

「『How much』でいいんじゃね?」

「ばっか、お前それ下心バレバレじゃねぇか」

 下卑た笑い声が耳をつんざく。
 フレンダはあからさまに不愉快そうな表情を見せる。
 気に入らない、どころの話じゃない。耳元をうろつき回る蝿よりもうっとおしい。

679: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/04/22(日) 02:33:58.74 ID:alYlxhyXo
 自分にはこのうっとおしい人間をどうこうする力がある。
 が、先程取り立てて暗部のルールに違反しているというわけではないと言ったが、必要以上に目立つのはご法度だ。
 いつ、どこで、誰が見ているのかわかったものではないのだから。
 面倒だな、と思いつつどうやって煙に巻くか思考を巡らせた、まさにその時。
 正しく先ほどの『どこで誰が見ているかわからない』という言葉をを具現化したように、それはやってきた。

上条「あっ、こんな所にいたのかー! いやーごめんごめん遅くなっちまったなー」

 わざとらしいにも程がある、彼のその演技。
 もっとうまいやりようがあるだろうに、と彼を知る少女は頭を抱える。
 その言葉が示す通り、『あ? 何、お前?』とでも言いたげな視線を向ける男たち。
 もし彼の入り方がもっと自然だったなら、ナンパ側もこれほどに喧嘩腰にはならないだろうに。
 『いつも』はこの後に諍いとなるのだろう、少し顔が引きつって逃げ腰の上条に、男達は標的を移す――

フレンダ「もーおっそーいっ! いい加減来ないと思ってたんだよぉ?」

 ――瞬間に、上条の腕を引っ張って彼らの向けた照準を掻っ攫う。
 とても彼女らしからぬ口調で、上条すら目を丸くした。

フレンダ「そーいうわけで、ゴメンネ? わたしぃ、この人と先約があるから」

 そう言って営業スマイル。実際には仕事に笑顔など使わないわけだが些細な問題だ。
 遺恨を残さないための笑みには違いないのだから。

フレンダ「それじゃ、いこっかぁ」

上条「お……おう。ごめんな待たせちまって」

 なんとか思考が追いついてきたのか、上条も話をあわせて、彼らに背を向ける。
 フレンダのあまりに外見とかけ離れた口調と、その自然体っぷりに残された男達はただ呆然と二人を見送るのみであった。

681: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/04/22(日) 03:05:18.80 ID:alYlxhyXo
フレンダ「はい、これ。 シソサイダーとブルーコーラ、どっちがいい?」

上条「……んじゃ、ブルーコーラで」

 上条はフレンダの両手に持たれたアルミ缶のうち片方を受け取り、その蓋を開く。
 ぷしゅっ、と小気味良い音が聴覚を刺激する。
 フレンダも同様に行いつつ、上条の隣へと腰を下ろした。
 そして同時に缶の中身を口に含み、飲み込み、『ふぅー』、と息を吐く。
 その一連の動作を終えてようやく、フレンダはしゅん、と反省しているようにみせつつ隣に座る少年へ礼を告げる。

フレンダ「……結局、さっきはありがとう、ってわけよ。すっごく助かった」

上条「いやいや、いいっていいって! 寧ろフレンダがフォローに入ってくれなかったら上条さんはきっと突っかかられてたわけですし!」

フレンダ「そう? それじゃお相子ってコトで」

 返す言葉をきき、続いて少女は悪戯っぽく微笑む。
 そんな一瞬で表情をころころと変えるフレンダに上条は僅かに『嵌められた?』と思いつつも、世間話の話題を持ってくる。
 とはいっても、それはついさっきの出来事から、なわけだが。

上条「それにしてもさっきの変わり身、すごかったな。もしかして学校とかでもああいうキャラだったりするのか?」

フレンダ「違う違う。学校だったら寧ろ何も喋らないって」

上条「あれ、そうなのか? フレンダだったら結構友達とかいると思ったんだけど」

フレンダ「人にはそれぞれ事情がある……ってね」

 少女は誤魔化すようにその話題を打ち切る。
 四月にとある学校をやめて以来、フレンダは学校に通っていない。制服は既存のものの借り物で、先程のは通っていた頃の様子を話しただけだ。
 これ以上踏み込まれては辻褄があわなさそうで困る。故に打ち切ったのだ。

682: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/04/22(日) 03:32:38.55 ID:alYlxhyXo
フレンダ「私の学校のことより、私的に、だけど。結局前のあの子の方が気になってる……ってわけよ」

上条「前の、って……ああ、インデックスのことか?」

フレンダ「そうそう。あの子と当麻がどういう関係か興味津々ってわけよ」

 気が気でない、ともいえる。
 最終的にはどちらの答えでもとるべき選択に代わりはないのだが不意をうたれるよりかは覚悟をして自ら問いただしたほうがダメージも少ないというものだ。
 そして上条はフレンダの質問に考えるような仕草を見せた。

上条「どういうって……前にも言った通り、ただの居候だよ。インデックスのせいで今日も家計は切り切り詰め詰めですよ」

 とほほ、と上条の眼の端に涙がこぼれ出る。
 その言葉に嘘偽りはないようだった。そのことに、少しばかりフレンダは安堵する。
 ――結果的にとる選択肢はやはり、変わらないのだが。

フレンダ「そうなんだ……」

上条「……? どうか、したのか?」

 それでもやはり、不満は表に出ていたのか上条はフレンダの顔を覗き込みながら問いかけてくる。
 不意をつかれて慌て、フレンダの顔は一瞬で赤くなった。

フレンダ「っ! べっ、別になんでもないってわけよ! それより、これから当麻は暇!? 暇なら少し付き合って欲しいんだけど!!?」

 動揺して早口に一息に、一気に口走る。
 その勢いに多少なりとも押されて狼狽しつつ、上条は暇だ、と返事を返す。
 それを聞いてからフレンダは、動揺も顔の赤さも、何もかもを誤魔化すように素早く立ち上がって中身を飲み干した缶を清掃ロボットに投げつける。

