23: ◆IWJezsAOw6 2013/09/15(日) 15:41:12.12 ID:zX+7aILj0
京介「桐乃、ゴールデンウィークって暇か?」

桐乃「結構暇だケド。 それがどーしたの?」

京介「いやさ、沙織から旅行に行かないかーって誘われてるんだよ」

桐乃「はぁ? なんで京介に先に連絡行ってるワケ?」

京介「沙織的には俺かお前か、どっちか一人に連絡するつもりだったそうだ。 どうせ二人一緒に居るんだから、そっちの方が連絡しやすいからだとか」

桐乃「……ふうん」

嬉しそうにしてるなぁ、こいつ。

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001
24: ◆IWJezsAOw6 2013/09/15(日) 15:42:02.73 ID:zX+7aILj0
京介「で、どうする? 行くか? お前が行かないなら俺も当然行かないけどよ」

桐乃「決まってるっしょ! 行く!」

そんな会話があったのが3月頃。 今より2ヶ月程前のことだ。

そして、ゴールデンウィーク開始日の今日、俺と桐乃、沙織と黒猫とでの旅行となったわけ。

何回かあった旅行ではあるが、その時のことを赤城に話すと必ず言われる台詞。

「お前、なんでそんなハーレム旅行をしているんだよ?」

25: ◆IWJezsAOw6 2013/09/15(日) 15:42:33.98 ID:zX+7aILj0
その時に俺が返す台詞は決まっている。

「いや、お前から見ればそうかもしれないけど、桐乃の荷物持ちにされるわ力仕事は全部俺だわで、殆ど召使いみたいな物だぜ」

そして、赤城は最後にこう言うのだ。

「……今度は是非、俺も連れて行ってくれ。 女子の召使いとか最高すぎる」

俺はお前が気持ち悪い。

26: ◆IWJezsAOw6 2013/09/15(日) 15:43:10.74 ID:zX+7aILj0
当然の如く赤城を連れて行くのは桐乃と俺の関係的に無理。

こういう隠すのも含めて、それは俺と桐乃がこれからぶつかって行くであろう問題なのだ。

そしてそれは、俺たちは覚悟している。

それくらい、俺は桐乃が好きだし……こいつもそれは一緒。

桐乃「京介、着いたらまずはご当地メルルのチェックね。 見つかるまで今日は寝れないと思って良いから」

……多分。

27: ◆IWJezsAOw6 2013/09/15(日) 15:43:50.61 ID:zX+7aILj0
京介「……へいへい」

桐乃「適当な返事すんな」

京介「分かりました」

桐乃「よろしい」

若干、以前の奴隷状態が続いてる感があるってのが納得いかないぜ。

黒猫「それはそうと、暇ね」

正面に座る黒猫はそう言う。

28: ◆IWJezsAOw6 2013/09/15(日) 15:44:29.27 ID:zX+7aILj0
今は全員が集まっているのだが、黒猫は先ほどから随分と眠そうな表情をしていた。

京介「それはどうしようもないだろ。 てか、二人部屋って言っても結構広いんだな」

そして現在、俺たちは電車に揺られている。 寝台列車での旅。

沙織がマネーパワーを使い、チケットから宿泊先やら、全てを用意してくれた。 こいつと結婚した奴は多分、とても幸せになれるのだろう。

桐乃「……」

無言で肘打ち。 こいつは一体どうやって俺の考えを読んでいるんだ……。

29: ◆IWJezsAOw6 2013/09/15(日) 15:45:08.28 ID:zX+7aILj0
沙織「はは。 札幌までは結構時間が掛かります故、暇潰しアイテムは用意しておりますぞ?」

さすがは沙織。 気の利く奴だぜ。 もう何から何までさせちまって、申し訳ないよな。

ちなみに部屋は俺と桐乃、沙織と黒猫といった感じで分かれている。 それを決める経緯で色々と面倒なことはあったのだが、その辺りはご想像にお任せしよう。

黒猫「それは楽しみね。 一体どんな遊戯を用意したというの?」

沙織「それはですな……ずばり! 人生ゲームでござる!」

京介「却下だ!」

人生ゲームには嫌な思い出しかないからな。 つうか、沙織が持っているのって以前やった奴と一緒のだし。

30: ◆IWJezsAOw6 2013/09/15(日) 15:45:38.01 ID:zX+7aILj0
……もう、あんな展開は御免だっての。

沙織「きりりん氏は随分やりたそうな顔をしておられますが」

桐乃「へ? んなことないって!」

黒猫「あ~あ。 折角、京介と結婚するチャンスだったのに、このぐるぐる眼鏡、無理矢理押し通しなさいよ」

桐乃「な、なに言ってんの! ヘンな勘違いすんなクソ猫!」

黒猫「あらぁ? わたしはあなたの想いを口にしたなんて、ひと言も言っていないわよ? ただのわたしの感想だったのだけど……何故、そんな慌てているのかしら?」

桐乃「こ、こんのッ!」

31: ◆IWJezsAOw6 2013/09/15(日) 15:46:28.10 ID:zX+7aILj0
……物事が進まないのはいつものこととして、仮にも二人部屋に四人集まっているのだから、取っ組み合いは止めて欲しい。

京介「……沙織、他にも用意してあるんだろ?」

掴み合いをし、何やら罵り合っている二人を放置。 俺は沙織へと話し掛ける。

沙織「ええ。 他にはトランプ等も持ってきていますが」

京介「お、良いじゃん。 それやろうぜ、それ」

沙織「良いのですかな。 拙者、トランプには自信がありますぞ」

京介「大丈夫。 内容にも寄るけど、俺より弱い奴いるし」

32: ◆IWJezsAOw6 2013/09/15(日) 15:46:59.41 ID:zX+7aILj0
そう言い、桐乃の方をちらっと見る。

沙織「はっはっは。 確かに、性格から考えるとそういった物は苦手そうですな」

京介「へへ、だろ?」

そこまで話したところで後頭部を叩かれる。

桐乃「あんた今あたしの悪口言ってたでしょ」

京介「なわけ無いだろ! なあ? 沙織」

33: ◆IWJezsAOw6 2013/09/15(日) 15:47:26.75 ID:zX+7aILj0
沙織「トランプが弱いと言っておりましたぞー」

ちくりやがった! こいつ案外酷いな!

桐乃「ふうん。 上等じゃん。 犬がご主人様に勝てると思ってんの? ん?」

沙織「……犬?」

京介「なんでもねえ! ほら、いいからやろうぜ!」

とっとと桐乃の記憶から消え去るのを願いつつ、俺は慌ててそう言った。

34: ◆IWJezsAOw6 2013/09/15(日) 15:48:04.26 ID:zX+7aILj0
んで、やることとなったゲームは『ダウト』。

順番にカードを捨てて行って、嘘か本当か見破るって奴。

京介「で、俺からでいいのか?」

沙織「ええ、京介氏から時計回りで行きましょうぞ」

ってことは。

俺、黒猫、沙織、桐乃って順番か。

京介「了解、んじゃ、始めるか」

……とは言った物の、初っ端の1が無いと来たぜ。 運ねえのかな。

35: ◆IWJezsAOw6 2013/09/15(日) 15:48:31.77 ID:zX+7aILj0
まあ、さすがにいきなりばれることは無いだろうし、適当に余ってる奴を捨てるとしよう。

京介「1」

桐乃「はいダウトー!」

京介「お、お前……」

手札見てたんじゃねえだろうな!? いやでも位置的に見えるような場所じゃないよな……。

ってことは、こいつ1を四枚持ってたりすんのか。 それなら納得だけど。

桐乃「なに? あたしは正々堂々としか戦わないから」

36: ◆IWJezsAOw6 2013/09/15(日) 15:49:08.30 ID:zX+7aILj0
へいへい。 分かりましたよ。

黒猫「いきなり嘘とは関心しないわよ。 先輩」

黒猫が俺の出したカードを確かめながら、そう言う。

京介「うっせ、ほっとけ」

俺は渋々、ついさっき出したばかりのカードを回収。 桐乃の野郎、覚えとけよ。

黒猫「わたしの番ね。 2」

沙織「次は拙者ですな。 3」

桐乃「あたしね。 よーん」

37: ◆IWJezsAOw6 2013/09/15(日) 15:49:42.55 ID:zX+7aILj0
嘘くせーぞ。 嘘くせーが……本当だったときが不利になっちまう。 確実に嘘だと分かる時に言わなければ。

堅実に、だ。

京介「俺だな。 5」

なんか、桐乃の方からすっげー視線を感じる。 なんだってんだ。

しかし先ほどの様に言われることは無く、本当のカードを出した俺にとっては少し残念。

そんな感じで、しばらくの間はつつがなくゲーム進行。

結構な枚数が場に溜まった時、俺の順番が回ってくる。

……手札は結構減ったが、こういうときに限ってそのカードが無いんだよな。

あまり悩んでいても怪しまれる。 とっとと出して、とっとと流してしまおう。

38: ◆IWJezsAOw6 2013/09/15(日) 15:53:03.77 ID:zX+7aILj0
京介「俺か。 4」

桐乃「ダウトダウトダウトー! ふひひ」

なんかおかしいぞ! 何でこいつは正確に俺の嘘を見破ってくるんだ。

京介「チッ……」

舌打ちをしながら、カード回収。

もうこれ、勝ち目なくね?

それから何回か騙し合い。 増えては減ってを繰り返し、いよいよ終盤。

39: ◆IWJezsAOw6 2013/09/15(日) 15:53:29.92 ID:zX+7aILj0
場にはかなりの枚数。 今度これを引かされたら、勝ち目は本当に消えて無くなる。

そして俺がカードを捨て、黒猫に順番は回る。

手札の枚数的には、俺が5枚。 桐乃が6枚。 沙織が3枚。

んで、黒猫は最後の1枚。

黒猫「……6。 ふふ、あがりよ」

場に流れるのは緊張感。 ここで誰かが「ダウト」と言わなければゲームは終了だ。

その場合、沙織が2位で俺が3位、桐乃が4位となる。

うむ、この場合……ダウトって言うとしたら、桐乃だろうな。

40: ◆IWJezsAOw6 2013/09/15(日) 15:53:55.33 ID:zX+7aILj0
桐乃「……」

京介「おいおい、このままだとお前がビリだぜ?」

沙織「拙者は申し訳ありませぬが、この順位で納得しているので……」

桐乃「チッ……分かってるってーの」

桐乃「京介、お願ぁい」

お前それはずりーぞ! 正々堂々戦うって言ってたのはどこいったんだよ!?

京介「い、言わねえぞ! お前がいくら頼んでも!」

41: ◆IWJezsAOw6 2013/09/15(日) 15:54:29.42 ID:zX+7aILj0
桐乃「ふん。 まぁ良いし。 んじゃ、ダウト」

黒猫「……いつか必ず仕返しするわ」

……おいおい、それ嘘かよ。

黒猫が出したカードは別の物で、桐乃のことを睨みながらカード回収。

桐乃「ウソ! マジ!? ひひ、ざっまぁあああああああ!!」

そして再びゲームは進行。

黒猫が殆ど持って行ったのもあり、俺も沙織も桐乃も思うようにカードが捨てられず、段々と平坦な状態へとなっていく。

42: ◆IWJezsAOw6 2013/09/15(日) 15:55:05.35 ID:zX+7aILj0
そうこうしている内に、場には再びカードが溜まり、俺の番。

ちなみにこれが最後の1枚。

京介「……4。 あがりだけど」

黒猫が10枚程、沙織が6枚。 そして桐乃が2枚。

桐乃「ダウトぉ! それウソ! ひひひ」

……おかしくね? この状況だと黒猫が言うのが普通だが、桐乃が言うのか……?

桐乃「あ~あ。 さっきあたしの代わりに言ってくれれば見逃してあげても良かったんだケドぉ。 ごめんねぇ」

43: ◆IWJezsAOw6 2013/09/15(日) 15:55:32.40 ID:zX+7aILj0
京介「……お前、なんで俺が吐いた嘘、全部分かるんだ?」

もう勝ち目は無いわけだし、俺は桐乃にそう尋ねる。 するとこいつは、こう答えた。

桐乃「そんなの、顔見れば一発だってーの。 何年一緒に居ると思ってんの?」

……そう言われればそうか。 俺も桐乃の顔見れば、こいつが嘘吐いてるか吐いてないかは分かるし。

京介「じゃああれだな。 お前の顔見とけば、嘘か本当か分かるってことか」

桐乃「うん。 そうそう」

44: ◆IWJezsAOw6 2013/09/15(日) 15:56:54.69 ID:zX+7aILj0
桐乃の余裕は当然で、案の定こいつは全部が本当のカードだった。

で、俺が最下位の桐乃がトップ。

桐乃「あっれえ? あたしぃ、弱いのに京介に勝っちゃった? おっかしいなぁ!」

……俺の顔を覗き込みながら、ずっと桐乃はこんな調子。

桐乃「あ。 それともぉ、京介がチョー弱かったってことなのかな? ねえねえ」

俺の頬をぺちぺち叩きながら言う桐乃。 その表情はすっげえ楽しそう。

京介「……すんませんでしたー」

桐乃「え? なに? 謝ったの? ふひひ」

45: ◆IWJezsAOw6 2013/09/15(日) 15:57:57.01 ID:zX+7aILj0
いつまでも終わりそうにないこの拷問はいつまで続くのだろうか。

なんて、そんな風に思ったとき、黒猫から声が掛かる。

黒猫「そう言えば、仲が良さそうなあなたたちを見て思い出したのだけれど」

言うと、ノートパソコンをカタカタと叩き始める。

俺と桐乃は一度そちらに向き、黒猫の言葉を待った。

黒猫「以前、先月くらいだったかしら。 秋葉原でこんなのを見つけたのよ」

そう言うと、黒猫はニヤリと笑いながら画面をこちらに向ける。

46: ◆IWJezsAOw6 2013/09/15(日) 15:59:57.58 ID:zX+7aILj0
京介「……ん?」

映し出されていたのは、キスをしている俺と桐乃。

京介「って待て!! お前これ何だよ!?」

黒猫「何、と言われても困るわ。 たまたま行き着けのお店で、たまたま飾られていた写真があって、たまたまわたしがそれを見かけたということね」

黒猫「まさかポッキーゲームをして、それを写真に収められるバカップルがこの世に居たなんてね。 顔が見てみたいわ」

黒猫「あなたたちもそう思うでしょう?」

……あの店、まだ写真飾ってるのか! いらんことしやがって!

47: ◆IWJezsAOw6 2013/09/15(日) 16:00:51.64 ID:zX+7aILj0
ていうか、そうだよな。 マスケラの本とかも置いてあったんだし、その時点でこの可能性に気付くべきだったか。

桐乃「あ、あははは。 あたしもそう思う。 そんなバカップル居たら見てみたいなぁ~」

こいつ、黒猫がからかって言ってるのに気付いてねえ。 つうか、どう見たって写真に写ってるのは俺とお前じゃねえかよ。

黒猫「そうよね。 桐乃の言うとおりだわ。 それにこのバカップル、どうやらカップルでは無いらしいわよ」

桐乃「へ? どゆこと?」

黒猫「写真の下の方に書いてあるじゃない。 高坂夫婦って」

……俺は黙秘権を行使しよう。

48: ◆IWJezsAOw6 2013/09/15(日) 16:01:26.62 ID:zX+7aILj0
桐乃「ほ、ほんとだ~。 あはははは」

黒猫「あなたと一緒の苗字なのね」

桐乃「ふ、不思議だね」

黒猫「苗字だけでなく、名前も一緒らしいわよ」

桐乃「そ、そんな偶然もあるのかぁ~」

黒猫「嬉しかった? それとも楽しかった? いえ、幸せだったかしら?」

桐乃「全部!!」

……駄目だこいつ。 完全に調子おかしくなってやがる。

49: ◆IWJezsAOw6 2013/09/15(日) 16:02:22.88 ID:zX+7aILj0
沙織「京介氏は先ほどからだんまりですが、どうかされましたかな?」

京介「い、いや別に? ただ、ちょっと乗り物酔いかなぁ?」

黒猫「あら大変。 先輩、仕方ないからわたしが膝枕をしてあげるわ」

……どんな流れだよ。

桐乃「はぁ!? そんなことしたらこいつが調子乗るっての!」

黒猫「別に構わないわ。 わたしは調子に乗っている先輩も厭では無いから」

桐乃「あ、あたしだって……」

沙織「ふっふっふ。 仕方ありませぬな。 ここは拙者が」

50: ◆IWJezsAOw6 2013/09/15(日) 16:05:16.00 ID:zX+7aILj0
こいつら本当に悪ノリ好きだよな! あんま桐乃をからかわないで欲しいぜ。

桐乃「あたしがやるっての! 京介ほら早くして!」

桐乃は言いながら、俺の首根っこを掴む。 で、無理矢理自身の膝へ倒す。

京介「いててて! いてーよ!」

桐乃「うっさい! あんたはあたしの膝でしか寝ちゃ駄目だから。 大人しくしろ!」

黒猫「沙織、シャッターチャンスよ。 早く撮りましょう」

そんなことだろうと思った。 お前らほんと、いつか痛い目に遭わせてやるからな……くそ。

51: ◆IWJezsAOw6 2013/09/15(日) 16:06:04.88 ID:zX+7aILj0
桐乃「ふひひ」

桐乃はというと、カメラに向けて満面の笑み。

……こうなるのが俺は嫌だったんだ。 桐乃がこうなると、しばらく治らないし。

桐乃「あ~もう。 仕方ないなぁ。 京介、すぐ甘えるんだからぁ~」

先ほど首根っこを掴んで無理矢理膝枕状態にしたことは、こいつの中では既に無くなっている様だ。

桐乃「ふひひ~。 京介、頭撫でてあげるね~。 うひひ」

……俺は俺で嬉しいから別に良いか。


北へ 終

72: ◆IWJezsAOw6 2013/09/18(水) 23:43:02.05 ID:VDVabi8/0
京介「桐乃、おい」

ベッドに丸まりながら寝る桐乃の肩を揺らし、起こす。

これは完全に無駄話なのだが、ベッドは二つ用意されていた物の、結局俺と桐乃は同じベッドで寝ることとなった。

で、その現場は決して見られたく無かったので、俺は少し早めの起床をしたというわけ。

沙織や黒猫はまだ寝ているだろう時間に、俺は一人目を覚ましたのだ。

桐乃「……んー」

にやにやしながら寝てるなぁ、こいつ。 一体どんな夢を見ているのだろうか。

73: ◆IWJezsAOw6 2013/09/18(水) 23:44:35.62 ID:VDVabi8/0
……なんか、起こすのに少し気後れしてしまうな。

すやすやと寝息を立てながら眠る桐乃。 そんな桐乃の頬を突付く。

桐乃「……ふひっ」

あー可愛いなちくしょう!

こいつの肌はやはりとても柔らかく、俺は夢中になって頬を突付いた。

桐乃「……んんー」

桐乃は顔を背け、俺の指から逃げようとする。

74: ◆IWJezsAOw6 2013/09/18(水) 23:45:28.90 ID:VDVabi8/0
京介「これ面白いな。 はまりそうだ」

桐乃「……んむ」

そして突如、頬を突付いてた手を桐乃は両手で持ち、そのまま口へと入れる。

京介「……お、おい?」

桐乃「んふふふ」

寝ぼけてるのか……? すっげーペロペロ舐めてきてるが。

京介「お、起きろって。 桐乃」

空いている方の手で、桐乃の頬を軽く叩く。 すると、ようやくこいつは目を覚ました。

75: ◆IWJezsAOw6 2013/09/18(水) 23:46:35.08 ID:VDVabi8/0
桐乃「……んー。 きょーすけ? はよお」

あまり桐乃の寝起きってのは見る機会が無いからなぁ。 俺が起きると、いっつもこいつは起きていて、飯の用意しているし。

京介「おはよう」

そう挨拶すると、へらっとした表情をして桐乃は笑う。

で、自分が手に持っている物を確認。

桐乃「……はれ?」

今の今まで口に入れていた指に気付き、桐乃は勢いよく飛び上がる。 やっぱおもしれえな。

76: ◆IWJezsAOw6 2013/09/18(水) 23:47:40.51 ID:VDVabi8/0
桐乃「あ、あんたなに妹の口に指突っ込んでんの……?」

京介「……俺がお前の頬を突付いてたら、お前が急に舐めだしたんだよ」

桐乃「……捏造乙」

言い合いしても仕方ないし、どうせこいつは認めないだろうし、そういうことにしておいてやろう。

それよりも。

京介「桐乃、窓の外」

俺は言いながら外を指差す。

77: ◆IWJezsAOw6 2013/09/18(水) 23:50:13.49 ID:VDVabi8/0
桐乃「……うわ、すごー」

思わず声が漏れるといった感じで、桐乃は言う。

窓から見えているのは広大に広がる自然と、青空と、端から端まで見渡せそうな景色。 で、雪。

正直驚いたぜ。 五月でも雪って降る物なんだな……。

京介「トンネル抜けてるってことは、もう北海道なんだな」

桐乃「だね。 外の空気おいしそー」

京介「窓、少し開けてみるか」

俺は言うと、ロックを外して窓を開く。

するとすぐにそこから風が吹き込んできて、俺と桐乃の体を包んでいった。

78: ◆IWJezsAOw6 2013/09/18(水) 23:50:47.32 ID:VDVabi8/0
桐乃「チョー気持ち良い。 えへへ」

隣に居た桐乃は、そう言うと俺の方を見て、微笑む。

風によって髪がなびいていて、俺は慌てて視線を窓の外に移した。

こういう不意打ち的な物は反則だっての。 恥ずかしいじゃねえか。

京介「そか。 沙織に感謝だな」

桐乃「うん。 沙織にもだけど、ね」

俺のことを未だに笑顔で見ながら、桐乃は言う。

そんなこいつを見て、俺は去年のクリスマスをふと思い出す。

桐乃が言おうとしたことは、言いたいことは、そういうことだろう。

79: ◆IWJezsAOw6 2013/09/18(水) 23:53:17.32 ID:VDVabi8/0
桐乃「うっは! やっぱ外に出ると全然違うね。 空気おいしー!」