フレンダ「そっ! じゃあ結局、ささっと行くってわけよ!」

 そう言って歩き出すフレンダに倣い、慌てて上条も自分より幾分小さい彼女の後を追う。

上条「ちょっ、待てよフレンダ! 行くって、つまりどこに行くんだ?」

フレンダ「そんなの、決まってるって」

 口端をほんの僅かに吊り上げながら、ピッ、と人差し指で上条を指さし。
 そして当然の様にその施設の名前を告げるのだった。

フレンダ「ゲームセンター、ってわけよ」

690: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/04/30(月) 00:34:16.52 ID:uXKy5OPwo
 フレンダの言うゲームセンターというのは学園都市側のものではなく、外からのものだ。
 基本的に学園都市製のアーケードゲームというのはその高度な技術を生かしたシミュレーション型が大多数。
 彼女はそんなものに全く興味などない。
 いやあるといえばあるのだが、それは偶然近くを通りかかった時に『試しにやってみようかな』という程度のものであり、自分からしにいこうとは思わないのだ。
 そんなわけで彼らは今、複数の音が交じり合って騒がしい外のゲームセンターへと来ていたのだった。

フレンダ「よし……よし……よし……よし…………っ!」

 フレンダの声に力が入ると同時、ピロピロリロー、と景品を手に入れたことを労う音が鳴り響く。
 機嫌がよさそうに、少女はしゃがんで、取り出し口の奥に転がっている景品に手を伸ばした。
 その光景を後ろで見ていた上条は感嘆の声を上げる。

上条「うまいな、フレンダ……これでもう三つ目だぞ?」

 上条の言葉を聞きつつ奥から取り出して少女が抱きしめるそれは、うさぎのぬいぐるみ。
 存外、というべきかなんというべきか。彼女とぬいぐるみの相性は抜群だった。

フレンダ「そりゃ、慣れてるからね。結局週に一回は適当に狩りに来る、ってわけよ」

上条「狩りって……景品、なくなっちゃうんじゃ……」

フレンダ「そこはちゃんと常識の範囲内で納めてるってわけよ」

 フレンダの言うとおり、いつも彼女は一クレーン内では二つから三つまでで収めている。
 曰く『独り占めはイケナイ』とのことだ。
 しかしそうしたなら一つの店では足りないため、複数の店を回るはめになるわけだが。
 彼女にとってはいくつも店を回って行う収拾すらゲームの一部なのだ。

691: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/04/30(月) 00:59:20.01 ID:uXKy5OPwo
上条「けど、よくできてるよなぁ……」

 上条はフレンダのぬいぐるみと、クレーン内にあるそれらを一瞥して呟く。
 そう、よくできている。

フレンダ「だから、よく来るってわけよ。店で買ったら大出費になっちゃうからね」

 ゲームセンターの景品というのは、得てして出来がいい物が多い。
 アニメキャラクター等のフィギュアも然り、ストラップ類も然り。そして彼女の獲ったぬいぐるみも然り。
 あまりに出来が良すぎるものは直ぐに品切れになるものすらもあるぐらいだ。
 そうでなくとも、先程も言ったようにゲームセンターの景品は往々にして出来がいい。フレンダのお眼鏡に叶うほどに。

フレンダ「……っていっても、始めたばかりの頃は店のほうが安いんじゃないかってぐらいにお金つかってたけど」

上条「……ちなみに、ぬいぐるみ一ついくらぐらいするので?」

フレンダ「店で買ったら小さいのなら五百円から千円、こういう大きいのなら三千、四千もくだらないし」

 その言葉を聞いて、上条は改めてフレンダの手にあるぬいぐるみを見る。
 フレンダはいとも容易くその三千、四千円もするぬいぐるみをワンコイン足らずでとってしまった。
 こういう人が定期的に来て、店は採算とれているのだろうか……とあらぬ心配をする。

フレンダ「さーてと! じゃあ次はあれにするってわけよ!」

 フレンダは適当に道具箱の中にぬいぐるみを消すと、次なる目標物へと突撃する。
 上条もそれを追いつつ、なけなしの千円札を両替機へ入れて百円玉へと変える。
 自分自身はそれほど興味をもっているわけではないが、あまりにもああやってぽんぽんと獲っている人を見ると自分も出来るんじゃないかと思ってしまうのだ。
 仮にとれたとして、その景品のその後については、まぁとった後に考えればいいだろう。
 そう思いつつ、上条はフレンダの目標物に隣接したクレーンに百円玉を投入する。

692: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/04/30(月) 01:18:08.19 ID:uXKy5OPwo
フレンダ「……当麻、お金大丈夫なの? 入院とか多いみたいだし居候だっているし、余裕ないんじゃ?」

上条「まぁ、切り詰めれば千円ぐらいなんとかなるからな。それに、一緒に遊びに来たのに一人だけ見てるんじゃなんか違うし」

 一人は遊び、もう一人はただ眺めるだけ。その理由は金銭問題。
 上条だからよかったものの、普通の人ならばそれはとてつもなく距離を感じるに違いない。
 それに気付いてフレンダは少しばかり気まずそな顔をした。

フレンダ「あーっと……結局、その……ごめん、ってわけよ」

上条「フレンダが謝ることなんてないって、特に気にしてないからな」

 彼がそういうならそうなのだろうが、はいそうですか、とフレンダは肯けない。
 彼女にとって上条とフレメア以外の人間は殆どどうでもいいのだが、代わりにその二人だけは常に気にかけて行動すべきだと思っている。
 だから偶然上条と会ってテンションが上がってしまい、不覚にも上条のことを気にかけられなかったことは反省すべきことなのだ。
 フレンダの落ち込みをみて、そんな事情を僅かでも察したのか上条はそれじゃあ、と紡ぐ。

上条「それじゃあ、このぬいぐるみ取るの手伝ってくれよ。やるのは俺だけど、ナビゲートしてくれるだけで随分と変わると思うからさ」

 そんなことじゃ――と言いかけて、止める。
 彼が言うということは、本当にそれでいい、ということなのだ。別に気を使っているわけでもなく、それがいい、ということなのだ。
 ならば、自分が口出しすることではなく。
 すべき事は彼の提示した取引に全力で応えることである。