黒猫「全く。 あなたは毎回毎回騒がないと気が済まないの?」

桐乃「だってそっちの方が楽しいっしょ! 全力で楽しまないと!」

桐乃「だからほら、あんたも笑って笑って」

桐乃は言いながら、黒猫の頬をつまむ。 相変わらずの仲良しだぜ、こいつらは。

沙織「折角ですから、一枚写真でも撮りますか」

京介「お、良いじゃん。 俺撮るからさ、並んじゃえよ」

沙織「では、宜しくお願い致します」

沙織からデジカメを受け取り、三人に向ける。

80: ◆IWJezsAOw6 2013/09/18(水) 23:54:08.07 ID:VDVabi8/0
楽しそうに笑う桐乃と、恥ずかしそうにしている黒猫。 その様子を嬉しそうに眺める沙織。

撮る方としても、なんだか楽しくなってくるな。

京介「おっし。 撮れたぜ」

俺は言い、沙織にデジカメを渡す。

沙織「次は京介氏も入ってくだされ。 拙者が撮ります故」

その場で代わる代わる写真を撮る。 黒猫が撮ったり、桐乃が撮ったりといった感じで。

81: ◆IWJezsAOw6 2013/09/18(水) 23:55:02.67 ID:VDVabi8/0
桐乃「あ、どーせならさ。 一人ずつも撮ろうよ」

沙織「お。 良いですな。 そうしましょう」

とのことで、一人一人も撮ることになったのだが。

桐乃「ちょっと、あんた表情硬すぎ。 もうちょっとどうにかなんないの?」

京介「つっても一人で撮るって言われると緊張するんだって……」

桐乃「っは~。 あんたそれでもあたしの彼氏? カメラくらい慣れてよ」

無茶言うんじゃねえ。 俺はお前みたいに撮られなれてないんだっての。

82: ◆IWJezsAOw6 2013/09/18(水) 23:56:09.94 ID:VDVabi8/0
黒猫「痴話喧嘩もそこそこにして頂戴。 でも、確かにそうね。 先輩ももっと笑えば良いのに」

京介「お前だってさっき撮った時ガッチガチだったじゃねーか! 人に言える立場かよ!?」

黒猫「う、うるさいわね。 わたしは良いのよ、わたしは」

……まさか写真を撮るってだけでここまで言われるとはね。

まあ、桐乃はさすがに言うだけあり、撮ったときは素直にすげえって思ったけどな。

で、なんとか俺の番は終わり。

83: ◆IWJezsAOw6 2013/09/18(水) 23:58:41.44 ID:VDVabi8/0
沙織「では、お次は京介氏ときりりん氏で撮りましょう!」

桐乃「……はいはい。 早く撮ろ」

言い、桐乃は俺の腕をぐいぐいと引っ張る。

京介「よし、オッケーオッケー」

沙織は俺たちの方へカメラを向け。

京介「へへ」

俺は桐乃の肩を抱き、寄せる。

84: ◆IWJezsAOw6 2013/09/18(水) 23:59:18.35 ID:VDVabi8/0
桐乃「ちょ! そんなくっつかないでよ!」

京介「良いだろ? 付き合ってるんだし」

桐乃「……このばか」

黒猫「あら、おかしいわね。 さっきあれほど言っていた桐乃の表情が硬いわよ」

桐乃「うっさい! 良いから早く撮って!」

沙織「はっはっは。 これは良い記念になりそうですな」

後で見せて貰ったその写真には、視線はカメラより大分外れ、手は何かを我慢しているように体の前で組んでいて、とてもモデルには見えない桐乃が写っていた。

85: ◆IWJezsAOw6 2013/09/19(木) 00:00:29.84 ID:6iSTMOMz0
まずは旅館へ行こう。 とのことになり、沙織の案内で旅館に到着。

そこに居た人から聞いた話だが、5月に雪が降るのはかなり珍しいらしい。 珍しいというだけで、無かった訳では無いとのことだ。

にしても、積もるってのがすげえな。 まあ、この寒さ的におかしな話では無いのかもしれんが。

暖かい格好してきて良かったぜ、ほんとに。

そして今は部屋。 俺と桐乃は一緒の部屋。

着いたのが朝早くというのもあり、お昼頃までは一旦休憩しようとの話になっていた。

86: ◆IWJezsAOw6 2013/09/19(木) 00:01:24.02 ID:6iSTMOMz0
京介「疲れてないか? 桐乃」

桐乃「んー。 だいじょぶ。 でもお茶飲みたい」

ベッドの上で寝転がり、桐乃は続ける。

桐乃「外寒かったし、暖かいのね」

どうやら俺がお茶を淹れるのは確定しているらしいな。

京介「へいへい」

俺はそう返事をし、湯呑みに茶葉をいれ、備え付けのポットからお湯を出し、お茶を作る。

87: ◆IWJezsAOw6 2013/09/19(木) 00:02:01.50 ID:6iSTMOMz0
京介「ほらよ」

ベッドの上でそんな俺を眺めていた桐乃に湯呑みを渡し、腰を掛けた。

桐乃「さーんきゅ。 よしよし」

そう言いながら俺の頭を撫でる桐乃。 こいつ、なんかこれ癖になってないか。

京介「しっかし、遠くまで来たもんだなぁー」

桐乃の隣に寝転がり、天井を見上げながら俺は言った。

冬の北海道というのも中々楽しそうではあるけど、この時期ってのも良いな。

有名な観光地もあるし、そういうのを周って見たいぜ。

88: ◆IWJezsAOw6 2013/09/19(木) 00:03:07.75 ID:6iSTMOMz0
桐乃「ねね、北海道にアキバみたいなとこって無いのかな」

京介「……無いだろ」

桐乃「……無いか」

もうお前秋葉原に住めよ。 って言いたい。 言ったら恐らく「引っ越そう!」とか言い出しそうなので言わない。

桐乃「あ、お茶美味しい」

両手で湯呑みを持ち、熱いのかちびちびと飲んでいる桐乃は言う。

京介「へえ、良い奴なのかな?」

桐乃「なのかな?」

89: ◆IWJezsAOw6 2013/09/19(木) 00:04:10.18 ID:6iSTMOMz0
さぁ、どうだろうな。

俺と桐乃は二人して首を傾げる。 やがて、桐乃は湯呑みをベッド横のサイドテーブルに置くと、一緒になって横になる。

桐乃「……やっぱちょっと眠い」

京介「少し寝るか?」

桐乃「んー。 そーしよっかな」

桐乃はそのまま俺の胸辺りに頭を乗せ、目を瞑った。

そんな桐乃の頭を撫でながら、俺もゆっくり目を瞑る。

昼までまだ時間はあるし、一緒になって少し寝るとしよう。

90: ◆IWJezsAOw6 2013/09/19(木) 00:04:50.29 ID:6iSTMOMz0
どのくらい経っただろうか。 肩を揺らされる感覚。 その所為で目を覚ます。

ぼーっとした頭で目の前にある人影を確認。

黒猫「いつまで寝ているのよ。 あなたたち」

京介「……黒猫か?」

黒猫「そうよ。 気持ち良さそうに寝ているところ、悪いのだけどね」

京介「いや、構わねえよ」

起き上がり、辺りを確認。

91: ◆IWJezsAOw6 2013/09/19(木) 00:07:04.16 ID:6iSTMOMz0
隣で桐乃は寝ていて、部屋の中には黒猫と沙織。

沙織はどうやらガイドブックやらを眺めており、床には地図やらが散らばっている。

鍵は開けていたので入れたのだろう。 で、俺たちが寝ているのを見て、この場で軽く暇潰しをしていたってところか。

最後に黒猫が痺れを切らし、俺を起こしに掛かったと考えれば納得が行く。

京介「悪いな。 すっかり寝ちまってた」

時計を見ると昼過ぎ。 数時間ほど寝ていたのか。

黒猫「疲れていたのでしょう。 桐乃も随分とはしゃいでいたしね」

沙織「きりりんさんが起きましたら、お昼でも食べに行きましょうか」

いつ眼鏡を取ったのか気になるが、今考えるのはそれじゃないか。

92: ◆IWJezsAOw6 2013/09/19(木) 00:07:31.59 ID:6iSTMOMz0
京介「なんなら起こすか?」

と、聞いたのだが。

黒猫「可哀想じゃない。 気持ち良さそうに寝ているのに」

と黒猫に返される。

……ふむ。 俺は起こして良いと判断したのか、こいつ。

京介「ま、そうだな」

黒猫の発言には異論を唱えたいところだったが、確かにこれだけ気持ち良さそうな顔をして寝ている桐乃を起こすのは気が引けてしまう。

93: ◆IWJezsAOw6 2013/09/19(木) 00:08:24.91 ID:6iSTMOMz0
黒猫「いつもこうして寝ていれば良いのよ。 この女は」

それは色々と困るだろうが。 確かに綺麗だけど、眠り姫じゃあるまいし。

京介「しかし喉渇いたな……ちょっと自販機まで行ってくるけど、お前らなんか飲むか?」

沙織「わたくしは大丈夫ですよ。 先ほど、お水を頂いたので」

黒猫「あの光景はあなたたちにも見せたかったわ。 沙織、水道から出る水の美味しさに感動していたのよ」

京介「へえ、そんな美味かったのか?」

沙織「わたくしの自宅まで引っ張りたい程の」

すげえ美味いなそれ。 水以外いらないだろ。

94: ◆IWJezsAOw6 2013/09/19(木) 00:10:07.90 ID:6iSTMOMz0
京介「俺も後で飲んでみるよ。 で、黒猫は? なんなら一緒に来るか?」

黒猫「では、そうしようかしら。 桐乃が起きていたら不可能だから」

京介「そういう言い方をされると浮気しているみたいで嫌なんだけど……」

黒猫「あら。 違うのかしら。 てっきりデートのお誘いかと思ったのだけれど」

京介「ちげーよ。 俺は桐乃一筋だからな」

黒猫「……そんな台詞を堂々と何事も無いように言えるあなたには、素直に感心するわね」

京介「……ほっとけ」

と、そんなこんなで黒猫と二人でロビーにある自販機へ。

95: ◆IWJezsAOw6 2013/09/19(木) 00:10:45.37 ID:6iSTMOMz0
旅館内は暖房が入っているおかげもあり、薄着でも問題は無いくらいだった。

京介「にしても、さすがは北海道って感じの気温だよなぁ」

黒猫「そうね。 千葉と比べれば寒すぎるわ」

京介「つうか、五月なのに雪って時点で凄まじいよな」

黒猫「凄まじいわね」

京介「雪で遊んだりできるくらいかもな。 はは」

黒猫「遊べるかもしれないわね」

……こいつ。

96: ◆IWJezsAOw6 2013/09/19(木) 00:11:28.49 ID:6iSTMOMz0
京介「……お前、会話続ける気無いだろ?」

黒猫「そうだけど、問題あるかしら?」

京介「すっげえあっさり言いやがったな……」

黒猫「ふふ。 それとも、先輩はわたしとお話がしたいの? 桐乃という大切な人が居ながら」

京介「別に友達と話したくらいであいつは怒らないっての。 あいつって意外にも結構自由だしな」

黒猫「……それは少し興味深いわね。 性格的に束縛が激しそうに思えるわ」

京介「そうでもねーぞ?」

黒猫「では、いくつか聞くわね。 良いかしら?」

97: ◆IWJezsAOw6 2013/09/19(木) 00:13:06.09 ID:6iSTMOMz0
京介「おう。 何でも来い」

やがて階段に差し掛かり、俺が少し先を歩く形で進んで行く。

黒猫「あなたが他の女と遊ぶのは?」

京介「……それは論外だろ。 今みたいに、桐乃も含めてってなら話は別だけどよ」

黒猫「では、他の男と遊ぶのは?」

京介「お前は瀬菜か。 いやでも……一応、誰と遊ぶとは伝えるかな」

黒猫「あらそう」

98: ◆IWJezsAOw6 2013/09/19(木) 00:14:12.90 ID:6iSTMOMz0
京介「で、帰る時間は伝えておく」

黒猫「……そう」

京介「ああ、後遊んでいる間にもメールはするかな」

黒猫「……なるほど」

京介「十分置きに」

黒猫「十分置き!?」

京介「な、なんだよ。 急に大声出すなって……」

黒猫「あなた、友達と遊んでいるときに携帯をずっといじっている様な物じゃない」

99: ◆IWJezsAOw6 2013/09/19(木) 00:14:56.97 ID:6iSTMOMz0
京介「で、帰る時間は伝えておく」

黒猫「……そう」

京介「ああ、後遊んでいる間にもメールはするかな」

黒猫「……なるほど」

京介「十分置きに」

黒猫「十分置き!?」

京介「な、なんだよ。 急に大声出すなって……」

黒猫「あなた、友達と遊んでいるときに携帯をずっといじっている様な物じゃない」

100: ◆IWJezsAOw6 2013/09/19(木) 00:15:56.53 ID:6iSTMOMz0
京介「そうは言ってもさ、あいつのメール昔に比べて全然可愛いからよー」

やべ、自然と顔がにやけてきた。

黒猫「まさかここまで来て惚気が始まるとは思わなかったわよ」

京介「そうじゃねえって! くそ、ちょっと待ってろ黒猫」

俺はそう言うと、ポケットから携帯を取り出し、操作。

少し前に赤城と遊んでいた時に来たメール。 それを開き、黒猫に見せてやる。

101: ◆IWJezsAOw6 2013/09/19(木) 00:16:28.80 ID:6iSTMOMz0
From 桐乃
題:エロゲーに埋もれるあたし。


京介「写メ付きだぞ!? どうだ!!」

黒猫「普段からそんな一発芸の応酬をしているの……?」

京介「まあ、たまに」

黒猫「……飲み物を買いましょうか」

俺を追い抜き、先を歩く黒猫。

なんだよ、このエロゲーの山から顔を出している桐乃の写メ、結構お気に入りなのに。

102: ◆IWJezsAOw6 2013/09/19(木) 00:17:35.77 ID:6iSTMOMz0
京介「あー、そういえばさ。 桐乃、普通に寝てたか?」

黒猫「どこまでが普通、という判断になるのかは分からないけれど、少なくともわたしが見た限りは普通だったわよ。 それが、どうかしたのかしら?」

だとすると、今回は大丈夫だったのか。 稀にあいつ、俺を抱き枕にして寝てるからな。

京介「いや別に。 ただ、聞いてみただけだ」

黒猫「そう」

そんな会話をしている内に、自販機の前に到着。

黒猫「……」

黒猫は黙ったまま、自販機に金を入れるとボタンを押す。

103: ◆IWJezsAOw6 2013/09/19(木) 00:19:05.24 ID:6iSTMOMz0
選んだのは、ミルクティーか。

……猫だけに牛乳が好きなのだろうか。

そう思って、ひとつ質問。

京介「北海道といえば、魚介類だよな」

黒猫「……? 突然どうしたの?」

京介「黒猫ってさ、やっぱり魚好きだったりすんの?」

黒猫「嫌いでは無いけれど……やっぱり?」

京介「……あ」

黒猫「ちょっと待ちなさい。 もしかして、わたしが黒猫というハンドルネームを使っているから……とか考えて無いでしょうね」

何故分かった。 さすがに鋭いな、こいつ。

104: ◆IWJezsAOw6 2013/09/19(木) 00:19:48.35 ID:6iSTMOMz0
京介「いや、だって飲み物もミルクだし」

黒猫「べ、別にそんなのはたまたまでしょう! それにこれはミルクじゃないわ」

黒猫「……闇夜を照らす聖なる白き液体。 魔界から訪れたクリーチャーと戦う為に必要なのよ」

エロゲー風に解釈すると、大分破廉恥な台詞に聞こえて来る。

そう思ってしまう辺り、俺も末期かもしれんな……。

京介「俺はなんか甘い物が良いな」

黒猫「あなた、今わたしを無視したわね」

京介「だってそんなポーズ決められたら、どんな反応すれば良いか分からないじゃんか! むしろお前はどう反応して欲しかったんだよ!?」

突っ込まなかった俺を褒めて欲しいぜ。 いかにもなポーズ決めやがって。

105: ◆IWJezsAOw6 2013/09/19(木) 00:20:18.50 ID:6iSTMOMz0
黒猫「そこはあなたもポーズを決めるところよ。 やってみなさい」

……マジでやんの?

黒猫「早くしなさい。 このノロマ」

京介「……はいはい」

なんだろう。 罵倒されると素直になってしまう。

……俺、明らかヤバイ方向に行ってないか、これ。 明らかに桐乃の所為だろ。

106: ◆IWJezsAOw6 2013/09/19(木) 00:20:46.14 ID:6iSTMOMz0
京介「は、ははは。 貴様がいくらその液体を使おうと、私の前ではゴミも同然……ってお前携帯で何撮ってるんだよ!?」

黒猫「別に構わないでしょう。 先輩の頭がおかしくなったと、後で桐乃と沙織に見せるわ」

……言っておくが、お前と大差ねーからな、今俺が言ってた台詞。

京介「もう好きにしてくれ……部屋戻るぞ」

黒猫「そうね。 桐乃が戻ってもまだ寝ていたら、さすがに起こしましょうか」

京介「りょーかい」

107: ◆IWJezsAOw6 2013/09/19(木) 00:21:19.51 ID:6iSTMOMz0
そして、部屋に戻る俺と黒猫。

行きと同様に、何気無い会話をしながら部屋まで戻ったのは覚えている。

で、扉を開けたんだ。 鍵は掛けていなかったら、すんなりと開いて。

まず目に入ったのは、少々焦った顔をしている沙織。

次に目に入ったのは、ベッドの上で膝を抱えて座る桐乃。

沙織はどうやら桐乃を宥めている様で、ということはつまり。

桐乃の顔は、不機嫌その物だったということだ。


雪降る日 終

119: ◆IWJezsAOw6 2013/09/23(月) 20:19:13.82 ID:epGafhj+0
京介「き、桐乃……? 起きたのか?」

桐乃「……」

あからさまに俺から顔を逸らしやがる。 これはあれか、俺が黒猫と二人揃って居なかったから怒ってるのか。

黒猫「……とりあえず謝ったら?」

横に立つ黒猫は桐乃には聞こえない様、小声で言う。

まあ、そうするか。

120: ◆IWJezsAOw6 2013/09/23(月) 20:20:34.39 ID:epGafhj+0
京介「すまん桐乃! 別にお前に隠れて……って訳じゃねえからさ」

俺が言うと、桐乃はようやく顔をこちらへ向ける。

桐乃「……ベツに、そんくらいで怒らないし」

桐乃「てか、あたしは怒ってるワケじゃないし」

……そうなのか? でも、ならどうしてこんな不機嫌なんだ、こいつ。

京介「じゃあ、他に理由がある……のか?」

121: ◆IWJezsAOw6 2013/09/23(月) 20:21:33.38 ID:epGafhj+0
桐乃「ヤダ。 教えない。 ばーか」

言い、俺にあっかんべーとする桐乃。

……久し振りに翻訳してみるか。 ええっと、これは恐らく。

今は沙織も黒猫も居るから言いたく無いの。 後で、二人っきりになったらね。

ということだろう。

桐乃「大体、京介に理由教えないといけない意味が分からないし。 ばっかじゃないの?」

話したいけど、恥ずかしいから。 だから、後で京介から聞いて?

ということか。

122: ◆IWJezsAOw6 2013/09/23(月) 20:22:19.76 ID:epGafhj+0
まあ、それなら俺としては後で聞くしかないよな。

京介「へいへい。 わーったよ」

俺が答えると、桐乃は再度顔を逸らす。 ああくそ、今すぐ抱き締めて頭なでなでしたい。 嬉しそうな顔をするんだろうなぁ!

黒猫「解決したのなら良いわ。 それより、お昼を食べに行きましょうよ。 わたしもさすがに魔力を補給したいわ」

桐乃「いいね! 賛成!」

お前が寝てるから後回しになってたんだけどな。 言ったら多分、桐乃が座っているベッドの横……サイドテーブルに置いてある俺の財布が飛んでくるだろう。

俺と桐乃の位置、桐乃と財布の位置的に。

123: ◆IWJezsAOw6 2013/09/23(月) 20:22:55.57 ID:epGafhj+0
沙織「では、皆様少々待っていてください。 すぐに戻って来ますので」

沙織は言うと、立ち上がる。

なんだ? 俺たちがここで待っている理由って、あるのだろうか?

黒猫も桐乃も同じことを思っているのか、顔をしかめている。

が、誰かが何かを言う前に沙織はそそくさと部屋を出て行ってしまった。

124: ◆IWJezsAOw6 2013/09/23(月) 20:23:53.24 ID:epGafhj+0
数分した後に沙織は戻ってきて、昼飯。

桐乃「でなんでカップラーメンなワケ!? フツー、なんか食べに行くでしょ!!」

京介「夜に美味い物食えるって言ってるんだし良いじゃんか。 ほら、俺のチャーシューあげるから」

桐乃「ふひひ、ありがと……じゃない! そうじゃないでしょ!」

黒猫「鬱陶しいわ。 少しは静かに出来ないの?」

特に理由は無いとのことだったが、持ってきたから食べようとのこと。

125: ◆IWJezsAOw6 2013/09/23(月) 20:25:39.82 ID:epGafhj+0
沙織「代わり、と言ってはあれですけど……夕食は満足して頂けると思いますよ」

京介「へえ、どっか良い店知ってるのか?」

沙織「いえ、この旅館での食事となります」

京介「……」

ふむ。 可能性のひとつはアレか。

京介「一応聞いとくぜ。 この旅館って……」

聞くと、沙織はにっこりと笑って答えた。

沙織「系列の旅館となっております」

126: ◆IWJezsAOw6 2013/09/23(月) 20:26:58.14 ID:epGafhj+0
……是非、将来はこいつの下で働きたい物だ。 桐乃は好きな事をできるだけの物は持っているだろうしな、それで俺がこれだと若干悲しいので、俺を雇ってくれないかな。

黒猫「沙織、雇ってくれないかな……って顔をしているわよ。 先輩」

京介「へ? な、なわけねえだろ? ははは」

沙織「あら、京介さんが宜しければ、いつでも」

……マジか! 俺の将来安泰じゃねえか!

桐乃「ダメ。 あたしが許さない。 こいつ一生あたしの奴隷だから、あたしの目が届かないところには置かないし」

黒猫「……鎖ね、鎖」

黒猫は言いながら、俺の方を見る。

127: ◆IWJezsAOw6 2013/09/23(月) 20:27:59.97 ID:epGafhj+0
京介「……何が言いたいんだよ」

黒猫「先輩が嘘吐きということよ。 何が「そうでもねーぞ?」よ。 雁字搦めじゃない」

京介「いやいや。 お前なぁ……まだ「あたしの視界から外れたら罰ね」まで行ってないから楽だぞ」

黒猫「……良い様に調教されているわね。 あなた」

どこがだよ。 俺は桐乃の為にならなんだってするし、あいつがその場でぐるりと回って「ワン」と言えって命令すれば実行するし、むしろ桐乃からの命令なら喜んでやるぜ!