フレンダ「わかった、それでいいけど――――それだけじゃ嫌、ってわけよ」

上条「……え?」

フレンダ「結局、その千円で当麻をクレーンゲームのプロにしてやるってわけよ! その為には一回分も無駄にしない、ってわけよ!」

 上条は、思う。
 これは、藪をつついて蛇を出したな、と。
 そしてぼやくのだ。
 『不幸だ――――』、と。

693: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/04/30(月) 01:38:52.60 ID:uXKy5OPwo
 ■   □   ■


 フレンダの熱の入った講義を受けつつ千円をたっぷり二時間で消費して。
 その結果上条の手にあるのはぬいぐるみ一つ。
 それでも十二分な戦利品だ。

 フレンダは楽しそうにスキップしながら上条の数歩先を行く。
 時刻はもう六時を回っている。そろそろインデックスもお腹をすかせる頃に違いない。
 夕焼けに光るビル、風力発電のプロペラ、道路、飛行船などをぐるりと見渡して、キラキラと煌く眼の前の金髪に視線を移す。

上条「フレンダ」

フレンダ「ん? ――――っとと!?」

 振り返ると同時に、ふわり、とそれを投げつけられた。
 それはつい先程まで居たゲームセンターのロゴが入った袋であり、中身は上条がフレンダの力を借りて手にいれたとったぬいぐるみである。
 瞬間呆然とし、上条を見た。
 尋ねられる質問がわかっているのか、彼は先回りしてフレンダの問いに応える。

上条「よかったらそれ、貰ってくれ。 上条さんには似合わないし、フレンダのお陰でとれたようなものだし」

 それに、と付け足す。

上条「それだってきっと、ぬいぐるみが好きな奴に持っててもらったほうが嬉しいだろうからな」

フレンダ「っ…………!」

 去来する。
 いつかの会話が、いつかの光景が、いつかの出来事が。
 まるで昨日あったことのように、鮮明に脳裏へとリフレインした。

694: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/04/30(月) 01:50:41.66 ID:uXKy5OPwo
上条「んじゃあな、フレンダ。何かあったら、遠慮無く言ってくれよ」

 上条はフレンダに背を向け、駆け足で立ち去る。

フレンダ「――――待って」

 が、それはやはり少女によって止められた。
 その言葉の真剣さを汲み取ったのか、上条は駈け出した数歩で立ち止まって少女の方へと振り返る。

フレンダ「一つだけ、聞かせて欲しい……ってわけよ」

上条「……なんだ? 俺に答えられることなら、なんでも答えるぞ」

 フレンダは紡ぐ。
 『さっきのは』、と。
 『何かあったら遠慮なく言ってくれ、というのは』、と。

フレンダ「幼馴染、だから?」

 一陣の風が吹き抜ける。
 それはきっと一瞬、僅か一拍にも満たない時間。
 その後――つまり即答で、上条は何の気なしに答える。

上条「別に幼馴染だからってだけじゃねーよ」

 フレンダは思わず、それを口走りそうになり。
 唇を噛み締めてそれを無理矢理に押しこみ、飲み込み。
 そして、満面の作り笑いを浮かべて別れを告げる。

フレンダ「そっか、わかった! それじゃあね、当麻! また今度、ってわけよ!」

上条「? おう、また今度な」

 少しばかりの違和感に首を僅かにかしげ、しかしそれを掴み取ることなく、上条は今度こそ背を向けて去ってゆく。
 いつかのように、一人の少女と、彼が少女へと渡したぬいぐるみを置いて。

695: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/04/30(月) 02:14:32.07 ID:uXKy5OPwo
フレンダ「……っ…………!」

 上条が去り、フレンダは今にも泣きそうな顔で受け取った袋を抱きしめる。
 『幼馴染だからってだけじゃねーよ』。上条の声が、そのまま脳裏に蘇る。
 それは、今さっき上条から受け取った言葉ではなく、一年前に上条から送られた言葉。
 奇しくも同じくゲームセンターの帰り、上条のとったぬいぐるみを貰った後。つまりほぼ同じ状況にて発せられた言葉。

フレンダ「なんで……どうして、思い出させるの…………」

 上条当麻は、上条当麻だ。
 それはわかっているけれど、記憶の失った前と後では決定的に違うことがある。
 即ち、彼の隣に居る人物だ。
 前は自分で、今はインデックスと名乗る少女。
 それを知った後、自分は一度は諦めざるを得なかったのだから、数週間前に、それでいい、これでいいと思い込んだ時もあった。


 それなのに。
 同じ反応をされると、諦めきれないじゃないか。
 思い出してしまったら、諦めきれないじゃないか。
 以前と何も変わらないと、諦めきれないじゃないか――――


 少年の言葉の真意が。幼馴染だからという、それ以外の理由が違うものになっているからこそ。
 少女はこの感情を抱かずにはいられない。
 一度は『これでいい』と判断したこの関係を、また元に戻したいと思わずには居られない――――



 ふと思って、フレンダは自分の受け取った袋の中身を見る。
 そして思わず吹き出した。

フレンダ「……何も、こんなところまであの時と同じじゃなくていいのに」

 袋の中ではカエルのぬいぐるみ、ゲコ太がいつかと同じように笑っていた。

791: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/22(土) 20:14:18.64 ID:TuNwTlKvo
 ■   □   ■


 上条当麻の大覇星祭六日目はやはりいつもの口癖から始まった。
 昼にはインデックスに噛まれる、御坂美琴に絡まれる、吹寄制理にどつかれるの三大コンボをも達成した。

 もう何があっても驚かない。
 そう決意した上条当麻であったが、昼までさんざん不幸な目にあったせいか、不思議と夕方からはパッタリ、なのであった。
 インデックスは小萌先生と姫神秋沙が引き取ってくれた(こう言っているのを目撃されたらまた噛まれそうだが)ので、上条は自由を謳歌していた。
 こんな時に限って、やはり御坂が襲来してくるのだがそんなこともなく。(上条は知らずだが、美琴は白井に攫われてしまった)
 偶然鉢合わせた両親に『たまには家族で』と誘われ、ナイトパレードの目玉であるキャンプファイヤーを遠巻きに眺めることになったのだった。 
 疲れも限界の学生たち、しかし騒ぎ立てて火の周りで踊るのを見て、刀夜は感嘆の声を上げた。