……あれ、なんか俺おかしいか。

京介「な、無い……多分。 恐らく。 そう思い込みたい」

128: ◆IWJezsAOw6 2013/09/23(月) 20:28:44.82 ID:epGafhj+0
黒猫「……後何年か経ったら、喜んで桐乃の足を舐めてそうだわ。 気持ち悪い」

ついこないだそれがあったとは口が裂けても言えんな……。

桐乃「こそこそなに話してんの? 京介」

京介「あ、え、ええっと。 き、桐乃さんの話を……」

桐乃「へえ、どんな?」

129: ◆IWJezsAOw6 2013/09/23(月) 20:29:16.14 ID:epGafhj+0
京介「……桐乃さんって超可愛いなぁとか、最高の妹だよとか、桐乃以上の女は存在しない、だとか」

桐乃「ふ、ふひひ……そんなこと言っても何も出ないからね! えへへへへへ……」

黒猫「……どっちもどっちね」

溜息を吐く黒猫と、そんな光景を写真に収める沙織と、苦笑いする俺と、特徴的な笑いを零している桐乃。

良い、思い出になるだろう。

130: ◆IWJezsAOw6 2013/09/23(月) 20:30:12.48 ID:epGafhj+0
その後は観光名所を回るとのことで、外出。

桐乃「しょぼ! さすがは残念名所なだけあるよね~。 この時計台」

京介「そういうことを大きな声で言うなって……怒られるぞ」

いやまあ、確かに……言うとおりではあるけど。

明らかに隣のビルの所為だろうな、これは。

黒猫「三大がっかり名所と言われるのも無理は無いわね」

131: ◆IWJezsAOw6 2013/09/23(月) 20:32:21.36 ID:epGafhj+0
京介「……お前らなぁ」

言いたい放題にも程があるぜ。 こいつらときたら……少しは沙織を見習ってだな。

で、その沙織はというと、そんな様子を先ほどから撮っている。 後で全員に送るから、記念にということらしい。

沙織「皆さん楽しそうで、何よりですわ」

京介「なあ、ちょっとカメラ借りていいか?」

沙織「ええ、構いませんけれど……何か撮りたい物でも?」

京介「いや、撮りたいって言うと桐乃に怒られるからな……沙織も折角だから、写れってことだよ」

132: ◆IWJezsAOw6 2013/09/23(月) 20:32:47.30 ID:epGafhj+0
沙織「……は、はい」

俺がカメラを構えると、恥ずかしそうに顔を俯かせる沙織。 俺たちの前に限っては結構平気になってきたと思ったのだが、これはやっぱり恥ずかしいのか。

桐乃「なーに下向いてんの! ほらカメラの方向きなさいって!」

横から桐乃がやってきて、沙織の顔を無理矢理上へ。

恥ずかしそうにしている沙織ではあったが、その表情はどこか嬉しそうにも見えた。

桐乃「黒猫もほら! あたしのワンちゃんが撮ってくれるみたいだから」

黒猫「……お呼ばれよ? せ、ん、ぱ、い」

……その呼び方、そろそろ止めて欲しいぜ。

133: ◆IWJezsAOw6 2013/09/23(月) 20:33:21.68 ID:epGafhj+0
そして夕方。

日が傾き始めた頃。 俺と桐乃は教会に居た。

二人だけで。

こうなったのにもしっかりと理由があって、あの後……まあ、色々と観光し終わった後、黒猫が「北の大地にわたしの名前を刻みたい」と言って、沙織はそれに同伴。

恐らく、ゲームセンターだろう。 で、余った俺と桐乃はこうして一緒に歩き回って、たまたま見つけたのがここだったってわけだ。

134: ◆IWJezsAOw6 2013/09/23(月) 20:34:28.39 ID:epGafhj+0
桐乃「なに? 教会に連れて来て結婚式でもするつもり?」

京介「バツイチ同士でか?」

桐乃「……お互い一回は結婚してるから?」

京介「そーいうことだな」

桐乃「うわぁ。 そう考えると、あたしってこの若さでそれなんだよね。 軽くショック」

京介「バツイチ女子高生ってか」

135: ◆IWJezsAOw6 2013/09/23(月) 20:35:01.63 ID:epGafhj+0
桐乃「……やめてくんない?」

睨むなって。 半分くらいは事実だろ。

京介「ごめんごめん。 で、だけど」

周りに人はおらず、ステンドガラスから差し込んでいる光りが、綺麗に教会内を照らしている。

夕日のおかげで見える桐乃の顔は。

……言う必要の、無い物か。

136: ◆IWJezsAOw6 2013/09/23(月) 20:35:29.41 ID:epGafhj+0
京介「それはできねえよなぁ。 今度するとしたら、意味が違ってくるしよ」

桐乃「前のとはってこと?」

京介「そういうこと。 もうちょっとしっかりしてからじゃねえと」

桐乃「まーねー。 ワンちゃんとしてはまだまだだからね、京介」

京介「はは。 んじゃあ、お前の彼氏としては?」

桐乃「さあね? ふひひ」

京介「そうかい。 ありがとよ」

137: ◆IWJezsAOw6 2013/09/23(月) 20:35:58.67 ID:epGafhj+0
桐乃「あたしは何も言って無いんですケド?」

京介「分かるっての。 今、お前が考えてることくらい」

桐乃「ふうん。 兄妹だから?」

京介「兄妹だから」

桐乃「へへ。 そかそか」

桐乃は真っ直ぐ前を見ながら、呟くように続けた。

138: ◆IWJezsAOw6 2013/09/23(月) 20:36:26.43 ID:epGafhj+0
桐乃「そーいえばさ、さっき旅館であたしに「怒ってるか?」って聞いたじゃん」

京介「ん? ああ、聞いたな」

桐乃「それはほんとに違うんだけど、理由……分かった?」

京介「……まぁな」

桐乃「ひひ。 じゃあ、言ってみて」

桐乃「あ、言っておくケド、外したら罰与えるからね」

こいつ、何かしら俺に罰を与えたがって無いか。

今回は、それを受けることは無さそうだけどな。

139: ◆IWJezsAOw6 2013/09/23(月) 20:37:11.40 ID:epGafhj+0
京介「……寂しかったんじゃねえのかなって、そう思う」

桐乃「ふ~ん? なんで?」

京介「逆だったら、俺もそうだっただろうしな」

桐乃「そか。 よし、合格」

京介「へいへい。 そりゃどうも」

桐乃「ってワケでさ、京介」

俺が横に居る桐乃に顔を向けると、桐乃もまた俺の方へ顔を向け、言った。

140: ◆IWJezsAOw6 2013/09/23(月) 20:38:51.50 ID:epGafhj+0
桐乃「ごっこしよ、ごっこ。 子供の遊び感覚で。 ね?」

京介「……ったく。 断ったらどーなるんだ、それ」

桐乃「前、京介にあたしがあげたご褒美より、もっと良いご褒美あげるだけだよ?」

……勘弁して頂きたいな、それは。

京介「わーったわーった。 じゃあ、桐乃。 お前花嫁役な」

桐乃「え~? しっかたないなぁ」

141: ◆IWJezsAOw6 2013/09/23(月) 20:39:20.55 ID:epGafhj+0
桐乃「あたしに任せて、京介」

桐乃は言って。

桐乃「あたしは花嫁役だから……じゃあ、京介は花婿役ね」

京介「仕方ねえな。 やれやれ」

京介「桐乃、任せとけ」

俺は言った。

142: ◆IWJezsAOw6 2013/09/23(月) 20:39:47.20 ID:epGafhj+0
そして俺と桐乃は子供のように、笑う。

桐乃の方に体を向けて、お互いに体を寄せて、顔を寄せて。

目を瞑り、顔を少しだけ上に向ける桐乃の体を支えて。

俺は、桐乃にキスをした。

桐乃「ごっこだから途中で止めると思ったんだケド?」

そうは言いつつも嬉しそうな桐乃。

京介「……もし途中で止めてたらどうなってたか教えてくれ」

143: ◆IWJezsAOw6 2013/09/23(月) 20:40:14.70 ID:epGafhj+0
桐乃「決まってんでしょ。 死刑」

良かったよ、最後までして。

京介「ま、じゃあそろそろ帰るか? 旅館」

桐乃「もーちょっと遊びたかったけどね。 黒猫たちも気になるし、そうしよっか」

京介「おう。 じゃあ行くか」

桐乃の手を掴んで、俺たちは教会を出る。

桐乃「……次は、ちゃんとやろうね」

その声は、扉を開けたことによる風で掻き消され、俺の耳には届かなかった。

144: ◆IWJezsAOw6 2013/09/23(月) 20:40:43.02 ID:epGafhj+0
京介「ん? なんか言ったか?」

桐乃「なーんも。 あはは」

京介「……変な奴」

ぼそっと言ったのだが、それはどうやら聞こえてしまったらしく、桐乃は少しムッとする。

桐乃「へえ? ふうん? あそう?」

京介「な、なんだよ?」

桐乃「あたし、京介が黒猫とイチャイチャしてたことはまだ許してないからね?」

145: ◆IWJezsAOw6 2013/09/23(月) 20:41:09.94 ID:epGafhj+0
京介「別にイチャイチャなんてしてねーだろ! どこがそう見えたんだよ!?」

桐乃「だって仲良さそうに、一緒に戻ってきたじゃん」

京介「普通にしてただけだって。 そんなに俺のこと好きなのかよ」

言いながら、頭をぽんぽんと叩く。 するとこいつはこう言った。

桐乃「だってあたしのワンちゃんでしょ。 ほら、ワンワンって言ってみ」

京介「言わないっての……。 俺はお前の犬じゃねーよ!」

桐乃「あーあ。 言ったら許してあげようかと思ったのに」

ってことはあれか。 言わなかったら帰ってからこれより酷い事をされるってのか。

146: ◆IWJezsAOw6 2013/09/23(月) 20:41:44.75 ID:epGafhj+0
京介「……チッ」

俺は短く舌打ちし、続ける。

京介「わんわん」

桐乃「う、うひひ。 それマジで結構可愛いからね。 よしよーし」

背伸びしながら俺の頭を撫でる桐乃。 うむ。 これが見れただけで満足かも。

桐乃「よっし! じゃあ後は家に帰ってからにするとしてぇ」

京介「っと待て。 後ってなんだよ、後って」

147: ◆IWJezsAOw6 2013/09/23(月) 20:42:16.44 ID:epGafhj+0
桐乃「あたしが許したのはさっき「変な奴」って言ったことに関して。 黒いのと一緒にラブラブしてたのは許してない」

ラブラブなんてしてねーってのに。

桐乃「ふひひ~。 なにしてもらおうかなぁ」

と言いながら俺のことを見る桐乃。

……ちょっと楽しみに思え来る辺り、やはりあれだ。 黒猫の言うとおりかもしれん。

まあ、結論としては桐乃とどんな形であれイチャイチャできれば良いんだけども。

148: ◆IWJezsAOw6 2013/09/23(月) 20:42:42.81 ID:epGafhj+0
それから俺と桐乃は旅館へ戻り、沙織と黒猫と合流。

夜飯を食い終わり、風呂にも入り、今は桐乃と部屋で二人きり。

桐乃「いいとこだね、北海道」

京介「飯美味そうに食ってたしな」

桐乃「……そーゆう意味で言ったんじゃないんですケド」

京介「へいへい。 分かってるっての」

桐乃は窓の外を見ながら、ベッドで横になっている俺に向けて言う。

149: ◆IWJezsAOw6 2013/09/23(月) 20:43:09.95 ID:epGafhj+0
桐乃「ね。 ちょっと外、散歩しない?」

京介「こんな時間にか?」

時刻は夜。 夜中とまでは行かないが。

桐乃「いーじゃん。 どうせ行くんでしょ? そんなこと言っても」

京介「まあ、そうだな」

京介「お前が行くっつうなら、付いていくしか無いだろ」

桐乃「えへへ」

振り向き、笑顔を向ける桐乃。 その顔は大人っぽく見えて、時間の経過を感じさせた。

150: ◆IWJezsAOw6 2013/09/23(月) 20:43:35.80 ID:epGafhj+0
京介「上着きろよ。 外、寒いだろうしさ」

桐乃「京介とくっ付いてれば大丈夫じゃない?」

京介「……うっせ」

俺が恥ずかしがっているのを見て、桐乃はまた笑い、上着を手に取る。

桐乃「よっし。 じゃあいこ。 京介」

151: ◆IWJezsAOw6 2013/09/23(月) 20:44:06.25 ID:epGafhj+0
何気ない話をしながら、俺と桐乃は歩く。

並んで、しっかりと手を握って。

……確かに桐乃の言うとおりだったかもしれん。 くっ付いてれば、暖かけえや。

京介「寒くないか? 桐乃」

桐乃「だいじょーぶ」

坂を上り、俺と桐乃は高台へと向かっていた。

特にそこに何があるという訳では無いが、なんとなく景色が綺麗かもしれないと思って。

152: ◆IWJezsAOw6 2013/09/23(月) 20:44:36.79 ID:epGafhj+0
京介「今日は楽しかったか? 桐乃」

桐乃「うん。 楽しかったよ」

京介「また来れると良いな? 桐乃」

桐乃「だね。 また来たい」

……よし。

京介「俺のこと好きか? 桐乃」

桐乃「なに言ってんの。 当たり前……じゃない! 何言わせようとしてんの!?」

153: ◆IWJezsAOw6 2013/09/23(月) 20:45:04.19 ID:epGafhj+0
京介「そこまで言ったなら言えよ……」

桐乃「やーだよー。 ふひひ」

俺が100回好きって言う内に、こいつが好きって言うのは1回あるか無いかだしな。 たまには言って欲しいぜ。

桐乃「なに。 そんな言って欲しいの?」

京介「そう言われると、無理矢理言わせてるみたいで嫌だけどな」

桐乃「……じゃあ、こうしない? この坂上り終えるまでに、あたしを驚かせることが出来たら言ってあげる」

154: ◆IWJezsAOw6 2013/09/23(月) 20:45:32.91 ID:epGafhj+0
京介「じゃあお前一人でちょっと歩けよ。 俺どっかに隠れてるから」

桐乃「そうゆうことじゃないっての! なんて言えば良いのかな……。 感動的な感じで」

……難しい注文するんじゃねえよ。 さすがにそんなのパッとは思い付かないぞ。

京介「じゃあ、後でいきなり抱き締めてやる」

桐乃「それ言わなかったら大丈夫だったかも。 でも今言ったからアウトー」

京介「……ワガママな妹だな、おい」

桐乃「良いじゃん。 妹なんだし」

155: ◆IWJezsAOw6 2013/09/23(月) 20:46:05.12 ID:epGafhj+0
京介「まーな」

さて、どうした物か。

こいつも構えているだろうし、並大抵のことじゃあ驚きそうにねえよな。

頂上まではまだ半分ほど残っているか。 ううむ。

京介「そういやさ、お前から借りてたゲーム……エロゲーじゃない奴。 だけど」

京介「あれ、昨日クリアしたぜ」

桐乃「……ふうん。 それで?」

156: ◆IWJezsAOw6 2013/09/23(月) 20:46:56.41 ID:epGafhj+0
驚けよ。 俺がお前から借りて一週間も経たずにクリアしたんだぞ!? 驚き要素たっぷりじゃねえか。

……まあ、結構面白かったからやり込んでただけなんだけど。

京介「くそ……。 じゃあ、そうだなぁ」

京介「実は、お前の寝顔を毎日写真に収めてたりするんだが」

桐乃「……」

じっとりした目を向けないでくれ。 お前だって、俺が寝てるときに色々写真撮ってたじゃねえか。

157: ◆IWJezsAOw6 2013/09/23(月) 20:47:22.39 ID:epGafhj+0
桐乃「帰ったらチェックね。 ヘンな写真だったら殺す」

京介「……へいへい」

後でパソコンに送って、携帯のは消しておこう。

俺が撮ったのは、色々あるしな。 へへ。

桐乃「次はぁ? ま、京介じゃ無理かぁ~」

わざとらしく口に手を当て、笑う桐乃。 今に見てろよこいつ。

京介「……なら、これはどうだ」

京介「お前に頼まれてたノートパソコン、実は忘れた」

158: ◆IWJezsAOw6 2013/09/23(月) 20:47:48.67 ID:epGafhj+0
桐乃「はぁ!? あたし、あれだけ持って行けって言ったじゃん! 何を聞いてたワケ!?」

……違う方向で驚いたようだな。 はは。

京介「いやだって、他に用意する物だってあったし……」

桐乃「言い訳? ねえそれ言い訳?」

京介「……すんません」

桐乃「チッ……。 折角、北海道でエロゲーできると思ったのに」

その行為にどんな意味があるのか分からない。 多分、エロゲーを極めていないと分からないのだろう。

分かりたくねえな。

159: ◆IWJezsAOw6 2013/09/23(月) 20:48:16.06 ID:epGafhj+0
京介「あー。 着いちゃったな」

無念。 坂は伸びることも無く、呆気なく終わりを迎える。

桐乃「ふひひ。 残念でしたー」

そう言いながら、俺の正面に回り、桐乃は笑う。

京介「……結構マジで悔しいな」

桐乃「もーちょっと頑張ってよ。 あたし、本気だったんだけどなぁ」

そうかいそうかい。 終わってしまえばいくらでも言えるからな。

160: ◆IWJezsAOw6 2013/09/23(月) 20:48:46.43 ID:epGafhj+0
桐乃は近くにあったベンチに腰を掛け、夜景を見ている。

俺はそのすぐ隣に腰を掛け、一緒にそれを眺めていた。

そして、気付く。

……あーあ。 もっと早く気付いていれば、良かったのによ。

京介「桐乃、上見てみろよ」

俺は言い、指を差す。

どれ程の偶然か、どれ程の奇跡か、どれ程の幸運か。

空には、オーロラが広がっていた。

161: ◆IWJezsAOw6 2013/09/23(月) 20:49:13.46 ID:epGafhj+0
桐乃「……」

桐乃は言葉を失って、その光景に見入っていた。

京介「思い出、増えたな」

桐乃「……だね。 うん。 増えた」

桐乃との時間を大切にして、桐乃との時間を幸せでいて、桐乃との時間を愛して。

それは桐乃も恐らく一緒で。

俺と桐乃は、一日一日を大切にしている。

そんな俺たちにとってこの光景は、とても嬉しい物だった。

162: ◆IWJezsAOw6 2013/09/23(月) 20:49:39.74 ID:epGafhj+0
桐乃「これ、知ってたとかないよね?」

桐乃はようやく空から顔を俺に向け、そう訪ねる。

京介「まさか。 んな訳ねえよ」

桐乃「そこで「当たり前だろ」って言わなきゃ」

京介「……当たり前だろ」

桐乃「だから遅いっての! もう良いし」

ほんと、ワガママな奴だぜ。 俺はただ本当のことを言ってるだけだってのに。

163: ◆IWJezsAOw6 2013/09/23(月) 20:50:17.83 ID:epGafhj+0
桐乃「でも、どうだろ」

京介「何が?」

桐乃「んー。 あたしが散歩したくなって、京介が付いて来てくれて。 で、それでこれでしょ?」

京介「まあ、そうだけど」

桐乃「偶然かな、これって。 どう思う?」

京介「また難しい質問だな……」

京介「あー。 あれか。 俺と桐乃の愛の力、みたいな」

164: ◆IWJezsAOw6 2013/09/23(月) 20:50:49.60 ID:epGafhj+0
桐乃「……」

冷めた目で見るなよ。 さすがに俺だって死にたくなるぞ。

京介「なるようにしてなった、じゃねえの」

桐乃「やっぱそう思う? 今日北海道に来たのも、今日オーロラが出たのも、そうかもしれないよね」

京介「だな。 で、桐乃」

京介「……俺は好きだ。 お前のことが」

京介「これはそんな適当なことじゃねえぞ。 そう想って、そう感じて、そう決意して。 俺はお前のことが好きだよ」

165: ◆IWJezsAOw6 2013/09/23(月) 20:51:15.49 ID:epGafhj+0
桐乃「ひひ。 ありがと」

桐乃は空を再度見上げ、最後にこう言った。

桐乃「……今回だけ、サービスね。 京介」

桐乃「好きだよ、京介」

顔を見ずに、桐乃は言う。 横顔だけでも、気持ちは充分に伝わった。


いつかはきっと 終

184: ◆IWJezsAOw6 2013/09/28(土) 22:52:42.73 ID:FUUP7kzh0
5月。 旅行から帰ってきて、ゴールデンウィークが明けて、桐乃は高校へ、俺は大学へ。

そんな、いつも通りの日々に戻ったある日のこと。

始まりは一通のメールで、些細な物だった。

差出人は、黒猫。

From 黒猫
今度の日曜日、私の家で遊ばないかしら?
沙織もその日は用事が無くて、あなたの家でも良いのだけれど……たまにはね。
あの女にも声を掛けておいて頂戴。

俺は気軽に返事をし、何のことも無く遊ぶことになる。

この時はまさか喧嘩になるなんて、思ってもいなくて。

185: ◆IWJezsAOw6 2013/09/28(土) 22:53:28.49 ID:FUUP7kzh0
京介「そういやさ、桐乃」

夕飯を食べ終わり、携帯を操作している桐乃に声を掛ける。 最近になってまたソーシャルゲームにはまっているらしく、暇があればいじっている感じの桐乃。

そんなこいつは、携帯の画面を見たまま返事をした。

桐乃「んー。 なに?」

京介「黒猫がさ、今度の日曜日遊ばないかって言ってるんだよ。 あいつの家で」

桐乃「黒いのの家かぁ……って、ってことはひなちゃんとたまちゃんも居るってことだよね!?」

京介「そりゃそうだけど」

桐乃「行く! 行く行く!!」

186: ◆IWJezsAOw6 2013/09/28(土) 22:54:09.68 ID:FUUP7kzh0
こいつ、黒猫と遊ぶのが目的って感じじゃないな。 明らかにあの妹たちと遊ぶのが目的になってる。

まあ桐乃らしいっちゃ桐乃らしいが……。

京介「はいよ。 んじゃあ桐乃も行けるって伝えとくわ」

桐乃「うん。 よろしく……あ」

にこにこ機嫌が良さそうな顔から一変。 その顔はどんどんと曇っていく。

ええっと……なんか用事でもあったのか?

桐乃「……その日、仕事だった」

187: ◆IWJezsAOw6 2013/09/28(土) 22:54:58.98 ID:FUUP7kzh0
どうやらそうらしい。 高校に行ってからというもの、結構忙しくなってるんだよなぁ。

その合間合間でしっかり新作エロゲーやら、ギャルゲーやらをチェックしているこいつは尊敬に値するぜ。

京介「あー、そうだったのか。 なら、日程ずらしてもらうか」

桐乃「でも、そしたら結構先になっちゃうっしょ? 黒猫の家で遊ぶのって結構レアじゃん」

京介「だけど……お前、行けないんだろ?」

桐乃「まあそうだケド……」

京介「だったら仕方ないだろ。 俺と桐乃はいけねーって伝えとくわ」

188: ◆IWJezsAOw6 2013/09/28(土) 22:55:25.20 ID:FUUP7kzh0
桐乃「あんたは行ってくれば? あたしはベツに良いし。 ひなちゃんとたまちゃんの写メ撮ってきてくれれば良いよ」

どんな条件だよ。 でも言い方を考えると……別に怒っている、というわけでは無さそうだ。

声の調子からして、そんな感じ。

京介「分かったよ。 出来たら撮ってきてやるさ」

桐乃「出来たら、じゃなくて絶対だかんね」

京介「……へいへい」

189: ◆IWJezsAOw6 2013/09/28(土) 22:55:52.41 ID:FUUP7kzh0
ううむ。 どうあいつらに納得させて撮れば良いのだろうか。

桐乃が写真を欲しがっていると言えば、こいつの本性を知っている日向ちゃんや珠希ちゃんには拒否されそうな気がするし。 珠希ちゃんはもしかしたら承諾してくれるかもしれんが。

しかしだな。 問題はそいつらの姉だ。 それを姉である黒猫に聞かれたら断固として撮らせてくれないだろう。

ん……そうだ! ばれないように撮れば良いのか!

いや、それは普通に危ない奴だ。 一歩間違えれば犯罪になってしまうじゃねえか。

ま、なんとかして適当な理由を付けて撮るとしよう。

いざというときは、土下座でもして。

190: ◆IWJezsAOw6 2013/09/28(土) 22:56:19.20 ID:FUUP7kzh0
そして、その日がやってきた。

黒猫が住んでいる社宅。 どうやら沙織は先に居るとのことだ。 その旨を伝えるメールが先ほど届いたから。

で、ドアの前に立ち、インターホンを押す。

それと殆ど同時、扉が勢い良く開かれた。

日向「おっす! 高坂くん!」

京介「うわっ! び、びびった……」

日向「へっへっへ。 もうすぐ来るような気がして、玄関で待ち構えていたんだよ」

191: ◆IWJezsAOw6 2013/09/28(土) 22:56:46.99 ID:FUUP7kzh0
……暇なのだろうか、この中学生は。

京介「俺じゃなかったらどうするんだよ」

そう言うと、日向ちゃんは笑顔で返す。 自身満々で。

日向「いや、大丈夫。 もう何回か間違えてるから」

姉に怒られても知らないぞ、俺は。

192: ◆IWJezsAOw6 2013/09/28(土) 22:57:17.13 ID:FUUP7kzh0
黒猫「何をしているの? そんなところで」

玄関での会話が聞こえたのか、奥から黒猫が顔を出す。

京介「お、悪いな。 遅れちまって」

黒猫「構わないわ。 入って頂戴」

日向「ルリ姉さ~。 もっと素直に喜べば良いのに。 京介が来てくれた、うふふって」

黒猫「……」

日向「あ、分かった。 キリ姉が居ないから楽しそうじゃないんだ。 いっつも桐乃が桐乃がって言ってるもんね~」

193: ◆IWJezsAOw6 2013/09/28(土) 22:57:42.74 ID:FUUP7kzh0
黒猫「……黙ってくれないかしら?」

日向「あれぇ。 もしかして怒ってる? だって本当のことだし仕方ないじゃん。 チャットとかしてるとき、すっごく楽しそうだし、笑ってるし」

ピキ、という擬音が聞こえた気がする。

黒猫「黙れ」

……あーあ。 だから俺はあれほどその辺でやめておけと言ったのに。 目でな。

黒猫「くっくっく……」

黒猫の声のトーンが下がり、不気味な笑い声を出す。 非常事態を察したのか、日向ちゃんは引き攣った笑いをしながら俺の後ろへと隠れた。

194: ◆IWJezsAOw6 2013/09/28(土) 22:58:08.96 ID:FUUP7kzh0
黒猫「……仕方ないわね。 あなたごと、焼き払うわ」

俺巻き添えかよ!? まだ一歩も家の中に足を踏み入れていないというのに!?

京介「おい、俺が被害を被るのはごめんだ。 大人しく黒猫に焼き払われろ」

日向「ひど! そこは男らしく庇ってよ。 日向、お前は俺が守ってやるぜ。 みたいな感じで」

京介「やだよ。 黒猫怖いもん」

日向「……」

そのゴミを見るような目を見ると、なんだか桐乃を思い出すぞ。 よくそんな視線を向けられていた気がする。

今でも俺があまりにも調子乗ると、たまにしてくるけど。

195: ◆IWJezsAOw6 2013/09/28(土) 22:58:37.64 ID:FUUP7kzh0
黒猫「さぁ、覚悟は良いかしら?」

そう言い、部屋の中で何やら詠唱を始める黒猫。

ううむ、なんだこの家。

日向「……ちょ、ちょっと待ったルリ姉!! それはマズイって!!」

と言い、先ほどまで隠れていた背中から飛び出し、黒猫の元へと日向ちゃんは走って行く。

……これも、一連の流れなのだろうか?

196: ◆IWJezsAOw6 2013/09/28(土) 22:59:05.15 ID:FUUP7kzh0
黒猫「ふふふふふふ。 もうこうなったらわたしでも止められないわ。 詠唱は勝手に進んでしまう……そして、あなたの恥ずかしい秘密を一つ一つ唱え始めるわ」

恐ろしすぎる呪文だった。 俺もあまり黒猫に喧嘩を売るとその呪文を唱えられてしまうのだろうか。

日向「す、ストップ!! そういうことばっかしてるからたまちゃんがおかしくなっちゃうんだって!!」

ん? たまちゃんって……珠希ちゃんのことだよな? おかしくなるって、なんだ?

黒猫「……そ、そうだったわ」

黒猫は慌てて禍々しいオーラを収め、こほんと小さく咳払い。

197: ◆IWJezsAOw6 2013/09/28(土) 22:59:32.89 ID:FUUP7kzh0
黒猫「気をつけないと、いけないわね」

日向「そうだよ。 たまちゃんまでルリ姉みたいになっちゃったら、あたしだけじゃ面倒見切れないって」

黒猫「でも、それとこれとは別よ。 特別に肉体的な躾だけで今回は勘弁してあげるわ」

日向「……へ?」

冷や汗を掻く日向ちゃんにヘッドロックをし、黒猫は耳元で何かを呟いている様子だった。

日向ちゃんの顔は見る見る青ざめていき、俺は正直、もう帰りたいと思っている。

198: ◆IWJezsAOw6 2013/09/28(土) 23:00:59.17 ID:FUUP7kzh0
それから落ち着き、ようやく部屋の中に通され、黒猫と沙織と日向ちゃんと……珠希ちゃん。

なんだろう。

珠希「どうしたんですか? おにいちゃん」

喋り方は、前とはそりゃあ少しは変わった。 でも俺に対する呼び方だとか、そういう物は全く変化が無い。

それはあくまでも言葉だけであって、だけであって。

……その頭に被っているいかにもな帽子はなんだ。

まるであれだ、魔女の帽子みたいな……。

199: ◆IWJezsAOw6 2013/09/28(土) 23:02:49.18 ID:FUUP7kzh0
京介「珠希ちゃん、その帽子は?」

突っ込まずにはいられない!!

珠希「これはですね、まりょくをたくわえるのに使うんです」

京介「は、はは……そうなのか……はは」

やべえ、影響もろに受けてるじゃねえか。 責任重大だぞ黒猫ぉ!

思いながら黒猫を見ると、他所他所しく視線を逸らす。 まるで、わたしの所為ではありませんと言っている様に。

200: ◆IWJezsAOw6 2013/09/28(土) 23:03:48.72 ID:FUUP7kzh0
黒猫「わたしの所為では無いわ。 珠希には元々その才能があったということよ」

マジで言いやがった。 しかも才能とか言いやがったぞこいつ。

つうかだな……どう考えてもお前の責任じゃねえか。

沙織「はっはっは。 姉妹仲が良さそうで、何よりですな」

全く持ってその通り。 悪い方向でな。

京介「……日向ちゃん、二人を宜しく頼むぞ」

日向「任せといてって! ルリ姉はもう年齢的に無理だけど、たまちゃんだけは何とかするから」

201: ◆IWJezsAOw6 2013/09/28(土) 23:04:43.11 ID:FUUP7kzh0
ああ、そういえば黒猫も大学生か。 時が経つのは早い物だ。

黒猫「先輩。 今失礼なことを考えていたでしょう」

京介「考えてねえよ。 俺はただ時が経つのは早いなあって……」

黒猫「本当に?」

京介「……う」

この嘘を鋭く見破ってくる辺り、桐乃にそっくりだぜ。

心の奥底で思っていたことを突いて来やがる。

202: ◆IWJezsAOw6 2013/09/28(土) 23:05:43.36 ID:FUUP7kzh0
黒猫「まぁ、良いわ。 それより本題に入りましょう」

助かった。 命拾いとはこのことだな。

てか、本題? 今日ってそんな話す内容がある集まりだったっけか?

沙織「そうですな。 今日はあれですからな」

京介「……あれって?」

沙織「まさか分からないのですか!? 京介氏!」

な、なんだってんだ。 なんだか分かってない俺がおかしいみたいな流れだぞ。

203: ◆IWJezsAOw6 2013/09/28(土) 23:06:42.60 ID:FUUP7kzh0
助けを請うように二人の妹へと視線を移す。 すると、二人ともにきょとんとした表情をしていた。

それも最初の内だけで、数秒した後、日向ちゃんが口を開く。

日向「あ、ああ! あれだね! うんうん」

……なるほど、そういう流れってわけか。 合わせるのが下手すぎるぜ日向ちゃん。

京介「はいはい。 で、その本題って何だよ? そんな大事なことか? それともただ言ってみただけか?」

黒猫「どちらかと言えば、前者ね。 まぁ、ただ全員のお宝を見せあいましょうと言うことよ」

沙織「ほほー。 なるほどですな」

お前、さっきまで知ったような顔をしてたのに。

204: ◆IWJezsAOw6 2013/09/28(土) 23:07:13.76 ID:FUUP7kzh0
京介「って言われても、そんなの今知ったから何も持ってきて無いぞ?」

黒猫「なら話だけでも構わないわ。 予め言っておくけれど……」

黒猫は途中で言葉を区切ると、日向ちゃんと珠希ちゃんの方に一瞬意識を移したように見えた。 で、こう続ける。

黒猫「今回見せ合うのは人では無いわよ。 分かったわね」

恐らく、気を使ってくれたのだろう。 多分それには惚気るなという意味合いも含まれていそうだけど。

京介「宝物、か」

そういや、そういえば。

205: ◆IWJezsAOw6 2013/09/28(土) 23:07:40.17 ID:FUUP7kzh0
俺ってそういうの、無いんじゃないのか?

黒猫の言うところの『宝物』って、俺には。

物じゃなければ当然ある。 だけど、しっかりとした形としての『宝物』は……。

あった。

ひとつ、あった。

……だけど、言えねえ! これは言えないぞ!

206: ◆IWJezsAOw6 2013/09/28(土) 23:08:07.68 ID:FUUP7kzh0
沙織「では、拙者から」

俺が答えに窮しているのを察したのか、沙織は名乗りをあげる。 物じゃなけりゃあ、俺にとってはお前らも大切な宝物だよ。

沙織「拙者はやはり、自身が作ったSNSですな。 それが拙者の『宝物』でござるよ」

……少し、驚いたな。

俺的にはその眼鏡を『宝物』と言うのだと思ったんだが。

まあ、それにも沙織なりの想いや事情、言い分はあるのだろう。

そしてそれは俺や黒猫、部外者が口を挟んで良いことでも無いのかもしれない。

207: ◆IWJezsAOw6 2013/09/28(土) 23:08:44.00 ID:FUUP7kzh0
京介「ってか、それってありなのか? なら俺は----------」

黒猫「私たちのことをそうだと言ってくれるのは有難いわ。 でも、もう駄目よ。 沙織の場合は自分で作った物だから、ね。 あなたの場合は少し違うでしょう?」

そう言われればそうかもしれないけどさ。

黒猫「私の次はあなたよ? 先輩。 もしかして『宝物』があなたには無いのかしら? ふふ」

……くそ。 自分でそう言うからには、こいつは大層立派な『宝物』を持っているのだろう。 くだらない物だったら怒るぜ、俺。

京介「ほお。 よし、だったら見せてみろよ。 黒猫さんよぉ」

黒猫「良いわ。 少し待っていなさい」

208: ◆IWJezsAOw6 2013/09/28(土) 23:09:10.45 ID:FUUP7kzh0
黒猫は言うと、一旦その場から離れる。 恐らく本当にそれは物で、自分の部屋にでも仕舞ってあるのだろう。

一体どんな物が来るのだろうか?

もしかしたら日向ちゃんや珠希ちゃんは知っているのか? そんなことを思い、二人の方に顔を向けたが。

日向「……」

珠希「……」

二人揃って、口を固く閉ざしている。 釘を刺されている、と考えるのが妥当か。

諦めて沙織の方へ顔を向ける俺だったが、沙織もどうやら口を開く気は無いらしい。 もっとも、こいつが知っているという可能性は低いけれど。

で、それから一言も会話は無く、程なくして黒猫が戻ってきた。

209: ◆IWJezsAOw6 2013/09/28(土) 23:09:42.89 ID:FUUP7kzh0
黒猫「お待たせしたわね。 私の『宝物』はこれよ。 刮目しなさい」

……一体どんな物が飛び出すかと思ったが。

ふっつーに、なんの新鮮さも無い物。 こう言っちゃあれだが、俺にとってはもう見慣れた物。

そりゃあの妹様が居るからな。 一日一回は目にしているかもしれない物。

同人誌だったってわけだ。

そして、俺は口を開く。

210: ◆IWJezsAOw6 2013/09/28(土) 23:10:10.70 ID:FUUP7kzh0
それには多分、黒猫に先ほど煽られた所為か、それともくだらない見栄か。

それとも、俺はそういう奴だったのかもしれない。

何の考えもせずに、俺は言った。

京介「おいおい、散々言ったわりにはただの同人誌じゃねえか。 それがお前の『宝物』かよ?」

211: ◆IWJezsAOw6 2013/09/28(土) 23:10:37.30 ID:FUUP7kzh0
言って、俺は黒猫の方へ顔を向ける。

目は少し驚いたように開いていて、俺はその表情へと逆に驚かされた。

黒猫は唇をぎゅっと噛み、その表情は。

今にも泣き出しそうな物だったからだ。

212: ◆IWJezsAOw6 2013/09/28(土) 23:11:05.03 ID:FUUP7kzh0
さすがの俺でもマズイと思い、慌てて視線を逸らす。 紛れも無く、逃げる為だったのだろう。

逃げた先には日向ちゃんの顔があり、いかにも「お前、それは言っちゃ駄目だよ」みたいな顔。

沙織は何も言わず顔を伏せていて、珠希ちゃんは事態が良く分かっていないのか、背表紙に「暗黒魔導ノ書 序章」等と書かれている本を読んでいる。

その分厚さで序章かよ、とツッコミを入れたくなってしまうが、そんなことをした所でこの場の空気は変わらない。 それほどまでに、俺の言葉は失言だったという訳だ。

そして黒猫はようやく、口を開いた。

黒猫「……すぐに、帰って頂戴」

結局その日、俺は俺の『宝物』を話すことは無かった。


時にそれは 終

217: ◆IWJezsAOw6 2013/09/29(日) 00:49:04.53 ID:QoQQXK3F0
京介「……はぁ」

結局俺は黒猫に謝る暇すら与えられずに、別れることとなった。

いや……違うか。 黒猫は待っていたのかもしれない。 だけど、その場の空気に圧されて俺が逃げただけのことだろう。

時刻は夕方。 夜と言っても良いかもしれない。 窓から見える空は、暗い。

沙織からは連絡があった。 俺をフォローする内容だったが、それが今の俺には逆に辛いことにも思える。 だってそうだろ。 悪いのは明らかに俺だから。

……明日にでも、しっかり謝らないとな。

黒猫がどんな想いをしたのか、俺はどんな想いでそれを言ってしまったのか、あれから時間が経って、ようやく俺は理解した。

218: ◆IWJezsAOw6 2013/09/29(日) 00:49:31.46 ID:QoQQXK3F0
一度電話した方が良いのか? いや、でも逆にそれだと更に怒らせてしまいそうだし。

あー、くそ。 どうすりゃ良いのか分からないぜ。 桐乃の場合だったら、こんな時……。

違う。 違う違う。 相手は桐乃じゃないんだ。 黒猫なんだよ。 俺が考えるべきはそうじゃないんだ。

……分からねえよ。 どうすりゃ良いのか。

「たっだいまー」

その声を聞いて、時計に目をやる。 言われていた時間よりは早い。 桐乃の声は機嫌が良さそうだし、仕事がスムーズに終わったとかそんなところだろう。

桐乃にどんな話をすれば良いのかさえ、分からない。 どんな顔をして「黒猫と喧嘩した」なんてことを言えば良いのかも、分からない。

219: ◆IWJezsAOw6 2013/09/29(日) 00:49:57.69 ID:QoQQXK3F0
桐乃「ちょっとシカト? って、部屋暗ッ! あんたなにしてんの?」

元気な奴だぜ。 別に部屋の電気を付けるのが面倒だっただけだっての。

桐乃「……」

桐乃は部屋を一度見回し、言う。

桐乃「今日、お風呂掃除あんたの番でしょ。 あたし仕事だったんだから。 なんでやってないの?」

京介「そりゃ……悪い」

桐乃「洗濯物も取り込んで無いし。 ご飯も炊けてないし」

京介「……すまん」

220: ◆IWJezsAOw6 2013/09/29(日) 00:50:30.71 ID:QoQQXK3F0
悪い癖だ。 俺の気持ちひとつで、桐乃に迷惑を掛けるなんて。

桐乃「ひなちゃんとたまちゃんの写真は?」

京介「あ……わり、忘れてた」

桐乃「……はぁ。 ま、ベツに良いけどさ。 とりあえず」

桐乃は言って、座り込む俺の目の前にしゃがみ込み、こう言った。

桐乃「ただいま。 京介」

221: ◆IWJezsAOw6 2013/09/29(日) 00:51:57.39 ID:QoQQXK3F0
……ずるい奴だよ。 俺の妹は。

そんな俺に気を使うんじゃねえよ。 泣いちまうじゃねえか。

桐乃「チッ……泣くなってーの。 ほら、可愛い妹がただいまって言ってるんですケドぉ」

京介「……おう。 そうだな……。 おかえり、桐乃」

桐乃は俺の言葉を聞くと、一度笑い、すぐ隣に腰を掛ける。

何も言わずに、何分も何分も桐乃はそうしていた。

そんな桐乃に俺が事情を話始めたのは、情けないことに一時間程経ってからだ。

222: ◆IWJezsAOw6 2013/09/29(日) 00:53:24.61 ID:QoQQXK3F0
桐乃「はぁ~。 それで黒いの怒らせたってワケ?」

京介「……まあな」

桐乃「サイテー。 馬鹿すぎっしょ。 あんたそれで黒いのがどれだけ悲しかったか分かってんの?」

京介「今になって、やっと分かったよ。 明日、ちゃんと謝るつもりだ」

桐乃「そんなの当たり前だから。 それすらしなかったらぶっ飛ばしてるから」

桐乃が怒るのも無理は無いことだ。 表面上では喧嘩をしてばかりの二人だけど、親友なのだから。

223: ◆IWJezsAOw6 2013/09/29(日) 00:54:16.46 ID:QoQQXK3F0
京介「……悪いな、桐乃」

桐乃「あたしに謝ってどうすんのよ! はぁ……京介ってほんっと、情けないよねぇ~」

ああ、そうだよ。 もう好きなだけ言ってくれや。

でもこうして思いっきり言ってもらえるのは、今の俺にとってはありがたいことなのかもしれない。 少しキツすぎる気もするが。

京介「……そうだな」

桐乃「ふん」

部屋は未だに暗いままで、殆ど灯りと呼べる物は無かった。

そんな中、桐乃が立ち上がる。 物音で、雰囲気で、それが分かった。

224: ◆IWJezsAOw6 2013/09/29(日) 00:55:18.01 ID:QoQQXK3F0
京介「桐乃……?」

桐乃「なにぼさっとしてんの。 行くよ」

京介「行くって、どこに?」

桐乃「決まってんでしょ。 黒いののとこ」

京介「い、今からか?」

桐乃「今じゃなくていつ行くの? 明日とか言ったら蹴り飛ばす」

京介「……ああ、そうだ。 今、だよな」

一生適わないぜ、この妹には。

225: ◆IWJezsAOw6 2013/09/29(日) 00:56:28.83 ID:QoQQXK3F0
京介「でも、俺一人で行ってくるよ。 俺の問題だから」

そう言いながら立ち上がったところで、桐乃に両手で顔を挟まれる。

桐乃「却下。 あんた一人じゃ絶対うまく言えないから」

京介「……だけど」

桐乃「はぁ。 確かにさ」

桐乃はそのままの姿勢で続ける。

桐乃「今回のことは京介が悪いよ。 言って良いことと悪いことがあるしね。 親しき仲にも礼儀ありって言うし」

お前がそれを言うのかよ。 はは。

226: ◆IWJezsAOw6 2013/09/29(日) 00:57:02.38 ID:QoQQXK3F0
桐乃「んで、誰がどう見たって悪いのはあんた。 それは分かった?」