刀夜「いやぁ昨年も見たが、このキャンプファイヤーは本当に素晴らしいな。父さん、母さんと踊った時のことを思い出すよ」

詩菜「あらあら、刀夜さんったら。あの時はいろんな場所から引っ張りだこで、母さんと踊った時間は数分もなかった気がするのだけれど気のせいかしら?」

 地雷踏んだ!?と刀夜に戦慄が走る。
 しかし例え五分に満たない時間だとしても、踊ったことは覚えていたのだからそこは評価するべきではないだろうか、と上条は両親のやり取りを他人ごとのように思う。
 そんな我関せずを示している息子にそうはさせまいと巻き込むのがこの親である。

刀夜「と、時に当麻。お前は踊る相手はいないのか?」

上条「え?」

 不意に話を振られ、呆けた声を出す。
 親として、或いは女としてはやはり色恋沙汰の話は気になるのだろうか、詩奈も刀夜の言葉に続ける。

詩菜「そうね。当麻さんも『どこかの誰かさん』とよく似ているのだし、そういう人の一人や二人いてもおかしくないと思うのだけれど」

上条「んなこといわれてもなぁ……」

 話題を逸らしたはずなのに矛先を向けられて慄く刀夜はさておき。
 上条は両親の言葉に首を傾げた。

792: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/22(土) 20:26:39.87 ID:TuNwTlKvo
上条「特にこれといってはいないな……そもそも出会いが少ないし」

詩菜「あらあら、当麻さんったら。 そういう言い訳も『どこかの誰かさん』にそっくり」

刀夜「そ、そうだ当麻! あの海にも連れてきていた……インデックス?さんだとかいう娘だとか、御坂さんだとかはどうなんだ!? 仲がよさそうだったじゃないか!」

 詩菜の言葉を途切らせ、無理矢理割り込んでくる刀夜に少しばかり戦きつつ。
 上条は今挙げられた二人を脳裏に思い浮かべ、首を振った。

上条「……あの二人はなんか違う気がする」

 インデックスは花より団子な性格だし、御坂に至っては顔を合わせれば喧嘩を売られるのだからないだろう。
 後者に関しての考察は間違っているが、そんなことを知る由もない。

 さて、じゃあそれ以外ならどうだろうか?
 それ以外、として目を向けてみてもそんなに対象となる相手はいないだろう。
 姫神はただの仲の良いクラスメートだし、吹寄はどちらかといえば嫌われている節もある。
 小萌先生は先生だからそういう対象にはなり得ないし、御坂妹は踊ってはくれそうだが変なボケをぶちかましそうだ。
 学園都市の外に目を向けてみても、神裂火織、シェリー=クロムウェル、オルソラ・アクィナス程度しか知り合いは居なく、何れも踊るのは違うと思うのだ。
 ……その何れにしても、大体の人間は彼に対して憎からぬ感情を持ってはいるのだが。この朴念仁はそのことに全く気が付かない。

上条「……うん、やっぱりいないな。というかそうして考えてみると、俺ってつくづく出会いがないんだなぁ……」

 不幸だ、と小さく呟く。
 だが上条の言葉を聞いて、詩菜は更にその怒り感情オーラを広げた。
 刀夜にはその広がる理由に心当たりがあったのかもしれない、慌てて次の一手を打とうと考えを巡らせ、思い当たったそれを言う。

刀夜「そ、そうだ当麻! あの子はどうしたんだ、仲がよかったじゃないか!」

上条「あ、あの子?」

 聞き返した言葉に刀夜は頷く。
 どうやらこのまま逃げ切れそうだ、と安堵の表情を浮かべているのを見逃さない。

刀夜「ああ、去年は一緒にナイトパレードを回っていたじゃないか。そういえば当麻と同じ学校だったはずなのに見かけなかったが、転校でもしたのか?」

 言われ、上条の表情は瞬間的に固まる。
 去年のことは覚えていない。記憶喪失は周りの人は勿論、親にすら知られるわけにはいかない。
 それが上条当麻の代わりを務める自分の責務なのだから。
 故にどうやって避けようかと考えを巡らせつつ、場を繋ぐために口からはぐらかすための言葉を吐き出す。

793: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/22(土) 20:28:24.34 ID:TuNwTlKvo
上条「うーん……転校した人は多分いなかったと思うぞ? 見落としてただけじゃないか?」

刀夜「そんなはずは無いと思うんだがなぁ……なぁ、母さん」

詩菜「そうね、個人競技の時に当麻さんを見逃さないようじっくりと凝視していたけれど、いなかったと思うわよ?」

 いやいやいや、と上条はその両親の記憶を否定するように手をブンブンと振った。

上条「それでも遠目からみたら似たり寄ったりだろ? 自分の子供とか親しい知り合いでもない限り、探すのは難しいって――――」

 その否定は。
 実の父親と母親による言葉で完全に論破される。

刀夜「――――いや、だから。 外見だって金髪で特徴的だし、それなりに親しいじゃないか」

詩菜「あらあら、当麻さんったら。もしかしてあんな慕ってくれてた幼馴染の存在も忘れてしまったのかしら」

 そして再び。
 上条は言葉を亡くし、絶句する。

 金髪で特徴的。
 それなりに親しい、幼馴染。
 割と最近に再会した、とある少女にそっくりじゃないか?