京介「ああ、分かってる。 だから、お前を連れては……」

桐乃「だけど、あたしは京介の味方だから。 前に言ったじゃん。 あたしだけはあんたの味方だって」

京介「……桐乃」

桐乃は笑って、最後に。

桐乃「だから京介。 あたしに任せて」

そう、言った。

227: ◆IWJezsAOw6 2013/09/29(日) 00:57:47.83 ID:QoQQXK3F0
それから俺と桐乃は一緒に家を出て、黒猫の家へ。

桐乃「実はさ、ちょっと気になったんだよね」

京介「気になった? 何が?」

桐乃「黒いののこと。 確かに京介が言ったのは酷いことだけどさ」

抉られる抉られる。 心が抉られるぜ、桐乃。

228: ◆IWJezsAOw6 2013/09/29(日) 00:58:51.41 ID:QoQQXK3F0
桐乃「でも、それでも……それであいつがそこまで怒る物なのかなーって、思う」

京介「そりゃ、お前だって大切にしてる物に嫌味みたいな言い方されたら怒るだろ?」

桐乃「それはあたしの場合。 黒猫の場合は違うんじゃない?」

京介「そう、なのか?」

桐乃「うん。 しつこく言ったらさすがに怒ると思うけどね。 だけど、一回くらいで怒るとは思えない」

京介「つっても、現にあいつは怒ってた訳だしよ……」

229: ◆IWJezsAOw6 2013/09/29(日) 01:11:57.00 ID:QoQQXK3F0
桐乃「だーかーら。 それが気になるの。 なんでだろうって」

桐乃「多分、あたしたちが思っている以上に大切な物なんじゃないかな。 その『宝物』って奴」

……そうだろうな。 そうだよな。

黒猫が言う『宝物』。 それは、それには黒猫の想いが、込められているのだから。

京介「……そう考えると、俺って本当に酷いことしちまったな」

桐乃「はぁ。 いつまでもうじうじしてないでよ。 あたしがそうゆう風に落ち込むとチョー頼りになるのにさぁ。 自分のことだとほんと駄目だよね、あんた」

京介「自分のことだから、じゃねーの」

230: ◆IWJezsAOw6 2013/09/29(日) 01:13:28.13 ID:QoQQXK3F0
桐乃「そうかもね。 でも、だからあたしが居るんでしょ」

京介「……だな。 ありがとよ」

もう少し、しっかりしねえとな。

桐乃「ふひひ。 じゃあお礼頂戴ね」

京介「……どんな?」

桐乃「それを考えるのが京介の仕事。 あたしが喜ぶ物ね」

京介「へいへい。 分かったよ、考えておく」

桐乃「ひひ」

231: ◆IWJezsAOw6 2013/09/29(日) 01:14:16.61 ID:QoQQXK3F0
そんな会話をしている内に、黒猫が住んでいる社宅の前へと到着。

桐乃「よし。 んじゃ、電話して呼ぶから」

京介「……おう」

一番最初に言うべき言葉。 それは分かっている。

後は、なるようになるだろうさ。

桐乃は俺から少し離れ、電話を掛ける。

その電話自体は数分で終わり、桐乃は黙って俺の横へと来た。

待っていろと、言うことだろう。

232: ◆IWJezsAOw6 2013/09/29(日) 01:15:24.27 ID:QoQQXK3F0
それから数分して、見慣れた姿が視界に入る。

服装はいつものジャージ。

黒猫は俺の顔を見ると、申し訳無さそうに顔を逸らした。

気付けばすぐ目の前まで来ていて、俺は黒猫に向けて口を開く。

黒猫「ごめんなさい」

開こうとしたところで、黒猫が言う。

てか、ごめんなさい?

233: ◆IWJezsAOw6 2013/09/29(日) 01:16:08.48 ID:QoQQXK3F0
京介「な、なんでお前が謝るんだよ。 悪かったのは俺だっての」

京介「ごめんな、黒猫」

黒猫「いえ、そうじゃないわ。 私も悪かったわよ」

黒猫「普段なら冷静に流せたはずなのだけど……。 つい、頭に血が上ってしまって。 ごめんなさい」

京介「だから、そうさせたのは俺じゃねえかよ。 ごめんな」

黒猫「……ああもう。 そういうことでは無くて」

埒が明かないやり取りをしていたところ、桐乃がそれに割って入る。

234: ◆IWJezsAOw6 2013/09/29(日) 01:16:58.76 ID:QoQQXK3F0
桐乃「あんたらどれだけ謝りたいの? なんならあたしに謝ってみる? ひひ」

黒猫「……そうね。 あなたも巻き込んでしまって、ごめんなさい」

桐乃「ちょ、マジで謝るなっての……」

黒猫「あなたがそうしろと言ったのでしょ?」

桐乃「そうだケド……」

京介「……く、くく。 ははは」

桐乃「笑うなッ!」

桐乃の鋭い蹴りが俺のケツへと入る。 酷い奴だぜ。

235: ◆IWJezsAOw6 2013/09/29(日) 01:18:13.01 ID:QoQQXK3F0
黒猫「……はぁ。 私としたことが、迷惑を掛けたわね。 本当に」

京介「うし。 んじゃあ黒猫、仲直りだ」

俺は言うと、黒猫へと手を差し伸ばす。

黒猫はそれを見て、笑って、ゆっくりとその手を握った。

何故か恋人繋ぎで。

黒猫「そうね。 仲直りの握手よ」

桐乃「……」

横から殺気を感じるぞ。 顔を向けるのが怖い。

236: ◆IWJezsAOw6 2013/09/29(日) 01:18:41.50 ID:QoQQXK3F0
京介「あ、あー。 はは、そ、そうだな」

無理矢理解くのも、何だか先ほどまで喧嘩をしていたのもあり気が引けてしまう。 そして、それが余計に桐乃からの殺気を増大させている訳だが。

桐乃「……」

こいつもこいつで、仲直りの握手という名目がある以上、口を挟んでこないのだろう。 多分。

黒猫「ふふ。 それではお茶でも出すわ。 家の中へ入りましょう、先輩」

そう言い、黒猫は俺の手を引いて歩き出す。 桐乃を放置して。

桐乃「ちょ、ちょっと待った!! あたしのことをシカトとかどうゆう了見なワケ!?」

黒猫「あら、居たの? ごめんなさい、気付かなかったわ」

桐乃「嘘吐けッ! さっきまでふっつーに話してたでしょ!」

237: ◆IWJezsAOw6 2013/09/29(日) 01:19:08.19 ID:QoQQXK3F0
黒猫「用件が済んだので帰ったと思ったのよ。 ふふふ」

……なんか、傍から見たら修羅場みたいに思えるんじゃないのか、この光景って。

京介「喧嘩すんなって! な!?」

桐乃「あんたもあんたでいつまで手繋いでんの!? 早く離せ!!」

それを聞いた黒猫は、俺の手を握っていた手を解く……と見せかけて一段と強く握り締める。

黒猫「厭ね。 嫉妬深い女はこれだから」

桐乃「良いからはーなーせ!」

238: ◆IWJezsAOw6 2013/09/29(日) 01:19:36.14 ID:QoQQXK3F0
黒猫「どうして?」

桐乃「あ、あたしが気に入らないから」

黒猫「あらそう。 でもごめんなさい。 私はこうしていたいのよ。 ふふ」

桐乃「は、はぁ? あんたなに言っちゃってんの?」

黒猫「でも、桐乃が京介と手を繋ぎたいと言うのなら、私はこの手を離すわ。 どうなのかしら?」

……こいつは、全く。

桐乃「あたしは……あたしは」

桐乃「つ、つなっ……繋ぎ……」

239: ◆IWJezsAOw6 2013/09/29(日) 01:20:03.89 ID:QoQQXK3F0
おお、可愛い。 口をぱくぱくさせて必死に言おうとしてる。 ちょっとこれ、動画として保存しておきたいな。

桐乃「繋ぎたいわけあるかッ!!」

桐乃は叫び、俺の足を蹴飛ばす。

京介「いってえ! お前なぁ!」

分かってる、分かってるぜ京介。 あれは照れ隠しのはずだ。 恥ずかしくなって行き場の無くなった感情が俺にぶつけられただけの話だ。

240: ◆IWJezsAOw6 2013/09/29(日) 01:20:29.93 ID:QoQQXK3F0
桐乃「ぼさっとしてないで黒いのの部屋行くんでしょ!? ちゃっちゃ足動かせ!」

桐乃は言うと、俺と黒猫を置いてそそくさと社宅の中へ。

黒猫「……全く、やれやれね」

黒猫「あなたの苦労も計り知れないわね、先輩」

黒猫は俺から手を離し、顔を向けるとそう言った。

京介「……分かってくれるか」

黒猫「でも、そうね」

黒猫「もしかしたら、私もあんな妹が欲しかったかもしれないわ」

241: ◆IWJezsAOw6 2013/09/29(日) 01:21:29.45 ID:QoQQXK3F0
京介「あんなワガママで生意気な奴だぞ?」

黒猫「……私も先輩も、今回のことは桐乃に助けられたのかもしれない」

黒猫「だから、そう思ってしまうのかしら。 桐乃みたいな妹が欲しいって」

京介「どーだかな。 俺としちゃあ、日向ちゃんや珠希ちゃんみたいな良い妹が居るお前は羨ましいよ」

黒猫「そう。 それなら妹を交換してみる? ふふ」

黒猫は意地悪く笑い、言う。

京介「悪いが、断らせてもらう」

京介「俺の妹は、あいつだけだからな」

242: ◆IWJezsAOw6 2013/09/29(日) 01:22:20.37 ID:QoQQXK3F0
他に居やしないし、代わりなんてのも存在しない。

俺は兄で、桐乃は妹で。

家族で。

兄妹で。

俺はたまに馬鹿やって。

桐乃は桐乃で馬鹿やって。

時に助けられたり、助けたり。

あいつの為なら、なんだってできる。

243: ◆IWJezsAOw6 2013/09/29(日) 01:23:10.75 ID:QoQQXK3F0
アニメやゲームが大好きで。

すっげーワガママで。

俺にきつく当たることなんてしょっちゅうで。

……時々素直になったりして。

何事にも一生懸命で。

しっかり筋を通して。

努力を惜しまなくて。

負けず嫌いで。

そんなあいつの為になら、俺はなんだってできるさ。

俺が世界一大切にしたいあいつの為になら。

244: ◆IWJezsAOw6 2013/09/29(日) 01:23:36.38 ID:QoQQXK3F0
桐乃「なーんか久し振り。 この家来るのも」

それから黒猫に部屋まで通され、俺と桐乃はそれに甘えてくつろぎ中。

京介「そうだっけか? この前も来たじゃねえか」

桐乃「……そういえばそうだったカモ。 嫌なこと思い出させないでよ」

桐乃が言う嫌なことってのはあれだ。 日向ちゃんに怪しまれたときのことだ。

普通、兄と妹が恋愛関係になっているなんて予想する奴がいるか? 驚いたぜ、俺はあの時。

その鋭さも姉譲りって訳だ、あの妹さんは。

まあ、その場はなんとか凌げたんだけどな。 あの日は疲れたぜ。

245: ◆IWJezsAOw6 2013/09/29(日) 01:24:16.82 ID:QoQQXK3F0
黒猫「お茶、入ったわよ」

黒猫が言い、テーブルを挟んで向かい合いながら座る俺と桐乃にお茶を差し出す。

京介「おう、さんきゅ」

桐乃「ご苦労ご苦労。 下がって良いよ」

酷い言い方だ。 ここは黒猫の家で、わざわざお茶を出してくれたのにこれだぜ。

黒猫「はぁ。 それで、あなた達どうするの? 泊まっていくかしら? もう結構遅い時間でしょう?、どうせなら……」

246: ◆IWJezsAOw6 2013/09/29(日) 01:25:02.27 ID:QoQQXK3F0
桐乃「大丈夫だって。 それとも寂しいの? ぷ」

黒猫「そ、そんな訳無いでしょう」

京介「はは……あ、そういや日向ちゃんと珠希ちゃんは?」

俺が言うと、桐乃がテーブルの上に身を少し乗り出し、口を開く。

桐乃「そうそう! それあたしも気になってた! あたしの妹たちはどこに行ったの!?」

黒猫「あなたの妹じゃないでしょう……。 それと、もう少し静かにして頂戴。 二人とももう寝ているわ」

247: ◆IWJezsAOw6 2013/09/29(日) 01:25:43.51 ID:QoQQXK3F0
桐乃「……ごめんごめん」

桐乃「……あーあ。 ならわざわざ家まで来た意味無かったぁ」

お前それが本音か!? まさか俺の為とかじゃなくて黒猫の妹目的だったのか!?

京介「お前、もうひとつ気になることがあるんじゃなかったのかよ?」

その言葉を聞き、ようやく思い出したのか、桐乃は小さく「あ」と声を漏らした。

桐乃「そーだった。 黒猫、ちょっとひとつ聞きたいことあるんだった」

248: ◆IWJezsAOw6 2013/09/29(日) 01:26:25.82 ID:QoQQXK3F0
黒猫「何かしら?」

桐乃「あんたの『宝物』って、そんな大事な物なの?」

随分ストレートに聞く奴だな。 俺としちゃあ、それで喧嘩したのもあり、若干気まずいんだが。

その言葉に黒猫は少しの間黙り、ようやく口を開いた。

黒猫「……分かったわ。 今回はあなたにお礼を言わなければいけない立場だから、仕方ないわね」

249: ◆IWJezsAOw6 2013/09/29(日) 01:27:14.44 ID:QoQQXK3F0
黒猫「これ、あなたなら知っているでしょう? 桐乃」

黒猫は言いながら、昼間に見せた物と同じ同人誌を桐乃に見せる。 それは紛れも無く、黒猫の『宝物』だ。

桐乃「……それって」

黒猫「そうよ。 あなたが思っている物で間違い無いわ」

京介「え、えっと? わり、話が全く見えないんだが」

桐乃「……ふん」

桐乃は頬を赤く染めると、俺と黒猫から顔を逸らす。

250: ◆IWJezsAOw6 2013/09/29(日) 01:27:41.00 ID:QoQQXK3F0
京介「……黒猫? それって」

黒猫「ふふ。 これは貰い物なのよ。 桐乃からの、ね」

京介「そうだったのか……」

なるほど、そういうことか。

黒猫があれだけ怒った理由も納得行ったぜ。 それは正真正銘、大事な物なのだろうから。

黒猫「そうよね? 桐乃」

黒猫が笑いを堪える様に聞くと、すぐさま桐乃は答える。

251: ◆IWJezsAOw6 2013/09/29(日) 01:28:48.40 ID:QoQQXK3F0
桐乃「し、知らないし」

自分がプレゼントした物が『宝物』と言われているんだ。 そりゃ、こいつだって恥ずかしいよな。

京介「……改めて、ごめんな。 黒猫、桐乃」

黒猫「もう良いと言っているでしょう。 止めて頂戴」

桐乃「チッ……」

こんな感じで、今回の話は幕を閉じる。

252: ◆IWJezsAOw6 2013/09/29(日) 01:29:19.40 ID:QoQQXK3F0
と、思ったのだが。

黒猫「それより先輩。 あなたの『宝物』をまだ聞いていないわ。 教えて頂戴」

桐乃「あ! それあたしもちょっと気になる。 京介って趣味とか全然無いじゃん? だから」

京介「そ、それはもう良いだろ? 俺の『宝物』はお前ら仲間だよ。 はは」

黒猫「……」

桐乃「……」

蔑んだ視線を浴びせるんじゃねー! 俺だって恥ずかしい台詞を言っているのは分かってるっつの!

253: ◆IWJezsAOw6 2013/09/29(日) 01:30:23.10 ID:QoQQXK3F0
京介「……言わなきゃ駄目か?」

黒猫「ええ。 教えて頂戴。 私も沙織も言ったのだから」

京介「わーったわーった。 じゃあ黒猫」

俺は言い、黒猫を手招き。

桐乃「はぁ? なに内緒で話そうとしてんの?」

京介「いやいや。 だってお前は『宝物』教えてくれねーじゃん。 あるだろ?」

桐乃「あるケド……ふん」

254: ◆IWJezsAOw6 2013/09/29(日) 01:31:18.30 ID:QoQQXK3F0
京介「桐乃が言えば、お前にも教えてあげるんだけどなぁ」

桐乃「ふ~ん。 ベッツに京介のに興味なんて無いから」

へいへい。 そーですかっと。

黒猫「ふふ。 では、私だけ聞かせて貰うとするわ」

そう言い、俺の方に耳を寄せる黒猫。

俺は少しだけ……本当に少しだけだぞ? あまり近づくと桐乃を本気で怒らせるから。

で、こう言った。

255: ◆IWJezsAOw6 2013/09/29(日) 01:31:44.65 ID:QoQQXK3F0
京介「……俺のはあれだ。 前に貰った奴だよ。 桐乃から」

黒猫「……なるほど。 似た者同士だったということね。 私も、あなたも」

京介「……まーな。 本人には恥ずかしくて言いたくねえけどさ」

黒猫「……そうね」

それは俺が初めて桐乃から貰った物。

世間一般では受け入れられない物なのかもしれないが、大切な物。

妹から貰った初めてのプレゼントがエロゲーってのも、どうかと思うがな。

256: ◆IWJezsAOw6 2013/09/29(日) 01:32:27.16 ID:QoQQXK3F0
桐乃「……」

京介「なんだよ? そんな睨んでも教えねーぞ」

桐乃「……う、ううう」

桐乃はやがてテーブルを軽く叩き、俺の方をじっと見つめながら言った。

桐乃「やっぱ教えろ。 納得いかない」

黒猫「あらあら。 あなたが納得いかないのは、先輩の『宝物』を教えて貰えないことかしら? それとも……」

桐乃「うっさい! 良いからあたしにも教えて」

京介「じゃ、じゃあお前のも教えろよ?」

257: ◆IWJezsAOw6 2013/09/29(日) 01:33:36.44 ID:QoQQXK3F0
桐乃「やーだ」

言いながら唇を尖らせる。 子供っぽい仕草が何だか面白おかしい。

黒猫「全く。 あなたの我侭っぷりも行くところまで行ったわね」

桐乃「我侭じゃないし~。 あたしはただお願いをしているだけだっての」

黒猫「お願い? ならもう少し可愛く言って御覧なさいよ。 「お兄ちゃん、お願ぁい」みたいな感じで」

桐乃「絶対ヤダ! なんであたしが「お願ぁい」なんて言わないといけないワケ?」

近いことはあったと思うが。

それに「お兄ちゃん」の方は否定しないんだな、こいつ。

京介「……一件落着、か」

258: ◆IWJezsAOw6 2013/09/29(日) 01:34:47.46 ID:QoQQXK3F0
俺の独り言が聞こえたのか、桐乃は言う。

桐乃「なんか言った?」

それを聞いて、俺はあの日のことを思い出した。

あの時もこうして、俺と桐乃と黒猫で話していて。

解決してくれたのは、桐乃だったっけか。

なんだかそれが懐かしくて、思い出深くて、笑えてきて。

京介「ん、ああ」

俺はあの時と同じ台詞を言うことにした。

259: ◆IWJezsAOw6 2013/09/29(日) 01:35:15.14 ID:QoQQXK3F0
京介「ありがとな、桐乃」

桐乃はやはり呆気に取られ、頬をほんのりと赤くして、こう返す。

桐乃「ひひ。 こっちこそ、ありがとね」

その思いの他ストレートな返答に俺もやはり恥ずかしくなってしまう。

俺の想いって物は多分、そんなたった一つの言葉だけでは現せない物だろう。

だからこそ俺は行動し、いつだって桐乃に習って全力でいなければいけないと思う。

260: ◆IWJezsAOw6 2013/09/29(日) 01:35:45.45 ID:QoQQXK3F0
そりゃあ人生は簡単には行かないだろうけどさ。

全力でやったって、どうしても駄目な時だってあるかもしれない。

そうだから辛くて、挫けそうになって、迷ったりもする。 時には喧嘩をしたり、な。

しかし俺はこう感じた。 やっぱり桐乃と居ると、毎日が楽しいぜ。 なんてな。

泣いてもこいつが隣に居てくれて、落ち込んでもこいつが隣に居てくれて、辛い時も隣にこいつが居てくれて。

それがあるから、俺は一緒に笑えるのだろう。 桐乃と、黒猫と。

俺の友達全員と、笑えるのだろう。

261: ◆IWJezsAOw6 2013/09/29(日) 01:37:05.70 ID:QoQQXK3F0
黒猫が言おうとしていた言葉。 今日の昼、皆で『宝物』を見せようとした時に言おうとしたことだ。

『今回見せ合うのは人では無いわよ。 分かったわね』

多分、桐乃のことを言うと予想して黒猫はこう言ったのだろうが。

違うぜ、黒猫。

もし今回の話で『宝物』に物以外が含まれるのだとしたら、俺が言うべきことはこうだ。

皆が居て、笑って、泣いて、遊んで、喧嘩して、励まし合って。

そんな光景が、俺にとっては『宝物』だ。

262: ◆IWJezsAOw6 2013/09/29(日) 01:38:03.81 ID:QoQQXK3F0
桐乃「で、それは言いとして京介の『宝物』ちゃっちゃと教えて」

京介「……マジで?」

桐乃「あ、た、り、ま、え。 あたしと京介の仲じゃん? 隠し事なんて水臭いっしょ~」

こんな時だけそんなことを言うんじゃねえよ!

京介「く、黒猫……」

黒猫「厭よ。 私は別にあなたの『宝物』が妹から貰ったエロゲーだなんてことは関係無いのだから、助けないわよ」

助けるどころか桐乃に加勢しやがった! ていうか答え言いやがった!

263: ◆IWJezsAOw6 2013/09/29(日) 01:38:41.33 ID:QoQQXK3F0
桐乃「……え、エロゲーが『宝物』とか……キモ」

京介「お前だってエロゲー大好きじゃねえかよ!」

桐乃「あたしは良いの。 可愛い妹だから。 京介はダメ。 なんでか分かる?」

京介「へいへい……。 へたれな兄貴だからとか、そんなとこだろ?」

桐乃「はっずれー。 京介はね」

桐乃「マジな妹と付き合ってるんだから、ダメなの。 ふひひ」

全く畜生。 桐乃が口を開けば殆ど凶器だぜ。 なんでこんなドキドキしないといけないんだよ。

黒猫「もうすぐ夏が来るのだから、温暖化に貢献するのは止めて頂きたいわね」

黒猫の呆れ声が部屋に響いて、俺は苦笑い、桐乃は満足気に笑うのだった。


それぞれの宝物 終

277: ◆IWJezsAOw6 2013/10/02(水) 23:16:07.46 ID:IkBQrvPg0
6月。

大学からの帰宅途中のことだ。

あやせ「お兄さん! こっちへ!」

後ろから声が聞こえ、それがあやせだと理解した時には既に手を掴まれていて、俺が何かを言う前には引っ張られていた。

京介「あ、あやせ? どうしたんだよ?」

あやせ「いいから来てください!」

278: ◆IWJezsAOw6 2013/10/02(水) 23:16:44.54 ID:IkBQrvPg0
なんだってんだ。 すっげー慌てている様に見えるが……。

まさか、またあのストーカーと何かあったとかか?