 ごくり、と唾を飲み込んだ。
 だって、これは――もしかしたら、取り返しのつかないことになっているのかもしれないのだから。
 その『もしも』を想像してしまうと、上条は戦慄せずには居られない。
 喉がカラカラに乾く。心臓がわけもなく、震え、激しく音を打つ。
 その今にも走り出したい衝動を抑えるために、もう一度だけ唾を飲み込み。
 そして尋ねた。

上条「もしかして、それってフレンダのことか?」

 その答えに対する答えは、やはり頷きとともにあり。

刀夜「ああ、そうだが。当麻、お前去年の時、彼女以外にナイトパレードを一緒に周る女性がいたのか?」

 覚悟もしていたその回答を聞いて、上条は知らず、身体を打ち震え上がらせた。

714: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/05/19(土) 01:28:50.33 ID:ZNOtSOmRo
 ■   □   ■


 繰り返すが、学園都市には幾つもの学区があり、そして学区ごとにその役目は分かれている。
 例えば第七学区は学生寮や学校の多いまさに学園都市を代表する学区であり、第二十三学区は航空や宇宙開発研究を行う為だけの学区である。
 そしてここ、第三学区は主に『外部からの客を招く学区』、つまるところ金持ちが彷徨くような学区なのだ。

 その中にある、とあるプライベートプール。
 プライベートプールというからに大きさを察することは容易だが、そこらの競技用プールに引けを取らぬほどの広さを誇っている。
 そしてそのプールに浮かぶ人の形をしたモノが一つ、二つ。
 ビート板を自分の座る椅子に立てかけて飲み物を飲みつつ、絹旗は呟く。

絹旗「……なんか、こうして見ていると超死体みたいですね」

 片や滝壺理后。
 彼女は泳ぐのが面倒くさいのか、否、彼女曰く『楽しい』からプールにぷかぷかと浮いて漂う好意をしているらしい。
 そして片やフレンダ=セイヴェルン。
 彼女の方は別に、滝壺を見ていて感化された、などそういうことはなく。

絹旗「滝壺さん。フレンダ、生きてますか?」

 その言葉に半分以上沈んでいた滝壺は鼻から上を水面から出して、水面に広がる金髪を確認する。
 音もなく、波も僅かしか起こさず、ススス、と近づくその姿はまるで妖怪のようにも見えたが、絹旗はあえて何も言わず。
 そしてつい先程自分もしていた、背中だけを水面上に出している状態にフレンダに呼びかける。

滝壺「フレンダ、大丈夫? フレンダ」

 ぷかり、ぷかり。
 幾ら肩を揺すって呼びかけても波紋が広がるのみであり、同年代の少女は一向に反応を見せない。

715: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/05/19(土) 01:37:54.70 ID:ZNOtSOmRo
 少女はどうしたものか、と首を軽く傾げ。
 意を決し、掛け声とともに僅かしか持っていない力を込める。

滝壺「えいっ」

 気の抜けそうなその掛け声は効果があったのか否か、浮かんでいた少女の身体をひっくり返した。
 そして今度は顔を覗き込みながら(その顔をぺちぺちと叩きながら)、再び名前を呼ぶ。

滝壺「フレンダ。 フレンダ?」

 その一部始終をプールサイドから見ていた絹旗。
 ズズズズ、とストローから発せられる音が出てきた時を頃合いに、再度プールへと言葉を投げかける。

絹旗「どうですか、超生きてますか?」

 たっぷり数十秒。
 滝壺は考えを一頻り巡らせた後に、いつもと変わらぬトーンで答える。

滝壺「生きてるかどうかはわからないけど、息をしてないよ?」

 次の瞬間、てんやわんやの蘇生作業が幕を上げたのだった。

716: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/05/19(土) 01:58:08.23 ID:ZNOtSOmRo
 その蘇生も終了し、フレンダも息を吹き返した後。
 虚ろ目で息絶え絶えになっているフレンダは口から水を吐きながら言う。

フレンダ「あー、けっゲホッゲホッ!、けっきょゴホッ! ……結局、死ぬかと、ゴホッ!、思ったわけよ……」

麦野「殆どおまえの自業自得だろーが」

 ため息混じりに麦野は吐き捨てる。
 そもそもフレンダがプールに浮いていた理由は大覇星祭にある。
 いや厳密に言えば上層部の思いつきなのだが、つまるところ大覇星祭の選手宣誓にレベル5を起用したいという交渉がきたのだ。
 無論の事ながら麦野はそれを一蹴、フレンダが調子に乗って代わりに立候補したところをとっちめられ、プールに投げ捨てられた、という話だ。
 ようやく行きが整ったのか、広いプールを眺めながら背後の椅子に腰掛ける麦野と絹旗へ投げかける。

フレンダ「でもさ、結局どうして、麦野が選手宣誓に誘われたんだろうね」

麦野「…………あん?」

絹旗「? 単純にレベル5だからーって『電話の人』が超言ってましたよね?」

 それはわかってるんだけどさ、と前置きをして。
 フレンダは軽く笑いながら続ける。

フレンダ「だって大覇星祭って結局、体育祭なわけでしょ? 麦野ってどうみても学生じゃなくておば」

 刹那。
 きっとそれなりに高級であろう、特製ジュースの入っていたコップがフレンダの米噛みに直撃し、彼女はプールへと沈む。
 滝壺は相も変わらずプールで浮いていたため、ただ一人その瞬間を眺めていた絹旗は悟った。
 『麦野に年齢の話は禁句』なのだと。
 その話題を振ったなら、命を失う覚悟ぐらいはしなくてはならないのだと。

717: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/05/19(土) 02:17:35.54 ID:ZNOtSOmRo
 ■   □   ■


麦野「まぁつまり、あんたらも大覇星祭は参加しちゃだめだからってことで」

 散々泳ぎ、遊んだ後に麦野はそう締めくくる。
 それほど異論があるわけではないが、とりあえず手を上げて質問の意を示すのは絹旗。

絹旗「別に参加するつもりは超ないですけど、別段目立たなければ参加してもいいのでは?」

麦野「ダメダメ。目立たなかったとしても、火のないところに煙は立たない」

 火のあるところには煙が立つ。
 逆に言えば、どれだけ目立たない火でも煙はたってしまうのだ。
 例えば。そう、例えば。

麦野「フレンダ、あんた去年のこと覚えてるわよね?」

フレンダ「ぎく」

 黙っていればばれない、など。そんなことがあるはずもなく。
 昨年の大覇星祭であった、舞台裏騒ぎは迅速にアイテムの面々にも伝えられたのだった。

麦野「特にあんたは今年度に入るまで学校にいたんだし、顔を知ってる奴も多少いるはずだから。一週間大人しくしていなさいな」

絹旗「そうですね、どちらにしても久々の長期休暇ですし羽を超ゆっくりと伸ばすことにしましょうか。私は溜まっている映画でも見にいきましょうかね。滝壺さんはどうするんですか?」

滝壺「……、去年と同じように、どこかの観客席でAIM拡散力場浴でもしてるよ」

フレンダ「滝壺って、本当にそれ好きだよね?」

 女三人揃えば姦しい。
 一人はどちらかといえば無口な方だが、それでも気に当てられたのか口数も多くなっていた。
 それを麦野はぱんぱん、と手を叩きながら戒める。

麦野「はいはい、そんなわけで暫く休暇ね。でも急な仕事が入る可能性もあるから、いつでも連絡を受け取れるようにしておくこと」

麦野「じゃ、解散」

 そういって、今宵の『アイテム』の集会は終わりを迎えた。

718: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/05/19(土) 02:38:44.36 ID:ZNOtSOmRo
 そして迎える当日の朝。
 フレンダは麦野の言っていたことを脳内で反芻しつつ、準備を進める。

フレンダ「……とはいっても、やっぱり祭りなんだから遊び盛りなわけで」

 昨年は共に出ていたからよく確認できなかったけれど、今年は外から上条の勇姿を見ることが出来るのだ。
 どうせ全体的には負けが多いに違いはないのだけれど、大抵の人は気がある人のどんな姿でも見たいと思うものだ。
 故に彼女はやはり、麦野の言葉も無視して準備を進める。
 懸念は元知り合いと鉢合わせすることだったが、まぁ問題はあるまい。会ったとしても、ただ学校をやめた理由を作り上げればいいだけなのだから。

フレンダ「……よしっ、と」

 キュッ、と胸のリボンのバランスを取り、鏡の前でクルリと一回転する。
 スカートの端がフワフワと揺れ、パンストに覆われた太ももがちらりと覗ける。
 それをひと通り確認して、鏡向こうの自分へと笑いかけた後に部屋から出て、未だ部屋で着替えているフレメアに声を書ける。

フレンダ「フレメア、そろそろ行かないと遅刻するってわけよ」

フレメア「にゃあ! まって、まって!」

 慌てて声を上げるフレメアを玄関先で待つ。数分も立たないうちに、同じ髪の色をした妹が走ってきた。
 そんな彼女の、少しばかり乱れている服装を整えつつ埃を払う。
 フレンダはフレメアに笑いかけて、そして足を部屋の外へと踏み出す。

 こうして、彼女らの大覇星祭は幕をあけたのだった。

722: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/05/27(日) 00:58:49.47 ID:smLjIvGZo
 ■   □   ■


フレンダ(さて、と。今日はどうするかなー?)

 大覇星祭三日目、フレンダはパンフレットを眺めつつ考える。
 別にフレメアの競技をずっと眺めていてもいいのだが、フレメアも年頃の乙女だ。例え慕っている姉だとしても付きまとわれれるのは嫌だろう。
 精々午前午後の競技に一度ずつと、昼食を共にするだけで十二分だ。

フレンダ「でももうやることも殆どない、ってわけよ」

 食べたいものはあらかた食べ尽くした。
 外来者向けのおみやげ品を物色してこれはない、と思うものに対して大笑いしたりもした。

フレンダ「そんでもって、好カードは特にない……ん?」

 上から下へ、パンフレットを流し読み。
 そこで見知った高校名が顔を覗かせる。
 見知ったというより、去年まで通っていたのだから知っているのは当然なのだが。
 まぁ、それだけならば問題はないのだ。何故なら初日の暇な時に、その会場から少し離れた処で見たのだから。
 ……何故か、殆どの競技にあの少年の姿はなかったのだが。

 それはそれとして、本題に戻ろう。
 彼女が目を止めたのはその対戦校だ。
 常盤台中学。学園都市に無数にある学校の中、五本指に入ると言われる女子中学校である。
 中学生だからとて侮る事なかれ。レベル5が二人、レベル4が四十七人、その他はレベル3で構成されたこの学校は対戦校をも気付かえる余裕を持つ。
 そしてそのレベル5の一人、御坂美琴は上条当麻に救われた経歴を持つ。つまるところ、フラグが立っているのだ。

フレンダ「……ふむ」

 最強と謳われる第一位を倒した無能力者と、第三位を含めた能力者軍団の対決。
 正しく、見ものである。

723: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/05/27(日) 01:24:38.64 ID:smLjIvGZo
フレンダ「二日目はいたかいないか見てないけど、そう何度も面倒に巻き込まれたりしないってわけ……よね?」

 あの少年の顔を思い浮かべる。
 息を吸うように不幸な目に遭う彼ならば、ありえないことはない。
 『…………』と、僅かな沈黙を置いて。

フレンダ「ま、まぁいなかったらいなかったで、結局適当に見て帰ればいいってわけよ!」

 パタン!と勢い良くパンフレットを畳んで、そう締めくくる。
 一昨日、昨日に続いて三日連続、同じ屋台でぶどう飴を購入(割と目立つ容姿だからか、顔見知りになったためぶどう一粒分おまけしてくれた)し、会場へと足を向ける。
 パキン、と飴を噛みちぎって口の中で味わいつつ、ふと辺りを見渡す。

フレンダ(それにしても、やっぱり人が多いってわけよ)

 恐らく、学園都市で最も人が集まるであろう体育祭。訪れる人数は一千万を超す。
 赤い髪の神父や、無駄に露出の多い、本来の年より少しばかり老けて見える女性など多様な人間がいる。

フレンダ(昨年も思ったけど)