それから数分手を引かれながら走り、辿り着いた場所は路地裏の様な場所。

一体何がどうしたと言うのだ。

279: ◆IWJezsAOw6 2013/10/02(水) 23:17:10.27 ID:IkBQrvPg0
あやせ「はぁ……はぁ……」

京介「……大丈夫か?」

あやせ「わたしは大丈夫です! それより……ごめんなさい、お兄さん」

京介「なら良いが……って、なんで謝ってるんだよ?」

うむ。 状況が理解不能だ。

あやせ「……その、簡単に説明します」

あやせは言い、ゆっくりと語り始める。

どうやらそれは今日、学校であった話らしい。

280: ◆IWJezsAOw6 2013/10/02(水) 23:17:49.49 ID:IkBQrvPg0
桐乃「そんでさぁ~。 そうゆう流れになるワケじゃん? で、あいつったらマジで告白してきたのぉ。 ウケるっしょ?」

加奈子「いや全く分からねー。 なんでちょっとした口論から告白の時を再現しようって話になるのか全然意味不明」

桐乃「はぁ。 ま、加奈子は分からなくても仕方ないかもね~。 あやせは分かるっしょ?」

あやせ「わ、わたし? あ、あはは」

桐乃はあれだな。 赤裸々に語りすぎだぜ。 こんな感じで第三者から話を聞かされる俺の身にもなって欲しい。

あやせ「……微妙、かな?」

281: ◆IWJezsAOw6 2013/10/02(水) 23:18:31.64 ID:IkBQrvPg0
桐乃「もぉ~。 なんでぇ?」

あやせ「でも、お兄さんと桐乃の仲が良いことは分かったよ。 ね?」

桐乃「そ、そんなこと無いってぇ! 一日一回は喧嘩してるし!」

あやせ「あはは。 喧嘩するほど仲が良いって良く言うでしょ?」

加奈子「こいつらの場合は、その喧嘩自体が甘々だけどな~。 うへぇ」

桐乃「二人ともやめてよぉ。 ふひひ」

あやせ「良いなぁ。 羨ましい」

282: ◆IWJezsAOw6 2013/10/02(水) 23:19:39.88 ID:IkBQrvPg0
桐乃「ふ、ふひひひ」

あ、これってあれだろ。 桐乃が調子に乗るパターン。 長いこと一緒に居る俺だから分かる。

桐乃「ま、まあ? あやせにも加奈子にもちょっと難しい話だったかな? ごめんごめん」

加奈子「……あぁ?」

桐乃「だってぇ、二人ともどうせ彼氏とか出来たこと無いでしょ? き、き、キスとかも……無いでしょ?」

桐乃「あたしはあるし? だから二人にはちょっと難しかったよね~。 ふひ」

俺的には、毎日こんな話をされていて今もまだ仲良くやっているお前らは凄いと思うぜ。 黒猫然り。

……まあ、それだけあいつに魅力があるということかもしれんが。

283: ◆IWJezsAOw6 2013/10/02(水) 23:20:23.86 ID:IkBQrvPg0
加奈子「あー。 はいはい、すいませんでした桐乃先生ぇ」

桐乃「うへへ。 やめてよもぉ」

あやせ「……」

桐乃「あやせ、どうしたの? 黙っちゃって」

そして、あやせは言ったらしい。

言われっぱなしなのが嫌だったのか。 それともあやせのプライドか。

284: ◆IWJezsAOw6 2013/10/02(水) 23:21:17.32 ID:IkBQrvPg0
あやせ「わたしだってキスくらいは!」

後の流れは言わずもがな。 まず、その相手が誰かという話になり、思わず言ってしまったあやせはそれに慌てて、どんどんとボロを出したということだ。

結果。

あやせ「お兄さん、桐乃に殺されるかもしれません。 わたしも、お兄さんも」

京介「……お前なんてことしてくれたんだ!! かもしれないじゃねえよ! 間違いなく殺される!!」

あやせ「そ、そうですよね……授業中とか、休み時間、桐乃ずっと不機嫌になっちゃって……」

そりゃなるだろうよ! あいつのことだしな!

285: ◆IWJezsAOw6 2013/10/02(水) 23:22:27.81 ID:IkBQrvPg0
あやせ「それで、学校が終わってから呼び出されたんです」

京介「……マジか。 で、桐乃はなんて?」

あやせ「「あやせ、ちょっと屋上まで付き合って貰っていい?」って」

だが、それで今この場にあやせが居るということは。

京介「それでお前は逃げてきたという訳か……」

いや、それは正解だ。 大人しく行ってたら今頃、女子高校生が屋上から転落……みたいなニュースになっていたかもしれん。

286: ◆IWJezsAOw6 2013/10/02(水) 23:23:22.14 ID:IkBQrvPg0
あやせ「それで、逃げている内にお兄さんを見つけたんです」

京介「あー、俺の身も危険だと思って、連れて行ってくれたってこと……で良いのか?」

あやせ「……まぁ、そういうことですね。 それで、ついでに相談しようと思いまして」

あやせ「わたし、これからどうすれば良いですか!? このままじゃ学校にもいけません!」

京介「お前そう言うけど俺は家に帰れないんだぞ!? 帰ったらこの前より酷いことをさせられるかもしれん……」

あやせ「……この前?」

287: ◆IWJezsAOw6 2013/10/02(水) 23:24:22.03 ID:IkBQrvPg0
京介「ああいや、なんでもね。 ははは……」

思い出したくない記憶だ。 活き活きとしている桐乃は可愛かったけどな。

京介「で、だ。 要するに俺もお前も同じ悩みってことだな」

あやせ「そうなります。 なので一緒に助かる道を考えましょう」

……殆どお前の所為だけどな、あやせさん。

京介「仕方無い、か。 てか、ぶっちゃけた話どこまで話したんだよ?」

288: ◆IWJezsAOw6 2013/10/02(水) 23:25:51.62 ID:IkBQrvPg0
あやせ「殆ど全部ですね。 わたしが告白したところから……その、あれまで」

京介「それもう諦めた方が良くない? 大人しく」

あやせ「嫌です。 桐乃と仲直りがしたいんです」

京介「つっても、桐乃に会わない限りそれは無理だぞ……」

あやせ「……」

黙り込むなよ。 俺だってあいつを怒らせたく無いんだっての。

289: ◆IWJezsAOw6 2013/10/02(水) 23:27:28.16 ID:IkBQrvPg0
京介「……よし。 分かった。 素直に謝ろう、二人で」

あやせ「お兄さんも、ですか?」

京介「こういう場合、俺も巻き添えってのは決まってるだろ?」

あやせ「あはは、そうですね。 では、お兄さんも巻き添えにします」

京介「おう。 いやまあ、お前がしてきたこととは言っても……俺も、嬉しかったしさ」

桐乃「な、に、が?」

290: ◆IWJezsAOw6 2013/10/02(水) 23:28:20.10 ID:IkBQrvPg0
……。

京介「う、うわあああああああああああああああ!!」

あやせ「き、桐乃!? どっどうして!?」

桐乃「だってあたしの方が足速いし、体力あるし、当然じゃん? 見失うと思った? あやせ」

桐乃は言いながら、あやせとの距離をじりじりと詰める。 口だけ笑ってて恐ろしい。

あやせ「な、なるほど。 あはは……さ、さっすが桐乃」

桐乃「でしょ~?」

291: ◆IWJezsAOw6 2013/10/02(水) 23:30:07.87 ID:IkBQrvPg0
お、おう。 中々良い感じじゃねえか。 こりゃ、仲直りもすぐだな。 良かった良かった。

あやせ「ちょ! お兄さん、どうして逃げようとしているんですか!」

桐乃「はぁ!?」

桐乃の注意があやせに向いている間に、俺はこの場を離れようと距離を少しずつ取っていたのだが……あやせめ! 余計なことを言いやがって!

桐乃「へえ? 逃げるんだ? ふうん?」

京介「あ、あー。 は、はは……」

292: ◆IWJezsAOw6 2013/10/02(水) 23:31:16.11 ID:IkBQrvPg0
あやせ「さっきは一緒に謝ってくれるって言ったじゃないですか!」

……くそ!

京介「に、逃げるなんてとんでもない。 しっかり謝るつもりだぜ? な?」

桐乃「ふーん。 なら折角だし、家いこっか」

桐乃の言葉に、俺とあやせは首を縦に振るしかなかった。

293: ◆IWJezsAOw6 2013/10/02(水) 23:31:57.38 ID:IkBQrvPg0
桐乃「で、何か言っておくことある?」

家に着き、桐乃が座る対面に俺とあやせは並んで正座。 あやせをここまでにするなんて、桐乃って実は相当怖い奴なのかもしれんな。

桐乃「……」

そして無言で俺のことを睨んでくる。 考えは全てお見通しらしい。

あやせ「そ、その……」

京介「すまん桐乃!」

もう土下座だ土下座。 これしかない。 桐乃、結構普通を装ってるけど、内心は相当不機嫌そうだしな。

294: ◆IWJezsAOw6 2013/10/02(水) 23:33:10.00 ID:IkBQrvPg0
桐乃「……はぁ」

桐乃は俺の方に一度視線を向けた後、小さく溜息を吐く。 そして、続けた。

桐乃「……ま、良いよ。 今ってワケじゃないし、昔のことだしね」

あやせ「ほ、ほんとに? じゃあ……仲直り、してくれるの?」

桐乃「ひひ。 なーに言ってるの? 元々喧嘩なんてしてないっしょ」

桐乃は言うと、可愛らしく笑う。

普通、ここで俺が思うべきことは……。

295: ◆IWJezsAOw6 2013/10/02(水) 23:33:46.21 ID:IkBQrvPg0
良い奴だな、とか。

優しいな、とか。

そんなところなのだろうけれど、今の俺には何故かそう思えなかった。

どうしようも無く、寒気がしたからだ。

あやせ「……よ、良かったぁ。 もう、桐乃に嫌われちゃったのかと思って、わたし」

言いながら目尻を拭うあやせ。 割と本気で怖かったらしい。

しっかし、俺にはどうもことが上手く行きすぎな気がしてならない。 なんだろうな、この感じは。

296: ◆IWJezsAOw6 2013/10/02(水) 23:34:14.32 ID:IkBQrvPg0
あやせ「やっぱり、何かして欲しいこととか無い? そうしないと気が済まない感じがして……」

桐乃「あはは。 大丈夫だって、あやせは心配しすぎなんだよ~」

桐乃「でも、そっかぁ。 あ、それならさ」

桐乃「明日ってあやせ、仕事無いよね?」

あやせ「へ? うん、明日は無いよ。 学校もお休みだし……一日中暇、だけど」

桐乃「そっか。 なら今日は泊まっていかない? ここに」

京介「ちょ、俺も居るんだぞ!?」

桐乃「ベツに良いじゃん。 それともなに、あたしの大切な友達に手出すの?」

297: ◆IWJezsAOw6 2013/10/02(水) 23:34:50.80 ID:IkBQrvPg0
京介「い、いや……そんなことはねえけどよ」

桐乃「ふひひ。 なら決定! あやせも良いっしょ?」

あやせ「き、桐乃がそうして欲しいって言うなら……」

桐乃「やったー! じゃあ準備とかあるだろうし、一回家に帰って着替えとか持ってきなよ。 待ってるからさ」

あやせ「うん。 分かった。 すぐに来るね!」

それだけ言い残し、あやせは一旦家から出て行く。

……あやせの奴、嬉しそうだな。

298: ◆IWJezsAOw6 2013/10/02(水) 23:35:49.91 ID:IkBQrvPg0
内心では相当テンション上がっていそうだ、あの感じだと。

しかし、なんつうか……。

京介「桐乃、お前何か企んでいるだろ?」

桐乃「なんで? あたしはただ、あやせとお泊りしたいって思っただけだしぃ」

嘘くせー!

京介「……」

299: ◆IWJezsAOw6 2013/10/02(水) 23:37:14.75 ID:IkBQrvPg0
桐乃「な、なによ。 人の顔をそんなじっと見ないでくれない?」

俺はただお前が何を隠しているのか気になるだけだぜ。

京介「……ううむ」

桐乃「……」

そして何故か、お互いに見つめ合うこととなり、それがしばらく続くのだった。

300: ◆IWJezsAOw6 2013/10/02(水) 23:38:17.68 ID:IkBQrvPg0
あやせ「桐乃のところにお泊りって、随分久し振りな気がするなぁ……」

桐乃「そだったっけ? あー、でもそっか。 京介と一緒に暮らしてるからね、結構前から」

あやせ「うんうん。 それであまり機会が無くって。 修学旅行とかはあったけど」

桐乃「それで思い出した! あの時、加奈子チョー怒られてたよね? 部屋抜け出したりしてさ~」

あやせ「あはは。 そんなこともあったかも。 でも、桐乃だって抜け出してなかった?」

桐乃「あ、あたしのはベツに……加奈子みたいに悪巧みなんて、してないし」

あやせ「ふうん? そうなんだ~?」

301: ◆IWJezsAOw6 2013/10/02(水) 23:39:07.21 ID:IkBQrvPg0
桐乃「……もう」

ぶっちゃけて言うぞ。 居辛い。

なんだよこのガールズトークは! 明らかに俺って場違いじゃねえか!

そうか、これか? これが桐乃からの俺に対する報復なのか!?

……いや、そんな訳がねえ。 俺の妹がこんな甘い方法で報復をするとは思えん! まだ、何かある筈だ。

302: ◆IWJezsAOw6 2013/10/02(水) 23:39:51.11 ID:IkBQrvPg0
桐乃「……あたしたちのこと見てる暇あったら、お風呂でも洗ってきてよ」

京介「……へいへい」

ここ、一応俺の家なんだけどな。 そりゃあ桐乃も今となっちゃ一緒に暮らしているから、ある意味では桐乃の家でもあるのだが。

それでも俺に対する扱いが酷い。 友達の前だからか?

いつもだったら、そうだなぁ。

303: ◆IWJezsAOw6 2013/10/02(水) 23:40:18.06 ID:IkBQrvPg0
桐乃「ちょ、なに見てんの? やめてよ……」

とか言って急に顔を赤くしやがるんだ。 俺はただなんとなく見ていただけなのに。

桐乃「ふん……。 ま、まあ……京介ってシスコンだし、そんなに見たいなら……ベツにあたしは構わないケド」

とか言うんだよなぁ! やべ、よだれ垂れてきそうだ。

桐乃「……でもやっぱムカつく! あんたが見るってんなら、あたしも見る」

って言って、俺のすぐ目の前に対面して座るんだぜ。 うへへ。

304: ◆IWJezsAOw6 2013/10/02(水) 23:40:44.87 ID:IkBQrvPg0
京介「……はぁ、俺はどうして必死に風呂を洗っているのだろうか」

そんなことを呟き、現実に引き戻される。

時折、桐乃とあやせの笑い声が聞こえてくるのがまた……なんとも悲しい気持ちにさせてくれるぜ。

京介「あ、そうか。 今日はあやせもこの風呂使うのか」

俺と桐乃だけならまだしも、一応あやせはお客様だしな。 いつもより念入りに洗っておこう。

これでもかってくらいに、な。

305: ◆IWJezsAOw6 2013/10/02(水) 23:41:20.69 ID:IkBQrvPg0
京介「……うし、これで完璧だろ」

もうぴっかぴかだぜ。 排水溝から普段は気にもしない天井まで、隅から隅まで綺麗にしてやった。

そして気付けば一時間程経っている。 少し集中しすぎたかもしれんな。

俺が腰に若干の痛みを覚えながら部屋に戻ると、桐乃とあやせはさっきまでと同じ様な体勢で会話を続けていた。

良くもまあ、話の種が尽きない物だ。 それだけ話してて楽しい相手、ということなのだろうけど。

桐乃「んでさ、あたしはやっぱり言えないじゃん? だから笑うの必死に我慢してさ~」

あやせ「あはは。 わたしだったらそれ、笑っちゃってるかも」

306: ◆IWJezsAOw6 2013/10/02(水) 23:41:47.47 ID:IkBQrvPg0
桐乃「それはマズイって。 ひひ」

京介「おう。 盛り上がってるとこ悪いが、風呂洗い終わったぞ。 もう日も暮れてきたし、どうせなら入っちまったらどうだ?」

俺的には、あそこまで綺麗にした風呂場を見て貰いたかった。 桐乃にもあやせにも。

桐乃「お疲れ様。 じゃ~、どうしよっか?」

あやせ「あ、わたしは最後でいいよ。 桐乃とお兄さんの後で」

桐乃「そう? まぁ……そうしよっか。 あたし入っちゃうね」

桐乃は言うと、立ち上がる。

307: ◆IWJezsAOw6 2013/10/02(水) 23:42:13.45 ID:IkBQrvPg0
今の立ち位置は桐乃を俺とあやせで挟み込む感じの立ち位置。 桐乃はあやせに背を向けていて、俺と対面している。

桐乃「じゃあ、お風呂入ろうかなぁ~」

何故かその場でもう一度桐乃は宣言すると、桐乃はそこで笑った。 顔だけ。

物凄く、寒気がしたぞ今。

桐乃「あ、京介も一緒に入る? いつもみたいに」

あやせ「は、はい!?」

308: ◆IWJezsAOw6 2013/10/02(水) 23:42:47.03 ID:IkBQrvPg0
……き、きやがった! やっぱりやりやがったこいつ! そうかこの野郎……そういうことかよ!!

京介「な、なにおかしなこと言ってるんだよ。 いつもは俺とお前でばらばらだろ? な?」

俺が引き攣った笑いを向けながら言うと、すぐさま桐乃は返す。 まるで答えを予想していたかのように。

桐乃「おかしなこと言ってるのはそっちじゃん? だってぇ、一週間に一回は一緒に入ってるしぃ」

あやせ「い、いっしゅ!?」

あやせの顔が凄いことになっている。 いやまあそりゃあそうだろ。

俺があやせの立場だったとしても、同じような顔をしていたと思うし。

309: ◆IWJezsAOw6 2013/10/02(水) 23:43:17.79 ID:IkBQrvPg0
桐乃「だからぁ~。 ね、一緒にはいろ?」

京介「きょ、今日はやめとこう! 今日は! な!?」

桐乃「え~? ま、京介がそーゆうなら良いケド。 じゃああたし入ってくるね~」

ようやく満足したのか、桐乃はニヤニヤと笑いながら洗面所へと消えていく。

……なんて奴だ。 なんて奴だなんて奴だなんて奴だ!

310: ◆IWJezsAOw6 2013/10/02(水) 23:44:00.55 ID:IkBQrvPg0
マジでありえん! 二人だっけならまだしも、あやせが居るんだぞ!?

俺に対する報復だとしても、これじゃああやせまで……。

……そうか。

これはあれだ。 俺に対する報復じゃねえ。

紛れも無く、あやせに対する報復だ。 やべえ、俺の妹怖すぎる。

311: ◆IWJezsAOw6 2013/10/02(水) 23:45:03.01 ID:IkBQrvPg0
あやせ「あ、あの……お兄さん」

京介「ハイ!? 何でしょうか!?」

桐乃がいなくなった部屋で、あやせが後ろから話しかけてくる。 そのトーンはかなり低く、思わず敬語になってしまった。

あやせ「さっき桐乃が言っていたのって本当ですか? そ、その……い、一緒にお風呂に入っているとか!」

言いながら俺に顔を寄せるあやせ。 こいつ、興奮するとすぐにこうだからな……俺だからまだしも、違う奴なら勘違いさせるぞ、それ。

京介「……ど、どうだろうなぁ」

312: ◆IWJezsAOw6 2013/10/02(水) 23:45:45.95 ID:IkBQrvPg0
あやせ「一週間に一回とか!」

京介「へ、へえ?」

あやせ「話を逸らさないでください! 今、とても大事なお話をしているんですよ!」

京介「……あ、あー。 桐乃が風呂から出たときの為に、冷たいお茶いれとかないと」

あやせ「いつもはそんなことしないじゃないですか。 あからさますぎます」

京介「何で俺がそんなことしてないって知ってるんだよ?」

313: ◆IWJezsAOw6 2013/10/02(水) 23:46:13.10 ID:IkBQrvPg0
あやせ「桐乃から結構聞いてますから。 いっつも言ってますよ、気が利かないって」

京介「……悪かったな」

明日から、桐乃が風呂から出たら冷たいお茶を出そう。

あやせ「それで、さっきお話していた話の続きですが」

それからしばらく、俺はふらふらと話をはぐらかすのに必死になるのだった。

314: ◆IWJezsAOw6 2013/10/02(水) 23:46:39.97 ID:IkBQrvPg0
桐乃「あー、さっぱりしたぁ~」

桐乃「あれ? どしたの、京介。 なんかすっごく疲れてるみたいだケド」

風呂から出てきて、すぐに桐乃は言う。 分かってやってる癖に良く言うぜ。

京介「誰の所為だっての!」

桐乃「ぷ。 誰の所為だろうね?」

嬉しそうにしやがって……。

315: ◆IWJezsAOw6 2013/10/02(水) 23:47:07.08 ID:IkBQrvPg0
あやせ「お兄さん! 早くお風呂に入ってきてください!!」

京介「な、なんだよ急に……」

あやせ「良いから早く行って下さい。 臭いので」

……いくら俺でも、そんな正面から言われたら傷付くんだぞ。 あやせはどうやら俺を風呂に行かせたいらしいが。

まあ、桐乃から次にどんな攻撃が飛んでくるか分からないし、俺としては一時避難所的な風呂場は助かるっちゃ助かるけどな……。

桐乃「……んー」

桐乃は少し考える素振りを見せた後、俺の方へと近づく。

316: ◆IWJezsAOw6 2013/10/02(水) 23:48:04.39 ID:IkBQrvPg0
というか、近い。

京介「……ど、どした?」

いきなりそんなことをやられ、顔が熱くなるのを感じながら俺は言う。 すると桐乃はこう言った。

言った、じゃない。 こんな行動を起こした。

桐乃「ん~」

俺の肩辺りに手を置き、そのまま胸辺りに顔を沈めたのだ。 あやせの前で、あやせの前で、あやせの前で。

317: ◆IWJezsAOw6 2013/10/02(水) 23:48:32.28 ID:IkBQrvPg0
京介「な、なんだよ!? いきなりどうした!?」

あやせ「き、桐乃!?」

俺とあやせがかなりの焦りを見せる中、桐乃は数秒経った後に顔を上げ、口を開く。

桐乃「……ベツに普通じゃん? ヘンな匂いとかしないケド」

……こいつ俺の匂いを嗅いでいたのか!? 何してんだマジで!!

というかあれだ。 風呂に入ったばっかだからか、それとも普段から気を使っているからなのか。

すげえ良い匂いがするんですけど、こいつ。

318: ◆IWJezsAOw6 2013/10/02(水) 23:49:00.98 ID:IkBQrvPg0
あやせ「あ……あ……」

あやせは地に足ついていないといった感じで、体をふらふらと左右に振り、やがて……文字通り、倒れた。

桐乃「ちょ、あやせ!?」

京介「……はぁあああ」

こんなのがまだまだ続くとか、俺の疲労はどこまで蓄積されるのだろうか。


ある告白 終

342: ◆IWJezsAOw6 2013/10/07(月) 03:25:17.76 ID:BdEwZA0w0
桐乃「ふんふふーん♪」

台所から上機嫌な声が聞こえ、俺とあやせは顔を見合わせる。

京介「……大丈夫か、あやせ」

あやせ「も、もう駄目かもしれません」

桐乃がいつもの様に料理を作ってくれると言って、あやせは当然手伝うとのことを言ったのだが、案の定それは断られた。

桐乃としても多分、料理が上達したのを友人に見せたいといった気持ちはあるのだろう。

343: ◆IWJezsAOw6 2013/10/07(月) 03:25:44.17 ID:BdEwZA0w0
京介「やっぱりこれってアレだよな、アレ」

あやせ「……あれ、とは?」

京介「決まってるだろ、桐乃の復讐だ」

あやせ「何を言っているんですか! そんなことをする訳が無いじゃないですか!」

あやせは言うと、俺の胸倉を思いっきり掴む。

おいおい、お前の中でどれだけ桐乃は神格化されているんだ。 絶対間違いだぞ、それ。

344: ◆IWJezsAOw6 2013/10/07(月) 03:26:13.45 ID:BdEwZA0w0
あやせ「お兄さんは分かっていないんです! 桐乃はいっつも優しくて……可愛くて……皆の憧れなんですから」

ふうむ。

優しい……か? いやまあ、たまにはそういう時もあるのは否定しない。 そりゃ学校ではそういう感じなのだろうけど。

でもなぁ、ここまでされて「優しい」とは……。

で、次になんだっけ。 可愛い、か。

うん。 それはそうだろ。 そんな当たり前のことを今更言うなよ。

345: ◆IWJezsAOw6 2013/10/07(月) 03:26:41.98 ID:BdEwZA0w0
皆の憧れ、というのは触れないで良いか。 学校でのあいつ、俺は良く知らないしな。

性格からして……そういうのもあるとは思うが。

京介「分かった分かった……俺が間違ってたって」

とりあえずはその場凌ぎでそう言う俺。 首が絞まって苦しいからな。

桐乃「何騒いでるの? 京介、あやせにヘンなことしてないよね」

京介「してないしてない! なんもしてないッス!」

346: ◆IWJezsAOw6 2013/10/07(月) 03:27:08.55 ID:BdEwZA0w0
桐乃「うんうん。 なら良し」

包丁を持ったまま顔を出すのはやめてくれ。 色々とトラウマなんだから。

あやせ「……」

横でその光景を一緒に見ていたはずなのだが、なぜこいつはこうも黙り込んでいるのだろうか。

何か言えとまでは言わないけれど、少しくらい驚きの声でもあって良いだろうに。

あやせ「……可愛いなぁ。 エプロン付けてる桐乃」

……俺が思っている以上に、重症かもしれない。

347: ◆IWJezsAOw6 2013/10/07(月) 03:27:37.06 ID:BdEwZA0w0
桐乃「お待たせ~。 出来たよ!」

言いながら、料理を運んでくる桐乃。

この部分だけ切り取って見たら、俺はすげえ良い奴と付き合っている様に見えるんだろうな。

苦労ばっかだぜ、実際のところ。

それが俺は好きってのがあれだ。 傍から見ればお似合いみたいに見えるのかね?

……気になってきてしまった。 今度、沙織と黒猫に聞いてみるとするか。 俺と桐乃は周りから見たらどう見えているのか。

348: ◆IWJezsAOw6 2013/10/07(月) 03:28:04.06 ID:BdEwZA0w0
どーせ、バカップルだとか言われるんだろうな。

へへ。

桐乃「……なに笑ってんの? キモ」

京介「わ、笑ってねえよ。 俺は生まれつきこんな顔だ」

桐乃「いやいや絶対無いから」

手をぶんぶんと振りながら否定してきやがる。 つうか、俺が勝手に笑ってたって良いじゃん。

349: ◆IWJezsAOw6 2013/10/07(月) 03:28:30.46 ID:BdEwZA0w0
あやせ「あはは。 わたしも少し気になります。 お兄さんがどうして笑っていたのか」

京介「大した理由なんてねえっての。 なんかこの光景が新鮮だな、みたいに思っただけだ」

まあ、嘘だけどな。

だって言えるかよ。 桐乃との関係がどんな風に見られているのか想像してニヤニヤしてただなんて。

京介「それより、早く飯食おうぜ。 冷めたらあれだしさ」

桐乃「なーんか隠してそうだケド……ま、いっか」

桐乃「それじゃ、ご飯食べよ。 あやせ」

350: ◆IWJezsAOw6 2013/10/07(月) 03:28:58.54 ID:BdEwZA0w0
あやせ「うん! 桐乃の手料理、すっごい久し振りかも」

京介「へえ、前に食べたことあるのか?」

あやせ「あ、あはは。 中学生の時に、一度」

京介「……聞かないでおこう、それ以上は」

桐乃「昔のことは良いから!! 頑張って練習して、マシになったんだっての!」

っはあ。 これで「マシ」って言い方をするのかよ。 どれだけ上を目指しているんだろうな。

俺はそんな桐乃が心なしか誇らしくなり、すぐ近くに座っていたのもあり、頭を撫でる。

351: ◆IWJezsAOw6 2013/10/07(月) 03:29:25.71 ID:BdEwZA0w0
桐乃「……ん、なに」

目だけを俺の方に向け、桐乃。

京介「別に。 なんでもねーよ」

あやせの手前、桐乃は眉間に皺を寄せながらも顔だけは嫌そうにしようとしているが、それとは別で……本音、と言うべきか。

それの所為で、変な顔になっている。

桐乃「は、早くご飯食べよ。 お腹減った」

京介「おう。 そうだな」

桐乃「……手、退けてよ」

352: ◆IWJezsAOw6 2013/10/07(月) 03:29:54.06 ID:BdEwZA0w0
京介「ああ、わりわり。 払われるまでこうしてようかと思ってた」

桐乃「ばかじゃん。 そんなことしてたらご飯食べれないっしょ」

こんな会話をしながらも、俺は未だに手を退けない。 桐乃の顔が面白くて。

京介「そうだなぁ」

桐乃「……ふん」

払おうと思ったのか、桐乃は自身の頭の上へと置かれている俺の手を掴み。

……掴んだのは良いが、そのままの姿勢で固まる。

353: ◆IWJezsAOw6 2013/10/07(月) 03:30:19.33 ID:BdEwZA0w0
京介「なんだよ。 払うんじゃねーの?」

桐乃「……ねね。 このままでご飯食べよ」

京介「このままで? どうやって」

その言葉を聞くと、桐乃は自分の箸でテーブルに並んでいるおかずを一品、掴み取る。

桐乃「ふひひ。 あーん」

ああ、そういうことか。 可愛いじゃねえか。

354: ◆IWJezsAOw6 2013/10/07(月) 03:30:46.57 ID:BdEwZA0w0
京介「お、おう」

と返事をして口を開けたところで、別の所から声が掛かった。

あやせ「……あの、私のこと忘れていませんか?」

正直に言おう。 すっかり忘れていたぜ!

桐乃「……っ! 死ねッ!」

桐乃は言うと、器用に先ほどまで俺に向けていたおかずを食べ、俺の腕を思いっきり叩く。 なんて奴だ……。

355: ◆IWJezsAOw6 2013/10/07(月) 03:31:13.25 ID:BdEwZA0w0
京介「お、お前なぁ……」

仕返ししてるんじゃなかったのかよ、あやせに。

折角、折っ角! 俺がそれに協力してやろうとこんなことをしたというのに。

断じて桐乃といちゃいちゃしたかっただなんてことは無いぞ。 うむ。

桐乃「あ……ご、ごめん」

恥ずかしさから叩いたのを謝罪する桐乃。 一昔前だったら考えられないことだなぁ。

京介「良いって良いって。 だから謝んな。 ほら、あーん」

桐乃「……あーん。 ひひ、おいし」

桐乃「……って! なにすんのよ!!」

つくづく面白い奴だぜ。

356: ◆IWJezsAOw6 2013/10/07(月) 03:31:39.64 ID:BdEwZA0w0
そんなこんなでようやく飯を食い終わり、雑談中。

桐乃は洗い物をしてくれているので、俺とあやせだけだが。

もっとも俺もあやせも手伝うとは言ったのだが、案の定断られてしまったという訳だ。

あやせ「お兄さん、ひとつ教えて貰えますか」

にこにこと笑いながら言うあやせ。

京介「ん? なんだ?」

357: ◆IWJezsAOw6 2013/10/07(月) 03:32:08.64 ID:BdEwZA0w0
あやせ「どうして結局「あーん」とかやってご飯食べたんですか!? わ、私の目の前であんな破廉恥な……!」

桐乃には聞こえない声量。 だけどもしっかりと怒鳴っている様に聞こえる。 そんな絶妙な感じ。

京介「べ、別に破廉恥じゃねえだろ……。 お前が変な目で見てるからじゃないのか?」

あやせ「そんなことはありません!」

京介「分かった分かった! 分かったから少し離れろ!」

顔を近づけすぎだっての。 こんな場面を桐乃に見られたら今度こそ生きて明日を迎えられないぞ。 俺もお前も。

358: ◆IWJezsAOw6 2013/10/07(月) 03:32:36.62 ID:BdEwZA0w0
あやせ「……」

納得いかないような顔付き。 気は進まないが……ここはしっかりと話しておいた方が良いかもしれん。

京介「よし、あやせ。 ちょっと考えてみてくれ」

あやせ「……内容によります」

京介「例えばだな……そうだ。 お前から見て、俺と桐乃は仲が良いように見えるんだよな?」

あやせ「ええ、勿論です。 というかですね、最初からずっとそう思ってますよ」

359: ◆IWJezsAOw6 2013/10/07(月) 03:33:02.61 ID:BdEwZA0w0
京介「そ、そうか。 で、だな。 仮に俺と桐乃の仲が滅茶苦茶悪いとするだろ?」

京介「……お互いに無視しあう、くらいに」

あやせ「……はい」

京介「そんな状態の俺と桐乃の中にお前が居たら、正直気まずいだろ? 帰りてえって思うだろ?」

あやせ「まぁ……帰りたいと思うかどうかは分かりませんが、居心地が良くないのは事実ですね」

京介「つまり、そういうことなんだよ。 俺と桐乃はお前が居心地良くなるように、仲良くしているんだ」

360: ◆IWJezsAOw6 2013/10/07(月) 03:33:30.20 ID:BdEwZA0w0
あやせ「……なるほど。 ということは、普段はそこまで……い、いちゃいちゃしてないということですか?」

京介「え? あ、ああ。 まあ……」

言い訳をするにしても、なんか間違った方向へ行っている気がしてきた。

あやせ「なら、お風呂に一緒に入っているというのは?」

京介「あれは……多分、桐乃がお前に気を使ったんだな。 多分」

361: ◆IWJezsAOw6 2013/10/07(月) 03:33:58.93 ID:BdEwZA0w0
そして寝る時間。

桐乃「前に布団買っておいて良かった。 無かったら床で寝るところだったし」

言いながら押入れから布団を取り出す桐乃。 なんかこいつ、主婦みたいだな。

桐乃「それじゃ、あやせ」

その布団を手渡しながら桐乃は言う。 あやせはそれを受け取ると、普段敷いてある布団から少し離れた位置へとそれを敷いた。

あやせ「ありがとう、桐乃。 この辺でいいよね?」

362: ◆IWJezsAOw6 2013/10/07(月) 03:34:27.25 ID:BdEwZA0w0
桐乃「うん。 それじゃ、寝よっかー」

桐乃とあやせが布団を準備している間、俺も自分の布団を敷いておいた。

で、その中へ桐乃が入る。

あやせ「……あれ? お兄さんはどうするんですか? 他の場所に?」

……ああ、やべえ。 なんも考えてなかった。

京介「お、おー。 俺はあれだ。 む、向こうで寝る」

そう言いながら居間の方を指差す。 てか、どうしよう。

363: ◆IWJezsAOw6 2013/10/07(月) 03:34:54.83 ID:BdEwZA0w0
桐乃「なに言ってんの? いっつも一緒に寝てるんだし、おいでおいで」

桐乃はそんな俺の努力を無に返す発言をした。 そうだった……こいつ、仕返しの為にあやせを泊まらせているんだった!

京介「……はは」

あやせ「……お兄さん」

京介「な、なんでしょう?」

あやせ「やはり騙されるのには無理があります!! さっきの発言も全て無しということで!」

こいつわざと騙されてくれてたのか! すげえ良い奴じゃん!

364: ◆IWJezsAOw6 2013/10/07(月) 03:35:23.01 ID:BdEwZA0w0
桐乃「ほらほらはーやーくー」

そんなことに構いもせず、桐乃は俺の足を自身の足で挟む。

京介「お、おい! 危ねえって!」

桐乃「あんたがヘンなことをゆうからでしょ。 折角あたしが待ってるのに」

こいつ恥ずかしくねえのか!? さっきはあんな顔赤くしてやがったのによ……。

あれか。 これは予め考えていたってことか。

365: ◆IWJezsAOw6 2013/10/07(月) 03:36:33.54 ID:BdEwZA0w0
桐乃「よっと」

言い、桐乃は足を捻る。

当然俺はバランスを崩し、そのまま桐乃の方へと倒れた。

京介「……」

桐乃「……」

多分、これは桐乃が狙っていたことではないのだろう。

俺が押し倒すような姿勢になっているこの状況は。

その証拠として、桐乃は超恥ずかしそうな顔をして視線を逸らしているからだ。

桐乃「……ごーいん」

366: ◆IWJezsAOw6 2013/10/07(月) 03:37:03.25 ID:BdEwZA0w0
あやせ「ぶち殺しますよお兄さん!!」

京介「待て待て待て!! お前も見てただろ!? 事故じゃねえか! てかお前はお前で何言ってんだよ!?」

顔を赤くして背けるなよ。 マジで俺が何かしたみたいじゃん。

あやせ「こ、この……変態!!」

以前なら迷わず蹴り飛ばしでもされていただろう。 今はただの罵倒だけなので、正直助かる。

あやせもあやせで顔を赤くしながら、そのまま自分の布団へと潜り込んでしまった。

頭まですっぽりと布団を被って。

367: ◆IWJezsAOw6 2013/10/07(月) 03:37:35.85 ID:BdEwZA0w0
桐乃「……重いんですケド」

京介「お、おう。 わりい」

俺はその言葉を聞いて桐乃の上から退き、部屋の電気を消す。

全く。 疲れるぜ……。

ようやく全員が寝る感じとなり、俺もいそいそと桐乃の横へと入った。

あやせは暗黙の内に認めてくれたらしい。 有耶無耶になったってのが正しいかもだが。

隣を見ると俺に背中を向けたままの桐乃。

反対側を見ると、こちらをじっと見つめているあやせ。

……怖いって。

368: ◆IWJezsAOw6 2013/10/07(月) 03:38:03.24 ID:BdEwZA0w0
京介「……なんだ?」

あやせ「……何でも無いです」

まるで俺を監視するかの様な視線だな……。

いや、恐らくはその為なのだろうが。

果たして今日は心地よく寝れるのだろうか。

369: ◆IWJezsAOw6 2013/10/07(月) 03:38:28.80 ID:BdEwZA0w0
京介「……んー」

窓から差し込んできた明かりに刺激され、意識がどんどんと覚醒していく。

それにしてもあれだな。 熟睡だった。

俺って案外、繊細では無いのかもしれん。

で、ゆっくりと目を開けると目の前にあやせ。 なんか怒った顔。

京介「お、お前なんだよ!?」

370: ◆IWJezsAOw6 2013/10/07(月) 03:38:56.10 ID:BdEwZA0w0
あやせ「し、静かにしてください……!」

そう言われるとあれを思い出す。 桐乃が夜中に俺の部屋に来て「人生相談がある」と言ってきていた時のこと。

あれももう、今となっちゃなんだか懐かしいな。

京介「……俺の顔に何か付いてんのか」

あやせ「……」

あやせは無言で指を差す。

俺、では無いな。 だとすると俺の隣にいる奴か。

371: ◆IWJezsAOw6 2013/10/07(月) 03:39:22.20 ID:BdEwZA0w0
桐乃「……ふひひ~」

幸せそうに寝てるなぁ、おい。

京介「お、起こすか?」

あやせ「駄目です。 気持ち良さそうに寝ているので」

なるほど。

京介「でも、起こさないと俺動けないんだけど……」

それもそう。 こいつ、俺のことを抱き枕にしてやがる。

372: ◆IWJezsAOw6 2013/10/07(月) 03:39:48.71 ID:BdEwZA0w0
桐乃「じゅる……ふひ」

ああくそ。 いつもだったらこんな良い顔をしている桐乃を近くでじっくり見ていられる機会なのに!

あやせがすっげー睨んできている所為で、桐乃の表情を堪能できねえ!

あやせ「駄目です」

京介「……あの、だったら俺のこと睨むのやめてもらえませんかね」

あやせ「……」

ぴくっと眉を動かすあやせ。 怒りが蓄積された合図だろう。 つまりは断るとのことだ。

373: ◆IWJezsAOw6 2013/10/07(月) 03:40:16.27 ID:BdEwZA0w0
京介「……はぁ」

でも桐乃の体温を感じるぜ。 朝からこんな天国と地獄状態を体験するのは結構レアかも。

下衆な話、生理現象的なあれもあるっちゃあるが……布団のおかげであやせは気付いていないらしい。

だってそうだろ。 気付いていたら俺、間違いなく生きていられないし。

桐乃「んふ……愛してるよぉ」

どんな夢を見ているか知らんが、耳元でそんな甘ったれた声を出すんじゃねえ!

374: ◆IWJezsAOw6 2013/10/07(月) 03:40:43.94 ID:BdEwZA0w0
桐乃「どしたのあやせ。 なんかすっごく疲れてるみたいだケド」

よく言うぜ。 にったにたしながら言う台詞かよそれ。

あれから桐乃が起きたのは一時間程経った後で、起きるなりいきなりこいつは俺の頬へとキスをしてきやがった。

寝惚けてなのか、わざとなのか、それは分からない。

ただひとつ言えるとしたら、そのキスされた場所があやせの時と同じだったということだけだ。

375: ◆IWJezsAOw6 2013/10/07(月) 03:41:29.82 ID:BdEwZA0w0
あやせ「……」

それからこいつはずっとこんな調子でぼーっとしている。 深刻なダメージを受けてしまったらしい。

京介「……おーい。 大丈夫か、あやせ」

あやせ「え? あ、はい。 大丈夫です。 うふふふふ」

絶対大丈夫じゃないだろ! お前そんな笑い方しねえじゃん!

あやせ「桐乃、私……ひとつ分かったよ」

376: ◆IWJezsAOw6 2013/10/07(月) 03:41:58.42 ID:BdEwZA0w0
桐乃「分かったって?」

あやせ「桐乃とお兄さんがすっごく仲が良いこと」

桐乃「え~? そんなことないってぇ! あたしは全然京介になんて興味無いし~?」

桐乃「ほんと、マジ勘弁って感じだってのぉ~。 ま、京介はあたしのこと大好きみたいだケドぉ」

桐乃「嫌になっちゃうよねぇ。 ふひひひ」

これだけ桐乃に好意を向けられると、若干恥ずかしくなってくるぜ。 お前どれだけ幸せなんだよ。

377: ◆IWJezsAOw6 2013/10/07(月) 03:42:26.47 ID:BdEwZA0w0
あやせ「あはははは」

あやせの様子を見るに、多分こういう桐乃の発言には慣れているのだろう。

いや、慣れていないとしたらあやせが壊れてしまったのかもしれん。

京介「……楽しそうでなによりだ。 もし機会があったらまた来いよ」

俺がそう言うと、最後にあやせはこう返してきた。

あやせ「お断りします!!」

ちなみに後日、帰宅中に後ろから強烈な蹴りを食らったのはまた別の話。


お客様 終

392: ◆IWJezsAOw6 2013/10/11(金) 00:33:28.27 ID:9/rr36qO0
今日は少し前のことを思い出してみよう。

隣で寝てる京介の顔を見て、そんなことをふと思った。

幸せそうな寝顔。 どんな夢を見ているのだろうか。

その夢にあたしが少しでも出ているのだとしたら、それだけであたしは多分幸せな気持ちになれる。

そんなのは確かめようが無いけどね。

今日はいつもより寝付けない夜……思い出を振り返ってみることにした。

393: ◆IWJezsAOw6 2013/10/11(金) 00:34:16.63 ID:9/rr36qO0
寝付けないのにもしっかりと理由がある。 はっきり言えば、興奮状態になっているからだと思う。

その理由?