 これだけいるなら。
 そう、これだけいるなら。
 もしかしたら、自分の父や母だっていてもおかしくはないんじゃないか。
 祭りの雰囲気に当てられ、そんな錯覚に囚われてしまう。

フレンダ(――そんなこと、あるわけない、ってわけよ)

 それに、今更目の前に現れたところでもはや恨み言しかない。
 そうだというのに、思ってしまうのは何故だろう。
 ちゃんとした身分を保証してくれる親が戻って来て、置き去りから、闇から解放されるなんていう幻想を抱いてしまうのは。

724: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/05/27(日) 01:52:35.44 ID:smLjIvGZo
 そんな妄想がもやもやと付き纏い、完全に振り切れたのは会場を目前にしてだった。
 混み混みになっている一般来場客用応援席を避け、真っ先に学生用応援席へと入る。
 テントのある、満員電車のような込み具合の一般来場客用とは違い、学生用のものは質素に、ブルーシートを引いただけのものだ。
 無論そこにいる人間は疎らで、空席が目立つ、というレベルではない。
 日向が大半、というのも理由の一つなのだろうが、空席の目立つもう一つの大きな理由は、応援に来る学生が競技に参加中だということにある。
 およそ半数もの学校が同時に競技に勤しんでいる中、他校の友達を応援に来るのは中々に難しいだろう。

 そんな中、フレンダがぱっと見て目についたのは、車椅子に乗っているツインテールの少女や、頭に花冠を乗せた少女。
 そして、木の下にある日陰でぼーっとしている、ピンク色のジャージを着たダウナー系無気力少女。

フレンダ「………………」

 思わず目をぱちくりさせて、目頭を軽く抑える。
 疲れているのかな、と思い、大きく深呼吸をした。
 一連の動作を三度繰り返し、もう一度学生用観客席を見渡した。

 車椅子に乗ったツインテールの少女。
 頭に花冠を載せている少女。
 そして。
 木の下にある日陰でぼーっとしている、ピンク色のジャージを着たダウナー系無気力少女。

フレンダ「……なんで滝壺がここにいるってわけよッ!!?」

 思わず大声を出してしまい、少ない視線を集めてしまう。
 ヤバッ、と思い口を噤む。間に合わないかと思われたが、運良く参加者の入場と重なって視線は自分から逸れる。
 『お姉さま――!』などという騒がしい歓声を背に、フレンダはそそくさと滝壺の方へと移動する。

滝壺「……フレンダ、どうしてここに?」

フレンダ「結局、それはこっちの台詞なんだけど」

 暑さの残る日差しの下に居たからか、それとも先程の失態の冷や汗か。
 どちらにしても気分の悪いべたついた汗をどこからともなく出したタオルで拭いつつ、フレンダはため息を吐く。

725: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/05/27(日) 02:34:54.36 ID:smLjIvGZo
滝壺「私は、ただぼーっとしてただけ」

フレンダ「うん、大体わかってたってわけよ」

 滝壺理后の趣味はAIM拡散力場浴である。
 それが一体どういうものなのかフレンダには分からないが、森林浴や日光浴のようなものだと認識している。
 そして大覇星祭の始まるつい数日前に、滝壺はそれをするのだと言っていたことを、質問を投げかけてから答えられるまでの僅かな間に思い出したのだ。

フレンダ「それにしても、すごい偶然だね。同じ場所に当たる確率って結構低いと思うってわけよ」

滝壺「そうだね。ところでフレンダはどうして?」

 遠くで、協議開始のアナウンスが鳴る。
 それと合わせて振り向きながら、フレンダは答える。

フレンダ「それは――――」

 いや、答えかけた。
 その次の瞬間。

 砂塵が舞う。
 電撃の槍が飛ぶ。
 炎が、風が、見えない力が、何もかもが一挙に交錯する。
 悲鳴、叫喚が錯綜し、怒声、喚声がそれを追う。
 この競技は一体なんの競技だっただろうか、それを忘れる程の凄惨な光景だった。

フレンダ「…………」

 それは一方的な殺戮だった。
 いや、実際に死んでいる人は一人たりともいないのだろうが、そう見えてしまう程の一方的な試合。
 あの能力軍の中に上条当麻はいるのだろうが、あれをたった一人で対処するのはいくらあの少年でも難しい。

 そして勝敗は数分も経たない内に決する。
 勝敗は、いうまでなく。

滝壺「……それで、フレンダはどうしてこの競技を見に来たの?」

 その問いに、フレンダは返答に困る。
 見ものだと思ったのだ。好カードだと思ったのだ。
 だがこの結果に収まってしまったのだ。
 軽く呆れながら、半ば投げやりに、最早答える気もなく、滝壺の言葉に返す。

フレンダ「あー、うん。なんか適当に見に来ただけだから」

 滝壺はそっか、とだけ返して。
 二人は並んで、競技終了の時間までそのワンサイドゲームを眺めていたのだった。

730: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/09(土) 01:19:45.09 ID:NI5onlcto
実行委員『――午後の部第一種目、第十二会場は常盤台中学の勝ちです』

 アナウンスが流れて歓声を上げるのは一部の親類。
 お嬢様学校と揶揄される常盤台中学は、あくまで優雅に。
 ……それでも一年生と、一部の活発系な生徒は喜びを隠せなかったようだが。

実行委員『怪我をした人は医務班へ、そうでない方は退場をお願いします』

 そのアナウンスと同時によくあるBGMが流れ、生徒はそれぞれ退散を開始する。
 そんな中で上条は不幸にも能力の渦に巻き込まれてひたすらにボロボロだった。

青ピ「カミやん相変わらずボロッボロやね。これで何着目?」

上条「もう三着目ぐらいだな……また上条さんの財布から野口さんが飛んでいきますとのことよ……ははは……」

 不幸だ、とがっくし肩を落とす上条。
 青髪ピアスはそれに対して落とした肩を叩きつつ笑う。
 彼的には負けて当然の試合であり、むしろお嬢様達の体操着を間近で見ることができたので試合に負けて勝負に勝った状態なのだ。
 それでいて肩を落としている親友を笑い飛ばさずしてなんというか。

青ピ「まーまー、つっちーや吹寄ちゃん、姫神ちゃんもおらへんのだから仕方がないんちゃう?」

上条「仮にそいつらがいても勝てたビジョンが思い浮かばないんだが」

 姫神や吹寄なら兎も角、適当に流そうとする土御門。
 その真面目な姫神や吹寄も大きな戦力とは言いがたい。
 つまるところ、どうしてもこの直接対決は負けていた。
 まーそりゃそうですよねーと現状を再認識したところで、はたと気付く。

731: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/09(土) 01:40:58.78 ID:NI5onlcto
上条(もしかして、もう買ったも同然とばかりに御坂が命令をしに来るのでは?)