そんなの決まってるじゃん。 京介があたしのことを抱き寄せてきているから。

ほんとに、これは新手の嫌がらせなんじゃないかと思ってしまう。 それだけのことであたしが寝れなくなっているっていうのに、当の本人は気持ちよく寝ているんだからさ。

桐乃「……ばか」

弱々しく罵倒しても、それに対する返事は無い。

あたしは肩に回されている京介の手を両手で掴み、目を瞑った。

394: ◆IWJezsAOw6 2013/10/11(金) 00:34:54.45 ID:9/rr36qO0
桐乃「ちょ、なにこれ……」

待ち合わせの途中で連絡が入り、今日の予定がすっかりと空いてしまった。

どうやらたまちゃんが熱を出してしまったみたいで、それを伝えるメールがあったのは今から数時間前のこと。

ちょっと楽しみにしていた……いや全然楽しみじゃないけど。 で、予定よりも随分早く待ち合わせ場所に居たあたしは、それを見てすぐに黒猫に電話を掛けた。

あたしも行こうかと提案したんだけど、熱を移してしまったらつまらないから大丈夫。 と、黒猫。 そんなの心配してる場合じゃないでしょ。 あたし並みにお人好しだよね、あいつって。

その所為もあり、その後の予定にすっぽりと穴が開いてしまったあたしは、特にすることもなく、すごすごと家に帰ったんだけど。

そこで目にした物。

395: ◆IWJezsAOw6 2013/10/11(金) 00:35:29.28 ID:9/rr36qO0
付いたままのパソコン。

最初は、あの馬鹿電気代が勿体無いじゃん。 って思った。

しかし、その付いたままのパソコンに映し出されていたページはあたしが良く知っている物だった。

桐乃「……あたしのブログ」

……ってことはなに!? あいつ、あたしのブログ見てるってこと!? それしか無いよね!?

ま、待て。 落ち着けあたし。 そりゃ、あのシスコン馬鹿兄貴のことだから……あたしの名前で検索とか、普通にやってそうだよね。

それでたまたま見つけて……ってことなら納得が行く。 ちょっと漁れば、出てきそうだし。

正直、ここまでは「もしかしたら」と思ったこともあるしね。 そんな時の為のパスワードってワケだし。

396: ◆IWJezsAOw6 2013/10/11(金) 00:35:56.41 ID:9/rr36qO0
桐乃「……えっと」

とりあえず、どうしよう。

このまま気付かない振り? それとも京介が帰ってきたら問い詰める?

まぁ……内容さえ見られてなきゃ、良いんだけど。

そしてあたしは、なんとなくマウスを握って、スクロール。

試しに記事をクリック。 当然の様にパスワード入力画面。

通常だったら、その入力場所には空白のはず。

……だけど、今あたしの目の前には空白である場所に埋まっている文字だった。

397: ◆IWJezsAOw6 2013/10/11(金) 00:36:37.98 ID:9/rr36qO0
桐乃「ちょ、ちょおおお!! ま、マジ!?」

なんで!? なんであいつがあたしのブログのパス知ってるの!?

上手く隠していたと思うのに!! 紙に書いたり、携帯のメモ帳に入れないで全部あたしの頭の中にあるはずなのに!!

や、やばいって。 これはマズイって。

だってあんなこと書いてた記事とか、全部見られてたってことだよね!?

……そんな焦る感情とは裏腹に、納得が行ったことがひとつ。

道理で最近、あたしがブログに書いたことが叶っていくわけだ。

398: ◆IWJezsAOw6 2013/10/11(金) 00:37:13.30 ID:9/rr36qO0
でも……どうしよう。

あんなぶっちゃけたブログ、見られてたって。

帰ってきたらどんな顔をすればいいの? もう二度と正面から顔を見られないくらい恥ずかしいんだけど。

あー。 絶対今、あたしの顔大変なことになってるって。

鏡なんて見なくても、それくらいは分かる。

よし。 一旦落ち着こう。

落ち着け、落ち着け。

桐乃「……うう」

全っ然、ムリ。

399: ◆IWJezsAOw6 2013/10/11(金) 00:37:43.05 ID:9/rr36qO0
でも、落ち着け落ち着けと念じている内に別の感情が少し出てきた気がする。

どんな感情かって? 決まってるじゃん。

桐乃「……ムカつくムカつくムカつく!!!」

あたしがチョー嬉しそうにしてたのだって、あいつは「しめしめ」とか思って見ていたのかと思うとムカつく!!

「しめしめ」と思っていたかどうかは知らないけど……。

多分、あいつのことだからあたしの為にやってくれたことってのは分かるけど……。

それでも、こんなの素直に「ありがとう」って感情が湧いてくるわけが無い!

400: ◆IWJezsAOw6 2013/10/11(金) 00:38:08.88 ID:9/rr36qO0
……よし決めた。

今日もどうせ何か企んでいるのだろう。 こうなったら仕方無い。

仕返し、してやる!!

桐乃「……今に見てなさいよ。 あんの馬鹿!」

あたしは未だに帰ってこない同居人に苛立ちを覚えながら、パソコンの前に座るのだった。

401: ◆IWJezsAOw6 2013/10/11(金) 00:38:34.22 ID:9/rr36qO0
京介「ただいまー」

ふむ。

どうやらパソコンを付けっぱなしにしてたのは忘れてたっぽい……?

普通に、いつも通りの京介だし。

桐乃「おかえり」

だったらあたしもいつも通りにしてやるだけ。 隙を見せるまではゆっくりと待ち構えて……その時を待つ。

402: ◆IWJezsAOw6 2013/10/11(金) 00:39:20.88 ID:9/rr36qO0
京介「……っ」

京介がほんの少しだけ、息を詰まらせた。

……視線は、パソコンに行っている。

どうやら気付いたらしい。 今、画面はスクリーンセイバーが仕事をしてくれているけどね。

ちらっと横目で京介の顔を確認。

……ぷ。 ヤバイ。 チョー嬉しそうにしてる。 ばれてないと思ってるし! ウケる!

403: ◆IWJezsAOw6 2013/10/11(金) 00:39:46.72 ID:9/rr36qO0
京介「ああ、パソコン付けっぱなしだったか」

わざとらしすぎるんですケドぉ!? それはさすがに怪しいって! あたしだったらさり気なく消すっての!

それにしても、そろそろ気付くはず。 あたしが用意してあげた物に。

……どんな顔するんだろ? ちょっと楽しみ。

それから一言二言会話をして、京介はようやく気付く。

京介は何も言わずにあたしの方を見る。

そんなこいつに、あたしは今日一番の笑顔を向けてあげた。 チョー優しくない?

404: ◆IWJezsAOw6 2013/10/11(金) 00:40:13.82 ID:9/rr36qO0
京介「い、いや。 何でも無い。 はは」

顔、全く笑ってないし。

ちょっとムカつく。 あたしが折角笑ってあげたのに、そんな顔をされて。

いやでも仕方無い……かな? 状況が状況だしね。

さてさて。 そろそろ京介も本格的にどういう状況になっているか気付くだろう。

……ふひひ。

405: ◆IWJezsAOw6 2013/10/11(金) 00:40:53.71 ID:9/rr36qO0
京介はあたしのブログを眺めた後、あたしの方に向き直る。

あたしもようやく読んでいた雑誌を近くに置き、京介の方に顔と体を向けた。

そして、土下座する京介。

なにこの状況!? まぁ、あたしがブログで書いたことなんだけど。

それでもマジでここまで謝るの!? なんか、そこまでされると気が引け……ない! こいつはあたしに酷い仕打ちをしたのだから、それ相応の目には遭うべきだし!

きょ、今日は心を鬼にしないと……。

たまには、ね。 たまには。 だって、あたしいっつもめっちゃ優しいし。

406: ◆IWJezsAOw6 2013/10/11(金) 00:41:25.83 ID:9/rr36qO0
いつもの京介にそう言ったら、多分「いっつも鬼じゃねえか」みたいなことを言うと思う。 あ、そう考えると苛立ちが。

桐乃「なぁにぃ~? いきなりどうしちゃったワケ? きりりん意味分からないんですケドぉ~?」

桐乃「ねぇ、どうしたの? ねぇねぇ」

なんて言いながら、京介の頭を踏みつけてみた。

……ヤバイ。 やり過ぎ? 京介怒るかな? 怒ったらどうしよう?

407: ◆IWJezsAOw6 2013/10/11(金) 00:41:58.31 ID:9/rr36qO0
内心もうビクビクのあたしだったけど、そんな心配は無用だったらしい。 少しだけ顔をあげた京介の表情は、あたしに愛想笑いを向けるだけだった。

えぇ……マジで怒らないの? あたしが逆の立場だったら絶対怒ってると思うケド。 でも、隠れてブログを見るなんてしないけどね。

もし京介が隠れてそういうことをしていたら、問答無用で内容を見せてもらうし。

それから段々と行動はエスカレートしていき、自分でも正直やり過ぎたと思う頃には、京介は「わんわん」と可愛く言っていた。

桐乃「ふひひ。 よしよし。 いい子いい子」

……っ!

これは正直かなりキタ!! こ、これってもはや犯罪じゃない!? この素直さヤバすぎる……。

408: ◆IWJezsAOw6 2013/10/11(金) 00:42:26.78 ID:9/rr36qO0
うう……このまま思いっきり甘えたい。 甘えたい!

京介にも頭撫でて貰いたいんですケドぉ!!

……いや違う! 今日は心を鬼にするんだった。 我慢しないと、我慢我慢。

ていうか、なんであたしがこんな苦労をしないといけないワケ!? 我慢する必要なくない!?

京介「わんわん」

そんなあたしの気持ちを知ってか知らずか、京介は再度そう言う。

409: ◆IWJezsAOw6 2013/10/11(金) 00:42:54.04 ID:9/rr36qO0
桐乃「あんま調子に乗らないでね。 次、犬ならあたし乗せて歩いてよ」

それのおかげで大分冷静になれた。 あたしを乗せて歩け、だなんて言っている時点でそうじゃないかもだけど。

とまぁ、こんな感じで成り行きで色々なことをすることになって。

その度にあたしは我慢をすることになって。

ぶっちゃけ、あたしって好きな物に関してでも意外と我慢できる方だと思う。

410: ◆IWJezsAOw6 2013/10/11(金) 00:43:21.98 ID:9/rr36qO0
エロゲーだってそうだし、メルルだってそうだし。

しっかりと自制出来ているはず。 自分でそう思っているだけかもだけど。 だけど、どんな事にも……どんな物にも例外はあるんだ。

それがあたしにとって唯一の例外。

でも、一応これでも我慢したんだよ? もう胸が締め付けられまくって大変だったけど。

そしてそれを抑えられなくなってしまったのが夜のこと。

411: ◆IWJezsAOw6 2013/10/11(金) 00:44:03.57 ID:9/rr36qO0
京介「ええっと……布団、敷きますか?」

京介が恐る恐るあたしにそう聞いてくる。 びびりすぎでしょ……。 そんなおどおどされるとなんか、あたしがマジで酷いことしたみたいじゃん?

桐乃「自分で考えなさーい」

あたしが言うと、京介はそそくさと布団を敷き始める。

……健気すぎ! もう、どんだけあたしのこと好きなワケなの。 これってあたしに嫌われたくないから……だよね? そう考えるのはちょっと傲慢かもしれないけど、そうだと思ってしまう。

それがもう可愛すぎて、可愛すぎて。

412: ◆IWJezsAOw6 2013/10/11(金) 00:44:30.41 ID:9/rr36qO0
この時にはもう、ブログのことは割りとどうでもよくなっていた。 というか、京介はとどの詰まり、あたしの為に動いてくれていたわけだしね。

正直に心の底からの言葉で言うと、あたしが思っているのは「ありがとう」という言葉だけ。

でも……ふむ。 この状況、この状態はうまく活かさないと。 なんて悪魔の囁きみたいなのが聞こえる。

ふ……ふひひ。

……もうちょっとだけ、もうちょっとだけならいいよね? 許してくれるよね?

聞いているはずもない誰かにあたしは必死に確認を取り、結局自己解決。

413: ◆IWJezsAOw6 2013/10/11(金) 00:44:58.18 ID:9/rr36qO0
桐乃「よし。 じゃあ寝よっか?」

京介「お、おう」

桐乃「あ、でもぉ。 あたしちょっと喉渇いちゃったかもぉ?」

京介「……水、持ってきます!」

言いながら台所へ行こうとする京介。

あたしは布団の上にぺたんと座りながら、そんな京介の足を掴んだ。

414: ◆IWJezsAOw6 2013/10/11(金) 00:45:27.10 ID:9/rr36qO0
京介「……どした?」

桐乃「ここで飲みたくない。 向こうで飲みたい」

京介「……って言うと?」

桐乃「連れてって」

あたしは言うと、京介の顔を見る。

じっと見つめて、目を逸らさない。 京介は慣れていないのか、頬を掻きながら顔を逸らし、小さく「おう」と返事をする。

そんな恥ずかしいこと言ってないよね? あたし。

415: ◆IWJezsAOw6 2013/10/11(金) 00:45:56.70 ID:9/rr36qO0
なのにそんな照れられてしまうと、あたしも釣られて恥ずかしくなってくるんですケド。

そして京介はあたしの方に一歩近づき、しゃがみ込み。

あろうことか、あたしを抱き上げた。

桐乃「……」

あまりのことに何も言うことができない。

だって! だってさ! あたしが考えていた内容だと、京介に手を引いて貰って……みたいな感じだったんだから!

普通いきなり抱っこする!? 考えられなくない!? しかもお姫様抱っこってどういうことだっての!!

416: ◆IWJezsAOw6 2013/10/11(金) 00:46:34.90 ID:9/rr36qO0
……。

顔あっつ。 鼓動が早くなっている気がする。 どうやら慣れていないのはあたしも一緒だったらしい。

変だよね。 ここ最近ずっと仲良くやっていたのに、昔では考えられないくらいにベタベタしていたのに、それなのにどうしてか……こんな風なことには未だに慣れやしない。

いつになったら慣れるんだろうなぁ。

逆に考えてみよう。 あたしはこれに慣れても良いのだろうかって。

うーん……考えられないかも。

417: ◆IWJezsAOw6 2013/10/11(金) 00:47:13.14 ID:9/rr36qO0
京介「……そうじっと見られると恥ずかしいんだが」

いやいや見てないし! 全っ然見てないし! なに勘違いしてんの!?

桐乃「……あたしが見てることに文句あるワケ?」

あたしは思っていることと全く違うことを言う。 どっちが本当のことなんて、一々説明しなくてもいいよね。

京介「いいえ。 ありませんとも、お嬢様」

桐乃「なら良し。 早くして」

京介はあたしの言葉に少しだけ頬を緩ませ、台所へと移動する。

418: ◆IWJezsAOw6 2013/10/11(金) 00:47:41.16 ID:9/rr36qO0
そこであたしを降ろし、戸棚からコップをひとつ取り出し、水を注いで突き出した。

京介「どうぞ」

桐乃「……」

京介「……飲まないのか?」

いつまで経っても受け取らないあたしを見て、不審そうな顔をしながら京介は言う。

桐乃「……自分でどうすれば良いか考えてみて」

試すように言ってみた。 こんな風に言われたら、京介はどうするのだろう?

419: ◆IWJezsAOw6 2013/10/11(金) 00:48:12.59 ID:9/rr36qO0
京介「えーっと……」

数秒考え、やがて京介は口を開く。

京介「き、桐乃……」

桐乃「なに? どしたの?」

京介「……さすがに口移しは恥ずかしいぞ」

420: ◆IWJezsAOw6 2013/10/11(金) 00:48:38.19 ID:9/rr36qO0
桐乃「な……! な、な、な……!! なワケあるかッ!!」

なにを言っちゃってるの!? あたしがそんなこと望んでいるワケ無いじゃん!!

ゼロかゼロじゃないかで言えばゼロではないかもしれないけど! それでも今はそうじゃないっての!!

桐乃「普通に飲ませてくれって言ってるのが分からないの!?」

京介「ふ、普通に? 俺が、お前に?」

桐乃「……そ。 京介がワガママばっかゆうから、手疲れた」

421: ◆IWJezsAOw6 2013/10/11(金) 00:49:05.16 ID:9/rr36qO0
京介「お、おう。 そりゃ悪かったな」

桐乃「分かれば良い。 ほら、早く」

あたしは言いながら目で合図も一緒に送る。

京介「んじゃ……」

京介はそのままあたしの口にコップを近づけた。 なんか思っていたのと違うけど……まぁ、仕方ないから許してあげよう。

桐乃「……」

少しずつ傾けられたコップから、あたしはゆっくりと水を喉に通す。

422: ◆IWJezsAOw6 2013/10/11(金) 00:49:32.52 ID:9/rr36qO0
京介は頭の後ろを手で支え、水を零さない様に本当に少しずつ傾けていた。

……てか、なんかこいつの視線エロくない? まさか、ヘンな目で見てない?

桐乃「……ん。 ストップ、ストップ」

京介「おう。 どうした」

桐乃「あんたヘンな目で見てたでしょ?」

京介「う……」

桐乃「嘘吐いたらどうなるか分かってるよね? で、どうなの?」

423: ◆IWJezsAOw6 2013/10/11(金) 00:49:59.54 ID:9/rr36qO0
京介のことをそう言いながら睨むと、気まずそうに視線を逸らす。

……これ、絶対に黒だ。

京介「仕方ねえだろ!!」

桐乃「はぁ!? 仕方無いワケ無いし!! あんたどんだけキモいの!?」

京介「桐乃がエロい飲み方するからじゃねえか!! もうちょっと普通に飲めよ!!」

桐乃「……なに。 あたしの所為にすんの?」

京介「いえすいませんでした」

……この状況、ちょっと楽しい。

424: ◆IWJezsAOw6 2013/10/11(金) 00:51:14.11 ID:9/rr36qO0
一応、あたしは至って普通に飲んでた。 そう京介に見えていたというのなら、それは京介がヘンなことを常に考えているから。

……マジありえないんですケド。 えへへ。

桐乃「そうゆうときはなんて言えば良いと思う? ねえ」

あたしは意地悪く笑いながら言う。 すると京介はこう返した。

京介「……わんわん」

あーヤバ! キタコレ!!

425: ◆IWJezsAOw6 2013/10/11(金) 00:51:40.97 ID:9/rr36qO0
桐乃「ふ、ふひひ……」

京介の頭を撫でて、顔をじっと見つめる。

京介「……恥ずかしいんだが」

桐乃「……えへへ」

京介「……桐乃さん?」

桐乃「……桐乃様でしょ。 ひひ」

京介「……桐乃様」

426: ◆IWJezsAOw6 2013/10/11(金) 00:52:16.92 ID:9/rr36qO0
桐乃「よしよし……」

頭の中で何かが外れる音が聞こえた気がする。 絶対に気のせいだとは思うけど……カチ、みたいな音が響いた気がした。

桐乃「きょーすけ、京介。 京介!」

京介「な、なんだ?」

桐乃「早く布団行って一緒に寝よ。 早く早く」

京介「……了解です」

そう言うと、京介は再びあたしを抱きかかえ、布団へと向かっていった。

427: ◆IWJezsAOw6 2013/10/11(金) 00:52:42.26 ID:9/rr36qO0
京介「あの、桐乃さん」

桐乃「なに?」

京介「そんなずっと見られてると、寝れないんすけど」

桐乃「じゃあ、寝なきゃ良いんじゃない?」

京介「いやいやそうは言っても……」

布団を被り、あたしは京介の顔をじっと見る。

428: ◆IWJezsAOw6 2013/10/11(金) 00:53:13.65 ID:9/rr36qO0
勿論、顔を背けたりしないようには言ってあったので、京介はあたしとの距離が物凄い近い状態で見つめ合うことになって。

ちなみにこの時、布団の中では京介と手を繋いだりしているわけだけど。

京介「……お前の顔、近くで見ると余計に可愛いな」

桐乃「でしょ? ありがたく思ってね」

甘い! 京介は多分、あたしが恥ずかしがって顔を背けるとでも思ったのだろう。

でもね、今日はそんなの全然大丈夫だっての。 吹っ切れたと言っても間違いでは無い。 心臓はばっくばくいってるけどね。

429: ◆IWJezsAOw6 2013/10/11(金) 00:53:40.47 ID:9/rr36qO0
京介「ちくしょう……ちくしょう」

桐乃「そんなに寝れないなら目を瞑れば良いじゃん」

あたしが優しくアドバイスをすると、京介はすぐに反論をする。

京介「……お前の息遣いとかが聞こえてくるんだよ! 時々笑い声聞こえるし!」

桐乃「もう、そんなの気にしなければ良いのに~? そんなにあたしのこと気になるの?」

京介「気にならないわけがねえだろ! くそ……」

ふ、ふむ。

……本当にそう思ってるのかな?

430: ◆IWJezsAOw6 2013/10/11(金) 00:54:13.18 ID:9/rr36qO0
桐乃「じゃあ、言ってよ」

あたしが言って貰おうとしたことは、京介だったらすぐに理解してくれただろう。

だって、それを聞いた京介は一瞬あたしから顔を背けようとしたから。

京介「……好きだよ」

う……!

桐乃「ちゃんと顔見て言って。 目も見て」

431: ◆IWJezsAOw6 2013/10/11(金) 00:54:52.50 ID:9/rr36qO0
京介「……桐乃」

いやちょっとタンマ。 距離近すぎない? もうちょっと時間的にも距離的にも間を置いて、仕切りなおした方が良くない? むしろやっぱり目は合わせない方が良くない?

京介「好きだ」

桐乃「ぐふっ……」

あたしがしっかりと覚えていたのは、ここまでだった。

432: ◆IWJezsAOw6 2013/10/11(金) 00:55:23.81 ID:9/rr36qO0
桐乃「こ、この……ばか!!」

横で寝ている京介の顔を叩く。

京介「いてっ! き、桐乃!? な、なんだ。 どうした!?」

桐乃「知るかっ! あたしは寝る!!」

京介「……へ? お、おい。 お前怒ってるのか?」

桐乃「うっさいばかばか!!」

あり得ないあり得ない。 いくらちょっと前のことだと言っても、思い出したらすっごくむずむずとしてきた。

433: ◆IWJezsAOw6 2013/10/11(金) 00:55:52.32 ID:9/rr36qO0
京介の背中を向けて、頭まで布団を被る。 目を瞑って、今日は寝ることにしよう。

京介「……せめて叩かれた理由を教えてくれよ」

京介の若干泣きそうな声が聞こえた気がしたけど、気のせいということにしておくとして。

そして多分、あたしの顔が若干……本当に若干緩んでいることも、気のせいだ。



いつかの思い出 終

次→京介「行ってきます」 その2

京介「行ってきます」
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