 常盤台中学の超電磁砲、御坂美琴と交わした約束が脳裏を過る。
 一日目の競技が終了した時点ではあまり点差は開いていなかったが、二日目の午後から徐々に点差は開いている。
 あの電撃姫の言う通りに常盤台中学がスロースターターというのならその差はこれから広まる一方であろう。
 加え、今しがた終えた直接対決も負けた。
 いや約束は大覇星祭が終わった後に点数の高い方の命令を低いほうが聞くというものだから、結果は見えていても実際には終わるまではわからない。
 が、相手はあの御坂美琴だ、ビリビリ中学生だ。

上条(命令をまだしてこないにしても、もしかしたら『これがアンタと私の差よ!』とかなんとかいいつつ口答えしたら電気の槍とか砂鉄の剣とか色々飛んでくるのでは?)

 ない、などとは言い切れない。
 レベル5は、色々と人格破綻者が多いのだから。

青ピ「ん? カミやんどないしたん、急に黙って」

上条「……よし」

 ぽつり、と決心を込めて頷きつつ。
 心配をしてくれたであろう青髪ピアスに早口に声を投げかける。

上条「すまん青ピ、急用思い出した! 次の競技の時にな!」

 三十六計逃げるに如かず。
 上条はゲートを抜けると共に脱兎の如く、会場を離れるのだった。


 無論、観客席に居た少女もそれを確認した後にすぐさまその後を追いかけるのだが。
 この大覇星祭、彼らが邂逅するのは本日三日目の、夜だけであった。

746: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/07/30(月) 22:20:50.31 ID:bgYeTr3fo
 さてはて。
 フレンダ=セイヴェルンはアイドルの追っかけよろしく上条当麻の追跡に身を粉にしていたわけなのだが。
 一人きりになる瞬間など都合よくは行かず、またその一人きりになった瞬間にも見失うという呆れた事態。
 昨年見せた追跡術はどこへやら、ただの男子高校生一人捕まえられない乙女と化していた。

フレンダ「……はぁーっ」

 溜息を吐くのは仕方のないこと。
 時刻はもはやナイトパレード。フレンダは高台でその打ち上がる花火を眺めていた。
 代わり映えしない夜のお祭り……かと思いきや、案外そうでもない。
 七日間、全く同じ物を何度も見せられていれば流石に半分過ぎたころに飽きが来る。
 その為一日一日にテーマを決めている。
 ぼんやりと眺めていればそれに気付くことなどないかもしれないが、一応パンフレットにも乗っているし、それを踏まえて見れば『あーなるほどー』と納得できる出来ではある。
 そして本日のテーマは、『和』。

フレンダ「なんつーか、これ以上ないぐらいに今日の夜に馴染んでないってわけよ」

 日本の『和』という文化は独特のものだ。
 例えば風鈴。それを聞けば大半の人は『涼しい』、というイメージを思い浮かべるが海の向こうから来た人はそうではなく、『うるさい』、と思うことも多いらしい。
 無論フレンダは長いこと日本(果たして文明の進みすぎている学園都市を日本と分類していいのかどうかは不明だが)にすんでいるため、その『和』の心得はある。
 だからこそ、自分がこの場にそぐわないことが理解できてしまうのだ。

フレンダ「結局、当麻も捕まんないし、居場所もないし、で。 ふんだり蹴ったりってわけよ」

上条「……俺ならここにいるぞ?」

フレンダ「!?」

 ビクッ、とフレンダの背筋がピンと伸びる。
 声の持ち主は今更言わずもがな、上条当麻であるのだから当然だ。

747: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/07/30(月) 22:54:59.92 ID:bgYeTr3fo
 ギギギ、と機械のように振り返り、そのツンツン頭に『?』を浮かべている少年を確認した後。
 フレンダは嬉しさと恥ずかしさが入り交ざった、なんともいえない表情を押し固め、とりあえず思考の片隅で拾ったそれを投げつける。
 なんでここに、ではなく。どこから聴いてたの、でもなく。

フレンダ「とっ、当麻はっ……けっ、景気よく吹き飛ばされてたねっ!?」

上条「…………」

 空気が凍る。
 世界が断絶され、ただ二人だけが時間の止まった世界に取り残される。
 その止まった空間でたっぷり七秒、ようやく失態を悟り、咄嗟について頭に浮かんだ言葉(何を言ったかすらも覚えていない)をフォローする。

フレンダ「うっ、うそ! 違う、違うってわけよ!? いや何言ったかも覚えてないけど違くて、結局違くて!?」

 異常状態、混乱。
 攻撃コマンドを選んだら間違いなく自分か仲間にダメージを与えそうな少女はさておき。
 割とクリティカルな即死攻撃を一ターン目で食らった幻想殺しの少年はというと、

上条「そうですそうです、上条さんはこんな右手一つあっても数の暴力には勝てず団体戦では吹き飛ばされ個人戦では訳の分からないうちに敗退する学力も平均以下の凡人なんですよー……」

 肉体面は兎も角、精神面が壊滅していた。(というのは見せかけで、いつもの自嘲ギャグだったりするのだが。)
 周囲にいたカップル達は話の咬み合わない二人を指して『何してんだこいつら……』と慄いているのだった。


次→フレンダ「結局、全部幻想だった、って訳よ」 その4

フレンダ「結局、全部幻想だった、って訳よ」
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